株価算定書があれば会社との価格交渉に勝てるのか

株価算定書は、非上場株式の価格を検討するうえで有用な資料です。もっとも、算定書を取得したことのみによって価格が決まるわけではありません。株価算定書は、前提条件、基準日、依頼者及び目的によって結論が大きく異なる性質のものであり、交渉又は裁判手続における一つの資料として位置付けられます。本記事では、株価算定書の意義と限界を整理いたします。

株価算定書を取得すれば結論が定まるわけではありません

会社から低い金額を提示された株主の方から、「株価算定書を取れば会社に対抗できるか」というご質問をいただくことがあります。結論から申し上げますと、算定書の取得は検討に値する選択肢の一つですが、それだけで結論が定まるものではありません。

理由は単純です。会社の側も算定書を取得することができるためです。同じ会社の同じ株式について、株主側の算定書と会社側の算定書とで、金額が数倍異なるという事態は珍しくありません。両者が並んだ場合、争点は「いずれの算定書が正しいか」ではなく、「いずれの算定書の前提が、当該会社の実態に整合しているか」に移ります。

したがって、算定書は、それ自体が結論を決める文書ではなく、前提となる事実に関する主張を数値の形に整理したものであると理解する必要があります。

株価算定書には複数の種類があります

「株価算定書」と呼ばれる文書は、一種類ではありません。第一に、取引の当事者が価格の参考とするために取得する価値算定の報告書があります。第二に、取引条件の公正性について意見を述べる文書(フェアネス・オピニオン)があります。第三に、相続税又は贈与税の申告のために作成される税務上の評価に関する資料があります。第四に、裁判所が手続の中で鑑定人を選任して行わせる鑑定の結果があります。

これらは目的が異なりますので、記載事項も、作成者が負う責任の範囲も異なります。とりわけ、税務上の評価に関する資料は、財産評価基本通達に従って課税価格を計算したものであり、その株式が現にいくらで取引され得るかという価値を示すものではありません。会社側が相続税の申告に用いた評価額を根拠として提示している場合には、その点自体を指摘することができます。

株主の側で算定書を検討する際にも、何のための算定書を、誰に、どのような前提で依頼するのかを最初に決めておく必要があります。

前提条件の記載が結論を左右します

株価算定書の末尾又は冒頭には、通常、前提条件及び限定事項に関する記載が置かれています。ここには、依頼者から提供された資料が正確かつ完全であることを前提としていること、資料について独自の検証を行っていないこと、報告書は特定の目的のためにのみ作成されたものであり他の目的に使用してはならないこと、といった趣旨が記載されているのが通例です。

この記載の意味は重要です。すなわち、算定書の作成者は、提供された資料を前提として計算を行ったのであって、その資料の内容が実態を反映しているかどうかを保証しているわけではありません。会社側が作成した事業計画を前提とすれば、その計画のとおりの結論が出ますし、含み益のある不動産を簿価のまま提供すれば、含み益は結論に反映されません。

したがって、算定書を検証する際には、まず前提条件及び限定事項の記載と、採用された資料の一覧を確認することになります。数値そのものよりも、この部分に争点が集約されることが少なくありません。

基準日、依頼者、目的が変われば結論も変わります

同じ会社の株式であっても、基準日が異なれば結論は変わります。直近の決算期末を基準とするか、その前の期末を基準とするか、基準日の後に生じた大きな資産の売却、設備投資、役員退職慰労金の支給、貸倒れの発生が反映されているかによって、金額は動きます。

依頼者及び目的によっても変わります。取引価格の参考とするための算定、課税価格を計算するための評価、裁判手続における主張の裏付けとするための算定では、採用される手法も前提も異なります。評価手法についても、インカム・アプローチ(収益還元法、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法、配当還元法)、マーケット・アプローチ(類似会社比較法、類似業種比準方式、取引事例法)、ネットアセット・アプローチ(簿価純資産法、時価純資産法)のいずれを、どのような比重で用いるかによって、結論は大きく異なります。

このように、算定書の結論は一意に定まるものではありません。「専門家が作成した文書であるから正しい」という理解は、正確ではありません。

裁判手続における株価算定書の位置付け

裁判手続においても、当事者が私的に依頼して作成された算定書は、裁判所を拘束するものではありません。それは当事者の主張を裏付けるための資料として提出されるものであり、裁判所が選任した鑑定人による鑑定とは位置付けが異なります。

譲渡制限株式の売買価格の決定について、会社法は、裁判所は譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない旨を定めています(会社法第144条第3項)。すなわち、裁判所は、提出された算定書のいずれかを選択するのではなく、資産状態その他の事情を踏まえて自ら価格を定めます。

