譲受人(株式取得者)からの株式譲渡承認請求 共同して請求する原則と単独で請求することができる場合

この記事の位置付け
本ページは、株式譲渡承認請求に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
▶ 株式譲渡承認とは 譲渡制限株式の譲渡承認手続きの流れと注意点
同じ主題を扱う関連ページ
承認の請求は、譲り渡す側でなくても、譲り受けた側からすることができます
譲渡制限株式を手放したいとお考えの株主の方から、「会社に承認の請求をすれば角が立つ。何とかならないか」というお尋ねをいただきます。また、譲渡制限株式を譲り受けた方から、「譲渡人が協力してくれない。自分では何もできないのか」というお尋ねもいただきます。
会社に対する株式譲渡承認請求は、株主(譲渡人)のみならず、株式取得者(譲受人)から行うことも可能です。株式譲渡承認請求は、必ずしも譲渡人が行う必要はありません。
すなわち、株主(譲渡人)は、自ら会社に対して株式譲渡承認請求をして、承認拒否時に会社に対して株式買取請求をし、株価の交渉や交渉決裂時の株価決定の申立ての手続を行う必要はなく、まず株式取得者(譲受人)に対して株式譲渡を行ったのち、株式取得者(譲受人)が会社に対して株式譲渡承認請求をして、承認拒否時に会社に対して株式買取請求をし、株価の交渉や交渉決裂時の株価決定の申立ての手続を行うということも可能なのです。
ですので、株主(譲渡人)としては、自ら会社に対して株式譲渡承認請求を行って会社との間でトラブルになるのは嫌だとお考えの場合は、株式取得者(譲受人)に会社に対する株式譲渡承認請求を行ってもらえばよいのです。
もっとも、この請求には原則として譲渡人との共同ですることが求められており、単独ですることができる場合は法務省令に限定列挙されています。本記事では、その要件と手続、そして会社の側に課された期限を、条文に即して整理いたします。
背景 非上場株式の評価の見直し
国税庁は令和8年(2026年)4月20日から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催し、昭和39年(1964年)公表の財産評価基本通達の抜本的な見直しを検討しています。第1回会議(令和8年4月20日)の資料によれば、類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の26%から27%程度にとどまり、類似業種比準価額が純資産価額の0.5倍未満である会社が77.6%に及びます。第5回会議(令和8年8月20日)の資料では、類似業種比準方式を存置することは困難ではないかとされ、会社規模による区分を廃止してインカムアプローチによる評価を主軸とすべきとの方向性が示されました。ただし、内容も時期も確定したものではありません。(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料・令和8年4月20日、同(第5回)資料・令和8年8月20日)
二つの請求 会社法第136条と会社法第137条第1項
会社法は、譲渡の承認の請求について、二つの入口を用意しています。
- 株主からの承認の請求(会社法第136条) 譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を他人(当該譲渡制限株式を発行した株式会社を除きます)に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができます。これはこれから譲り渡そうとする段階の請求です。
- 株式取得者からの承認の請求(会社法第137条第1項) 譲渡制限株式を取得した株式取得者は、株式会社に対し、当該譲渡制限株式を取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができます。これは既に取得した後の段階の請求です。
両者を併せて譲渡等承認請求と申します(会社法第138条柱書)。会社の側の手続は、どちらの入口から入っても同一です。
なお、会社の承認を得ないでした譲渡であっても、譲渡の当事者の間では有効です(最高裁判所昭和48年6月15日判決 民集第27巻第6号700頁)。したがって、既に譲り受けた方が、その後に会社法第137条第1項の請求をすることに支障はありません。この点は会社の承認を得ないでした譲渡の効力の記事で詳しく整理しています。
二つの請求の対比
いずれの入口から入るかによって、会社が誰を相手方として手続を進めるべきかが変わります。次のとおり整理いたします。
| 項目 | 株主(譲渡人)からの請求(会社法第136条) | 株式取得者(譲受人)からの請求(会社法第137条第1項) |
| 請求をすることができる者 | 株主(譲渡人) | 株式取得者(譲受人) |
| 請求の方法 | 株主が単独で請求することができます | 譲渡人と共同して請求することを要します。会社法施行規則第24条に掲げる場合に限り、単独で請求することができます |
| 会社が決定の内容を通知すべき相手方 | 株主(譲渡人) | 株式取得者(譲受人) |
| 承認をしない場合の買取りの協議及び売買価格の決定の申立ての相手方 | 株主(譲渡人) | 株式取得者(譲受人) |
原則 譲渡人と共同してしなければなりません
会社法第137条第1項の請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならないとされています(会社法第137条第2項)。
この定めが置かれている理由は、次のとおりです。株主名簿の名義人でない者が、単独で「自分は株式を取得した」と申し出ることを無条件に認めますと、会社は真偽を確かめる手段を持たないまま手続を進めることになり、真の株主の利益が害されるおそれがあります。そこで、名簿上の株主が共同して請求することにより、取得の事実を担保させているのです。
