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相続した非上場株式の売却に備えた価格算定目的の会計帳簿閲覧謄写請求―最高裁判所第一小法廷平成16年7月1日判決

公開 2004年7月1日更新 2026年10月30日

▶ 会計帳簿閲覧謄写請求権と株式売却交渉の関係

相続によって非上場会社の株式を取得した株主が、相続税の支払のための売却に備えて株式の時価を算定したいとして、会社に会計帳簿の閲覧謄写を求めたところ、会社がこれを拒んだ事件の判例です。最高裁判所第一小法廷平成16年7月1日判決は、株式の譲渡に制限のある会社の株主が、株式を譲渡する際の手続に適切に対処するため、株式の適正な価格を算定する目的でした会計帳簿の閲覧謄写請求は、特段の事情がない限り、拒絶事由に当たらないと判断しました。あわせて、請求の理由は具体的に記載すれば足り、その理由を基礎付ける事実が客観的に存在することの立証までは要しないと判断し、相続人の請求を退けた控訴審判決のうち相続人が敗訴した部分を破棄して、東京高等裁判所に差し戻しました。

第一審の東京地方裁判所平成14年4月22日判決と、控訴審の東京高等裁判所平成15年3月12日判決は、いずれも、株式の時価の算定は遺産分割協議に役立てるという株主の地位を離れた個人的な目的であるなどとして、会計帳簿の閲覧謄写の請求を認めませんでした。本記事では、3つの判決を審級の順に読み、どの点で判断が分かれたのかを、株式を手放したい株主、会社から株式の価値を知らされないまま交渉を迫られている株主の視点から整理します。

目次
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 本件で適用された法令
  4. 事案の概要
    1. オーナー経営者が死亡し、妻が株式等の4分の3を相続した
    2. 相続人が自らを権利行使者に選定し、会計帳簿等の閲覧謄写を求めた
    3. 相続人が書面に記載した4つの請求理由
  5. 事案の経緯
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. 相続人MSK氏の請求
    2. 会社側の主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 第一審の判断(東京地方裁判所平成14年4月22日判決)
    1. 相続人は株主として権利を行使できる
    2. 請求の理由を基礎付ける事実の存在が必要とした
    3. 各理由についての判断
    4. 議事録及び計算書類等の請求は認容
  9. 控訴審の判断(東京高等裁判所平成15年3月12日判決)
    1. 死因贈与・生前贈与・権利行使者の選定に関する会社側の主張を退けた
    2. 理由を基礎付ける事実の「証明」までは求めていないと説明した
    3. 株式の時価算定の目的は「純粋に個人的な目的」とした
    4. その他の理由についての判断の補充
    5. 議事録及び計算書類等の請求は、時価算定が目的の一つでも認められるとした
  10. 上告審の判断(最高裁判所第一小法廷平成16年7月1日判決)
    1. 理由を基礎付ける事実の客観的な存在の立証は要件ではない
    2. 株式の売却に備えた時価算定の目的は、拒絶事由に当たらない
    3. 閲覧謄写を認める範囲の審理のため差し戻した
  11. 審級ごとの結論の推移
  12. 主文及び結論
  13. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
  14. よくあるご質問
    1. 相続した非上場株式を売りたいので、株式の価値を知るために会社に会計帳簿の閲覧を求めることはできますか。
    2. 会社が「株価算定書をすでに渡しているから帳簿を見せる必要はない」と言っています。拒絶は認められますか。
    3. 会社の不正を疑っていますが、証拠がありません。それでも閲覧を求められますか。
    4. 遺産分割協議のために株式の評価をしたいという理由でも請求できますか。
    5. 他の相続人と株式を共有している場合、遺産分割が終わる前に請求できますか。
    6. 会社と競業関係にある株主からの請求は拒まれますか。
  15. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 東京地方裁判所民事第8部 平成14年4月22日 平成13年(ワ)第5866号ほか(判決本文の冒頭には第5859号、第5866号、第5872号、第5877号及び第5884号が掲げられています。全13事件の併合審理) 判決 株主総会議事録(社員総会議事録)の閲覧謄写と計算書類等の閲覧・謄本交付の請求を認容。会計帳簿等の閲覧謄写の請求は棄却。訴訟費用は2分し、その1を相続人の負担、その余を会社側の負担
控訴審 東京高等裁判所第5民事部 平成15年3月12日 平成14年(ネ)第3362号 判決 相続人と会社側の双方の控訴を棄却(第一審判決を理由の一部を改めて維持)。控訴費用は13分し、その6を相続人の負担、その余を会社側の負担
上告審 最高裁判所第一小法廷 平成16年7月1日 平成15年(受)第1104号 判決 控訴審判決のうち相続人の敗訴部分を破棄し、その部分を東京高等裁判所に差戻し(裁判官全員一致)

この表は、3つの判決本文の冒頭及び主文の記載に基づいて当事務所が作成したものです。上告審は、相続人の上告受理申立てに基づく判決です。差戻し後の東京高等裁判所での審理の結果、及び事件の最終的な帰結は、確認できていません。また、議事録及び計算書類等の請求を認めた部分について、会社側が控訴審判決に対して不服を申し立てたかどうかは、上告審判決の本文からは確認できていません。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号(原告、被告、上告人、被上告人や、人物・会社を示す英字の記号等)も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。同じ人物・会社について審級ごとに異なる符号が使われている場合も、本記事では同じ表記にそろえています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

