株式譲渡承認とは?譲渡制限株式の譲渡承認手続きの流れと注意点

非公開会社の株式を持つ少数株主の中には、「株式を手放したいのに、会社の承認がないと動かせない」「譲渡承認請求と言われても、何をどうすればよいか分からない」と不安を抱えている方が少なくありません。
とくに、会社から提示された条件が本当に妥当なのか、株式の譲渡承認がされなかったときに他にどんな選択肢があるのかは、自分だけでは判断しづらいところです。
本記事では、譲渡制限株式の株式譲渡承認の仕組みから、譲渡承認請求の流れ、請求書の書き方、会社が承認しない場合の買取りや価格決定の手続、さらに取締役会・株主総会での決め方や名義書換でつまずきやすい点までを、できるだけ分かりやすく解説します。
株式譲渡承認とは

非公開会社(いわゆるオーナー会社・同族会社など)の少数株主は、自分の持株を自由に売却できない場面があります。その中心にある仕組みが「譲渡制限株式」と「株式譲渡承認」です。
譲渡制限株式・株式譲渡承認の概要
少数株主の方からすると、「そもそも自分の株は自由に売っていいのか」「会社の承認とは何を指しているのか」が分かりにくいところです。
このページでは、発行するすべての株式に譲渡制限が付されている株式会社、いわゆる非公開会社(譲渡制限会社)を前提に説明します。こうした会社では、株式を譲渡によって取得する際に会社の承認が必要とされることが多くあります。
譲渡制限株式とは?
「譲渡制限株式」とは、会社法上、株式を譲渡によって取得する場合に会社の承認を要する旨が株式の内容として定められている株式をいいます。会社の定款で「株式を第三者に譲渡するには会社の承認が必要である」といった条文を置くことで、その会社の株式は譲渡制限株式になります。
つまり、譲渡制限株式は、「株主の自由な売却」に制限をかける一方で、「会社が株主構成を管理するための制度」と捉えると理解しやすくなります。
自由に売れない仕組み
会社法上の公開会社とは、上場会社に限らず、発行する株式の全部または一部について譲渡制限を設けていない株式会社をいいます。これに対し、発行するすべての株式に譲渡制限を定めている会社は、一般に非公開会社または譲渡制限会社と呼ばれます。
公開会社では株式の譲渡は原則として自由です。これに対して、多くの中小企業・同族会社は、次のような理由から譲渡制限株式を採用しています。
- 第三者の株式取得を防ぐため
- 株主構成を維持するため
- 経営権を安定させるため
その結果、非公開会社の少数株主は、次のような制約を受けることになります。
- 第三者への売却に承認が必要
- 承認後に名義書換が必要
- 未承認では権利主張が難しい
自分だけの判断で第三者に株式を売ることはできても、その第三者が会社から株主として扱われるためには、会社の承認と株主名簿の名義書換が必要です。相手方が決まっている場合でも、会社が承認せず名義書換に応じないかぎり、その第三者は会社に対して配当や議決権を主張しづらくなります。
この「自由に売れない」という点が、非公開会社の少数株主ならではの悩みにつながります。
株券発行会社かどうかで譲渡の成立条件が変わる
非公開会社の株式譲渡では、「株券発行会社かどうか」も早めに確認しておく必要があります。株券発行会社とは、定款で株券を発行する旨が定められている会社をいいます。
株券発行会社で株券発行後に株式を譲渡する場合、原則として株券を交付しなければ、株式譲渡の効力は生じません。一方、株券発行前にされた譲渡については、会社に対して効力を主張できない場合があるものの、譲渡当事者間では有効となり得ます。
株券不発行会社では、当事者の合意(株式譲渡契約)によって株式譲渡の効力が生じます。そのため、非公開会社の株式を譲渡する際は、定款で株券発行会社とされているかを確認しておく必要があります。
株式譲渡承認が必要になるタイミング
譲渡制限株式を保有している場合、次のような場面で「株式譲渡承認」が問題になります。
- 親族や第三者に売りたいとき
- 株式を贈与したいとき
- 後継者に株式を移したいとき
- 退職を機に株式を処分したいとき
- 会社や主要株主に買取りを求めたいとき
たとえば、親族や第三者に保有株式を売却・贈与したい場合や、事業承継の一環として後継者や関連会社に株式を移したい場合には、会社の承認が必要になることがあります。退職や持株会の解散などをきっかけに、第三者への売却や会社・主要株主への買取りを交渉したい場面でも、譲渡制限の有無を確認する必要があります。
なお、退職や持株会の解散そのものを理由として、当然に会社に株式の買取りを請求できる一般的な権利があるわけではありません。
株主と譲受人のどちらが譲渡承認請求できる?
