会社に不動産や多額の内部留保がある場合の非上場株式評価

会社が長年にわたって取得した不動産を保有している場合、あるいは利益を配当せずに蓄積してきた場合、その価値は貸借対照表の帳簿上の数字には表れていないことがあります。株式の評価においては、これらの資産をどのように把握するかが結論を大きく左右します。本記事では、資産を多く保有する会社の株式について、評価上の主な論点を整理いたします。

帳簿上の純資産の額と、実際の価値は一致しません

貸借対照表に記載されている資産の額は、原則として取得したときの価額から減価償却を行った後の金額です。取得後に地価が上昇した不動産についても、帳簿の数字は取得時の価額のままです。したがって、資産及び負債の帳簿価額の差額である簿価純資産の額は、会社の実際の価値を表していないことがあります。

この点は、会社法上の手続との関係でも重要です。譲渡制限株式について株式譲渡承認請求を行い、会社又は指定買取人が買い取ることとなった場合において、供託を証する書面の交付の日から20日以内に株式売買価格決定の申立てをしないときは、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額をもって売買価格とされます(会社法第144条第5項)。ここでいう純資産額は帳簿上の数字によるものであり、不動産の含み益も営業権も反映しません。

すなわち、資産を多く保有する会社の株主にとっては、帳簿上の数字がそのまま価格となるかどうかが、極めて大きな差を生むことになります。

内部留保は、必ずしも現金として存在するわけではありません

内部留保という語は、会計上は利益剰余金を指すものとして用いられます。会社が稼得した利益のうち、配当その他により社外に流出しなかった部分が、貸借対照表の純資産の部に蓄積されたものです。

注意を要するのは、利益剰余金の額と、会社の手元にある現預金の額とは一致しないという点です。蓄積された利益は、多くの場合、設備、不動産、有価証券、売上債権、棚卸資産といった各種の資産に姿を変えています。したがって、「内部留保が5億円あるから、会社には5億円の現金がある」ということにはなりません。

もっとも、これは内部留保が株式の価値と無関係であるという意味ではありません。蓄積された利益が何に姿を変えているのかを資産の側から確認し、それぞれを適切に評価することが、評価作業の内容となります。会社側から「内部留保は将来の設備投資に必要な資金であるから、株式の価値には反映されない」との説明を受けることがありますが、将来の使途が予定されていることと、現に会社が資産を保有していることとは、別の事柄です。

不動産の帳簿価額と時価の乖離

不動産については、帳簿価額と時価の乖離が最も大きくなりやすい資産です。とりわけ、創業時又は数十年前に取得した土地については、帳簿価額が現在の水準と大きく異なることがあります。建物についても、減価償却が進んだ結果、帳簿価額が備忘価額に近い金額となっていながら、なお相当の使用価値を有している例があります。

不動産の時価を把握する方法としては、不動産鑑定士による鑑定評価のほか、相続税路線価又は固定資産税評価額を基礎として一定の調整を行う方法があります。もっとも、相続税路線価及び固定資産税評価額は、いずれも課税のために定められた価格であり、実際の取引価格とは水準が異なります。どの方法によったかによって結論が変わりますので、算定書においてどの資料が用いられているかを確認する必要があります。

また、当該不動産が事業の用に供されているか否かも論点となります。本社建物のように事業に不可欠な不動産と、賃貸に供されている不動産、使用されていない遊休不動産とでは、評価上の位置付けが異なります。

時価純資産法による評価と、負債の側の検討

ネットアセット・アプローチのうち、時価純資産法は、資産及び負債を時価に評価し直したうえで、その差額をもって株式の価値とする手法です。含み益のある不動産を保有する会社については、簿価純資産法との差が大きく表れます。

資産の側だけでなく、負債の側も検討を要します。退職給付に係る債務、賞与の引当て、未払いの割増賃金、係争中の紛争に係る債務、他社の債務に係る保証など、帳簿に計上されていない、あるいは十分に計上されていない負債が存在することがあります。これらを反映しないまま資産のみを時価に評価し直すことは、正確な評価とはいえません。

なお、この手法は会社の保有する財産に着目するものですので、会社が事業により継続的に利益を生み出している場合には、その収益力が価格に反映されないという限界があります。実務上は、収益に着目する手法と併用し、双方の結果を踏まえて評価することが少なくありません。

評価差額に対する法人税額等相当額の控除という論点

資産の含み益に着目した評価を行う場合、その含み益を実現するためには、将来において資産を売却する必要があり、その際には法人税等が課されることになります。この点を踏まえ、財産評価基本通達は、純資産価額方式による評価に際して、資産及び負債の相続税評価額と帳簿価額との差額に一定の割合を乗じた金額を控除する取扱いを定めています(同通達186-2)。

