株式買取請求権とは?少数株主が非上場株式を売る手続きと注意点

非上場会社の少数株主にとって、保有株式の現金化は簡単ではありません。会社から提示された買取価格が極端に低い、根拠が示されない、連絡が止まるといった状況では、個人での対応に限界を感じやすいでしょう。

こうした局面で検討される制度の一つが、株式買取請求権です。

もっとも、株式買取請求権は「いつでも使える権利」ではなく、行使できる場面、要件、期限が定められており、手続を外すと主張の前提が崩れるおそれがあります。また、買取価格は会社との協議で決まるのが基本で、説明が不十分なまま合意を迫られるケースもあります。

本記事では、少数株主が株式買取請求権を検討する際に押さえるべきポイントとして、使えるケース・使えないケース、要件と手続の流れ、公正な価格の考え方、会社の低い提示や引き延ばしへの対応、相談を検討すべきタイミングを解説します。

弁護士法人M&A総合法律事務所として、少数株主・非上場株式に関する相談が多い立場から、迷いやすい点を中心に解説します。

株式買取請求権とは

株式買取請求権の基本的な考え方を確認し、少数株主が現金化を検討しやすい代表的な場面と、混同しやすい制度の種類を押さえます。

株式買取請求権の概要

株式買取請求権とは、会社が一定の重要な行為を行う際に、反対する株主が会社に対して株式の買取りを求められる制度です。少数株主にとっては、会社の意思決定によって投資環境や株主としての前提が大きく変わる局面で、保有株式を現金化するための選択肢になり得ます。

もっとも、株式買取請求権は「いつでも会社に買い取らせられる権利」ではありません。行使できる場面は法律上限定されており、反対の意思表示や期限の管理など、要件を満たさないと権利行使が認められない可能性があります。そのため、まずは「どの場面で」「どの種類の買取請求に当たるのか」を確認することが重要です。

なお、非上場会社で譲渡制限の付いた株式について「会社が買い取ってくれない」「第三者に売れない」といった場面では、反対株主の株式買取請求権とは別の制度で扱うことがあります。混同しやすい制度については、後述の「混同しやすい制度との違い」で改めて確認します。

少数株主が買取請求を検討する場面

少数株主が株式買取請求権を検討するのは、会社側が重要な意思決定を進め、少数株主の立場や株式の評価に影響が出る局面です。

代表例として、合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付などの組織再編、事業譲渡等、定款変更、株式併合などが挙げられます。これらは会社の方向性や株主の権利内容が変わり得るため、賛否の判断とあわせて「反対して株式を手放す」という選択肢が問題になります。

株式買取請求権の種類

「株式の買取請求」と呼ばれる制度には複数の種類があり、前提や使える場面が異なります。

少数株主の相談で中心になりやすいのは、会社の重要行為に反対した株主が行使する制度です。あわせて、保有株式が単元未満株式に当たる場合に利用できる制度があるため、該当する場合は確認しておくと混乱を避けられます。

混同しやすい制度との違い

名称や場面が似ているため混同しやすい制度として、以下のものがあります。

  • 取得請求権付株式(会社法107条1項2号、108条1項5号):株主の側から会社に対して取得を請求できる旨が定款で定められた株式
  • 取得条項付株式(会社法107条1項3号、108条1項6号):一定の事由が生じたことを条件として、会社の側から株式を取得できる旨が定款で定められた株式
  • 譲渡承認拒否に伴う買取り(会社法140条以下):非上場会社で譲渡制限のある株式について、第三者への譲渡が会社に承認されない場合に、会社又は指定買取人に買い取りを求める制度。協議が調わない場合は売買価格の決定の申立てに進みます(会社法144条)

これらは、本記事の中心テーマである反対株主の株式買取請求権とは、適用される条文や手続の進め方が異なります。「会社に株式を買い取らせたい」という結論が同じでも、適用条文と期限が異なるため、手続の種類を先に切り分ける必要があります。

本記事が解説の対象とするのは、反対株主の株式買取請求権を中心とした、会社の重要行為に伴って認められる買取請求の制度です。取得請求権付株式、取得条項付株式、譲渡承認拒否に伴う買取りの話と思われる場合は、定款の定めや株式の内容を確認したうえで、適用条文を切り分けて検討する必要があります。

反対株主の株式買取請求権

反対株主の株式買取請求権は、株主総会等の決議を伴う重要行為に反対した株主を保護するための制度です。会社の行為によって株主の前提が大きく変わる場合に、反対した株主に退出の道を与える趣旨があります。行使に当たっては、対象となる行為の範囲、反対の手続、請求の期限、買取価格の決まり方が主要な論点になります。

単元未満株式の買取り請求

単元未満株式を保有している場合、単元株式数に満たないため、市場での売却や議決権行使に制約が生じることがあります。このような場合、単元未満株主は、会社法192条に基づき、会社に対して自己の有する単元未満株式の買取りを請求できます。

ただし、単元未満株式の買取り請求は、会社の重要行為に反対した株主が行使する反対株主の株式買取請求権とは、趣旨、要件、手続が異なります。本記事が想定する「少数株主が非上場株式を現金化したい」という文脈では、反対株主の株式買取請求権に加え、会社側の低い提示額や連絡の停滞といったトラブル対応が中心になりやすいため、単元未満株式については該当する場合に分けて確認する必要があります。

株式買取請求権が使えるケース

株式買取請求権は、会社が一定の重要行為を行う場面で、反対する株主に「株式を手放して退出する」選択肢を与える制度です。行使できるかどうかは、会社が実施する行為の種類、決議の内容、株主が取るべき手続(反対の意思表示や請求期限など)によって左右されます。

ここでは、少数株主が問題にしやすい代表的な場面を順に解説します。

組織再編の場合

組織再編とは、会社の法的な枠組みや株主の地位に影響を及ぼす行為を指し、合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付などが典型例です。

組織再編では、株主が保有する株式の性質や、会社に対する関与の仕方が変わることがあります。たとえば、再編後に株式の内容が変わる、持分比率が相対的に弱くなる、少数株主としての影響力がさらに小さくなるといった問題が起こり得ます。そのため、再編の内容に納得できない株主が、反対して株式の買取りを求める流れになります。