譲渡制限株式を譲渡したいときは、譲渡人(株式を手放したい株主)が会社に対して譲渡承認を求めるのが一般的です。
譲受人(買い手)から会社に承認を求めたい場面もありますが、その場合は原則として株主と連名で請求します。買い手だけが先に承認請求できてしまうと、「本当は株主が譲渡する意思がない」というケースでも手続が進んでしまうおそれがあるためです。
譲渡承認請求では、少なくとも「譲渡する株式の種類と株数」と「譲受人の氏名(法人なら名称)」を会社に明らかにします。譲受人が株主と連名で請求し、かつ会社が承認しない場合に会社または指定買取人に買い取ってほしいと考えるときは、その旨も書面に入れます。会社が請求書の書式を指定している場合は、その書式に合わせると手続を進めやすくなります。
株式譲渡承認が不要なケース
相続や合併などによって株式が移る場合は、そもそも「譲渡」ではなく一般承継として扱われるため、譲渡承認の問題とは別になります。ただし、譲渡制限会社では、相続人等に対して会社が株式の売渡しを求める制度(相続人等に対する売渡請求)が定款で定められていることがあります。
そのため、相続で株式を取得した場合でも、会社との関係で何も手続が不要になるとは限りません。相続人が株主として権利を行使するためには、株主名簿の書換や相続関係を示す資料の提出が必要になることがあります。
承認なしでも株式譲渡が有効になり得る例外的な場面
原則として、譲渡制限株式の譲渡は会社の承認がなければ会社との関係で効力を生じません。もっとも、一定の場面では承認がなくても株式譲渡が有効と扱われることがあります。
代表的な例として、株主が一人しかいない会社(一人会社)における株式譲渡があります。他の株主の利益を保護する必要がないため、会社の承認がなくても会社との関係で譲渡が有効と認められると解されています。
また、株主全員の同意がある場合も同様に、承認の有無にかかわらず譲渡が有効と扱われることがあります。とはいえ、後日の争いを避けるためにも、形式的には承認手続を経たうえで進めるほうが安全です。
株式譲渡承認に関わる法定期限の早見表

株式譲渡承認の手続には、株主側・会社側のそれぞれにとって短くて重要な法定期限がいくつも組み込まれています。
期限を一つでも見落とすと、本来の希望とは違う結果が確定してしまうことがあるため、最初に全体の期限を見渡しておくと安心です。
主要な5つの期限
代表的な期限を一覧にすると、次のようになります。特に、会社や指定買取人が買い取る場合は、買取通知だけでなく、供託を証する書面の交付も期限内に行う必要があります。
| 局面 | 期限 | 根拠条文 | 期限を逃した場合 |
|---|---|---|---|
| 承認可否の通知 | 請求の日から2週間以内 | 会社法145条1号 | 譲渡を承認したものとみなされる |
| 会社が買い取る場合の通知 | 不承認通知の日から40日以内 | 会社法141条1項・145条2号 | 譲渡を承認したものとみなされる |
| 指定買取人が買い取る場合の通知 | 不承認通知の日から10日以内 | 会社法142条1項・145条2号 | 譲渡を承認したものとみなされる |
| 供託を証する書面の交付 | 会社買取は不承認通知の日から40日以内、指定買取人買取は不承認通知の日から10日以内 | 会社法141条2項、142条2項、145条3号 | 譲渡を承認したものとみなされる |
| 買取価格の裁判所申立て | 買取通知から20日以内 | 会社法144条2項・7項 | 供託額が売買価格となる |
期限の長さだけでなく「期限を逃したらどうなるか」までを、あわせて確認しておきましょう。それぞれの期限について、次から順に補足していきます。
承認可否の通知期限(2週間ルール)
会社は、株式譲渡承認請求を受け取った日から2週間以内に、承認するか否かを決定し、その結果を株主に通知する必要があります(会社法145条1号)。
定款で2週間より短い期間を定めることはできますが、これを超える長さに定めることはできません。期限内に通知が行われなかった場合、会社は譲渡を承認したものとみなされます。
会社が買い取る場合の通知期限(40日ルール)
会社が譲渡を承認しないと決め、かつ請求者が会社または指定買取人による買取りを求めている場合、会社が自ら買い取るときは、不承認通知の日から40日以内に買取通知を行う必要があります(会社法141条1項、145条2号)。