したがって、裁判手続においても、算定書を提出したことのみによって結論が導かれるわけではありません。算定書が前提としている事実が、証拠によって裏付けられているかどうかが問われます。なお、裁判所が鑑定を実施する場合であっても、鑑定人に対してどのような前提資料が提供されるかによって結果が左右されますので、鑑定の実施前における主張及び立証が重要となります。

結論を左右するのは、算定の前提となる事実です

以上を踏まえますと、価格に関する争いにおいて実質的な意味を持つのは、算定書という文書の存否ではなく、算定の前提となる事実がどこまで明らかにされ、証拠によって裏付けられているかという点です。

具体的には、事業に用いられていない不動産又は有価証券が存在すること、不動産に含み益があること、役員報酬の水準が同業他社と大きく異なること、代表者又はその資産管理会社との間に通常の条件と異なる取引があること、一時的な損益が計上されていること、簿外の債務が存在すること、といった事実です。これらの事実は、決算書、勘定科目内訳明細書、登記事項証明書、契約書その他の資料により裏付けられて初めて、評価に反映されます。

株主が会社の資料を有していない場合、会社法上、計算書類等の閲覧謄写請求(会社法第442条第3項)、定款の閲覧謄写請求(会社法第31条第2項)、株主名簿の閲覧謄写請求(会社法第125条第2項)が認められ、総株主の議決権の100分の3以上を有する株主等については会計帳簿の閲覧謄写請求(会社法第433条第1項)が認められます。それぞれ要件及び対象が異なりますので、区別して検討する必要があります。

算定書を取得すべき場面と、その時期

以上は、算定書が無意味であるということではありません。会社側の提示額の水準を客観的に把握するため、あるいは裁判手続における主張を裏付けるために、算定書が有用となる場面はあります。

もっとも、算定書の作成には費用と期間を要します。また、前提となる資料が十分に揃っていない段階で取得しますと、資料の追加によって結論が変わり、かえって自らの主張の一貫性を損なうことにもなりかねません。取得の要否、依頼先、時期、及びどの範囲の資料を前提とするかは、事案の内容と手続の段階に応じて判断すべき事柄です。

とりわけ、会社法上の手続には期限が定められている場合があります。譲渡制限株式について会社又は指定買取人が買い取る旨の通知を受けた場合、供託を証する書面の交付の日から20日以内に株式売買価格決定の申立てをしなければ、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額をもって売買価格とされます(会社法第144条第5項)。算定書の取得を待っているうちに期限を徒過することのないよう、手続上の時間軸と併せて検討する必要があります。

よくあるご質問

会社が提示してきた算定書は公認会計士が作成したものです。争えますか。

作成者の資格をもって前提の正しさが確定するわけではありません。前提条件及び限定事項の記載、採用された資料、基準日、手法の選択と比重、ディスカウントの有無とその根拠を確認することが検証の中心となります。

株主側でも算定書を取得すれば、会社は金額を引き上げますか。

任意の交渉においては、会社が金額を変更するかどうかは会社の判断によります。算定書の存在が直ちに金額の変更につながるとは限りません。会社が態度を変えるかどうかは、株主構成、財務状況、従前の経緯その他の事情によって異なります。

算定書の費用はどの程度かかりますか。

依頼先、会社の規模、用いる手法、対象とする資料の範囲によって異なります。取得の要否自体が検討事項ですので、まずは事案の内容と手続の段階を確認したうえでご説明いたします。

算定書を取得せずに交渉を始めても構いませんか。

事案によります。手元の資料から会社の提示額の水準を概括的に把握し、追加で取得すべき資料を整理したうえで、算定書の要否を判断する順序が合理的である場合が少なくありません。

具体的な交渉手法の詳細は開示しておりません

当事務所では、非上場株式・少数株式について、当初は株式買取りに消極的であった会社又は関係者との交渉を行い、任意の株式買取りに至る案件を取り扱っています。もっとも、会社が株式買取りに応じるか否かは、株主構成、会社の財務状況、株式価値、株主間の従前の経緯、会社支配権、相続・事業承継の状況その他の事情によって異なります。どのような事情を踏まえ、どのような順序及び方法で会社と交渉するかは、当事務所が個別案件の経験を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では具体的な交渉手法の詳細を開示しておりません。

本記事の記載は、一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

株価算定書の検証及び会社との価格交渉について、弁護士法人M&A総合法律事務所がご相談をお受けいたします。

  • 電話 03-6435-8418(受付時間 8時00分から21時00分まで。土曜・日曜・祝日も受付)
  • 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階
  • 代表弁護士 土屋 勝裕(東京弁護士会 登録番号26775)

会社から交付された算定書をお持ちの場合はご持参ください。資料をお持ちでない場合でも、ご相談は可能です。

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