本記事の表記 立場
相続人である妻MSK氏 第一審原告・控訴人・上告人。被相続人の妻で、法定相続分は4分の3。相続した株式等について、自らを権利を行使する者に選定した旨を会社側に通知し、会計帳簿等の閲覧謄写を求めました
被相続人であるオーナー経営者HRS氏 化粧品の製造販売を中核とする企業グループを経営していたオーナー経営者。平成12年11月15日に死亡しました
後継者である甥NKT氏 被相続人HRS氏の甥で、グループの後継者とされていた人物。販売会社KTRの代表取締役(判決本文の記載による)
化粧品グループBGR 被相続人HRS氏が経営し、会社側の各社が属していた企業グループ
化粧品販売会社KTR 第一審被告。化粧品、石けん及び医薬品の販売等を目的とする株式会社で、グループの商品販売部門の中核会社
持株会社である有限会社YZK 第一審被告。化粧品事業への投資、不動産の取得・管理等を目的とする有限会社で、グループ全体の持株会社の役割を果たしていました
輸入雑貨販売会社LVE 第一審被告。家具、民芸品、革製品及び毛皮の輸入販売等を目的とする株式会社
印刷会社GTP 第一審被告。各種印刷、図案紙器の製作等を目的とする株式会社
日用品雑貨製造販売会社HJM 第一審被告。日用品雑貨、服飾品の製造、販売及び輸出入等を目的とする株式会社
日用雑貨・食品製造販売会社QRT 第一審被告。日用雑貨、服飾品等、食品の製造販売等を目的とする株式会社
化粧品製造会社WDN 第一審被告。グループの商品製造部門の中核会社。相続人MSK氏はこの会社について会計帳簿等の閲覧謄写を求める資格(議決権の100分の3以上)を有しておらず、議事録及び計算書類等の請求の相手方でした
グループ内の不動産会社FDS グループ各社から多額の資金を借り入れていた株式会社。訴訟の当事者ではありません
美術振興財団ABZ グループ各社が所有する美術品の寄託先である財団法人
文化振興財団DBZ 会社側が、被相続人HRS氏から株式等の死因贈与を受けたと主張した財団法人の一つ

会計帳簿等の閲覧謄写の請求は、化粧品製造会社WDNを除く6社(化粧品販売会社KTR、持株会社YZK、輸入雑貨販売会社LVE、印刷会社GTP、日用品雑貨製造販売会社HJM、日用雑貨・食品製造販売会社QRT)に対するものです。上告審の当事者(被上告人)も、この6社です。以下、6社をまとめて「会社側」ということがあります。

本件で適用された法令

本件は、平成17年の会社法制定前の事件で、判決は、改正前の商法第293条ノ6及び第293条ノ7、並びに有限会社法第44条ノ2及び第46条を適用しています。改正前の商法第293条ノ6は、総株主の議決権の100分の3以上を有する株主が、理由を付した書面によって会計帳簿等の閲覧謄写を請求できることを定め(有限会社では総社員の議決権の10分の1以上)、同法第293条ノ7は、会社が閲覧謄写を拒むことができる場合を定めていました。

3つの判決で争われたのは、同条第1号のうち「株主ガ株主ノ権利ノ確保若ハ行使ニ関シ調査ヲ為ス為ニ非ズシテ請求ヲ為シタルトキ」(上告審判決はこれを「第1号所定の拒絶事由」と呼んでいます)に当たるかどうかでした。会社と競業関係にある株主からの請求を拒むことができる場合などの他の拒絶事由は、3つの判決のいずれでも判断の対象とされていません。

現在は、会計帳簿の閲覧謄写請求は会社法第433条に定められています。本記事の「判断の射程」及び「よくあるご質問」で現在の会社法に触れる部分は、当事務所の説明であり、判決が現在の会社法について判断したものではありません。

事案の概要

オーナー経営者が死亡し、妻が株式等の4分の3を相続した

被相続人HRS氏は、父から持株会社YZKの持分や化粧品販売会社KTRの株式等を相続し、その後も多数の関連会社を設立して、化粧品グループBGRを発展させてきたオーナー経営者でした。相続人MSK氏は、昭和39年3月25日にHRS氏と婚姻した妻です。

上告審判決によれば、HRS氏は、会社側6社について、発行済株式総数又は総出資口数の4.6%から45%に当たる株式又は持分を保有していました(例えば、持株会社YZKの持分は15万3,720口で、総出資口数の38.4%でした)。HRS氏は平成12年11月15日に死亡し、これらの株式及び持分(以下「本件株式等」といいます)は、MSK氏を含む法定相続人4名の準共有の状態となりました。MSK氏の準共有持分は4分の3で、他の3名の相続人はそれぞれ12分の1です。

