会計帳簿の閲覧謄写請求が棄却されないために株主が示すべき理由とは―東京地方裁判所令和4年11月9日判決
本記事が扱う場面と、扱わない場面
株主が会社に会計帳簿等の閲覧謄写を請求し、会社が応じなかったため訴訟を提起したところ、請求がいずれも棄却された東京地方裁判所令和4年11月9日判決を、株主の側から解説します。裁判所は、勘定科目内訳明細書は会計帳簿にもこれに関する資料にも当たらないとし、総勘定元帳については請求の理由が具体的に明らかにされていないとしました。本記事では、裁判所がどの点を足りないとしたのかを、請求した書類ごとに整理し、株主が請求の理由をどのように示すべきかを考えます。会計帳簿の閲覧謄写請求の手続の全体は、会計帳簿閲覧謄写請求を弁護士に依頼するとき 拒絶された場合の仮処分と、請求書の書き方をご覧ください。
会社の経営に疑問を持った少数株主が会計帳簿を見ようとしても、会社から「請求の理由が具体的でない」「その書類は会計帳簿ではない」と言われ、閲覧謄写を拒まれることがあります。会社法第433条第1項は、株主が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写を請求するときは、請求の理由を明らかにしなければならないと定めています。
本件は、取締役に対する7,800万円の退職慰労金の支払に反対した株主が、その支払が違法又は不当であることを確かめるために会計帳簿等の閲覧謄写を求めた事件です。本件は、株式の価格を決める事件(反対株主の株式買取請求や、譲渡承認拒否に伴う売買価格の決定)ではなく、会社法第433条に基づく会計帳簿等の閲覧謄写請求の訴訟です。
裁判所は、勘定科目内訳明細書は閲覧謄写の対象となる資料に含まれないと判断し、総勘定元帳については、請求の理由と総勘定元帳との関連性ないし必要性が理解できる程度に具体的に明らかにされていないと判断して、請求をいずれも棄却しました。本記事では、判決の事実と判断を正確にご紹介したうえで、同じ結論とならないために株主が何を示すべきかを、判決の判断と当事務所の見方とを区別してご説明します。
基本情報
| 裁判所 | 東京地方裁判所民事第8部 |
|---|---|
| 裁判日 | 令和4年11月9日(口頭弁論終結の日:令和4年9月28日) |
| 事件番号 | 令和4年(ワ)第2333号 |
| 事件名 | 会計帳簿等閲覧謄写請求事件 |
| 審級 | 第一審(判決) |
| 結論 | 請求をいずれも棄却、訴訟費用は原告(株主)の負担 |
本記事は上記判決の解説です。上訴の有無や確定を確認した旨の表示ではありません。
当事者の表記
当事者は、実名や判決中の表記を用いず、当事務所独自の表記に置き換えています。判決を引用する場合も、当事者の表記を同じように置き換えています。
- 株主A:対象会社Bの株式6,115株を保有する株主であり、発行済株式の100分の3以上の株式を有しています。合併前会社Dの代表取締役でした。訴訟の原告です。
- 対象会社B:昭和63年に広告代理業等を目的として設立された株式会社です。平成30年11月1日に合併前会社Dを吸収合併して商号を変更し、取締役会及び監査役(会計監査限定)を設置しました。発行済株式は3万3,771株です。訴訟の被告です。
- 取締役C:令和3年10月31日をもって対象会社Bの取締役を退任し、退職慰労金の支払を受けた取締役です。
- 合併前会社D:平成30年11月1日に対象会社Bに吸収合併された会社です。
事案の概要
対象会社Bの臨時株主総会で、取締役Cに総額1億円を上限として退職慰労金を支払う議案が可決されました。株主Aは、会社の利益がいずれもマイナスであるのに1億円を上限とする退職慰労金を支払うことは会社に対する背任行為であるとして反対し、その後、代理人弁護士を通じて会計帳簿等の閲覧謄写を請求しました。
対象会社Bは、計算書類及びその附属明細書は送付しましたが、会計帳簿は送付せず、株主Aが求めた勘定科目内訳明細書等も会計帳簿に含まれないとして応じませんでした。対象会社Bは取締役Cに退職慰労金として7,800万円を支払い、株主Aは、総勘定元帳と勘定科目内訳明細書の閲覧謄写を求めて訴訟を提起しました。
事案の経緯(時系列)
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 昭和63年 | 対象会社Bが広告代理業等を目的として設立されました。 |
| 平成30年11月1日 | 対象会社Bが合併前会社Dを吸収合併し、商号を変更しました。株主Aは合併前会社Dの代表取締役でした。 |
| 令和3年9月22日 | 対象会社Bの臨時株主総会で、取締役Cに総額1億円を上限として退職慰労金を支払う議案が可決されました。株主Aは総会に出席して反対しました。 |
