会計帳簿閲覧謄写請求を弁護士に依頼するとき 拒絶された場合の仮処分と、請求書の書き方

非上場会社の少数株主の方から、「会社が決算の中身をまったく見せてくれない」という御相談をいただきます。配当は支払われず、役員報酬がいくら支払われているのかも分からず、株式を買い取りたいと言われた金額の根拠も示されない、という状態です。本ページは、そのような立場に置かれた少数株主の方が、会社法第433条第1項に基づく会計帳簿の閲覧謄写の請求を弁護士に依頼する場面に限り、請求書をどのように書くのか、そして会社に拒絶された場合に仮処分と訴訟をどう使い分けるのかを整理したものです。

会計帳簿の閲覧謄写の請求は、少数株主の方にとって、単に「中身を知る」ための手続ではありません。会社が示す買取価格が適正かどうかを検証し、役員報酬や関係者との取引によって利益が社外へ流れていないかを確かめ、その先の交渉や裁判所への申立てを組み立てるための土台です。

そして、この請求には注意すべき点があります。請求書の書き方を誤ると、会社に拒絶する口実を与えてしまいます。会社法第433条第1項は「請求の理由を明らかにして」しなければならないと定めており、この理由の記載が争いの中心になります。逆に、正しく書かれた請求書は、会社の側に法律上の拒絶事由の主張を強いることになります。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

会社の情報を得る手続と、価格を争う手続とは、別のものとして組み立てる必要がありますので、次のとおり整理しております。

目次
  1. なぜ会計帳簿を見なければ、価格の交渉ができないのか
    1. 決算書だけでは、会社が示す金額を検証できません
    2. 計算書類の閲覧と会計帳簿の閲覧は、別の手続です
    3. 帳簿を見ることが、交渉そのものを動かします
  2. 請求ができるのは誰で、何を見ることができるのか
    1. 議決権又は発行済株式の100分の3以上が必要です
    2. 複数の株主が共同して請求することができます
    3. 「会計帳簿又はこれに関する資料」の範囲
    4. 親会社の株主が子会社の帳簿を見る場合には裁判所の許可が必要です
  3. 請求書にはどのように書けばよいのか
    1. 「請求の理由を明らかにして」しなければなりません
    2. 理由は、目的と必要な書類とを結び付けて書きます
    3. 対象となる書類は、具体的に列挙します
    4. 日時、場所、方法まで指定します
    5. 配達証明付きの内容証明郵便で送ります
  4. 会社はどの理由で拒絶することができるのか
    1. 拒絶できるのは、法律が定めた5つの場合だけです
    2. 競業関係を理由とする拒絶には、最高裁の判断があります
    3. 拒絶の理由は、会社の側が主張しなければなりません
  5. なぜ会社は、そこまでして帳簿を見せたがらないのか
    1. 役員報酬と関係者との取引が明らかになるからです
    2. 買取価格の交渉で不利になるからです
    3. ほかの少数株主にも波及するからです
  6. 拒絶された場合に、仮処分と訴訟をどう使い分けるのか
    1. 本案は、会計帳簿の閲覧謄写請求の訴えです
    2. 間に合わないときは、仮の地位を定める仮処分を用います
    3. 保全の必要性は、他の手続の期限と結び付けて疎明します
    4. 担保を立てる必要があります
    5. 正当な理由のない拒絶には、過料の制裁があります
  7. 弁護士に依頼した場合、どのように進むのか
    1. 最初に確認するのは、持株比率と目的です
    2. 請求書の送付から回答までの日程
    3. 得られた資料をどう使うか
    4. 費用の考え方
  8. いま確認していただきたいこと
  9. よくあるご質問
    1. 持株が100分の3に届きません。何もできませんか。
    2. 会社から「目的が不当である」と言われました。どうすればよいですか。
    3. 閲覧の場に弁護士が同行できますか。
    4. 仮処分だけで、帳簿を見ることはできますか。
  10. おわりに
  11. 出典

なぜ会計帳簿を見なければ、価格の交渉ができないのか

決算書だけでは、会社が示す金額を検証できません

会社が買取価格を提示する際、その根拠として決算書の純資産額を挙げることがあります。しかし、貸借対照表の数字だけでは、土地や有価証券に含み益があるか、保険積立金がいくらあるか、役員に対する貸付けがどれだけあるかは分かりません。総勘定元帳、勘定科目内訳明細書、固定資産台帳を見て初めて、示された金額が実態に合っているかを判断できます。