買取通知では、会社が対象株式を買い取る旨と、買い取る株式の種類および数を明らかにします。また、会社は1株当たり純資産額に対象株式数を掛けた金額を供託し、供託を証する書面を請求者に交付する必要があります。
40日以内に買取通知や供託を証する書面の交付が行われなかった場合、会社は株式譲渡を承認したものとみなされます。定款でこの期間を短縮することは可能ですが、延長することはできません。
指定買取人が買い取る場合の通知期限(10日ルール)
会社ではなく、会社が指定した第三者(指定買取人)が買い取る場合は、不承認通知の日から10日以内に、指定買取人が請求者に対して買取通知を行う必要があります(会社法142条1項、145条2号)。
指定買取人による買取通知では、指定買取人として指定を受けた旨と、買い取る株式の種類および数を明らかにします。また、指定買取人も、1株当たり純資産額に対象株式数を掛けた金額を供託し、供託を証する書面を請求者に交付する必要があります。
10日以内に買取通知や供託を証する書面の交付が行われなかった場合、会社は株式譲渡を承認したものとみなされます。会社が買い取る場合よりも期間が短いため、日程管理に注意が必要です。
買取価格の裁判所申立て期限(20日ルール)
会社や指定買取人から買取通知を受けた後、買取価格について当事者間で折り合いがつかない場合、株主と会社(または指定買取人)のどちらからでも、裁判所に対して売買価格の決定を申し立てられます(会社法144条2項・7項)。
この申立ては、買取通知を受けた日から20日以内に行う必要があります。20日以内に申立てがなされなかったときは、供託された金額が売買価格となります。
提示された価格に違和感がある場合は、この20日という短い期間内に申立てを行うかどうかを早めに検討する必要があります。
譲渡制限株式の株式譲渡承認の流れ

株式の譲渡承認請求をしてから会社の判断が出て、その後に株式の移転や買取りが行われるまでの全体像を押さえておくと、自分が今どの段階にいるのかを把握しやすくなります。
株式譲渡承認請求から決定・通知までの流れ
前提として重要なのは、「会社がいつまでに承認・不承認を決めなければならないか」という点です。会社からの回答が遅れている場合でも、期限の起算日が曖昧なままだと、みなし承認を主張しづらくなることがあります。
請求書到達日の客観化と「みなし承認」の流れ
先に確認した2週間ルール(会社法145条1号)でみなし承認が成立するかどうかは、株主の立場では「請求書が会社に到達した日付」を客観的に残せているかにかかっています。
配達証明付きの内容証明郵便などを使うと、いつ会社に到達したかが郵便事業者の記録として残ります。これにより、2週間の起算日を巡って「いつ届いた、届いていない」と争いになることを避けやすくなります。
回答期限が近づいているのに会社からの連絡が届かない場合、みなし承認が成立しているかどうかは株主自身が会社へ確認や催促を行う必要があります。沈黙が続けば自動的に名義が書き換わるわけではなく、そのうえで株主名簿の書換請求などを進めていく流れになります。
株式譲渡の承認/不承認の決定プロセス
会社がどのような機関で株式譲渡の承認・不承認を決めるかは、定款の内容によって変わります。取締役会設置会社であれば取締役会が決定し、取締役会を置いていない会社では株主総会が決定機関になっていることが多いです。
一般的な流れは、次のとおりです。
- 会社が請求書を受け取る
- 定款上の承認機関を確認する
- 取締役会や株主総会を開く
- 承認可否を決議する
- 結果を株主へ通知する
少数株主としては、自分の会社の定款でどの機関が決定権を持っているのか、いつごろ会議が開かれるのか、どのような方法で通知が来るのかを確認しておくと、連絡が遅れていると感じたときにも状況を判断しやすくなります。
取締役会で承認する場合の決議要件
取締役会の決議は、議決に加われる取締役の過半数が出席し、その出席取締役の過半数で決まるのが原則です。定款でこれより厳しい要件が定められている場合もあるため、会社側は定款と取締役会規程を確認して進めます。
議決に加われない取締役・株主(特別利害関係人)がいるとき
特別利害関係人とは、決議の対象となる事項について、会社や他の取締役・株主と利害が対立する立場にある者をいいます。譲渡承認の場面では、譲受人本人や、譲受人と利害関係の強い取締役・株主が問題になることがあります。
取締役会で承認決議を行う場合、決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができません(会社法369条2項)。この取締役は、取締役会の定足数を判断する際の取締役数にも含めないため、議決に加われる取締役だけで出席数と賛成数を確認する必要があります。
