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譲渡不承認後に指定買取人が取得した譲渡制限株式と元の買主の株主権確認―東京地方裁判所令和7年5月28日判決

公開 2025年5月28日更新 2025年5月28日

▶ 譲渡制限株式の譲渡承認手続の流れと注意点

譲渡制限株式を売買する契約を結んだものの、発行会社に譲渡の承認を求めないまま年月が過ぎ、売主の代表者が交代した後に承認請求がされ、発行会社が譲渡を承認せずに売主の新しい代表者を指定買取人に指定し、その者が株式を取得してしまった場面の判例です。もともとの買主の側は、承認請求の際に十分な情報が提供されず承認を妨げられたとして、自分たちが株主であることの確認と、承認請求・名義書換請求をすることを求めました。

東京地方裁判所令和7年5月28日判決は、承認のない譲渡制限株式の譲渡も当事者の間では有効であるから、発行会社の承認を停止条件とする契約とはいえないとしたうえで、発行会社自身が不承認の効力を争っていない限り、条件成就の妨害や信義則を理由に承認があったものとみなすことはできないとし、また、発行会社の承認は対抗要件ではないから背信的悪意者の法理も適用されないとして、請求をいずれも棄却しました。本記事では、判決本文に基づき、元の買主の主張がどのような理由で退けられたのかを整理し、株式を売る約束をした株主や、株式を買い受けた側が承認の手続で注意すべき点を解説します。

目次
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 売主の会社が、保有する株式を2つに分けて関連会社と代表者に売った
    2. 承認請求がされないまま、創業者が亡くなった
    3. 代表取締役となった三男が承認請求をし、会社は不承認として三男を指定買取人に指定した
    4. 親族の間では、ほかの会社の株式をめぐる争いも続いていた
    5. 元の買主の側が、株主権・遺産であることの確認を求めて提訴
  4. 事案の経緯
  5. 判断の前提となる会社法の仕組み
    1. 譲渡制限株式と承認請求
    2. 不承認と指定買取人
    3. 名義書換
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. 原告らの請求
    2. 争点ごとの主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が示した判断の枠組み
    1. 承認のない譲渡は、当事者間では有効、発行会社に対しては効力を生じない
    2. 譲渡制限の制度は、発行会社とその株主を守るためのもの
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 停止条件成就の妨害―そもそも停止条件付きの契約ではなく、発行会社も不承認を争っていない
    2. 背信的悪意者―発行会社の承認は対抗要件ではない
    3. 信義則―不承認、買取人の指定、代金の決済まで終わっていれば、株式の帰属は確定したものとして扱う
    4. 第2事件―同じ理由で、遺産であることの確認も認められない
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
  12. よくあるご質問
    1. 会社の承認を得ないまま、譲渡制限株式を売る契約をしました。契約は無効ですか。
    2. 株式を買い受けた後、売主が承認請求の際に十分な情報を会社に伝えなかったため、不承認になりました。株主であると主張できますか。
    3. 同じ株式を後から取得した人が、事情を知っていた場合でも、先に買った私は負けるのですか。
    4. 譲渡制限株式を親族や関連会社に売る約束をした場合、何に注意すればよいですか。
    5. 会社が譲渡を承認せず、指定買取人が買い取ることになった場合、価格はどう決まりますか。
  13. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第8部
裁判日 令和7年5月28日
事件番号 令和5年(ワ)第33314号(第1事件)、令和6年(ワ)第70221号(第2事件)
裁判の形式 判決
審級 第一審
結論 原告ら(元の買主の側)の請求をいずれも棄却。訴訟費用は原告らの負担
上訴の状況 上訴の有無及び確定は確認できていません

この表は、判決本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。2つの事件は併合して審理され、1つの判決で判断されています。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、その旨を示しています。

