【反対株主の株式買取請求権】株式買取請求権裁判例分析1(セイコーフレッシュフーズ事件)―最高裁判所第一小法廷平成27年3月26日決定

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本件は、【反対株主の株式買取請求権】の事件です。非上場会社の吸収合併に反対した株主が、会社法第785条第1項に基づいて自己の株式を公正な価格で買い取るよう請求し、価格の協議が調わなかったため、同法第786条第2項に基づいて裁判所に価格の決定を申し立てました。株式の譲渡承認を会社が拒否した場合の売買価格の決定(会社法第144条)とは、手続も根拠条文も異なります。
札幌地方裁判所と札幌高等裁判所は、収益還元法(利益還元法)による評価額から非流動性ディスカウントとして25%の減価を行い、1株80円としました。最高裁判所は、裁判所が収益還元法を用いて買取価格を決定する場合には非流動性ディスカウントを行うことはできないと判断し、1株106円と定めました。
基本情報
| 裁判所 | 最高裁判所第一小法廷(原審:札幌高等裁判所、原々審:札幌地方裁判所) |
|---|---|
| 裁判日 | 平成27年3月26日(決定)(原審:平成26年9月25日決定、原々審:平成26年6月23日決定) |
| 事件番号 | 平成26年(許)第39号(原審:平成26年(ラ)第151号、原々審:平成24年(ヒ)第34号) |
| 事件名 | 株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 |
| 手続の種類 | 反対株主の株式買取請求(吸収合併に反対した株主。会社法第785条第1項、第786条第2項) |
| 審級 | 許可抗告審 |
| 結論 | 原決定を破棄し、原々決定を取り消して、買取価格を1株106円と決定。裁判官全員一致 |
当事者の表記
本記事では、吸収合併で消滅した会社を、最高裁判所の決定にならい「A社」と表記します(本件は、当事務所のサイトでは「セイコーフレッシュフーズ事件」として紹介してきた事件です。)。株式の買取りを請求した株主を「申立人」、A社を吸収合併した存続会社を「相手方」と表記します。その他の会社や個人も実名を用いずに表記します。
事案の概要
A社と相手方
A社は、大正14年12月17日に設立された、酒類及び飲食料品の卸売、小売等を目的とする非上場の株式会社で、株式の譲渡に取締役会の承認を要する旨の定款の定めがありました。発行済株式の総数は338万7000株です。相手方は、昭和15年6月25日に設立された酒類及び飲食料品雑貨の卸売等を目的とする株式会社で、A社と相手方は、いずれも同じ親会社の子会社でした。
原審の認定によれば、平成24年8月8日当時のA社の株主構成は、相手方が126万7050株(約37.4%)、親会社が123万8000株(約36.6%)、申立人が32万5950株(約9.6%)、A社の代表取締役が32万0400株(約9.5%)で、そのほかに法人1社と個人7名がいました。
合併契約の内容
A社と相手方は、平成24年6月6日、相手方を存続会社、A社を消滅会社とし、効力発生日を同年10月1日とする吸収合併契約を締結しました。原々審が認定した新株の割当てに関する定めの内容は、次のとおりです(当事者の呼称は本記事の表記に改めています。)。
吸収合併契約 第2条(新株の割当)(原々審の認定による内容)
第1項 相手方は、本件吸収合併の効力発生前日の最終のA社の株主名簿に記載された株主(相手方、A社及び会社法第785条に基づき株式買取請求権を行使した株主を除く。)が所有するA社の株式の合計数を6で除した数の株式数を新たに発行して、その所有するA社の普通株式6株につき相手方の普通株式1株の割合をもって、割当交付する。
第2項 相手方が発行する株式数の合計に1株未満の端株株式が発生した場合には、これを切り上げることとし、A社の株主に対して交付する株式数に1株未満の端数が生じた場合には、これを一括売却または買い受けをし、その処分代金に端数を生じた株主に対して、売却代金を1株あたり554円として端数に応じて合併効力発生日から3か月以内に支払う。ただし、1円未満は切り捨てる。
原々審は、この合併は同じ親会社の下の子会社同士の合併で、グループ内での再編という意味合いが強いとし、鑑定も、合併によるシナジー効果は極めて限定的であるとしました。
株式買取請求と申立て
申立人は、A社の株主総会に先立ち合併に反対する旨を通知し、株主総会でも反対した上、A社に対し保有株式32万5950株を公正な価格で買い取るよう請求しました。合併の効力発生後、相手方は1株71円での買取りを申し入れましたが、協議は調わず、申立人が価格の決定を申し立てました。
事案の経緯
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 平成24年6月6日 | A社と相手方が吸収合併契約を締結 |
| 平成24年7月31日 | 申立人の合併に反対する旨の通知がA社に到達 |
| 平成24年8月7日 | 相手方の臨時株主総会が合併契約を承認 |
| 平成24年8月8日 | A社の臨時株主総会が合併契約を承認(申立人は反対) |
