株主代表訴訟を弁護士に依頼するとき 提訴の請求から60日と、少数株主が負う費用
非上場会社の少数株主の方から、「社長一族が会社の財産を自分たちのために使っているのに、誰も止められない」という御相談をいただきます。配当は何年も支払われず、役員報酬だけが年々上がり、経営者の親族が所有する不動産を会社が相場を超える賃料で借りている、といった状態です。本ページは、そのような立場に置かれた少数株主の方が、会社法第847条に基づく責任追及等の訴え、すなわち株主代表訴訟を弁護士に依頼する場面に限り、提訴の請求から60日という日程の進み方と、少数株主の側が実際に負うことになる費用を整理したものです。
株主代表訴訟は、株主が会社に代わって役員等の責任を追及する手続です。取り戻された金銭は会社に入りますので、原告となった株主の手元に直接入るわけではありません。それでもなお、少数株主の方がこの手続を選ぶ理由があります。会社から流出していた財産が戻れば、株式の価値そのものが回復し、その後の買取交渉の土台が変わるからです。
もっとも、この手続には順序と期限があります。いきなり訴えを提起することはできず、まず会社に対して提訴の請求をし、会社が60日以内に訴えを提起しないときに初めて、株主自身が訴えを提起できます(会社法第847条第1項、第3項)。この60日の使い方が、その後の展開を大きく左右します。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
役員の責任を追及する手続と、株式そのものを換価する手続とは、目的も日程も異なりますので、次のとおり整理しております。
- 株主代表訴訟を弁護士に依頼する場面……本記事
- その前提として会社の資料を得る場面……会計帳簿閲覧謄写請求を弁護士に依頼するとき 拒絶された場合の仮処分と、請求書の書き方
- 株式を売却して関係を清算する場面……会社に株式の買取りを求めるとき弁護士に依頼する意味 任意の買取交渉と法定の買取請求の使い分け
- 少数株主が使える手続の全体を知りたい場面……少数株主が弁護士に依頼するとき 会社に権利を認めさせるために使える手続と期限
少数株主にとって、株主代表訴訟は何のための手続か
取り戻されるのは会社の損害であって、株主個人の金銭ではありません
株主代表訴訟で勝訴した場合、役員等が支払う金銭は会社に帰属します。原告となった株主が受け取るものではありません。この点を最初に御説明しておかなければ、期待と結果が食い違います。株主が得るのは、会社の財産が回復することによる持分価値の増加です。
それでも少数株主が提起する意味があります
同族会社では、少数株主の方が経営から排除され、配当も受けられず、株式を売ろうとしても低い金額しか示されない、という状況が生じます。その低い金額の背景に、会社財産の社外への流出があることが少なくありません。流出を止め、既に流出した分を戻させることは、株式の価値を回復させる直接の手段です。
買取交渉の局面が変わることがあります
提訴の請求をした段階で、それまで交渉に応じなかった会社の態度が変わることがあります。役員個人が被告となる可能性が生じるためです。株主代表訴訟は、それ自体が目的である場合もあれば、株式の買取りを含む全体の解決に向けた一手である場合もあります。どちらの位置付けで用いるかを、最初に決めておきます。
誰が提起できるのか、保有の期間はどれだけ必要か
公開会社では、6か月前から引き続き株式を有していることが必要です
会社法第847条第1項は、6か月前から引き続き株式を有する株主が、会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、責任追及等の訴えの提起を請求することができると定めております。定款でこれを下回る期間を定めることもできます。令和8年11月1日に提訴の請求をするのであれば、令和8年5月1日より前から引き続き株式を有している必要があります。
公開会社でない会社では、この要件はありません
株式に譲渡制限が付されている非上場の同族会社の多くは、公開会社ではありません。公開会社でない株式会社については、6か月の保有の要件は適用されません(会社法第847条第2項)。相続によって株式を取得したばかりの方でも、提訴の請求をすることができます。この点を御存じないまま諦めておられる方が少なくありません。
持株数の要件はありません
会計帳簿の閲覧謄写の請求のような持株比率の要件は、責任追及等の訴えにはありません。1株であっても提訴の請求をすることができます。ただし、単元未満株式しか有しない株主については、定款で権利を行使できない旨を定めることができるとされておりますので、定款の確認は必要です。
訴えを提起した後も、株主であり続ける必要があります
訴訟の途中で株式を手放せば、原告としての適格が問題になります。株式の買取りと責任追及とを並行して進める場合には、どの順序で何を決着させるかを、あらかじめ設計しておかなければなりません。ここは弁護士に依頼する意味が大きい部分です。
提訴の請求から60日、日程はどのように進むのか
まず、会社に対して書面で提訴を請求します
株主が直接訴えを起こすのではなく、まず会社に対し、役員等の責任を追及する訴えを提起するよう請求します(会社法第847条第1項)。請求は、書面その他の法務省令で定める方法によることとされており、被告となるべき者と、請求の趣旨及び請求を特定するのに必要な事実を記載します。宛先は、監査役設置会社では監査役となります。
60日を具体的な日付で見ますと
