株式譲渡承認請求と会計帳簿閲覧請求を一通で行う方法とフォーマット

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本ページは、株式譲渡承認請求に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
▶ 株式譲渡承認とは 譲渡制限株式の譲渡承認手続きの流れと注意点
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価格を語る前に、数字を手に入れる必要があります
非上場株式の売却において、最も多い行き詰まりは「いくらで売れるのか分からない」ということです。会社は決算書を見せてくれません。株主総会の招集通知も届きません。そのような状態のまま、会社が提示してきた金額に応じるかどうかを判断することは、不可能です。
本ページに掲げています書式は、この行き詰まりを一通の書面で破るためのものです。すなわち、株式譲渡承認請求と、会計帳簿の閲覧謄写請求とを、一通の通知書で兼ねて行うという形式です。
譲渡の承認を求めれば、会社は2週間以内に諾否を決めなければならず(会社法第145条第1号)、承認をしなければ買い取らなければなりません(会社法第140条第1項)。一方、会計帳簿の閲覧謄写を請求すれば、会社は法定の拒絶事由がない限りこれを拒むことができません(会社法第433条第2項)。二つを同時に投げ込むことで、会社は「価格を決める土俵」と「その材料」の双方に、期限を切られた形で向き合わざるを得なくなります。
ただし、会計帳簿の閲覧謄写請求には持株要件があります。総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除きます。)の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、又は発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3以上の数の株式を有する株主でなければ、この請求をすることができません(会社法第433条第1項本文。これを下回る割合を定款で定めた場合には、その割合)。
100分の3に満たない場合には、持株要件のない計算書類等の閲覧等の請求(会社法第442条第3項)から入ることになります。
本ページでは、書式に続けて、なぜ二つの請求を一通で行うのか、根拠となる条文、記載を誤った場合に何が起きるか、郵送の方法、会社の典型的な対応と備え、そして期限の起算点と満了日を、順に整理いたします。
四つの書式の使い分け
当事務所は、非上場株式・少数株式に関する書式を、場面ごとに分けて掲載しています。それぞれ用いる場面も、差し出す方向も異なりますので、次の対照によって、いま必要な書面をお確かめください。
1 株式譲渡承認請求書
株主又は株式取得者から会社へ差し出す書面です。株式を譲り渡すことの承認を求め、あわせて、承認をしない場合には会社又は指定買取人に買い取ることを請求する旨を明らかにいたします(会社法第136条から第138条まで)。
2 株式譲渡承認請求及び会計帳簿閲覧請求を兼ねた通知書(本ページ)
同じく株主の側から会社へ差し出す書面ですが、譲渡の承認の請求と、会計帳簿の閲覧謄写の請求とを一通で行うものです(会社法第136条以下及び第433条第1項)。価格の検討に必要な会社の財務資料を、同時に求める場合に用います。
3 株式買取通知書・供託証明通知書
向きが逆です。会社の側から株主に対して発せられる書面です(会社法第141条、第142条)。お手元に届いた場合には、その日から1週間という期限が動き出します。
4 会計帳簿閲覧謄写請求書及び仮処分命令申立書
会社が帳簿の開示に応じない場合に、裁判所に対して申し立てる書面です(会社法第433条、民事保全法第23条第2項)。
いま、この書面の持つ意味が変わりつつあります
国税庁は令和8年(2026年)4月20日から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催し、昭和39年(1964年)に公表された財産評価基本通達の抜本的な見直しを検討しています。
第1回会議(令和8年4月20日)に提出された資料によれば、類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の26%から27%程度にとどまり、類似業種比準価額が純資産価額の0.5倍未満である会社が77.6%に及びます。評価対象会社の82.4%は、直前2期に配当をまったく支払っていません(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料・令和8年4月20日)。
さらに第5回会議(令和8年8月20日)の資料では、類似業種比準方式を存置することは困難ではないかとされ、会社規模による区分を廃止してインカムアプローチによる評価を主軸とすべきとの方向性が示されました(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料・令和8年8月20日)。なお、内容も時期も確定したものではありません。
会社の側も、この動きを見ています。株式が高く評価される可能性があるのであれば、その前に少数株主を整理しておきたいと考えるのは、経営者として自然なことです。手続に着手するかどうかを迷っておられる時間は、必ずしも中立ではありません。
株式譲渡承認請求及び会計帳簿閲覧請求通知書のフォーマット
⇒非上場株式・譲渡制限株式・少数非上場株式を売却できずにお困りの方はこちら!
