会計帳簿閲覧謄写請求権の行使方法と仮処分命令申立書のフォーマット

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会計帳簿の閲覧謄写の仮処分に関するメインのページです。本ページは、少数株主として株式の売却を考える方に向けて、通知書と申立書の書式及び用いる段階をご説明します。権利の要件と対象は別のページをご参照ください。

本ページは、会社に差し出す会計帳簿閲覧謄写請求通知書と裁判所に差し出す仮処分命令申立書の書式に加え、請求をすることができる株主の要件、会社が拒むことができる場合及び仮処分の手続を集約したページです。弁護士に依頼する場合の進め方、日程及び費用については、会計帳簿閲覧謄写請求を弁護士に依頼するときをご覧ください。

▶ 少数株主・非上場株主の会計帳簿等閲覧謄写請求権の行使の方法・詳細・流れについて

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目次
  1. 会社が帳簿を見せないとき、裁判所に求めることができます
  2. 四つの書式の使い分け
  3. いま、この書面の持つ意味が変わりつつあります
  4. 会計帳簿閲覧謄写請求通知書及び会計帳簿等閲覧謄写仮処分命令申立書のフォーマット
    1. 書式1 会計帳簿閲覧謄写請求通知書 株主から会社に対して差し出す書面
    2. 書式2 会計帳簿等閲覧謄写仮処分命令申立書 会社が応じない場合に裁判所へ差し出す書面
  5.  二つの書式は、どの段階で用いるものか
    1. 書式1 会計帳簿閲覧謄写請求通知書
    2. 書式2 会計帳簿等閲覧謄写仮処分命令申立書
  6.  根拠となる条文
  7.  会計帳簿閲覧謄写請求権の行使方法
    1. その一 請求することができる株主かどうか
    2. その二 請求の理由を明らかにすること
    3. その三 対象を特定すること
    4. その四 会社が拒むことができる場合を意識すること
    5. 拒絶事由ごとに株主の側が備えておくこと
  8.  仮処分命令の申立て 満足的仮処分としての取扱い
    1. どの類型の仮処分か
    2. 満足的仮処分であることの帰結
    3. 保全の必要性として主張すべき事情
    4. 発令された後の実現の方法
    5. 仮処分によらない方法
  9.  記載を誤るとどうなるか
    1. 通知書の段階
    2. 申立書の段階
  10.  配達証明付内容証明郵便によるべきか
  11.  会社の典型的な対応と、それへの備え
  12.  期限 起算点と満了日
  13. よくあるご質問
    1. いきなり仮処分命令を申し立てることはできますか
    2. 仮処分は、どのくらいの期間で認められますか
    3. 担保はどのくらい必要ですか
    4. 会社が「会計帳簿は作っていない」と言っています
    5. 持株比率が100分の3に届きません。何もできませんか
    6. 帳簿を見た後は、どう進めるのですか
  14. おわりに
  15. 関連ページ
  16. 出典

会社が帳簿を見せないとき、裁判所に求めることができます

会計帳簿を見せてくださいと書面で求めても、会社が応じないことは珍しくありません。「顧問税理士に確認します」と言ったまま連絡が途絶える、「株主の権利の濫用である」と一方的に断ってくる、あるいは決算書の一部だけを示して済ませようとする。いずれも、日々お受けしているご相談です。

会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写を請求する権利は、法律上の権利です(会社法第433条第1項)。会社は、同条第2項各号に定める事由がある場合を除き、これを拒むことができません。会社が応じないのであれば、裁判所に対し、閲覧謄写をさせるよう命ずる仮処分命令を申し立てることができます(民事保全法第23条第2項)。

本ページには、会社に対して差し出す会計帳簿閲覧謄写請求通知書と、裁判所に対して差し出す会計帳簿等閲覧謄写仮処分命令申立書の二つの書式を掲載しています。前者で会社に求め、応じなければ後者で裁判所に求める、という順序です。

会計帳簿の閲覧謄写を求める仮処分は、いわゆる満足的仮処分です。仮処分が認められて帳簿を見てしまえば、本案の判決を得たのと同じ結果が実現され、これを元に戻すことができません。そのため、裁判所は保全の必要性の疎明を高い程度で求めます。また、原則として、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができません(民事保全法第23条第4項本文)。「申し立てればすぐに見られる」という手続ではありません。

