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【反対株主の株式買取請求権】親会社による非公開化で公開買付価格を上回る買取価格が定められた事例―東京高等裁判所令和6年10月31日決定

公開 2024年10月31日更新 2026年10月30日

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親会社が子会社を完全子会社化するために、まず公開買付けを行い、その後に株式併合で残りの株主を締め出した事案で、株式併合に反対した株主が、公開買付価格と同じ1株2300円では低すぎるとして、会社に公正な価格での買取りを求めた事件の判例です。東京地方裁判所令和5年3月23日決定は、公開買付けが一般に公正と認められる手続により行われたとはいえないとして、買取価格を公開買付価格より300円高い1株2600円と定め、東京高等裁判所令和6年10月31日決定も、理由の一部を補正したうえでこの結論を維持し、会社と株主の双方の抗告を棄却しました。

本件の対象会社は、決定本文によれば、株式が取引所に上場されて市場株価が形成されていた会社であり、本件の取引はその会社を非公開化するものでした。上場会社の事件ですが、親会社と一般株主との間に利益相反がある取引で、特別委員会を設けても、その意見が取引条件に十分に反映されなければ会社が示した価格は尊重されないという判断の筋道は、会社から価格を示されて株式を手放すことになる非上場会社の株主にとっても参考になります。本記事では、両決定の判断を株主の視点から整理し、非上場株式への示唆は当事務所の評価として区別して記載します。

目次
  1. 本件の手続の種類
  2. 裁判例の基本情報
  3. 当事者の表記
  4. 事案の概要
    1. 支配株主である総合商社が、上場子会社の非公開化を提案した
    2. 特別委員会の設置と、新型コロナウイルス感染症の影響による交渉の難航
    3. 2800円を求めた特別委員会と、2300円から動かなかった親会社
    4. 公開買付け、株式併合、買取請求
  5. 事案の経緯
  6. 公開買付けの条件と株式価値の算定結果
    1. 公開買付けの主な条件
    2. 第三者評価機関の算定結果(1株当たり)
    3. 市場株価に対するプレミアム
  7. 当事者の主張
    1. 会社の主張―公開買付価格2300円が買取価格である
    2. 反対株主の主張
    3. 抗告審で加えられた主張
  8. 結論を左右した争点
  9. 第一審の判断
    1. 判断の枠組み―公正な手続でなければ、裁判所が価格を定める
    2. 買取請求の日までの株価下落による「補正」は採らない
    3. 特別委員会は役割を十分に果たしていない
    4. 公開買付価格の水準と、決定に至る経緯
    5. 応募は15.61%にとどまった
    6. ナカリセバ価格は公表前の市場株価で算定する
    7. 増加価値分配価格は類似事例のプレミアムを参考に裁量で定める
    8. 2600円とした理由
    9. その他の主張の扱い
    10. 第一審の結論
  10. 抗告審の判断
    1. 原決定を維持しつつ、理由を9か所補正
    2. 特別委員会の意見は十分に尊重されていない
    3. 下限条件は「有意に多数」の応募を意味しない
    4. 会社の補充主張に対する判断
    5. 株主の補充主張に対する判断
    6. 抗告審の結論
  11. 審級ごとの結論の推移
  12. 主文及び結論
  13. 判断の射程
    1. 株主にとって参考となる点
    2. 非上場株式の価格決定への示唆(当事務所の評価)
    3. 一般化できない点
  14. よくあるご質問
    1. 親会社の公開買付けに応じず、その後の株式併合で株式を失うことになりました。買取りを求めるにはどうすればよいですか。
    2. 公開買付価格と同じ価格で買い取られるのが原則ですか。
    3. 特別委員会が設置されていれば、手続は公正といえますか。
    4. 買取請求をした後に株価が下がった場合、買取価格も下がりますか。
    5. DCF法の算定結果が公開買付価格より高ければ、その価格で買い取ってもらえますか。
    6. 非上場会社の株主にも、この判例は関係がありますか。
  15. 関連する記事と御相談のご案内