弁護士法人M&A総合法律事務所の株式譲渡承認請求及び会計帳簿閲覧請求通知書のフォーマットは、頻繁に使用されています。
ここに弁護士法人M&A総合法律事務所の株式譲渡承認請求及び会計帳簿閲覧請求通知書のフォーマットを掲載しています。
少数株式・同族株式・非上場株式・譲渡制限株式問題にお悩みの経営者の皆様でしたらご自由にご利用いただいて問題ありません。
ただし、M&A案件は個別具体的であり、このまま使用すると事故が起きる可能性もあり、実際のM&A案件の際には、弁護士法人M&A総合法律事務所にご相談頂くことを強くお勧めします。
| ご 通 知
年 月 日 〒〇〇〇‐〇〇〇〇 〒105-6017 当職は株式会社〇〇〇〇(以下「通知人」という)を代理して、貴社に対し、以下の通り通知します。 また、通知人は、譲渡人(〇〇〇〇氏)と共同して、会社法上の計算書類閲覧謄写請求権及び帳簿等閲覧謄写請求権(会社法442条3項、433条1項)等に基づき、下記書類の閲覧・謄写を請求いたします。 草々 |
なぜ二つの請求を一通で行うのか
理由その一 価格を検討するには、会社の財務内容が要ります
譲渡の承認を求めれば、会社が承認をしない場合には買取りへ進みます。そして売買価格は、まず協議によって定め(会社法第144条第1項)、調わなければ、買取りの通知があった日から20日以内に裁判所へ売買価格の決定を申し立てることになります(会社法第144条第2項)。
裁判所は、譲渡等承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければなりません(会社法第144条第3項)。この「資産状態」を主張し、疎明し、立証するのは株主の側です。総勘定元帳、勘定科目内訳書、固定資産台帳といった資料がなければ、貸借対照表の数字が実態を反映しているかどうかを検証することができません。承認請求だけを先に出してしまいますと、20日の期限が来たときに、手元に何もないという事態になります。
理由その二 時間の節約になります
会計帳簿の閲覧謄写請求は、会社が素直に応じることの方が稀です。拒絶されれば、仮処分命令の申立てや訴えの提起を検討することになり、数か月を要します。承認請求の後で帳簿の請求を始めるのでは、価格を争う場面に間に合いません。二つを同時に走らせることで、帳簿をめぐる攻防と、価格をめぐる手続とを並行させることができます。
理由その三 会社に対して、本気であることが伝わります
承認請求だけであれば、会社は「買い手が見つからないのだろう」と考えます。帳簿の閲覧請求が同時に来れば、会社は、価格を争う意思があること、そして代理人が付いていることを理解いたします。交渉の初期における位置取りとして、意味があります。
他方で、警戒される面もあります
率直に申し上げますと、一通で行うことには不利益もあります。
- 会社が防御を固めます。帳簿の請求が来た時点で、会社は顧問の税理士及び弁護士に相談し、拒絶事由(会社法第433条第2項各号)を探し始めます。承認請求だけであれば粛々と処理された事案が、全面的な争いに転じることがあります。
- 拒絶事由を与えるおそれがあります。会社は、請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき(会社法第433条第2項第1号)に当たると主張してまいります。株式の売却が目的であるならば、それはまさに「権利の行使に関する調査」ですので、請求の理由の書きぶりが重要になります。
- 資料の要求が過大であると評価されるおそれがあります。対象書類を無限定に広げますと、会社の業務の遂行を妨げる目的(同項第2号)であると反論される余地を与えます。
したがって、一通で行うか、順を追って行うかは、持株比率、会社との関係、これまでのやり取り、そして急ぐ事情の有無によって選択すべき戦術上の判断です。掲載の書式は、一通で行う場合の型としてご覧ください。
この書面は、いつ、誰が、誰に対して差し出すものか
差し出すのは、譲渡制限株式を有する株主又はこれを取得した株式取得者です。掲載の書式は、譲受人が譲渡人と共同して差し出す形式となっています(会社法第137条第1項、第2項)。差し出す相手は、株式を発行した会社です。
差し出す段階は、譲受人が定まり、かつ、会社の財務内容を検証する必要が生じた時点です。会計帳簿の閲覧謄写請求は「株式会社の営業時間内は、いつでも」することができますので(会社法第433条第1項本文)、承認請求と同時に行うことに法律上の支障はありません。
根拠となる条文
- 会社法第136条、第137条第1項・第2項、第138条第1号・第2号 譲渡等承認請求とその方法
