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【譲渡承認拒否・株式買取請求】時価純資産法を退けDCF法と非流動性ディスカウント30%で売買価格を定めた事例―広島高等裁判所令和3年12月21日決定

公開 2021年12月21日更新 2026年10月30日

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非上場会社の譲渡制限株式を第三者に売却しようとした株主が、会社に譲渡の承認を求めたところ、会社が承認せずに自ら買い取ることとし、その売買価格を裁判所が決めた事件の判例です。会社法の手続でいえば、株主の譲渡承認請求に会社が応じず、会社又は指定買取人が株式を買い取る場合の売買価格決定の手続(会社法144条)に当たり、反対株主の株式買取請求とは別の手続です。

広島地方裁判所福山支部の原決定(平成30年5月25日)は、株主側の主張どおり時価純資産法を採用し、土木工事を営む2社の株式の売買価格を1株当たり1万678円及び5,300円と定めました。これに対し、広島高等裁判所令和3年12月21日決定は、抗告審で実施された鑑定に基づいてDCF法を採用し、さらに30%の非流動性ディスカウントを適用して、売買価格を1株当たり5,266円及び4,514円に変更しました。

本記事では、2つの決定がそれぞれどの評価方法をなぜ採用したのか、抗告審が原決定をどの点で改めたのかを、株式を手放そうとする株主の視点から整理します。

目次
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 同族の株主が、2社の株式を第三者に譲渡しようとした
    2. 会社は譲渡を承認せず、自ら買い取ることとした
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 判断の前提となった手続と評価の方法
    1. 譲渡承認請求から売買価格決定の申立てまで
    2. 決定が整理した3つの評価方法
    3. 企業価値評価ガイドラインが時価純資産法によるべきとする4つの場合
  6. 当事者の申立て及び主要な主張
    1. 第一審での主張
    2. 抗告審での主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が認定した重要な事実
  9. 第一審の判断
    1. ターミナルバリューを加えないDCF法は採用できない
    2. ガイドラインの〈1〉と〈3〉に当たる
    3. 相続税の通達による類似業種比準方式も採用しない
    4. 時価純資産法の個別項目は株主側の評価を採用した
  10. 抗告審の判断
    1. 鑑定意見の内容
    2. 収益予測が合意されていなくても、直ちにネットアセットアプローチによるわけではない
    3. 比較すべき純資産価値は清算価値である
    4. 会社が自ら行った時価評価に拘束されるとの主張も退けた
    5. 時価純資産法は支配株主の株式の評価に用いられるもの
    6. 継続企業の評価はDCF法が最も合理的
    7. 任意に株式を売却する場合には非流動性ディスカウントを適用できる
    8. 原決定の変更
  11. 審級ごとの結論の推移
  12. 主文及び結論
  13. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 株式を手放したい株主が確認しておきたいこと
  14. よくあるご質問
    1. 譲渡制限株式を第三者に売ろうとしたら、会社が買い取ると言ってきました。価格は誰が決めるのですか。
    2. 会社が供託した金額が、そのまま売買価格になるのですか。
    3. 非上場株式は、純資産の額で買い取ってもらえるのが原則ですか。
    4. 会社の事業計画が手続の途中で作られたものなら、DCF法による評価を争えますか。
    5. 非流動性ディスカウントとは何ですか。株式を手放したい株主に必ず適用されますか。
  15. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所・裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審(原決定) 広島地方裁判所福山支部
平成30年5月25日
平成28年(ヒ)第3号(Ⅰ事件)
平成28年(ヒ)第4号(Ⅱ事件)
決定 時価純資産法により、Ⅰ事件の株式を1株当たり1万678円、Ⅱ事件の株式を1株当たり5,300円と決定。手続費用は各自の負担
抗告審 広島高等裁判所
令和3年12月21日
平成30年(ラ)第103号 決定 会社側の抗告に基づき原決定を変更。DCF法と非流動性ディスカウント30%により、Ⅰ事件の株式を1株当たり5,266円、Ⅱ事件の株式を1株当たり4,514円と決定
手続の種類 譲渡制限株式の譲渡承認請求に会社が応じず、会社が買い取る場合の売買価格の決定(会社法144条2項に基づく会社からの申立て)
評価の基準日 平成28年2月17日(株主が譲渡承認請求をした日。抗告審決定による)
上訴の状況 抗告審決定に対する許可抗告等の有無及び確定は確認できていません

この表は、2つの決定の本文の冒頭及び主文の記載に基づいて当事務所が作成したものです。Ⅰ事件とⅡ事件は、対象となる会社が異なる2つの申立てで、第一審から併せて審理されています。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。決定が用いた符号や仮名も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。決定本文を引用する部分で符号が残る場合は、どの当事者を指すかを示しています。

