株価算定方法に関する判例(テレネット事件)!
この記事の位置付け
本ページは、非上場株式の適正価格に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
▶ 非上場株式の譲渡適正価格はいくら?少数株主が適正価格で譲渡(売却)する方法を解説
同じ主題を扱う関連ページ
- 非上場株式の時価純資産法を少数株主側からどう見るか
- 相続税評価額と実際の株式売買価格が違う理由
- 従業員持株会の株式は本当に額面で返すのか 国税庁の有識者会議が「二重の価格」を問題視しています
- 非上場株式の相続税評価が60年ぶり見直しへ 少数株主の株式はこれまで低く評価されすぎていた
- 非上場株式の「適正価格」とは何か
- 会社の提示額から株式買取価格が改善した少数株式の解決事例
- 株価算定書があれば会社との価格交渉に勝てるのか
- 会社に不動産や多額の内部留保がある場合の非上場株式評価
- 非上場株式のDCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)とは
- 非上場株式の収益還元法とは
- 少数株式だから必ず大幅に安く評価されるのか
株価算定方法に関する判例 テレネット事件の概要
今回扱う株式売買価格決定申立事件の裁判例は、ベンチャー企業「テレネット社」が発行する譲渡制限株式の売買価格が問題となりました。平成19年3月22日に同社の株主が譲渡の承認及び買取りを請求し、当事者間の協議が調わなかったことから、同年4月20日に売買価格の決定の申立てが裁判所に対してされたのです。
本件の裁判の表示及び審級の経過
本件の原審は、東京地方裁判所平成20年1月22日決定(平成19年(ヒ)第134号)であり、抗告審は、東京高等裁判所平成20年4月4日決定(平成20年(ラ)第301号)です。いずれも株式売買価格の決定を求める申立てに関する事件です。原審は、金融・商事判例1295号55頁に掲載されています。なお、本件は指定買取人に対する申立てですので、その根拠規定は、会社法第144条第7項が準用する同条第2項です。
抗告審は、原審の判断をおおむね尊重し、抗告を棄却しました。したがって、本件の株式売買価格は、原審の判断のとおり確定しています。
会社のデータ
テレネット社は、デジタルコンテンツの配信事業を営む非上場会社です。設立されたのは平成12年2月8日で、定款には株式の譲渡制限の定めがあります。
同社の売上については、平成15年12月期が約8266万円で、平成19年3月期が約1億1618万円となっています。売上1億円程度の事業規模を保ちながら、上昇方向に推移している状況だったと言えます。
他方で、同社の販管費は減少傾向にありました。平成17年3月期までは1年あたり約5582万円の販管費を計上していましたが、平成18年3月期は約692万円、平成19年3月期は約1672万円と格段に減っています。
つまりテレネット社は設立以降、事業を軌道に乗せながら営業利益を拡大してきた「成長企業」であったといえます。
その一方、裁判当時に至るまで、同社が株主に対して配当を行った実績はなく、将来配当を行う予定もありませんでした。
裁判所が認定した売上及び資産の状況
裁判所は、平成15年12月期から平成19年3月期までの期間におけるテレネット社の売上の平均を約9943万円と認定し、売上が上昇方向に推移していると評価しました。
また裁判所は、テレネット社には含み益を有する資産がなく、その他に帳簿価格を修正すべき事情も見当たらないと認定しました。そのため、純資産法による評価額は平成19年3月期の帳簿価格と同じものとなり、純資産法による1株当たりの価格は7378円と算定されました。
もっとも、後に述べるとおり、裁判所は純資産法を採用しませんでした。この7378円という価格は、収益還元法による1株当たり1万2929円との対比において、算定方法の相違が価格に及ぼす影響の大きさを示すものです。
発行株式の状況および裁判(株価算定方法に関する判例)に至る経緯
テレネット社の発行済株式総数は、6000株でした。そして裁判の時点で、同社の株式は2名の株主が全部を保有していました。一方の株主Aの保有株式数は2400株で、もう一方の株主Bの保有株式数は3600株でした。
そのうち2400株を保有する株主Aが、自身の保有する全株式を第三者に対して譲渡しようと考えました。
もっとも譲渡制限株式は、会社が承認をしなければ第三者に対して譲渡することができません(会社法2条17号)。株主または株式取得者による株式譲渡承認請求が会社によって否定された場合、当該株式は会社(または会社が指定した買取人)が買い取ることになります(会社法140条)。
そこで株主Aは、テレネット社に対して株式譲渡承認請求を行いました。しかし同社はこれを承認せず、株主Bを指定買取人とする旨を通知しました。
この場合、株式買取価格は、当事者の協議に任されることになります(会社法144条1項)。しかし、今回の事案ではこの協議が調いませんでした。
