弁護士法人非上場株式・少数株式に特化M&A総合法律事務所
HOME / 判例 / 株主代表訴訟の立証のための取締役会議事録等の閲覧謄写の許可―福岡地方裁判所令和7年4月10日決定

株主代表訴訟の立証のための取締役会議事録等の閲覧謄写の許可―福岡地方裁判所令和7年4月10日決定

公開 2025年4月10日更新 2025年4月10日

▶ 非上場株式・少数株主問題の裁判例の解説記事一覧

会社の取締役の責任を追及しようとする株主が、その証拠を集めるために、会社の取締役会議事録を見せてほしいと求めた場合、裁判所はどこまで許可するのでしょうか。福岡地方裁判所令和7年4月10日決定は、電力会社TWLの株式100株を保有する株主が、ほかの株主とともに提起した株主代表訴訟の立証のため、TWLの取締役会議事録、監査役会議事録及び監査等委員会議事録並びにTWLの完全子会社の取締役会議事録の閲覧及び謄写の許可を求めた事件で、申立ての一部を許可し、その余を却下した決定です。

この決定では、裁判所が、申立ての項目ごとに、①その内容が議事録に記載されていると一応認められるか、②閲覧謄写が株主の権利を行使するために必要か、③閲覧謄写が会社に著しい損害を及ぼすおそれがあるか、を順に検討しています。会社は、違法な合意の内容が議事録に残っているはずがない、株主代表訴訟で既に証拠を開示している、企業秘密や関係者のプライバシーにかかわる、将来の制度の利用に萎縮効果が生じる、などと主張しましたが、裁判所は、その一部を受け入れつつ、多くの主張を退けました。本記事では、決定の本文に基づき、許可された部分と許可されなかった部分の分かれ目を整理し、会社の内部の情報を得たい株主が知っておきたい点を解説します。

目次
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要―カルテルを理由とする課徴金と株主代表訴訟
    1. 電力会社TWLと子会社BNX、別の電力会社PGH
    2. 公正取引委員会の調査と課徴金の減免
    3. 排除措置命令と課徴金納付命令
    4. 株主11名による株主代表訴訟
    5. 4種類の議事録の閲覧謄写の許可の申立て
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 判断の前提となる法律の仕組み
    1. 取締役会議事録の閲覧謄写の請求と裁判所の許可
    2. 監査役会議事録と監査等委員会議事録
    3. 許可されない場合―会社に著しい損害を及ぼすおそれ
    4. 「一応認められる」という判断の仕方
  6. 当事者の主要な主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所の判断
    1. カルテルの合意そのものは議事録に残っているとは認められない(〈3〉C)
    2. 経営上重要な情報は取締役会で協議された蓋然性が高い(〈1〉から〈3〉A・Bまで)
    3. 申立ての表現を絞り直して認めた部分(〈4〉)
    4. 価格の推移と、説明を受けた後の協議(〈5〉A・B・D)
    5. 「カルテルに則った営業活動」を「官公庁入札での営業活動」と読み替えた部分(〈5〉C)
    6. 権利行使の必要性と、その範囲の限定(〈1〉から〈5〉まで)
    7. 特定の法令の内部統制を協議した記録は疎明がない(〈7〉)
    8. 課徴金減免制度への対応の検討は、合意の存在を立証するために必要(〈6〉)
    9. 本件調査開始日より後の記載も必要性がある
    10. 株主代表訴訟で証拠を開示していても必要性は否定されない
    11. 企業秘密・プライバシーの主張は具体性がない
    12. 萎縮効果の主張も採用されない
    13. まとめ―許可された部分と許可されなかった部分
  9. 主文及び結論
  10. 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 株主の皆様が確認しておきたいこと
  11. よくあるご質問
    1. 株式を少ししか持っていない株主でも、取締役会議事録を見せてもらえますか。
    2. どのような場合に「権利を行使するために必要」と認められますか。
    3. 会社から「そのような内容は議事録に書かれていない」と言われた場合はどうなりますか。
    4. 会社から「企業秘密が含まれる」と言われて拒まれた場合はどうなりますか。
    5. 会社が訴訟で既に証拠を出している場合でも、議事録を見る必要があるといえますか。
    6. 親会社の株主が、子会社の取締役会議事録を見ることもできますか。
    7. 非上場株式を手放したいと考えています。この手続は売却の準備に使えますか。
  12. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 福岡地方裁判所第4民事部
裁判日 令和7年4月10日
事件番号 令和6年(ヒ)第3号、令和6年(ヒ)第1号、令和6年(ヒ)第2号、令和6年(ヒ)第4号(決定の冒頭に記載された順)
裁判の形式 決定(判決ではありません)
審級 第一審(地方裁判所の決定)
事件の種類 株主による取締役会議事録、監査役会議事録及び監査等委員会議事録の閲覧謄写の許可の申立て(4件の併合審理)
結論 4種類の議事録のそれぞれについて、決定の別紙記載の部分の閲覧及び謄写を許可し、その余の申立てをいずれも却下。手続費用は各自の負担
決定本文が判断に用いた主な法令 会社法第371条第2項から第6項まで、第394条第2項、第399条の11第2項・第4項
上訴の状況 即時抗告の有無及び確定は、確認できていません