実務上の要点
株式を譲り受けるときは、譲渡契約書の中に、譲渡人が譲渡等承認請求及び株主名簿の名義書換の手続に協力する義務を負う旨の条項を必ず設けてください。譲渡人が所在不明となり、又は協力を拒んだ場合、譲受人は単独では請求することができず、手続が止まってしまいます。
例外 単独で請求することができる場合(会社法施行規則第24条)
会社法第137条第2項にいう法務省令で定める場合は、会社法施行規則第24条に定められています。株券を発行しない会社と株券発行会社とで内容が異なりますので、まず会社の登記事項証明書の「株券を発行する旨の定め」の欄をご確認ください。
株券を発行しない会社の場合(会社法施行規則第24条第1項)
- 第1号 株式取得者が、株主名簿上の株主又はその一般承継人に対して、会社法第137条第1項の請求をすべきことを命ずる確定判決を得た場合において、その確定判決の内容を証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき
- 第2号 株式取得者が、前号の確定判決と同一の効力を有するものの内容を証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき(裁判上の和解、調停等がこれに当たります)
- 第3号 株式取得者が当該株式会社の株式を競売により取得した者である場合において、競売により取得したことを証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき
- 第4号 株式取得者が組織変更株式交換により当該株式会社の株式の全部を取得した会社である場合において、その株式取得者が請求をしたとき
- 第5号 株式取得者が株式移転(組織変更株式移転を含みます)により当該株式会社の発行済株式の全部を取得した株式会社である場合において、その株式取得者が請求をしたとき
- 第6号 株式取得者が会社法第197条第1項の株式を取得した者である場合において、同条第2項の規定による売却に係る代金の全部を支払ったことを証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき
- 第7号 株式取得者が株券喪失登録者である場合において、株券喪失登録日の翌日から起算して1年を経過した日以降に請求をしたとき(株券喪失登録がその日の前に抹消された場合を除きます)
- 第8号 株式取得者が会社法第234条第2項(会社法第235条第2項において準用する場合を含みます)の規定による売却に係る株式を取得した者である場合において、その売却に係る代金の全部を支払ったことを証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき
株券発行会社の場合(会社法施行規則第24条第2項)
- 第1号 株式取得者が株券を提示して請求をした場合
- 第2号 株式取得者が組織変更株式交換により当該株式会社の株式の全部を取得した会社である場合において、その株式取得者が請求をしたとき
- 第3号 株式取得者が株式移転(組織変更株式移転を含みます)により当該株式会社の発行済株式の全部を取得した株式会社である場合において、その株式取得者が請求をしたとき
- 第4号 株式取得者が会社法第197条第1項の株式を取得した者である場合において、同項の規定による競売又は同条第2項の規定による売却に係る代金の全部を支払ったことを証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき
- 第5号 株式取得者が会社法第234条第1項若しくは第235条第1項の規定による競売又は会社法第234条第2項(会社法第235条第2項において準用する場合を含みます)の規定による売却に係る株式を取得した者である場合において、その競売又は売却に係る代金の全部を支払ったことを証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき
株券発行会社であれば、株券の提示だけで単独請求ができます
株券発行会社においては、株券を提示すれば、譲渡人の協力がなくても単独で承認の請求をすることができます(会社法施行規則第24条第2項第1号)。株券の占有者は適法な所持人と推定されるためです。株券発行会社の株式を譲り受けるときは、必ず株券の交付を受けてください。株券の交付を受けていなければ、そもそも譲渡の効力が生じません。
なお、譲渡人について相続が開始した場合には、その相続人その他の一般承継人と共同して請求することになります(会社法第137条第2項)。相続人が複数おられるときは、全員の協力が必要となりますので、早い段階で連絡先を確認しておくことが肝要です。
株券を提示する場合の実務上の注意
会社法施行規則第24条第2項第1号は「株券を提示して請求をした場合」と定めています。もっとも、実務においては、会社が株券の現物の引渡しを求め、これを預かったうえで手続を進めようとすることが少なくありません。
ここに危険があります。譲渡人と会社との間に紛争があり、又は譲受人が会社にとって好ましくない者であると受け取られている場合には、預けた株券を返してもらえない、あるいは「そのような株券は受け取っていない」と主張されるという事態が生じ得ます。当事務所が取り扱いました案件においても、株券の返還を巡って紛争となったものがあります。
したがいまして、株券を提示して請求をされる場合には、提示の場に立ち会う、あらかじめ株券の写しを作成しておく、会社から預り証の交付を受けるといった備えをしたうえで臨む必要があります。株券を手放すことの当否を含め、あらかじめ弁護士にご相談ください。