| 平成24年9月12日 | 申立人の株式買取請求の書面がA社に到達 |
| 平成24年10月1日 | 合併の効力が発生し、A社は解散 |
| 平成24年10月24日付け | 相手方が1株71円での買取りを申入れ |
| 平成24年11月21日 | 申立人が札幌地方裁判所に買取価格の決定を申立て |
| 平成26年6月23日 | 札幌地方裁判所が1株80円と決定 |
| 平成26年9月25日 | 札幌高等裁判所が申立人の抗告を棄却 |
| 平成27年3月26日 | 最高裁判所が原決定を破棄し、原々決定を取り消して1株106円と決定 |
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申立ての内容と当事者の主張
原々審で、申立人は、平成23年12月31日現在の簿価純資産額3億8839万1768円を発行済株式総数で除した1株114円を求めました。類似業種比準方式による1株90円にシナジーの分配分20円を加えた1株110円とする主張もしました。相手方は、合併直前の平成24年9月30日現在の純資産額2億3869万7766円を基にした1株71円を主張し、収益還元法によれば1株63円になるとしました。
裁判所が選任した鑑定人は、利益還元法による評価額から非流動性ディスカウントとして25%を減価して1株80円とする鑑定をしました。申立人は、株式買取請求権は株式を手放さざるを得ない事態に追い込まれた株主への補償措置であり、市場性がないという理由だけで25%も減額するのは相当でなく、減価しなければ1株106円になると主張しました。
原審(札幌高等裁判所)でも申立人は1株114円を求めましたが、抗告は棄却されました。最高裁判所では、収益還元法を用いる場合に非流動性ディスカウントを行うことができるかが争われました。
争点
非上場会社で会社法第785条第1項に基づく株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に、非流動性ディスカウント(当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価)を行うことができるかが争点です。
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
裁判所の判断
原々審・原審の判断
原々審は、A社は合併前の5事業年度に安定して利益を計上しており、合併後もその卸売事業は相手方の下で続いていることから、純資産を基準とする方法や類似会社と比較する方法は相応しくなく、事業継続を前提とする利益還元法が適しているとしました。配当が実施されたのは5事業年度のうち1期のみであったため配当還元法は採らず、事業計画書等がないためフリー・キャッシュ・フロー法も採りませんでした。
鑑定は、過去5事業年度の経常利益から分割譲渡済みの小売部門の損益を除くなどして正常利益(税引前)を年4824万2000円とし、株主資本コスト10.43%(リスクフリーレート0.774%+マーケットリスクプレミアム5.5%×β値1.049+サイズプレミアム3.89%)で割り引いて、税引後正常利益の現在価値を約1億7118万6000円(平成25年12月期から平成29年12月期まで)と約1億9039万6000円(平成30年12月期以降)、合計約3億6158万3000円と算定しました。これに非流動性ディスカウント25%を適用して株主価値を2億7118万7000円とし、338万7000株で除して1株80円としています。修正簿価純資産法による1株71円は評価額の最低額を画するものとされました。
原審は、吸収合併に反対して退出を選択した株主には、吸収合併がされなかった場合と経済的に同等の状況を確保すべきところ、A社の株式は譲渡制限株式で株主数も少なく取引事例も乏しいからその換価は困難であり、このことは株式の経済的価値自体に影響を与えているとして、換価の困難性を考慮することは裁判所の合理的な裁量を超えないとし、1株80円を維持しました。
最高裁判所の判断の枠組み
最高裁判所は、会社法第786条第2項に基づき価格の決定の申立てを受けた裁判所は、株式買取請求権が付与された趣旨に従い、その合理的な裁量によって公正な価格を形成すべきものであるとし(最高裁判所第三小法廷平成23年4月19日決定を参照しています。)、非上場会社の株式の価格の算定にどの評価手法を用いるかは裁判所の合理的な裁量に委ねられるとしました。その上で、次のように述べました。
「一定の評価手法を合理的であるとして,当該評価手法により株式の価格の算定を行うこととした場合において,その評価手法の内容,性格等からして,考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されないというべきである。」
収益還元法には市場価格との比較の要素がない
最高裁判所は、非流動性ディスカウントは、非上場会社の株式に市場性がなく上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるのに対し、収益還元法は将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元して株式の現在の価格を算定するもので、類似会社比準法等とは異なり、市場における取引価格との比較という要素は含まれていないと指摘しました。