この表は、決定本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。決定本文は、4件の申立てを「基本事件」「第2事件」「第3事件」「第4事件」と呼んでいますが、各事件と4つの事件番号との対応は、決定本文には明示されていません。

当事者の表記

決定に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。決定が用いている呼称や略称も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。

  • 申立人:TWLの株式100株を保有する株主を「株主HKR」(以下「HKR」)とします。決定本文には、申立人が個人であるか法人であるかの記載はありません。
  • 参加人(基本事件から第3事件まで):自ら発電し又は調達した電気の小売供給を行う事業等を営む会社で、平成30年6月27日に監査等委員会設置会社となった会社を「電力会社TWL」(以下「TWL」)とします。
  • 参加人(第4事件):TWLの完全子会社で、TWL等から調達した電気の小売供給を行う事業等を営む会社を「電力小売子会社BNX」(以下「BNX」)とします。TWLとBNXを併せて「TWLら」ということがあります。
  • TWLとは別の供給区域で同じく電気の小売供給を行う事業等を営み、公正取引委員会に違反行為を申告した会社を「電力会社PGH」(以下「PGH」)とします。

決定本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。数字や記号(〈1〉、Aなど)は決定本文の表記のまま引用しています。公正取引委員会は、決定本文の略称を用いず、正式な名称で記載しています。

事案の概要―カルテルを理由とする課徴金と株主代表訴訟

電力会社TWLと子会社BNX、別の電力会社PGH

決定本文の前提事実によれば、TWLとPGHは、いずれも、自ら発電し又は調達した電気の小売供給を行う事業等を営む会社です。BNXは、TWLの完全子会社で、TWL等から調達した電気の小売供給を行う事業等を営んでいます。TWLは、平成30年6月27日、監査等委員会設置会社となりました。

HKRは、TWLの株式100株を保有する株主です。

公正取引委員会の調査と課徴金の減免

PGHは、令和2年10月29日、公正取引委員会に対し、TWLらとカルテルを実施した旨の違反行為の申告をしました。

TWLらは、令和3年7月13日、公正取引委員会の立入検査を受け(決定はこの日を「本件調査開始日」と呼んでいます)、その後20日以内に課徴金減免申請を行いました。TWLらは、この申請による課徴金の減免率及び減算率として、調査開始日以後の減免申請に対するものとしては最大の割合である合計30%の決定を受けました。

排除措置命令と課徴金納付命令

TWLらは、令和5年3月30日、公正取引委員会から排除措置命令を受け、TWLは、同日、27億6,223万円の課徴金納付命令を受けました。これらの命令では、次の独占禁止法違反行為が認定されました(決定本文はこれを前提事実として記載しています)。

  • TWLとPGHは、平成30年10月12日までに、それぞれ、相手方の供給区域における官公庁入札等で安値による電気料金の提示を制限することを合意した(決定のいう「本件カルテル合意」)。
  • BNXは、同月31日までに、TWLから合意の内容を伝達されて、本件カルテル合意に参加した。
  • PGHは、官公庁入札等で電気料金を提示する際に基準となる下限値を引き上げたうえで、TWLに対し、両社の供給区域でPGHが提示する電気料金の水準を伝え、TWLはこれをBNXに伝えた。TWLらは、PGHが提示した電気料金の水準を踏まえ、両社の供給区域の官公庁入札等でTWLらが提示する電気料金を引き上げた。
  • これにより、両社の供給区域の官公庁等に対する小売供給を行う電気の取引分野における競争を実質的に制限した。

なお、本件の手続では、TWLらは、公正取引委員会の認定した本件カルテル合意は存在しないと主張しています。本決定は、カルテルの存否そのものを判断したものではありません。

株主11名による株主代表訴訟

HKRを含むTWLの株主11名は、令和5年10月12日頃、TWLの取締役らを被告として、課徴金相当額と社内調査等費用1億円の合計28億6,223万円等をTWLに支払うよう求める株主代表訴訟を提起しました(決定のいう「本件株主代表訴訟」)。TWLは、この訴訟に補助参加しました。

本件株主代表訴訟で主張された請求原因の概要は、TWLらとPGHが本件カルテル合意をして実施したこと、TWLがそのために課徴金の納付を命じられ社内調査等を行う必要が生じたこと、そしてTWLの取締役らに次の任務懈怠行為があったことです。

  • 故意又は過失によりカルテルに関与し、又はこれを黙認した。
  • カルテルを防止するための内部統制システムを構築する義務があるのに、これを怠った。
  • 課徴金減免制度を本件調査開始日以前の早期に利用すべきであったのに、これを怠った。

4種類の議事録の閲覧謄写の許可の申立て

HKRは、本件株主代表訴訟の立証のため、TWLの取締役会議事録(基本事件)、TWLの監査役会議事録(第2事件)、TWLの監査等委員会議事録(第3事件)及びBNXの取締役会議事録(第4事件)のうち、申立ての趣旨に記載した各部分について、閲覧及び謄写の許可を求めました。決定は、これらを併せて「本件各議事録」と呼んでいます。

申立ての趣旨は、各事件の別紙に〈1〉から〈7〉までの番号で記載されています(事件によっては該当する番号がないものもあります)。別紙そのものは、当事務所が確認できた決定本文には含まれていません。そのため、以下の各項目の内容は、決定の判断部分の記載から読み取れる範囲で当事務所が要約したものです。