計算書類の閲覧と会計帳簿の閲覧は、別の手続です

株主は、営業時間内であればいつでも、計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。こちらは持株数の要件がありません。もっとも、見ることができるのは貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、事業報告及びこれらの附属明細書にとどまります。取引の一つ一つを追うことはできません。

帳簿を見ることが、交渉そのものを動かします

会社の側は、帳簿を見られることを強く警戒します。請求書を送っただけで、それまで返答のなかった会社から連絡が来ることがあります。会計帳簿の閲覧謄写の請求は、情報を得る手段であると同時に、交渉の場に会社を引き出す手段でもあります。

請求ができるのは誰で、何を見ることができるのか

議決権又は発行済株式の100分の3以上が必要です

会計帳簿の閲覧謄写を請求できるのは、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主です(会社法第433条第1項)。定款でこれを下回る割合を定めることもできますので、定款の確認は欠かせません。

複数の株主が共同して請求することができます

単独では100分の3に届かない場合でも、同じ立場の株主が持株を合算して共同で請求すれば、要件を満たすことがあります。同族会社では、経営から外された兄弟や、相続によって株式を取得した方が複数おられることが少なくありません。共同での請求は、会社に与える圧力という点でも効果があります。

「会計帳簿又はこれに関する資料」の範囲

条文は「会計帳簿又はこれに関する資料」と定めております。総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、補助簿がこれに当たり、これらの記載の基礎となった伝票、領収書、契約書も「これに関する資料」に含まれ得ると考えられております。もっとも、どこまでが対象かは会社との間で争いになりやすい部分ですので、請求書の段階で具体的に列挙しておくことが重要です。

親会社の株主が子会社の帳簿を見る場合には裁判所の許可が必要です

親会社の株主が子会社の会計帳簿の閲覧謄写を請求する場合には、その権利を行使するため必要があるときに、裁判所の許可を得てすることとされております(会社法第433条第3項)。持株会社の形をとっている企業集団では、この手続を用いることになります。

請求書にはどのように書けばよいのか

「請求の理由を明らかにして」しなければなりません

会社法第433条第1項は、請求に際して理由を明らかにすることを求めております。「株主として会社の状況を知りたい」という程度の抽象的な記載では足りません。どのような権利を確保し、又は行使するために、どの範囲の帳簿を見る必要があるのかを、順を追って書く必要があります。

理由は、目的と必要な書類とを結び付けて書きます

たとえば、会社から株式の買取価格の提示を受けている場合には、提示された金額の当否を検討し、株式売買価格決定の申立てをするか否かを判断するために、資産の実在性と評価、役員報酬の水準、関係者との取引の有無を確認する必要がある、という筋道を書きます。目的と書類とが結び付いていれば、会社は「目的外である」という主張をしにくくなります。

対象となる書類は、具体的に列挙します

「会計帳簿一切」という書き方では、会社に「特定されていない」と反論されます。総勘定元帳、仕訳帳、勘定科目内訳明細書、固定資産台帳、役員報酬の支払明細、関係者との取引に関する契約書、といった形で、事業年度を区切って列挙します。対象期間は、直近3期から5期とすることが多くなります。

日時、場所、方法まで指定します

閲覧の日時の候補を複数示し、場所を会社の本店とし、謄写の方法として写真撮影又は複写機による複写を認めるよう求めます。ここを書かないと、会社は「日程を調整中である」と述べたまま時間を稼ぐことができます。回答の期限も明示します。令和8年9月1日に請求書が到達する場合には、令和8年9月15日までの回答を求める、という形です。

配達証明付きの内容証明郵便で送ります

請求書は、配達証明付きの内容証明郵便で送付します。どのような内容の書面を、いつ会社が受け取ったかを後から証明できるようにするためです。仮処分や訴訟に進んだ場合、この記録がそのまま疎明資料になります。

会社はどの理由で拒絶することができるのか

拒絶できるのは、法律が定めた5つの場合だけです

会社は、請求が次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができません(会社法第433条第2項)。「営業上の秘密である」「前例がない」といった理由は、法律上の拒絶事由ではありません。

拒絶事由 株主の側の備え
第1号 権利の確保又は行使に関する調査以外の目的での請求 請求書に目的と書類の結び付きを書いておく
第2号 業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的での請求 閲覧の日時と範囲を限定して申し入れる
第3号 実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事すること 請求者を誰にするかを事前に検討する
第4号 知り得た事実を利益を得て第三者に通報するための請求 第三者への提供の予定がないことを明示する
第5号 過去2年以内に同様の通報をしたことがあること 該当しない旨をあらかじめ述べておく

