株主全員の同意があれば譲渡制限株式の譲渡の承認は不要ですか 会社法上の取扱いと実務上の備え

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株主全員の同意がある場合の承認に関するメインのページです。本ページは、少数株主として株式の売却を考える方に向けて、承認の手続を省略できるかという問題をご説明します。承認を欠いた譲渡の効力は別のページをご参照ください。
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「株主は身内だけなのだから、手続は要らないのではないか」というお尋ね
非上場の同族会社では、株主が経営者のご一族だけであるという例が少なくありません。そのような会社で株式を動かそうとするとき、「株主は全員が了解しているのだから、わざわざ会社の承認の手続を経る必要はないのではないか」というお尋ねをいただきます。
結論から申し上げます。株主全員が同意している場合には、会社の承認を欠いていても譲渡は有効であると解する余地があります。しかし、それに頼るべきではありません。後日の紛争を避けるため、株主全員の同意書を作成したうえで、正規の承認の手続を経ておくべきです。本記事では、その理由を条文と裁判例に即して整理いたします。
手続を省略した譲渡が、後年になって争われています
国税庁は令和8年(2026年)4月20日から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催し、昭和39年(1964年)公表の財産評価基本通達の抜本的な見直しを検討しています。第5回会議(令和8年8月20日)の資料では、類似業種比準方式を存置することは困難ではないかとされ、会社規模による区分を廃止してインカムアプローチによる評価を主軸とすべきとの方向性が示されました。ただし、内容も時期も確定したものではありません。株式の価値が高く評価されるようになりますと、かつて「身内のことだから」と手続を省略して動かした株式について、その効力が争われる場面が増えてまいります(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料・令和8年4月20日、同(第5回)資料・令和8年8月20日)。
まず、承認をする機関は誰かを確認いたします
株式会社が譲渡の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければなりません。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでないとされています(会社法第139条第1項)。
すなわち、承認の機関は次のとおりです。
- 取締役会を設置していない会社 株主総会(定款に別段の定めがある場合を除きます)
- 取締役会設置会社 取締役会(定款に別段の定めがある場合を除きます)
定款で「代表取締役の承認による」と定めている会社もあります。まずは定款と会社の登記事項証明書をご確認ください。どの機関が承認をするのかによって、省略の可否の議論の中身が変わってまいります。
なお、会社は、承認をするか否かの決定をしたときは、その内容を請求者に通知しなければならず(会社法第139条第2項)、請求の日から2週間以内にこの通知をしないときは、承認をする旨の決定をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。
株主全員の同意がある場合の考え方
譲渡制限の趣旨
譲渡制限付き株式の譲渡も株主全員の同意があれば有効です。なぜなら、株主は会社の所有者であり、株式の譲渡制限は、株主として不適切な人物が会社に入ってくるのを防ぎ、結果として会社の株主の利益を図るための制度であるからです。ですので、株主全員が株式譲渡に同意をしていた場合、株式譲渡制限が付いていたとしても、その株式譲渡は有効であると考えることができます。同じ理由から、株主が一人しかいない会社の株式は、常に譲渡が自由であると説明されてまいりました。
この考え方は、譲渡制限が誰の利益を守るために置かれているのかという点から導かれるものです。守られるべき者が全員同意しているのであれば、その者を守るための手続を要求する意味は乏しい、という理屈です。
裁判例
最高裁判所平成9年3月27日判決
社員でない者に対する持分の譲渡において、譲渡人以外の社員全員がこれを承認していたときは、その譲渡は、社員総会の承認がなくても、譲渡の当事者以外の者に対する関係においても有効であると判断されました(有限会社に関する旧法の下での判断です)。
最高裁判所平成5年3月30日判決
譲渡制限の趣旨は、専ら会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、譲渡人以外の株主の利益を保護することにあるとされました。いわゆる一人会社に関する事案について、この趣旨から結論を導いたものです。
これらは、いずれも会社法の施行前の法令に関する判断です。もっとも、譲渡制限の趣旨についての理解は現行の会社法にも受け継がれていますので、株主全員の同意がある場合には会社の承認がなくても譲渡は有効であるという理解が、実務上は一般に採られています。
なお、会社の承認を得ないでした譲渡の効力そのものにつきましては、会社に対する関係では効力を生じないが譲渡の当事者の間においては有効であるとした最高裁判所昭和48年6月15日判決(民集第27巻第6号700頁)があります。詳しくは会社の承認を得ないでした譲渡の効力の記事をご覧ください。
それでも省略してはならない理由
実務としての結論
株主全員の同意があるとしても、株主全員の同意書を作成したうえで、正規の承認の手続を経ておくべきです。手続を省略した場合、次の各点が後日の紛争の火種となります。
- 「全員」であったことの立証が困難です 株主名簿が整えられていない会社では、そもそも当時の株主が誰であったかが確定できません。名義株であるとの主張が出れば、なおさらです。
- 同意の存在の立証が困難です 口頭の了解は、年月を経れば記憶が食い違います。同意した覚えはないと述べられれば、それまでです。
- 相続によって株主が入れ替わります 同意した株主が亡くなれば、その相続人は当時の経緯を知りません。「聞いていない」という主張が生じます。