本記事の表記 立場
土木工事会社DKS Ⅰ事件の会社。土木工事業等を目的とする取締役会設置会社で、全株式に譲渡制限の定めがあります。第一審の申立人、抗告審の抗告人です
土木一式工事会社KSK Ⅱ事件の会社。土木一式工事等を目的とする取締役会設置会社で、全株式に譲渡制限の定めがあります。第一審の申立人、抗告審の抗告人です
株主MSK氏 土木工事会社DKSの元代表取締役(故人)の妻。2社の株式を保有していました
株主KZT氏 株主MSK氏の長男。2社の株式を保有していました
株主RYS氏 株主MSK氏の二男。土木工事会社DKSの株式を保有していました
株主MSK氏ら 上記3名(Ⅱ事件では株主MSK氏及び株主KZT氏の2名)。第一審では手続に参加した参加人、抗告審では相手方です
譲受け予定先の会社PRT 株主MSK氏らが株式を譲渡しようとした相手方の株式会社(事業内容は決定本文に記載がありません)
税理士法人ZRH 会社側が提出した株式評価報告書を作成した公認会計士が所属する税理士法人
破産手続中の会社DBK 土木工事会社DKSが債権を有すると主張した、破産手続中の株式会社

事案の概要

同族の株主が、2社の株式を第三者に譲渡しようとした

土木工事会社DKSと土木一式工事会社KSKは、いずれも、株式の譲渡又は取得について取締役会の承認を要する旨を定款で定めた非上場の会社です。土木工事会社DKSの元代表取締役(故人)の妻である株主MSK氏と、その長男の株主KZT氏、二男の株主RYS氏は、2社の株式を保有していました。

土木工事会社DKSの発行済株式総数は5万株で、うち4,350株は自己株式でした。株主MSK氏らの持株数は合計8,584株で、議決権割合は約18.8%です。土木一式工事会社KSKの発行済株式総数は1万5,590株で、株主MSK氏及び株主KZT氏の持株数は合計1,664株、議決権割合は約10.67%です。いずれも、会社の支配権を有する立場ではない少数株主でした。

平成28年2月17日、株主MSK氏らは、2社のそれぞれに対し、保有する株式を譲受け予定先の会社PRTに譲渡することの承認を求めるとともに、承認しないときは会社又は会社が指定する買取人が買い取るよう請求しました(会社法136条、138条)。

会社は譲渡を承認せず、自ら買い取ることとした

2社は、平成28年3月1日、譲渡を承認しない旨を株主MSK氏らに通知しました。続いて同年4月4日、2社は株主MSK氏らを被供託者として金銭を供託し、土木工事会社DKSは同月6日、土木一式工事会社KSKは同月7日に、株式を買い取る旨を通知しました(会社法141条)。

供託額は、直近の決算期の貸借対照表の純資産額を発行済株式総数(土木工事会社DKSは自己株式を除いた数)で除した1株当たりの額に、各株主の持株数を乗じた額でした。1株当たりの額は、土木工事会社DKSが1万870.46円、土木一式工事会社KSKが6,372.25円です。

会社 算定の基礎 供託額
土木工事会社DKS 平成27年9月30日の貸借対照表の純資産総額4億9,623万6,792円÷4万5,650株 株主MSK氏2,611万845円、株主KZT氏4,003万5,905円、株主RYS氏2,716万5,280円
土木一式工事会社KSK 平成27年6月30日の貸借対照表の純資産総額9,934万3,472円÷1万5,590株 株主MSK氏627万6,667円、株主KZT氏432万6,758円

その後、2社は、平成28年4月20日、会社法144条2項に基づいて、裁判所に売買価格の決定を申し立てました。株主MSK氏らは、この手続に参加人として加わり、会社とは異なる評価を主張しました。

事案の経緯の時系列

時期 出来事(2つの決定の前提事実による)
平成28年2月17日 株主MSK氏らが2社に対し、譲受け予定先の会社PRTへの株式譲渡の承認を求め、承認しないときは会社又は指定買取人による買取りを請求。抗告審は、この日を評価の基準日としました
平成28年3月1日 2社が、譲渡を承認しない旨を通知(抗告審決定の前提事実では、承認しない旨の株主総会決議をしたうえで通知したとされています)
平成28年4月4日 2社が、株主MSK氏らを被供託者として1株当たり純資産額を基礎とする金額を供託
平成28年4月6日・7日 土木工事会社DKS(6日)及び土木一式工事会社KSK(7日)が、株式を買い取る旨を通知
平成28年4月20日 2社が、広島地方裁判所福山支部に売買価格の決定を申立て
平成29年2月1日 2社の顧問税理士事務所が、手続の係属中に、平成28年度から平成32年度までの5か年経営計画書を作成
平成30年5月25日 広島地方裁判所福山支部が、時価純資産法により売買価格を1株当たり1万678円(Ⅰ事件)及び5,300円(Ⅱ事件)と定める原決定
その後 2社が即時抗告。抗告審で鑑定を実施
令和3年12月21日 広島高等裁判所が原決定を変更し、DCF法と非流動性ディスカウント30%により1株当たり5,266円(Ⅰ事件)及び4,514円(Ⅱ事件)と定める決定