競業関係を理由とする拒絶には、最高裁の判断があります

最高裁判所平成21年1月15日決定は、会社法第433条第2項第3号の拒絶事由について、請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営むなどの客観的事実が認められれば足り、閲覧謄写によって知り得た情報を自己の競業に利用するなどの主観的な意図があることを要しない、と判示しております。同業の事業を営んでおられる方が請求者となる場合には、この点が最大の障害になります。誰の名で請求するかを、請求の前に検討しなければなりません。

拒絶の理由は、会社の側が主張しなければなりません

条文の構造は、原則として拒むことができない、という形になっております。したがって、拒絶事由に当たることは、会社の側が主張し、これを基礎付ける事実を示す必要があります。会社から理由を述べない拒絶の回答が来た場合には、その回答自体が、後の手続で会社に不利に働きます。

なぜ会社は、そこまでして帳簿を見せたがらないのか

役員報酬と関係者との取引が明らかになるからです

同族会社では、利益が配当ではなく役員報酬や退職慰労金の形で経営者側に配分されていることがあります。役員の親族が所有する不動産を会社が賃借している、経営者が支配する別会社と取引がある、といった事例も見られます。帳簿を見られれば、これらが数字として現れます。

買取価格の交渉で不利になるからです

会社が低い価格を提示している場合、その前提となる数字が帳簿によって覆されることを避けたいと考えます。含み益のある資産、過大な引当金、実態のない費用が明らかになれば、提示額の根拠が崩れます。会社にとって、帳簿を見せないことは、そのまま価格交渉上の利益です。

ほかの少数株主にも波及するからです

一人の株主に帳簿を見せれば、その内容はほかの株主にも伝わります。同じ立場の株主が複数いる会社では、一つの請求に応じることが、複数の請求と複数の交渉を招くことになります。会社が頑なな態度をとる背景には、この波及への懸念があります。

拒絶された場合に、仮処分と訴訟をどう使い分けるのか

本案は、会計帳簿の閲覧謄写請求の訴えです

会社が請求に応じない場合、裁判所に対し、会計帳簿の閲覧謄写を求める訴えを提起します。判決が確定すれば、会社は閲覧に応じなければなりません。もっとも、判決までには相当の期間を要しますので、これだけでは間に合わない場面があります。

間に合わないときは、仮の地位を定める仮処分を用います

仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができます(民事保全法第23条第2項)。会計帳簿の閲覧謄写を仮に認めさせる仮処分は、本案の判決を待たずに目的を達する類型のものですので、必要性の疎明は慎重に行われます。

保全の必要性は、他の手続の期限と結び付けて疎明します

保全すべき権利と保全の必要性は、疎明しなければなりません(民事保全法第13条第2項)。ここで有効なのが、他の手続に付された期限です。たとえば、令和8年9月1日に会社法第141条第1項の買取りの通知が届いている場合、株式売買価格決定の申立ての期限は令和8年9月21日です。この20日の間に帳簿を確認できなければ、価格を争う判断そのものができません。このような事情は、急迫の危険を基礎付ける具体的な事実になります。

担保を立てる必要があります

保全命令は、担保を立てさせて発することができるとされております(民事保全法第14条第1項)。裁判所が定める担保の額は事案によって異なり、供託が必要になります。仮処分を申し立てる場合には、この資金の手当ても含めて計画を立てなければなりません。また、仮の地位を定める仮処分命令は、原則として口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経る必要があります(民事保全法第23条第4項)。

正当な理由のない拒絶には、過料の制裁があります

正当な理由がないのに書類の閲覧又は謄写を拒んだ場合、100万円以下の過料に処するものとされております(会社法第976条第4号)。この点を請求書に記載しておくことで、会社の側に安易な拒絶を思いとどまらせる効果が期待できます。また、価格決定の手続や訴訟の中では、裁判所に会計帳簿の提出命令を求めることもできます(会社法第434条)。

弁護士に依頼した場合、どのように進むのか

最初に確認するのは、持株比率と目的です

御相談の当日に確認するのは、議決権又は発行済株式に占める持株の割合、定款に別段の定めがあるか、そして何のために帳簿を見るのかという目的です。この3点が定まれば、請求書の骨格はその場で決まります。株主名簿の記載事項証明書と商業登記事項証明書、定款の写しをお持ちいただけますと、話が早く進みます。