申立ての趣旨 対象とする議事録の記載(決定の判断部分から読み取れる範囲)
〈1〉〈2〉 PGHとTWLらが互いに相手方の供給区域に進出するに際して、相互に進出の方針を事前に伝達したことに関する部分
〈3〉A・B PGHがTWLらに対し、電力小売価格の低下についての認識や、PGHの電力小売価格に関する方針について発言したことに関する部分
〈3〉C 平成30年8月から同年10月までの間に、PGHがTWLに説明した電力小売価格に関する一定の営業方針を採る理由に関する部分
〈4〉 PGHからのカルテルの勧誘に対するTWLらの各取締役会における検討状況と、それを最終的に応諾することとしたTWLらの営業方針に関する部分
〈5〉A・B TWLとPGHの各供給区域における官公庁に対する電力小売価格の推移に関する部分
〈5〉C カルテル行為を実施することとした営業方針に則ったTWLらの各供給区域における営業活動に関する部分
〈5〉D PGHから〈3〉A・Bの説明を受けた後の、PGHの営業活動に関して協議・報告された内容に関する部分
〈6〉 課徴金減免制度への対応を行うに当たってTWLの取締役会等で検討した内容に関する部分(決定は、TWLの取締役会議事録及び監査等委員会議事録について検討しています)
〈7〉 独占禁止法遵守のための内部統制システムについて協議又は報告したことに関する部分

事案の経緯の時系列

日付 出来事(決定本文の前提事実及び判断部分の記載)
平成29年から平成30年にかけて PGHとTWLらが、互いに相手方の供給区域に進出するに際して、相互に進出の方針を事前に伝達し、その中でPGHが電力小売価格の低下の認識や価格方針について発言(決定が証拠により一応認めた事実)
平成30年6月27日 TWLが監査等委員会設置会社となる
平成30年8月から10月まで PGHがTWLに対し、PGHの供給区域外では入札価格を上げていく方針であるなどと伝達(決定が証拠により一応認めた事実)
平成30年10月12日まで TWLとPGHが本件カルテル合意をした(公正取引委員会の命令が認定した事実)
平成30年10月31日まで BNXが本件カルテル合意に参加した(同上)
令和2年10月29日 PGHが公正取引委員会に違反行為を申告
令和3年7月13日 TWLらが公正取引委員会の立入検査を受ける(本件調査開始日)。その後20日以内に課徴金減免申請
令和5年3月30日 TWLらに排除措置命令。TWLに27億6,223万円の課徴金納付命令
令和5年10月12日頃 HKRを含む株主11名が、TWLの取締役らに対し、合計28億6,223万円等の支払を求める株主代表訴訟を提起。TWLが補助参加
令和6年(事件番号の年) HKRが4種類の議事録の閲覧謄写の許可を申立て(申立ての日は決定本文に記載がありません)
令和7年4月10日 福岡地方裁判所が、一部を許可し、その余を却下する決定

判断の前提となる法律の仕組み

この節は、決定の理解のために当事務所が一般的な仕組みを説明するものです。決定本文が、以下の説明のすべてを述べているわけではありません。

取締役会議事録の閲覧謄写の請求と裁判所の許可

取締役会設置会社の株主は、その権利を行使するため必要があるときは、取締役会議事録の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第371条第2項)。ただし、監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社では、株主は、会社に直接請求するのではなく、裁判所の許可を得て閲覧又は謄写を請求することになります(同条第3項)。また、親会社の株主等も、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、子会社の取締役会議事録の閲覧又は謄写を請求することができます(同条第5項)。

本件のTWLは監査等委員会設置会社であり、HKRは裁判所に許可を求める手続をとりました。BNXの取締役会議事録(第4事件)も、あわせて許可が求められています。決定本文は、申立ての根拠として「会社法371条2項ないし5項、394条2項、399条の11第2項」を挙げています。

監査役会議事録と監査等委員会議事録

監査役会議事録(会社法第394条第2項)と監査等委員会議事録(会社法第399条の11第2項)についても、株主は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て閲覧又は謄写を請求することができます。TWLは平成30年6月27日に監査等委員会設置会社となったため、本件では、監査役会議事録と監査等委員会議事録の両方が対象とされています(両方が申し立てられた理由は決定本文に明示されていませんが、移行の前後の時期の記録を対象とするためと考えられます。当事務所の理解です)。

許可されない場合―会社に著しい損害を及ぼすおそれ

裁判所は、閲覧又は謄写をすることにより、会社又はその親会社若しくは子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、許可をすることができません(会社法第371条第6項。監査等委員会議事録について第399条の11第4項)。本決定も、この点を独立の争点として判断しています。

「一応認められる」という判断の仕方

この許可の手続は、訴訟ではなく、決定で判断される手続です。本決定は、事実の認定について「一応認められる」「疎明があるとは認められない」という表現を用いています。これは、訴訟における証明よりも緩やかな、一応確からしいという程度の心証(疎明)によって判断していることを示すものです。