本記事の表記 立場
研究開発会社RDV テクノロジー及びシステムに関する研究開発等を業とする株式会社。本件で問題となった株式の発行会社で、その株式は譲渡制限株式です。訴訟の当事者ではありません
建築設計・造園会社MKZ 建築・土木・造園の設計、請負管理等を業とする株式会社。研究開発会社RDVの株主で、株式を売った売主です。訴訟の当事者ではありません
亡くなった創業者OKM氏 建築設計・造園会社MKZの設立から死亡するまで同社の代表取締役を務めた人物。株式を買い受けた買主の一人で、平成30年1月6日に死亡しました
旧会社HWS 株式を買い受けた買主の一つ。創業者OKM氏は、死亡するまで旧会社HWSの取締役も務めていました。令和2年10月8日に不動産会社KRSに吸収合併されました
不動産会社KRS 第1事件の原告。不動産の売買・賃貸等を業とする株式会社で、旧会社HWSを吸収合併しました
長男KZM氏 第2事件の原告。創業者OKM氏の長男で、不動産会社KRSの代表取締役です
妻SNE氏 第2事件の原告。創業者OKM氏の妻です
三男MSB氏 第1事件及び第2事件の被告。創業者OKM氏の三男で、創業者OKM氏の死亡後に建築設計・造園会社MKZの代表取締役となり、研究開発会社RDVから指定買取人に指定されて株式を取得しました
二男DJR氏 第2事件の被告。創業者OKM氏の二男です。口頭弁論期日に出頭せず、答弁書等も提出しませんでした

このほか、判決本文には、元の買主の側が提出した意見書の作成者として大学教授が登場しますが、本記事では「大学教授」とだけ表記します。

事案の概要

売主の会社が、保有する株式を2つに分けて関連会社と代表者に売った

建築設計・造園会社MKZは、平成23年12月14日、研究開発会社RDVが行った第三者割当増資を引き受け、研究開発会社RDVの株式188株を有する株主となりました。研究開発会社RDVは平成27年2月12日に株式分割を行い、建築設計・造園会社MKZの持株は18万8,000株となりました。研究開発会社RDVの株式は譲渡制限株式です。

建築設計・造園会社MKZは、平成27年12月7日、次の2つの売買契約を締結しました。

  • 研究開発会社RDVの株式6万2,500株を、代金1,125万円で旧会社HWSに売る契約(判決は「本件株式譲渡1」と呼び、その目的の株式を「本件株式1」と呼んでいます)
  • 別の6万2,500株を、代金1,125万円で、当時の代表取締役であった創業者OKM氏に売る契約(判決は「本件株式譲渡2」と呼び、その目的の株式を「本件株式2」と呼んでいます)

創業者OKM氏は、売主である建築設計・造園会社MKZの代表取締役であると同時に、買主の一つである旧会社HWSの取締役でもあり、買主のもう一方は創業者OKM氏自身でした。

承認請求がされないまま、創業者が亡くなった

研究開発会社RDVの株式は譲渡制限株式であるにもかかわらず、2つの売買について研究開発会社RDVに承認の請求がされないまま、創業者OKM氏は平成30年1月6日に死亡しました。

代表取締役となった三男が承認請求をし、会社は不承認として三男を指定買取人に指定した

創業者OKM氏の死亡後に建築設計・造園会社MKZの代表取締役となった三男MSB氏は、平成30年12月11日、売主である建築設計・造園会社MKZの代表取締役として、研究開発会社RDVに対し、2つの売買について書面で承認を請求しました。この請求には、研究開発会社RDVが譲渡を承認しない旨の決定をする場合には、研究開発会社RDV又は指定買取人が株式を買い取ることを求める旨が付記されていました。

研究開発会社RDVは、同月18日、建築設計・造園会社MKZに対し、2つの譲渡をいずれも承認せず、三男MSB氏を買取人に指定する旨を通知しました。三男MSB氏は、指定買取人として、平成31年1月31日、建築設計・造園会社MKZに対し、2つの株式の代金2,250万円を支払いました。判決本文は、会社法第142条の手続は省略されたと記載しています。その後、三男MSB氏は、これらの株式を有する株主として、研究開発会社RDVの株主名簿に記載又は記録されました。