書式に続けて、二つの書面をどの段階で用いるか、根拠となる条文、権利行使の要件、仮処分の枠組み、記載を誤った場合の効果、郵送の方法、会社の典型的な対応、そして期限を、順に整理いたします。

四つの書式の使い分け

当事務所は、非上場株式・少数株式に関する書式を、場面ごとに分けて掲載しています。それぞれ用いる場面も、差し出す方向も異なりますので、次の対照によって、いま必要な書面をお確かめください。

1 株式譲渡承認請求書
株主又は株式取得者から会社へ差し出す書面です。株式を譲り渡すことの承認を求め、あわせて、承認をしない場合には会社又は指定買取人に買い取ることを請求する旨を明らかにいたします(会社法第136条から第138条まで)。

2 株式譲渡承認請求及び会計帳簿閲覧請求を兼ねた通知書
同じく株主の側から会社へ差し出す書面ですが、譲渡の承認の請求と、会計帳簿の閲覧謄写の請求とを一通で行うものです(会社法第136条以下及び第433条第1項)。価格の検討に必要な会社の財務資料を、同時に求める場合に用います。

3 株式買取通知書・供託証明通知書
向きが逆です。会社の側から株主に対して発せられる書面です(会社法第141条、第142条)。お手元に届いた場合には、その日から1週間という期限が動き出します。

4 会計帳簿閲覧謄写請求書及び仮処分命令申立書(本ページ)
会社が帳簿の開示に応じない場合に、裁判所に対して申し立てる書面です(会社法第433条、民事保全法第23条第2項)。

いま、この書面の持つ意味が変わりつつあります

国税庁は令和8年(2026年)4月20日から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催し、昭和39年(1964年)に公表された財産評価基本通達の抜本的な見直しを検討しています。

第1回会議(令和8年4月20日)に提出された資料によれば、類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の26%から27%程度にとどまり、類似業種比準価額が純資産価額の0.5倍未満である会社が77.6%に及びます。評価対象会社の82.4%は、直前2期に配当をまったく支払っていません(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料・令和8年4月20日)。

さらに第5回会議(令和8年8月20日)の資料では、類似業種比準方式を存置することは困難ではないかとされ、会社規模による区分を廃止してインカムアプローチによる評価を主軸とすべきとの方向性が示されました(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料・令和8年8月20日)。なお、内容も時期も確定したものではありません。

会社の側も、この動きを見ています。株式が高く評価される可能性があるのであれば、その前に少数株主を整理しておきたいと考えるのは、経営者として自然なことです。手続に着手するかどうかを迷っておられる時間は、必ずしも中立ではありません。

会計帳簿閲覧謄写請求通知書及び会計帳簿等閲覧謄写仮処分命令申立書のフォーマット

弁護士法人M&A総合法律事務所の会計帳簿閲覧請求通知書や会計帳簿閲覧請求仮処分申立書のフォーマットは、頻繁に使用されています。
ここに弁護士法人M&A総合法律事務所の会計帳簿閲覧請求通知書会計帳簿閲覧請求仮処分申立書のフォーマットを掲載しています。
非上場株式・少数株式問題にお悩みの経営者の皆様でしたらご自由にご利用いただいて問題ありません。
ただし、M&A案件は個別具体的であり、このまま使用すると事故が起きる可能性もあり、実際のM&A案件の際には、弁護士法人M&A総合法律事務所にご相談頂くことを強くお勧めします。

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書式1 会計帳簿閲覧謄写請求通知書 株主から会社に対して差し出す書面

会計帳簿閲覧請求通知書

20●●年●月●日

株式会社〇〇〇〇
代表取締役社長 〇〇〇〇様

株式会社〇〇〇〇
代表取締役 〇〇〇〇

貴社株式の取得の件

謹啓
初春の候、貴社ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
当社は、株式会社〇〇〇〇に対する会社法上の計算書類閲覧謄写請求権及び会計帳簿等閲覧謄写請求権(会社法442条3項、433条1項)等に基づき、下記書類の閲覧・謄写を請求いたします。
つきましては、本書受領後1週間以内に、具体的な開示方法について当社に書面にて、ご回答頂くとともに、本書受領後2週間以内に下記書類を当社までご開示いただきますよう請求いたします。
また、万が一、下記書類の開示にあたり2週間以上の時間を要する場合には、本書受領後2週間以内に、その具体的理由を当社まで書面にて、ご回答ください。