当事者の主要な主張

以下は当事者の主張であり、裁判所が認定した事実ではありません。決定は、争点を3つに整理しています。

争点1:申立ての趣旨〈1〉から〈5〉まで及び〈7〉に係る記載が本件各議事録に存在するか

  • HKRの主張:TWLらは課徴金減免申請を行い、真相解明への貢献度が評価されて最大の減算率による課徴金の減免を受けているから、TWLらとPGHの間に、法的にカルテルと評価される可能性のある合意が存在することは明らかである。そのような合意は、重要な業務執行の決定として取締役会の決議事項又は報告事項となるから、TWLらの各取締役会議事録に記載が存在するはずである。取締役の法令違反等を監査する立場にある監査役会及び監査等委員会についても同様である。
  • TWLらの主張:公正取引委員会の認定した本件カルテル合意や、HKRのいうカルテル的な合意は存在しない。カルテルの合意は違法行為である以上、その内容が取締役会に上程されて協議や決定がされることはおよそ考え難い。〈7〉の独占禁止法遵守のための内部統制システムについては、独占禁止法という特定の法令遵守の目的を示す形で内部統制システムの方針等を決議しているわけではないから、そのような記載は存在しない。

争点2:〈6〉に係るTWLの取締役会議事録及び監査等委員会議事録の閲覧謄写が、株主であるHKRの権利を行使するために必要か

  • HKRの主張:TWLらが課徴金減免申請をしたことは、カルテル行為に及んだことを自認するものである。そうでなかったとしても、課徴金減免制度への対応の協議・報告を記載した議事録の内容は、本件カルテル合意の存在を推認させるから、当時の取締役らの責任追及のために必要な資料である。
  • TWLらの主張:課徴金減免制度を利用することは違反行為を自認するものではない。TWLは本件株主代表訴訟に補助参加し、必要な証拠の開示等を行っているから、閲覧謄写させる必要はない。また、本件調査開始日である令和3年7月13日以降の記載内容は、HKRらが主張する取締役らの善管注意義務違反と関連性がない。

争点3:〈6〉に係る閲覧謄写が、TWLに著しい損害を及ぼすおそれがあるか

  • TWLらの主張:課徴金減免制度の利用に係る内容が記載された取締役会議事録は、企業秘密や関係者のプライバシーにかかわる事項が顕出される可能性が類型的に大きい。また、そのような議事録が取締役の責任追及の資料に使われると、将来一般に課徴金減免制度の利用への萎縮効果が生じ、制度そのものにも悪影響を及ぼす。
  • HKRの主張:TWLの主張する損害は一般的抽象的なものにとどまり、著しい損害を及ぼすおそれは疎明されていない。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

結論を左右したのは、次の3点です。

  1. 申立ての各項目の内容が、取締役会等に上程されて協議又は決定された蓋然性が高く、議事録に記載されていると一応認められるか(争点1)。違法な合意そのものを議事録に残すことは考え難いという会社の主張が、どの範囲で受け入れられるかが分かれ目となりました。
  2. 閲覧謄写が、株主代表訴訟を追行する株主の権利行使のために必要か(争点1の小括及び争点2)。会社が株主代表訴訟で既に証拠を開示していることや、本件調査開始日より後の記載は責任原因と関係がないことが、必要性を否定する理由になるかが問題となりました。
  3. 会社が主張する企業秘密・プライバシーへの影響や、課徴金減免制度の利用への萎縮効果が、会社に著しい損害を及ぼすおそれに当たるか(争点3)。

裁判所の判断

カルテルの合意そのものは議事録に残っているとは認められない(〈3〉C)

裁判所は、まず〈3〉Cについて検討しました。証拠によれば、PGHは、平成30年8月から10月までの間に、競争関係にあるTWLに対し、PGHの供給区域外では入札価格を上げていく方針であるなどと伝達したものと一応認められるとし、PGHがそのような営業方針を採り、これを伝えた理由は、自らが入札価格を引き上げることに伴い、TWLにも入札価格の引上げを求めるものと考えられ、これは、カルテルの内容そのものであるとしました。

そのうえで、裁判所は、TWLらの主張を受け入れ、次のように述べました。

「違法行為たるカルテルの合意内容そのものを本件各議事録に残すということは考え難いから、重要な業務執行の決定として取締役会議事録等への記載が当然なされているはずであるという申立人の主張は採用できない。」

こうして、〈3〉Cに係る記載が本件各議事録にあるとは一応認めることができないとされました。

経営上重要な情報は取締役会で協議された蓋然性が高い(〈1〉から〈3〉A・Bまで)

他方で、裁判所は、〈1〉から〈3〉A・Bまで、〈4〉及び〈5〉は、いずれもカルテルの合意内容そのものを示すものではないとして、それぞれ議事録の存否を検討しました。

〈1〉から〈3〉A・Bまでについて、裁判所は、証拠によれば、平成29年から平成30年にかけて、PGHとTWLらが互いに相手方の供給区域に進出するに際して相互に進出の方針を事前に伝達したこと、その中でPGHがTWLらに対し電力小売価格の低下についての認識や電力小売価格に関する方針について発言したことが一応認められるとしました。そして、これらの内容は、官公庁入札における電力小売の入札価格をTWLらが決定する際の基礎的かつ経営上重要な情報であることに照らして、次のように判断しました。

「これが〔TWLら〕の各取締役会に上程されて協議がされている蓋然性が高いということができる。」

そして、これを監査した記録である監査役会議事録及び監査等委員会議事録を含め、〈1〉から〈3〉A・Bまでに係る本件各議事録が存在すると一応認めました。

申立ての表現を絞り直して認めた部分(〈4〉)