こうして、売主の代表取締役である三男MSB氏が、売主の側で承認請求をし、指定買取人として同じ株式を取得するという結果になりました。代金の合計2,250万円は、平成27年の2つの売買契約の代金の合計と同じ額です。

親族の間では、ほかの会社の株式をめぐる争いも続いていた

判決本文の前提事実によると、建築設計・造園会社MKZの株式の一部については、長男KZM氏と三男MSB氏との間で株主権の帰属をめぐる争いが続いています。また、旧会社HWSの株式についても両者の間に争いがありましたが、長男KZM氏が旧会社HWSの株主であることが確定しています。

元の買主の側が、株主権・遺産であることの確認を求めて提訴

旧会社HWSを吸収合併した不動産会社KRSは、三男MSB氏を被告として、本件株式1について自らが株主であることの確認と、三男MSB氏が研究開発会社RDVに承認請求と名義書換の請求をすることを求めました(第1事件)。また、創業者OKM氏の妻SNE氏と長男KZM氏は、三男MSB氏と二男DJR氏を被告として、本件株式2が創業者OKM氏の遺産であることの確認と、三男MSB氏が同様の請求をすることを求めました(第2事件)。

事案の経緯

時期 出来事(判決本文の前提事実による)
昭和41年10月1日 建築設計・造園会社MKZの設立。創業者OKM氏が設立から死亡まで代表取締役を務める
平成23年12月14日 建築設計・造園会社MKZが研究開発会社RDVの第三者割当増資を引き受け、株式188株を取得
平成27年2月12日 研究開発会社RDVが株式分割。建築設計・造園会社MKZの持株は18万8,000株に
平成27年12月7日 建築設計・造園会社MKZが、6万2,500株を旧会社HWSに代金1,125万円で、別の6万2,500株を創業者OKM氏に代金1,125万円で売る契約を締結
平成30年1月6日 研究開発会社RDVへの承認請求がされないまま、創業者OKM氏が死亡
平成30年12月11日 三男MSB氏が、建築設計・造園会社MKZの代表取締役として、2つの譲渡について書面で承認を請求(不承認の場合は会社又は指定買取人による買取りを求める旨を付記)
平成30年12月18日 研究開発会社RDVが、2つの譲渡をいずれも承認せず、三男MSB氏を買取人に指定する旨を通知
平成31年1月31日 三男MSB氏が、指定買取人として建築設計・造園会社MKZに代金2,250万円を支払う(会社法第142条の手続は省略)
その後 三男MSB氏が、これらの株式の株主として研究開発会社RDVの株主名簿に記載又は記録される
令和2年10月8日 不動産会社KRSが旧会社HWSを吸収合併
令和7年5月28日 東京地方裁判所が、第1事件・第2事件の請求をいずれも棄却する判決

訴えの提起の日は、判決本文からは分かりません(事件番号から、第1事件は令和5年、第2事件は令和6年に係属したものです)。

判断の前提となる会社法の仕組み

本件の判決本文には株式売買契約の条項の文言は記載されていないため、ここでは、判決が前提とした会社法の譲渡承認の仕組みを、当事務所の言葉で簡単に整理します(条文の逐語引用ではありません)。

譲渡制限株式と承認請求

譲渡制限株式(会社法第2条第17号)は、譲渡による取得について発行会社の承認を要する株式です。株主は、保有する譲渡制限株式を他人に譲り渡そうとするときに、発行会社に対し、譲渡を承認するかどうかの決定を請求することができます(会社法第136条)。株式を取得した者も、一定の場合を除き、株主名簿上の株主と共同して、取得を承認するかどうかの決定を請求することができます(会社法第137条)。

