【譲渡承認拒否・株式買取請求】株価算定方法に関する判例(TF事件)!大阪地方裁判所平成27年7月16日決定

▶ 非上場株式の譲渡適正価格はいくらか 少数株主が適正価格で譲渡(売却)する方法を解説
本件は、【譲渡承認拒否・株式買取請求】の事件です。非上場会社の株主が、保有する株式の一部を第三者に譲渡するため会社に譲渡承認を請求したところ、会社は承認せず、投資ファンドを指定買取人に指定しました。売買価格の協議が調わなかったため、会社法第144条第7項において準用する同条第2項に基づき、裁判所に売買価格の決定が申し立てられました。
対象となったのは、事業会社であるTF社の株式100株と、TF社の株式を保有するだけの資産管理会社であるTF企画社の株式10株です。大阪地方裁判所は、TF社の株式を配当還元法により1株2195円、TF企画社の株式を時価純資産法により1株1298円と定めました。少数株式の売買で、どの評価方法が選ばれ、どの評価方法が退けられたのかを、決定の内容に沿って解説します。
基本情報
| 裁判所 | 大阪地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判日 | 平成27年7月16日(決定) |
| 事件番号 | 平成25年(ヒ)第134号、第135号、第136号 |
| 事件名 | 株式売買価格決定申立事件(甲事件、乙事件、丙事件) |
| 手続の種類 | 譲渡承認拒否に伴う指定買取人による買取り(会社法第144条第7項・第2項) |
| 審級 | 第一審 |
| 結論 | TF社の株式100株を1株2195円、TF企画社の株式10株を1株1298円と決定。手続費用は各自の負担 |
本記事は上記決定の解説です。上訴の有無や確定を確認した旨の表示ではありません。
当事者の表記
以下では実名を用いず、株式の発行会社を「TF」社及び「TF企画」社、譲渡承認を請求した株主を株主D、指定買取人である投資ファンドを投資ファンドEと表記します。決定は、投資ファンドEを「申立人」、株主Dを「利害関係参加人」と呼んでいます。TF社の主要株主である会社はG社と表記します。
事案の概要
2つの会社
「TF」社は、昭和37年1月に設立された、フレキシブルチューブの製造、販売等を行う非上場の株式会社です。大阪市の本社のほか、東京、名古屋など5か所の支店等と4か所の工場、中国の生産拠点を有し、平成25年11月期の従業員数は131名でした。決定は、その事業規模を、同じ業界の上場会社や業界最大手の会社には及ばないものの「これに準ずる程度」と評価しています。定款には、株式の譲渡に取締役会の承認を要する旨の定めがありました。
「TF企画」社は、昭和59年4月に企業の経営に関する相談及び指導等を目的として設立された特例有限会社です。遅くとも平成22年3月期からは事業活動を全くしておらず、TF社の株式を保有しているだけの会社でした。特例有限会社であるため、法律の規定により、株式の譲渡による取得に会社の承認を要する旨の定めがあるものとみなされます。
TF社の株主構成
譲渡承認請求の時点で、TF社の発行済株式総数は19万6000株で、そのうち3万4880株は自己株式であり、議決権株式総数は16万1120株でした。主要な株主は次のとおりです。
- 「TF企画」社:3万7660株(議決権比率23.4%)
- G社:2万8060株(同17.4%)。G社は、TF社の役員3名が議決権の55%を保有する会社です
- 従業員持株会:2万3500株(同14.6%)
- 両社の代表取締役:2万0800株(同12.9%)
決定は、現経営陣及びこれと友好的な関係にあると推認できる株主が、議決権総数の68.3%を保有していると認定しています。
TF企画社の株主構成と財務内容
TF企画社の発行済株式総数は2万3460株で、両社の代表取締役(3300株)、役員2名(各3000株)、TF社の工場長(3000株)がそれぞれ12.8%から14.1%を保有していました。
平成25年3月期の貸借対照表では、資産は現預金147万6000円、有価証券6343万8000円(TF社株式3万7660株、1株当たりの帳簿価額1684円)、保証金60万円で、負債は未払消費税20万5000円、TF社に対する預り保証金5000万円でした。純資産は1530万9000円(資本金2346万円、利益剰余金マイナス815万1000円)です。
売買の対象となった株式
株主Dは、かつてTF社の取締役及び監査役を務めた人物で、譲渡承認請求の時点で、TF社の株式3500株(持分比率1.79%、議決権比率2.17%)と、TF企画社の株式50株(持分比率・議決権比率とも0.21%)を保有していました。このうち、TF社の株式100株とTF企画社の株式10株が本件の対象です。
TF社の株式の過去の取引
決定は、譲渡承認請求に近い時期のTF社の株式の取引として、次の4件を認定しています。
| 時期 | 売主から買主へ | 株式数 | 1株当たりの価格 |
|---|---|---|---|