ここで注意を要するのは、これが相続税及び贈与税の課税価格を計算するための取扱いであるという点です。売買における時価の算定において、当然に同様の控除を行うべきであるということにはなりません。事業を継続することを前提とし、資産の売却が予定されていない場合に、売却を前提とする税負担を控除することが合理的かどうかは、それ自体が議論の対象となります。

会社側の算定書において、この控除が行われている場合には、当該評価がどの目的の評価であるのか、控除の根拠として何が挙げられているのかを確認することになります。

収益に着目する手法における資産の取扱い

インカム・アプローチによる評価においても、保有資産は無関係ではありません。収益還元法及びディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法は、いずれも事業から生み出される収益又はキャッシュ・フローに着目する手法ですので、事業に用いられていない資産の価値は、その計算には表れません。

そこで、事業に供されていない不動産、事業と関係のない有価証券、事業の遂行に必要な水準を超える現預金などについては、時価により別途評価して加算する処理が行われます。この加算が行われていない算定書では、遊休不動産及び余剰資金の価値が全く反映されないことになります。

したがって、資産を多く保有する会社の株式について、収益に着目する手法のみによる算定書が提示された場合には、事業に用いられていない資産の加算がなされているかどうかが、確認すべき中心的な点となります。

税務上の評価との区別

税務上の評価においては、資産の構成に着目した特別の取扱いが定められています。財産評価基本通達は、株式等保有特定会社、土地保有特定会社その他の特定の評価会社について、原則として純資産価額方式によることとしています(同通達189以下)。

これは、資産の保有状況に照らして類似業種比準方式によることが適当でない会社について、課税上の画一的な取扱いを定めたものです。売買における時価を算定するために設けられたものではありません。会社側から「税務上はこの方式によることとされている」という説明がなされたとしても、それは課税価格の計算方法についての説明にすぎません。

株主の側で確認できる資料としては、計算書類等の閲覧謄写請求(会社法第442条第3項)により入手し得る貸借対照表及び損益計算書のほか、不動産については登記事項証明書を法務局において取得することが可能です。総株主の議決権の100分の3以上を有する株主等については、会計帳簿の閲覧謄写請求(会社法第433条第1項)により、勘定科目内訳明細書その他の資料の確認が問題となることもあります。

よくあるご質問

会社は「不動産は事業に使っているので売却できず、価値に反映できない」と説明しています。

事業に供されている不動産であっても、会社が当該資産を保有しているという事実は変わりません。事業継続を前提とする場合に資産の価値をどのように評価に反映させるかは、手法の選択及び併用の問題として検討されます。売却の予定がないことをもって、価値が存在しないことにはなりません。

内部留保が厚い会社ですが、配当は一度も行われていません。株式の価値は低いのでしょうか。

配当の有無と株式の価値とは、別の事柄です。配当政策は会社の意思決定によって定まります。配当還元法による評価額は低くなりますが、これは配当を基礎とする手法であるためです。会社の収益力及び保有資産に着目した評価は別途行われます。

不動産鑑定評価を取得する必要がありますか。

事案によります。含み益の規模、争いの有無、手続の段階によって、鑑定評価を取得する意義は異なります。まずは登記事項証明書、固定資産税の課税明細書、貸借対照表の記載などから、乖離の程度を概括的に把握することから検討いたします。

決算書を持っていませんが、相談できますか。

資料が手元になくてもご相談は可能です。取得可能な資料の範囲と、その取得の手順からご説明いたします。

具体的な交渉手法の詳細は開示しておりません

当事務所では、非上場株式・少数株式について、当初は株式買取りに消極的であった会社又は関係者との交渉を行い、任意の株式買取りに至る案件を取り扱っています。もっとも、会社が株式買取りに応じるか否かは、株主構成、会社の財務状況、株式価値、株主間の従前の経緯、会社支配権、相続・事業承継の状況その他の事情によって異なります。どのような事情を踏まえ、どのような順序及び方法で会社と交渉するかは、当事務所が個別案件の経験を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では具体的な交渉手法の詳細を開示しておりません。

本記事の記載は、一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。見通し、要する期間、金額その他の帰結は、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。なお、具体的な課税関係の判断につきましては、税理士にご確認ください。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

不動産又は内部留保を多く有する会社の非上場株式について、弁護士法人M&A総合法律事務所がご相談をお受けいたします。

  • 電話 03-6435-8418(受付時間 8時00分から21時00分まで。土曜・日曜・祝日も受付)
  • 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階
  • 代表弁護士 土屋 勝裕(東京弁護士会 登録番号26775)

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