敬白

          記

対象書類:株式会社〇〇〇〇の以下の書類一式

(1) 直近5期分の決算書一式(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び個別注記表並びに付属明細書等)
(2) 直近5期分の法人税、地方税、消費税確定申告書
(3) 直近5期分の勘定科目内訳書
(4) 直近5期分の固定資産台帳
(5) 直近5期分の総勘定元帳(会計システムからデータ化されたもの)
(6) 直近5期分の仕訳帳、各伝票
(7) 直近5期分の締結契約書
(8) 直近10期分の株主総会議事録及び取締役会議事録
(9) 直近20期における株式異動明細
上記期間内にお手続きを頂けない場合には、法的処置を取らざるを得ませんので、その旨申し添えます。

書式2 会計帳簿等閲覧謄写仮処分命令申立書 会社が応じない場合に裁判所へ差し出す書面

会計帳簿等閲覧謄写仮処分申立書

年  月  日

〇〇地方裁判所  御中

 債権者代理人弁護士  〇 〇 〇 〇  

当事者の表示

別紙当事者目録記載のとおり

仮処分により保全すべき権利

会計帳簿閲覧謄写請求

申立ての趣旨

債務者は、債権者に対して、東京都〇〇区〇町〇番〇号の所在の債務者の本店所在地において、営業時間内にいつにても、別紙会計帳簿等目録記載の書類を閲覧及び謄写(写真撮影及び電磁的記録によって保存する方法を含む)をさせなければならない。
との裁判を求める。

申立ての理由

第1 当事者について
1 債務者は、〇〇〇〇業を主な目的とする株式会社である(甲1)。同社の発行済み株式総数は〇〇万株であり、全て譲渡制限付株式である。
2 債権者は、〇〇〇〇であり、  年  月  日、債務者の発行済株式(以下「対象株式」という)を譲渡人〇〇〇〇氏(以下「譲渡人」という)から譲り受け、同年  月  日、債務者に対して、株式譲渡承認請求をしたところ(甲2、3の1)、2週間が経過し、みなし承認されたことにより、〇〇万株を取得したものであり、帳簿閲覧権を有する株主である(甲3の2)。

第2 被保全権利について
1 会計帳簿閲覧謄写請求等の理由
(1)  債権者は、債務者の株式を購入したところ、貸借対照表や損益計算書等の公開資料により、以下のような事情が発覚し、帳簿等の閲覧謄写する必要がある。
(2)  〇〇〇〇

(3)  不当な人件費の支出(甲4ないし7)

(4)  現金、預金の大幅な減少(貸借対照表の資産の部)

(5)  接待交際費

(6)  雑費

(7)  雑収入

(8)  小括

2 会計帳簿等が存在すること
会計帳簿は会社法432条1項により作成を義務づけられているため、会計帳簿の存在は推認される。
3 対象と理由の関連性について
債権者としては、上記したように、貸借対照表及び損益計算書記載の数字の正確性を確認するために、別紙記載の会計帳簿等が関連性を有するものである。第3 保全の必要性

よって、本件では、債務者の被るおそれのある損害を考慮したとしても、なお債権者の損害を避けるため緊急の必要がある場合であることは明白なので、債権者の申立ては認められるべきである。

以上

疎 明 方 法

甲1    全部事項証明書
甲2    株式譲渡承認請求書
甲3    通知書
甲4    決算報告書(第1期)
甲5    決算報告書(第2期)
甲6    決算報告書(第3期)
甲7    名義書換請求書

附 属 書 類

1 履歴事項全部証明書      2 通
2 訴訟委任状          1 通(別  紙)
会計帳簿等目録〇〇年度、〇〇年度、〇〇年度の以下の会計帳簿等
1. 総勘定元帳
2. 仕訳表
3. 伝票
4. 法人税、地方税、消費税確定申告書
5. 勘定科目内訳書
6. 現金出納帳
7. 売上明細書およびその補助簿
8. 預金および預金残高表
9. 借入金残高表
10. 月次貸借対照表
11. 月次損益計算書
12. 保険契約の内容及び解約返戻金額

