株式買取請求権裁判例分析1(セイコーフレッシュフーズ事件)

株式買取請求権裁判例分析1(セイコーフレッシュフーズ事件最高裁判所決定)

非上場会社の吸収合併に際して、少数株主である反対株主から株式買取請求権(会社法785条1項)が行使された事案です。

裁判所は、株式の価値の評価方法として収益還元法を採用し、これを用いて株式の買取価格を決定することとしました。

この場合に、非流動性ディスカウント(当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価)を行うことの可否が争われました。

本稿で取り上げるのは、最高裁判所第一小法廷平成27年3月26日決定(平成26年(許)第39号 株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件、最高裁判所民事判例集69巻2号365頁、金融・商事判例1470号8頁)です。その原々審は札幌地方裁判所平成26年6月23日決定(平成24年(ヒ)第34号 株式買取価格決定申立事件)、原審は札幌高等裁判所平成26年9月25日決定(平成26年(ラ)第151号 株式買取価格決定に対する抗告事件)です。

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本件の事実関係と三審の結論

本件は、吸収合併に反対した株主が、会社法785条1項に基づき自己の株式を公正な価格で買い取るよう請求し、協議が調わなかったため、会社法786条2項に基づき裁判所に価格の決定を申し立てた事案です。消滅会社は、酒類及び飲食料品の卸売等を目的とし、株式の譲渡に取締役会の承認を要する旨の定款の定めを置く非上場会社でした。存続会社とは同一の親会社の子会社同士であり、支配権の移動を伴わないグループ内の組織再編です。

消滅会社の発行済株式総数は3,387,000株、申立人の保有株式数は325,950株(約9.6%)です。合併契約の締結は平成24年6月6日、効力発生日は同年10月1日、合併比率は消滅会社の普通株式6株につき存続会社の普通株式1株です。申立人は、同年8月8日の株主総会に先立って反対を通知し、同総会で反対した上、同年9月12日に買取りを請求しました。

当事者の主張額は隔たっていました。申立人は簿価純資産方式により1株114円と主張し(3億8839万1768円÷3,387,000株=約114円)、相手方は時価による評価換えの後の純資産額を基礎に1株71円と主張しました(2億3869万7766円÷3,387,000株=約70.47円)。

結論は三審で分かれました。札幌地方裁判所は鑑定を採用して1株80円と定め、札幌高等裁判所はこれを是認して抗告を棄却しましたが、最高裁判所は、原決定を破棄し原々決定を取り消した上で1株106円と定めました。分かれ目は、事実認定でも評価手法の選択でもなく、算定された価額から非流動性ディスカウントとして25%の減価を行うことの可否という一点にあります。

株式買取請求権裁判例における株式価値評価方法の選択

収益還元法

※本決定は、反対株主の株式買取請求権の趣旨を、会社組織の基礎に本質的な変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面、これに反対する株主に会社からの退出の機会を与え、退出を選択した株主に企業価値を適切に分配する点にあると捉えています。原々審及び原審は、消滅会社が安定して利益を計上し、その事業が合併後も継続していることから、事業の継続を前提とするインカム・アプローチである利益還元法(最高裁判所はこれを収益還元法と呼んでいます)によることが相当であるとし、最高裁判所も評価手法の選択自体は是認しました。

株式買取請求権裁判例の株式価値評価方法におけるディスカウントの取り扱い

本決定は、非上場会社の反対株主の株式買取請求権に基づく買取価格の決定に際し、収益還元法を用いる場合には非流動性ディスカウントを行うことができないことを明らかにしたものです。その理由は、収益還元法が、将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元して価格を算定する手法であり、類似会社比準法等とは異なり、市場における取引価格との比較という要素を含んでいない点にあります。すなわち、選んだ評価手法に含まれていない要素を後から持ち込んで減価することは相当でない、という理由付けです。あわせて、反対する株主に退出の機会を与え、退出を選択した株主に企業価値を適切に分配するという株式買取請求権の趣旨も、この結論を支える理由として挙げられています。

【判示の要旨】非流動性ディスカウントは、非上場会社の株式に市場性がなく、上場株式に比べて流動性が低いことを理由とする減価です。これに対し、収益還元法は、当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元して株式の現在の価格を算定する手法であり、類似会社比準法等とは異なり、市場における取引価格との比較という要素を含んでいません。
反対株主に公正な価格での株式買取請求権が与えられた趣旨が、会社組織の基礎に本質的な変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面、これに反対する株主に退出の機会を与え、退出を選択した株主に企業価値を適切に分配することにある点も踏まえると、収益還元法により算定された価格について、その手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較によって更に減価することは相当ではありません。
したがって、非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に、非流動性ディスカウントを行うことはできません。以上が本決定の判示の要旨です。