ただし、組織再編であれば常に買取請求ができるわけではありません。

対象となる再編行為の範囲や、反対の手続の要否は、行為の種類や会社の状況により異なります。少数株主としては、まず「何の再編が行われるのか」「自分の持株にどのような影響が出るのか」を確認し、買取請求の対象になり得るかを切り分けることが重要です。

反対株主として争点になりやすい点

組織再編で争点になりやすいのは、反対の意思表示が適切に行われているか、請求の期限を守れているか、そして買取価格をどう考えるかです。

特に少数株主の場合、会社側が提示する金額の根拠が十分に示されず、納得できないまま協議が進むことがあります。再編の内容を理解しないまま手続を進めると、後から修正が難しい場面もあるため、資料の読み方や進め方を早めに確認しておく必要があります。

事業譲渡等の場合

事業譲渡等は、会社の事業の全部又は重要な一部を譲渡する場合だけでなく、他社の事業の全部を譲り受ける場合など、会社法上一定の取引を含む概念です。

少数株主にとっては、投資の前提としていた収益の源泉が移転する、会社に残る事業の内容が変わる、又は多額の対価を支払って他社の事業を譲り受けるといった影響が生じ得ます。こうした変化に反対する株主が、株式買取請求権によって退出を選ぶことが問題になります。

事業譲渡等の場合も、譲渡会社側の株主か、譲受会社側の株主かによって、確認すべき点が異なります。また、簡易事業譲受けなどに当たる場合には、株式買取請求権が制限されることがあります。少数株主としては、譲渡又は譲受けの対象、対価の内容、会社に残る事業の見通し、簡易手続や略式手続の該当性を確認することが重要です。

定款変更の場合

定款変更であっても、反対株主の株式買取請求権が認められるのは、会社法が定める一定の変更に限られます(会社法116条1項)。

典型例は、発行する全部の株式の内容として譲渡制限を設ける旨の定款変更です。譲渡制限が設けられると、株主が第三者に株式を譲渡する自由が大きく制約されるため、反対株主に公正な価格での退出機会を与える必要があります(会社法116条1項1号、107条1項1号)。

また、一定の種類株式について譲渡制限や全部取得条項を設ける場合、又は種類株主に損害を及ぼすおそれがある一定の行為について種類株主総会の決議を不要とする定款の定めがある場合にも、株式買取請求権が問題になることがあります。

ただし、すべての定款変更が対象になるわけではありません。対象となるかどうかは、議案の内容が会社法116条1項各号のいずれに当たるかによって決まります。招集通知や議案書の記載から、変更内容と条文との対応を確認する必要があります。

スクイーズアウトの場合

スクイーズアウトでは、採用される手続によって、反対株主の株式買取請求権が問題になる場合と、売買価格決定の申立てなど別の価格に関する手続が問題になる場合があります。そのため、「スクイーズアウトだから株式買取請求権を行使できる」と考えるのではなく、会社がどの手続を選んでいるかを先に確認する必要があります。

スクイーズアウトは、少数株主が保有する株式を支配株主側に集約する手続の総称で、株式併合や特別支配株主による株式等売渡請求など、複数の手法が用いられます。株式併合型では、株式併合により一株に満たない端数が生じる場合に限り、反対株主が一株に満たない端数となるものの全部を公正な価格で買い取るよう請求できます(会社法182条の4)。

一方で、株式等売渡請求(会社法179条の2以下)のように、少数株主が会社に対して株式買取請求をする枠組みではなく、取得対価について裁判所に売買価格の決定を申し立てる枠組みが用意されている手続もあります(会社法179条の8)。

どの手続が採用されているかで、異議の出し方と期限が変わるため、会社からの通知書面で手続の種類とスケジュールを先に確定させる必要があります。

少数株主が退出を迫られやすい理由

スクイーズアウトでは、少数株主の意思とは別に、会社側の意思決定で株主構成が再編されます。

少数株主は「保有を続ける」選択が取りにくくなり、提示される金額での処理を迫られやすくなります。この局面では、提示額の根拠が十分か、前提となる評価が偏っていないか、必要な説明や資料が示されているかが重要な検討対象になります。

会社からの通知や提示額に違和感がある場合は、合意の前に状況を確認しておくことで、取り得る選択肢が変わることがあります。少数株主・非上場株式に関するご相談は、弁護士法人M&A総合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

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株式買取請求権が行使できないケース

株式買取請求権は、使える場面が限られているうえに、手続の順番や期限を外すと行使できなくなる可能性があります。少数株主にとって特に起こりやすい「うっかりミス」と、法律上の例外・対象外になり得るパターンを順に解説します。

手続不備で行使できないケース

行使できない原因として多いのが、反対の意思表示や請求の手続を適切に踏めていないケースです。形式面で「権利を行使したことにならない」と評価されると、価格交渉にすら進めなくなるおそれがあります。

反対通知・反対票・買取請求の順序

株式買取請求権(反対株主型)では、一般に「反対の意思を示す段階」と「買取請求をする段階」が分かれており、順序を取り違えると問題になり得ます。ありがちな混乱は、次のようなものです。

  • 反対の意思表示をしていないのに、いきなり買取請求書面だけ送ってしまう
  • 株主総会で反対するつもりだったが、当日の対応が不十分で反対の事実が残らない
  • 反対の意思表示はしたが、買取請求の期限を過ぎてしまった

少数株主の場合、会社側からの案内が十分でなかったり、連絡が遅れたりして「いつ何をすべきか」を見失うことがあります。書面提出や投票方法が形式的に処理されやすい点も含め、反対の証拠を残す進め方が重要です。どの書面が必要で、いつまでに、どの方法で提出すべきかは、対象となる会社行為や会社の進め方で結論が変わるため、迷う時点で確認した方が安全です。

例外・対象外となるケース

そもそも株式買取請求権は「どんな不満にも使える制度」ではありません。会社の行為の種類や、株主の立場、対象となる株式によっては、制度の対象外になったり、別の制度で扱うべき場面になったりします。

法律で適用が除外される典型例

会社法上、一定の要件を満たす場合には、反対株主であっても株式買取請求権が認められない、又は株主の立場によって行使できない場合があります。代表的な場合は次のとおりです。