そこで、株主Aから裁判所に対して、問題となった2400株について、売買価格の決定の申立て(会社法144条7項が準用する同条2項)がされたのです。
なお、相手方は、指定買取人に指定された旨の通知に先立ち、会社法142条2項所定の額である1436万5788円を法務局に供託しています。この額は、本件株式2400株について1株当たり約5985円に相当します。申立人も、平成19年4月12日に本件株式に係る株券を法務局に供託し、同月19日にその旨を相手方に通知しました。
なお、本件申立ての裁判例において、株主Aは「申立人」、株主Bは「相手方」と表記されています。ここからは本稿においても、裁判例の表記に従って「申立人」「相手方」と呼ぶこととします。
株価算定方法に関する判例において各当事者が主張した売買価格について
それでは問題となった2400株について、申立人および相手方が主張した売買価格を確認します。
申立人が主張した売買価格
申立人は「収益還元法」「取引事例法」「類似会社比較法」という3つの株価算定方法を併用することを主張しました。
このように複数の株価算定方法を用いる場合、それぞれの算定結果をどのような割合で用いるかが問題となります。算定方法ごとの重要度を加味して平均額を算出する必要があるからです。このことを「加重平均」と呼びます。
この点、本件における加重平均の割合について、申立人は「等しい割合」を主張しました。なぜなら、各算定方法には一長一短があるため、用い方に差を設けることはできないと考えたのです。
つまり「収益還元法」「取引事例法」「類似会社比較法」それぞれの算定方法で算出した価格について、等しい割合で平均した金額を株式売買価格とすべきというのが、申立人側による主張の内容です。
以上から、本件で問題となった2400株の売買価格について、申立人が主張した具体的な金額は次のようになりました。
①取引事例法 ⇒ 1億3333万3000円
②収益還元法 ⇒ 1億63万1000円
③類似会社比較法 ⇒ 5382万8000円
加重平均額(=(①+②+③)÷3) ⇒ 9593万円
相手方が主張した売買価格
一方で相手方は、「純資産法」「収益還元法」「配当還元法」という3つの株価算定方法を併用することを主張しました。
なお、加重平均の割合は「純資産法」が70%、「収益還元法」が20%、「配当還元法」が10%です。このことから、相手方が最も重視している算定方法は「純資産法」であることがわかります。
以上から、本件の2400株の売買価格について、相手方は次のような金額を主張しました。
①純資産法 ⇒ 1770万8800円
②収益還元法 ⇒ 1688万777円
③配当還元法 ⇒ 0円
加重平均額(=(①×70+②×20+③×10)÷100) ⇒ 1577万2315円
株価算定方法に関する判例において各当事者が主張した株価算定方法について
次に、申立人・相手方の主張に登場した株価算定方法について、一つずつ詳しく検討します。まずは、「収益還元法」についてです。
「収益還元法」について
「収益還元法」は、大きく分類すると「インカムアプローチ」と呼ばれる株価算定方法に属します。
ここにいう「インカム」とは、会社が将来にわたってもたらすことが予想される収益のことです。将来予想される事業の拡大(または縮小)を株価に織り込むことができるので、今後も事業を継続する予定の「継続会社」の株価を適切に算定できる手法だと言われています。
また収益還元法では、将来の価値(予想される収益)をもとにして、現在の価値(株価)を算定します。このように「将来の価値を現在の価値に引き直す」必要があるため、一定の割引率による割引きを行うのが一般的です。
なおインカムアプローチに属する株価算定方法には、ここで扱う「収益還元法」の他に、後述する「配当還元法」も存在します。収益還元法と配当還元法の相違点は、算定の基礎となる「インカム」のとらえ方に起因します。
収益還元法における「インカム」は、会社の業績を全体的に考慮したうえで予測される「収益」です。これに対して、配当還元法における「インカム」は、株主が将来受け取ることが予測される「配当」です。
「収益還元法」に関する申立人の主張
テレネット社は将来も事業を継続していく「継続会社」なので、将来の業績予想を株価に織り込む「収益還元法」と非常に適合的であるといえます。そのこともあり、収益還元法を採用すること自体について、申立人・相手方間に争いはありません。
むしろ重要なのは、「収益還元法による計算の基礎とすべきテレネット社の業績の範囲」です。この点について申立人は、販管費が落ち着き業績が安定した平成18年3月期以降の数値のみに限定して、将来の収益を見積もる基礎とすべき旨を主張しています。
なお、申立人がテレネット社に対して株式譲渡承認請求をしたのは平成19年3月です。したがって、申立人が算定の基礎として主張しているのは、直近2期の業績のみということになります。
「収益還元法」に関する相手方の主張