提訴の請求書が令和8年9月1日に会社に到達した場合、会社が訴えを提起すべき期間は令和8年10月31日までです。この60日の期間内に会社が訴えを提起しないときは、請求をした株主は、令和8年11月1日以降、会社のために自ら責任追及等の訴えを提起することができます(会社法第847条第3項)。60日は、株主にとっての待機の期間であると同時に、訴状と証拠を準備する期間でもあります。
会社は、訴えを提起しない理由を通知します
会社が請求の日から60日以内に訴えを提起しない場合において、請求をした株主から請求を受けたときは、会社は遅滞なく、訴えを提起しない理由を書面その他の方法により通知しなければなりません(会社法第847条第4項)。この不提訴の理由の通知は、その後の訴訟において、会社側の認識を示す資料として用いることができます。必ず請求してください。
60日を待てない場合があります
60日の期間の経過により会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、株主は、直ちに責任追及等の訴えを提起することができます(会社法第847条第5項)。役員が財産を処分しようとしている場合などがこれに当たり得ます。ただし、この要件は厳しく判断されますので、原則としては60日を待つ組立てになります。
少数株主は、実際にどのような費用を負うのか
訴えの手数料は、請求する金額の大小に左右されません
責任追及等の訴えは、訴訟の目的の価額の算定については、財産権上の請求でない請求に係る訴えとみなされます(会社法第847条の4第1項)。財産権上の請求でない請求に係る訴えについては、訴訟の目的の価額は160万円とみなされ(民事訴訟費用等に関する法律第4条第2項)、これに対応する手数料は1万3,000円です(同法別表第一)。数億円を請求する場合でも、入口の手数料はこの額にとどまります。
担保の提供を命じられることがあります
株主が責任追及等の訴えを提起したときは、裁判所は、被告の申立てにより、相当の担保を立てるべきことを命ずることができます(会社法第847条の4第2項)。ただし、被告がこの申立てをするには、訴えの提起が悪意によるものであることを疎明しなければなりません(同条第3項)。担保を立てられなければ訴えは却下されますので、被告側が最初に用いてくる手段です。
勝訴した場合には、費用と弁護士報酬を会社に請求できます
責任追及等の訴えを提起した株主が勝訴した場合において、訴訟に関し必要な費用(訴訟費用を除きます。)を支出したとき、又は弁護士等に報酬を支払うべきときは、会社に対し、その費用の額の範囲内又はその報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができます(会社法第852条第1項)。会社のために働いた分は、会社に負担を求めることができるという仕組みです。
敗訴しても、悪意がなければ会社に対する責任は負いません
株主が敗訴した場合であっても、悪意があったときを除き、会社に対して損害を賠償する義務を負いません(会社法第852条第2項)。訴えを起こしたこと自体を理由に会社から責任を問われるのではないか、という御懸念をよく伺いますが、法律はこの点を手当てしております。なお、原告と被告が共謀して会社の権利を害する目的で判決をさせたときは、株主又は会社は、確定した終局判決に対し再審の訴えを提起することができます(会社法第853条第1項)。
何を請求するのか、同族会社で問題になりやすい事柄
過大な役員報酬と退職慰労金
役員報酬は、定款又は株主総会の決議によって定めることとされております。適法な決議を欠いたまま支給されている場合や、職務の内容に比して著しく高額である場合には、責任追及の対象となり得ます。同族会社では、株主総会の議事録は作成されているものの、実際には総会が開かれていないという事例が見られます。
関係者との取引
取締役が自己又は第三者のために会社と取引をする場合には、株主総会又は取締役会の承認が必要です。経営者が支配する別の会社との取引、経営者の親族が所有する不動産の賃借、親族に対する不相当な条件での貸付けなどは、承認の有無と条件の妥当性の両面から検討します。
回収されない貸付金
役員に対する貸付けが長年にわたって回収されないまま計上されていることがあります。返済の見込みがないまま放置していることが、役員としての任務の懈怠に当たらないかを検討します。貸借対照表の「短期貸付金」「長期貸付金」の内訳は、必ず確認すべき項目です。
主張には、帳簿による裏付けが要ります
いずれの類型も、疑いだけでは訴訟になりません。総勘定元帳、勘定科目内訳明細書、契約書といった資料が必要です。したがって、実務では、会計帳簿の閲覧謄写の請求を先行させ、資料を確保してから提訴の請求に進むという順序をとることが多くなります。
なぜ会社は、提訴の請求に応じないのか
訴えるべき相手が、訴えるかどうかを決める立場にいるからです
提訴の請求を受けた会社において、その判断をするのは経営を担う者です。同族会社では、責任を追及されるべき役員と、判断をする者とが同一人であるか、極めて近い関係にあることが通例です。会社が自ら訴えを提起することは、構造上、まず期待できません。
責任を認めれば、これまでの経営が否定されるからです
役員報酬の水準や関係者との取引は、長年にわたって続けられてきたものであることが多く、これを是正すれば、過去の全期間について同じ問題が生じます。会社の側から見れば、一点を認めることが全体の否定につながりますので、頑なに争う姿勢をとります。
時間をかければ株主が諦めると考えているからです
訴訟には年単位の時間がかかります。少数株主の方が個人で費用と労力を負担し続けることは容易ではありません。会社の側は、その負担の差を計算に入れております。手続を最後まで進める体制があることを示すこと自体が、交渉における力になります。