  • 簡易組織再編に当たる場合(吸収合併等で存続会社又は承継会社が交付する対価の額が、存続会社又は承継会社の純資産額の5分の1以下となる場合等。会社法796条2項参照)。この場合、原則として存続会社側又は承継会社側の株主には、株式買取請求権が認められません。
  • 簡易事業譲受けに当たる場合(譲受けの対価として交付する財産の帳簿価額の合計額が、譲受会社の純資産額の5分の1以下である場合等。会社法468条2項)。
  • 略式組織再編における特別支配会社に該当する場合。略式組織再編に当たることだけで、すべての少数株主の株式買取請求権が当然に否定されるわけではありません。特別支配会社側の株主か、相手方会社の株主かによって扱いが変わるため、株主の立場を分けて確認する必要があります。
  • 事業の全部譲渡と同時に解散する旨を決議する場合(会社法469条1項1号)。
  • 総株主の同意を要する組織再編等で、反対株主が想定されない場合(会社法783条2項、804条2項参照)。

これらに当たるかどうかは、会社が採っている手続の種類、株主総会決議の要否、株主の立場、議案書や招集通知に記載された要件充足の説明から判断することになります。

株主の立場や株式の種類による違い

同じ会社の株主であっても、置かれた状況により結論が変わることがあります。たとえば、次のような点で扱いが分かれます。

  • 反対株主としての要件を満たす立場にあるか(反対の意思表示が可能な局面か)
  • 対象となる株式が、制度の前提とする株式に当たるか
  • 問題になっているのが「反対株主型の買取請求」ではなく「譲渡制限と承認拒否に伴う買取り」など別の制度ではないか

少数株主が「会社が買い取ってくれない」と感じる場面でも、原因が手続不備なのか、対象外の場合なのかで、取るべき対応が変わります。特に非上場株式の現金化では、譲渡制限や会社側の対応(低い提示、連絡停止)と絡み合いやすいため、制度の当てはめを誤らないことが大切です。

株式買取請求権の要件

株式買取請求権は、対象となる会社行為に反対しただけで自動的に発生するものではなく、一定の要件を満たしてはじめて行使できます。少数株主がつまずきやすいのは、反対の意思表示と買取請求が別工程になっている点と、期限が複数出てくる点です。

株主であること

当然ながら、株式買取請求権を行使できるのは株主です。ただし、問題になりやすいのは「いつの時点で株主である必要があるのか」という点です。

会社の重要行為(合併や株式併合など)は、株主総会の決議や効力発生日を伴うため、株主名簿の基準日や権利確定のタイミングにより、手続に関与できる範囲が変わることがあります。

少数株主としては、会社から送付される招集通知や通知・公告に記載された基準日等を確認し、自分が対象株主として扱われているかを早めに確かめることが重要です。名義書換の未了や名義の不一致など、形式面の問題があると、反対の意思表示をしたつもりでも手続が進まないおそれがあります。

また、株式を取得した時期によって、株式買取請求権を行使できるか、買取価格をどのように考えるかが変わることがあります。特に、組織再編等の公表後、株主総会の基準日後、株主総会決議後など、どの段階で株式を取得したかを区別して確認する必要があります。株式を取得した時期と、株主名簿への名義書換が完了しているかは、権利行使の前提として確認します。

組織再編の公表後や基準日後に株式を取得した場合

合併や株式併合といった会社の重要行為が公表された後に株式を取得した株主についても、株式買取請求権を行使できるとした下級審裁判例があります(東京地裁平成21年4月17日判決・金判1320号31頁参照)。ただし、この場合の買取価格については、取得時の価格を超えないと解する見解が有力です(東京高裁昭和58年12月14日判決・判タ525号285頁参照)。

また、株主総会の基準日後に株式を取得した株主は、その株主総会において議決権を行使することができません(会社法124条1項)。基準日後に株式を取得した株主が「株主総会において議決権を行使することができない株主」として株式買取請求権を行使できるかどうかについては、見解が分かれています。基準日後に株式の取得を予定している場合や、相続・贈与等で株式を受け取った直後である場合は、自分が対象株主として扱われるかどうかをあらかじめ確認することが大切です。

事前の反対通知

反対株主の株式買取請求権では、株主総会(又は種類株主総会)の決議を伴う場合について、原則として、総会に先立ち会社に対して議案に反対する旨を通知する必要があります。

ただし、株主総会で議決権を行使できない株主や、株主総会決議を要しない手続が採られる場合には、事前の通知が不要とされる場合があります(会社法116条2項)。

事前通知が必要な場面では、口頭や電話だけで済ませると、後から通知の有無や到達が争点になりやすいです。書面で行い、配達記録等の到達確認ができる方法を選び、提出日、宛先、内容を後で説明できる形で保存する必要があります。

株主総会での反対

事前通知を要する場合では、株主総会で反対の議決権行使を行い、反対の事実が議事録等に残る形にする必要があります。

反対の方法は、出席して反対票を投じる方法、書面又は電磁的方法で議決権を行使して反対とする方法など、会社が採用している手続によって変わります。議決権を行使できない株主が含まれる場面では、反対票を投じることができないため、対象株主の範囲と要件を条文に沿って確認する必要があります(会社法116条2項)。

少数株主の場合、招集通知の読み落としや、当日の進行に任せた結果、反対の意思が記録に残らないことがあります。代理人を立てる場合や、議決権行使書面を使う場合も含め、反対が「形式として残る」形になっているかを意識して対応する必要があります。

株式買取請求の期限

株式買取請求権は、期限が極めて重要です。反対通知や株主総会での反対とは別に、会社に対して「株式を買い取るよう請求する」意思表示を、定められた期間内に行う必要があります。

株式買取請求(会社法116条1項)の期間は、原則として効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までです(会社法116条5項)。一方、新設合併、新設分割、株式移転などの新設型組織再編では、株主への通知又は公告をした日から20日以内とされます(会社法806条5項)。

