非上場株式の時価純資産法を少数株主側からどう見るか

同じ「純資産」という語であっても、どの方法によるかで結論は大きく異なります。会社から純資産による説明を受けた場合には、まずいずれの方法によるものかを確認する必要があります。

なお、会社法は、株式譲渡承認請求に伴う買取りにおいて、期間内に売買価格の決定の申立てがされないときの売買価格を「1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額」と定めております(会社法第144条第5項、第7項)。この1株当たり純資産額は法務省令の定める方法により算定されるものであり、時価純資産法による評価額とは別のものです。適正な価格を示すものでもありません。

第2節 資産側で問題となりやすい項目

表2 含み損益が生じやすい資産

項目 着眼点
土地 取得時期が古いほど帳簿価額と時価の差が大きくなります
建物・構築物 減価償却の進行により帳簿価額が低くなっている場合があります
有価証券・出資金 子会社株式、取引先株式、共済への出資等が含まれます
保険積立金 解約返戻金の額と帳簿価額とが異なる場合があります
ゴルフ会員権・会員権 相場が大きく変動している場合があります
投資不動産 賃貸に供されている物件は収益性も考慮の対象となります
貸付金・仮払金 役員等に対するものは回収可能性を検討いたします
売掛金・棚卸資産 回収不能債権及び滞留在庫の有無を検討いたします

土地については、公示価格、固定資産税評価額、相続税路線価、不動産鑑定評価等のいずれを用いるかによって評価額が異なります。会社が提示する評価額がどの資料に基づくものかは、確認の対象となります。

他方で、少数株主の側が主張する場合であっても、含み益のみを取り上げて含み損を無視することは、方法として整合いたしません。資産及び負債の全体を同一の基準で評価し直すというのが、この方法の建て付けです。

会社に不動産や多額の内部留保がある場合の考え方については、既存記事及び記事「会社に不動産や多額の内部留保がある場合の非上場株式評価」(B09)に整理しております。

第3節 負債側及び法人税等相当額の取扱い

負債についても評価替えを行います。帳簿に計上されていない債務が存在する場合には、これを反映させることとなります。

表3 負債側で問題となりやすい項目

項目 着眼点
退職給付に係る負債 中小企業では未計上のことがあります
未払の割増賃金等 労務管理の状況によっては簿外債務となり得ます
保証債務・偶発債務 関係会社の借入れに対する保証の有無を確認いたします
係争中の事件に係る債務 訴訟の有無及び見込みを確認いたします
リース債務・借入金 契約条件及び残高を確認いたします

さらに、資産の含み益については、これに対応する法人税等相当額を控除するという取扱いが議論されます。含み益が実現すれば法人税等が課されるため、その分を控除するという考え方です。他方で、会社が事業を継続し、当該資産を売却する予定がない場合には、直ちに課税が生ずるわけではないという反論も成り立ちます。

控除するか否か、控除するとしてどの割合によるかは、事案によって扱いが分かれる論点です。控除額の多寡は評価額に直接影響いたしますので、会社から提示された算定において控除がされている場合には、その根拠と割合の説明を求めることが考えられます。

第4節 事業継続性との関係

時価純資産法は、会社が現に有する財産に着目する方法であり、将来の収益力を正面から反映するものではありません。したがいまして、収益力の高い会社について純資産のみによって評価すると、価値が過小に表れることがあります。逆に、資産を多く保有しながら収益力の乏しい会社では、純資産による評価が相対的に高く表れます。

表4 会社の状況と評価方法の親和性

会社の状況 純資産に着目する方法の位置付け
不動産等の資産を多く保有し収益力が乏しい 中心的な方法となりやすい状況です
収益力が高く資産が少ない 収益に着目する方法との併用が問題となります
解散・清算が現実的である 清算価値による方法が問題となります
事業を継続している 継続を前提とした評価が問題となります

