指定買取人とは何か
1 結論 会社に代わって株式を買い取る者として会社が指定した者です
指定買取人とは、譲渡制限株式について会社が株式譲渡承認請求を承認しない旨の決定をした場合に、会社に代わって対象株式の全部又は一部を買い取る者として、会社から指定された者をいいます(会社法第140条第4項)。買主が会社ではなく指定買取人となりますので、売買価格の協議の相手方が誰になるかという問題に直結いたします。
株式譲渡承認請求の手続の全体は既存記事「株式譲渡承認とは」(/archives/minority-share-transfer-approval/)をご覧ください。本記事は指定買取人そのものに絞って整理いたします。
2 誰が、どのような機関決定によって指定するのか
指定するのは会社です。指定は株主総会の決議によりますが、取締役会設置会社にあっては取締役会の決議により、定款に別段の定めがある場合にはその定めによります(会社法第140条第5項)。株主総会の決議による場合は特別決議です(会社法第309条第2項第1号)。
これに対し、会社が自ら買い取る場合には、取締役会設置会社であっても株主総会の特別決議を要し(会社法第140条第2項、第309条第2項第1号)、当該請求をした株主はこの決議において議決権を行使することができません(同条第3項)。また、会社による買取りは分配可能額の範囲内でしなければなりません(会社法第461条第1項)。指定買取人にはこの財源規制が及びませんので、会社の分配可能額が乏しい場合に指定買取人が用いられることがあります。
3 指定買取人となり得る者
会社法は指定買取人の資格について特段の制限を設けておりません。代表者個人、他の株主、関連会社、取引先等が指定される例があります。少数株主の側では、売買代金の支払の確実性を確認する必要が生じます。次に述べる供託は、その一定の担保です。
4 指定買取人からの通知と供託
指定買取人は、指定を受けたときは、株式譲渡承認請求をした者に対し、指定買取人として指定を受けた旨及び買い取る対象株式の数を通知しなければなりません(会社法第142条第1項)。
この通知をしようとするときは、1株当たり純資産額(法務省令で定める方法により算定される額をいいます。)に買い取る対象株式の数を乗じて得た額を会社の本店の所在地の供託所に供託し、供託を証する書面を請求者に交付しなければなりません(会社法第142条第2項)。会社が自ら買い取る場合の株式買取通知も同様です(会社法第141条第1項、第2項)。
供託は買主側の履行を担保する制度です。売買価格が定まったときは、供託した金銭に相当する額を限度として代金の全部又は一部を支払ったものとみなされます(会社法第144条第6項、第7項)。供託金額は最低限の担保額であり、適正な売買価格を示すものではありません。
5 売買価格はどのように決まるか
指定買取人による通知があった場合、対象株式の売買価格は、まず指定買取人と株式譲渡承認請求をした者との協議によって定めます(会社法第144条第1項、第7項)。
協議が調わない場合、いずれの当事者も、通知があった日から20日以内に裁判所へ売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第144条第2項、第7項)。裁判所は、株式譲渡承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めます(同条第3項、第7項)。
この20日の期間内に申立てがなく、かつ協議も調わない場合には、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が売買価格となります(同条第5項、第7項)。この額は法務省令の定める方法により機械的に算定されるものであり、適正な価格と一致するとは限りません。20日という期間が決定的な意味を持つのは、この点です。
なお、これらの通知を受けた後は、会社又は指定買取人の承諾がなければ株式譲渡承認請求を撤回することができません(会社法第143条第1項、第2項)。
6 指定買取人が現れない場合の帰結
指定買取人による通知は、承認をしない旨の決定の内容の通知の日から10日以内(定款でこれを下回る期間を定めた場合はその期間)にされる必要があります。この通知がなく、かつ会社も40日以内に株式買取通知をしない場合には、承認をする旨の決定をしたものとみなされ(会社法第145条第2号)、当初の請求で特定した譲受人への譲渡が承認されたこととなります。
| 場面 | 期間 | 根拠条文 | 徒過した場合の効果 |
|---|---|---|---|
| 指定買取人の通知及び供託 | 不承認の決定の内容の通知の日から10日 | 会社法第142条、第145条第2号 | 会社が40日以内に株式買取通知をしない限り、承認をしたものとみなされます |
| 会社の株式買取通知及び供託 | 同上の通知の日から40日 | 会社法第141条、第145条第2号 | 承認をしたものとみなされます |
| 売買価格の決定の申立て | 通知があった日から20日 | 会社法第144条第2項・第7項 | 1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が売買価格となります |
よくあるご質問
質問1 指定買取人による買取りを拒み、会社に買い取らせることはできますか。
会社法第138条第1号ハの請求は会社又は指定買取人による買取りを求めるものですので、買主を会社に限定することは想定されておりません。通知を受けた後の撤回にも承諾を要します(会社法第143条第2項)。
質問2 指定買取人が対象株式の一部のみを買い取る場合はどうなりますか。
会社は対象株式の全部又は一部について指定買取人を指定することができます(会社法第140条第4項)。残りの部分について会社が買主となる場合には、協議の相手方が会社と指定買取人の双方となります。
質問3 指定買取人に支払能力がない場合はどうなりますか。
会社法第142条第2項の供託により、1株当たり純資産額を基礎とする額については一定の担保があります。もっとも、これを超える価格が定められた場合の差額の回収は別の問題です。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
指定買取人の指定を受けた旨の通知を受け取られた場合、20日の期間は速やかに経過いたします。通知の到達日を示す封筒等を保管のうえ、お早めに弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)へご相談ください。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主側の代理人としてお受けいたします。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
ご相談に際しましては、会社又は指定買取人から届いた通知書、供託を証する書面、定款、直近の計算書類をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。なお、具体的な交渉の進め方及び価格に関する主張の組立て方は、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
本記事の根拠条文
会社法 第136条・第138条第1号(株式譲渡承認請求)、第140条第1項から第5項まで(会社又は指定買取人による買取り及び指定の機関)、第141条第1項・第2項(会社による株式買取通知及び供託)、第142条第1項・第2項(指定買取人による通知及び供託)、第143条第1項・第2項(撤回の制限)、第144条第1項から第3項まで・第5項から第7項まで(売買価格の決定、20日の期間及び供託金の充当)、第145条第2号(みなし承認)、第309条第2項第1号(特別決議)、第461条第1項(財源規制)
内部リンク
- ランディングページ第9号 譲渡制限株式の売却・株式譲渡承認請求相談(/landing/share/。主)
- ランディングページ第10号 株式売買価格決定申立・株価決定裁判(/landing/share/。補助)
- 既存記事 株式譲渡承認とは(/archives/minority-share-transfer-approval/。手続の全体)
- 新設記事 株式譲渡承認請求にはなぜ具体的な譲受人が必要なのか(C04)
- 新設記事 株式売買価格決定申立で鑑定が行われる場合の注意点(C08)
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。