したがって、招集通知や通知・公告に記載された効力発生日と請求期間を突き合わせて確認し、期限起算の前提を誤らないようにする必要があります。

期限を落としやすいパターン

期限を落としやすい典型例は、次のような状況です。

  • 反対通知を出したことで安心し、株式買取請求の提出が遅れる
  • 株主総会が終わってから動こうとして、請求期限が迫っている
  • 会社が返事をしないため、手続が止まっていると誤解して時間が過ぎる
  • 「提示額が低いから交渉してから請求しよう」と考え、請求自体が後回しになる

会社の低い提示額や連絡の停滞は、株式価格交渉の問題である一方、期限管理の面では別問題です。請求の要件を満たした状態を先に確保できているかが、その後の交渉や手続の前提になります。

株式買取請求権の手続の流れ

株式買取請求権は「反対の意思表示」と「買取請求」、さらに「価格の協議」という流れで進みます。少数株主のトラブルで多いのは、会社の案内が不十分だったり、連絡が途切れたりして、どの段階にいるのかが曖昧になることです。ここでは、全体の順番を崩さずに進めるための基本形を解説します。

会社法116条が定める反対株主の株式買取請求を例にすると、各段階の期限はおおむね次のように並びます。

段階 確認する内容 期限・根拠
会社による通知又は公告 対象となる会社行為、効力発生日、買取請求の手続を確認します。 効力発生日の20日前まで(会社法116条3項)
反対通知の提出 株主総会に先立ち、議案に反対する旨を会社へ通知します。 株主総会で議決権を行使するより前(会社法116条2項1号イ)
株主総会での反対 反対の議決権行使を行い、反対した事実が残る形にします。 株主総会当日
株式買取請求書の提出 会社に対して、株式を買い取るよう請求します。 効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日まで(会社法116条5項)
価格協議 会社と株主との間で、株式買取価格について協議します。 効力発生日から30日以内に協議が調うかを確認します(会社法117条1項・2項参照)
価格決定の申立て 協議が調わない場合、裁判所に価格決定の申立てを検討します。 協議期間満了後30日以内(会社法117条2項)
買取代金の支払い 価格について協議が調った場合、会社から買取代金が支払われます。 効力発生日から60日以内(会社法117条1項)

なお、新設合併、新設分割、株式移転といった新設型の組織再編では、株式買取請求の期間が「会社からの通知又は公告の日から20日以内」と定められており(会社法806条5項等)、起算点が異なります。会社から届く書面に記載された手続の種類と効力発生日を確認したうえで、自分の場面に当てはまる期限を確認することが大切です。

1.会社の通知・公告の確認

はじめに、会社から届く通知書類や公告内容を確認します。対象となる会社行為(組織再編、事業譲渡等、定款変更、株式併合など)が何か、株主総会の開催有無、反対の意思表示に関する案内、買取請求の方法や期限など、後の行動を決める情報が含まれます。

少数株主の場合、会社からの連絡が遅れたり、説明が簡略だったりして、必要な情報が揃わないことがあります。とはいえ、情報が十分でないからといって手続が止まるわけではないため、まずは手元資料から「何が決議される予定か」「いつまでに何が必要か」を抜き出すことが重要です。

2.反対通知の提出

対象となる場合では、株主総会に先立って反対通知の提出が求められます。ここで大切なのは、反対の意思を、会社に対して所定の方法で伝え、後から到達を説明できる形にすることです。会社担当者への口頭連絡だけに頼ると、反対通知を出したかどうか自体が不明確になりやすいので注意が必要です。

会社の対応が遅い場合ほど、「提出したのに反応がない」という状態になりがちです。提出日・提出方法・宛先・内容が分かる形で記録を残し、送付や到達の根拠を保持することが重要です。

3.株主総会での反対

次に、株主総会で反対の意思表示を行います。反対の方法は、出席して反対票を投じる、書面・電子による議決権行使で反対とするなど、会社が採用する手続によって異なります。少数株主側としては、「反対した事実が形式として残るか」を意識して対応することが重要です。

出席できない場合に代理人を立てる、議決権行使書面を使う、オンライン開催で手続が分かりにくいなど、反対の意思表示が記録に残りにくい場面もあります。招集通知に記載された手順に沿って、反対が明確に反映される方法を選ぶ必要があります。

4.株式買取請求書の提出

反対通知や株主総会での反対とは別に、会社に対して株式の買取請求を提出します。ここが手続の中核で、期限を外すと買取請求そのものが認められないおそれがあります。少数株主が「会社が返事をしない」「提示額が低いから交渉してから」と考えているうちに、請求期限が過ぎてしまうのは典型的な失敗パターンです。

株式買取請求書の提出は、会社側の反応とは切り分けて、期限内に行う必要があります。

会社から案内があっても、後から「いつ、どの内容で提出したか」「会社に到達したか」を説明できる形で残すことが大切です。提出の形式や必要書類、株券の扱いは会社や株式の状況で変わり得ます。

案内が簡略な場合は、「どの書面を」「どの宛先に」「いつまでに」出すのかを先に確認し、控えと送付記録が残る方法で提出します。

買取請求で用意したい書類

会社の案内が十分でない場合でも、手元でまとめておける資料はあります。最初の通知や提出書面の控えが欠けると、後で「言った、言わない」になりやすく、価格協議や裁判所の手続に進んだ際の説明が難しくなります。提出した事実と内容が分かる形で揃えておくことが重要です。

・会社から届いた通知書類、招集通知、公告内容(対象行為、効力発生日、期限が分かるもの)
・反対通知の控えと、到達が分かる資料(送付記録、配達記録など)
・株主総会で反対したことが分かる資料(議決権行使書の控え、出席記録、会社との連絡履歴など)
・株式買取請求書の控えと、送付記録(内容証明郵便、配達証明などを使った場合はその控え)
・株券(株券発行会社の場合は提出を求められることがあります)
・会社とのやり取りの履歴(メール、書面、日時が分かるメモ)
・会社が提示した算定資料、財務諸表、事業計画など入手できた資料

5.株式の買取価格の協議

株式の買取請求が成立すると、次は株式買取価格について会社と協議します。会社側が提示してくる金額が十分な根拠を伴わない、または極端に低い、連絡が途切れるといったトラブルはこの段階で起きやすくなります。