| 平成19年4月 | 元代表取締役からG社へ | 3万4880株 | 6000円 |
| 平成19年10月 | G社から「TF」社へ | 3万4880株 | 6000円 |
| 平成20年9月 | メインバンクから両社の代表取締役へ | 800株 | 6500円 |
| 平成23年5月 | 機関投資家から投資ファンドEへ | 2600株 | 2200円 |
事案の経緯
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 平成25年11月16日 | 株主Dが、TF社の株式100株及びTF企画社の株式10株について、個人への譲渡の承認と、承認しない場合の会社又は指定買取人による買取りを両社に請求 |
| 平成25年11月29日 | 両社が、譲渡を承認しない旨と、投資ファンドEを買い取る者に指定する旨を株主Dに通知 |
| 平成25年12月5日 | 投資ファンドEが、1株当たり純資産額に株式数を乗じた額として、TF社の株式につき197万4062円、TF企画社の株式につき6526円を大阪法務局に供託 |
| 平成25年12月6日 | 投資ファンドEが、指定買取人として指定を受けた旨と株式を買い取る旨を株主Dに通知 |
| 平成25年12月21日 | 投資ファンドEが、TF企画社の株式(甲事件)及びTF社の株式(乙事件)について売買価格の決定を申立て |
| 平成25年12月24日 | 株主Dが、TF企画社の株式について売買価格の決定を申立て(丙事件) |
| 平成26年3月4日 | 投資ファンドEの依頼を受けた専門会社が、両社の株式についての株式価値評価報告書を作成 |
| 平成27年7月16日 | 大阪地方裁判所が売買価格を決定 |
申立ての内容と当事者の主張
TF社の株式について
投資ファンドEは、業種等の標準的な配当性向を用いる標準配当還元法を採用し、1株1958円とすべきであると主張しました。これは、投資ファンドEの依頼で作成された株式価値評価報告書の結論で、報告書は、参考とした割引キャッシュ・フロー法(以下「DCF法」といいます。)による評価額の範囲(1株2138円ないし2793円)の下限と、平成23年5月の取引価格(1株2200円)にも近似しているとしていました。
株主Dは、複数の評価方法を一定の割合で併用する折衷法により、標準配当還元法を25%、取引事例法と類似会社比較法の平均値を25%、簿価純資産法を50%の割合で加重平均し、1株1万2996円とすべきであると主張しました。
TF企画社の株式について
双方とも時価純資産法を採用すべきであるとしましたが、投資ファンドEは1株1058円、株主Dは1株2万0951円を主張しました。投資ファンドEは、仮にTF企画社を実体のある法人とみるのであれば配当還元法により1株78円とすべきであるとも主張しています。
争点
- TF社の株式について、配当還元法を単独で用いるか、取引事例法、類似会社比較法、純資産法を併用するか
- 配当還元法の算定過程(予想配当性向、β、無リスク金利)の合理性
- TF企画社の株式の時価純資産法による算定で、TF社に対する預り保証金5000万円を負債とするか、含み益に対する税効果を控除するか
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
裁判所の判断
判断の枠組み
裁判所は、会社法第144条第3項により「会社の資産状態その他一切の事情」を考慮しなければならないとした上で、決定すべき売買価格は、譲渡等承認請求の時点における株式の客観的な交換価格であると述べました。そして、取引相場がない以上、会社の資産状態のほか、収益状況、1株当たりの収益又は配当額、配当政策・配当能力、将来の事業の見通し、業界の状況など、会社の事業活動及び財務状況等に関する一切の事情を考慮して、客観的に妥当な価格を定める必要があるとしました。
TF社の株式は配当還元法を単独で採用
裁判所は、次の事情を総合して、配当還元法を採用するのが最も合理的かつ相当であるとしました。
- TF社は相応の規模を有し、比較的安定した利益を上げており、今後も事業活動を継続していくことが予想されること
- 売買の対象となる100株は議決権総数の0.06%にすぎず、買主である投資ファンドEが売買後に保有する2700株も議決権総数の1.68%にすぎないこと
- 現経営陣等が議決権の68.3%を保有しており、投資ファンドEが経営支配権を獲得することは現実的には極めて困難であること
- そのため、売主も買主も配当の取得を主な利益ないし目的とせざるを得ない地位にあり、本件売買は実質的に将来の配当に対する期待を売買するのと同視できること
株主Dは、投資ファンドEとTF社との間に将来の転売の合意があり、支配株主を買主とする売買であると主張しましたが、裁判所は、そのような合意を認めるに足りる証拠はないとしました。
取引事例法は参考にとどめる