持株会社YZK以外の5社は、いずれも、定款で株式の譲渡に取締役会の承認を要すると定めている株式会社です。株式に市場価格はありません。

相続人が自らを権利行使者に選定し、会計帳簿等の閲覧謄写を求めた

MSK氏は、平成13年2月4日ころ、会社側に対し、本件株式等について株主又は社員の権利を行使すべき者に自らを選定した旨を通知しました。そのうえで、会社側6社に対し、平成3年1月1日以降に作成された仕訳帳、会計伝票、総勘定元帳、補助元帳、預金出納帳、現金出納帳、売掛金台帳、買掛金台帳、手形台帳、固定資産台帳、有価証券台帳及び絵画台帳(以下「本件会計帳簿等」といいます)の閲覧謄写を求めました。あわせて、化粧品製造会社WDNを含む7社に対し、平成8年以降の株主総会議事録(社員総会議事録)の閲覧謄写と、計算書類等の閲覧及び謄本の交付を求めました。

一方、グループの経営は、HRS氏の甥で後継者とされていたNKT氏が担っており、第一審判決の記載によれば、相続人MSK氏の主張では、グループは同氏と対立する関係になっていました。会社側は、HRS氏が死亡前に本件株式等をNKT氏や財団に死因贈与していたから、MSK氏は株主ではないと主張し、仮に株主であっても請求は権利の濫用であると主張しました。

相続人が書面に記載した4つの請求理由

上告審判決は、相続人MSK氏が閲覧謄写を請求するに当たって書面に記載した理由を、次の4つに整理しています(以下は判決本文の記載の要約です。金額は判決本文に記載された相続人側の主張です)。

請求理由 書面に記載された内容
理由1(無担保融資の調査) グループ内の不動産会社FDSは、会社側4社から無担保融資(販売会社KTRから317億7,200万円、持株会社YZKから99億5,000万円など)を受けていたが、後継者NKT氏に多額の無担保融資をしたため財務状況が悪化し、回収不能のおそれが生じた。4社の融資は違法、不当であり、適正な監視監督のために閲覧謄写が必要である
理由2(株式等の時価算定) 遺産分割協議及び相続税支払のための売却に備え、相続により取得した本件株式等の時価を適正に算定するために、閲覧謄写が必要である
理由3(美術品取得の調査) 販売会社KTRは簿価約47億8,117万円、持株会社YZKは簿価約154億9,229万円の美術品を所有し、美術振興財団ABZに寄託している。多額の美術品を非営利目的で取得することは会社財産を著しく減少させるおそれが高いから、美術品の内容・数量、購入時期・金額、購入の相手方等を調査する必要がある
理由4(株式譲渡の調査) 持株会社YZKは、平成12年12月11日、保有する不動産会社FDSの株式73万5,000株を、後継者NKT氏に代金合計73万5,000円(1株1円)で売却した。この譲渡は不当な安値であり、会計処理の内容と株式の取得価格等を調査する必要がある

第一審及び控訴審では、相続人MSK氏は、これらのほかに、帳簿の改ざんの可能性、被相続人HRS氏とグループ各社との間の貸借関係の解明、HRS氏の個人財産が会社の財産として計上されている可能性、株式評価の不自然な低下の原因の調査なども、閲覧謄写の理由として主張していました。

事案の経緯

時期 出来事(判決本文の記載による)
昭和39年3月25日 相続人MSK氏が被相続人HRS氏と婚姻
平成12年10月4日 HRS氏が自宅の火災で重傷を負い入院
平成12年10月12日 見舞いに来た後継者NKT氏との筆談の際、HRS氏がノートに株式の移転に関するメモ(本件筆談メモ)を記載
平成12年11月15日 HRS氏が死亡。本件株式等が相続人4名の準共有となる
平成12年12月11日 持株会社YZKが、保有する不動産会社FDSの株式73万5,000株をNKT氏に1株1円で売却(同月29日引渡し)
平成13年2月4日ころ MSK氏が、自らを権利行使者に選定した旨を会社側に通知
平成13年9月14日 化粧品製造会社WDNが不動産会社FDSに123億5,000万円を貸し付け、同日、FDSがNKT氏に122億円等を貸し付ける(第一審判決の認定)
平成14年4月22日 東京地方裁判所が、議事録及び計算書類等の請求を認容し、会計帳簿等の請求を棄却する判決
平成15年3月12日 東京高等裁判所が、双方の控訴を棄却する判決
平成16年7月1日 最高裁判所第一小法廷が、控訴審判決のうち相続人の敗訴部分を破棄し、東京高等裁判所に差し戻す判決

当事者の請求と主要な主張

相続人MSK氏の請求

相続人MSK氏は、会社側6社に対し本件会計帳簿等の閲覧謄写を、化粧品製造会社WDNを含む7社に対し株主総会議事録(社員総会議事録)の閲覧謄写と計算書類等の閲覧・謄本交付を求めました。株式の時価算定の必要性について、MSK氏は、第一審で、相続税として200億円の納税義務を負うこととなったが、それだけの個人資産はなく、遺産分割協議を早期に成立させるためには本件株式等の価値を評価しなければならず、閉鎖会社である会社側の株式の評価のために会計帳簿を閲覧謄写する必要があると主張しました。

控訴審では、株主等が保有する株式等の時価について評価を受けることは株主等の基本的な権利であり、本件ではその評価がたまたま遺産分割協議の場でされているにすぎないこと、遺産分割協議は実質的には会社側に対する企業支配権の帰属をめぐって争われているもので、純粋に個人的な利益のためではないこと、会社側から交付された株価算定書等の資料だけでは適切な時価算定は不可能であることも主張しました。