- 会社の役員が交代いたします 新しい経営陣が、過去の譲渡の効力を争ってくることがあります。
- 名義書換が拒絶されます 承認の決議の議事録がなければ、会社は名義書換に応じない口実を得ます。
- 会社法施行前の裁判例に依拠しています 上記の裁判例はいずれも旧法の下での判断であり、現行の会社法の下で同一の結論が採られるかについては、確定した最高裁判所の判断があるとまでは申し上げられません(この点は要確認の事項です)。
招集手続の省略と、決議の省略とを混同しないこと
「株主全員の同意があるのだから、株主総会は開かなくてよい」という説明がされることがあります。この説明には、二つの異なる制度が混じっています。区別して整理いたします。
招集手続の省略(会社法第300条)
株主総会は、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができます(会社法第300条本文)。ただし、書面による議決権の行使又は電磁的方法による議決権の行使を定めた場合は、この限りでないとされています(同条ただし書、会社法第298条第1項第3号・第4号)。
これは招集の通知を省略することができるという定めであり、株主総会そのものを省略してよいという定めではありません。総会は現に開催し、決議をし、議事録を作成する必要があります。
決議の省略(会社法第319条第1項)
取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、その提案につき議決権を行使することができる株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。
これがいわゆる書面による決議の省略です。会社は、決議があったものとみなされた日から10年間、その書面又は電磁的記録を本店に備え置かなければなりません(会社法第319条第2項)。
取締役会を設置していない会社において承認の機関が株主総会である場合には、この第319条第1項の書面によって、株主総会の決議に代えることができます。すなわち、株主全員の同意書は、単なる念のための書面ではなく、そのまま株主総会の決議とみなされる法定の書面になり得るのです。ここが実務上の要点です。
取締役会設置会社では、取締役会の決議が必要です
取締役会設置会社においては、承認の機関は取締役会です(会社法第139条第1項)。株主全員が同意していることは、取締役会の決議に代わるものではありません。株主と取締役とは別の機関ですから、株主が全員同意しても、取締役会の決議がなければ会社の意思決定はされていません。
取締役会の決議の省略につきましては、取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、その提案につき議決に加わることができる取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役がその提案について異議を述べたときを除きます)は、その提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができるとされています(会社法第370条)。
見落とされやすい点
取締役会の決議の省略は、定款にその旨の定めがある場合に限って認められます(会社法第370条)。株主総会の決議の省略(会社法第319条第1項)が定款の定めを要しないのと異なります。定款にこの定めがない取締役会設置会社では、取締役会を現に開催して決議をし、議事録を作成しなければなりません。持ち回りの押印で済ませていたという例が、後に問題となることがあります。
実務としてとるべき手順
株主全員の同意が得られる場面であっても、次の順序で書面を整えておくことをお勧めいたします。
手順1 当時の株主を確定いたします
株主名簿を確認し、記載が古いままである場合には、まず株主名簿を整備いたします。名義株の疑いがある株式については、払込みの記録、配当の受領記録を確認し、実質上の株主が誰であるかを整理しておきます。ここを曖昧にしたまま「全員の同意」を作っても、意味をなしません。
手順2 株主全員の同意書を作成いたします
譲渡の当事者、対象となる株式の種類及び数、譲渡の時期を特定し、株主全員が記名押印いたします。実印による押印を求め、印鑑登録証明書を添付していただくことが望ましいところです。取締役会を設置していない会社では、この書面を会社法第319条第1項の同意の意思表示を記載した書面として作成することができます。
手順3 正規の承認の請求をいたします
譲渡人からする場合は会社法第136条、譲受人からする場合は会社法第137条第1項によります。請求に際して明らかにすべき事項は、会社法第138条各号に定められています。譲受人からの請求の詳細につきましては、譲受人による承認の請求の記事をご覧ください。
手順4 承認の決議をし、議事録を作成いたします
取締役会を設置していない会社では株主総会の決議(会社法第319条第1項の書面によることができます)、取締役会設置会社では取締役会の決議(定款に定めがあれば会社法第370条の書面によることができます)によります。議事録は必ず作成し、保存してください。
手順5 承認の通知をいたします
会社は、決定の内容を請求者に通知しなければなりません(会社法第139条第2項)。請求の日から2週間以内に通知をしないときは、承認をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。
手順6 株主名簿の名義書換をいたします
株主名簿記載事項の記載又は記録を請求し(会社法第133条)、株主名簿を書き換えます。株式の譲渡は、株主名簿に記載し、又は記録しなければ、会社その他の第三者に対抗することができません(会社法第130条第1項)。ここまで済ませて、はじめて手続が完了いたします。
よくあるご質問
株主が一人しかいない会社です。承認の手続は要りますか
株主が一人であれば、譲渡制限によって保護されるべき他の株主が存在いたしませんので、承認がなくても譲渡は有効であると解する余地があります。もっとも、その一人が真に唯一の株主であったかどうかが、後になって争われることがあります。名義株の主張、相続人による主張がその典型です。株主総会の決議の省略の書面(会社法第319条第1項)を作成し、承認の議事録を残しておくことを強くお勧めいたします。
