【譲渡承認拒否・株式買取請求】無配当の成長会社の株式を収益還元法で評価した決定とは?―東京高等裁判所平成20年4月4日決定
本記事が扱う場面と、扱わない場面
株式の譲渡承認請求を会社が承認せず、指定買取人が株式を買い取ることになった場面(譲渡承認拒否・株式買取請求)で、無配当のコンテンツ配信会社の株式を収益還元法だけで評価した東京地方裁判所平成20年1月22日決定と東京高等裁判所平成20年4月4日決定を解説します。組織再編に反対した株主の株式買取請求の事件ではありません。一般的な価格検討は、非上場株式の譲渡適正価格はいくらか 少数株主が適正価格で譲渡(売却)する方法を解説をご覧ください。
本件は、【譲渡承認拒否・株式買取請求】の事件です。発行済株式の40%を保有する株主が株式の譲渡承認を請求したところ、会社は承認せず、既に60%を保有する株主を指定買取人に指定しました。売買価格の協議が調わなかったため、株主が会社法第144条第7項において準用する同条第2項に基づき、裁判所に売買価格の決定を申し立てました。
配当をしたことがない会社の株式を、どの評価方法で、どの期間の利益を基に評価するかが争われました。東京地方裁判所は収益還元法を採用して1株1万2929円と定め、東京高等裁判所も双方の抗告を棄却してこの価格を維持しました。
基本情報
| 裁判所 | 東京高等裁判所(原審:東京地方裁判所) |
|---|---|
| 裁判日 | 平成20年4月4日(決定)(原審:平成20年1月22日決定) |
| 事件番号 | 平成20年(ラ)第301号(原審:平成19年(ヒ)第134号) |
| 事件名 | 株式売買価格決定に対する抗告事件(原審:株式売買価格決定申立事件) |
| 手続の種類 | 譲渡承認拒否に伴う指定買取人による買取り(会社法第144条第7項・第2項) |
| 審級 | 抗告審 |
| 結論 | 原審は株式2400株の売買価格を1株1万2929円と決定。抗告審は申立人・相手方双方の抗告を棄却 |
本記事は上記各決定の解説です。上訴の有無や確定を確認した旨の表示ではありません。
当事者の表記
以下では実名を用いず、譲渡を希望した株主を株主A、指定買取人をB社、株式の発行会社を対象会社C社と表記します。決定に登場するその他の会社も、実名を用いずに表記します。
事案の概要
対象会社C社と持株関係
対象会社C社は、平成12年2月8日に設立され、平成14年9月から営業を開始した会社で、コンテンツを会員に配信する事業を主たる事業としていました。定款に株式の譲渡制限の定めがあり、発行済株式の総数は6000株です。
評価時点とされた平成19年3月22日当時、株主Aが2400株(40%)、B社が3600株(60%)を保有していました。B社は過半数を保有して経営権を有し、C社はB社の連結子会社として、B社グループのデジタルコンテンツ配信事業をB社と並んで営んでいました。
約2年前の2件の株式取引
株主Aは、もともとC社の株式3600株を保有していました。平成17年2月14日、別の会社が株主Aに対し、C社の株式2400株を1株当たり5万円(合計1億2000万円)で譲渡しました。翌15日、株主Aは、B社に対し、C社の株式3600株を1株当たり5万5555円(合計2億円)で譲渡しました。その結果、株主Aに2400株が残りました。
本件で売買価格が定められたのは、この残る2400株です。約2年前の取引価格(1株5万円、1株5万5555円)と、裁判所が定めた価格(1株1万2929円)には大きな差があります。
C社の業績
決定が認定したC社の業績は、次のとおりです。
| 決算期 | 売上高 | 販売費及び一般管理費 | 経常利益 |
|---|---|---|---|
| 平成15年12月期 | 8266万7214円 | 5939万5723円 | (決定に記載なし) |
| 平成16年12月期 | 9788万2662円 | 5359万6008円 | (決定に記載なし) |
| 平成18年3月期 | 1億0133万4485円 | 692万2993円 | 1821万2050円 |