会社側の主張

会社側は、まず、被相続人HRS氏が平成12年10月12日に本件株式等を財団と後継者NKT氏に死因贈与したから、MSK氏は株主ではないと主張しました。控訴審では、予備的に生前贈与があったこと、MSK氏の権利行使者の選定通知は相続人全員の一致によるものではなく無効であることも主張しています。

会計帳簿等の請求については、株式の時価算定という純個人的利益のための請求であって共益権に基づく閲覧請求権の目的に合致しない、不正行為のおそれがないのに請求している、時価算定の目的を達成するのに十分な株価算定書、参考資料、会社関係書類等を既に任意に交付しているから閲覧謄写の必要性はない、と主張しました。控訴審では、グループで相互に関連した事業を営んでいる場合、1社の会計帳簿等から探知し得る企業秘密はその会社だけにとどまらず、開示されるとグループ全体に計り知れない損害が生じるおそれがあるとも主張しています(この主張は、議事録及び計算書類等の請求が権利の濫用であるとの主張の中でされたものです)。

結論を左右した争点

相続人MSK氏が株主として権利を行使できる地位にあるかどうか(死因贈与の有無、権利行使者の選定の効力)は、第一審と控訴審でいずれもMSK氏の主張どおりに判断されました。そのため、会計帳簿等の請求の結論を左右したのは、次の2点です。

  1. 会計帳簿等の閲覧謄写を請求する株主は、請求の理由を具体的に記載すれば足りるのか、それとも、その理由を基礎付ける事実が客観的に存在すること(例えば、不正な融資のおそれがあること)まで示す必要があるのか。
  2. 相続した非上場株式の売却に備えて、その時価を算定する目的でする請求は、株主の権利の確保又は行使に関する調査のための請求といえるのか、それとも株主の地位を離れた個人的な目的のための請求として拒絶事由に当たるのか。

第一審と控訴審は、いずれの点でも株主に厳しい立場を採りましたが、上告審は2点とも反対の立場を採り、結論を変えました。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

第一審の判断(東京地方裁判所平成14年4月22日判決)

相続人は株主として権利を行使できる

第一審判決は、本件筆談メモの体裁、記載内容等に照らし、これによって被相続人HRS氏が本件株式等を死因贈与する旨を確定的に意思表示したとは認められないとして、死因贈与を否定しました。そして、MSK氏が法定相続分4分の3を有する相続人であり、自らを権利行使者として会社側に通知したこと、遺産分割が未了であることから、MSK氏は株主としての権利を行使し得る地位にあると判断しました。

請求の理由を基礎付ける事実の存在が必要とした

第一審判決は、会計帳簿の閲覧請求について、次のような一般論を示しました。

「株主が会計帳簿の閲覧を求める場合には、株主は、会社に対し、閲覧の対象となる帳簿を特定できる程度に当該帳簿の閲覧を求める理由を具体的に示すことが必要であり、かつ、その理由を基礎づける事実が存在していることが必要であると解される。」

さらに、株主が正当な権利行使のために必要な程度を超えて会計帳簿等の閲覧請求をすることは権利の濫用に当たり、株主の権利の確保もしくは行使に関し調査をするためとはいえないとしました。この枠組みに基づき、相続人の主張した理由を一つずつ退けています。

各理由についての判断

  • 不正な貸付の調査。化粧品製造会社WDNが不動産会社FDSに123億5,000万円を貸し付け、同日FDSが後継者NKT氏らに貸し付けた事実は認めました。しかし、MSK氏が議決権の100分の3以上を有する株主として閲覧謄写を求め得るのはWDNを除く会社に対してであり、この貸付はWDN以外の会社には関わりがないこと、多額の相続税の支払資金が必要な状況であるという事実だけではWDN以外の会社から不正な貸付がされた可能性は認められないことから、前提事実を欠くとしました。
  • 株式の時価算定。遺産分割協議を成立させるための株式等の評価という目的は、「株主たる地位を離れた純枠に個人的な遺産分割協議に役立てる目的による閲覧謄写請求は株主としての権利行使のためとはいえない。」と述べました(「純枠」は判決本文の表記のままです)。加えて、MSK氏が、基礎資料を添付した会社側各社の株価算定書、グループ各社が所有する不動産の調査報告書、計算書類等の評価資料を既に相当程度入手していること、請求する帳簿の範囲と量に照らし、株主としての正当な権利行使に当たらないとしました。
  • 株式評価の不自然な低下。平成6年当時にグループの専務取締役が作成した書面における評価額と、HRS氏の死後に作成された株価算定書の評価額との違いを問題とする主張は、理由が抽象的であるうえ、帳簿を閲覧しても専務取締役の認識が明らかになるわけではないとして、閲覧謄写の理由にならないとしました。
  • 帳簿の改ざん。輸入雑貨販売会社LVEの帳簿の一部が紛失したとの説明を受けたという主張について、「出力印刷した紙の一部が紛失しているからといってそれだけでデータが改ざんされていると推認することは到底できない。」とし、改ざんのおそれは認められないとしました。
  • 被相続人の借入金・個人財産の調査。「〔被相続人HRS氏〕の相続人として〔被相続人HRS氏〕の遺産内容を把握することは、〔会社側〕の株主としての権利とは無関係のことである」として、閲覧謄写の理由にならないとしました。