協議では「何を前提に価格を出しているのか」を確認し、前提が妥当かを見極める必要があります。少数株主としては、提示額の妥当性を判断できる材料がないまま合意してしまうと、後から修正が難しくなることがあるため、合意のタイミングには注意が必要です。

協議前に揃えたい情報

協議を始める前に、最低限、次の情報が揃っていると話が進めやすくなります。

  • 会社側が提示している金額と、その算定根拠(前提・資料・算定方法)
  • 会社行為の内容とスケジュール(決議内容、効力発生日、関連資料)
  • 自分が行った手続の記録(反対通知、議決権行使、買取請求の提出記録)
  • 会社とのやり取りの履歴(メール、書面、回答の有無)

会社が資料を出さない、説明が曖昧という場合でも、こちら側で記録をまとめておくと、次の対応(追加説明の要求、交渉の組み立て、必要に応じた手続)に移りやすくなります。

株式の買取価格の決まり方と公正な価格

株式買取請求権で最も揉めやすいのが買取価格です。会社と株主の話し合いで決まるのが原則ですが、提示額が低いと感じる場面では「何を根拠に、どんな前提で算定しているか」を確認し、必要に応じて追加説明や資料の提示を求めることが重要になります。合意に至らない場合に備えて、裁判所の手続が用意されている点もあわせて押さえます。

会社との協議で決める

株式の買取価格は、まず会社と株主の協議で決めるのが基本です。会社側が金額を提示し、株主側が同意すれば、その金額で買取りが成立します。少数株主の立場では、会社が提示する算定根拠が十分に示されないまま「この金額でどうか」と進められることもあるため、合意の前に前提を揃える必要があります。

協議では、金額そのものだけでなく、算定の出発点が何かを確認します。たとえば、直近の純資産を基準にしているのか、将来の収益性を織り込んでいるのか、特定の取引や再編の影響をどう扱っているのかなどで、結論が大きく変わり得ます。

公正な価格でよく問題になる前提

公正な価格は、単に会社が算定した数字を指すわけではありません。どの時点の価値を基準にするのか、組織再編や取引による価値の変動をどう扱うのかが前提になります。前提が示されないまま結論だけ提示されると、協議がかみ合いにくくなります。

評価の基準時は、「請求時点」「会社行為の効力発生日」など、どこを基準に置くかで結論が変わり得ます。また、組織再編等が絡む場面では、再編等がなかったと仮定した場合の価値を前提にする考え方をナカリセバ価格と呼びます。これに対し、再編等によって価値が増える場合の増分をシナジー効果と呼びます。どちらを、どの範囲で織り込むのかは事案により異なるため、会社の説明がどの前提に立っているかを確認します。

公正な価格の考え方についてより詳しくは、関連記事「株式買取請求権の公正な価格とは?!」もご参照ください。

会社の提示額が低いと感じたときの確認ポイント

会社の提示額が低いと感じる場合、単に「安すぎる」と主張するだけでは話が進みにくくなります。確認すべき点を分けて、会社の説明に不足がないかを見ていくことが重要です。

確認項目 確認する内容 注意点
算定方法 どの評価手法を使ったのか、複数の評価手法を比較したのかを確認します。 手法名だけでなく、その手法を採用した理由も確認します。
前提条件 直近期の数値だけで判断していないか、将来計画をどのように扱ったかを確認します。 一時的な損益や例外的な取引が、価格に過度に影響していないかを見ます。
使用資料 財務諸表、事業計画、資産評価の根拠、関連取引の条件などが示されているかを確認します。 資料が示されない場合は、説明の前提を検証しにくくなります。
特殊要因の扱い 組織再編や取引に伴う価値変動をどのように織り込んだかを確認します。 ナカリセバ価格やシナジーを反映した価格が問題になる場合があります。
説明の一貫性 提示額の説明が途中で変わっていないか、根拠が後から補われていないかを確認します。 説明が変わる場合は、変更の理由と根拠資料を確認します。

会社が「算定の考え方」を開示しない、または説明が抽象的なままの場合、協議が成立しにくくなります。少数株主側としては、やり取りの記録を残しつつ、追加説明や資料提示を求める形で論点を具体化させることが重要です。

非上場株式で争点になりやすいポイント

非上場株式は市場価格がないため、株式の買取価格の説明が「会社側の算定に依存しやすい」傾向があります。少数株主が納得できないと感じる場面では、算定の基礎となる情報が限定的で、説明の透明性が不足していることが原因になっているケースもあります。

算定の考え方の全体像

非上場株式の評価は、会社の資産・負債の状況、収益力、将来の見通し、取引の条件など、複数の要素を踏まえて説明されるのが一般的です。ただし、どの要素をどれだけ重視するかは事案ごとに変わります。

少数株主としては、提示額をそのまま受け入れる前に「どの要素が評価に入っていて、どの要素が外れているか」を確認することが重要です。たとえば、会社が将来の収益性や成長性をほとんど織り込んでいない、特定の資産評価が低く見積もられているといった点は、見直しの余地になり得ます。

よく使われる評価手法

非上場株式には市場価格がないため、評価は一定の手法を前提に説明されるのが通常です。手法ごとに見ているものが異なり、どの手法が適切かは、会社の性質や資産構成、事業計画の有無、対象行為の内容によって変わります。会社がどの手法で算定したのかが分からないと、金額の妥当性を判断できません。

評価手法 考え方 確認したい点
純資産価額方式 会社の資産から負債を差し引いた純資産額をもとに株価を算出する手法です。 資産価値を重視する場面で用いられることがあります。資産評価が適切か、含み益や含み損をどう扱っているかを確認します。
収益還元方式 会社が将来的に得られると見込まれる利益を、一定の割引率で割り戻して株価を算出する手法です。 安定的に利益を計上している会社の評価で用いられることがあります。将来利益の見込みや割引率の根拠を確認します。
DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法) 会社が将来生み出すと見込まれるキャッシュフローを予測し、一定の割引率で現在価値に置き直して株式の価値を求める手法です。 組織再編に関する裁判所の決定でも採用された例があります(東京高裁平成22年5月24日決定・金判1345号12頁等参照)。事業計画、将来キャッシュフロー、割引率の前提が重要です。
類似会社比準方式 評価対象会社と業種や事業内容が類似する上場会社の株価や財務指標と比較して株価を算出する手法です。 類似会社の選び方が結論に影響します。比較対象会社の事業内容、規模、成長性が近いかを確認します。
配当還元方式 将来予想される配当の現在価値に着目して株価を算出する手法です。 少数株主の評価に用いられる場面がある一方、会社の財産価値や収益力を十分に反映しないとして、株式買取請求に係る公正な価格の算定では相当性を欠くと判断された裁判例があります(東京高裁平成22年5月24日決定・金判1345号12頁)。