そして、吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が、会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面、反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに、退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることも念頭に置くと、収益還元法によって算定された株式の価格について、同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは相当でないとしました。
「非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当である。」
買取価格の算定
最高裁判所は、原審の判断には裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとし、A社において将来期待される純利益の現在価値の合計約3億6158万3000円を発行済株式の総数338万7000株で除して、買取価格を申立人の主張するとおり1株106円としました。
鑑定料120万円については、当事者の合意に照らして、鑑定結果と各当事者の主張金額との乖離額に応じて分担させることとし、94万8837円を申立人、25万1163円を相手方の負担としました。原審及び最高裁判所での抗告費用は相手方の負担とされました。
結論
最高裁判所は、原決定を破棄し、原々決定を取り消した上で、申立人が有していたA社の株式の買取価格を1株106円と定めました。25%の減価を行うかどうかだけで、1株当たり26円(申立人の保有株式32万5950株に当てはめると、当事務所の計算で約847万円)の差が生じたことになります。
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実務上の着眼点
- 本決定は、評価手法を選んだ以上、その手法の内容・性格からして考慮すべきでない要素を持ち込んで価格を決めてはならないという枠組みを示しました。鑑定や株価算定書がディスカウントを加えている場合には、採用した評価手法との整合性を確認する意味があります。
- 収益還元法については、市場における取引価格との比較の要素を含まないことが、非流動性ディスカウントを否定する理由とされました。
- 本件では、合併が同じ親会社の下の子会社同士の合併で、シナジーは限定的とされ、合併がなければ株式が有したであろう価格を基礎に評価されています。
協議が調わない場合に裁判所に価格の決定を申し立てる手続と、その期限は、次のページでご案内しています。
本決定が扱っていない事項
- 本決定は、非流動性ディスカウントを一般に否定したものではなく、反対株主の株式買取請求で、裁判所が収益還元法を用いる場合について判断したものです。類似会社比準法等、市場における取引価格との比較を要素とする手法を用いる場合については判断していません。
- 譲渡制限株式の譲渡承認を拒否した場合の売買価格の決定(会社法第144条)について判断したものではありません。この場面については、最高裁判所令和5年5月24日決定が別に判断しています(譲渡制限株式の売買価格決定で非流動性ディスカウントは許されるか?―最高裁判所令和5年5月24日決定をご覧ください。)。
- マイノリティ・ディスカウントやサイズプレミアムの当否については判断していません。
- 収益還元法を選んだこと自体や、正常利益・株主資本コストの数値の当否は、最高裁判所での争点ではありません。
よくあるご質問
非上場会社の株式なら、必ず非流動性ディスカウントは否定されますか。
本決定が否定したのは、吸収合併等に反対した株主の株式買取請求で、裁判所が収益還元法を用いて買取価格を決める場合の非流動性ディスカウントです。それ以外の評価手法や手続について、一般的に否定したものではありません。
なぜ地方裁判所と高等裁判所は減価を認めたのですか。
原審は、A社の株式は換価が困難であり、そのことが株式の経済的価値自体に影響を与えているから、換価の困難性を考慮することは裁判所の合理的な裁量の範囲内であるとしました。最高裁判所は、この判断を是認できないとしました。
本件で減価の有無によってどれだけ違いましたか。
減価した場合は1株80円、減価しない場合は1株106円で、1株当たり26円の差でした。
非上場株式の評価の方法と、適正な買取価格の考え方は、次のページでご案内しています。
根拠条文
- 会社法第785条第1項(吸収合併等に反対する株主の株式買取請求)
- 会社法第786条第2項(株式の価格の決定の申立て)
この記事の位置付け
セイコーフレッシュフーズ事件に関するメインのページです。本ページは、少数株主として株式の売却を考える方に向けて、株式買取請求の価格が争われた最高裁判所の判断と評価方法の選び方をご説明します。他の裁判例はそれぞれ別のページをご参照ください。
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