本件の手続の種類

本件は、表題に付したとおり、【反対株主の株式買取請求権】に関する裁判例です。決定本文によれば、対象会社は令和2年11月16日を効力発生日とする株式併合を行い、この株式併合に反対した株主が、対象会社に対し、保有する株式を公正な価格で買い取るよう請求しました(会社法第182条の4)。価格について協議が調わなかったため、会社と株主のそれぞれが、会社法第182条の5第2項に基づいて裁判所に価格の決定を申し立てています。

株式併合では、併合の割合によって1株に満たない端数が生じ、端数となった株式は金銭で処理されます。本件の株式併合は、2億5304万3334株を1株に併合するもので、反対した株主は、端数となる株式の全部を公正な価格で買い取るよう求めました。決定本文によれば、株式併合による端数の処理で株主に交付される金銭の額は、公開買付価格と同額とする旨が公表されていました。

譲渡制限株式の譲渡を会社が承認しなかった場合に会社又は指定買取人が株式を買い取る手続(譲渡承認拒否に伴う買取請求)とは異なる手続です。

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 東京地方裁判所民事第8部 令和5年3月23日 令和3年(ヒ)第6号、第7号、第9号、第11号 決定 反対株主が保有していた普通株式(合計414万2732株)の買取価格を1株につき2600円と決定。手続費用は各自の負担
抗告審 東京高等裁判所第11民事部 令和6年10月31日 令和5年(ラ)第977号 決定 会社と一部の株主の各抗告をいずれも棄却(原決定の理由を一部補正して、1株2600円を維持)。抗告費用は各自の負担

この表は、2つの決定本文の冒頭及び主文の記載に基づいて当事務所が作成したものです。第一審は4つの申立て(第1事件から第4事件)を併せて審理しています。東京高等裁判所の決定の後に、さらに不服申立てがされたかどうか、及び決定が確定したかどうかは、確認できていません。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。本件の2つの裁判はいずれも判決ではなく決定であり、両決定の本文に出てくる会社名・氏名や、決定が株主を指すために用いた符号も、同じ方法で置き換えています。決定本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

本記事の表記 立場
対象会社であるコンビニエンスストア事業会社KSM フランチャイズシステムによるコンビニエンスストア等の経営を目的とする株式会社。株式併合を行い、反対株主から買取請求を受けました。第1事件の申立人で、抗告審では抗告人兼相手方です
親会社である総合商社HNS 対象会社KSMの支配株主。完全子会社の保有分と合わせて対象会社KSMの株式の50.1%を保有していました
総合商社HNSの完全子会社JVA 総合商社HNSの完全子会社である合同会社。対象会社KSMの株式8.60%を保有し、公開買付けの直前に総合商社HNSへ譲渡しました
公開買付者PKT 対象会社KSMの株式を公開買付けにより取得する目的で設立された合同会社。総合商社HNSが99%、リース会社LSCが1%を出資しています
海外の投資ファンドWVA、WVB(併せて「投資ファンドWVら」) 反対株主。合計408万0900株を保有していました。第4事件の申立人で、抗告審では抗告人兼相手方です
海外の投資ファンドLPG 反対株主。5万7832株を保有していました。第3事件の申立人で、抗告審では相手方です
株主HMA 反対株主。2800株を保有していました(株主総会の基準日の後に取得)。第1事件の利害関係参加人で、抗告審では相手方です
株主SRN 反対株主。1200株を保有していました。第2事件の申立人で、抗告審では相手方です
証券会社BVK 対象会社KSMの取締役会が選任した財務アドバイザー兼第三者評価機関
アドバイザリー会社KVR 特別委員会が自ら選任した財務アドバイザー兼第三者評価機関
法律事務所LFA 対象会社KSMの取締役会が選任した法務アドバイザー
法律事務所LFB 特別委員会が自ら選任した法務アドバイザー
証券会社SKC、法律事務所LFC 総合商社HNSが選任した第三者評価機関(証券会社SKC)及び法務アドバイザー(法律事務所LFC)

決定本文は、対象会社KSMに設置された社外取締役3名の委員会を「本件特別委員会」と呼んでいます。本記事でも「特別委員会」と呼び、決定本文の引用ではそのまま「本件特別委員会」と表記します。また、証券会社BVK、アドバイザリー会社KVR、法律事務所LFA及び法律事務所LFBの4者を、決定本文に合わせて「アドバイザーら」と呼びます。