これらの手法を単独で用いるのではなく、複数の手法を併用したり、それぞれの結果を総合的に勘案したりして評価額を算出することもあります。

ディスカウントの考え方

非上場株式の評価では、会社側からディスカウントが主張されることがあります。ただし、反対株主の株式買取請求では、公正な価格での退出機会を保障する趣旨があるため、少数株主であることや非上場株式であることを理由に、当然に減額できるわけではありません。

問題になりやすい2つのディスカウント
名称 意味 確認したい点
非流動性ディスカウント
(市場性ディスカウント)
非上場株式には市場性がなく、換金に時間やコストがかかることを理由とする減額です。 評価方法の中で市場性の欠如がすでに考慮されていないかを確認します。二重に減額されていないかが問題になります。
マイノリティ・ディスカウント
(少数株主割引)
支配権がない少数持分であることを理由とする減額です。 反対株主の株式買取請求では、公正な価格で退出する機会を保障する趣旨との関係で、採用の可否が問題になります。
反対株主の株式買取請求における考え方

反対株主の株式買取請求の場面では、少数株主であることや非上場株式であることを理由に、機械的にディスカウントを行うことには慎重な判断が示されています。

問題となる場面 考え方 参考になる裁判例
少数株主割引 株式買取請求権は、公正な価格での退出機会を保障する制度です。そのため、少数株主であることだけを理由に減額できるかが問題になります。 少数株主割引の採用を否定した裁判例があります(東京高裁平成22年5月24日決定・金判1345号12頁)。
非流動性ディスカウント 収益還元法などの評価方法で価格を算定する場合、市場性の欠如を理由にさらに減額できるかが問題になります。 吸収合併に反対した株主の株式買取価格決定において、収益還元法で算定した価格に対する非流動性ディスカウントの適用を否定した最高裁決定があります(最高裁平成27年3月26日第一小法廷決定・民集69巻2号365頁)。
譲渡承認拒否に伴う売買価格決定 反対株主の株式買取請求権とは、適用条文と制度の目的が異なります。会社法144条2項に基づく売買価格決定では、非流動性ディスカウントが許され得る場合があります。 譲渡制限株式の売買価格決定で、DCF法による評価額を基礎に非流動性ディスカウントが許され得るとした最高裁決定があります(最高裁令和5年5月24日第三小法廷決定・集民270号113頁)。
会社がディスカウントを主張する場合の確認事項

会社がディスカウントを主張する場合は、減額の名称だけで判断せず、根拠と評価方法を分けて確認する必要があります。少数株主側では、次の点を確認しておくことが重要です。

  • どのディスカウントを、どの根拠で適用しているのか
  • ディスカウントの割合に合理的な説明があるか
  • 採用された評価方法の中で、市場性の欠如がすでに考慮されていないか
  • 支配構造、配当政策、譲渡制限の内容と、会社の説明が整合しているか
  • 反対株主の株式買取請求権ではなく、譲渡承認拒否に伴う売買価格決定の話と混同されていないか

裁判所による価格決定

会社と株主の協議で株式買取の価格がまとまらない場合、裁判所に対する価格決定の申立てにより、公正な株式の価格を確定させる仕組みが用意されています。協議の成否にかかわらず、申立期間が定められているため、価格交渉と期限管理を切り分けて進める必要があります。

会社法116条型の株式買取請求では、効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、その期間満了後30日以内に価格決定の申立てができます(会社法117条2項)。協議が調った場合の支払期限は効力発生日から60日以内で、裁判所が価格を定めた場合は利息の取扱いも問題になります。

申立てに進む場合は、申立書の作成に加えて、対象株式や請求の経緯が分かる資料、相手方に送る写しなどが必要になります。また、裁判所への申立てでは、収入印紙や郵券の準備を求められます。具体的な金額や必要部数は裁判所や事件の内容で変わるため、早めに確認します。

株式の価格決定で重視されやすい資料

株式価格の判断では、会社側の算定資料だけでなく、前提となる事実関係を裏付ける資料が重要になります。たとえば、会社が示す算定根拠の資料、財務資料、事業計画や将来見通しに関する説明資料、取引条件や再編条件を示す資料、当事者間のやり取りの記録などが論点の確認に役立ちます。

少数株主側としても、どこが争点で、何を示せばよいかを確認したうえで、資料の不足を補う動きが必要になることがあります。資料が出てこない場合には、出てこない事実自体が後の説明の前提になることもあるため、開示依頼の経緯を記録として残すことが重要です。

株式価格決定の申立の期限と相談の目安

株式価格決定の申立ては、効力発生日から起算して期限が定められている場合が多く、例えば会社法116条型では、効力発生日から30日以内に協議が調わない場合に、その満了後30日以内に申立てを行います(会社法117条2項)。会社の返答が遅い、資料が出ないという状況でも期限は進むため、協議の停滞と期限管理は切り分けて進める必要があります。

次のような状態に入った時点で、少なくとも期限と手続の確認を優先するのが安全です。

  • 会社の提示額の根拠が示されず、説明も曖昧なまま
  • 追加の説明や資料提示を求めても回答が途切れる
  • 協議が平行線で、合意の見通しが立たない
  • 手続のどの段階にいるか自体が不明確になっている

早い段階で見立てを立てておくことで、期限を落とすリスクを下げつつ、交渉の組み立てや次の選択肢を確保しやすくなります。

よくあるトラブルと対処法

少数株主が株式買取請求権を使って非上場株式の現金化を進める際に起こりやすいのは、会社による低い提示額と、回答の遅延や連絡停止による引き延ばしです。感情面の対立に引きずられると、期限管理や証拠の確保が後回しになりやすいため、論点を切り分けて対応方針を考えます。