一方、株主総会では、特別利害関係を有する株主の議決権行使が当然に排除されるわけではありません。ただし、その株主が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされた場合には、株主総会決議取消しの訴えの対象となる可能性があります(会社法831条1項3号)。
取締役会と株主総会では、特別利害関係人の扱いが異なります。会社側は、どの機関で承認するのかを確認したうえで、利害関係の有無や議決への参加状況を記録に残しておくことが大切です。
会社が株式譲渡を承認する場合に必要な手続き
会社が譲渡を承認してくれたとしても、それで手続が終わりというわけではありません。株式譲渡の承認のあとには、株式譲渡契約の締結や代金の支払い、株主名簿の名義書換といった作業が続きます。
株式譲渡契約の締結
会社の承認が得られたら、譲渡人(売り手)と譲受人(買い手)のあいだで株式譲渡契約書を交わすのが一般的です。
ここでは、どの株式を、いくらで、いつ支払い、いつ株式を引き渡すのかといった基本的な条件を明確にしておく必要があります。
株券発行会社(定款で株券を発行する旨が定められている会社)では、株券の交付が株式譲渡の効力に関わるため、株券の引渡日、保管場所、株券が見当たらない場合の対応まで契約書で取り決めておくと、後の手続が進めやすくなります。
代金支払のタイミングと株式の移転時期の関係は、トラブルになりやすい部分です。支払いが済んでいないのに株式の名義だけ変わってしまう、あるいはその逆といった事態を防ぐためにも、契約書の段階で双方の認識をそろえておくことが重要です。
株主名簿の書換請求と株主名簿記載事項証明書
株式譲渡契約がまとまり、代金の支払いと株式の引渡しが行われても、会社の株主名簿が書き換えられるまでは、会社から見た株主は元のままです。
配当金の支払いを受けたり、株主総会で議決権を行使したりするためには、株主名簿に新しい株主として記載してもらう必要があります。
株主名簿の名義書換の請求は、原則として譲受人と、株主名簿に記載されている株主(譲渡人)とが共同で行うものとされています。もっとも、会社から書式や提出方法が示されることも多いです。
譲受人が窓口となって必要書類をそろえ、会社が承認の有無や提出書類を確認したうえで、株主名簿を書き換える流れが一般的です。その後、必要に応じて「株主名簿記載事項証明書」が発行されることもあります。
これは、誰が何株を保有しているかについて、会社がどのように記録しているかを証明する書面で、金融機関や他の取引先とのやり取りで求められる場合があります。
会社が株式譲渡承認をしない場合の手続き
会社が「この相手への株式の譲渡は認めない」と判断する場面もあります。
そのような場合でも、株主が譲渡承認請求とあわせて「承認しないときは会社または指定買取人による買取りを請求する」と書面に明記していれば、会社や指定された買取人が株式を買い取る制度が法律上用意されています(会社法138条1号ハ・2号ハ)。
ここでは、不承認の決定から代金決済までを順に見ていきます。
会社による買取りの決定(株主総会特別決議)
会社が自社で株式を買い取ると決める場合、買い取る対象株式の種類と数を定めたうえで、株主総会の特別決議を経る必要があります(会社法140条1項・2項、309条2項1号)。
特別決議の要件は、原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を得ることです。なお、譲渡しようとする株主は、他に議決権を行使できる株主がいない場合を除き、会社法140条3項により、この株主総会で議決権を行使できません。
会社が買い取った株式は自己株式として扱われます。そのため、会社による買取りを進める際は、自己株式取得の財源規制(分配可能額の範囲内であること)にも注意が必要です。
指定買取人による買取りの決定
会社自身ではなく、会社が指定する第三者(指定買取人)が株式を引き受けることもあります。
指定買取人の指定は、定款に別段の定めがなければ、取締役会設置会社では取締役会決議で、それ以外の会社では株主総会の特別決議で行います(会社法140条4項・5項)。指定買取人になる第三者としては、創業者一族の関係者や、会社と関係の深い取引先などが想定されます。
買取通知と請求の撤回ができなくなる時点