請求の際に明らかにしなければならない事項(会社法第138条第2号)
譲渡等承認請求は、会社法第138条各号に定める事項を明らかにしてしなければなりません。株式取得者からの請求(会社法第137条第1項の請求)については、会社法第138条第2号に次のとおり定められています。
- イ 当該請求をする株式取得者の取得した譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類及び種類ごとの数)
- ロ イの株式取得者の氏名又は名称
- ハ 株式会社が会社法第137条第1項の承認をしない旨の決定をする場合において、当該株式会社又は会社法第140条第4項に規定する指定買取人がイの譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨
最も重要な注意 ハの記載を落としてはなりません
会社法第138条第2号ハの記載、すなわち「承認をしない旨の決定をする場合には、会社又は指定買取人が買い取ることを請求する」旨の記載を落としますと、会社は買い取る義務を負いません。会社は「承認しません」とだけ回答すれば足り、手続はそこで終わってしまいます。
株式を換価することが目的である場合には、この一文が手続の生命線です。請求書の文面を作成される際は、必ずご確認ください。
会社の側の手続と、その期限
承認の決定と通知(会社法第139条)
株式会社が会社法第136条又は第137条第1項の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければなりません。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでないとされています(会社法第139条第1項)。会社は、決定をしたときは、譲渡等承認請求者に対し、その決定の内容を通知しなければなりません(会社法第139条第2項)。
2週間以内に通知がなければ、承認したものとみなされます(会社法第145条第1号)
株式会社が会社法第136条又は第137条第1項の規定による請求の日から2週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に会社法第139条第2項の規定による通知をしなかった場合には、承認をする旨の決定をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。ただし、株式会社と譲渡等承認請求者との合意により別段の定めをしたときは、この限りでないとされています(同条柱書ただし書)。
会社が請求を無視するという対応は、会社にとって不利にしか働きません。だからこそ、請求は配達証明付内容証明郵便によって行い、到達の日を確定させておく必要があります。起算点は請求の日です。
承認をしない場合 会社又は指定買取人による買取り(会社法第140条)
株式会社は、会社法第138条第1号ハ又は第2号ハの請求を受けた場合において、承認をしない旨の決定をしたときは、当該譲渡等承認請求に係る譲渡制限株式(対象株式)を買い取らなければなりません(会社法第140条第1項前段)。この場合には、対象株式を買い取る旨及び会社が買い取る対象株式の数を定めなければならず(同項第1号・第2号)、この決定は株主総会の決議によらなければなりません(会社法第140条第2項)。譲渡等承認請求者は、この株主総会において議決権を行使することができません(会社法第140条第3項本文)。
また、会社は、対象株式の全部又は一部を買い取る者(指定買取人)を指定することができます(会社法第140条第4項)。この指定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならず、定款に別段の定めがある場合はこの限りでないとされています(会社法第140条第5項)。
買取りの通知と供託(会社法第141条、第142条)
会社は、買い取る旨等を決定したときは、譲渡等承認請求者に対してこれを通知しなければなりません(会社法第141条第1項)。この通知をしようとするときは、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額を本店の所在地の供託所に供託し、かつ、供託を証する書面を譲渡等承認請求者に交付しなければなりません(会社法第141条第2項)。
対象株式が株券発行会社の株式である場合には、この書面の交付を受けた譲渡等承認請求者は、交付を受けた日から1週間以内に対象株式に係る株券を本店の所在地の供託所に供託しなければならず、遅滞なくその旨を通知しなければなりません(会社法第141条第3項)。この期間内に供託をしなかったときは、株券発行会社は売買契約を解除することができます(会社法第141条第4項)。期間の管理を誤ると、売却の機会そのものを失います。
指定買取人が買い取る場合も、同様の通知及び供託の定めが置かれています(会社法第142条第1項から第4項まで)。指定買取人は、指定を受けた旨及び買い取る対象株式の数を通知いたします(会社法第142条第1項第1号・第2号)。
40日・10日を過ぎれば、承認したものとみなされます(会社法第145条第2号)
株式会社が会社法第139条第2項の規定による通知の日から40日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に会社法第141条第1項の規定による通知をしなかった場合には、承認をしたものとみなされます。ただし、指定買取人が会社法第139条第2項の規定による通知の日から10日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に会社法第142条第1項の規定による通知をした場合は除かれます(会社法第145条第2号)。