| 令和3年10月19日 | 株主Aが、代理人弁護士を通じて、平成30年11月1日以降の損益及び資産に関する会計帳簿及びこれに関する資料の閲覧謄写を請求しました。 |
| 令和3年10月19日の請求の後、提訴まで | 対象会社Bが「違反不当」の具体的な内容と、閲覧目的と対象の帳簿等との関連性を明らかにするよう求めました。株主A側は、退職慰労金の支払が違法不当であることを会計書類の閲覧謄写によって証明するためであり、会社法第423条及び第429条の責任追及も検討している旨を回答しました。対象会社Bは32期及び33期の計算書類及びその附属明細書を送付しましたが、会計帳簿は送付しませんでした。株主A側が勘定科目内訳明細書等の開示を求めたのに対し、対象会社Bは会計帳簿に含まれないとして応じませんでした。 |
| 令和3年10月31日 | 取締役Cが対象会社Bの取締役を退任しました。 |
| 令和3年12月28日まで | 対象会社Bが取締役Cに退職慰労金として7,800万円を支払いました。 |
| 令和4年2月1日 | 株主Aが本件訴訟を提起しました。 |
| 令和4年9月28日 | 口頭弁論が終結しました。 |
| 令和4年11月9日 | 東京地方裁判所が請求をいずれも棄却する判決を言い渡しました。 |
株主Aが総会で反対した理由
株主Aが反対した理由は、対象会社Bの営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益がいずれもマイナスであるという資産状況・経営状態から見て、1億円を上限とする退職金の支払は「もってのほか」であり、会社に対する背任行為であるというものでした。
訴訟の前に会社が開示した資料と、開示しなかった資料
対象会社Bが送付したのは、32期及び33期の計算書類及びその附属明細書(貸借対照表、損益計算書、販売費・一般管理費内訳書)です。会計帳簿は送付していません。株主A側はこれでは足りないとして、各年度の勘定科目内訳明細書、取締役Cの役員報酬が記載されたもの、退職慰労金規程、総会の議事録、法人税の申告書等の開示を求めましたが、対象会社Bは、これらはいずれも会社法に定める会計帳簿に含まれないとして応じませんでした。
請求の内容
株主Aは、会社法第433条第1項に基づき、対象会社Bの営業時間内いつでも、次の資料(電磁的記録をもって作成されている場合には電磁的記録を含みます)を閲覧謄写させるよう求めました。
- 32期から34期までの各会計年度の総勘定元帳
- 35期の中間決算の総勘定元帳
- 32期から34期までの各会計年度の決算書類の各勘定科目の内訳明細書
- 35期の中間決算の各勘定科目の内訳明細書
訴訟の前に開示を求めていた退職慰労金規程、総会の議事録、法人税の申告書等は、訴訟で閲覧謄写を求めた対象には含まれていません。
争点
- 争点1:勘定科目内訳明細書が「会計帳簿又はこれに関する資料」(会社法第433条第1項)に含まれるか
- 争点2:株主Aが、総勘定元帳の閲覧謄写請求において「請求の理由を明らかにして」(会社法第433条第1項後段)請求したといえるか
- 争点3:会社法第433条第2項第2号の拒絶事由(業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的)があるか
対象会社Bは、争点3について、請求は探索的・証拠漁り的なものであり、業務の遂行を妨げる目的で行われたものであると主張し、株主Aはこれを争っていました。
裁判所の判断
「会計帳簿」と「これに関する資料」の範囲
裁判所は、会社計算規則第59条第3項を参照し、会計帳簿とは計算書類及びその附属明細書の作成の基礎となる帳簿、すなわち仕訳帳(伝票を仕訳帳に代用しているときは伝票を含みます)、総勘定元帳及び各種の補助簿をいうとしました。また、「これに関する資料」とは、会計帳簿を作成する材料となった資料その他会計帳簿を実質的に補充する資料をいうとしました。
勘定科目内訳明細書は対象に含まれないとされたこと
裁判所は、勘定科目内訳明細書は、内国法人が法人税法及び法人税法施行規則に基づき法人税の確定申告をする際に申告書に添付することが義務付けられている書類であると指摘しました(法人税法第74条第3項、法人税法施行規則第35条第3号)。そのうえで、勘定科目内訳明細書は「計算書類及びその附属明細書の作成の基礎となる帳簿及びこれを実質的に補充する資料ではなく、むしろ、計算書類及び会計帳簿を材料として作成されるもの」であるから、会計帳簿にもこれに関する資料にも含まれないと判断しました。
株主Aは、勘定科目内訳明細書は請求の理由との関係で必要最小限の、簡易に整理された書類に限定したものであり、会社の負担も少ないと主張しました。裁判所は、このような実質的な観点から範囲を解釈することは、条文の文言を離れるうえ、基準が不明確となり、請求を受けた会社が応ずべき範囲を判断することが困難となって過度の負担をかけるとして、この主張を採用しませんでした。