会社が買い取る場合は、不承認通知の日から40日以内に、会社から請求者へ買取通知を行う必要があります。指定買取人が買い取る場合は、不承認通知の日から10日以内に、指定買取人から請求者へ買取通知を行う必要があります(会社法141条1項、142条1項、145条2号)。
会社や指定買取人から買取通知が届いた時点で、株主と会社または指定買取人との間に株式の売買契約が成立したと扱われます。そのため、株主はこの通知を受け取った後は、譲渡承認請求を自由に撤回できなくなります(会社法143条1項・2項)。
不承認の通知が届いた段階で「やはり譲渡をやめたい」と考える場合は、買取通知が届く前に撤回の意思表示を行うかどうかを判断しておく必要があります。
買取価格の決定と裁判所への申立て(20日ルール)
買取通知に記載される金額には、原則として「1株当たり純資産額に対象株式数を掛けた額」が含まれます。実際の売買価格は、会社(または指定買取人)と株主の協議で決めることが原則です。
協議で折り合いがつかない場合、株主または会社(指定買取人)は、買取通知を受けた日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定を申し立てられます(会社法144条2項・7項)。
20日以内に申立てがなされなかったときは、会社または指定買取人が供託した「1株当たり純資産額×株数」の金額がそのまま売買価格となります。提示された価格に違和感がある場合、20日という短い期間内に申立てを行うかどうかを早めに検討する必要があります。
裁判所による価格決定では、純資産方式だけでなく、類似会社比準方式、配当還元方式、収益還元方式、DCF方式といった複数の評価方法を組み合わせて判断されることが一般的です。
売買代金と株券の供託・決済までのステップ
会社や指定買取人が株式を買い取ることになった場合、会社法では、一定の金額を供託所に預ける「供託」という手続が定められています。供託とは、金銭や有価証券などを供託所に預ける制度をいいます。
会社が買い取る場合、会社は1株当たり純資産額に対象株式数を掛けた金額を供託し、供託を証する書面を請求者に交付します(会社法141条2項)。指定買取人が買い取る場合も、同様に供託と供託を証する書面の交付が必要です(会社法142条2項)。
株券発行会社では、株主は供託を証する書面の交付を受けた日から1週間以内に、株券を供託し、その旨を会社または指定買取人に通知する必要があります。期限までに株券を供託しない場合、会社または指定買取人は、株式の売買契約を解除できる場合があります。
株券不発行会社の場合でも、会社または指定買取人は、買取通知に先立って所定の金額を供託し、供託を証する書面を請求者に交付する必要があります。売買価格について申立てがない場合は供託額が売買価格となり、裁判所が価格を決定した場合は、供託額の範囲で売買代金の支払いに充当されます。
不承認通知から買取通知、価格決定の申立て、供託までは、短い期限が続きます。会社や指定買取人とのやり取りに不安がある場合や、提示された価格に違和感がある場合は、お早めに当事務所にご相談ください。
株式譲渡承認請求書の書き方と提出方法

株式譲渡承認の手続は、最初の一歩である「株式譲渡承認請求書」の内容と出し方が重要になります。ここでの不備が後の段階まで影響することもあるため、基本的な書き方と提出方法を順に押さえておくと安心です。
株式譲渡承認請求書に必ず書くべき事項
株式譲渡承認請求書には、会社が承認の可否を判断するうえで必要な情報を記載します。
譲渡人である株主が会社に承認を求める場合は、会社法136条に基づく請求になります。一方、譲受人が会社に承認を求める場合は、原則として譲渡人と共同して、会社法137条に基づく請求を行います。
会社法138条に基づき、最低限以下の事項を明らかにする必要があります。
- 譲渡する株式の数
- 譲受人の氏名または名称
種類株式発行会社では、譲渡する株式の種類と種類ごとの数も明らかにします。加えて、会社が承認しない場合に会社または指定買取人による買取りを希望するときは、その旨も書面に入れます。
会社が承認の可否を判断しやすいよう、次の情報も併せて記載することが一般的です。
- 譲渡人の住所・連絡先
- 譲受人の住所・連絡先
- 譲渡予定日
- 譲渡代金
- 支払方法・支払予定日
会社から書式や記載項目が指定されている場合は、その書式を利用すると手続を進めやすくなります。ただし、法定記載事項が漏れないよう、請求主体に応じて会社法136条または137条のどちらの請求になるのかを確認しておきましょう。