議事録及び計算書類等の請求は認容

第一審判決は、MSK氏が株主権を行使し得る地位にある以上、株主として議事録の閲覧謄写と計算書類等の閲覧・謄本交付を求めることができるとして、この部分の請求を認容しました。結論として、会計帳簿等の請求は棄却、議事録及び計算書類等の請求は認容となりました。

控訴審の判断(東京高等裁判所平成15年3月12日判決)

控訴審判決は、第一審判決の理由を引用し、一部の文言を改めたうえで、当審での双方の主張に対する判断を加え、双方の控訴を棄却しました。会計帳簿等の請求を棄却し、議事録及び計算書類等の請求を認容した第一審の結論は、そのまま維持されています。

死因贈与・生前贈与・権利行使者の選定に関する会社側の主張を退けた

控訴審判決は、被相続人HRS氏が後継者NKT氏や財団に株式等を取得させることでグループの事業承継の問題を解決する意図を有していたことは十分にうかがわれるとしつつ、本件筆談メモは判読不明な部分や意味不明な部分を多く含み、ノートに鉛筆で走り書きされた程度のもので、署名、押印、日付等も一切ないことなどから、本件株式等の処分に関する今後の方針を改めて指示した程度のものと認めるのが相当であるとし、死因贈与も生前贈与も認めませんでした。

権利行使者の選定については、準共有者間における権利行使者の選定は、「準共有者の全員一致によることを要するものではなく、持分の価格に従い、その過半数により決することができるものと解するのが相当である」と述べました。そして、相続人間には権利行使の方針をめぐって強い意見の相違と感情の対立があり、選定の協議自体が著しく困難であることがうかがわれ、過半数を優に超える準共有持分を持つMSK氏が他の準共有者と協議することなく通知したとしても、協議がされた場合の選任結果と格別異ならないとして、選任通知を違法なものとまでは認めないとしました。

理由を基礎付ける事実の「証明」までは求めていないと説明した

MSK氏は、第一審判決が理由を基礎付ける事実の証明まで求めたのは誤りであると主張しました。控訴審判決は、第一審判決は事実の証明を必要としたものではなく、帳簿を特定できる程度に理由を具体的に示すことと、その理由を基礎付ける事実が客観的に存在していることを要するとしたものであると説明し、この主張を退けました。営業秘密を流出させるおそれはないというMSK氏の主張についても、次のように述べています。

「本件閲覧謄写請求が、商法第293条ノ7、有限会社法第46条第1項における開示を拒否すべき場合に該当するか否かを、請求の理由ごとに具体的に検討することにより判断されるべき事項である。」

株式の時価算定の目的は「純粋に個人的な目的」とした

株式等の評価を受けることは株主の権利である、遺産分割協議は企業支配権の帰属をめぐる争いであるというMSK氏の主張に対し、控訴審判決は、次のように判断しました(判決本文の文言のままです)。

会計帳簿等の閲覧謄写を求める理由が株式等の評価のためであっても、それが株主たる地位を離れた純粋に個人的な目的に基づくものであるならば、「株主が株主の権利の確保若しくは行使に関し調査をなすために非ずして」なされたものとして、閲覧謄写が許されないというべきである

そして、MSK氏が主張する閲覧謄写の目的は、結局のところ遺産分割協議の進展を図ることにあり、純粋に個人的な目的に当たるとし、相続税の納付や交付済み資料の不十分さを考慮しても同様であるとしました。

その他の理由についての判断の補充

  • グループ内の融資の監視。不動産会社FDSに対する多額の無担保の貸付けがあることを前提に、財務状況の把握や経営の監視のために閲覧謄写が必要であるとの主張に対し、「第一審原告が第一審被告らの財務状況を把握するためには、計算書類等の閲覧謄写で足りるものというべきであり、それ以上に本件帳簿等の閲覧謄写までを要すると認めるべき理由は見当たらない。」と述べました(「第一審原告」は相続人MSK氏、「第一審被告ら」は会社側を指します)。さらに、取締役の責任追及のためであれば、被相続人HRS氏がグループ全体の実質的な運営者として貸付けに深く関与していたことがうかがわれるから、その地位を承継したMSK氏が不当を主張することは信義則上も疑問とする余地があるとし、会計帳簿等の閲覧謄写請求は「株主が、取締役に代わって会社経営ないし事業運営を図るために認められた制度ではない」とも述べて、第1号所定の拒絶事由に当たるとしました。
  • 美術品の取得。グループの企業理念や化粧品の製造販売を中核とする事業の性格から、美術品を非営利目的で取得し財団を通じて公開することが営業目的に反するとは解されず、取得が経営を圧迫した事情も見当たらないとして、美術品の取得は経営の裁量に任された事項で違法ではないとしました。そのうえで、この理由による請求は、第1号所定の場合に準じ、権利の濫用に当たるとしました。
  • 1株1円での株式譲渡。不動産会社FDSの株式は市場価格が存在しないこと、FDSは平成13年9月当時に概ね245億円程度の債務超過の状態にあったこと、平成12年11月15日時点の純資産価額(相続税評価額)が1株当たり0円となること、HRS氏自身も同年6月にFDSの株式を1株1円でNKT氏に売り渡していたことなどから、「〔不動産会社FDS〕の株式の価値は実質的に零であったものといわざるを得ない」とし、1株1円の売却は違法とは認められず、この理由による請求は第1号所定の場合に当たるとしました。
  • その他の理由。他の会社による融資の可能性、帳簿の改ざん、HRS氏と会社の経理・財産の混同、評価の不自然な低下、他の不当な金銭供与や財産流出の可能性は、いずれも認めるに足りる証拠がないなどとして退けました。