不承認と指定買取人

承認の請求をする際には、発行会社が承認しない旨の決定をする場合に、発行会社又は指定買取人が株式を買い取ることを請求することができます(会社法第138条)。発行会社が承認しないときは、発行会社自らが買い取るか、買取人を指定することになり(会社法第140条)、指定買取人は、所定の期間内に買い取る旨を通知し、一定の金額を供託するなどの手続をとります(会社法第142条)。売買価格は当事者の協議により定めるほか、裁判所に価格の決定を申し立てることができます(会社法第144条)。

名義書換

株式を取得した者は、発行会社に対し、株主名簿の名義書換を請求することができます(会社法第133条)。譲渡制限株式の場合、名義書換の請求は、原則として譲渡の承認を受けたこと等が前提となります(会社法第134条)。

本件で元の買主の側が求めたのは、三男MSB氏が、研究開発会社RDVに対して会社法第137条第1項による承認請求をし、承認があったときは会社法第133条第1項による名義書換を請求することでした。

当事者の請求と主要な主張

原告らの請求

事件 原告 被告 請求の内容
第1事件 不動産会社KRS 三男MSB氏 不動産会社KRSが本件株式1(6万2,500株)の株主であることの確認、三男MSB氏が研究開発会社RDVに承認請求をすること、承認があったときに名義書換の請求をすること
第2事件 妻SNE氏、長男KZM氏 三男MSB氏、二男DJR氏 本件株式2(6万2,500株)が創業者OKM氏の遺産であることの確認、三男MSB氏が研究開発会社RDVに承認請求をすること、承認があったときに名義書換の請求をすること

争点ごとの主張

判決は、第1事件・第2事件のそれぞれについて、同じ3つの争点を立てています。第2事件の主張は、第1事件の主張の「本件株式1」を「本件株式2」に、旧会社HWSを創業者OKM氏(又はその相続財産)に読み替えたものと整理されています。以下は第1事件についての主張の要約です。

争点 元の買主の側(不動産会社KRS)の主張 三男MSB氏の反論
停止条件成就の妨害 譲渡制限株式の売買契約は、発行会社の承認を停止条件とする法律行為である。三男MSB氏は、承認請求の際に譲受人である旧会社HWSに関する十分な情報を提供せず、停止条件の成就を妨害したから、平成29年改正前民法第130条により条件が成就したものとみなすことができる(不承認を解除条件とする法律行為であるとの主張もあわせてしています) 承認を妨害した事実は否認する。承認のない譲渡制限株式の売買契約も、当事者間では契約成立の当初から有効で、発行会社との間で効力が生じないだけであるから(相対説)、停止条件付きの法律行為ではない
背信的悪意者 本件株式1は、建築設計・造園会社MKZから旧会社HWSと三男MSB氏に二重に譲渡されたもので、両者は対抗関係にある。三男MSB氏は、対抗要件の欠缺を主張する正当な利益を有しない背信的悪意者であるから、不動産会社KRSが対抗要件を備えていないことを主張できない 不承認の決定により、旧会社HWSへの譲渡は当事者間でも効力を失うから、二重譲渡の前提を欠く。仮に二重譲渡であっても、承認なく譲渡制限株式を譲り受けた者は名義書換を請求できず対抗要件を備えられないのであって、会社法はそのような者の取引の安全を考慮していないから、対抗関係にならず、背信的悪意者の法理も妥当しない。会社の承認を受けた譲受人が確定的に株主になる
信義則 旧会社HWSへの譲渡は当事者間では有効であり、売主の代表者である三男MSB氏は、承認が得られるよう、譲受人に関する十分な情報を発行会社に提供する義務がある。発行会社が十分な情報を踏まえて判断する機会を得るまでは、三男MSB氏は、信義則上、不動産会社KRSが株式を有することを争えず、承認請求と名義書換請求に応じる義務がある 争う