請求の理由に求められる具体性
裁判所は、最高裁判所平成16年7月1日第一小法廷判決を参照し、請求の理由は具体的でなければならないとしました。その趣旨は、会社が閲覧謄写に応ずる義務の存否と閲覧させるべき会計帳簿等の範囲を判断できるようにするとともに、探索的・証拠漁り的な閲覧等を防止し、株主の権利と会社の経営の保護とのバランスをとることにあると述べています。
そのうえで、株主が特定の会計帳簿等を対象として請求する場合には、「請求理由としての特定の行為が違法又は不当である旨の主張は、対象とされる会計帳簿等との関係で、関連性ないし必要性が理解できる程度に具体的に明らかにされる必要がある」と判示しました。
総勘定元帳について、理由の具体性が足りないとされたこと
裁判所は、株主Aの請求の理由を、次の3つに整理しました。
- 退職慰労金の支払が会社の財務状況を著しく圧迫し、今後の健全な会社経営を困難にするものであること
- それにもかかわらず取締役がそのような判断をしたことは任務懈怠に当たる可能性があること
- その判断のためには会社の財務状況・経営状況を明らかにし、取締役Cの貢献度を調査する必要があり、そのために総勘定元帳を確認する必要があること
そのうえで、1については、既に株主Aの閲覧に供されている32期から34期までの計算書類等により判断することが可能であり、そのために会計帳簿等の閲覧謄写が必要とは考え難いとしました。
3については、「総勘定元帳の記載を確認したところで、取締役の何らかの貢献度が明らかになるとは考え難い」と述べました。そして、株主Aは、取締役Cの貢献度がどのようなものであった場合に退職慰労金の支払を決定した取締役の判断が任務懈怠となるのか、総勘定元帳のどの部分を確認すれば貢献度をどのように判断できるのかについて、具体的に主張していないと指摘しました。
これらにより、裁判所は、請求の理由が総勘定元帳の全部ないし一部との関連性ないし必要性が理解できる程度に具体的に明らかにされたとはいえず、総勘定元帳の閲覧謄写請求は「請求の理由を明らかにして」したものとは認められないと判断しました。
請求した書類ごとの判断
| 請求した書類 | 裁判所の判断 | 退けられた理由 |
|---|---|---|
| 32期から34期までの総勘定元帳、35期の中間決算の総勘定元帳 | 請求の理由を明らかにした請求とは認められない | 財務状況の圧迫は既に閲覧に供されている計算書類等で判断できること、総勘定元帳のどの部分から取締役Cの貢献度をどのように判断できるのか、どのような貢献度であれば任務懈怠となるのかが具体的に主張されていないこと |
| 32期から34期までの勘定科目内訳明細書、35期の中間決算の勘定科目内訳明細書 | 「会計帳簿」にも「これに関する資料」にも含まれない | 法人税の確定申告書の添付書類であり、計算書類及び会計帳簿を材料として作成されるものであること |
結論
裁判所は、争点3(会社法第433条第2項第2号の拒絶事由の存否)について検討するまでもなく、株主Aの請求は全部理由がないとして、請求をいずれも棄却し、訴訟費用を株主Aの負担としました。
実務上の着眼点―請求を棄却されないために株主が示すべきこと
以下は、本判決の判断を踏まえた当事務所の見方です。本判決が直接判断した事項ではありません。
1 疑っている行為と、その行為がなぜ違法又は不当といえるのかを具体的に書きます
本判決では、株主Aが、取締役Cの貢献度がどのようなものであった場合に退職慰労金の支払の判断が任務懈怠となるのかを具体的に主張していないことが指摘されました。「違法不当であることを証明するため」という書き方では、どの事実を確かめれば違法又は不当といえるのかが会社にも裁判所にも分かりません。株主としては、問題とする取締役の行為を特定し、どのような事実があればその行為が違法又は不当となるのかを、あらかじめ示しておくことが重要です。
2 理由と、請求する書類の一つ一つとを結び付けます
本判決は、総勘定元帳のどの部分を確認すれば何が判断できるのかが示されていないことを問題としました。請求する書類ごとに、その書類のどの記載(どの勘定科目、どの期間の取引)を確認すれば、疑っている事実の有無が分かるのかを書くことが求められます。理由と書類とが結び付いていない請求は、本判決のように、必要性が理解できないとされるおそれがあります。
3 既に開示された計算書類では分からない事項を特定します
本判決では、退職慰労金の支払が財務状況を圧迫するかどうかは、既に株主Aの閲覧に供されている計算書類等で判断できるとされました。会社が計算書類や附属明細書を開示した後に会計帳簿を求める場合には、開示された資料のどこまでが分かり、何が分からないのか、なぜ会計帳簿を見なければ分からないのかを示す必要があります。