議事録及び計算書類等の請求は、時価算定が目的の一つでも認められるとした

会社側は、議事録及び計算書類等の請求も、株式の時価算定という純個人的利益のためのもので権利の濫用であると主張しました。控訴審判決は、議事録及び計算書類等については、会計帳簿等のように閲覧謄写を拒否できる場合が法令上特に定められていないから、「その請求が会社を害する目的のためになされるなど正当な目的によるものではなく、権利を濫用するものと認められる場合を除き、株主等の利益のため広く許容されるべきである。」と述べました。そして、MSK氏の請求は、仮に本件株式等の時価算定をその目的の一つとするものであったとしても、正当な目的によるものでないとはいえないとして、会社側の主張を退けました。グループ全体の企業秘密に関する会社側の主張も、権利の濫用と断定することは困難であるとして採用していません。

上告審の判断(最高裁判所第一小法廷平成16年7月1日判決)

上告審判決は、相続人MSK氏の上告受理申立て理由(排除されたものを除きます)について判断し、控訴審の判断は是認することができないとしました。第一審及び控訴審の判断を変更したものです。

理由を基礎付ける事実の客観的な存在の立証は要件ではない

上告審判決は、控訴審判決が、請求の理由を具体的に示すことに加えて、その理由を基礎付ける事実が客観的に存在していることが必要であるとした点について、次のように判断しました。

「上記の請求の理由は、具体的に記載されなければならないが、上記の請求をするための要件として、その記載された請求の理由を基礎付ける事実が客観的に存在することについての立証を要すると解すべき法的根拠はない。」

そのうえで、無担保融資(理由1)、美術品の取得(理由3)、1株1円の株式譲渡(理由4)の各記載について、それぞれ、融資の時期・内容(貸付け条件、弁済期等)、美術品の購入の時期・内容(代金、相手方等)、株式譲渡に係る会計処理の内容と譲渡された株式の取得価格等を調査する必要があることをいうものと解されるから、閲覧謄写を請求する理由の記載として「その具体性に欠けるところはない」としました。また、これらの請求について第1号所定の拒絶事由に該当すると認めるべき相当の理由があると解すべき事情は存在しないとし、信義則の点についても、次のように述べました。

「また、〔被相続人HRS氏〕が本件貸付けに深く関与していたとしても、そのことをもって直ちに〔相続人MSK氏〕の前記の理由〈1〉による本件会計帳簿等の閲覧謄写請求が信義則に違反するものということはできない。」

控訴審は、美術品の取得は違法ではない、1株1円の譲渡も違法ではないと実体の判断をしたうえで請求を退けていましたが、上告審判決は、請求の段階でそのような事実の立証を要件とすることを否定したことになります。

株式の売却に備えた時価算定の目的は、拒絶事由に当たらない

上告審判決は、理由2について、「遺産分割協議のためという点はともかくとして」、相続税支払のための売却に備え、相続により取得した本件株式等の時価を適正に算定するために閲覧謄写をする必要があるという理由も掲げており、その具体性に欠けるところはないとしました。そのうえで、株式等の売却に備えてその時価を算定するための請求が第1号所定の拒絶事由に該当するかどうかを検討しています。

上告審判決は、まず、定款で株式の譲渡に取締役会の承認を要すると定めている株式会社の株主が株式を譲渡しようとするときは、会社に対して譲渡の承認又は他の譲渡の相手方の指定を請求し、指定された者との間で売買価格の協議が調わないときは裁判所に売買価格の決定を請求できるなど、一連の手続が法定されていることを確認しました(有限会社の社員が持分を社員以外の者に譲渡しようとする場合も同様です)。そして、次のように述べています。

「当該株主又は社員において、上記の手続に適切に対処するためには、その有する株式又は持分の適正な価格を算定するのに必要な当該会社の資産状態等を示す会計帳簿等の閲覧等をすることが不可欠というべきである。」

この理解を前提に、上告審判決は次の判断を示しました。本判決の中心となる判示です。

「株式の譲渡につき定款で制限を設けている株式会社又は有限会社において、その有する株式又は持分を他に譲渡しようとする株主又は社員が、上記の手続に適切に対処するため、上記株式等の適正な価格を算定する目的でした会計帳簿等の閲覧謄写請求は、特段の事情が存しない限り、株主等の権利の確保又は行使に関して調査をするために行われたものであって、第1号所定の拒絶事由に該当しないものと解するのが相当である。」

そして、特段の事情の存在がうかがえない本件では、相続により取得した本件株式等の売却に備え、その適正な価格を算定するために必要であるとして行った閲覧謄写請求は、第1号所定の拒絶事由に該当しないとしました。

閲覧謄写を認める範囲の審理のため差し戻した

上告審判決は、以上の各点で控訴審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとし、控訴審判決のうち相続人MSK氏の敗訴部分を破棄しました。もっとも、請求をそのまま認容したのではなく、次の理由で東京高等裁判所に差し戻しています。