〈4〉は、「〔PGH〕からのカルテルの勧誘に対し、〔TWLら〕の各取締役会における検討状況と、それを最終的に応諾することとした〔TWLら〕の営業方針」(決定本文が掲げる申立ての趣旨の文言。当事者の呼称を置き換えています)を対象とするものでした。裁判所は、「カルテルの勧誘」を明確に特定可能な形で議事録に記載することは考え難いとして、申立人の主張するような形で記載されているとの疎明はないとしました。

しかし、裁判所は、カルテルの勧誘や応諾と評価すべき内容であったかはともかくとして、PGHから〈3〉A・Bの説明があったこと自体は認められ、その内容は以後の電力小売価格を決定するうえで経営上重要な情報であるとして、〈3〉A・BのPGHからの説明についての各取締役会における検討状況とそこで定まった方針という限度で、これに関して協議又は決定した部分が議事録に記載されていると一応認めました。

価格の推移と、説明を受けた後の協議(〈5〉A・B・D)

〈5〉A・B(両社の供給区域における官公庁に対する電力小売価格の推移)について、裁判所は、入札価格を決定する際の基礎的かつ経営上重要な情報であることから、取締役会に上程されて協議された蓋然性が高いとして、議事録の存在を一応認めました。

〈5〉D(PGHから〈3〉A・Bの説明を受けた後の、PGHの営業活動に関して協議・報告された内容)についても、説明の経営上の重要性に照らせば、説明を受けた後にPGHの営業活動に関して協議等を行った蓋然性が高いとして、議事録の存在を一応認めました。

「カルテルに則った営業活動」を「官公庁入札での営業活動」と読み替えた部分(〈5〉C)

〈5〉Cは、カルテル行為を実施することとした営業方針に則った営業活動を対象とするものでした。裁判所は、カルテルの合意は黙示の合意という形でもなされ得るから、「カルテル行為を実施することとした営業方針に則った営業活動」が何を意味するのかは一義的に明確ではなく、営業活動の範囲を画するには、対象となる地域と営業相手を特定する必要があるとしました。

そして、公正取引委員会が認定し申立人が主張するカルテルは、TWLとPGHの供給区域内における少なくともすべての官公庁入札に関して一定の合意をしたというものと解されるとして、〈5〉Cの意味するところは、結局、両社の供給区域内における官公庁入札での営業活動を含意するものと解しました。官公庁入札という大口の需要家に対する営業活動の内容は取締役会で協議されると考えられるとして、その営業活動に関して協議又は決定した部分が議事録に記載されていると一応認めました。

権利行使の必要性と、その範囲の限定(〈1〉から〈5〉まで)

裁判所は、議事録の存在が一応認められた部分について、次のように述べて、閲覧謄写が株主の権利を行使するために必要であると認めました(会社法第371条第2項柱書、第399条の11第2項柱書)。

「これらの情報(ただし、以下のとおり、申立ての趣旨〈3〉B及び〈5〉を除く。)は、カルテルの基礎となる情報等を〔TWL〕の取締役会がどのように認識し検討していたかなどを示すものとして、申立人が〔TWL〕の取締役らの責任追及を行うに当たって有用なものである」

ただし、裁判所は、次の2つの項目については、必要性が認められる範囲を限定しました。

  • 〈3〉B:HKRが本件株主代表訴訟で責任を追及する本件カルテル合意の内容が官公庁入札に関するものである以上、官公庁入札の電力小売価格に関する方針に係る部分のみが権利行使のために必要である。
  • 〈5〉:HKRはカルテルの実行状況に関する情報として求めているところ、責任を追及するカルテルは、証拠上、最長でも、PGHがTWLに情報提供を行ったと認められる平成30年8月から、PGHが公正取引委員会に違反の申告を行った令和2年10月29日までの期間内のものに限られるから、その期間内に係る部分のみが必要である。

特定の法令の内部統制を協議した記録は疎明がない(〈7〉)

〈7〉(独占禁止法遵守のための内部統制システムについて協議又は報告したこと)について、裁判所は、次のように述べました。

「特定の法令遵守という目的を示さず又は限定することなく、内部統制システムを構築することは十分にあり得るところ、本件記録を精査しても、〔TWLら〕において、かかる目的を示してそのための内部統制システムについて協議、報告がされた事実を一応認めるに足りる証拠はない。」

こうして、〈7〉に係る内容が議事録に記載されているとの疎明はないとされました(原文の「参加人ら」を〔TWLら〕に置き換えています)。

課徴金減免制度への対応の検討は、合意の存在を立証するために必要(〈6〉)

争点2について、裁判所は、課徴金減免制度への対応を行うに当たってTWLの取締役会で検討した内容は、TWLの内部における様々な時点での本件カルテル合意の存在を基礎づける周辺情報を含む蓋然性が高く、あわせて、そうした情報についての取締役らの認識を明らかにするものであるとしました。そして、次のように述べました。

「カルテルについて直接証拠がない中で、申立ての趣旨〈6〉に係る本件各議事録の内容は、申立人が本件カルテル合意の存在や取締役らの責任を立証するに当たって重要性を有する。」