4 勘定科目内訳明細書を求める場合の注意
本判決は、勘定科目内訳明細書は会計帳簿にもこれに関する資料にも含まれないと判断しました。株主Aは、必要最小限の簡易に整理された書類に限定したものであり会社の負担も少ないと主張しましたが、採用されていません。本判決の考え方によれば、会社に負担の少ない書類に絞ったことは、対象に含まれる理由にはなりません。勘定科目の内訳を確かめたい場合には、計算書類の作成の基礎となる総勘定元帳や補助簿など、会計帳簿に当たる書類を、上記1から3のように理由と結び付けて請求することが考えられます。
5 会社から理由の明確化を求められた段階で、具体的に答えます
本件では、訴訟の前に、会社が「違反不当」の具体的な内容と、閲覧目的と対象の帳簿等との関連性を明らかにするよう求めていました。会社からこのような求めがあった場合には、その段階で、疑っている行為、違法又は不当といえる理由、書類ごとの必要性を具体的に回答しておくことが、後の訴訟や仮処分の手続でも重要になります。
本判決が扱っていない事項
- 会社法第433条第2項第2号の拒絶事由(業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的)があるかどうかは判断されていません。
- 総勘定元帳が会計帳簿に当たらないと判断したものではありません。総勘定元帳は判断の枠組みの中で会計帳簿の例として挙げられており、請求が退けられた理由は、請求の理由の具体性が足りないという点です。
- 取締役Cに対する退職慰労金の支払や、それを決定した取締役の判断が違法又は不当であったかどうかは判断されていません。
- 法人税の申告書、退職慰労金規程、株主総会の議事録など、訴訟の対象とされなかった資料が閲覧謄写の対象となるかどうかは判断されていません。
- 中間決算の資料が存在するかどうかについて、事実の認定はされていません。
- 本判決は一つの地方裁判所の判断です。他の事案で同じ結論となることを示すものではありません。
よくあるご質問
本判決で、株主の請求が嫌がらせ目的であると認められたのですか。
いいえ。会社は業務の遂行を妨げる目的による請求であると主張していましたが、裁判所は、請求の理由が具体的に明らかにされていないことにより請求を棄却したため、この拒絶事由については検討していません。
勘定科目内訳明細書は、どのような場合でも見ることができないのですか。
本判決は、勘定科目内訳明細書は会計帳簿にもこれに関する資料にも含まれないと判断しました。ただし、これは本件の地方裁判所の判断であり、他の事案で同じ判断がされることを示すものではありません。本判決の判断を前提とすれば、勘定科目の内訳を確かめるために、会計帳簿に当たる総勘定元帳や補助簿を、理由と結び付けて請求することが考えられます。
会社が計算書類を開示していたことは、判断に影響しましたか。
影響しています。裁判所は、退職慰労金の支払が会社の財務状況を圧迫するかどうかは、既に株主の閲覧に供されている計算書類等により判断することが可能であり、そのために会計帳簿等の閲覧謄写が必要とは考え難いとしました。計算書類が開示されている場合には、それでは分からない事項を示す必要があります。
請求の理由は、どこまで詳しく書けばよいのですか。
本判決は、請求の理由としての特定の行為が違法又は不当である旨の主張は、対象とされる会計帳簿等との関係で、関連性ないし必要性が理解できる程度に具体的に明らかにされる必要があるとしました。疑っている行為、それが違法又は不当といえる理由、その確認のために書類のどの部分が必要かを、書類ごとに示すことが目安になります。
根拠条文
- 会社法第433条第1項(会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写請求。請求の理由を明らかにしてする必要があります)
- 会社法第433条第2項第2号(拒絶事由)
- 会社計算規則第59条第3項
- 法人税法第74条第3項、法人税法施行規則第35条第3号(確定申告書の添付書類)
- 会社法第423条第1項、第429条第1項(株主Aが責任追及を検討しているとした規定)
このページの位置付けと、関連するページ
本ページは、株主の会計帳簿等の閲覧謄写請求を棄却した東京地方裁判所の判決について、請求した書類ごとに退けられた理由を整理し、株主が請求の理由をどのように示すべきかを考えるページです。会計帳簿の閲覧謄写請求の手続、請求書の書き方、株式の売却交渉との関係は、次のページで扱います。
具体的なご相談をお考えの皆様へ
会社が会計帳簿を見せない場合や、閲覧謄写請求の理由の書き方でお困りの場合は、次のページをご覧ください。