元の買主の側は、信義則の主張に沿う大学教授の意見書を提出しました。

なお、第2事件の被告である二男DJR氏は、適式な呼出しを受けながら口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しませんでした。判決は、二男DJR氏については、第2事件の原告らが主張する請求原因事実を自白したものとみなしつつ、法的評価については原告ら及び三男MSB氏の主張を踏まえて判断するとしています。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

本件では、承認請求、不承認の通知、指定買取人による代金の支払という外形的な事実には争いがありませんでした。結論を左右したのは、元の買主が、発行会社自身は争っていない不承認の決定を前提にしたまま、売主の代表者であり指定買取人でもある三男MSB氏との関係で、自分が株主であると主張できるかという法律上の問題です。

判決は、まず、承認のない譲渡制限株式の譲渡の効力について、当事者の間と発行会社との関係とを分けて考えました。そのうえで、発行会社との関係における効力は専ら発行会社の承認に関する判断によるという考え方を、条件成就の妨害、背信的悪意者、信義則の3つの主張のすべてに当てはめています。判決は、冒頭で6つの判断を要約して示した後、それぞれの理由を説明しています。

裁判所が示した判断の枠組み

承認のない譲渡は、当事者間では有効、発行会社に対しては効力を生じない

判決は、最高裁判所第二小法廷昭和48年6月15日判決を引用して、次のように述べました。

発行会社による事前の承認がないままなされた譲渡制限株式の譲渡は、譲渡当事者間においては有効であるが、発行会社に対する関係では効力を生じないと解すべきである

譲渡制限の制度は、発行会社とその株主を守るためのもの

判決は、会社法が譲渡制限株式の発行を認める趣旨について、次のように述べています。

そもそも会社法が譲渡制限株式の発行を認める趣旨は、発行会社にとって好ましくない者が株主となることを防止する要請を制度として認めて、発行会社(ひいては譲渡当事者を除く株主ら)の保護を図るところにある。

そして、この趣旨から、次の考え方を導きました。

発行会社との関係における株式譲渡の効力は、専ら発行会社による承認に関する判断によって生じると解すべきであり、譲受人の保護のために左右されるべきではない。

この「専ら発行会社による承認に関する判断による」という考え方が、本判決のすべての争点に共通する判断の軸になっています。

各主張を採用し又は排斥した理由

停止条件成就の妨害―そもそも停止条件付きの契約ではなく、発行会社も不承認を争っていない

判決は、承認のない譲渡制限株式の譲渡も当事者間では有効であるという上記の枠組みから、旧会社HWSへの譲渡は当事者間では契約成立の当初から有効であり、当事者間において発行会社の承認を停止条件としてされたということはできないとしました。この意味で、停止条件付きの法律行為であることを前提とする元の買主の主張は採用できないとしています。

他方で、判決は、元の買主の指摘するとおり、発行会社との関係における譲渡の効力は発行会社の承認により生じることを認めました。しかし、上記の譲渡制限の制度の趣旨から、発行会社との関係における効力は専ら発行会社の承認に関する判断によるべきであるとして、次のように判断しました。

譲渡制限株式の譲受人は、発行会社が自らした譲渡不承認の効力を争っていない限り、上記条件が成就した(譲渡が承認された)ものとみなすことはできないと解するほかない。

本件では、研究開発会社RDVが不承認の決定の効力を争っているとは元の買主も主張しておらず、一件記録によってもそのような事情はうかがわれないとされました。

判決は、括弧書きで、三男MSB氏の関与についても触れています。

三男MSB氏が本件株式譲渡1を承認させない方向に研究開発会社RDVを誘導した可能性は否定できないが、同人が積極的に承認を妨げたと認めるに足りる証拠はない。

(引用中の「三男MSB氏」「研究開発会社RDV」は、判決本文の符号・名称を本記事の表記に置き換えたものです。)