事案の概要

支配株主である総合商社が、上場子会社の非公開化を提案した

対象会社KSMは、フランチャイズシステムによるコンビニエンスストア等の経営を目的とする株式会社で、令和2年7月8日時点の発行済株式の総数は5億0684万9252株でした。総合商社HNSは、平成10年2月に子会社を通じて対象会社KSMの筆頭株主となり、その後の買増しや、平成30年8月に完全子会社JVAを通じて行った公開買付け(以下「平成30年公開買付け」。公開買付価格は1株1万1000円で、その後の1株を4株とする株式分割を考慮すると1株2750円相当)を経て、完全子会社JVAの保有分と合わせて対象会社KSMの株式の過半数を保有していました。

総合商社HNSは、令和元年9月上旬、対象会社KSMを非公開化して、より大きく踏み込んだ提携関係を構築することがグループ全体の企業価値の向上のために必要であると考えて初期的な検討を始め、令和2年2月17日、対象会社KSMに初期的提案書を提出しました。

特別委員会の設置と、新型コロナウイルス感染症の影響による交渉の難航

対象会社KSMは、令和2年2月19日、社外取締役3名から成る特別委員会を設置しました。取締役会は、公開買付けに関する意思決定を特別委員会の判断内容を最大限尊重して行うこと、特別委員会が取引条件を妥当でないと判断した場合には公開買付けに賛同しないことを決議し、特別委員会に、取引条件の交渉権限や独自のアドバイザーを選任する権限などを与えました。

総合商社HNSは、令和2年3月2日に公開買付価格を1株2600円とする提案をしましたが、その後、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、対象会社KSMの事業計画の見直しを求め、3月28日には2000円程度、5月14日には2200円の提案をしました。感染症の影響を一時的なものとみる対象会社KSMと、中長期的な影響を及ぼすおそれがあるとみる総合商社HNSとの間で、考え方に隔たりがありました。

2800円を求めた特別委員会と、2300円から動かなかった親会社

特別委員会は、6月5日、感染症の影響を織り込んだ新しい事業計画(決定本文の「本件新事業計画」)とアドバイザーらの初期的な算定結果を踏まえて、公開買付価格として2800円を提示することを承認し、2500円でも合意は難しいことを伝えました。これに対し、総合商社HNSは、6月22日に2300円以上で2400円を超えることは難しいと説明し、6月25日以降は、対象会社KSMが公開買付けに賛同する意見である限り、応募を推奨しない意見(非推奨意見)であっても取引を進める意向を示しました。

最終的に、総合商社HNSは7月2日、公開買付価格を2300円、買付予定数の下限を公開買付け後の所有割合が60%となる数とする最終提案を行い、特別委員会はこれを前提に、公開買付けに賛同しつつ、応募するかどうかは株主の判断に委ねる(応募を推奨しない)とする答申をしました。

公開買付け、株式併合、買取請求

公開買付者PKTは、令和2年7月9日から8月24日まで、1株2300円で公開買付けを行いました。応募は7901万7884株(所有割合15.61%。自己株式及び総合商社HNS側の保有株式を除く株式数に対しては31.29%)で、総合商社HNS側の保有割合は65.71%になりました。その後、総合商社HNSの請求により臨時株主総会が招集され、10月22日、2億5304万3334株を1株に併合する株式併合が、出席株主の議決権の94.89%の賛成で承認されました。

株主SRN、投資ファンドLPG及び投資ファンドWVらは、株主総会に先立って株式併合に反対する旨を通知し、株主総会で反対の議決権を行使しました。株主HMAは、株主総会の基準日の後に株式を取得した株主です。4者は令和2年11月2日から13日までの間に買取請求を行い、協議が調わなかったため、令和3年1月13日と14日に、会社と株主の双方から価格の決定の申立てがされました。第一審決定は、各申立てはいずれも適法にされたものと認めています。

