会計帳簿閲覧謄写請求権は株式売却交渉にどう関係するか

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本ページは、会計帳簿の閲覧謄写請求に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
▶ 少数株主・非上場株主の会計帳簿等閲覧謄写請求権の行使の方法・詳細・流れについて
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非上場会社の少数株主の方が、会社との株式売却交渉を進めるにあたり、会計帳簿閲覧謄写請求権という制度を耳にし、これが交渉にどう役立つのか分からないまま、行使すべきかどうかを迷っておられることがあります。会社が示す株式買取価格の根拠が計算書類だけでは十分に見えてこない、という場面で特に問題となります。
会計帳簿の閲覧及び謄写を請求することにより、役員報酬の内訳、関係会社との取引条件、貸付金や仮払金の内容、資産取得の経緯といった、計算書類だけでは分からない事項を確認できる場合があります。これらは、いずれも株式の価値を検討するうえで重要な手がかりとなり得ます。
本記事では、会計帳簿からどのような事項が分かるのか、及びそれぞれの事項が株式の価値の検討にどう関係するのかを整理して解説します。
会計帳簿からどのような事項が分かるのか
「会計帳簿又はこれに関する資料」の範囲については議論がありますが、総勘定元帳、仕訳帳その他の会計帳簿及びその記載の基礎となる資料が含まれると一般に解されています。具体的にどこまでが対象となるかは、請求の理由との関連性を踏まえて判断されます。
表2 確認の対象となり得る事項
| 事項 | 株式の価値との関係 |
|---|---|
| 役員報酬の内訳 | 利益が社外に流出している程度を把握いたします |
| 関係会社との取引 | 取引条件が通常のものかを検討いたします |
| 貸付金・仮払金の内容 | 回収可能性が資産の評価に影響いたします |
| 資産の取得の経緯 | 不動産等の取得時期は含み損益に関係いたします |
| 売掛金・棚卸資産の内訳 | 回収不能債権及び滞留在庫の有無を確認いたします |
| 保険契約の状況 | 解約返戻金は純資産の評価に関係いたします |
| 偶発債務の端緒 | 保証、係争事件等の有無を確認いたします |
これらはいずれも、純資産に着目する評価においては資産及び負債の修正に、収益に着目する評価においては利益の正常化に関係いたします。評価の枠組みについては、記事「非上場株式の時価純資産法を少数株主側からどう見るか」及び既存記事(裁判所における非上場株式の価格算定方法|評価のポイントを弁護士が解説)に整理しています。
表3 この制度が特に意味を持ちやすい会社の類型
| 類型 | 理由 |
|---|---|
| 支配株主が役員を兼ねている会社 | 利益が役員報酬として社外に流出している可能性があります |
| 関係会社を有する会社 | 取引条件によって損益が移転している可能性があります |
| 不動産を多く保有する会社 | 取得の時期及び経緯が含み損益に関係いたします |
| 長期にわたり無配である会社 | 分配可能額の状況を確認する必要があります |
| 計算書類の内容が簡略な会社 | 附属明細書のみでは内訳が判明いたしません |
逆に、事業の内容が単純で、計算書類及びその附属明細書によって必要な事項を把握できる場合には、この制度によらずとも足りることがあります。手段は目的に応じて選択するものであり、常に会計帳簿の閲覧謄写を行うべきということではありません。
株式の価値の把握と「請求の理由」
請求に際しては、請求の理由を明らかにする必要があります(会社法第433条第1項)。また、権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求が行われたときは、会社はこれを拒むことができます(同条第2項第1号)。
ここで問題となるのが、「非上場株式を売却するに当たって価格を検討したい」という目的が、株主としての権利の確保又は行使に関する調査に当たるかという点です。株式を譲渡することは株主の権利の処分にほかならず、その価格を検討することは権利の行使に関する調査に当たり得ると考えられますが、他方で、会社の側からは投資判断のための調査にすぎないという反論がされることがあります。
この論点についての判断は事案によって分かれますので、請求の理由の記載は、実務上、慎重な検討を要します。記載が抽象的に過ぎれば理由を明らかにしたとはいえないとされ、逆に、対象を過度に広げれば必要性を欠くとされる可能性があります。
なお、請求の理由の記載の具体的な組立て方は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示していません。
売却の協議との関係
会計帳簿の閲覧謄写の請求は、価格の協議を有利に進めるための手段としてではなく、価格を検討するための資料を確保する手段として位置付けられるものです。
表4 資料と協議の関係
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 計算書類等の閲覧により会社の概況を把握いたします |
| 2 | 不足する情報を特定いたします |