| 平成19年3月期 | 約1億1618万円 | 1672万6599円 | 853万8000円 |
平成18年3月期の営業利益は1785万8333円、平成19年3月期の営業利益は852万1000円でした。C社は配当を実施したことがなく、将来配当を行う予定もありませんでした。また、含み益を有する資産はなく、帳簿価額を修正すべき事情も見当たらないとされています。
事案の経緯
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 平成12年2月8日 | C社設立(営業開始は平成14年9月) |
| 平成17年2月14日 | 別の会社が株主Aに2400株を1株5万円で譲渡 |
| 平成17年2月15日 | 株主AがB社に3600株を1株5万5555円(合計2億円)で譲渡。C社はB社の連結子会社となる |
| 平成18年 | B社が別の会社と業務提携し、同年秋から携帯電話を通じたコンテンツ配信等を共同して行うこととなる。C社が携帯公式サイトの開発・運営を担当 |
| 平成19年3月22日 | 株主Aが、C社に対し、2400株の譲渡承認と、承認しない場合の会社又は指定買取人による買取りを請求 |
| 平成19年3月30日 | C社の取締役会が、譲渡を承認しないこと及びB社を指定買取人に指定することを決議 |
| 平成19年4月4日 | B社が、会社法第142条第2項所定の金額として1436万5788円を東京法務局に供託 |
| 平成19年4月5日 | C社が不承認及び指定買取人の指定を、B社が指定買取人として指定された旨をそれぞれ株主Aに通知(B社は供託書の写しを交付) |
| 平成19年4月12日 | 株主Aが株券を東京法務局に供託(同月19日、B社に通知) |
| 平成19年4月20日 | 株主Aが東京地方裁判所に売買価格の決定を申立て |
| 平成20年1月22日 | 東京地方裁判所が1株1万2929円と決定 |
| 平成20年4月4日 | 東京高等裁判所が双方の抗告を棄却 |
B社の供託額1436万5788円は、2400株で割ると1株約5986円(当事務所の計算)に当たりますが、これは手続上供託すべき金額であり、裁判所が定めた売買価格ではありません。
申立て及び抗告の内容
原審での双方の主張
株主Aは、取引事例法、収益還元法及び類似会社比較法を併用し、3つの評価額を単純平均すべきであると主張しました。2400株の評価額は、取引事例法が1億3333万3000円、収益還元法が1億0063万1000円、類似会社比較法が5382万8000円で、その平均は9593万円(1株当たり3万9970円)とされました。もっとも、申立ての趣旨としては1株当たり2万5000円を求めました。収益還元法で参照する実績は、業績が安定した平成18年3月期以降のものを採用すべきであるとしています。
B社は、純資産法を70%、収益還元法を20%、配当還元法を10%とする折衷法を主張しました。2400株の評価額は、純資産法が1770万8800円、収益還元法(過去3年の実績値の平均、実効税率42%、資本還元率10.44%)が1688万0777円、配当還元法が0円で、折衷額は1577万2315円とされました。B社は、収益還元法では最低でも3年から5年の決算を基礎とすべきこと、取引事例は2年以上前で実質的に1例にすぎないこと、類似会社として挙げられた9社は業種が異なり、類似会社比較法を用いるなら非流動性ディスカウントを行うべきことも主張しました。
抗告審での双方の主張
原審の決定に対し、双方が抗告しました。株主Aは1株2万5000円を、B社は1株6572円をそれぞれ求めました。
株主Aは、原審の決定後に提出したC社の平成20年3月期中間決算短信を基に、平成20年3月期の予想経常利益(3520万円を下らない)も算定の基礎に加えるべきであり、その場合の1株当たりの価格は1万9961円を下らないと主張しました。