これに対して相手方は、将来の業績予測を基礎とする「収益還元法」が持つ不確実性を強調しています。不確実な将来の業績を予測するには、算定の基礎とすべき実績は最低でも3~5年分必要だと主張しているのです。
具体的には、過去3年の業績の実績値を平均した税引後利益(経常利益から、経常利益に実効税率42%を乗じて算出した税金費用を控除した金額)をもとに、資本還元率(割引率)を10.44%として資本還元し、1688万777円という金額を算出しました。
この点で、直近2期の業績のみ参照すれば足りるとした申立人の主張とは大きく異なります。また、相手方が収益還元法による算定結果を20%しか反映すべきでないと主張したのも、やはり収益還元法の持つ不確実性を考慮したためです。
裁判所の判断
以上の主張を踏まえて、裁判所は株価算定に「収益還元法」を用いるべきとの判断を下しました。また、その際に算定の基礎とすべきテレネット社の業績について、平成18年3月期と平成19年3月期の直近2期のみに限定すべきとも判断しました。
直近2期の業績のみに限定して算定すべきとしたのは、販売費及び一般管理費の水準が平成18年3月期を境に大きく変わったことによります。
本決定は、平成17年3月期まで1年当たり約5582万円を計上していた販売費及び一般管理費が、平成18年3月期には約692万円、平成19年3月期には約1672万円へと格段に減少している点をとらえ、初期投資に係る減価償却等の費用が減少したことによって営業利益を計上できる状況になったものと判断しました。そのうえで本決定は、収益還元法に用いる予想税引後利益については、平成18年3月期及び平成19年3月期の経常利益を基礎として考えるべきであるとしています。
また裁判所は、直近2期の業績のみで「収益還元法」による算定が可能だと判断したのですから、相手方が強調したほどの不確実性を持つ算定方法だとは考えていないことがわかります。
具体的な金額としては、次のように算出しました。
まず平成18年3月期及び平成19年3月期の経常利益から、その平均値に実効税率(42%)を乗じて算出した税金額を控除して、予想税引後利益を算出します。そこから、一般に用いられる資本還元率10%によって資本還元します。
その結果、1株当たり1万2929円という売買価格を算出しました。
「配当還元法」について
次は、相手方だけが採用を主張した「配当還元法」について検討します。
インカムアプローチに分類される株価算定方法
前述の通り、配当還元法は「インカムアプローチ」に分類されます。また、算定の基礎となる「インカム」については、株主が将来受け取る「配当」ととらえる考え方でもあります。
「配当還元法」に関する申立人の主張
申立人は、配当還元法の採用を否定する理由として、「本件株式がテレネット社の全株式の40%にあたる」という点を挙げています。冒頭で述べたように、テレネット社の発行済株式総数は6000株ですから、本件で問題となっている2400株は全株式の40%に相当するのです。
この点、申立人は「配当還元法」について、もっぱら配当を受けることを主な目的として株式を取得する「少量株主(発行済株式の総数の1%から3%未満の株式を有する株主)」について用いるべき評価方法であると主張しています。
したがって、本件のように大量の株式を売買するような場合には、配当が株式取得の主目的となるとは考えにくく、「配当還元法」を用いて売買価格を算定することは不適切であるという主張です。
他には、「テレネット社にこれまで配当実績が存在しない」という点についても、配当還元法を用いるべきでない理由として挙げられています。
「配当還元法」に関する相手方の主張
一方で相手方は、配当還元法の採用を肯定する理由として、「テレネット社の経営を支配しているのは申立人ではない」という点を挙げています。
つまり、申立人の保有株式数は2400株である一方、相手方の保有株式数は3600株です。筆頭株主はあくまでも相手方であって、申立人ではありません。
問題となっている2400株が筆頭株主のものでない以上、その取得目的には配当を受けることが多少なりとも含まれているという主張です。
もっとも、テレネット社に配当実績がないのは事実なので、「配当還元法による算定結果は10%しか反映しない」とも主張しているのです。具体的な売買価格についても、同様の理由で0円という金額を主張しています。
裁判所の判断
裁判所は、配当還元法を用いるべきでないと判断しました。その理由について、裁判所は「経営権の移動」という言葉を使っています。
すなわち、相手方が指定買取人として申立人の保有する2400株を買い取ることで、相手方はテレネット社の全株式にあたる6000株を保有することになります。その結果、相手方はテレネット社の経営を完全に支配することができます。つまり、本件の2400株の買取りによって、テレネット社の経営権が相手方へ移動する結果となります。