| 3 | 要件を満たす場合、会計帳簿の閲覧謄写の請求を検討いたします |
| 4 | 確保した資料を前提に評価の枠組みを検討いたします |
| 5 | 協議において、算定の根拠を示して主張いたします |
| 6 | 協議が調わない場合、会社法上の手続を検討いたします |
会社が価格の算定根拠を示さない場合、株主の側で独自に検討するほかありません。その検討の基礎となるのが資料です。裁判所が価格を決定する場合においても、株式譲渡承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情が考慮されますので(会社法第144条第3項)、資料の有無は判断の基礎に直結いたします。
会社が拒んだ場合
会社が法定の拒絶事由に該当しないにもかかわらず請求に応じない場合には、閲覧又は謄写を求める訴えを提起することが考えられます。事案によっては、仮の地位を定める仮処分の申立てが検討されることもあります。
争いとなる典型的な論点は、請求の理由が具体的に明らかにされているか、請求の対象と理由との関連性があるか、拒絶事由に該当する事情があるか、という点です。特に、請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営んでいる場合には、拒絶事由が問題となります(会社法第433条第2項第3号)。
表5 争点となりやすい事項
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 持株要件 | 基準となる時点における持株数及び議決権の数を確認いたします |
| 請求の理由 | 具体性の程度が問題となります |
| 対象の範囲 | 理由との関連性が認められる範囲に限られると解されています |
| 目的 | 権利の確保又は行使に関する調査であるかが問題となります |
| 競争関係 | 請求者又はその関係者の事業内容が問題となります |
これらはいずれも、請求の前に検討しておくべき事項です。訴訟に至った場合、これらの点についての主張立証が中心となります。したがいまして、請求の段階から、後の手続を見据えた整理が求められます。
弁護士に相談する意味
会計帳簿の閲覧謄写の請求は、要件、対象、理由の記載のいずれについても検討を要する制度です。準備を欠いた請求は、拒絶され、かえって時間を失う結果となりかねません。
弁護士は、株主本人の代理人として、まず持株数の要件と確認すべき事項を整理し、計算書類等の閲覧その他の手段と併せて、資料を確保する道筋を検討いたします。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま手続を進めるものです。
よくあるご質問
質問1 持株比率が100分の3に満たない場合はどうすればよいですか。
計算書類等の閲覧及び謄本の交付の請求には持株数の要件がありません(会社法第442条第3項)。また、他の株主と共同して請求することにより要件を満たすことができると一般に解されています。
質問2 請求すれば必ず見られるのですか。
会社は法定の事由に該当する場合には請求を拒むことができます(会社法第433条第2項)。また、対象の範囲についても争いとなり得ます。結果は事案によって異なります。
質問3 会社との関係が悪化しませんか。
法律上認められた権利の行使ですので、行使自体が違法となるものではありません。もっとも、会社との関係にどのような影響が生ずるかは事案によって異なりますので、他の手段との組合せを含めて検討することとなります。
質問4 謄写の費用は誰が負担しますか。
謄写に要する実費は請求者の負担となるのが通常です。対象の範囲が広いほど費用も増加し、確認に要する時間も長くなりますので、対象の絞り込みは実務上重要です。何を確認する必要があるかを先に定めることが、費用を抑えることにもつながります。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、非上場会社の少数株主の方から、情報開示及び株式の売却に関するご相談をお受けしています。
ご相談の際には、株主であることを示す資料、定款の写し、直近3期分の決算書、会社に対して行った請求の記録、会社から示された価格に関する書面をご用意ください。お手元にない場合でもご相談いただけます。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
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本記事は一般的な法律上の枠組みをご説明するものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。結果を保証するものではありません。課税関係については税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文
会社法 第144条第3項(裁判所による売買価格の決定における考慮事情)、第433条第1項・第2項(会計帳簿の閲覧謄写請求及び拒絶事由)、第442条第3項(計算書類等の閲覧及び謄本の交付の請求)
資料がそろえば、価格の議論は具体的になります。まずは現在お持ちの資料をお持ちください。
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