「本件については、閲覧謄写を認めるべき会計帳簿等の範囲等について更に審理を尽くさせる必要があるから、上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。」

上告審判決は、裁判官全員一致の意見によるものです。上告審判決は、第一審・控訴審が退けた他の理由(帳簿の改ざん、被相続人と会社の財産の混同等)や、権利行使者の選定の効力については、判断を示していません。

審級ごとの結論の推移

論点 第一審(東京地方裁判所) 控訴審(東京高等裁判所) 上告審(最高裁判所第一小法廷)
株主として権利を行使できるか 死因贈与を否定し、行使できるとした 維持。生前贈与も否定し、過半数による権利行使者の選定を有効とした 判断なし
請求理由を基礎付ける事実の存在 必要とした 維持(証明を求めたものではないと説明) 変更。立証を要すると解すべき法的根拠はないとした
株式の時価算定の目的 遺産分割協議のための個人的な目的で、権利行使のためとはいえないとした 維持。純粋に個人的な目的で第1号の拒絶事由に当たるとした 変更。売却に備えて適正な価格を算定する目的は、特段の事情がない限り第1号の拒絶事由に当たらないとした
融資・美術品・株式譲渡の調査 融資は前提事実を欠くとした いずれも第1号の拒絶事由に当たる(美術品は準ずる権利の濫用)とした 変更。理由の記載に具体性に欠けるところはなく、拒絶事由に当たると認めるべき事情もないとした
会計帳簿等の請求の結論 棄却 相続人の控訴を棄却 相続人の敗訴部分を破棄し、閲覧謄写を認める範囲等の審理のため差戻し
議事録及び計算書類等の請求の結論 認容 会社側の控訴を棄却 上告審判決では判断されていません

主文及び結論

上告審判決の主文は、「原判決中上告人敗訴部分を破棄する。」「前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。」というものです(「上告人」は相続人MSK氏を指します)。会計帳簿等の閲覧謄写の請求について、第一審と控訴審が相続人を敗訴させた判断は改められ、閲覧謄写を認めるべき会計帳簿等の範囲等について、東京高等裁判所で審理がやり直されることになりました。

控訴審判決の主文は、「第一審原告及び第一審被告らの本件各控訴を棄却する。」というもので、第一審判決の主文は、会社側に対し議事録の閲覧謄写と計算書類等の閲覧・謄本交付を命じ、その余の請求(会計帳簿等の請求)を棄却するものでした。

判断の射程

以下は、3つの判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。最終的な判断である上告審判決を基準とし、第一審・控訴審の判断のうち上告審で改められた点は、その旨を明示しています。

参考となる点

  • 株式を手放すための価格算定は、株主の権利の行使に関する調査に当たり得ること。上告審判決は、譲渡制限のある株式を譲渡しようとする株主が、譲渡承認や買取人の指定、売買価格の協議・決定という手続に適切に対処するために、株式の適正な価格を算定する目的でする請求を、特段の事情がない限り拒絶事由に当たらないとしました。会社から低い価格を示されて株式の買取りを持ちかけられている株主や、会社に株式を買い取ってもらいたいと考えている非上場会社の株主にとって、会計帳簿の閲覧謄写を求める根拠となる判断です。第一審・控訴審が採った、株式の評価は株主の地位を離れた個人的な目的であるという考え方は、少なくとも売却に備えた価格算定の目的については、上告審で改められました。
  • 請求の理由は具体的に書けば足り、不正の証明までは求められないこと。上告審判決は、記載された理由を基礎付ける事実が客観的に存在することの立証は請求の要件ではないとしました。控訴審は、美術品の取得や1株1円の株式譲渡が違法でないと認定して請求を退けていましたが、上告審はそのような判断の仕方を採りませんでした。株主の側からみれば、会社の不正を疑う場合に、まず会計帳簿を見なければ不正の有無を確かめられないという状況に対応した判断であると当事務所は考えています。ただし、理由は、調査したい取引や事項(時期、内容、金額、相手方等)が分かる程度に具体的に記載する必要があります。
  • 理由の書き方が結論に影響すること。上告審判決は、相続人の書面に「遺産分割協議」だけでなく「相続税支払のための売却に備え」と記載されていたことを取り上げて、具体性に欠けるところはないとしています。閲覧謄写の請求書には、株式の売却や会社への買取請求に備えて価格を算定する必要があるといった、株主としての権利行使とのつながりが分かる理由を記載しておくことが重要です。
  • 相続で株式を準共有している場合でも請求できる場合があること。控訴審判決は、準共有持分の過半数を有する相続人が、他の相続人と協議しないまま自らを権利行使者として通知した場合でも、本件の事情の下では違法とまではいえないとしました。この点は上告審で判断されていませんが、遺産分割が終わっていない段階でも、権利行使者を定めて会社に通知すれば、株主としての請求をする道があることを示しています。