(別  紙)
当事者目録

 二つの書式は、どの段階で用いるものか

書式1 会計帳簿閲覧謄写請求通知書

株主から会社に対して差し出す書面です。会社の営業時間内であればいつでも請求することができます(会社法第433条第1項本文)。この書面を差し出さずにいきなり仮処分命令を申し立てることは、通常いたしません。会社が任意に応じない事実を作っておくことが、保全の必要性の疎明の出発点となるからです。

掲載の書式が「本書受領後1週間以内に、具体的な開示方法について当社に書面にて、ご回答頂く」「本書受領後2週間以内に下記書類を当社までご開示いただきますよう請求いたします」と期間を切っていますのは、この事実を作るためです。会計帳簿の開示については法律上の期限が定められていませんので、書面の中で相当な期間を定める必要があります。

書式2 会計帳簿等閲覧謄写仮処分命令申立書

会社が応じない場合に、裁判所に対して差し出す書面です。掲載の書式は、申立ての趣旨、当事者、被保全権利、保全の必要性、疎明方法、附属書類、会計帳簿等目録という、仮処分命令の申立てに必要な構成を備えています。

保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにしてしなければならず(民事保全法第13条第1項)、保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は疎明しなければなりません(同条第2項)。訴訟における証明よりも程度は低いものの、資料によって裏付ける必要があります。掲載の書式が「疎明方法」として甲号証を列挙していますのは、このためです。

 根拠となる条文

  • 会社法第433条第1項 会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写請求権(持株要件及び請求の理由の明示)
  • 会社法第433条第2項第1号から第5号まで 会社が拒むことができる場合
  • 会社法第433条第3項、第4項 親会社社員による請求と裁判所の許可
  • 会社法第432条第1項 会計帳簿の作成義務
  • 会社法第442条第1項から第4項まで 計算書類等の備置き及び閲覧等(第3項の請求に持株要件はありません)
  • 民事保全法第13条第1項、第2項 申立ての方式並びに被保全権利及び保全の必要性の疎明
  • 民事保全法第14条第1項、第2項 保全命令の担保
  • 民事保全法第4条第1項 担保の提供の方法(供託等)
  • 民事保全法第23条第2項 仮の地位を定める仮処分命令の必要性
  • 民事保全法第23条第4項 口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経ること
  • 民事保全法第43条第2項 保全執行は保全命令が債権者に送達された日から2週間を経過したときはしてはならないこと

 会計帳簿閲覧謄写請求権の行使方法

その一 請求することができる株主かどうか

総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除きます。)の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、又は発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3以上の数の株式を有する株主でなければ、この請求をすることができません(会社法第433条第1項本文。これを下回る割合を定款で定めた場合には、その割合)。

いずれか一方を満たせば足ります。自己株式が除かれますので、会社が自己株式を保有している場合には、見かけの発行済株式総数で判断してはなりません。持株要件は、請求の時のみならず、その後の手続の間も維持する必要があると解されています。

100分の3に満たない場合には、計算書類等の閲覧等の請求(会社法第442条第3項)を用います。こちらに持株要件はありません。ただし、謄本又は抄本の交付の請求等をするには、会社の定めた費用を支払う必要があります(同項ただし書)。

単独では総株主の議決権の100分の3又は発行済株式の100分の3に届かない場合であっても、同じ立場の株主が持株を合算して共同で請求すれば、要件を満たすことがあります。同族会社では、経営から外された兄弟や、相続により株式を取得した方が複数おられることが少なくありません。共同での請求は、会社に対して事実上の圧力となる点でも意味があります。

その二 請求の理由を明らかにすること

請求は、その理由を明らかにしてしなければなりません(会社法第433条第1項後段)。理由は具体的に記載する必要があります。もっとも、最高裁判所平成16年7月1日判決は、請求の理由を基礎づける事実が客観的に存在することを株主が立証する必要はない旨を判示しています(出典 最高裁判所平成16年7月1日判決・民集58巻5号1214頁)。