判断の前提となった手続と評価の方法

譲渡承認請求から売買価格決定の申立てまで

以下は、本件に関係する会社法の手続の流れを当事務所が整理したものです。譲渡制限株式の株主は、会社に対し、譲渡の承認を求めると同時に、承認しない場合には会社又は指定買取人が買い取るよう請求することができます(会社法136条、138条)。会社が承認しない場合において、会社自身が買い取るときは、買い取る旨を通知し、あわせて1株当たり純資産額に株式数を乗じた額を供託する必要があります(会社法141条)。売買価格は当事者の協議で定めますが、協議が調わないときは、会社又は株主が裁判所に売買価格の決定を申し立てることができ、裁判所は、譲渡承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めます(会社法144条)。

本件の供託額は、この会社法141条の算定方法による額であり、会社が売買価格として相当と認めた額ではありません。現に、会社側は手続の中で、供託額の基礎とした1株当たりの額を大きく下回る価格を主張しています。

決定が整理した3つの評価方法

2つの決定は、いずれも、株式の評価方法を次の3つの考え方に大別して説明しています(以下は決定本文の説明の要約です)。

考え方 着目する権利・内容 代表的な方法
ネットアセットアプローチ(純資産方式) 残余財産分配請求権に着目し、貸借対照表を基に純資産を評価します。抗告審決定は、非継続企業の評価に適する一方、将来の収益獲得能力を適正に把握できない可能性があると説明しています 簿価純資産法、時価純資産法
インカムアプローチ(収益方式) 剰余金配当請求権に着目し、将来の利益又はキャッシュフローに基づいて評価します。抗告審決定は、会社固有の価値を示せる一方、事業計画等の客観性の担保や恣意性の排除が難しい場合があると説明しています DCF法、収益還元法、配当還元法
マーケットアプローチ(比準方式) 市場株価や上場している同業他社等と比較して評価します。抗告審決定は、客観的な評価が可能である一方、類似会社の選定等が困難な場合があると説明しています 市場株価法、類似企業比較法、類似業種比準法

企業価値評価ガイドラインが時価純資産法によるべきとする4つの場合

両審級で中心的な論点となったのは、日本公認会計士協会が策定した企業価値評価ガイドラインが、時価純資産法によって企業価値を評価すべき場合として挙げる次の4つの場合でした。以下は、抗告審決定の本文に記載された文言のまま引用したものです。

〈1〉企業価値評価を巡って対立する局面において、利害関係者を納得させるだけの収益予測や市場時価を得られず、結果的にネットアセットアプローチの採用しかない場合。
〈2〉不動産・金融関係等、資産の価値が企業価値に大きく影響する会社の評価の場合。
〈3〉インカムアプローチ等による評価額よりも時価ベースにおける純資産価値の方が大きい場合。
〈4〉インカムアプローチで将来予測が困難な状況、又はマーケットアプローチで採用する株価期間の株価の推移が不安定な状況など、いずれのアプローチでも不確実性の極めて高い状況で、評価の安定性を確保したいと判断された場合。

株主MSK氏らは、本件が〈1〉と〈3〉の両方に当たると主張しました。第一審はこの主張を認め、抗告審は両方とも否定しています。

当事者の申立て及び主要な主張

第一審での主張

会社側は、税理士法人ZRHの公認会計士が作成した株式評価報告書に基づき、類似業種比準法を2割、時価純資産法を2割、DCF法を6割の比重で併用した価格を主張しました。株主MSK氏らは、時価純資産法のみによる価格を主張しました。

項目 Ⅰ事件(土木工事会社DKS) Ⅱ事件(土木一式工事会社KSK)
会社側報告書の類似業種比準法による額 1,769円 605円
会社側報告書の時価純資産法による額 9,769円 5,282円
会社側報告書のDCF法による額 1,790円 1,967円
会社側の主張額(2割・2割・6割の加重平均) 3,381円 2,357円
株主MSK氏らの主張額(時価純資産法) 1万678円 5,300円

会社側報告書の評価基準日は、土木工事会社DKSが平成28年9月30日、土木一式工事会社KSKが同年6月30日でした。株主MSK氏らは、評価の時点は本来は譲渡承認請求の日である平成28年2月17日とすべきであるが、会社がそれぞれの時点の資産負債しか開示しないため、同じ時点を基準にしたと述べています。

会社側の主な主張は次のとおりです。

  • 株主MSK氏らは会社を清算できるだけの支配力を有していないので、清算価値を前提とする純資産方式に重きを置くべきではない。
  • DCF法は継続企業の評価に適しており、最も重視されるべきである。有利子負債の除外や割引率の設定において株主に有利な条件で計算しているので、恣意性の問題は大きくない。
  • 過去の株式の売買は類似業種比準方式による価格で行われ、株主MSK氏らもこれを承認していたので、類似業種比準方式を補完的に併用すべきである。
  • DCF法でターミナルバリュー(予測期間の後の継続価値)を加えると、株式を手放そうとしている株主に将来の利益まで配分することになり過分である。その代わりに割引率を2%という低い値に設定している。