判決は、承認を妨げる方向への誘導の可能性を否定しなかったものの、積極的な妨害の証拠はないとし、いずれにしても発行会社が不承認の効力を争っていない以上、条件成就とみなすことはできないとして、この主張を退けました。

なお、判決は、不承認を解除条件とする法律行為であるとの主張についても、承認を停止条件とする構成と実質的に同じであって、別の争点として取り上げる意味に乏しいとして、停止条件の構成についてのみ判断しています。

背信的悪意者―発行会社の承認は対抗要件ではない

判決は、元の買主の主張の趣旨を、三男MSB氏は信義則上、元の買主が対抗要件を備えていないことを主張できないとする点にあると解したうえで、次のように判断しました。

譲渡制限株式の譲渡に関する発行会社の承認は、会社との関係における効力発生の要件であって(前掲最高裁判決参照)、対抗要件ではない。

そのため、発行会社の承認が対抗要件であることを前提とする元の買主の主張は採用できないとされました。判決が冒頭の要約で述べたとおり、元の買主と三男MSB氏は対抗関係にはないから、背信的悪意者の法理は適用されないという結論です。

判決は、発行会社が承認しない旨を決定したことで旧会社HWSへの譲渡は当事者間でも効力を失うという三男MSB氏の主張については、特に採否を示していません。判決が採ったのは、承認は効力発生の要件であって対抗要件ではないという理由です。

信義則―不承認、買取人の指定、代金の決済まで終わっていれば、株式の帰属は確定したものとして扱う

元の買主は、発行会社が十分な情報に基づいて承認の可否を判断する機会を得るまでは、三男MSB氏は信義則上、元の買主が株主であることを争えないと主張し、これに沿う大学教授の意見書を提出していました。

判決は、停止条件の争点で述べた制度の趣旨から、次のように述べました。

発行会社が譲渡承認に関する判断の効力について争っていないのに、情報提供が十分になされたかを譲渡当事者が問題として実質的に譲渡不承認の効力を争い、株式の帰属に関する法律関係を不安定にすることを認めるのは相当でない。

さらに、判決は、次のとおり、不承認から代金の決済までが終わった場合の扱いを示しました。

発行会社において実際に譲受人への譲渡を承認しないことを決定し、買取人を指定して、指定された買取人において当該株式の譲渡について代金の決済も完了させている場合には、株式の帰属に関する効力の発生は確定したものとして扱うほかない。

本件でも、研究開発会社RDVが承認に関する判断の効力を争っているとは元の買主も主張しておらず、一件記録によってもそのような事情はうかがわれないとして、この主張も退けられました。

第2事件―同じ理由で、遺産であることの確認も認められない

創業者OKM氏に売られた本件株式2について、判決は、第1事件で述べたところと同じであるとして、妻SNE氏と長男KZM氏の主張をいずれも採用しませんでした。創業者OKM氏の相続財産と三男MSB氏も、本件株式2について対抗関係にはないとされています。

主文及び結論

判決の主文は、「原告らの請求をいずれも棄却する。」「訴訟費用は、原告らの負担とする。」というものです(「原告ら」は、不動産会社KRS、妻SNE氏及び長男KZM氏を指します)。

この結果、本件株式1・本件株式2のいずれについても、元の買主の側が株主であること又は遺産であることの確認は認められず、三男MSB氏に承認請求と名義書換の請求をさせることも認められませんでした。

争点 判決の判断
停止条件成就の妨害(第1事件・第2事件) 承認のない譲渡も当事者間では有効であり、承認を停止条件とする契約ではない。発行会社が不承認の効力を争っていない以上、条件が成就したものとみなすことはできない
背信的悪意者(第1事件・第2事件) 発行会社の承認は効力発生の要件で、対抗要件ではない。対抗関係にないから背信的悪意者の法理は適用されない
信義則(第1事件・第2事件) 発行会社が不承認の効力を争っていないのに、譲渡当事者が情報提供の不足を理由に実質的に不承認の効力を争うことは相当でない。不承認、買取人の指定、代金の決済が終わっていれば、株式の帰属は確定したものとして扱う