- 会社法第139条第1項・第2項、第140条、第141条、第142条、第143条、第144条、第145条 承認の決定、買取り、通知、供託、売買価格の決定、みなし承認
- 会社法第433条第1項 会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写請求権(持株要件及び請求の理由の明示)
- 会社法第433条第2項第1号から第5号まで 会社が請求を拒むことができる場合
- 会社法第433条第3項、第4項 親会社社員による請求と裁判所の許可
- 会社法第442条第1項から第4項まで 計算書類等の備置き及び閲覧等(第3項の請求に持株要件はありません)
- 会社法第432条第1項 会計帳簿の作成義務(帳簿が存在することの根拠となります)
会計帳簿の閲覧謄写請求の三つの関門
関門その一 持株要件
会社法第433条第1項は、請求をすることができる株主を次のように限定しています。
- 総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除きます。)の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、又は
- 発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3以上の数の株式を有する株主
いずれも、これを下回る割合を定款で定めた場合には、その割合です。二つは「又は」で結ばれていますので、いずれか一方を満たせば足ります。無議決権株式をお持ちの場合には、後者の要件で判断することになります。
また、自己株式が除かれる点は見落とされがちです。会社が自己株式を多く保有している場合には、発行済株式総数の見かけよりも、株主の持株比率は高くなります。登記事項証明書の発行済株式の総数と、計算書類における自己株式の数とを、必ず突き合わせてください。
持株要件は、請求の時に満たしていれば足りるものではなく、訴訟等の係属中も維持する必要があると解されています。株式を分割して譲渡することを検討される場合には、この点に留意してください。
関門その二 請求の理由を明らかにすること
会社法第433条第1項後段は「この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない」と定めています。理由は、具体的に記載する必要があります。「株主として会社の経営状況を知りたい」といった抽象的な記載では足りません。
もっとも、最高裁判所平成16年7月1日判決は、請求の理由を基礎づける事実が客観的に存在することを株主が立証する必要はない旨を判示しています(出典 最高裁判所平成16年7月1日判決・民集58巻5号1214頁)。すなわち、具体的に書くことは必要ですが、書いたことを証明せよと会社から求められる筋合いはありません。
実務上は、次のように組み立てます。
- 株式の譲渡の承認を請求しており、会社が承認をしない場合には売買価格の決定が問題となること
- その価格の相当性を検討するために、貸借対照表及び損益計算書に計上された数値の裏付けを確認する必要があること
- 公開されている資料から見て、特定の科目(役員報酬、接待交際費、雑費、雑収入、現金及び預金の増減等)について確認を要する事情があること
掲載の書式が、対象書類を「直近3期分の決算書」「勘定科目内訳書」「総勘定元帳」等と具体的に列挙していますのは、理由と対象との関連性を示すためです。
関門その三 会社が拒むことができる場合
請求があったときは、会社は、次のいずれかに該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができません(会社法第433条第2項)。裏を返せば、これらに該当しない限り、会社に拒否する自由はありません。
- 請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき(第1号)
- 請求者が会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき(第2号)
- 請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき(第3号)
- 請求者が閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき(第4号)
- 請求者が過去2年以内において、閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき(第5号)