HKRが本件株主代表訴訟を追行するためには、取締役らが存在を争う本件カルテル合意や取締役らの責任についての重要な証拠を確保する必要があるとして、〈6〉の閲覧謄写は株主の権利を行使するために必要であると認めました。

本件調査開始日より後の記載も必要性がある

TWLは、本件調査開始日以降はTWLらがどのように行動しても課徴金の額が更に減算される可能性はないから、同日以降の記載内容は、取締役らの善管注意義務違反(早期の減免申請をしなかったこと)と関連性がないと主張しました。裁判所は、〈6〉は直接証拠がないところで本件カルテル合意の存在を立証するために必要であるとして、次のように述べて、この主張を退けました。

「取締役らの善管注意義務違反の立証のみに着目して必要性を否定する〔TWL〕の主張は採用できない。」

株主代表訴訟で証拠を開示していても必要性は否定されない

TWLは、本件株主代表訴訟で、TWLらとPGHとの間の当時のやりとりの主要な部分について既に証拠を開示しているから、閲覧謄写の必要性はないとも主張しました。裁判所は、次のように述べて、この主張も退けました。

「本件カルテル合意は黙示になされたものである可能性がある以上、〔TWL〕の内部における本件カルテル合意の存在を基礎づけうる情報の取扱状況は、黙示の合意の存在を推認させる事情として、前記同様閲覧及び謄写の必要性があるものと認められ」

企業秘密・プライバシーの主張は具体性がない

争点3について、TWLは、課徴金減免制度の利用に係る内容が記載された取締役会議事録は、企業秘密や関係者のプライバシーにかかわる事項が顕出される可能性が類型的に大きいと主張しました。裁判所は、この主張は、〈6〉に係る部分について具体的にいかなる企業秘密やプライバシー情報が含まれるか等を述べるものではないとして、次のように判断しました。

「今後生ずべき具体的な弊害を指摘するものではなく、同主張により著しい損害を及ぼすおそれがあるということはできない。」

萎縮効果の主張も採用されない

TWLは、取締役会議事録が取締役の責任追及の資料に使われると、将来の取締役による課徴金減免制度の利用に萎縮効果が生じるとも主張しました。裁判所は、この主張によっても具体的にいかなる萎縮効果が生じるか明確でないとしたうえで、HKRの責任追及の主張は、より早期に課徴金減免制度を利用すべきであったという主張を含んでいることを指摘し、次のように述べました。

「取締役会での検討状況は取締役に有利な証拠ともなるから、直ちに同制度の利用を控えさせる萎縮効果を生ずべきものということはできず」

こうして、〈6〉に係る取締役会議事録を含む本件各議事録の閲覧謄写がTWLに著しい損害を及ぼすおそれがあるとは一応認めることができないとされました。

まとめ―許可された部分と許可されなかった部分

裁判所は、〈1〉から〈3〉Aまで及び〈6〉はその全部について、〈3〉B、〈4〉及び〈5〉は主文第1項、第3項及び第4項の限度で、議事録の存在と権利行使のための必要性が認められ、かつ、TWLらに著しい損害を及ぼすおそれがあるとは認められないとして、閲覧謄写を許可するのが相当であるとしました。他方で、〈3〉B、〈4〉及び〈5〉のその余の部分並びに〈3〉C及び〈7〉は、議事録の存在又は権利行使の必要性が認められないとして、許可しませんでした。

申立ての趣旨 結論 理由の要点
〈1〉〈2〉〈3〉A 全部許可 入札価格を決定する際の基礎的かつ経営上重要な情報であり、取締役会で協議された蓋然性が高い。カルテルの基礎となる情報の認識・検討を示すものとして責任追及に有用
〈3〉B 一部許可 官公庁入札の電力小売価格に関する方針に係る部分に限り必要性あり
〈3〉C 却下 カルテルの内容そのものであり、違法な合意の内容を議事録に残すことは考え難い
〈4〉 一部許可 「カルテルの勧誘」の形では記載の疎明なし。PGHからの説明についての検討状況と定まった方針の限度で記載を認める
〈5〉 一部許可 A・B・Dは記載を認め、Cは官公庁入札での営業活動に読み替えて記載を認める。必要性は平成30年8月から令和2年10月29日までの期間内に限る
〈6〉 全部許可 直接証拠がない中でカルテルの存在と取締役らの責任の立証に重要。株主代表訴訟での証拠開示や本件調査開始日以降であることは必要性を否定しない。企業秘密・萎縮効果の主張は具体性を欠く
〈7〉 却下 特定の法令遵守の目的を示した内部統制システムの協議・報告を一応認める証拠がない

この表は、決定本文の判断部分(第3の5「まとめ」を含みます)に基づいて当事務所が整理したものです。許可された部分の正確な範囲は、主文が引用する別紙1から別紙4までに記載されていますが、別紙は当事務所が確認できた決定本文には含まれていません。

主文及び結論

決定の主文は、次のとおりです(ここでの「申立人」はHKRを指します。決定本文の2社の参加人の呼称を、それぞれ〔TWL〕〔BNX〕に置き換えています)。

「1 申立人が、〔TWL〕の取締役会議事録のうち、別紙1記載の部分について閲覧及び謄写することを許可する。
2 申立人が、〔TWL〕の監査役会議事録のうち、別紙2記載の部分について閲覧及び謄写することを許可する。
3 申立人が、〔TWL〕の監査等委員会議事録のうち、別紙3記載の部分について閲覧及び謄写することを許可する。
4 申立人が、〔BNX〕の取締役会議事録のうち、別紙4記載の部分について閲覧及び謄写することを許可する。
5 申立人のその余の各申立てをいずれも却下する。
6 手続費用は各自の負担とする。」