株主全員の同意書があれば、取締役会は開かなくてよいのですか
取締役会設置会社では、承認の機関は取締役会です(会社法第139条第1項)。株主全員の同意は、取締役会の決議に代わるものではありません。取締役会の決議を書面で省略するには、定款にその旨の定めがあることが必要です(会社法第370条)。定めがなければ、取締役会を現に開催してください。
何年も前に、手続を経ないまま身内で株式を動かしました。いま何をすべきですか
まず、当時の当事者が健在であるうちに、譲渡の事実を裏づける資料を整えてください。譲渡契約書、代金の授受を示す記録、当時の株主の同意を示す書面、その後の配当の受領状況、法人税の申告書の別表二の記載などです。そのうえで、改めて承認の請求をし、承認の決議と名義書換を済ませることをお勧めいたします。時間の経過は、立証を難しくする方向にのみ働きます。
会社が「株主全員の同意があっても承認しない」と言っています
承認をしない旨の決定がされた場合であっても、承認の請求の際に、承認をしないときは会社又は指定買取人が買い取ることを請求する旨を明らかにしておけば(会社法第138条第1号ハ、第2号ハ)、会社は対象株式を買い取らなければならず(会社法第140条第1項)、又は指定買取人を指定することができます(会社法第140条第4項)。承認しないという回答は、買取りという出口につながります。売買価格は協議により、協議が調わないときは裁判所が定めます(会社法第144条)。
譲渡制限株式をめぐる三つの誤解
譲渡制限株式については、次の三つの論点が混同されがちです。それぞれ別の問題ですので、記事を分けて解説しています。
おわりに
「株主は身内だけなのだから、手続は要らない」。同族会社では、長くそのように運用されてまいりました。そして、その運用が問題を生じなかったのは、株式に価値がないと考えられていたからにほかなりません。
いま非上場株式の評価は見直しの局面にあります。株式に価値があると認められるようになれば、過去に手続を経ないまま動かした株式について、その効力を争う動機が生じます。争われたとき、頼りになるのは記憶ではなく書面です。
株主全員の同意がある場合であっても、同意書を作成したうえで、正規の承認の手続を経ておいてください。手間は一日で済みますが、争いになれば数年を要します。
弁護士法人M&A総合法律事務所は、非上場株式をめぐる譲渡の承認、名義書換、株主たる地位の確認、価格の交渉を取り扱ってまいりました。過去の経緯が整理されていない場合でも、残っている資料から組み立てることができます。まずはお聞かせください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
株主全員の同意と譲渡制限株式の承認の手続に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
参考 裁判例及び会社法の条文
参考:判例
| 譲渡につき株主全員の同意がある場合8 社員でない者に対する持分の譲渡において、右譲渡人以外の社員全員がこれを承認していたときは、右譲渡は、社員総会の承認がなくても、譲渡当事者以外の者に対する関係においても有効と解するのが相当である。(旧法関係)(最判平9.3.27)(模範六法より) |
参考:会社法
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(株主からの承認の請求) 第136条 譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を他人(当該譲渡制限株式を発行した株式会社を除く。)に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。(株式取得者からの承認の請求) 2 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。(譲渡等承認請求の方法) 第138条 次の各号に掲げる請求(以下この款において「譲渡等承認請求」という。)は、当該各号に定める事項を明らかにしてしなければならない。 1 第136条の規定による請求 次に掲げる事項 イ 当該請求をする株主が譲り渡そうとする譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類及び種類ごとの数) 第139条 株式会社が第136条又は第137条第1項の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。 2 株式会社は、前項の決定をしたときは、譲渡等承認請求をした者(以下この款において「譲渡等承認請求者」という。)に対し、当該決定の内容を通知しなければならない。 |
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出典
- 会社法(第130条第1項、第133条、第136条、第137条第1項、第138条第1号ハ・第2号ハ、第139条第1項・第2項、第140条第1項・第4項、第144条、第145条第1号、第298条第1項第3号・第4号、第300条、第319条第1項・第2項、第370条)
- 最高裁判所昭和48年6月15日判決(民集第27巻第6号700頁 定款による株式の譲渡制限に反してされた株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡の当事者の間においては有効である)
- 最高裁判所平成9年3月27日判決(社員でない者に対する持分の譲渡につき譲渡人以外の社員全員が承認していたときの効力。有限会社に関する旧法の下での判断)
- 最高裁判所平成5年3月30日判決(譲渡制限の趣旨は、会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、譲渡人以外の株主の利益を保護することにある)
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)
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