会社が低い株式の買取価格を提示する場合

会社が提示する株式買取価格が低いと感じる場面では、まず「金額」ではなく「根拠」を確認することが重要です。根拠が曖昧なまま合意してしまうと、その後に増額を求めることが難しくなるおそれがあります。

確認したいポイントは、株式の買取価格の算定方法、前提条件、使用した資料、特殊要因の扱いです。たとえば、直近期の数値だけで結論を出していないか、将来の収益性や事業計画をどう扱ったか、資産評価の見積りが不自然に低くないか、再編や取引による価値変動をどのように扱ったかといった点が争点になり得ます。

合意を急がない方がよいケース

次のような状況では、合意の前に立ち止まって確認する必要があります。

  • 算定根拠の説明が抽象的で、前提や資料が示されない
  • 質問をしても回答内容が変わる、説明が後から変わる
  • 「この金額でないと進めない」など、結論だけを急がされる
  • 期限が迫っていることを理由に、十分な説明がないまま同意を求められる

株式価格の協議と、権利行使のための期限管理は別問題です。合意の可否に関わらず、期限や手続の前提を確保できているかは先に確認しておく必要があります。

反論材料の準備

会社の提示額に納得できない場合でも、反論は「高いはずだ」という感覚ではなく、論点と資料に基づいて組み立てることが重要です。

  • 会社が示す算定資料の入手状況と、不足している資料の確認
  • 会社の前提条件の妥当性に関する指摘点の確認
  • 財務資料や事業計画の説明内容と、提示額との整合性の確認
  • 会社とのやり取りの記録化(いつ、何を求め、どう回答されたか)

少数株主側で入手できる情報には限界があるため、資料が出てこない場合は「出てこない経緯」も含めて残し、説明を求めた事実関係をまとめておくことが重要です。

提示額や会社の説明に疑問が残る段階でご相談いただくことで、その後の選択肢を確保しやすくなります。少数株主・非上場株式に関するご相談は、弁護士法人M&A総合法律事務所までお問い合わせください。

会社が引き延ばす場合

会社の引き延ばしは、「株式の買取価格が決まらない」問題に見えて、実際には「手続の前提が整わない」「期限が進む」という別のリスクを伴います。特に、返答がないまま時間が過ぎると、少数株主側が動けなくなると誤解し、必要な対応が遅れやすくなります。

引き延ばしが疑われる場面では、こちら側の行為(反対通知、買取請求、資料提出依頼など)が適切に到達しているかを確認し、到達を説明できる形に整えることが基本になります。

記録の残し方

引き延ばしへの対応では、やり取りの記録が重要です。後から「言った、言わない」にならないよう、日時と内容が追える形で残します。

  • 依頼内容を文章で残す(質問事項、求める資料、回答期限の希望)
  • 送付記録や到達が確認できる手段を選ぶ
  • 口頭で話した場合も、直後に要点をメール等で確認し、履歴を残す

会社の回答が遅いほど、記録の積み上げが次の対応の前提になります。

次の打ち手

会社の対応が止まった場合でも、期限は進行し得ます。現状が「協議の停滞」なのか、「要件や期限に影響する段階」なのかを切り分け、必要に応じて次の手段を検討します。

  • 期限管理の再確認と、必要な手続の先行実施
  • 追加説明や資料提示を求める手続の確認
  • 合意が見込めない場合に備えた、裁判所の価格決定に向けた準備

低い提示額と引き延ばしは同時に起きることが多く、放置すると不利になりやすい状況です。どの段階で何を確保すべきかが不明確な場合は、早い時点で確認しておくことが安全です。

会社の対応が止まったまま期限だけが進む状態は、対応が遅れるほど取り得る選択肢が狭まります。「会社が動かないから自分も待つしかない」と感じた段階で、弁護士法人M&A総合法律事務所までお早めにご相談ください。

弁護士に相談すべきタイミング

株式買取請求権は、手続の順番と期限を外すと取り返しがつかない一方、買取価格の協議では会社側の説明が十分でないまま進むこともあります。

少数株主が「低い株式買取価格の提示額」「連絡が止まる」といった状況に直面したとき、どの段階で専門家の関与を検討すべきかを解説します。

結論としては、価格の不満が表面化してからでは遅い場面があり、期限と証拠の確保が絡む時点で相談の優先度が上がります。

期限が近い・手続が不安な場合

最も注意すべきは、期限が迫っているのに手続が不確かな状態です。反対の意思表示や株式買取請求は、会社側の反応が鈍くても期限だけは進む可能性があります。「会社が返事をしないから進められない」「資料が出ないから判断できない」と考えているうちに期限を過ぎると、株式買取請求権の行使自体が難しくなり得ます。

また、少数株主側で起こりがちなのが、反対通知や株主総会での対応をしたことで安心し、株式買取請求の提出や到達確認が後回しになるケースです。どの書面を、いつまでに、どの方法で出すべきかが曖昧な時点で、まず期限と手続の確認を優先する必要があります。

特に非上場株式の場合、会社との関係性を気にして連絡を控えたり、口頭で済ませたりすると、後から説明が難しくなるため注意が必要です。

提示額が低い・交渉が平行線の場合

会社が示す買取価格が極端に低い、または根拠が曖昧なまま譲らない場合、早めに論点を確認する価値があります。

少数株主としては「高くしてほしい」という希望だけでなく、「どの前提が不合理か」「どの資料が不足しているか」を示す必要があり、交渉が長引くほど主張と資料の確認が重要になります。

提示額に納得できない場面でありがちなのは、納得できないまま合意を急かされる、質問をしても回答が抽象的で話が前に進まない、説明が途中で変わるといった状況です。

合意すると後から修正が難しくなるおそれがあるため、合意の前に、根拠の提示を求める手順や、やり取りの記録化、次の選択肢を見据えた準備を検討すべき局面です。

会社の対応が止まった場合

会社の引き延ばしは、株式買取価格の問題と同時に、手続の前提が崩れるリスクを伴います。返答がない、資料が出ない、担当者が変わって話が戻るなど、協議の形が整わないまま時間だけが過ぎると、少数株主側が「待つしかない」と誤解して対応が遅れやすくなります。