株主MSK氏らの主な主張は次のとおりです。

  • 会社側報告書のDCF法は、5年間のキャッシュフローの現在価値の合計だけを企業価値としており、ターミナルバリューを加えていない。5年間の合計が将来のキャッシュフローの現在価値の総和でないことは自明である。
  • 本件は企業価値評価ガイドラインの〈1〉及び〈3〉に当たり、時価純資産法で評価すべきである。
  • 類似業種比準方式は相続税の申告という大量に発生する事象を機械的に処理するためのものであり、価格決定の手続に適用できる方法ではない。
  • 時価純資産法の個別の資産・負債の評価(貸倒引当金、土地、投資有価証券、長期未払金)は、株主側の評価が正しい。

抗告審での主張

会社側は、抗告の趣旨として、売買価格を1株当たり1,232円(Ⅰ事件)及び1,429円(Ⅱ事件)と定めるよう求めました。もっとも、抗告審で鑑定が実施された後は、それまで様々な評価方法に基づく評価額を主張してきたものの、鑑定意見のとおりに売買価格が決定されることに異議はないと述べています。

株主MSK氏らは、引き続き時価純資産法を採用すべきであり、DCF法を用いた鑑定意見は信用できないと主張しました。主な理由は次のとおりです。

  • 会社の5か年経営計画書は、それ以前に作成されたことがなく、この手続のために作成されたものである。計画上の将来予測と実際の業績は大きく乖離しており、信頼性がない。
  • DCF法による評価額は、時価純資産法による評価額を下回っている。
  • 時価純資産法による清算価値は株式価格の最低限を画するものであり、売主である株主がこの最低限度の価格に応じているのだから、その額を売買価格とすべきである。
  • 株主側が依拠する純資産価値は、会社が自ら行った時価評価に一部修正を加えたものにすぎず、会社が自らの資産評価額を不当と主張することは許されない。
  • 非流動性ディスカウントは、最高裁判所の決定や東京地方裁判所の決定で適用が否定されており、本件で適用するのは不合理である。

結論を左右した争点

両審級を通じた中心的な争点は、少数株主が保有する非上場会社の株式の売買価格を、時価純資産法とDCF法のいずれで評価すべきかという点でした。具体的には、次の3点が結論を分けています。

  • 会社の事業計画に基づく収益予測を信頼できるか。手続の係属中に作成された5か年経営計画書を基にDCF法を用いることができるか、それとも企業価値評価ガイドラインの〈1〉に当たり、ネットアセットアプローチによるしかないかが問題となりました。
  • 純資産価値がDCF法による評価額を上回っているといえるか。ガイドラインの〈3〉の比較で用いる純資産価値は、どのような前提で算定されたものであるべきかが問題となりました。
  • 非流動性ディスカウントを適用できるか。DCF法を採用した場合に、非上場株式であることを理由とする減額を、譲渡承認請求に起因する売買価格の決定でも行うことができるかが問題となりました。第一審の決定本文には、この点についての判断はありません。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

裁判所が認定した重要な事実

2つの決定は、前提事実として、又は判断の中で、次の事実を認めています(以下は決定本文の記載の要約です)。

  • 会社側報告書のDCF法は、5年間の純キャッシュフローの現在価値の合計を事業価値としており、ターミナルバリューを加算していませんでした(第一審)。
  • 会社側報告書が割引率を2%としたのは、土木工事会社DKSで直近7事業年度にわたり株主への配当が行われておらず、株主の配当期待収益率の算定が困難である等の事情によるものでした(第一審)。
  • 土木工事会社DKSは、自社が非上場企業であり、建設業界は成熟した産業で一定以上の需要を見込める反面、競争過多で発注量の増減が大きく、将来の盛衰を見極めるのが非常に困難である旨を述べていました(第一審)。
  • 評価基準日の直近5年度分の業績は、土木工事会社DKSでは売上高の変動がやや大きいものの、売上総利益及び営業利益の変動は比較的小幅にとどまっていました。土木一式工事会社KSKは、消費税率引上げの影響を受けた平成27年6月期を除き、売上総利益が5,000万円を超え、営業利益を計上していました(抗告審)。
  • 2社の5か年経営計画書は、いずれも2社の顧問税理士事務所が手続の係属中である平成29年2月1日付けで作成したものでした。土木工事会社DKSの計画は、直近2年度は低迷するものの、その後上昇基調を維持して売上高が20億円台まで回復し、営業利益が過去5年間の最高益近くまで回復すると見込むなどしていました。土木一式工事会社KSKの計画は、新規住宅需要の落ち込みなど外部環境の変化に鑑み、現状の受注量及び売上高が当面維持されるものと見込んでいました(抗告審)。
  • 抗告審で提出された会社側の資料では、清算を前提とする時価純資産法により、土木工事会社DKSの清算価値総額を8,000万円(1株当たり1,754円)、土木一式工事会社KSKの清算価値総額を2,800万円(1株当たり1,814円)と評価していました(抗告審)。
  • 株主MSK氏らが主張する時価純資産法による額(1株当たり1万678円及び5,300円)の基礎資料は、土地及び投資有価証券は時価を再評価したものですが、その余の資産項目は貸借対照表上の簿価のままでした(抗告審)。

第一審の判断

広島地方裁判所福山支部は、会社側報告書のDCF法による額と類似業種比準法による額をいずれも用いることができないとし、時価純資産法のみによって売買価格を定めました。Ⅰ事件について理由を詳しく述べ、Ⅱ事件は同様の理由によるとしています。