B社は、純資産法を一切採用しなかったのは誤りであること、C社は成長企業とは認められないこと、直近2期だけでなく少なくとも過去3期分ないし4期分の平均を用いるべきこと、全株式を取得する以上は株式の価値を純資産と同一と考えるべきことを主張しました。また、評価時点(平成19年3月22日)より後の資料を考慮することは会社法第144条第3項に反するとも主張しました。
争点
- 無配当の会社の40%の株式について、どの評価方法を採用すべきか(配当還元法、純資産法、収益還元法、取引事例法、類似会社比較法)
- 収益還元法を用いる場合、どの期間の利益を基礎にすべきか
- 評価時点より後の決算資料を価格の算定に用いることができるか
裁判所の判断
40%の株式の移動を経営権の移動に準じて扱った
裁判所は、B社が過半数を保有して経営権を有している一方、株主Aの40%の株式は株主総会の特別決議を拒否できるものであり、C社の経営に一定程度の影響を及ぼすことができること、さらに、この株式が移ることでB社がC社を完全に支配できるようになることを指摘しました。その上で、本件株式は「経営権の移動に準じて取り扱い」、この場合に用いられる純資産方式と収益還元方式を検討すべきであるとしました。
配当還元法は採用の基礎を欠く
C社は配当を実施したことがなく、将来配当を行う予定もないことから、裁判所は、配当還元方式を採用する基礎に欠けるとしました。配当還元法による0円を一定の割合で加重するB社の方法は採用されていません。
取引事例法と類似会社比較法は採用しなかった
原審は、取引事例の価格を評価額とするには、取引量が同程度であること、取引の時点が比較的直近でその間に経営・業績等に大きな変化がないこと、独立した第三者間の取引で取引件数もある程度あることが必要であるとしました。本件の取引は申立ての2年程前の事例で、件数も2つであるため、評価額とすることはできないと判断しました。また、売上が1億円程度というC社の規模に照らし、類似会社比較法の採用は困難であるとしました。
純資産法は併用も含めて採用しなかった
裁判所は、C社には含み益を有する資産がなく、帳簿価額を修正する事情もないことから、純資産方式による1株当たりの価格を平成19年3月期の帳簿価額に基づき7378円と算定しました。しかし、C社は創業してさほど年月が経過しておらず、資産に含み益のある不動産等もなく、売上は順調に推移し、直近2期と同程度の利益がその後も見込まれるとして、東京高等裁判所は次のように述べました。
「純資産方式を採用すると株式価値を過小に評価するおそれがあり,純資産方式は併用することを含め採用するのは相当ではなく,収益還元方式によって評価するのが相当である。」
C社は成長企業と認められないというB社の主張については、C社がB社グループの中核事業であるコンテンツ配信事業の一翼を担っていることを理由に採用しませんでした。全株式を取得するのだから純資産方式によるべきであるとの主張についても、B社は本件売買の結果として全株式を取得するにすぎず、純資産方式を相当とする理由にはならないとしました。
直近2期の経常利益を基礎とした
東京高等裁判所は、販売費及び一般管理費が平成15年12月期5939万5723円、平成16年12月期5359万6008円から、平成18年3月期692万2993円、平成19年3月期1672万6599円に減少しており、今後も「平成15年,平成16年当時の費用を要することはない」としました。そのため、平成15年・平成16年当時の経常利益を基準値に加えるのは相当でなく、平成18年3月期及び平成19年3月期の経常利益を基礎とすべきであるとして、B社の主張を退けました。
原審は、この2期の経常利益の平均から実効税率42%に相当する額を差し引いて予想税引後利益とし、一般に用いられる資本還元率10%で還元して、1株当たり1万2929円と算定しました。決定が認定した2期の経常利益を平均すると1337万5025円となり、これに0.58を乗じて0.1で割り、発行済株式6000株で割ると、1株約1万2929円となります(当事務所の検算)。2400株の価格の総額は3102万9600円(当事務所の計算)です。
評価時点より後の決算は算定根拠にしない