実務上は、公開されている貸借対照表及び損益計算書から読み取れる事情を手掛かりとして、確認を要する科目を具体的に挙げてまいります。掲載の仮処分申立書の書式が「不当な人件費の支出」「現金、預金の大幅な減少」「接待交際費」「雑費」「雑収入」といった項目を列挙していますのは、理由と対象書類との関連性を示すためです。

その三 対象を特定すること

会計帳簿又はこれに関する資料が書面で作成されているときはその書面の閲覧又は謄写、電磁的記録で作成されているときは法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項第1号、第2号)。

仮処分命令の申立てにおいては、申立ての趣旨において対象を特定しなければなりません。掲載の書式が別紙として「会計帳簿等目録」を設け、総勘定元帳、仕訳表、伝票、確定申告書、勘定科目内訳書、現金出納帳、売上明細書及びその補助簿、預金及び預金残高表、借入金残高表、月次貸借対照表、月次損益計算書、保険契約の内容及び解約返戻金額を列挙していますのは、このためです。

その四 会社が拒むことができる場合を意識すること

会社は、次のいずれかに該当すると認められる場合を除き、請求を拒むことができません(会社法第433条第2項)。

  1. 請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき(第1号)
  2. 請求者が会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき(第2号)
  3. 請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき(第3号)
  4. 請求者が閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき(第4号)
  5. 請求者が過去2年以内において、閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき(第5号)

第3号については、最高裁判所平成21年1月15日決定が、請求者が会社と実質的に競争関係にある事業を営み又はこれに従事する者であるという客観的事実が認められれば足り、閲覧謄写によって知り得る情報を自己の競業に利用するなどの主観的意図があることを要しないと判示しています(出典 最高裁判所平成21年1月15日決定・民集63巻1号1頁)。同業の会社を経営しておられる方が株主である場合には、この一点で退けられるおそれがあります。

拒絶事由ごとに株主の側が備えておくこと

拒絶事由は会社の側が主張すべきものですが、請求書の段階で次の備えをしておけば、会社が持ち出すことのできる主張は限られます。

拒絶事由 株主の側の備え
第1号 権利の確保又は行使に関する調査以外の目的での請求 請求書に目的と書類の結び付きを書いておく
第2号 業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的での請求 閲覧の日時と範囲を限定して申し入れる
第3号 実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事すること 請求者を誰にするかを事前に検討する
第4号 知り得た事実を利益を得て第三者に通報するための請求 第三者への提供の予定がないことを明示する
第5号 過去2年以内に同様の通報をしたことがあること 該当しない旨をあらかじめ述べておく

 仮処分命令の申立て 満足的仮処分としての取扱い

どの類型の仮処分か

仮処分命令には、係争物に関する仮処分命令(民事保全法第23条第1項)と、仮の地位を定める仮処分命令(同条第2項)があります。会計帳簿の閲覧謄写を求める仮処分は、後者です。

仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができます(民事保全法第23条第2項)。したがって、被保全権利(会計帳簿閲覧謄写請求権)の疎明に加えて、この必要性を疎明しなければなりません。

満足的仮処分であることの帰結

金銭の仮差押えであれば、後に本案で敗訴しても、差し押さえた財産を戻せば足ります。ところが、帳簿を閲覧し謄写してしまえば、情報は債権者の頭の中と手元の写しに残り、これを回収することはできません。本案の判決を得たのと同じ満足が、仮処分の段階で実現されてしまいます。これを満足的仮処分と申します。

その帰結として、実務上、次の三つの特徴があります。

  • 保全の必要性の疎明の程度が高く求められます。「株主として知りたい」という程度では足りません。本案の判決を待っていては回復し難い不利益が生ずること、しかもそれが差し迫っていることを、資料によって示す必要があります。
  • 審尋を経ることが通常です。仮の地位を定める仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができません(民事保全法第23条第4項本文)。その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときはこの限りではありませんが(同項ただし書)、帳簿の閲覧謄写については、この例外が認められることは多くありません。申立てから発令まで、双方審尋を数回重ね、数か月を要することが通常です。
  • 担保の額が高くなる傾向があります。保全命令は、担保を立てさせて発することができます(民事保全法第14条第1項)。担保は、担保を立てるべきことを命じた裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に、金銭又は裁判所が相当と認める有価証券を供託する方法等によって立てます(民事保全法第4条第1項本文)。