ターミナルバリューを加えないDCF法は採用できない

第一審は、DCF法が株式評価の実務で広く用いられる一般的で確立された手法の一つであるとしたうえで、一般的には比較的短い推定期間(3年から5年)のキャッシュフローを予測し、それ以降の期間については継続価値(ターミナルバリュー)を算定すると説明しました。

会社側報告書は、ターミナルバリューは評価額の大半を占める結果となること、事業計画等の将来情報への恣意性の介入を完全に排除することは困難で、中期経営計画の終了後の将来キャッシュフローを反映させると評価の不確実性を高めることを、加算しない理由としていました。第一審は、そうであれば、本件が企業価値評価ガイドラインの〈1〉に該当することを自認するに等しいと指摘し、土木工事会社DKS自身が将来の盛衰を見極めるのが非常に困難である旨を述べていることも挙げて、「DCF法の評価に際してTVを加算しないことの合理的根拠とは認め難い。」と判断しました。割引率を2%と低く設定したことについても、配当が行われていないため配当期待収益率の算定が困難であるといった事情によるものであり、同様に合理的根拠とは認め難いとしています。

ガイドラインの〈1〉と〈3〉に当たる

第一審は、上記のとおり本件はガイドラインの〈1〉に該当すると認めました。また、会社側報告書の時価純資産法による額9,769円がDCF法による額1,790円を大幅に上回っていることから、〈3〉にも該当するとしました。そのうえで、会社側報告書のDCF法による額を株価の算定に用いることはできないと結論付けています。

相続税の通達による類似業種比準方式も採用しない

会社側報告書の類似業種比準法による額は、国税庁の財産評価基本通達が取引相場のない株式の評価方法として定める類似業種比準方式によるものでした。第一審は、同通達は大量に発生する事象を機械的に処理する目的のものにすぎないなどの学説の批判があり、近時の裁判例は同通達の評価基準に依拠していないとの事実を認定し、市場価格のない株式の評価について「上記通達に依拠して類似業種比較法により株価を算定することは相当でない。」と判断しました。

時価純資産法の個別項目は株主側の評価を採用した

時価純資産法の個別の項目について、第一審は次のとおり判断しました。

  • Ⅰ事件の貸倒引当金:土木工事会社DKSは、破産手続中の会社DBKに対する残債権301万8,435円の一部を貸倒引当金として計上したと主張しましたが、その債権が貸借対照表に計上されていたと認めるに足りる証拠はないとして、貸倒引当金を認めませんでした。
  • Ⅰ事件の土地及び投資有価証券:証拠及び弁論の全趣旨により、株主MSK氏ら主張の額を相当と認めました。
  • Ⅱ事件の貸倒引当金:対象となる債権の存在を認めるに足りる証拠はないとして、認めませんでした。
  • Ⅱ事件の長期未払金:株主側が主張するリース資産の額を長期未払金と認めました。

その結果、時価純資産法による1株当たりの評価額は、Ⅰ事件が1万678円、Ⅱ事件が5,300円となり、第一審はこれを売買価格と定めました。株主MSK氏らの主張額がそのまま認められたことになります。

抗告審の判断

広島高等裁判所は、抗告審で実施した鑑定の意見を採用し、評価方法を時価純資産法からDCF法に改めたうえで、30%の非流動性ディスカウントを適用しました。原決定の評価方法の選択そのものを否定し、主文を変更したものです。原決定の判断を一部補正して維持したものではありません。

鑑定意見の内容

抗告審の鑑定意見は、5か年経営計画書はいずれも過去の業績変動を逸脱しない範囲で合理的な収益予測を示しており、その信頼性に疑義はないこと、株主側及び原決定が依拠する時価純資産評価額は清算を想定した金額になっておらず、清算を想定した場合にはDCF法による評価額より低額になることを指摘し、継続企業の価値評価ではDCF法を採用するのが原則であるとしました。マーケットアプローチは採用すべきでないとしています。鑑定意見のDCF法による算定は次のとおりです。

項目 Ⅰ事件(土木工事会社DKS) Ⅱ事件(土木一式工事会社KSK)
税引後営業利益 3,200万円 300万円
フリー・キャッシュフロー 3,200万円 300万円
加重平均資本コスト 4.153% 3.666%
企業価値 10億5,500万円 2億2,600万円
有利子負債等を控除し株式数で除した額 7,524円 6,448円
非流動性ディスカウント30%控除後の額 5,266円 4,514円

収益予測が合意されていなくても、直ちにネットアセットアプローチによるわけではない

抗告審は、まず、企業価値評価ガイドラインが、4つの場合を挙げる前提として、ネットアセットアプローチは会社の将来の収益獲得能力を評価額に反映しておらず、継続企業の株式価値評価としては一般的でないため、選定する場合には選定理由の説明に十分な留意が必要であるとしていることを指摘しました。