株式譲渡承認請求書の記載例
以下は、譲受人が譲渡人と共同して、会社に対して株式譲渡の承認を求める場合の記載例です。
この記載例は、会社法137条および会社法138条2号に基づく請求を前提としています。譲渡人が単独で事前に承認を求める場合とは、根拠条文や文言が異なるため、実際に使用する際は、会社の定款、譲渡の進行状況、不承認時の買取請求の要否を確認する必要があります。
株式譲渡承認請求書
株式会社〇〇〇〇 御中
令和○年○月○日
譲受人は、貴社に対し、譲渡人と共同して、会社法137条、138条2号に基づき、
下記の貴社株式の譲渡を受けたことについて承認を請求するとともに、
貴社が当該承認をしない場合において、貴社又は会社法140条4項に規定する
指定買取人が当該株式を買い取ることを請求します。
記
株式の種類 普通株式
総株式数 〇〇〇〇株
(譲渡人)
住所 東京都〇〇区〇〇1-23-456
氏名 〇〇 〇〇 印
(譲受人)
住所 東京都〇〇区〇〇7-8-910
氏名 〇〇 〇〇 印
以上
不承認のときに買取りを求める場合は、その旨を請求書に入れておく必要があります。上記の記載例では、会社が承認しない場合に、会社または指定買取人による買取りを請求する文言を入れています。
ただし、実際の請求書では、譲渡人から事前に承認を求めるのか、譲受人が譲渡人と共同して承認を求めるのかによって、条文や文言が変わります。会社の定款や譲渡の進行状況を確認したうえで作成しましょう。
提出方法と本人確認で押さえておきたい点
会社法上、株式譲渡承認請求の方法(書面か口頭か)は明確に定められていません。もっとも、後日の「言った・言わない」のトラブルを避けるため、書面で提出することが望ましいといえます。
配達証明付きの内容証明郵便を使うと、いつ会社に到達したかが郵便事業者の記録として残ります。これは、みなし承認の起算日(請求が会社に到達した日)を客観的に示すうえでも有効です。
会社によっては、本人確認のために実印の押印と印鑑証明書の提出を求めることもあります。会社側から書式や提出方法が示されている場合は、可能なかぎりその指示に従って提出するとよいでしょう。
株式譲渡承認請求はいつまでにすべきか・タイミングの考え方
株式の譲渡承認請求をいつ行うかは、会社との関係や、株式譲渡の背景事情によっても変わりますが、共通して言えるのは「手続の全体像を踏まえた余裕のあるタイミングで出すべき」という点です。
会社の判断期限や、その後の買取りの期限も視野に入れて考える必要があります。
一般に、第三者に株式を譲渡する場合には、契約書を締結する前に承認を得る方法と、契約書を締結したうえで承認を求める方法が考えられます。前者は、承認が得られなかった場合のリスクを抑えやすく、後者は当事者間の合意内容を確定させてから会社に申し出る形になります。どちらを選ぶかは、相手との関係や会社の対応姿勢によって判断する場面が多いです。
贈与や退職に伴う株式の譲渡では、当事者の感情や他の相続人・株主との関係も絡みます。会社の決算時期や株主総会の開催時期に近いタイミングでは、会社側の事務負担も考慮しつつ、早めに相談や打診を行う方が混乱を避けやすくなります。相続による株式の取得は譲渡とは異なる扱いになるため、承認の要否や会社の対応は別の制度(相続人等に対する売渡請求など)が問題になります。
株式譲渡承認請求を遅らせると、その後の交渉や価格調整に使える時間が短くなります。会社からの回答が想定より遅れている場合に備え、いつまでに請求書を出しておくと安全かを、あらかじめ逆算しておくことが重要です。
請求書の文言や提出のタイミングについてご不安のある方は、書面を会社へ送付する前に当事務所にご相談ください。
株式譲渡に伴って発生し得る税務上の論点

株式譲渡承認の手続そのものは会社法の問題ですが、実際に株式を譲渡すると、譲渡人・譲受人それぞれに税務上の問題が生じます。
以下では、非上場株式の譲渡で問題になりやすい税務上の論点を、一般的な法令情報として簡潔にご紹介します。譲渡の相手方や譲渡価額、会社による自己株式取得に当たるかどうかによって、税務上の扱いは変わります。
個別の事案における税額計算や具体的な納税相談は税理士の業務に属しますので、実際の判断は税理士または税務知見のある弁護士にご相談ください。
個人間の譲渡における贈与税
個人から個人に株式を譲渡するとき、譲渡価額が時価より著しく低い場合、その差額に対して譲受人側に贈与税が課されることがあります(相続税法7条)。