保全の必要性として主張すべき事情

事案によりますが、次のような事情を組み合わせて主張いたします。

  • 株式の売買価格の決定の申立てに期限(買取りの通知があった日から20日。会社法第144条第2項)が定められており、その手続において会社の資産状態を主張する必要があること
  • 会社の資産が現に流出しており、時間の経過とともに帳簿の記載と実態との対応関係を確認することが困難になること
  • 役員報酬その他の支出について確認を要する具体的な事情があり、放置すれば会社の財産的基礎が損なわれること
  • 株主総会が近く開催され、議決権の行使又は株主提案の当否を判断するために資料を要すること
  • 会社が任意の開示を明確に拒絶しており、本案判決を待つことが相当でないこと

掲載の書式が「債務者の被るおそれのある損害を考慮したとしても、なお債権者の損害を避けるため緊急の必要がある場合であることは明白である」と結んでいますのは、この比較衡量を意識した書きぶりです。

発令された後の実現の方法

閲覧謄写をさせよという内容の仮処分命令は、物の引渡しのように直接に強制する性質のものではありません。仮処分の執行については、仮差押えの執行又は強制執行の例によるものとされ(民事保全法第52条第1項)、作為又は不作為を命ずる仮処分の執行については仮処分命令を債務名義とみなすものとされています(同条第2項)。会社が命令に従わない場合には、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに一定の額の金銭を支払うべき旨を命ずる方法、すなわち間接強制によることになります(民事執行法第172条第1項)。

また、保全執行は、保全命令が債権者に送達された日から2週間を経過したときは、してはならないとされています(民事保全法第43条第2項)。発令を得た後も、期間の管理が必要です。

仮処分によらない方法

会計帳簿閲覧謄写請求の訴えを本案として提起する方法もあります。時間はかかりますが、満足的仮処分に伴う高い疎明の負担と担保の負担を避けることができます。売買価格の決定の申立てが係属している場合には、その手続の中で会社に対して資料の提出を促す方法も併用いたします。どの手段を選ぶかは、期限との関係で決まります。

 記載を誤るとどうなるか

通知書の段階

  • 請求の理由を書かなかった場合 会社法第433条第1項後段の要件を欠くとして、会社に拒絶の口実を与えます。仮処分命令の申立てにおいても、任意の請求が適法にされていないと評価されるおそれがあります。
  • 対象書類を特定しなかった場合 「会計帳簿一切」では、後の申立ての趣旨を組み立てることができません。書類の名称と対象期間を列挙してください。
  • 回答の期限を切らなかった場合 法律に開示の期限の定めがありませんので、会社は「検討中である」と述べ続けることができます。相当な期間を書面で定め、その徒過をもって拒絶があったものとして扱います。
  • 持株要件を満たさないまま請求した場合 会社は応じる義務を負いません。計算書類等の閲覧等の請求(会社法第442条第3項)を併記しておくことが有効です。

申立書の段階

  • 被保全権利の記載が不十分な場合 保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにしてしなければなりません(民事保全法第13条第1項)。株主であること、持株要件を満たすこと、請求の理由を明らかにして任意の請求をしたことを、順に示す必要があります。掲載の書式が、みなし承認によって株式を取得した経緯(会社法第145条第1号)から書き起こしていますのは、株主であることを基礎づけるためです。
  • 保全の必要性の疎明が足りない場合 最も多い理由です。満足的仮処分であるため、疎明の程度は高く求められます。抽象的に「知る必要がある」と述べるだけでは、申立ては認められません。
  • 申立ての趣旨で対象が特定されていない場合 命令の主文が特定できず、執行することができません。別紙の会計帳簿等目録によって明確にしてください。
  • 謄写の方法を明示しなかった場合 掲載の書式が「写真撮影及び電磁的記録によって保存する方法を含む」と括弧書きを付していますのは、会社が「手書きの書き写しのみ認める」と主張することを防ぐためです。
  • 担保の準備をしていなかった場合 保全命令は担保を立てさせて発することができます(民事保全法第14条第1項)。担保の額は決定の直前に告げられることが多く、短い期間で供託を求められます(民事保全法第4条第1項)。資金の手当てを先にしておいてください。