特に注意を要するのは第3号です。最高裁判所平成21年1月15日決定は、同号の拒絶事由については、請求者が会社と実質的に競争関係にある事業を営み又はこれに従事する者であるという客観的事実が認められれば足り、当該株主に会計帳簿等の閲覧謄写によって知り得る情報を自己の競業に利用するなどの主観的意図があることを要しないと判示しています(出典 最高裁判所平成21年1月15日決定・民集63巻1号1頁)。
株式の譲受人となる方が、対象会社と同業である場合には、この一点だけで請求が退けられるおそれがあります。譲受人の選定の段階から、事業の内容を確認しておく必要があります。
持株要件を満たさない場合 計算書類等の閲覧等の請求
100分の3に満たない場合であっても、諦める必要はありません。株主及び債権者は、会社の営業時間内はいつでも、計算書類等について閲覧の請求、謄本又は抄本の交付の請求等をすることができます(会社法第442条第3項各号)。この請求に持株要件はありません。ただし、謄本又は抄本の交付の請求等をするには、会社の定めた費用を支払う必要があります(同項ただし書)。
計算書類等とは、各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(監査報告又は会計監査報告を含む場合があります。)並びに臨時計算書類です(会社法第442条第1項各号)。会社はこれらを本店に備え置かなければなりません(同項)。備置きの期間は、定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社にあっては2週間)前の日から5年間です(同項第1号)。支店には写しを3年間備え置く必要があります(同条第2項)。
会計帳簿ほどの情報量はありませんが、附属明細書には役員報酬や関係会社との取引に関する記載が含まれることがあり、次の一手を組み立てる材料になります。
記載を誤るとどうなるか
株式買取請求の記載を落とした場合
会社が承認をしないと決定しても、買い取る義務が生じません(会社法第140条第1項は、第138条第1号ハ又は第2号ハの請求を受けた場合に限って株式買取義務を定めています)。掲載の書式が「貴社が当該承認をしない場合において、貴社又は会社法140条4項に規定する指定買取人が当該株式を買い取ることを請求します」との一文を含んでいますのは、このためです。この一文を削ってはなりません。
請求の理由が抽象的である場合
会社は「理由が明らかにされていない」として応じないことがあります。会社法第433条第1項後段の要件を欠くという主張ですので、その後の仮処分命令の申立てにおいても不利に働きます。理由は、対象書類との関連性が分かる程度に具体的に記載してください。
対象書類を特定していない場合
「会計帳簿一切」という記載では、閲覧させるべき対象が定まりません。仮処分命令の申立てをする場合には、申立ての趣旨において対象を特定する必要がありますので、通知の段階から書類の名称と対象期間を列挙しておくことが有効です。
持株要件を満たさないまま請求した場合
会計帳簿の部分については、会社は応じる義務を負いません(会社法第433条第1項)。もっとも、同じ書面で計算書類等の閲覧等(会社法第442条第3項)も併せて請求しておけば、そちらは持株要件を要しませんので、少なくとも計算書類等の開示を求めることができます。掲載の書式が「計算書類閲覧謄写請求権及び帳簿等閲覧謄写請求権(会社法442条3項、433条1項)」と二つの条文を併記していますのは、このためです。
共同請求の要件を欠いた場合
株式取得者からの譲渡等承認請求は、法務省令で定める場合を除き、株主名簿上の株主又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければなりません(会社法第137条第2項)。単独で差し出しますと、承認請求の部分が不適法として扱われるおそれがあります。
回答期限を書き込まなかった場合
会計帳簿の閲覧謄写については、法律に「何日以内に開示せよ」という定めがありません。したがって、書面の中で相当な期間を切っておくことが必要です。掲載の書式が「本書受領後〇〇週間以内に、具体的な開示方法について当職に書面にてご回答頂く」という構成を採っていますのは、この期間の徒過をもって、会社が正当な理由なく応じないという事実を作るためです。
配達証明付内容証明郵便によるべきか
配達証明付内容証明郵便によるべきです。理由は三つあります。