もっとも、本決定が配当還元法を用いる基礎に欠けるとした直接の理由は、テレネット社が配当を実施したことがなく、現時点で将来配当を行う予定もないという点にあります。経営権の移動に準じて取り扱うという判断は、経営権の移動を伴う場合に用いられる評価方式である純資産法及び収益還元法を検討の対象とすべきであるという結論を導くものであり、これに配当還元法を加える基礎は欠けると判断されました。
「純資産法」について
次は、相手方のみが採用を主張した「純資産法」について検討します。
コストアプローチに分類される株価算定方法
純資産法は、「コストアプローチ」に分類される算定手法です。
コストアプローチは、「会社が現に保有する資産の価値を、そのまま株価にも反映させる」という考え方に基づいています。
資産の評価額という明確な数値を基礎とするので、客観的な算定方法だと言われます。その一方で、インカムアプローチのように将来的な収益力の変動を考慮することができないことから、継続会社の株価を算定するには不向きだとも言われます。
具体的な算定方法としては、会計帳簿上の純資産額を基礎として計算を行います。
「純資産法」に関する申立人の主張
申立人は、純資産法による算定を否定しています。
その理由としては、①テレネット社は清算を予定していない(継続会社である)こと、②成長企業であるテレネット社は今後業績の好転が見込める(将来的な収益力の変動が大きい)こと、③テレネット社は不動産等の固定資産を保有していない、といった点を挙げています。
「純資産法」に関する相手方の主張
一方で相手方は、純資産法を「株式評価の大原則」であるとして、純資産法による算定を強く主張しています。純資産法による計算結果を70%も売買価格に反映させるべきと主張している点からも、いかに純資産法を重視しているかが分かります。
なお、「将来の収益力を評価できない」という純資産法のデメリットについては、「業績の変動が激しいテレネット社において、不確実性の大きな収益還元法はうまく機能せず、結果的に純資産法がもっともすぐれている」とのロジックでカバーしています。
裁判所の判断
裁判所は、申立人の主張とおおむね同様の理由で、純資産法による株価算定を否定しました。
もっとも、本決定は、純資産法による価額の算定自体は行っています。すなわち、テレネット社は現時点において事業を継続しており、近い将来に清算することも予定されていないことから、処分価格による純資産法を用いる必要はないとし、含み益を有する資産もその他帳簿価格を修正すべき事情も見当たらないことから、平成19年3月期の帳簿価格をそのまま用いて1株当たり7378円と算定しました。
そのうえで本決定は、創業からさほど年月の経過していないテレネット社について純資産法を採用すると、株式の価値を過小に評価するおそれがあるとして、純資産法を併用することを含めて採用することは相当でないと判断しています。
「取引事例法」「類似会社比較法」について
最後に、申立人のみが採用を主張した「取引事例法」「類似会社比較法」について検討します。
マーケットアプローチに分類される株価算定方法
「取引事例法」と「類似会社比較法」は、いずれも「マーケットアプローチ」に分類される株価算定方法です。
マーケットアプローチでは、問題となっている株式について、参考となる比較対象を選定します。比較対象となるのが過去の取引事例であれば「取引事例法」、比較対象が類似会社の株価であれば「類似会社比較法」となります。いずれも、比較対象における株価(マーケット)を参考にすることから、マーケットアプローチと呼ばれます。
具体的には、「取引事例法」であれば、問題となっている株式について、過去の取引事例における株価を参考とします。「過去に同じような条件で売買されたときの株価が〇〇円だったということは、今回もそれくらいの株価になるはずだ」という発想に基づくものです。
一方「類似会社比較法」では、問題となっている会社と業態・規模・成長性などが類似した上場会社の株価を比較対象とします。「同じような条件の他社の株価が〇〇円ということは、この会社の株価もそれくらいになるはずだ」という発想に基づくものです。
「取引事例法」「類似会社比較法」に関する申立人の主張
申立人は、取引事例法を用いて算定すべきとの主張に関して、自身が2年前に行った2件の取引を「過去の取引事例」として挙げています。
一方、類似会社比較法を用いて算定すべきとの主張に関しては、参考にすべき「類似会社」を9社リストアップしています。
「取引事例法」「類似会社比較法」に関する相手方の主張
これに対して相手方は、申立人が挙げた「過去の取引事例」につき、2年も前なので参考にならないとしています。また、申立人が挙げた「類似会社」についても、業態が異なるので参考にならないとしています。
裁判所の判断
裁判所は、取引事例法と類似会社比較法のいずれも、本事案での利用を否定しました。
取引事例法について本決定は、過去の取引事例の価格をもって評価額とするためには、第1に取引量が同程度であること、第2に取引事例の時点が比較的直近であり、その間に経営や業績に大きな変化がないこと、第3に取引が独立した第三者間で行われ、取引件数もある程度あることが必要であるという判断の枠組みを示しました。そのうえで、申立人の挙げた取引事例は本件申立ての2年程前のものであって時期が比較的直近とはいえず、件数も2件にとどまり少ないとして、これらの価格をもって評価額とすることはできないとしました。