そのうえで〈1〉について、利害の対立する各関係者を納得させるだけの収益予測や市場時価を得られないからといって、直ちにネットアセットアプローチ以外の評価方法が排除されるとはいえないとしました。事業計画は、策定時の様々な前提条件に基づいて将来の不確定な結果を予測したものであり、前提条件が変化すれば実際の結果も予測と異なってくるとして、「予測と事後に判明した結果とが乖離したからといって事業計画の信頼性を否定することはできない。」と述べています。

2社の5か年経営計画書についても、過去5年度の業績の推移と比較し、平成29年2月時点において、過去の業績変動を逸脱しない範囲で、かつ、経営改善努力や消費税等の外的な経営環境の動向等も考慮して策定されたものとして、合理性を有すると認めました。株主MSK氏らは、両当事者が合意していない事業計画を用いる場合には慎重な検討が必要であるのに鑑定意見はそれをしていないと批判しましたが、抗告審は、鑑定意見は合意がないことを前提としつつ過去の業績変動等も考慮して不合理ではないと評価しており、慎重な検討がされたものと認められるとして、この批判を採用しませんでした。こうして、本件は〈1〉に該当しないとされました。

比較すべき純資産価値は清算価値である

〈3〉について、抗告審は、時価純資産法といっても、事業継続を前提とする評価(予定処分価額)と事業継続を前提としない清算の場合の評価(清算処分価額)とは異なると指摘しました。予定処分価額が他の評価方法による額を上回っていても、そのことで直ちに会社を解体させた方がよいことにはならないとし、「相手方らが主張する時価純資産法による評価額は、評価基準日をもって直ちに清算することを前提としておらず、上記〈3〉の時価純資産法を採用するか否かの選択に資する清算価値を提示したものではない。」と述べています(「相手方ら」は株主MSK氏らを指します)。

さらに抗告審は、清算を前提とする時価純資産法による評価額は、会社側資料の1株当たり1,754円(土木工事会社DKS)及び1,814円(土木一式工事会社KSK)から大きく乖離するとは考えられないとしました。会社側資料には、未収入金、未収還付法人税等、仮払消費税のように換金が見込まれるものまで資産性がないものとして扱うなど一部合理的でない点があるものの、清算価値の大きな割合を占める土地及び建物の評価には不合理な点は見当たらないという理由です。その結果、清算価値はDCF法による評価額を大きく下回っていると判断しました。

株主MSK氏らが主張する1株当たり1万678円及び5,300円については、土地及び投資有価証券以外は貸借対照表上の簿価のままであり、その簿価が清算段階で株主が得られる残余財産の分配額に一致するとは考えられないこと、土地(及び建物)の評価額も評価基準日に清算することを前提とした減価修正をしていないことから、評価額としての信憑性を欠くとしました。こうして、本件は〈3〉にも該当しないとされました。

会社が自ら行った時価評価に拘束されるとの主張も退けた

株主MSK氏らは、自らが依拠する純資産価値は会社が自ら行った時価評価に修正を加えたものにすぎず、会社がその評価額を不当と主張するのは許されないと主張しました。抗告審は、評価方法として時価純資産法とDCF法のいずれが合理的かを判断する場面において、「上記信憑性の乏しい純資産額に当事者及び裁判所が拘束されるとは解されない。」として、この主張を採用しませんでした。

時価純資産法は支配株主の株式の評価に用いられるもの

抗告審は、以上により、企業価値評価ガイドラインに照らし、本件ではネットアセットアプローチを採用することは許容されないとしました。さらに、ガイドラインを離れて考えても、「時価純資産法は、支配株主が保有する株式評価に採用されるものであるから、本件のような取引における、事業継続を想定した会社の株式評価に際して重きを置くべき評価方法ではない。」と述べ、時価純資産法以外のネットアセットアプローチを用いるべき事情も見当たらないとしています。

継続企業の評価はDCF法が最も合理的

抗告審は、継続企業価値の評価手法としてはDCF法を用いるのが最も合理的であるとし、比較的近い将来までの事業計画を示してキャッシュフローを予測できるのであれば、事業計画の最終年度以降はインフレ率や経済成長率など一定の比率で成長するとの一般的な前提を基に将来キャッシュフローを算出することもできるから、その点でもDCF法を用いるのが相当であるとしました。DCF法には算定の基礎となる数値の客観性・信頼性を保つのが困難であるという欠点が指摘されていますが、本件では事業計画の予想値が合理性を有すると認められるとして、株主MSK氏らの主張を退け、「本件株式Ⅰ、Ⅱの評価方法としては、インカムアプローチのうちDCF法が最も合理的であると認められるのであり、これを採用した鑑定意見は相当である。」と結論付けました。

そして、鑑定意見のDCF法による具体的な算出過程にも不合理な点は見当たらないとして、1株当たりの評価額をⅠ事件5,266円、Ⅱ事件4,514円と認めています。

任意に株式を売却する場合には非流動性ディスカウントを適用できる

株主MSK氏らは、最高裁判所の決定及び東京地方裁判所の決定で非流動性ディスカウントの適用が否定されたことを根拠に、本件での適用は不合理であると主張しました。抗告審は、これらの裁判例は、吸収合併等に反対する株主に係る株式買取価格決定申立事件において、株主が意図せず株式売却を余儀なくされたことを考慮して非流動性ディスカウントの適用を否定したものであるとし、「株式の任意売却をした本件とは事案を異にしており、上記裁判例の射程は本件に及ばない。」と判断しました。