請求書の送付から回答までの日程

受任から請求書の送付までは、資料がそろっていれば数日です。回答の期限を2週間程度に設定し、期限までに回答がない場合、又は理由を示さない拒絶があった場合には、次の手続に移ります。他の手続の期限が迫っている場合には、この日程をさらに詰めます。

得られた資料をどう使うか

閲覧謄写によって得た資料は、価格の交渉、株式売買価格決定の申立て、株主総会における質問、役員の責任を追及する手続の各場面で用います。閲覧の場では、写真撮影によりできる限り広く記録を残します。その場で読み込む時間はありませんので、後から検討できる形にしておくことが肝心です。

費用の考え方

請求書の作成と送付までの段階、交渉の段階、仮処分及び訴訟の段階に分けて費用を設計します。会計帳簿の閲覧謄写それ自体は金銭を得る手続ではありませんので、その先の買取交渉と一体として、全体の費用を組み立てることが通例です。

いま確認していただきたいこと

本日のうちに、次のことを確認してください。

  • 御自身の持株比率を確認してください。議決権又は発行済株式の100分の3以上であるかどうかが出発点です。届かない場合には、共同で請求できる株主を探します。
  • 定款の写しを入手してください。100分の3を下回る割合が定められていることがあります。
  • 会社から届いた書面を日付順に並べてください。買取りの通知や価格の提示があれば、そこに期限が付いている可能性があります。
  • 誰の名で請求するかを検討してください。同業の事業を営んでおられる場合には、拒絶される可能性があります。
  • 過去に会社へ口頭で申し入れた経緯を書き出してください。拒絶の事実は、後の手続で会社の対応を示す資料になります。

よくあるご質問

持株が100分の3に届きません。何もできませんか。

会計帳簿の閲覧謄写の請求はできませんが、計算書類等の閲覧及び謄本の交付の請求は、持株数にかかわらずすることができます(会社法第442条第3項)。また、ほかの少数株主と持株を合算して共同で請求する方法もあります。まずは株主構成を確認させてください。

会社から「目的が不当である」と言われました。どうすればよいですか。

拒絶事由に当たることは、会社の側が主張し、これを基礎付ける事実を示す必要があります。会社の回答が抽象的な非難にとどまっているのであれば、その旨を指摘した上で再度の請求を行い、なお応じない場合には訴訟又は仮処分に進みます。会社の回答書は保存しておいてください。

閲覧の場に弁護士が同行できますか。

会社との協議により、代理人が同行する形をとることが一般的です。膨大な帳簿の中から必要な部分を選び出す作業には経験を要しますので、同行する意味は小さくありません。会社が同行を拒む場合には、その理由を書面で求めます。

仮処分だけで、帳簿を見ることはできますか。

仮の地位を定める仮処分によって閲覧謄写が認められれば、その時点で見ることができます。ただし、これは本案の判決を待たずに目的を達する類型のものですので、必要性が具体的に疎明されなければなりません。他の手続の期限が迫っているという事情は、有力な材料になります。

おわりに

会社が示す金額に納得できないのは、金額そのものが低いからというより、その根拠が示されないからであることが多いように思われます。根拠を確かめる手段は、法律の中に用意されております。使うかどうかを決めるのは、株主の方御自身です。

請求書の1枚で会社の態度が変わることもあれば、仮処分まで進むこともあります。いずれにしても、書き出しを誤らないことが出発点です。持株の割合とお手元の書面を教えていただければ、どの手続から始めるべきかをその場でお答えできます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

会計帳簿の閲覧謄写の請求に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

出典

  • 会社法第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求、100分の3の要件、請求の理由)
  • 会社法第433条第2項第1号から第5号まで(拒絶事由)
  • 会社法第433条第3項(親会社社員による請求と裁判所の許可)
  • 会社法第434条(会計帳簿の提出命令)
  • 会社法第442条第3項(計算書類等の閲覧及び謄本の交付の請求)
  • 会社法第141条第1項(株式会社による買取りの通知)
  • 会社法第976条第4号(閲覧等の拒絶に対する過料)
  • 民事保全法第13条第2項(保全すべき権利及び保全の必要性の疎明)
  • 民事保全法第14条第1項(担保)
  • 民事保全法第23条第2項、第4項(仮の地位を定める仮処分命令の要件及び審理)
  • 最高裁判所平成21年1月15日決定(会社法第433条第2項第3号の拒絶事由の判断)

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