類似会社比較法について本決定は、この方式が対象会社と業種及び規模等が類似する上場会社と比較して株価を評価する方式であることを前提としたうえで、テレネット社は売上が1億円程度の会社であり、その規模に照らして類似会社比較法を採用することは困難であるとしました。
裁判所が示した算定の道筋
本決定が収益還元法を採用した理由は、テレネット社について清算が予定されていないこと、売上が順調に推移しており今後も一定程度の利益が見込まれること、資産に含み益のある不動産等が存在しないことの3点にあります。本決定は、これらを考慮すると、インカムアプローチである収益還元法を採用することが相当であるとしています。
各評価方法による1株当たりの価額は、次のように検算することができます。申立人の主張額は、本件株式2400株の総額を株式数で除して求められ、取引事例法が1億3333万3000円÷2400株=1株当たり約5万5555円、収益還元法が1億63万1000円÷2400株=1株当たり約4万1929円、類似会社比較法が5382万8000円÷2400株=1株当たり約2万2428円、その加重平均が9593万円÷2400株=1株当たり約3万9970円です。もっとも、申立ての趣旨として求められた額は、1株当たり2万5000円でした。
相手方の主張額は、純資産法が1770万8800円÷2400株=1株当たり7378円、収益還元法が1688万777円÷2400株=1株当たり約7033円、配当還元法が0円であり、その折衷額は1770万8800円×0.7+1688万777円×0.2+0円×0.1=1577万2315円、すなわち1株当たり約6571円です。
本決定が採用した収益還元法による価額は1株当たり1万2929円であり、本件株式の総額は1万2929円×2400株=3102万9600円となります。この価額から予想税引後利益を逆算すると、1万2929円×6000株=7757万4000円が株式価値の総額であり、これに資本還元率10%を乗じた7757万4000円×0.1=約775万7400円が予想税引後利益に当たります。実効税率42%を控除する前の経常利益の平均値は、775万7400円÷(1-0.42)=約1337万円と計算されます。
本決定は、株式の評価の時点について、譲渡等承認請求の基準日である平成19年3月22日であることを明示しています。そのうえで、同日の数値と平成19年3月期の決算時点の数値とが異なる可能性はあるものの、本件では資料に限りがあるため決算時点の数値を採用することはやむを得ないとしています。
非流動性ディスカウント及びマイノリティディスカウントの取扱い
本決定は、収益還元法によって算出した価額から、非流動性ディスカウント(換金が容易でないことを理由とする減額)もマイノリティディスカウント(少数株式であることを理由とする減額)も控除していません。
非流動性ディスカウントは、類似会社比較法を用いる場合には一般に30%程度の減額が採用されるにもかかわらず申立人の算定にはこれがされていない、という形で相手方から主張されたものです。もっとも、本決定は類似会社比較法そのものを採用しなかったため、その適用の当否について判断を示していません。
マイノリティディスカウントについては、本決定が本件を経営権の移動に準じて取り扱うべき事案と位置付けたことから、これを行う前提を欠いています。すなわち本決定は、申立人が発行済株式総数6000株のうち2400株、割合にして40%を保有し、株主総会の特別決議を拒否することができる立場にあったこと、及び本件株式が相手方に移転すれば相手方がテレネット社を完全に支配することができるようになることを重視しました。少数株式であることを理由に価額を減額するのではなく、経営権の移動を伴う場合に用いられる評価方式によるべきものとしたところに、本決定の特徴があります。
裁判所(株価算定方法に関する判例)の結論について
以上をまとめると、裁判所が本事案において株価算定方法として採用できるとしたのは、「収益還元法」のみということになります。すなわち、裁判所は本事案において、「収益還元法のみを用いてテレネット社の株価を算定すべき」との立場に立ったのです。
その背景としてもっとも大きいのは、テレネット社が「成長企業」として認定されたことにあります。今後の成長が見込まれる会社の株価を正しく算定するには、将来の収益変動を株価に織り込む「収益還元法」が適しているというのが、裁判所の考え方だと言えるのです。
その結果、収益還元法によって算出された「1株当たり1万2929円」という価格が、本件で問題となった2400株の売買価格として決定されることとなりました。
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。