判断の射程

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。

参考となる点

  • 株式を売る約束をしただけでは、発行会社に対して株主にはなれないこと。本判決は、承認のない譲渡制限株式の譲渡は当事者間では有効でも、発行会社との関係では効力を生じないという考え方を前提にしています。本件では、売買契約から承認請求まで約3年が経過し、その間に売主側の代表者が交代して、承認請求をする立場の者と株式を取得したい立場の者とが同じ人物になりました。株式を売る側も買う側も、売買契約を結んだら、早期に承認の手続を進めることが重要であることを示す一例といえます。
  • 不承認の効力を争えるのは、基本的に発行会社の判断が前提になること。本判決は、発行会社自らが不承認の効力を争っていない限り、譲受人の側から条件成就の妨害や信義則を理由に承認があったものとみなすことはできないとしました。売主側の承認請求のやり方に不満がある譲受人でも、発行会社の判断を覆す形の主張は認められにくいことになります。
  • 二重譲渡の対抗問題として構成することも認められなかったこと。本判決は、発行会社の承認は会社との関係における効力発生の要件であって対抗要件ではないとして、背信的悪意者の法理の適用を否定しました。不動産の二重譲渡と同じ発想で、後から取得した者を背信的悪意者として排除するという主張は、譲渡制限株式の承認の場面ではとりにくいことが分かります。
  • 指定買取人が売主側の関係者であっても、それだけでは結論は変わらなかったこと。本件の指定買取人は、売主である建築設計・造園会社MKZの代表取締役で、自ら承認請求をした人物でした。判決は、承認させない方向に発行会社を誘導した可能性を否定しなかったものの、積極的に承認を妨げた証拠はないとし、結論を変えませんでした。株式の帰属をめぐる親族間の争いがある会社で譲渡承認の手続が進む場合には、手続の経過や発行会社に提供された情報を記録しておくことが重要になります。

一般化できない点

  • 本判決は、発行会社である研究開発会社RDVが不承認の効力を争っていないことを繰り返し理由に挙げています。発行会社自身が不承認の決定の効力を争っている場合や、不承認の決定の手続そのものに問題がある場合については判断していません。
  • 判決本文は、会社法第142条の手続が省略されたことを前提事実として記載していますが、その省略が不承認や指定買取人による取得の効力にどのように影響するかは、当事者の主張としても判断としても取り上げられていません。会社法には、会社や指定買取人が所定の期間内に通知等をしない場合に譲渡を承認したものとみなす規定(会社法第145条)がありますが、本判決はこの点について何も述べていないため、本判決から手続を省略しても問題がないという結論を導くことはできません。
  • 本件で元の買主の側が求めたのは、株主であること又は遺産であることの確認と、承認請求・名義書換請求をさせることでした。売主である建築設計・造園会社MKZに対する売買契約上の責任や、損害賠償の請求は本件の請求に含まれておらず、判決はこれらについて判断していません。
  • 判決は、指定買取人が支払った代金2,250万円の当否(株式の価格)についても判断していません。
  • 本件は、平成27年に締結された契約について、平成29年改正前民法第130条の適用が争われた事案です。現行の民法第130条第1項にも条件成就の妨害に関する同様の定めがありますが、本判決は改正前の規定を前提に判断しています。
  • 本判決は第一審の判決であり、上訴の有無及び確定は確認できていません。

よくあるご質問

会社の承認を得ないまま、譲渡制限株式を売る契約をしました。契約は無効ですか。

本判決は、最高裁判所の判例を引用して、発行会社の承認がないままされた譲渡制限株式の譲渡は、譲渡当事者間においては有効であるが、発行会社に対する関係では効力を生じないとしています。契約が当然に無効となるわけではありませんが、発行会社に対して株主であると主張するには承認が必要です。