- 2週間の起算点を証明するため。会社が請求の日から2週間以内に諾否の通知をしなかったときは、承認をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。掲載の仮処分申立書の書式が「株式譲渡承認請求をしたところ、2週間が経過し、みなし承認されたことにより、株式を取得したものであり、帳簿閲覧権を有する株主である」と記載していますとおり、この事実は帳簿閲覧の当事者適格を基礎づける前提にもなります。
- 請求の理由の内容を証明するため。会社から「理由が示されていなかった」と主張された場合に、差出しの謄本によって反証することができます。
- 会社が応じなかったという事実を残すため。仮処分命令の申立てにおける保全の必要性の疎明に用います。
掲載の書式のように「同封の株式譲渡承認請求書のとおり」と記載して別の書面を同封する場合には、注意が必要です。内容証明郵便には他の書類を同封することができません。実務では、通知書の本体を配達証明付内容証明郵便で発送し、株式譲渡承認請求書その他の添付書類を同日付の書留郵便で別送いたします。通知書の本文に「株式譲渡承認請求書は同日付で別送いたします」と明記しておけば、後日の紛れを防ぐことができます。
会社の典型的な対応と、それへの備え
- 承認請求にだけ答え、帳簿には触れない。最も多い対応です。書面で再度、会計帳簿の部分について明確な回答を求め、応じない場合には仮処分命令の申立てに進みます。
- 決算書だけを開示して済ませようとする。計算書類等(会社法第442条第3項)と会計帳簿(同法第433条第1項)とは別のものです。総勘定元帳、仕訳帳、伝票、勘定科目内訳書は会計帳簿又はこれに関する資料に当たりますので、改めて特定して求めてください。
- 「目的が不当である」と主張する。会社法第433条第2項第1号の主張です。非上場株式の価格を検討するという目的は、株主の権利の確保又は行使に関する調査そのものですので、その旨を書面で明確にしておきます。
- 「競業関係にある」と主張する。同項第3号の主張です。客観的な競争関係の有無が問題となりますので、譲受人の事業内容を事前に確認しておく必要があります。
- 閲覧はさせるが謄写はさせないと言う。会社法第433条第1項第1号は「当該書面の閲覧又は謄写の請求」と定めており、謄写も請求の対象です。書式のように「写真撮影及び電磁的記録によって保存する方法を含む」と明示しておくことが有効です。
- 本店以外の場所を指定し、時間を限る。請求できるのは会社の営業時間内です(会社法第433条第1項本文)。日程と場所は書面で確定させ、当日の対応も記録に残してください。
- 株主であること自体を争う。「株主名簿に記載がない」という主張です。この場合には、株主名簿の閲覧謄写請求(会社法第125条)及び株主名簿記載事項の記載の請求(会社法第133条)から始める必要があります。
期限 起算点と満了日
期間を定めるのに日又は週をもってしたときは、期間の初日は算入しません(民法第140条本文)。以下、通知書が令和8年9月1日に会社へ到達した場合を例といたします。
- 会社による諾否の通知 請求の日から2週間(会社法第145条第1号) 起算日は令和8年9月2日、満了日は令和8年9月15日です。同日までに通知がなければ、承認をしたものとみなされます。
- 会社による買取りの通知 承認をしない旨の通知の日から40日(会社法第145条第2号)。指定買取人による通知は同じ日から10日(同号括弧書き)。
- 株券の供託 供託を証する書面の交付を受けた日から1週間(会社法第141条第3項、第142条第3項)。徒過すれば売買契約を解除されるおそれがあります(同法第141条第4項、第142条第4項)。
- 売買価格の決定の申立て 買取りの通知があった日から20日(会社法第144条第2項、第7項)。徒過すれば1株当たり純資産額を基準とする額で確定いたします(同条第5項)。
- 会計帳簿の閲覧謄写 法律上の期限はありません。書面で相当な期間(実務上は1週間から2週間)を定め、その徒過をもって不当な拒絶があったものとして次の手続に進みます。
期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間はその翌日に満了いたします(民法第142条)。
二つの請求を一通で行うことの実益は、まさにこの期限の重なりにあります。承認請求の2週間が満了する頃には、帳簿の開示についても回答の期限が到来しています。会社が双方に沈黙したのであれば、承認はみなされ、帳簿については不当な拒絶があったことになります。次の一手として、会計帳簿閲覧謄写請求権を被保全権利とする仮処分命令の申立てへ進むことができます。
よくあるご質問
