非上場株式の収益還元法とは

収益還元法は、会社が継続的に稼得することのできる利益、すなわち正常収益力を基礎として、これを資本還元率で除することにより株式の価値を求める手法です。将来の複数期間を個別に見積もるのではなく、平準化した1期分の収益力を用いる単期のモデルである点に特徴があります。名称が似ている配当還元法とは基礎とする数値が異なりますので、両者の混同を避ける必要があります。本記事では、収益還元法の考え方と、株主の側から確認すべき点を整理します。

収益還元法の基本的な考え方

収益還元法は、会社の価値をその収益力に求める手法です。会社が毎期一定の利益を継続して稼得すると仮定し、その利益を、投資家が当該会社に対して要求する収益率で割り戻すことによって、現在の価値を算出します。

計算は文章で述べれば単純です。株式の価値は、正常収益力を資本還元率で除して求められます。たとえば、正常収益力が年間5000万円であり、資本還元率を10パーセントと設定した場合、算出される価値は5億円となります。同じ正常収益力であっても、資本還元率を20パーセントと設定すれば2億5000万円となり、結論は半分になります。

すなわち、収益還元法における結論は、正常収益力と資本還元率という二つの数値によってほぼ決まります。算定書を検証する際も、この二つの数値がどのように定められたかを確認することが中心となります。

企業価値評価の三つのアプローチにおける位置付け

企業価値評価の手法は、通常、三つのアプローチに整理されます。第一がインカム・アプローチです。会社が将来生み出す収益又はキャッシュ・フローに着目するもので、収益還元法、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法、配当還元法がこれに属します。

第二がマーケット・アプローチです。市場における他の会社又は取引と比較するもので、類似会社比較法、類似業種比準方式、取引事例法がこれに属します。第三がネットアセット・アプローチです。会社の純資産に着目するもので、簿価純資産法、時価純資産法がこれに属します。

収益還元法は、このうちインカム・アプローチに属します。会社が事業を継続することを前提とし、その事業から生み出される利益に価値の源泉を求めますので、清算を前提とする評価とは考え方が異なります。継続的に利益を計上している会社について、純資産のみに着目した評価が行われている場合には、収益力が価格に反映されていないことになります。

正常収益力をどのように把握するか

正常収益力とは、会社が今後も継続的に稼得することが見込まれる利益をいいます。過去数期の実績を基礎としつつ、一時的な要因を除去して求めるのが通常です。

除去又は調整の対象となる項目としては、固定資産の売却による損益、保険金収入、災害による損失、訴訟の解決に伴う一時的な収支など、その期限りの事情によるものが挙げられます。また、同族会社においては、役員報酬の水準が同業他社と大きく異なる場合、代表者又はその資産管理会社との間に通常の条件と異なる取引がある場合、事業に用いられていない資産に係る損益が計上されている場合などについて、正常収益力を把握するための調整が検討されます。

さらに、いずれの期を基礎とするかによって結論が変わります。直近1期のみを用いるのか、3期又は5期の平均を用いるのか、単純平均か加重平均か。特定の期に業績が落ち込んでいる場合に、その期だけを基礎とする算定が行われていないかは、確認すべき点です。

資本還元率をどのように設定するか

資本還元率は、投資家が当該会社に対して要求する収益率です。会社の事業の不確実性が大きいほど高く設定され、資本還元率が高くなれば算出される価値は低くなります。

設定の方法としては、上場会社の株式に対する期待収益率を基礎として、非上場会社であることに伴う要素を加算するといった考え方が用いられます。もっとも、その加算幅について確立した基準があるわけではなく、算定者の判断が入る余地が大きい部分です。

したがって、株主の側からは、資本還元率がどのような根拠により設定されているかを確認することが重要となります。根拠の説明がないまま高い数値が用いられている場合、あるいは同業他社と比べて不自然に高い数値が用いられている場合には、その点を指摘することができます。先ほどの例のとおり、資本還元率の設定は結論を倍半分に動かし得るものです。

配当還元法との違い

収益還元法と配当還元法は、いずれもインカム・アプローチに属し、名称も似ていますが、基礎とする数値が異なります。収益還元法は会社が稼得する利益を基礎とするのに対し、配当還元法は現実に株主へ支払われた配当を基礎とします。