原審は、評価時点を譲渡等承認請求の日である平成19年3月22日とした上で、資料に限りがあるため、直後の平成19年3月期の決算時点の数字を用いることはやむを得ないとしました。
平成20年3月期の中間決算短信を考慮すべきであるとの株主Aの主張について、東京高等裁判所は、評価時点以後の資産状態等を考慮することはできないとし、「同日における将来予測が想定どおりであったといえても,その収益そのものを算定根拠とすることはできない。」と判断しました。
結論
東京地方裁判所は、株主Aが売却しB社が買い受けるC社の株式2400株の売買価格を1株当たり1万2929円と定めました。東京高等裁判所は、原決定の判断は正当であるとして、株主A及びB社の抗告をいずれも棄却しました。抗告費用は、各自に生じた費用を各自の負担としています。
実務上の着眼点
- 本件では、40%という持株比率が株主総会の特別決議を拒否できる意味を持つこと、そして買主が100%を取得することになることが、評価方法の選択に影響しました。持株比率だけでなく、その株式の移動が会社の支配にどう影響するかが検討されています。
- 無配当であることは、配当還元法で低く評価する理由にはならず、配当還元法を採用する基礎を欠く理由とされました。
- 収益還元法でどの期の実績を用いるかは、費用構造の変化などの具体的な事情に基づいて判断されています。古い期を含めるかどうかで価格は大きく変わります。
- 評価時点より後の業績は、評価時点の予測が想定どおりであったことを示す資料にとどまり、その収益そのものを算定の基礎とすることはできないとされました。評価時点までの資料をどれだけそろえられるかが重要になります。
- 純資産法による評価の考え方は、非上場株式の時価純資産法を少数株主側からどう見るかを、評価資料の扱いは、株価算定書があれば会社との価格交渉に勝てるのかをご覧ください。
本決定が扱っていない事項
- 収益還元法による評価額から非流動性ディスカウントやマイノリティ・ディスカウントを行うことの当否は、判断されていません。B社は類似会社比較法との関係で非流動性ディスカウントを主張しましたが、裁判所は類似会社比較法自体を採用していません。
- 実効税率42%や資本還元率10%は本件で用いられた数値であり、どの事案にも当てはまる基準として示されたものではありません。
- 組織再編に反対した株主の株式買取請求の事件での「公正な価格」の算定について判断したものではありません。
- 過去の取引価格(1株5万円、1株5万5555円)がなぜその水準であったかについて、決定は判断していません。
よくあるご質問
配当をしていない会社の株式は、価値が低く評価されるのですか。
本件では、配当の実績も予定もないことから、配当還元法は採用する基礎を欠くとされ、収益還元法によって評価されました。配当がないことだけで価格が低くなるとは限りません。
過去に高い価格で株式を売買したことがあれば、その価格で評価されますか。
本件では、約2年前に1株5万円及び1株5万5555円の取引がありましたが、時期が比較的直近とはいえず、件数も少ないとして、取引事例法は採用されませんでした。
裁判所に申し立てた後に会社の業績が良くなった場合、価格に反映されますか。
本件では、評価時点は譲渡等承認請求の日とされ、その後の決算資料に基づく収益そのものを算定根拠とすることはできないとされました。
指定買取人が供託した金額が売買価格になるのですか。
なりません。本件でB社が供託した1436万5788円は会社法第142条第2項所定の金額で、裁判所が定めた価格(1株1万2929円)に2400株を乗じると3102万9600円(当事務所の計算)です。
根拠条文
- 会社法第136条、第138条(株主からの譲渡承認の請求及びその方法)
- 会社法第140条第4項(指定買取人の指定)
- 会社法第142条(指定買取人による買取りの通知及び供託)
- 会社法第144条第2項・第3項・第7項(売買価格の決定の申立て及び考慮事項。指定買取人による買取りへの準用)
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