このほか、法務省令で定める場合にも承認をしたものとみなされます(会社法第145条第3号)。会社法施行規則第26条は、期間内に通知はしたものの供託を証する書面を交付しなかった場合、及び譲渡等承認請求者が売買契約を解除した場合を掲げています。
請求の撤回の制限(会社法第143条)
会社法第138条第1号ハ又は第2号ハの請求をした譲渡等承認請求者は、会社法第141条第1項の規定による通知を受けた後は、株式会社の承諾を得た場合に限り、その請求を撤回することができます(会社法第143条第1項)。指定買取人からの通知を受けた後は、指定買取人の承諾を得た場合に限り、撤回することができます(会社法第143条第2項)。
すなわち、買取りの通知を受けた後は、価格が思わしくないという理由で一方的に手を引くことはできません。請求をする前に、価格の見通しを立てておく必要があります。
売買価格の決定(会社法第144条)
売買価格は、まず株式会社と譲渡等承認請求者との協議によって定めます(会社法第144条第1項)。株式会社又は譲渡等承認請求者は、会社法第141条第1項の規定による通知があった日から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第144条第2項)。裁判所は、譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならないとされています(会社法第144条第3項)。
この20日の期間内に申立てがあったときは、裁判所が定めた額が売買価格となります(会社法第144条第4項)。期間内に申立てがないとき(期間内に協議が調った場合を除きます)は、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が売買価格となります(会社法第144条第5項)。これらの規定は、指定買取人からの通知があった場合について準用されます(会社法第144条第7項)。
20日を過ぎますと、価格を争う機会が失われます
会社法第144条第2項の20日は、不変の期間として運用されています。この期間を徒過しますと、協議が調っていない限り、1株当たり純資産額を基準とする額が売買価格となってしまいます(会社法第144条第5項)。買取りの通知を受け取った日を、必ず記録してください。
期限の一覧
- 請求の日から2週間 会社が承認の可否を通知しないときは、承認をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)
- 承認しない旨の通知の日から40日 会社が買取りの通知をしないときは、承認をしたものとみなされます(会社法第145条第2号)
- 承認しない旨の通知の日から10日 指定買取人が買取りの通知をすべき期間(会社法第145条第2号括弧書)
- 供託を証する書面の交付を受けた日から1週間 株券発行会社において、譲渡等承認請求者が株券を供託すべき期間(会社法第141条第3項、第142条第3項)
- 買取りの通知があった日から20日 裁判所に対する売買価格の決定の申立ての期間(会社法第144条第2項、第7項)
いずれの期間も短く、起算点はいずれも書面が到達した日です。配達証明付内容証明郵便を用い、封筒と配達証明書を保存してください。
譲受人から請求することの実務上の意味
譲渡人ではなく譲受人から請求することには、次の意味があります。
- 譲渡人が会社と直接に対峙せずに済みます 現に会社に勤務している方、ご親族が役員である方など、会社と正面から争いたくない事情がある場合に、これが決め手となります。
- 手続を担う者を交代させることができます 高齢である、遠方に居住している、健康上の事情があるといった理由で手続の遂行が難しい場合に、譲受人が引き継ぐことができます。
- 会社が買い取る場面では、対価は譲受人が受け取ります 譲渡人と譲受人との間の精算は、あらかじめ契約で定めておく必要があります。
他方で、留意すべき点もあります。会社は、譲渡等承認請求に係る株式を買い取る旨の決定をする株主総会において、譲渡等承認請求者の議決権行使を制限するにとどまり(会社法第140条第3項)、承認をするか否かの決定そのものは会社の判断に委ねられています。譲受人が誰であるかによって、会社の対応が硬化することがあります。譲受人の選定は、慎重にご検討ください。
会社法第137条第1項に基づく請求であることを明示してください
譲渡人と共同して請求をする場合であっても、請求の主体はあくまで株式取得者(譲受人)です。会社は、譲渡等承認請求者である株式取得者に対して決定の内容を通知しなければならず(会社法第139条第2項)、売買価格の決定の申立ての相手方も株式取得者となります(会社法第144条第2項)。
ところが、会社は、従前から面識のある譲渡人を相手として手続を進めたいと考えることがあります。共同の請求であることを奇貨として、「請求をしているのは株主(譲渡人)である」と主張し、譲渡人を相手に手続を進めてしまうという事態が現に生じています。これでは、譲渡人はいつまでも会社との紛争から抜け出すことができません。
これを防ぐため、請求書には、会社法第136条の請求ではなく会社法第137条第1項の請求であること、承認又は不承認の通知の宛先は株式取得者(譲受人)であること、及び売買価格の決定の申立ての相手方も株式取得者(譲受人)であることを、明示しておいてください。
よくあるご質問
譲渡人が協力してくれません。単独で請求することはできますか