裁判所は、市場性のない株式の取引先例が客観的交換価値を適正に反映しているといえるかには根本的な疑問があるとして、取引事例法は他の評価方法による評価額の妥当性を検証するための参考とする程度にとどめるのが相当であり、評価方法として採用することはできないとしました。参考として用いるなら、最も直近の売買で、TF社から独立した第三者間の取引であり、売買された株式の割合の点でも本件と有意な差がない平成23年5月の取引(1株2200円)が相当であるとしています。
類似会社比較法は採用しない
TF社について、比較対象として採用できるほどの類似性がある上場会社は存在しないと認定されました。非上場の業界最大手1社を類似会社とすべきであるとの株主Dの主張も、類似会社比較法は信頼性のある情報が開示される上場会社を比較対象として想定していること、通常は複数の会社を選定すべきであることから、相当でないとされました。
純資産法は過大評価になる
裁判所は、純資産法は会社の将来の収益獲得能力を適正に評価しきれないため、事業継続を前提とした会社の株式評価には適さないとし、本件では売主も買主も会社を清算して会社資産の持分を取得することはできないから、純資産法による評価額を採用することは「株式価値を過大評価することとなって相当でない」と判断しました。
会社法第144条第3項が資産状態を挙げていることを理由に純資産法を最も重視すべきであるとの主張についても、どの要素を重視するかは事案ごとに異なり、同項の文言上も資産状態は考慮要素の1つとして例示されたものにすぎないとして、退けました。
DCF法よりも配当還元法
同じインカム・アプローチに属するDCF法についても、売主・買主のいずれもが配当の取得を主な利益とせざるを得ない地位にあること、TF社では利益の多くが事業用資産に再投資されていたこと(平成22年12月から平成25年11月までの3年間で、税引前利益の合計約4.7億円、営業キャッシュ・フローの合計約1.8億円に対し、投資キャッシュ・フローの合計はマイナス約7億円)、計上されている現金等は必要運転資金と考えられ、配当の原資となり得る非事業用資産は内部留保の全体額と比べて少ないことから、配当還元法の方が合理的であるとしました。
配当還元法の算定過程の検討
株式価値評価報告書の配当還元法は、次の考え方によっていました。
- 将来利益:TF社による平成26年11月期の予想と平成23年11月期以降3期間の実績平均の利益に、想定される実効税率を考慮して9913万2000円とする
- 予想配当性向:TF社自身の配当性向は4%ないし5%と相対的にも低水準であるため用いず、①同業種の上場会社19社の5年間平均19.5%と、②東京証券取引所第一部上場会社の5年間平均33.0%を用いる
- 1株当たりの予想配当額:①120.2円、②202.9円(議決権株式総数16万1120株で除したもの)
- 割引率:株主資本コストを資本資産評価モデルで推計し、β1.139(類似上場会社6社のアンレバードβ0.956にTF社のデット・エクイティ・レシオ0.305を織り込んだもの)×市場リスクプレミアム5.9%+無リスク金利1.53%(20年国債利回り)=8.251%
- 評価額:①1457円と②2459円の中間値である1958円
裁判所は、将来利益の設定、予想配当性向の採り方(TF社の規模が上場会社に準ずること、上場会社の配当性向は業種によるばらつきが大きいこと、配当の原資となる非事業用資産が少ないこと)、βの推計はいずれも合理的であるとしました。予想配当性向とβの算出に用いた会社が一致していないとの株主Dの主張も、両者は選定の観点が異なるとして退けています。
他方で、無リスク金利に20年国債の利回りを用いた点は相当でないとしました。無リスク金利には一般に10年国債の利回りが用いられ、10年国債は超長期国債よりも流動性が高く予想外のインフレによる影響も受けにくいという理由も合理的であるとして、譲渡承認請求日である平成25年11月16日時点の10年国債の新発債の利回り0.639%を採用しました。
裁判所は、この修正をし、単純な計算上の誤りを訂正すれば、報告書の算定は客観的に合理性があるとして、TF社の株式の価格を1株2195円と定めました。修正後の計算式は決定の別紙に記載されていますが、当事務所が確認した決定文では別紙が省略されているため、修正後の計算過程の細部は確認できません。
TF企画社の株式は時価純資産法
TF企画社は事業活動を全く行っておらず、総資産の大部分はTF社の株式であるため、その株主は実質的にTF社の株式を間接的に保有しているといえ、TF企画社の株式の価値はTF社の株式の価値によって決まるとして、TF社の株式の時価を基準とした時価純資産法が採用されました。
TF企画社の負債であるTF社に対する預り保証金5000万円について、裁判所は、TF企画社が昭和59年にTF社の株式を5000万円で買い受けた際の資金が預り金として調達されたこと、TF社が平成10年から平成15年にかけて預け金債権の一部を帳簿上償却したものとして処理したものの、平成22年11月決算期に帳簿を修正したことなどを認定しました。そして、帳簿上の償却処理は実態に即したものではなく、債権の免除を認めるに足りる証拠もないとして、5000万円を負債として扱うのが相当であるとしました。