実務においては、純資産に着目する方法と収益に着目する方法とを併用し、一定の比重によって加重する例も見られます。いずれの方法をどの比重で用いるかは、会社の業種、資産構成、収益の安定性等によって異なります。収益に着目する方法の詳細は、既存記事(/archives/share_minoritysharevalue/、/column/share_valuation/)並びに記事「非上場株式の収益還元法とは」(B05)及び「非上場株式のディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法とは」(B06)に整理しております。

なお、少数株式であることを理由とする減価の当否については、既存記事(/archives/share_kabushikikachisanteihouhou/)及び記事「少数株式だから必ず大幅に安く評価されるのか」(B03)に整理しております。

第5節 少数株主側から確認すべき事項

表5 確認事項

確認事項 内容
用いられた方法 簿価によるものか、時価に評価替えしたものかを確認いたします
評価基準日 いつの時点の資産及び負債によるものかを確認いたします
土地の評価資料 路線価、固定資産税評価額、鑑定評価等の別を確認いたします
評価替えの範囲 資産のみでなく負債についても行われているかを確認いたします
法人税等相当額 控除の有無、割合及びその根拠を確認いたします
発行済株式の数 自己株式の有無を含めて確認いたします
他の方法との併用 収益に着目する方法が考慮されているかを確認いたします

これらの確認は、いずれも会社の計算書類及びその附属明細書、勘定科目内訳明細書等の資料を前提といたします。株主は、計算書類等の閲覧及び謄本の交付を請求することができ(会社法第442条第3項)、総株主の議決権の100分の3以上の議決権又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主は、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。

第6節 弁護士に相談する意味

評価の方法は一つに定まるものではなく、前提となる資料の範囲によって結論が変動いたします。したがいまして、評価の議論に入る前に、どこまでの資料を確保できるかを検討することが実務上の出発点となります。

弁護士は、株主本人の代理人として、資料の確保、評価に関する検討、協議及び必要に応じた裁判手続を行います。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま手続を進めるものです。

よくあるご質問

質問1 会社が示した「純資産」は決算書の数字そのものでした。

簿価純資産による説明であると考えられます。含み損益が反映されていないことになりますので、資産の取得時期及び内容を確認する必要があります。

質問2 法人税等相当額の控除は必ず行われるのですか。

必ず行われるものではありません。会社が事業を継続し資産の売却を予定していない場合には、控除の当否そのものが争点となります。結論は事案によって異なります。

質問3 不動産鑑定評価を取得する必要がありますか。

必要となる場合もありますが、費用と対象資産の規模との均衡を考慮いたします。まずは固定資産税評価額や路線価等により概況を把握することが多く行われます。

質問4 裁判所は時価純資産法を採用するのですか。

裁判所は、株式譲渡承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めるものとされております(会社法第144条第3項)。特定の方法を常に採用すると定められているわけではありません。

交渉手法の詳細について

具体的な交渉方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、非上場株式・少数株式について、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。

ご相談の際には、直近3期分の決算書及び勘定科目内訳明細書、会社から示された算定の資料、定款の写し、株主名簿の写しをご用意ください。お手元にない場合でもご相談いただけます。

  • 電話番号 03-6435-8418
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本記事は一般的な法律上の枠組みをご説明するものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。結果を保証するものではありません。課税関係については税理士にご確認ください。

本記事の根拠条文

会社法 第144条第3項・第5項・第7項(売買価格の決定及び1株当たり純資産額)、第433条第1項(会計帳簿の閲覧謄写請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧及び謄本の交付の請求)

内部リンク

送客先ランディングページ /landing/share/(第5号。主)、/kaitorikakaku_arasoi/(第3号。補助)

既存記事 /archives/share_kabushikikachisanteihouhou/、/archives/share_minoritysharevalue/、/column/share_valuation/、/archives/unlisted-share-fair-price/

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数字の背後には、必ず前提があります。その前提を一つずつ確認することが最初の作業です。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。