 配達証明付内容証明郵便によるべきか

会社に対する通知書については、配達証明付内容証明郵便によるべきです。仮処分命令の申立てにおいて、次の三点を疎明する必要があるためです。

  • 請求の理由を明らかにして請求をしたこと(会社法第433条第1項)
  • その請求が会社に到達したこと及び到達の日
  • 相当な期間を定めたにもかかわらず、会社が応じなかったこと

普通郵便では、これらのいずれも証明することができません。会社が「そのような請求は受けていない」と述べた時点で、疎明が成り立たなくなります。

内容証明郵便には他の書類を同封することができません。株主であることを示す資料等を添付する場合には、通知書の本体を配達証明付内容証明郵便で発送し、添付資料を同日付の書留郵便で別送してください。
また、会社から届いた回答書、面談の記録、担当者との電子メールのやり取りは、すべて保管してください。会社が拒絶した理由をどのように述べたかは、拒絶事由(会社法第433条第2項各号)の主張が後から作られたものかどうかを判断する材料になります。

なお、仮処分命令の申立書は、裁判所に提出するものですので、郵送の方法の問題ではありません。管轄、当事者の表示、疎明方法及び附属書類の整え方については、裁判所ごとの運用がありますので、事前に確認してください。

 会社の典型的な対応と、それへの備え

  • 回答を先延ばしにする。「顧問税理士に確認している」「決算期で手が離せない」といった説明です。書面で期限を定め直し、その徒過を記録してください。
  • 決算書だけを開示する。計算書類等(会社法第442条第3項)と会計帳簿又はこれに関する資料(同法第433条第1項)とは別のものです。総勘定元帳、仕訳帳、伝票、勘定科目内訳書を改めて特定して求めてください。
  • 目的が不当であると主張する。会社法第433条第2項第1号の主張です。株式の売買価格を検討することは、株主の権利の確保又は行使に関する調査そのものです。その旨を書面で明確にしておきます。
  • 競争関係にあると主張する。同項第3号の主張です。客観的な競争関係の有無が基準となりますので(最高裁判所平成21年1月15日決定)、株主又は譲受人の事業の内容を事前に確認しておく必要があります。
  • 業務の妨害であると主張する。同項第2号の主張です。対象書類を請求の理由と関連する範囲にとどめ、閲覧の日程についても会社の営業時間内で調整する姿勢を示しておくことが有効です。
  • 閲覧はさせるが謄写はさせないと言う。会社法第433条第1項第1号は閲覧又は謄写と定めており、謄写も請求の対象です。
  • 審尋の場で分割開示を提案してくる。仮処分の審尋の過程で、会社が一部の書類を任意に開示すると述べることがあります。実質的に必要な範囲が確保できるのであれば、和解的な解決を選ぶことも合理的です。担保の負担と時間を節約することができます。
  • 株主であること自体を争う。株主名簿に記載がないという主張です。この場合には、株主名簿の閲覧謄写請求(会社法第125条)及び株主名簿記載事項の記載の請求(会社法第133条)から始める必要があります。

 期限 起算点と満了日

期間を定めるのに日又は週をもってしたときは、期間の初日は算入しません(民法第140条本文)。会計帳簿の閲覧謄写そのものには法律上の期限がありませんが、周辺の手続には期限があります。以下、通知書が令和8年9月1日に会社へ到達した場合を例といたします。

  • 通知書に定める回答の期限 法律上の定めはありません。掲載の書式のように、開示方法の回答について1週間(起算日は令和8年9月2日、満了日は令和8年9月8日)、書類の開示について2週間(満了日は令和8年9月15日)といった定め方をいたします。
  • 保全執行の期間 保全命令が債権者に送達された日から2週間(民事保全法第43条第2項) 送達の日が令和8年11月10日であれば、満了日は令和8年11月24日です。この期間を経過すると保全執行をすることができません。
  • 売買価格の決定の申立て 買取りの通知があった日から20日(会社法第144条第2項、第7項) 株式の売却の手続と並行している場合には、この期限が全体を規律いたします。
  • 計算書類等の備置きの期間 各事業年度に係る計算書類等は、定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社にあっては2週間)前の日から5年間、本店に備え置かれます(会社法第442条第1項第1号)。支店には写しが3年間備え置かれます(同条第2項第1号)。古い事業年度の資料を求める場合には、この期間を意識する必要があります。