二つの請求を一通で行うと、会社を刺激しすぎませんか
その面はあります。会社は顧問の弁護士に相談し、拒絶事由を探し始めます。もっとも、承認請求だけであっても、会社が少数株主の整理を意識している以上、遅かれ早かれ同じ構えになります。急ぐ事情がある場合、持株比率が100分の3を大きく超えている場合、既に会社との関係が悪化している場合には、一通で行う実益が上回ることが多くあります。逆に、まだ関係が保たれており、まずは穏当に情報を得たいという場合には、計算書類等の閲覧の請求(会社法第442条第3項)から入る方法もあります。
持株比率が100分の3に届きません
会計帳簿の閲覧謄写請求はできません(会社法第433条第1項)。ただし、計算書類等の閲覧等の請求には持株要件がありませんので(会社法第442条第3項)、こちらから始めてください。また、発行済株式から自己株式が除かれる点、及び議決権の割合と株式数の割合のいずれかを満たせば足りる点を、改めて計算し直してみてください。ご家族が別に株式をお持ちの場合には、共同して請求することも考えられます。
会社が「理由を証明しろ」と言ってきました
請求の理由は具体的に記載する必要がありますが、その理由を基礎づける事実が客観的に存在することまでを株主が立証する必要はないと判示されています(最高裁判所平成16年7月1日判決・民集58巻5号1214頁)。会社の求めには応じる必要がありません。
どの範囲の書類を求めればよろしいですか
会計帳簿又はこれに関する資料です(会社法第433条第1項第1号、第2号)。実務では、総勘定元帳、仕訳帳、伝票、現金出納帳、勘定科目内訳書、固定資産台帳、確定申告書及びその添付書類、契約書、議事録等を、対象期間を明示して列挙いたします。無限定に広げますと会社の業務の遂行を妨げる目的(同条第2項第2号)であると反論されますので、請求の理由との関連性を説明できる範囲にとどめてください。
会社が応じない場合は、どうなりますか
会計帳簿閲覧謄写請求権を被保全権利として、仮の地位を定める仮処分命令の申立て(民事保全法第23条第2項)を検討いたします。手続の詳細及び申立書の書式は、別のページに掲げています。
会計帳簿は本当に存在するのでしょうか
株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければなりません(会社法第432条第1項)。したがって、会計帳簿が存在することは推認されます。「作っていない」という会社の説明は、それ自体が法令違反の自白です。
おわりに
非上場株式の価格をめぐる争いは、突き詰めれば数字の争いです。そして数字は、会社の中にしかありません。会社が数字を出さないまま提示してくる金額に、根拠があるかどうかを確かめる手段が、会計帳簿の閲覧謄写請求です。
株式譲渡承認請求と会計帳簿閲覧請求とを一通で行うことは、その手段を、価格の手続と同じ速さで走らせるための工夫です。会社に警戒されるという不利益はありますが、20日という短い期限を前にして手元に何もないという事態を避けるためには、多くの場合、その不利益を上回る実益があります。
弁護士法人M&A総合法律事務所は、非上場株式の少数株主の皆様の側に立って、譲渡の承認の請求、会計帳簿の閲覧謄写請求、仮処分命令の申立て及び売買価格の決定の申立てを取り扱ってまいりました。お手元の資料と、これまでの経緯をお聞かせください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
株式譲渡承認請求及び会計帳簿閲覧請求に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
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出典
- 会社法(第125条、第133条、第136条、第137条、第138条、第139条、第140条、第141条、第142条、第143条、第144条、第145条、第432条第1項、第433条、第442条)
- 民法(第140条、第142条)
- 民事保全法(第23条第2項)
- 最高裁判所平成16年7月1日判決(民集58巻5号1214頁 会計帳簿の閲覧謄写請求における請求の理由と立証の要否)
- 最高裁判所平成21年1月15日決定(民集63巻1号1頁 会社法第433条第2項第3号の拒絶事由と主観的意図の要否)
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)
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