減額率についても、30%は我が国における一般的な減額率を採用したものであり、本件で非流動性ディスカウントをしないでよい要素や30%より低い減額率を採用すべき事情が見当たらないとして、不合理とはいえないとしました。鑑定意見の補充説明書によれば、この非流動性ディスカウントは、非上場株式を売却するために費やす一般的な取引コストの控除分と説明されています。

原決定の変更

抗告審は、以上により、原決定は相当ではないとして原決定を変更し、売買価格を1株当たり5,266円(Ⅰ事件)及び4,514円(Ⅱ事件)と定めました。

審級ごとの結論の推移

項目 第一審(広島地方裁判所福山支部 平成30年5月25日決定) 抗告審(広島高等裁判所 令和3年12月21日決定)
採用した評価方法 時価純資産法(株主側の個別評価を採用) DCF法(抗告審の鑑定意見)
ガイドラインの〈1〉 該当する 該当しない
ガイドラインの〈3〉 該当する(簿価等を基礎とする時価純資産法の額と比較) 該当しない(清算価値と比較すべきで、清算価値はDCF法の額を下回る)
非流動性ディスカウント 争点となっていない 30%を適用
Ⅰ事件の売買価格(1株当たり) 1万678円 5,266円(原決定を変更)
Ⅱ事件の売買価格(1株当たり) 5,300円 4,514円(原決定を変更)
手続費用 各自の負担 鑑定費用は会社側と株主側で2分の1ずつ。その余の手続費用は、Ⅰ事件は9分の4を会社、9分の5を株主側、Ⅱ事件は4分の3を会社、4分の1を株主側の負担

参考までに、会社側の主張額は、第一審では1株当たり3,381円(Ⅰ事件)及び2,357円(Ⅱ事件)、抗告の趣旨では1,232円(Ⅰ事件)及び1,429円(Ⅱ事件)でした。最終的な売買価格は、株主側の主張額と会社側の主張額の間に定まっています。

主文及び結論

抗告審決定の主文は、土木工事会社DKSの抗告に基づき原決定主文1項を変更して、株主MSK氏らが所有する同社の株式の売買価格を「1株当たり5266円と定める。」とし、土木一式工事会社KSKの抗告に基づき原決定主文2項を変更して、株主MSK氏及び株主KZT氏が所有する同社の株式の売買価格を「1株当たり4514円と定める。」とするものです。手続費用(原審及び抗告審の費用)は、鑑定費用を2分してその1を会社側、その余を株主側の負担とし、その余の手続費用は、Ⅰ事件に係るものを9分してその4を土木工事会社DKS、その余を株主側の負担、Ⅱ事件に係るものを4分してその3を土木一式工事会社KSK、その余を株主側の負担としました。

原決定の主文は、同じ株式の売買価格を1株当たり1万678円(Ⅰ事件)及び5,300円(Ⅱ事件)と定め、手続費用を各自の負担とするものでした。

判断の射程

以下は、2つの決定の内容を踏まえた当事務所の評価です。決定が述べた事項と区別してお読みください。最終的な判断である抗告審決定を基準とし、第一審の判断が改められた点はその旨を示します。

参考となる点

  • 時価純資産法の主張が、上級審で大きく覆り得ること。第一審では株主側の時価純資産法による額がそのまま認められましたが、抗告審は評価方法そのものを改め、Ⅰ事件の売買価格はおよそ半分になりました。第一審で認められた価格が抗告審でも維持されるとは限らないことを示す事例です。
  • ガイドラインの〈3〉の比較は清算価値で行うとされたこと。抗告審は、時価純資産法による額がDCF法による額を上回ることを理由に時価純資産法を求める場合、比較の対象は評価基準日に清算することを前提とした清算価値でなければならないとしました。簿価を多く含む純資産額では、この主張を支えることは難しいと考えられます。
  • 手続中に作成された事業計画でも、合理性が認められ得ること。抗告審は、5か年経営計画書が手続の係属中に会社の顧問税理士事務所によって作成されたものであっても、過去の業績変動を逸脱しない範囲で策定されていることなどから合理性を認めました。株主側が事業計画の信頼性を争う場合には、作成の経緯だけでなく、過去の業績との比較で計画のどこが不合理かを具体的に示す必要があると考えられます。
  • 譲渡承認請求に起因する売買価格の決定では、非流動性ディスカウントが適用され得ること。抗告審は、吸収合併等に反対する株主の株式買取請求では株主が意図せず売却を余儀なくされることを考慮して非流動性ディスカウントが否定されていることと対比し、株主が自ら売却しようとした本件はそれとは事案を異にするとして、30%の減額を認めました。株式を手放したい株主にとって、自ら譲渡承認請求をする場面では、評価額から一定の減額がされる可能性があることを示すものです。
  • 会社側の評価にも厳しい判断が示されていること。第一審は、ターミナルバリューを加えないDCF法と、相続税の財産評価基本通達による類似業種比準方式を、いずれも採用しませんでした。抗告審でもこれらの手法は採用されておらず、会社側が当初主張した価格(1株当たり3,381円及び2,357円)を上回る価格が定められています。会社から低い価格を示された株主にとって、会社側の算定方法の当否を検討する手掛かりになります。