この局面では、こちらから出した通知や請求が到達しているか、求めた資料や質問事項が文章で残っているかが重要になります。会社が沈黙している場合でも、期限や必要な手続は別に進行し得るため、現状を「協議が止まっている」だけで済ませず、期限の再確認と、取れる手段の確認を優先するべきです。対応が止まるほど、後から説明する材料は「記録」に依存します。

なお、株式買取請求権の行使でつまずきやすい失敗パターンや、期限を落としたケースの具体例については、関連記事「株式買取請求権を行使できない失敗パターンについて!」でも詳しく解説しています。自分の場面に当てはまる注意点を確認したうえで、対応の方針を検討してください。

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よくある質問

少数株主の方から特に多い疑問を、会社からの低い提示額や連絡停止といったトラブルも念頭に置いて解説します。

株式買取請求権が行使できないのはどんなときですか?

よくあるのは、制度の対象外である場合と、手続の不備がある場合です。

  • 対象外の例:そもそも株式買取請求権の対象となる会社行為に当たらない、または別の制度で扱うべき状況だった。
  • 手続不備の例:反対の意思表示の方法を外した、買取請求の提出が期限後になった、反対の事実が形式として残っていない。

少数株主の方は、会社の案内が簡略で「何を、いつまでに」が見えにくいことがあります。連絡が遅い、説明が曖昧という状況でも、期限が自動的に延びるとは限らないため、手続の要件だけは先に押さえる必要があります。

非上場株でも公正な株式買取価格になりますか?

非上場株式は市場価格がないため、価格の説明は会社側の算定に寄りやすく、少数株主が不安を感じやすい領域です。それでも、公正な価格という枠組みの中で、前提や根拠が確認されることが期待されます。

ポイントは「金額の高低」だけではなく、次が説明されているかです。

  • どの算定方法を採用したのか
  • どんな前提条件で計算しているのか
  • どの資料に基づいているのか
  • 少数株主であることや換金しにくさを理由に調整するなら、その根拠は何か

また、公正な価格では、評価の基準となる時点と、組織再編等による価値の変動の扱いも論点になります。

再編等がなかった場合の価値(ナカリセバ価格)を前提にするのか、再編等で期待される増分(シナジー効果)をどう織り込むのかが曖昧だと、金額の説明が成立しません。会社の説明がこの点を避けている場合は、前提を具体化させる必要があります。

会社の説明が一般論に終始する、資料が出てこない、説明が二転三転する場合は、協議で合意に至りにくくなります。納得できない状態で合意を急がず、まず根拠を具体化させることが重要です。

株式買取請求権の期限はいつまでですか?

期限は、会社が行う行為の種類によって異なります。会社法116条が定める反対株主の株式買取請求では、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に請求する必要があります(会社法116条5項)。新設合併、新設分割、株式移転といった新設型の組織再編では、会社が通知または公告をした日から20日以内に請求する必要があります(会社法806条5項)。

期限の数え方や、価格協議・裁判所への申立てまでを含む全体のスケジュールについては、本文「株式買取請求権の手続の流れ」をご参照ください。

なお、株式買取請求をした株主は、会社の承諾を得なければ請求を撤回することができなくなります(会社法116条7項等)。提出前に内容を確認しておく必要があります。個別の状況については、弁護士法人M&A総合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

会社が買取請求に応じない場合はどうすればよいですか?

会社が買取請求に応じない、または提示額の協議が進まない場合は、裁判所に対して価格決定の申立てを行うことが選択肢になります。会社法116条型の株式買取請求では、効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、その期間満了後30日以内に価格決定の申立てを行うことができるとされています(会社法117条2項)。

協議が止まっている状態のまま時間が過ぎると、申立期間自体が経過してしまうおそれがあります。会社の対応が遅いことと、こちら側が取るべき手続の期限管理は、別問題として進めていく必要があります。

なお、申立期間内に株主も会社も裁判所に対して価格決定の申立てを行わなかった場合、裁判所への申立てはできなくなりますが、株式買取請求自体は引き続き効力を有するとされています。この場合、株主は会社との協議を続けるか、株式買取請求を撤回するかを検討することになります(会社法117条3項)。個別の状況については、弁護士法人M&A総合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

株式買取請求権を行使した場合、税金はどうなりますか?

株式買取請求権に基づいて会社から金銭を受け取る場合の税務は、どの会社法上の手続に基づく買取りかによって異なります。

一般に、発行会社による自己株式取得では、会社から受け取る対価のうち、資本金等の額に対応する部分を超える金額について、みなし配当が問題になることがあります。みなし配当が生じる場合、配当所得として課税される可能性があるため、手取り額が想定と異なることがあります。

一方で、会社法182条の4に基づく株式併合に反対する株主の株式買取請求、会社法192条に基づく単元未満株式の買取り請求など、みなし配当の対象から除かれる取扱いがある手続もあります。そのため、「株式買取請求権を行使したから必ずみなし配当になる」とは限りません。

税務上の取扱いは、株主の立場、株式の取得経緯、会社の財務状態、適用される会社法上の手続によって変わります。買取価格の協議と並行して、税理士に確認したうえで、税負担を踏まえた手取り額を確認することが大切です。

なお、本記事は法令や手続の一般的な情報提供を目的としており、税務の個別ご相談は税理士へのご相談をお願いいたします。法律面でのご相談は、弁護士法人M&A総合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

少数株主の株式でお困りならご相談ください

株式買取請求権は、期限や書面の扱いを外すと主張の土台が崩れやすく、買取価格の協議では根拠が十分に示されないまま進むことがあります。

少数株主が「低い提示額」「連絡が止まる」といった状況に置かれた場合、早い段階で状況を確認し、手続と交渉の方針を組み立てることが重要です。弁護士法人M&A総合法律事務所では、少数株主・非上場株式に関するご相談を多く取り扱っております。

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本記事で紹介している内容は、執筆時点の法令や通達等を前提とした一般的な情報提供であり、個別の事件についての法的助言や税務アドバイスではありません。