会計帳簿の閲覧謄写に期限がないことは、有利な事情ではありません。期限がないということは、会社がいくらでも引き延ばすことができるということです。他方、株式の売買価格の決定の申立てには20日という期限があります。帳簿を待っているうちに、価格を争う機会を失うことがあります。仮処分命令の申立てを行う場合であっても、価格の手続は別に走らせておく必要があります。

期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間はその翌日に満了いたします(民法第142条)。

よくあるご質問

いきなり仮処分命令を申し立てることはできますか

法律上、任意の請求を先に行うことが要件とされているわけではありません。もっとも、会社が任意に応じないという事実がなければ、保全の必要性を疎明することが困難です。まず会計帳簿閲覧謄写請求通知書を配達証明付内容証明郵便で差し出し、相当な期間を定めて回答を求めることが、実務上の順序です。

仮処分は、どのくらいの期間で認められますか

仮の地位を定める仮処分命令は、原則として、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができません(民事保全法第23条第4項本文)。双方の審尋を数回重ねることが通常ですので、申立てから発令まで数か月を要することが珍しくありません。「仮」という語から想像されるほど速い手続ではありません。

担保はどのくらい必要ですか

保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができます(民事保全法第14条第1項)。額は事案により、裁判所が定めます。金銭又は裁判所が相当と認める有価証券を供託所に供託する方法等によって立てます(民事保全法第4条第1項本文)。あらかじめ資金の手当てをしておいてください。

会社が「会計帳簿は作っていない」と言っています

株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければなりません(会社法第432条第1項)。したがって、会計帳簿が存在することは推認されます。掲載の書式が「会計帳簿は会社法432条1項により作成を義務づけられているため、会計帳簿の存在は推認される」と記載していますのは、この趣旨です。

持株比率が100分の3に届きません。何もできませんか

会計帳簿の閲覧謄写請求はできませんが(会社法第433条第1項)、計算書類等の閲覧等の請求には持株要件がありません(会社法第442条第3項)。まずはこちらから始めてください。また、発行済株式から自己株式が除かれる点、及び議決権の割合と株式数の割合のいずれか一方を満たせば足りる点を、改めて計算し直してみてください。

帳簿を見た後は、どう進めるのですか

役員報酬、関係会社との取引、簿外の資産、含み益のある不動産、保険の解約返戻金といった項目を検証し、非上場株式の価格の主張を組み立てます。そのうえで、株式譲渡承認請求から売買価格の決定の申立てへと進みます。会計帳簿の閲覧は、それ自体が目的ではなく、価格を争うための材料を得る手段です。

おわりに

会社が帳簿を見せないのには、理由があります。見せられない数字があるからです。役員報酬の水準、関係会社への支出、名義の分からない資産。それらは、非上場株式の価格に直結いたします。

会計帳簿の閲覧謄写を求める仮処分は、満足的仮処分として扱われ、保全の必要性の疎明が高い程度で求められ、審尋を経ることが通常であり、担保も必要です。決して容易な手続ではありません。しかし、会社が任意に応じない以上、これが正面からの道です。そして、正しい順序で、記録を残しながら進めれば、道は通ります。

弁護士法人M&A総合法律事務所は、非上場株式の少数株主の皆様の側に立って、会計帳簿の閲覧謄写請求、仮処分命令の申立て、株式譲渡承認請求及び売買価格の決定の申立てを取り扱ってまいりました。会社に何を求め、どのような回答があったのか、まずはお聞かせください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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出典

  • 会社法(第125条、第133条、第136条、第137条、第138条、第140条、第141条、第142条、第144条、第145条、第432条第1項、第433条、第442条)
  • 民事保全法(第4条第1項、第13条、第14条、第23条第2項・第4項、第43条第2項、第52条)
  • 民事執行法(第172条第1項)
  • 民法(第140条、第142条)
  • 最高裁判所平成16年7月1日判決(民集58巻5号1214頁 会計帳簿の閲覧謄写請求における請求の理由と立証の要否)
  • 最高裁判所平成21年1月15日決定(民集63巻1号1頁 会社法第433条第2項第3号の拒絶事由と主観的意図の要否)
  • 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
  • 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)

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