一般化できない点

  • 上告審判決が拒絶事由に当たらないとしたのは、「株式の譲渡につき定款で制限を設けている」会社の株主が、株式を「他に譲渡しようとする」場合に、法定の手続に適切に対処するため適正な価格を算定する目的でした請求です。株式を譲渡する予定がなく、単に保有株式の価値を知りたいという場合にまで、同じ判断がされるとは限りません。
  • 上告審判決は「遺産分割協議のためという点はともかくとして」と述べており、遺産分割協議のためだけの価格算定が拒絶事由に当たるかどうかについては判断していません。この点についての第一審・控訴審の判断(純粋に個人的な目的であるとするもの)は、上告審で正面から否定されたわけではありません。
  • 上告審判決は「特段の事情が存しない限り」としており、どのような事情が特段の事情に当たるかは示していません。
  • 上告審判決は、会計帳簿等の閲覧謄写を認めるべき範囲について更に審理を尽くさせるため差し戻しており、相続人の求めた平成3年以降の会計帳簿等の全部について閲覧謄写を認めたものではありません。第一審判決は、株価算定書や計算書類等の評価資料を既に相当程度入手していたことや請求の範囲・量を考慮していましたが、差戻し後にこれらの事情が範囲の判断にどう影響したかは確認できていません。
  • 会社と競業関係にある株主からの請求など、第1号以外の拒絶事由は、3つの判決のいずれでも判断されていません。会社側は、グループ全体の企業秘密が流出するおそれを主張しましたが、それは議事録及び計算書類等の請求に対する権利の濫用の主張としてされたもので、控訴審判決はこれを採用しませんでした。
  • 本件は改正前の商法及び有限会社法の下での判断です。現在の会社法の下での会計帳簿の閲覧謄写請求や譲渡制限株式の譲渡手続にどのように当てはまるかは、当事務所の評価として個別に検討する必要があります。
  • 本件の相続人は、持分4分の3を有する相続人で、会社側6社について議決権の100分の3以上(有限会社については10分の1以上)を有していました。会計帳簿等の閲覧謄写を求める資格を有していなかった化粧品製造会社WDNについては、会計帳簿等の請求自体がされていません。

相続した非上場株式の売却は、次のページでご案内しています。

よくあるご質問

相続した非上場株式を売りたいので、株式の価値を知るために会社に会計帳簿の閲覧を求めることはできますか。

本判決は、株式の譲渡に制限のある会社の株主が、株式を譲渡する際の手続に適切に対処するため、株式の適正な価格を算定する目的でした会計帳簿の閲覧謄写請求は、特段の事情がない限り拒絶事由に当たらないとしました。本件の相続人も、相続税支払のための売却に備えて時価を算定するという理由で請求しています。もっとも、閲覧謄写を求めるには一定割合以上の議決権が必要であり(本件当時の商法では総株主の議決権の100分の3以上)、閲覧謄写が認められる範囲も別に問題となります。

会社が「株価算定書をすでに渡しているから帳簿を見せる必要はない」と言っています。拒絶は認められますか。

本件の第一審判決は、相続人が株価算定書や計算書類等の評価資料を既に相当程度入手していたことも、請求を退ける理由の一つとしていました。上告審判決は、価格算定の目的による請求は拒絶事由に当たらないとしたうえで、閲覧謄写を認めるべき会計帳簿等の範囲等については審理を尽くさせるため差し戻しています。会社側が作成した資料を受け取っていることだけで請求が退けられるわけではないと考えられますが、どの帳簿をどの期間について求めるのかは、価格算定にとっての必要性を説明できるように整理しておくことが大切です。

会社の不正を疑っていますが、証拠がありません。それでも閲覧を求められますか。

上告審判決は、請求の理由は具体的に記載しなければならないが、その理由を基礎付ける事実が客観的に存在することの立証は請求の要件ではないとしました。本件では、グループ会社への無担保融資、多額の美術品の取得、1株1円での株式譲渡について、調査したい事項が分かる程度に記載されていれば具体性に欠けるところはないとされています。不正を断定できなくても、どの取引について何を調べたいのかを具体的に記載することが求められます。

遺産分割協議のために株式の評価をしたいという理由でも請求できますか。

本件の第一審・控訴審は、遺産分割協議のための評価は株主の地位を離れた個人的な目的であるとして、請求を認めませんでした。上告審判決は、「遺産分割協議のためという点はともかくとして」と述べ、売却に備えた価格算定の目的に着目して請求を認める方向の判断をしました。遺産分割協議のためだけの請求について上告審判決は判断していないため、株式の売却や譲渡の手続に備えるという目的があるのであれば、それを請求の理由として明確に記載しておくことが重要です。

他の相続人と株式を共有している場合、遺産分割が終わる前に請求できますか。

本件の相続人は、相続人4名が準共有する株式等について、自らを権利行使者に選定した旨を会社に通知したうえで請求しています。控訴審判決は、権利行使者の選定は準共有者全員の一致を要さず、持分の価格に従った過半数で決することができるとし、協議を経ずにされた通知も本件の事情の下では違法とまではいえないとしました(上告審は、この点について判断していません)。共有の株式について権利を行使するには、権利行使者を定めて会社に通知することが前提になります。

会社と競業関係にある株主からの請求は拒まれますか。

会社と実質的に競争関係にある事業を営む者からの請求は、閲覧謄写を拒むことができる場合として法律に定められています(本件当時の商法第293条ノ7、現在の会社法第433条第2項)。ただし、本件の3つの判決はいずれもこの拒絶事由について判断しておらず、本判決から競業関係の有無の判断基準を導くことはできません。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

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