これにより、HKRは、TWLの取締役会議事録、監査役会議事録及び監査等委員会議事録並びにBNXの取締役会議事録の、それぞれ別紙記載の部分について、閲覧及び謄写を許可されました。その余の申立ては却下されています。

この決定に対する即時抗告の有無及び確定は、決定本文からは確認できていません。

判断の射程―参考となる点と一般化できない点

以下は、決定の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。

参考となる点

第1に、議事録の閲覧謄写の許可が、①求める内容が議事録に記載されていることの疎明、②株主の権利行使のための必要性、③会社に著しい損害を及ぼすおそれがないこと、という3つの観点から、申立ての項目ごとに判断されたことです。申立ての一部に許可できない項目があっても、申立て全体が却下されるのではなく、項目ごとに許可・不許可が分けられ、さらに項目の中でも範囲を絞って許可されています。

第2に、議事録に記載があるかどうかの判断で、裁判所が、その情報が会社の経営上重要な情報であれば取締役会に上程されて協議された蓋然性が高いという考え方を用いたことです。株主は、会社の内部で実際に何が議事録に書かれているかを知ることができません。本決定は、経営上の重要性から記載の蓋然性を推認する方法で、議事録の存在を一応認めています。

第3に、会社が「違法な内容は議事録に残っているはずがない」と主張した場合に、その主張が通るのは、申立ての内容が違法な合意そのものである場合に限られたことです。裁判所は、カルテルの合意内容そのもの(〈3〉C)は記載がないとしましたが、合意の基礎となる情報や、それについての取締役会の検討(〈1〉から〈5〉まで)は記載があると認めました。また、申立人の表現どおりの記載は認められない場合でも、裁判所が内容を絞り直したり読み替えたりして、その限度で許可した例でもあります(〈4〉〈5〉C)。

第4に、会社が株主代表訴訟で一定の証拠を開示していても、それだけで議事録の閲覧謄写の必要性は否定されないとされたことです。本件では、合意が黙示になされた可能性があり、直接証拠がないことが、会社の内部の情報の取扱状況を確認する必要性を基礎づける事情とされました。

第5に、会社が「企業秘密やプライバシーにかかわる」「将来の萎縮効果が生じる」と主張するだけでは、著しい損害を及ぼすおそれは認められず、具体的にどのような秘密が含まれ、どのような弊害が生じるかを示す必要があるとされたことです。

一般化できない点

本決定は、公正取引委員会の排除措置命令と課徴金納付命令が既に出され、株主が実際に株主代表訴訟を提起して追行している場面での判断です。権利行使の必要性は、本件株主代表訴訟でカルテルの存在と取締役らの責任を立証するという具体的な目的との関係で判断されています。株主代表訴訟以外の目的(例えば、株式の売却や価格の交渉のための情報収集)で議事録の閲覧謄写を求める場合に、どのような範囲で必要性が認められるかについては、本決定は判断していません。

また、申立てた内容が議事録に記載されていると一応認められるかどうかは、証拠によって裏付けられた事実(本件では、PGHとの間の情報のやり取りがあったこと)と、その情報の経営上の重要性に依存しています。本件では、公正取引委員会の命令や証拠から、会社の外部で何があったかがある程度明らかになっていました。そうした手掛かりがない場合に、同じように記載の蓋然性が認められるとは限りません。実際に、〈7〉の内部統制システムについては、記載を一応認めるに足りる証拠がないとして許可されていません。

さらに、本決定は、カルテルの存否やTWLの取締役らの責任の有無を判断したものではありません。TWLらは本件の手続で本件カルテル合意の存在を否定しており、その点は本件株主代表訴訟で判断されるべき事柄です。

本決定は地方裁判所の決定であり、即時抗告の有無及び確定は確認できていないため、その点にも留意が必要です。

株主の皆様が確認しておきたいこと

本件のHKRは、TWLの株式100株を保有する株主でした。本決定は、保有株式数が少ないことを理由に許可を否定してはいません(取締役会議事録の閲覧謄写の請求は、会社法上、保有株式数の要件が定められていない権利です。この点は一般的な法律の説明であり、本決定が述べたものではありません)。

非上場会社の株主、特に会社の経営の実態が分からないまま株式を手放したいと考えている株主や、会社から低い価格を示されている株主にとっても、取締役会議事録は、会社の重要な意思決定の記録を確認する手段の一つです。本決定から分かるのは、申し立てる際には、どの時期の、どのような事項についての議事録を求めるのかを特定し、その事項が会社にとって経営上重要で取締役会で協議されたはずであることを、手元の資料から説明できるようにしておくことが大切だということです。また、権利行使の必要性は具体的な目的との関係で判断され、範囲が絞られることがあります。これらは本決定を踏まえた当事務所の着眼点であり、本決定が非上場会社の株主の事例について判断したものではありません。