弁護士に依頼した場合、どのように進むのか
提訴の請求の前に、資料を集めます
受任後、まず計算書類等の閲覧の請求と、会計帳簿の閲覧謄写の請求を行い、どの行為をどの役員の責任として構成できるかを検討します。この段階で見込みが立たない場合には、提訴の請求に進まないという判断もあり得ます。
提訴の請求書に何を書くか
被告となるべき者を特定し、どの行為によって会社にいくらの損害が生じたのかを、資料に基づいて記載します。ここが曖昧であれば、会社は「特定を欠く」と述べて実質的な検討をしないまま60日を経過させます。請求書の精度が、そのまま訴訟の準備の精度になります。
和解と、株式の買取りとを結び付ける進め方
責任追及の手続と株式の買取りの交渉とを、別々に進める必要はありません。役員の責任が争点となっている状況では、会社の側にも早期に全体を解決する動機が生じます。買取価格と責任追及とを一体の解決として組み立てることが、少数株主の方にとって最も現実的な出口になることがあります。
費用の設計
訴えの手数料が定額であることは、少数株主の方にとって有利な点です。他方で、訴訟が長期にわたること、担保の提供を命じられる可能性があることを踏まえて、着手金と報酬金の組立てを設計します。勝訴した場合には、報酬のうち相当と認められる額を会社に請求できる仕組みがある点も踏まえて御説明いたします。
いま確認していただきたいこと
本日のうちに、次のことを確認してください。
- 定款を確認し、株式に譲渡制限が付されているかを見てください。付されていれば公開会社ではなく、6か月の保有の要件は適用されません。
- 株式を取得した時期と経緯を書き出してください。相続、贈与、出資のいずれであるかによって、確認すべき資料が変わります。
- 直近3期分の決算書類を集めてください。役員報酬、貸付金、地代家賃の科目に着目してください。
- 監査役が設置されているかを、商業登記事項証明書で確認してください。提訴の請求の宛先が変わります。
- 疑わしいと感じた出来事を、時期とともに時系列で書き出してください。最初の打合せがそのまま進みます。
よくあるご質問
1株しか持っていませんが、提起できますか。
責任追及等の訴えには持株比率の要件がありませんので、1株であっても提訴の請求をすることができます。ただし、単元未満株式については定款で権利の行使を制限できる場合がありますので、定款を確認いたします。
勝訴しても自分にはお金が入らないのに、費用をかける意味がありますか。
取り戻された金銭は会社に入りますが、その分だけ会社の財産が増え、株式の価値が回復します。また、勝訴した場合には、必要な費用と弁護士報酬のうち相当と認められる額を会社に請求することができます(会社法第852条第1項)。株式の買取交渉と一体で進めることで、実質的な回収につなげる組立ても可能です。
会社から担保を立てるよう求められたら、どうなりますか。
被告が担保の提供を求めるには、訴えの提起が悪意によるものであることを疎明しなければなりません(会社法第847条の4第3項)。資料に基づく具体的な主張を積み上げていれば、この疎明は容易ではありません。申立てがされた場合には、これに反論いたします。
会社と全面的に争うことになりますか。
形式上の被告は役員個人であり、会社そのものではありません。実際には、責任追及の手続を契機として、株式の買取りを含む話合いが始まることが少なくありません。全面的な対決だけが結末ではないという点は、御理解いただきたい点です。
おわりに
会社の財産が経営を担う一族のために使われている、と感じておられても、その感覚だけでは何も動きません。動かすためには、どの行為が、どの役員の、どのような責任に当たるのかを、資料に基づいて特定する作業が必要です。その作業を経れば、提訴の請求という形で、会社に応答を義務付けることができます。
60日という期間は、会社に与えられた猶予であると同時に、株主の側が準備を整える時間でもあります。まずはお手元の決算書類と、これまでの経緯をお聞かせください。何が争えて、何が争えないのかを、具体的に申し上げます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
株主代表訴訟に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
- 会社法第847条第1項(責任追及等の訴えの提起の請求、6か月の保有)
- 会社法第847条第2項(公開会社でない株式会社における保有期間の要件の不適用)
- 会社法第847条第3項(60日以内に訴えが提起されない場合の株主による提起)
- 会社法第847条第4項(訴えを提起しない理由の通知)
- 会社法第847条第5項(回復することができない損害が生ずるおそれがある場合)
- 会社法第847条の4第1項(訴訟の目的の価額の算定)
- 会社法第847条の4第2項、第3項(担保提供命令及び悪意の疎明)
- 会社法第852条第1項(費用及び弁護士報酬の請求)
- 会社法第852条第2項(敗訴した株主の責任)
- 会社法第853条第1項(再審の訴え)
- 会社法第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
- 会社法第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)
- 民事訴訟費用等に関する法律第4条第2項及び別表第一(訴訟の目的の価額及び手数料)
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