株式を買い受けた後、売主が承認請求の際に十分な情報を会社に伝えなかったため、不承認になりました。株主であると主張できますか。

本判決では、そのような主張は認められませんでした。判決は、発行会社が自ら不承認の効力を争っていない限り、譲受人の側から条件成就の妨害や信義則を理由に承認があったものとみなすことはできないとしています。特に、不承認の後に買取人が指定され、代金の決済まで終わっている場合には、株式の帰属は確定したものとして扱うほかないとされました。

同じ株式を後から取得した人が、事情を知っていた場合でも、先に買った私は負けるのですか。

本判決は、譲渡制限株式の譲渡についての発行会社の承認は、会社との関係における効力発生の要件であって対抗要件ではないとし、先に買った者と指定買取人とは対抗関係にないとして、背信的悪意者の法理を適用しませんでした。後から取得した者が事情を知っていたかどうかという観点での主張は、本件では結論に結び付きませんでした。

譲渡制限株式を親族や関連会社に売る約束をした場合、何に注意すればよいですか。

本件では、売買契約から承認請求まで約3年が経過し、その間に買主の一方であり売主の代表者でもあった創業者が亡くなり、売主の新しい代表者が自ら指定買取人となって株式を取得しました。株式を売る側・買う側のいずれにとっても、売買契約を結んだら速やかに承認請求の手続をとり、発行会社に提供する情報や手続の経過を記録しておくことが大切です。承認請求の具体的な流れは、譲渡制限株式の譲渡承認手続の流れと注意点で解説しています。

会社が譲渡を承認せず、指定買取人が買い取ることになった場合、価格はどう決まりますか。

会社法では、売買価格は協議によって定めるほか、裁判所に価格の決定を申し立てることができる仕組みになっています(会社法第144条)。本件では、指定買取人が平成27年の売買契約と同じ合計2,250万円を売主に支払っていますが、判決はこの価格の当否については判断していません。価格に納得できない場合の手続は、非上場株式の価格決定の申立てのページで御案内しています。

関連する記事と御相談のご案内

譲渡制限株式を売る約束をしたのに承認の手続が進まない場合や、承認請求の結果、会社が譲渡を承認せずに別の者を買取人に指定した場合には、売買契約書、承認請求書の写しと付記の内容、会社からの不承認と買取人の指定の通知、代金の支払や供託の有無、株主名簿の記載を整理し、承認の手続のどの段階で何が行われたかを確認したうえで、株主であることを主張するのか、株式の価格を争うのか、売主に契約上の責任を問うのかを検討します。株式を第三者に譲渡する場合の手続は譲渡制限株式の譲渡承認手続の流れと注意点で、株券を発行していない会社の株式の譲渡の効力要件と譲渡承認請求は株券不発行会社の株式の譲渡の効力要件・対抗要件・譲渡承認請求で解説しています。会社に株式の買取りを断られた場合の対応は会社に株式の買取りを断られた場合の御相談で御案内しています。非上場株式の売却全般は非上場株式の売却の総合案内で、ほかの裁判例は非上場株式・少数株主問題の裁判例の解説記事一覧でご覧いただけます。

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この記事の位置付け

譲渡制限株式を親族や関連会社に売る約束をしたまま承認の手続を終えていない株主と、その株式の買主に向けて、会社が譲渡を承認せず指定買取人が株式を取得した場面の判例を、承認の効力と買主の救済の限界の観点から解説します。

譲渡制限株式を第三者に譲渡する場合の手続については、譲渡制限株式の譲渡承認手続の流れと注意点で御案内しています。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

譲渡制限株式を売る約束をしたのに承認の手続が進まない株主の皆様や、会社が譲渡を承認せず別の者が買取人に指定された場合の対応をお考えの皆様に向けた当事務所の取扱内容及び対応の進め方は、次のご案内をご覧ください。

譲渡制限株式の譲渡承認手続の流れと注意点

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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