よくあるご質問

株式を少ししか持っていない株主でも、取締役会議事録を見せてもらえますか。

本決定の申立人は、株式100株を保有する株主で、取締役会議事録などの閲覧謄写の一部を許可されました。取締役会議事録の閲覧謄写の請求は、会社法上、保有株式数の要件がない権利ですが、権利を行使するために必要であることが求められます。また、監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社では、会社に直接請求するのではなく、裁判所の許可を得る必要があります。

どのような場合に「権利を行使するために必要」と認められますか。

本決定では、株主が提起している株主代表訴訟で、取締役らが争っているカルテルの存在や取締役らの責任を立証するために重要な証拠を確保する必要があることから、必要性が認められました。ただし、責任追及の対象との関係で、官公庁入札に関する部分や一定の期間内の部分に限定されています。必要性は、株主が何のためにその議事録を見る必要があるのかという具体的な目的との関係で判断されることになります。

会社から「そのような内容は議事録に書かれていない」と言われた場合はどうなりますか。

本決定は、会社の主張どおり、違法な合意の内容そのものは議事録に残すことは考え難いとして、その部分を許可しませんでした。他方で、合意の基礎となった情報や、それについての取締役会の検討状況は、入札価格を決定するうえで経営上重要な情報であり、取締役会で協議された蓋然性が高いとして、議事録の存在を一応認めました。どの事項を対象にするかの組立て方によって、結論が分かれることが分かります。

会社から「企業秘密が含まれる」と言われて拒まれた場合はどうなりますか。

本決定では、会社が、企業秘密や関係者のプライバシーにかかわる事項が出てくる可能性が類型的に大きいと主張しましたが、具体的にどのような企業秘密やプライバシー情報が含まれるかを述べていないとして、会社に著しい損害を及ぼすおそれは認められませんでした。将来の制度の利用に萎縮効果が生じるという主張も、具体性がないなどとして退けられています。

会社が訴訟で既に証拠を出している場合でも、議事録を見る必要があるといえますか。

本決定では、会社が株主代表訴訟でやりとりの主要な部分について証拠を開示していると主張しましたが、裁判所は、合意が黙示になされた可能性がある以上、会社の内部での情報の取扱状況を確認する必要があるとして、必要性を認めました。会社が一部の資料を出していることだけで、必要性が否定されるわけではないことを示した例です。

親会社の株主が、子会社の取締役会議事録を見ることもできますか。

本決定では、TWLの株主であるHKRが、TWLの完全子会社であるBNXの取締役会議事録についても閲覧謄写の許可を求め、別紙記載の部分について許可されました。会社法には、親会社の株主等が、権利を行使するため必要があるときに、裁判所の許可を得て子会社の取締役会議事録を閲覧謄写する仕組みがあります。

非上場株式を手放したいと考えています。この手続は売却の準備に使えますか。

本決定は、株主代表訴訟の立証という目的で必要性を認めたもので、株式の売却や価格の交渉のための情報収集という目的について判断したものではありません。売却に向けて会社の情報をどのように集め、どの手続を使うかは、会社の状況と目的に応じて検討する必要があります。非上場株式の売却全般は非上場株式の売却の総合案内で、譲渡制限株式の承認の手続は譲渡制限株式の譲渡承認手続の流れと注意点で解説しています。

関連する記事と御相談のご案内

会社の経営の実態が分からない、取締役の行為に疑問がある、株式を手放したいが会社の情報が得られない、といった場合には、定款、会社から届いた招集通知や計算書類、会社とのやり取りの記録などを整理し、どの時期のどのような事項について会社の記録を確認する必要があるのか、その目的との関係で取締役会議事録の閲覧謄写の許可などの手続を利用できるかを確認したうえで、対応を検討します。非上場株式の売却全般は非上場株式の売却の総合案内で、株券を発行していない会社の株式の譲渡の効力要件・対抗要件と譲渡承認請求は株券不発行会社の株式の譲渡の効力要件・対抗要件・譲渡承認請求で解説しています。ほかの裁判例は非上場株式・少数株主問題の裁判例の解説記事一覧でご覧いただけます。

株主の権利の行使・非上場株式の売却に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所
03-6435-8418
受付時間 8:00~21:00(土日祝含む)

資料がすべてそろっていない段階でも御相談いただけます。御相談は事前予約制です。秘密は厳守します。

この記事の位置付け

会社の内部の情報を得たい株主に向けて、株主代表訴訟の立証のために取締役会議事録などの閲覧謄写の許可を求めた株主に、裁判所が議事録の存在、権利行使の必要性、会社の著しい損害のおそれの3点を検討して一部を許可した決定を解説します。

決定本文の範囲では、許可の要件は、①求める内容が議事録に記載されていることが一応認められること、②株主の権利を行使するために必要であること、③会社に著しい損害を及ぼすおそれがないこと、の3つの観点から判断されています。ほかの株主側の裁判例は非上場株式・少数株主問題の裁判例の解説記事一覧でご覧いただけます。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

非上場株式の売却や、株券を発行していない会社の株式の譲渡をお考えの株主の皆様に向けた当事務所の取扱内容及び対応の進め方は、次のご案内をご覧ください。

株券不発行会社の株式の譲渡の効力要件・対抗要件・譲渡承認請求

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
03-6435-8418受付 8:00〜21:00(土日祝含む)相談申込LINE
非上場株式・少数株主のご相談03-6435-8418受付 8:00〜21:00(土日祝含む)相談申込LINE