親族間で形式的に低額譲渡を行ったところ、後日税務署から指摘を受ける場面は珍しくありません。譲渡価額の決定にあたっては、税務上の時価との関係を意識する必要があります。
なお、贈与税における「著しく低い価額」に当たるかどうかは、個別の事情を踏まえて判断されます。個人から法人への譲渡で問題となる「時価の2分の1未満」という基準と同じではありません。
個人から法人への譲渡(みなし譲渡所得課税)
個人が法人に対して株式を譲渡する際、譲渡価額が時価の2分の1未満であるときは、時価で譲渡したものとみなして所得税が課されます(所得税法59条1項2号)。
譲渡人本人としては安く譲ったつもりでも、税務上は時価で売却したものとして所得税の負担が発生する場合があります。
会社による買取りに伴うみなし配当
会社が譲渡制限株式を自社で買い取る場合、自己株式の取得として、みなし配当が問題になることがあります。
個人株主が非上場株式をその発行会社に譲渡し、会社から受け取る金銭等の額が、その株式に対応する資本金等の額を超える場合、その超える部分は配当所得とみなされることがあります。
会社による買取りでは、譲渡所得だけでなく、みなし配当や源泉徴収の要否も確認が必要です。会社から買取価格の提示を受けた場合は、税理士にも確認したうえで判断することが大切です。
法人から個人への譲渡(役員賞与など)
法人が個人(特に役員)に対して時価より低額で株式を譲渡した場合、その差額が役員賞与として扱われることがあります。役員賞与は損金不算入となるため、法人税の負担が増えるおそれがあります。
譲渡当事者の関係や譲渡価額の決め方によって、税務上の取扱いは大きく変わります。譲渡価額を決定する段階で、税理士または当事務所にご相談いただくと安心です。
早めに弁護士に相談した方がよい5つのサイン

「この程度のことでも弁護士に相談してよいのか」と迷われる方もいらっしゃいますが、次の5つのうち一つでも当てはまる場合は、早めに専門家の意見を聞いておく価値が高いといえます。
会社からの回答が曖昧で前に進まないとき
先に確認したとおり、株式譲渡承認の手続には複数の法定期限が組み込まれています。
会社の回答が曖昧なまま時間が過ぎていくと、本来活用できるはずのみなし承認をうまく主張できないまま機会を逃してしまうおそれがあります。期限の管理に不安があれば、早い段階で第三者の目線を入れておくと安心です。
提示された買取価格に強い違和感があるとき
会社から提示された価格が、自社の規模や利益水準と比べて低すぎると感じる場合は、価格決定の申立てを視野に入れる必要があります。
買取通知から20日以内という短い期間に動かないと、会社や指定買取人が供託した金額がそのまま価格となります。価格に違和感を持った時点で、すぐに専門家の意見を聞くことをおすすめします。
株券の所在がわからないとき
株券発行会社で株券発行後に株式を譲渡する場合、原則として、株券を交付しなければ株式譲渡の効力は生じません。株券が見当たらない、あるいは所在不明のまま手続を進めようとすると、株式譲渡の効力や会社への権利行使をめぐって争いになる可能性があります。
紛失している場合の対応(公示催告の手続など)が必要になることもあるため、早い段階で確認しておく必要があります。
同族・親族間の関係が悪化しているとき
同族会社や家族経営の会社では、株式の譲渡が親族間の関係にまで影響することが少なくありません。感情的なやり取りが増えてくると、冷静な話し合いが難しくなり、当初の目的から外れた争いに発展することがあります。
第三者である弁護士が間に入ることで、優先すべき点を改めて考え直し、何に注力すべきかを見失わずに済みます。
法定期限が迫っているとき
株式譲渡承認の周辺には短い期限が複数あります。期限の直前になってから動くと、選択肢が大きく狭まります。
「あと数日で期限が来そうだ」と気付いた時点で、できるだけ早く専門家にご相談ください。
株式譲渡承認に関するよくあるご質問
ご相談の場面でよくいただく質問について、要点をお答えします。
株式譲渡の承認者は誰ですか?
譲渡制限株式の譲渡を承認する機関は、会社の定款で定められています。定款に特別な定めがない場合、取締役会設置会社では取締役会が、取締役会を置いていない会社では株主総会が承認機関になります(会社法139条1項)。
定款で取締役会設置会社の承認機関を株主総会としたり、代表取締役を承認機関としたりすることも可能です。自社の承認機関を確認したい場合は、定款の関連条文をまずご確認ください。
株式譲渡の承認はいつまでに行われなければなりませんか?