一般化できない点

  • 抗告審がDCF法を採用したのは、鑑定意見が事業計画の合理性を肯定し、清算価値がDCF法による額を大きく下回ると認められた本件の具体的な事情によるものです。時価純資産法が常に否定されるという趣旨ではなく、ガイドラインの〈1〉から〈4〉に当たる事情が認められる事案では、別の結論になり得ます。
  • 30%という減額率は、本件で減額率を下げるべき事情が見当たらないとされた結果です。非流動性ディスカウントの有無や率は、事案ごとの事情によって判断されるものと考えられます。
  • 本件の株主は、議決権割合が約18.8%及び約10.67%の少数株主でした。抗告審は、時価純資産法は支配株主が保有する株式の評価に採用されるものであるとしており、支配株主の株式の評価に同じ考え方がそのまま当てはまるとはいえません。
  • 抗告審決定は、会社側が鑑定意見のとおりの価格に異議を述べなかった状況でされたものです。抗告審決定に対する許可抗告等の有無及び確定は確認できていません。

株式を手放したい株主が確認しておきたいこと

本件の2つの決定を踏まえると、譲渡承認請求をする株主や、会社から買取りの価格を示された株主は、次の点を確認しておくことが考えられます(当事務所の整理です)。

  • 評価の基準日は譲渡承認請求の時とされます(本件の抗告審は平成28年2月17日を基準日としました)。その時点の会社の資産負債や業績の資料を、会社にどこまで開示してもらえるか。
  • 会社側の評価がDCF法による場合、基礎となる事業計画がいつ、誰によって作成され、過去の業績の推移と比べて不自然な点がないか。ターミナルバリューの扱いや割引率の設定に合理的な根拠があるか。
  • 純資産の額を主張する場合、それが簿価を基礎とするものか、評価基準日に清算することを前提とした清算価値か。
  • 非流動性ディスカウントが主張された場合、その根拠と減額率が、事案の事情に照らして相当か。
  • 鑑定が実施される場合の費用の負担。本件では、鑑定費用が会社側と株主側で2分の1ずつの負担とされました。

非上場株式の評価の方法と、適正な買取価格の考え方は、次のページでご案内しています。

よくあるご質問

譲渡制限株式を第三者に売ろうとしたら、会社が買い取ると言ってきました。価格は誰が決めるのですか。

まず会社と株主の協議で決めますが、協議が調わないときは、会社又は株主が裁判所に売買価格の決定を申し立て、裁判所が価格を定めます(会社法144条)。本件でも、会社が譲渡を承認せずに自ら買い取ることとし、会社からの申立てにより裁判所が売買価格を定めました。

会社が供託した金額が、そのまま売買価格になるのですか。

本件では、供託額は1株当たり純資産額を基礎とする会社法141条の算定方法による額でしたが、裁判所が最終的に定めた売買価格はこれと異なり、2社ともに供託額の基礎とした1株当たりの額を下回りました。供託額は、売買価格が裁判所の判断によって定まることを前提とした手続上の金額であると理解しておく必要があります。

非上場株式は、純資産の額で買い取ってもらえるのが原則ですか。

本件の抗告審は、継続企業の価値評価にはDCF法が最も合理的であるとし、時価純資産法は支配株主が保有する株式の評価に採用されるものであって、本件のような事業継続を想定した会社の株式の評価で重きを置くべき方法ではないとしました。少数株主の株式が当然に純資産の額で評価されるわけではない点に注意が必要です。

会社の事業計画が手続の途中で作られたものなら、DCF法による評価を争えますか。

作成の時期や経緯だけで信頼性が否定されるとは限りません。本件の抗告審は、手続の係属中に作成された事業計画であっても、過去の業績変動を逸脱しない範囲で策定されているとして合理性を認めました。また、予測と実際の業績が乖離したことだけで事業計画の信頼性を否定することはできないとしています。

非流動性ディスカウントとは何ですか。株式を手放したい株主に必ず適用されますか。

本件の鑑定意見では、非上場株式を売却するために費やす一般的な取引コストの控除分と説明され、30%が控除されました。抗告審は、合併等に反対する株主が意図せず売却を余儀なくされる場面とは異なり、株主が任意に売却しようとした本件では適用できるとしました。ただし、適用の有無や率は事案ごとの事情によって判断されるものであり、必ず適用されるとまではいえません。

譲渡制限株式の譲渡承認請求と、会社が承認しない場合に会社又は指定買取人に株式を買い取らせる手続は、次のページでご案内しています。

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譲渡制限株式の譲渡承認請求をした結果、会社が自ら買い取ることになった場合には、売買価格の評価方法として何が主張されているか、会社の事業計画が過去の業績と整合しているか、純資産の額がどのような前提で算定されているかを整理して検討します。本件のように、上級審で評価方法そのものが改められ、価格が大きく変わることもあります。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

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非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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