非上場株式のディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法とは

ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法は、会社が将来の複数期間に生み出すフリー・キャッシュ・フローを見積もり、これを加重平均資本コストにより現在価値に割り引いて合計する手法です。同じインカム・アプローチに属する収益還元法が平準化した1期分の収益力を用いる単期のモデルであるのに対し、こちらは複数期間の変化を織り込むことのできる多期間のモデルです。前提の置き方によって結論が大きく変動する手法でもありますので、その構造を理解しておく必要があります。

ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法の基本的な構造

この手法の考え方は、会社の価値を、その会社が将来にわたって生み出す現金の合計に求めるというものです。ただし、将来受け取る現金は、現在受け取る現金と同じ価値ではありません。時間の経過と不確実性があるためです。そこで、将来の各年度に見込まれる現金の額を、一定の率で割り戻して現在の価値に換算します。この割り戻しの操作を割引といいます。

具体的には、まず予測期間の各年度についてフリー・キャッシュ・フローを見積もります。次に、予測期間の終了後についても会社が事業を継続することを前提として、継続価値を算出します。そのうえで、各年度のフリー・キャッシュ・フローと継続価値を、それぞれ加重平均資本コストにより現在価値に割り引き、これらを合計して事業価値を求めます。

このように、この手法は、事業計画、割引率、継続価値の三つの要素から構成されます。いずれも算定者の判断が入る部分ですので、算定書を検証する際には、この三つを個別に確認することになります。

フリー・キャッシュ・フローとは何か

フリー・キャッシュ・フローとは、会社が事業活動から生み出した現金のうち、資金の提供者に分配することのできる部分をいいます。会計上の利益とは異なります。

計算を文章で述べますと、まず営業利益から法人税等の相当額を控除します。次に、現金の支出を伴わない費用である減価償却費を加算します。さらに、設備投資に要する支出額を控除し、売上債権及び棚卸資産の増加から仕入債務の増加を差し引いた運転資本の増加額を控除します。これによって、その年度に会社の手元に残る現金の額が算出されます。

会計上は黒字であっても、設備投資が大きい年度、あるいは売上の急拡大により運転資本が膨らむ年度には、フリー・キャッシュ・フローが小さくなることがあります。逆に、減価償却費が大きく設備投資の少ない会社では、利益額よりもフリー・キャッシュ・フローが大きくなります。利益とキャッシュ・フローは別のものであるという点が、この手法の出発点です。

予測期間と継続価値

予測期間は、通常、3年から5年程度とされることが多いとされます。事業計画が存在する場合には、その期間を予測期間とするのが通常です。もっとも、非上場の中小会社においては、金融機関への提出用のものを除き、精度の高い事業計画が作成されていない例も少なくありません。

予測期間の終了後については、会社が事業を継続することを前提として、継続価値を算出します。継続価値の算定方法としては、予測最終年度のフリー・キャッシュ・フローが一定の成長率で永久に継続すると仮定する方法のほか、予測最終年度の利払前・税引前・減価償却前利益(EBITDA)に一定の倍率を乗じる方法などがあります。

ここで注意を要するのは、継続価値が算定結果の全体に占める割合が大きくなりやすいという点です。永久成長率を1パーセントとするか2パーセントとするかによって、算定結果が大きく変動することがあります。継続価値の前提が算定書に明記されているかどうかは、必ず確認すべき点です。

加重平均資本コストによる割引

割引率としては、加重平均資本コストが用いられます。これは、株主が要求する収益率である株主資本コストと、借入れに要する負債コストとを、それぞれの構成比に応じて加重平均したものです。負債の利息は損金に算入されますので、負債コストについては法人税等の効果を反映させます。

株主資本コストの推定には、資本資産価格モデル(キャピタル・アセット・プライシング・モデル)が用いられることが一般的です。これは、安全資産の利回りに、株式市場全体の超過収益率と当該会社の市場感応度を乗じたものを加算する考え方によります。非上場会社については市場感応度を直接観測できませんので、類似する上場会社の数値を用いる方法が採られます。加えて、規模の小さい会社であることを理由とする加算が行われることもあります。

割引率は結論を大きく左右します。同じ事業計画であっても、割引率を8パーセントとするか12パーセントとするかによって、算出される価値は大きく異なります。したがって、類似する上場会社としてどの会社が選ばれているか、加算がどのような根拠により行われているかは、検証の中心となります。