会社は、株式譲渡承認請求を受けた日から2週間以内に、承認するか否かを決定し、その内容を株主に通知する必要があります(会社法145条1号)。
定款で2週間より短い期間を定めることはできますが、これを超えて延長することはできません。期限内に通知がなければ、会社は譲渡を承認したものとみなされます。
株式譲渡の「みなし承認」とは何ですか?
みなし承認とは、会社や指定買取人が一定の期限内に必要な通知や手続を行わなかった場合に、株式譲渡を承認したものとして扱う仕組みをいいます。
承認可否の通知期限、不承認後の会社買取の通知期限、指定買取人の買取通知期限を過ぎた場合には、それぞれの局面でみなし承認が発生し得ます。また、会社や指定買取人が期限内に供託を証する書面を交付しなかった場合にも、みなし承認が問題になります。
株式譲渡承認請求書は必ず書面で出す必要がありますか?
会社法上、株式譲渡承認請求の方法は定められていません。もっとも、請求の有無や請求日について後から争いになることを避けるため、書面で提出することが一般的です。
配達証明付き内容証明郵便など、到達日が客観的に分かる方法で送付すると、みなし承認の起算日も明確になります。
株式譲渡承認が拒否されたら、株はどうなりますか?
承認請求の際に「不承認の場合は会社または指定買取人による買取りを請求する」と書面に入れていれば、会社または指定買取人による買取りの手続に進みます。
会社が買い取る場合は不承認通知の日から40日以内、指定買取人が買い取る場合は不承認通知の日から10日以内に、買取通知と供託を証する書面の交付が必要です。
買取価格について折り合いがつかない場合は、買取通知の日から20日以内に裁判所への価格決定の申立てを行えます。
会社から提示された買取価格が低すぎる場合はどうすればよいですか?
まずは、その価格がどの評価方法に基づいて算出されているのかを確認することが大切です。会社や指定買取人が供託する金額は1株当たりの純資産額に基づきますが、実際の売買価格はこれとは別に協議で決められます。
協議で合意できない場合は、買取通知の日から20日以内に裁判所への価格決定の申立てを行えます。期間が短いため、価格に違和感を持った段階で早めに専門家にご相談ください。
譲渡制限株式でお困りならご相談ください

譲渡制限株式の株式譲渡承認は難しく見えますが、少数株主の方が押さえておきたい点は次の3つです。
- 法定期限を逆算する
- 各場面を想定する
- 早めに弁護士へ相談する
1つ目は、複数の法定期限を逆算してスケジュールを組むことです。承認可否の通知、買取通知、価格決定の申立てといった期限が続くため、「いつ・何をするか」をカレンダーに書き出しておくと、期限の見落としを避けやすくなります。
2つ目は、承認・不承認・みなし承認・価格決定の4つの場面を想定しておくことです。承認されれば、譲渡契約・代金の受け渡し・名義書換という流れになります。不承認の場合は、会社や指定買取人による買取りに進みますし、買取価格に不服があれば裁判所への申立てという道もあります。「承認されなかったら終わり」と思い込まず、各場面で自分が何をするかをあらかじめ考えておくことが大切です。
3つ目は、期限が走り出す前に弁護士に相談することです。会社との力関係や親族との関係が絡む問題は、感情的なしこりが生まれやすく、自分だけで判断しているうちに選択肢を狭めてしまうことがあります。
定款の内容や会社の説明に違和感がある、買取価格が妥当なのか不安がある、対応を間違えると関係がこじれそうだといった不安を抱えたときは、早い段階で弁護士に相談することで、今後の進め方を考えやすくなります。
弁護士法人M&A総合法律事務所は、非上場株式の売却や少数株主の方からのご相談を日常的に扱っています。
「自分のケースでも相談してよいのか」「どの選択肢が現実的なのか」を知りたい段階でも構いません。まずは一度ご相談いただき、今後の進め方について一緒に考えていければと思います。
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本記事で紹介している内容は、執筆時点の法令や通達等を前提とした一般的な情報提供であり、個別の事件についての法的助言や税務アドバイスではありません。実際に非上場株式の譲渡を検討する際には、必ず最新の法令や税制、具体的な事情を踏まえて、弁護士や税理士などの専門家に相談したうえで判断してください。