含み益に対する税効果を考慮すべきでないとの株主Dの主張については、TF企画社の株主が投下資本を回収する方法はTF社の株式の売却しかなく、売却すれば売却益に課税され、株主は法人税等控除後の金額からしか配分を受けられないから、簿価を時価に評価替えする以上、法人税等を控除するのが相当であるとして退けました。
以上により、裁判所はTF企画社の株式を次のとおり算定しました。
- TF社の株式の時価と簿価との差額:2195円×3万7660株-1684円×3万7660株=1924万4260円
- 税効果影響額:(1924万4260円-815万1000円)×37.07%=411万2642円
- 時価純資産額:1530万9000円+1924万4260円-411万2642円=3044万0618円
- 1株当たりの価格:3044万0618円÷2万3460株≒1298円
結論
大阪地方裁判所は、投資ファンドEが株主Dから買い取るTF社の株式100株の売買価格を1株当たり2195円、TF企画社の株式10株の売買価格を1株当たり1298円と定めました。手続費用は各自の負担とされました。
実務上の着眼点
- 本件では、売買される株式の割合だけでなく、買主が売買後に保有する割合や、経営陣側が保有する議決権の割合も検討され、買主が経営支配権を得る見込みがないことが配当還元法を選ぶ理由とされました。
- 会社自身の配当性向が低い場合でも、そのまま用いず、同業種の上場会社や上場会社全体の平均を用いた報告書の方法が合理的とされました。
- 報告書の数値は項目ごとに検討され、無リスク金利の採り方の違いだけで1株1958円から1株2195円に変わりました。算定書の前提数値を1つずつ確認することが重要です。
- 資産管理会社の株式では、保有する株式の評価、帳簿上の負債の実態、税効果の控除がそれぞれ価格を左右します。
協議が調わない場合に裁判所に価格の決定を申し立てる手続と、その期限は、次のページでご案内しています。
本決定が扱っていない事項
- 決定は、非流動性ディスカウントやマイノリティ・ディスカウントについて触れておらず、配当還元法による評価額をそのまま売買価格としています。
- 決定には、裁判所が選任した鑑定人による鑑定についての記載はなく、判断は株式価値評価報告書の算定過程の検討によっています。
- 支配株主が買主となる売買や、組織再編に反対した株主の株式買取請求の場合の評価方法について判断したものではありません。
- 修正後の計算式を示した別紙の内容は、当事務所が確認した決定文には含まれていません。
よくあるご質問
少数株式の売買では、必ず配当還元法が使われるのですか。
本件では、会社が安定して事業を継続していること、売買される株式の割合が極めて小さく買主が経営支配権を得ることも困難であることなどを総合して、配当還元法が選ばれました。どの評価方法が選ばれるかは、事案の具体的な事情によります。
会社の実際の配当が少ない場合、配当還元法では価格が低くなりますか。
本件では、会社自身の配当性向(4%ないし5%)が相対的にも低水準であるとして用いられず、同業種の上場会社の平均(19.5%)と上場会社の平均(33.0%)が用いられました。
過去に高い価格で売買された実績があれば、その価格になりますか。
本件では、取引事例法は参考にとどめるべきであるとされ、評価方法として採用されませんでした。参考とする場合も、最も直近で独立した第三者間の平成23年5月の取引(1株2200円)が相当であるとされ、それ以前の1株6000円や6500円の取引は採用されていません。
会社法第144条第3項に「資産状態」とあるのに、なぜ純資産法が採用されなかったのですか。
裁判所は、資産状態は考慮要素の1つとして例示されたものにすぎず、同項から直ちに純資産法を採用又は併用しなければならないという結論は導かれないとしました。
非上場株式の評価の方法と、適正な買取価格の考え方は、次のページでご案内しています。
根拠条文
- 会社法第136条、第138条(株主からの譲渡承認の請求及びその方法)
- 会社法第140条第4項(指定買取人の指定)
- 会社法第142条(指定買取人による買取りの通知及び供託)
- 会社法第144条第2項・第3項・第7項(売買価格の決定の申立て及び考慮事項。指定買取人による買取りへの準用)
- 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第9条第1項(特例有限会社の株式の譲渡制限)
この記事の位置付け
TF事件の株価の算定に関するメインのページです。本ページは、株主の側から、当事者が主張した算定の基準を裁判所がどのように取捨したかをご説明します。他の事件における判断はそれぞれ別のページをご参照ください。
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