この違いは重要です。配当をどの程度実施するかは、会社の意思決定によって定まります。したがって、会社が利益を計上していても配当を実施していなければ、配当還元法による評価額は極めて低くなります。会社の収益力及び内部留保と切り離された数字となるわけです。

税務上の評価においては、同族株主以外の株主等が取得した株式について配当還元方式によることとされています(財産評価基本通達188、188-2)。これは課税価格を計算するための画一的な取扱いであり、その株式が現にいくらで取引され得るかという価値を測るために定められたものではありません。「配当がないから価値がない」という説明と、収益還元法による評価とは、全く別の議論です。

ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法との違い

同じインカム・アプローチであるディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法とも区別を要します。収益還元法は、平準化した1期分の収益力を資本還元率で除する単期のモデルです。これに対し、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法は、将来の複数期間について事業計画に基づきフリー・キャッシュ・フローを見積もり、これを加重平均資本コストにより現在価値に割り引いて合計する多期間のモデルです。

したがって、業績が安定しており、将来も現在と同程度の収益が継続すると見込まれる会社については収益還元法が用いやすく、成長又は縮小が予定されている会社、大規模な設備投資が予定されている会社などについては、その変化を織り込むことのできるディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法が適するとされます。

もっとも、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法は将来の事業計画を必要としますので、信頼し得る計画が存在しない場合には、かえって恣意的な結論を導く危険があります。裁判実務において収益還元法が用いられる例が少なくないのは、このためであると理解されています。

収益還元法を用いた算定書を検証する視点

収益還元法による算定書を受け取った場合、株主の側から確認すべき点は、おおむね次のとおりです。第一に、正常収益力の基礎とされた期と、その選択の理由です。第二に、一時的な損益の除去及び役員報酬等の調整が行われているかどうかです。第三に、資本還元率の水準とその根拠です。

第四に、事業に用いられていない資産の取扱いです。収益還元法は事業から生じる収益に着目する手法ですので、事業に用いられていない不動産、有価証券、多額の現預金などは、事業の収益には現れません。これらを別途加算する処理が行われているかどうかを確認する必要があります。

第五に、算出された価格から一定率が控除されていないかどうかです。少数株主ディスカウント又は非流動性ディスカウントが適用されている場合には、その根拠を確認します。なお、最高裁判所平成27年3月26日決定(民集69巻2号365頁)は、非上場会社について会社法第785条第1項に基づく反対株主の株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法を用いて株式の価格を決定する場合には、非流動性ディスカウントを行うことはできない旨を判示しています。

よくあるご質問

当社は赤字が続いています。収益還元法では価値がないことになりますか。

収益還元法は収益力に着目する手法ですので、正常収益力が見込まれない場合には、この手法のみでは価値を導きにくいことになります。もっとも、評価手法は収益還元法のみではありません。含み益のある不動産その他の資産を保有している場合には、ネットアセット・アプローチによる評価が意味を持ちます。手法の選択自体が検討事項となります。

会社の算定書は収益還元法を用いていますが、直近1期の赤字だけを基礎としています。

いずれの期を基礎とするかは、正常収益力の把握における中心的な論点です。過去数期の推移、当該期に赤字となった原因、その原因が一時的なものか否かを確認したうえで、基礎とする期の選択が合理的かどうかを検証することになります。

収益還元法とディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法のどちらが有利ですか。

一概には申し上げられません。会社の業績の推移、事業計画の有無と信頼性、保有資産の状況によって、どの手法が実態を反映するかは異なります。有利不利ではなく、当該会社の実態に照らして適切な手法はどれかという観点から検討いたします。

具体的な交渉手法の詳細は開示しておりません

当事務所では、非上場株式・少数株式について、当初は株式買取りに消極的であった会社又は関係者との交渉を行い、任意の株式買取りに至る案件を取り扱っています。もっとも、会社が株式買取りに応じるか否かは、株主構成、会社の財務状況、株式価値、株主間の従前の経緯、会社支配権、相続・事業承継の状況その他の事情によって異なります。どのような事情を踏まえ、どのような順序及び方法で会社と交渉するかは、当事務所が個別案件の経験を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では具体的な交渉手法の詳細を開示しておりません。

本記事の記載は、一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。

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