裁判所が示した算定の道筋

原々決定に示された鑑定は、事業の継続を前提とする利益還元法により、過去5事業年度の経常利益から分割譲渡済みの小売部門の損益を除くなどして、正常利益(税引前)を年間4824万2000円と見積もりました。配当の実績が乏しいため配当還元法は、事業計画等の資料がないためDCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)は、それぞれ採られていません。割引率となる株主資本コストは、リスクフリーレート0.774%+(マーケットリスクプレミアム5.5%×β値1.049)+サイズプレミアム3.89%=10.43%です。

この割引率により、繰越欠損金の使用期間である平成25年12月期から平成29年12月期までの税引後正常利益の現在価値を約1億7118万6000円、平成30年12月期以降のそれを約1億9039万6000円とし、合計を約3億6158万3000円としました。ここから非流動性ディスカウント25%を控除して株主価値を2億7118万7000円とし(3億6158万3000円×0.75=2億7118万7000円)、発行済株式総数で除して1株80円としています(2億7118万7000円÷3,387,000株=約80円)。下限を画するものとして併せて示された修正簿価純資産法による価額は1株71円です(2億3869万7000円÷3,387,000株=約71円)。

最高裁判所は、この減価を行わないこととし、株主価値を約3億6158万3000円として1株106円と定めました(3億6158万3000円÷3,387,000株=約106円)。25%の減価の可否のみによって、1株当たり26円、申立人の保有株式数では約847万円の差が生じたことになります。

最高裁判所が示した判断枠組みと本決定の射程

最高裁判所は、会社法786条2項により申立てを受けた裁判所は、株式買取請求権が付与された趣旨に従い、その合理的な裁量によって公正な価格を形成すべきものであるとしました。その上で、どの評価手法を用いるかは裁判所の合理的な裁量に委ねられるとしつつ、一定の評価手法によることとした場合には、その手法の内容及び性格からして考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されない、という歯止めを示しました。原審は、株式の換価が困難であり、そのことが株式の経済的価値自体に影響を与えていると述べて減価を是認していましたが、最高裁判所は、その考慮が採用した評価手法の性格と整合しないと判断したことになります。

価格の決定の基準時については、鑑定事項が、買取請求権の行使日である平成24年9月12日時点の公正な買取価格とされていました。また、原審は、企業価値の増加が生じない場合には、株主総会の決議がされなければその株式が有したであろう価格、いわゆるナカリセバ価格を公正な価格とすべきであるとしています(最高裁判所第三小法廷平成23年4月19日決定・最高裁判所民事判例集65巻3号1311頁参照)。

本決定は、非流動性ディスカウントを一般に否定したものではなく、収益還元法を用いる場面において否定したものです。市場における取引価格との比較を要素とする類似会社比準法等を用いる場合や、譲渡制限株式の売買価格の決定(会社法144条)の場面にまで、そのまま及ぶものではありません。反対株主の株式買取請求権は、多数決による会社組織の基礎の変更に対して退出の機会を保障する制度であり、譲渡制限株式の売買価格の決定とは根拠条文も制度の趣旨も異なります。

参考:裁判例

【セイコーフレッシュフーズ事件 最高裁判所決定】
【裁判所】最高裁判所第一小法廷
【決定年月日】平成27年3月26日
【事件番号】平成26年(許)第39号
【事件の種類】株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
【参照条文】会社法785条1項、会社法786条2項
【掲載誌】最高裁判所民事判例集69巻2号365頁、判例タイムズ1413号95頁、金融・商事判例1470号8頁、判例時報2256号88頁
【判決要旨】非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に、非流動性ディスカウント(当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価)を行うことはできない。

【セイコーフレッシュフーズ事件 原審】
【裁判所】札幌高等裁判所
【決定年月日】平成26年9月25日
【事件番号】平成26年(ラ)第151号
【事件の種類】株式買取価格決定に対する抗告事件
【掲載誌】最高裁判所民事判例集69巻2号403頁、金融・商事判例1466号14頁

【セイコーフレッシュフーズ事件 原々審】
【裁判所】札幌地方裁判所
【決定年月日】平成26年6月23日
【事件番号】平成24年(ヒ)第34号
【事件の種類】株式買取価格決定申立事件
【掲載誌】最高裁判所民事判例集69巻2号382頁、金融・商事判例1466号15頁

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