事業価値から株主価値へ

割引計算により求められるのは、事業から生じる価値、すなわち事業価値です。株式の価値を求めるためには、さらに二つの調整が必要です。

第一に、事業に用いられていない資産の加算です。事業に供されていない不動産、有価証券、事業に必要な水準を超える現預金などは、事業から生じるキャッシュ・フローには現れません。これらは時価により別途評価して加算します。この調整の結果が企業価値です。

第二に、有利子負債の控除です。企業価値から借入金その他の有利子負債を控除したものが株主価値となります。これを発行済株式総数で除することにより、1株当たりの価値が算出されます。

会社側の算定書において、事業に用いられていない資産の加算が行われていない場合、あるいは加算されている資産の評価が簿価によっている場合には、その点が検証の対象となります。とりわけ、含み益のある不動産を保有している会社では、この調整の有無が結論に大きく影響します。

収益還元法及び配当還元法との違い

同じインカム・アプローチに属する手法との違いを整理いたします。収益還元法は、平準化した1期分の正常収益力を資本還元率で除する単期のモデルです。将来の変化を個別に見積もることはしませんので、業績が安定している会社に適します。ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法は、将来の各年度を個別に見積もりますので、成長、縮小、大規模な設備投資といった変化を織り込むことができます。

配当還元法は、現実に株主へ支払われた配当を基礎とする手法です。配当政策は会社の意思決定によって定まりますので、利益を計上していても配当を実施していない会社では、評価額が極めて低くなります。会社の収益力及び内部留保と切り離された数字となる点で、右の二つの手法とは性質が大きく異なります。名称に「還元」の語が共通していますが、混同してはなりません。

なお、税務上の評価において、同族株主以外の株主等が取得した株式について配当還元方式によることとされているのは(財産評価基本通達188、188-2)、課税価格を計算するための画一的な取扱いです。売買における時価とは目的も算定方法も異なります。

この手法の限界と、株主側から確認すべき点

ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法は、理論的には最も精緻な手法とされる一方、前提の置き方によって結論が大きく変わるという性質を持ちます。とりわけ、算定の基礎となる事業計画が会社側において作成されたものである場合、その計画の内容が控えめに設定されていないかどうかは、株主の側から確認すべき点です。

裁判実務においても、信頼するに足りる事業計画が存在しない場合には、この手法を採用することに慎重な判断が示されることがあります。中小会社の株式価値が争われる場面において収益還元法が用いられる例が少なくないのは、このためであると理解されています。

したがって、算定書がこの手法によっている場合には、事業計画の作成主体と作成時期、計画の数値が過去の実績と整合しているか、割引率の根拠、継続価値の前提、事業に用いられていない資産の取扱い、有利子負債の範囲を、順に確認することになります。

よくあるご質問

会社が事業計画を作成していません。この手法は使えないのでしょうか。

信頼するに足りる事業計画が存在しない場合には、この手法によることは困難となります。その場合には、収益還元法、時価純資産法、類似会社比較法などの適用が検討されます。手法の選択自体が検討事項となります。

会社の算定書の事業計画では、今後の売上が毎年減少する前提となっています。

過去の実績の推移と整合しているか、減少の根拠として挙げられている事情が客観的な資料によって裏付けられているかを確認することになります。計画の前提が実績と整合しない場合には、その点を具体的に指摘することができます。

割引率が15パーセントとされていました。高すぎるのではないでしょうか。

水準のみをもって直ちに当否を判断することはできませんが、その数値がどのような要素の積上げにより設定されたのか、類似する上場会社としてどの会社が選ばれたのか、規模を理由とする加算の根拠は何かを確認することが必要です。根拠の記載がない場合には、その点自体を指摘し得ます。

株価算定書を取得すれば、会社の算定書に対抗できますか。

株価算定書は交渉における一つの資料です。前提条件、基準日、依頼者及び目的によって結論が異なりますので、算定書を取得したことのみをもって結論が定まるわけではありません。

具体的な交渉手法の詳細は開示しておりません

当事務所では、非上場株式・少数株式について、当初は株式買取りに消極的であった会社又は関係者との交渉を行い、任意の株式買取りに至る案件を取り扱っています。もっとも、会社が株式買取りに応じるか否かは、株主構成、会社の財務状況、株式価値、株主間の従前の経緯、会社支配権、相続・事業承継の状況その他の事情によって異なります。どのような事情を踏まえ、どのような順序及び方法で会社と交渉するかは、当事務所が個別案件の経験を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では具体的な交渉手法の詳細を開示しておりません。

本記事の記載は、一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。

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