株券発行会社であれば、株券を提示して単独で請求することができます(会社法施行規則第24条第2項第1号)。株券を発行しない会社では、原則として共同で請求しなければならず、単独で請求することができるのは会社法施行規則第24条第1項各号に掲げる場合に限られます。協力が得られない場合には、同項第1号の確定判決を得るため、譲渡人に対して請求をすべきことを命ずる判決を求める訴えを提起することが考えられます。
会社が請求書の受取を拒みました。どうなりますか
配達証明付内容証明郵便によって送付し、受取を拒まれた場合であっても、到達したものと扱われる場合があります。会社が請求の日から2週間以内に会社法第139条第2項の通知をしなければ、承認をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。受取を拒んだ記録は、必ず保存してください。
相続で株式を取得しました。この請求をするのですか
相続その他の一般承継による取得は譲渡ではありませんので、会社法第137条第1項の請求とは扱いが異なります。相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者は、単独で株主名簿記載事項の記載又は記録を請求することができます(会社法第134条第4号)。もっとも、定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがある会社では、会社の側からの売渡しの請求に留意する必要があります(会社法第174条から第177条まで)。
株主全員が同意していれば、承認の手続は省略できますか
株主全員の同意がある場合の取扱いにつきましては、株主全員の同意がある場合の取扱いの記事で整理しています。結論といたしましては、後日の紛争を避けるため、株主全員の同意書を作成したうえで、正規の承認の手続を経ておくべきです。
譲渡制限株式をめぐる三つの誤解
譲渡制限株式については、次の三つの論点が混同されがちです。それぞれ別の問題ですので、記事を分けて解説しています。
おわりに
「会社に承認の請求をすれば、角が立つ」。そのお気持ちは、よく分かります。しかし、会社法は、譲り受けた側からも承認の請求をすることができるという道を用意しています(会社法第137条第1項)。誰が請求するかは、選ぶことができるのです。
ただし、その手続は期限の連続です。請求の日から2週間、通知の日から40日及び10日、書面の交付を受けた日から1週間、買取りの通知の日から20日。いずれも短く、一つを落とせば、価格を争う機会そのものが失われます。そして、請求書に会社法第138条第2号ハの一文を記載していなければ、会社は買い取る義務すら負いません。
いま非上場株式の評価は見直しの局面にあります。手続の入口で誤らないことが、そのまま結果を分けます。
弁護士法人M&A総合法律事務所は、譲渡等承認請求、買取りの手続、売買価格の決定の申立てを取り扱ってまいりました。どなたの名で、いつ、どのような文面で請求するのか。まずはお聞かせください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
譲受人による譲渡の承認の請求に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
参考 会社法の条文
参考:会社法
|
(株主からの承認の請求) 第136条 譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を他人(当該譲渡制限株式を発行した株式会社を除く。)に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。(株式取得者からの承認の請求) 第137条 譲渡制限株式を取得した株式取得者は、株式会社に対し、当該譲渡制限株式を取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。 第138条 次の各号に掲げる請求(以下この款において「譲渡等承認請求」という。)は、当該各号に定める事項を明らかにしてしなければならない。 第139条 株式会社が第136条又は第137条第1項の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。 |
関連ページ
- ▶ 会社の承認を得ないでした譲渡制限株式の譲渡の効力
- ▶ 株主全員の同意がある場合の譲渡制限株式の譲渡の取扱い
- ▶ 株式譲渡承認とは?譲渡制限株式の譲渡承認手続きの流れと注意点
- ▶ 株式譲渡承認請求書の手続とフォーマット!
- ▶ 譲渡制限のある株式を売却したいのに承認が得られずお困りではありませんか
出典
- 会社法(第134条第4号、第136条、第137条第1項・第2項、第138条第2号イロハ、第139条第1項・第2項、第140条第1項から第5項まで、第141条第1項から第4項まで、第142条第1項から第4項まで、第143条第1項・第2項、第144条第1項から第5項まで及び第7項、第145条第1号から第3号まで、第174条から第177条まで、第197条、第234条、第235条)
- 会社法施行規則(第24条第1項第1号から第8号まで、同条第2項第1号から第5号まで、第26条)
- 最高裁判所昭和48年6月15日判決(民集第27巻第6号700頁 定款による株式の譲渡制限に反してされた株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡の当事者の間においては有効である)
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)
具体的なご相談をお考えの株主の皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。