事案の経緯

時期 出来事(第一審決定の前提事実及び認定事実による)
平成30年8月 完全子会社JVAが1株1万1000円で公開買付け(部分買付け)。完全子会社JVAの所有割合が8.60%に
令和元年9月上旬 総合商社HNSが対象会社KSMの非公開化の初期的検討を開始
令和2年2月17日 総合商社HNSが初期的提案書を提出
令和2年2月19日 対象会社KSMが社外取締役3名の特別委員会を設置。同月25日の第1回委員会で、独自の財務アドバイザー・法務アドバイザーを選任
令和2年3月2日 総合商社HNSが公開買付価格2600円を提案
令和2年3月3日 特別委員会で、証券会社BVKが、100%子会社化の案件では30%以上のプレミアムが付されるのが通常であり、2600円は安すぎる印象であるとの意見。委員から、感染症による株価急落を吸収できるよう6か月等の長期の平均株価を基礎に交渉すべきとの意見
令和2年3月24日から30日 総合商社HNSの事業計画見直し要請を断る。3月28日の2000円程度の提案も不十分と回答
令和2年4月3日 総合商社HNSが4月13日の公開買付け開始の見送りと、2600円の維持は難しいことを通知
令和2年5月14日 総合商社HNSが2200円を提案し、交渉再開
令和2年6月5日 特別委員会が新しい事業計画を承認し、2800円の提示を承認。対象会社KSMが2800円を提示し、2500円での合意は難しいと説明
令和2年6月22日 総合商社HNSが「2300円以上であり、2400円を超えることは難しい」と説明。特別委員会は、2800円は変わらず、2500円でも合意可能ではなく、引上げができないなら協議終了としたい旨を伝えることを決定
令和2年6月25日・26日 総合商社HNSが、賛同意見なら非推奨意見でも取引を進める意向を示し、下限なしで2300円を提示。対象会社KSMの会長・社長が早く結論を出したいとの意見。同日、総合商社HNSが下限条件(所有割合9.90%相当の5011万4060株)を提案
令和2年6月30日 特別委員会が、推奨意見を出せる価格への引上げ、それが無理なら3分の2条件の設定などを求め、2300円なら中立意見を出す旨を伝えることを決定
令和2年7月1日 2400円とする最終提案も受け入れられず、特別委員会が賛同意見及び非推奨意見を出す見込みであることを伝える方針を承認
令和2年7月2日 総合商社HNSの最終提案(2300円、公開買付け後の所有割合60%となる下限)
令和2年7月8日 特別委員会が答申書を提出。対象会社KSMの取締役会が賛同意見を表明し、応募は株主の判断に委ねると決議。公開買付けを公表
令和2年7月9日から8月24日まで 公開買付け(30営業日)。応募は所有割合15.61%
令和2年10月22日 臨時株主総会で株式併合を承認(出席株主の議決権の94.89%が賛成)
令和2年11月2日から13日まで 反対株主4者が買取請求
令和2年11月16日 株式併合の効力発生日
令和3年1月13日・14日 会社及び株主が価格の決定を申立て
令和5年3月23日 東京地方裁判所が買取価格を1株2600円と決定
令和6年10月31日 東京高等裁判所が各抗告を棄却する決定

公開買付けの条件と株式価値の算定結果

本件では、契約条項の文言ではなく、公開買付けの条件、第三者評価機関の算定結果及び市場株価に対するプレミアムが判断の材料となりました。以下は、第一審決定が認定した内容を当事務所が整理したものです。

公開買付けの主な条件

公開買付価格:普通株式1株につき2300円

公開買付期間:令和2年7月9日から同年8月24日まで(30営業日)

買付予定数の上限:なし

買付予定数の下限:5011万4060株(所有割合9.90%。成立すれば総合商社HNS側の所有割合が60%以上となる数。決定本文の「本件下限条件」)

公開買付け後の手続:総合商社HNS側が全株式を取得できなかった場合は、株式併合を付議議案とする臨時株主総会の招集を請求するなどし、端数の処理については、応募しなかった株主に交付される金銭の額が公開買付価格に保有株式数を乗じた額と同一となるよう設定したうえで裁判所に任意売却許可の申立てを行うよう、対象会社KSMに要請する予定であることを公表

第三者評価機関の算定結果(1株当たり)

算定した者 市場株価による方法 類似会社との比較による方法 DCF法
アドバイザリー会社KVR(特別委員会が選任) 1766円から2068円 1694円から2168円 2472円から3040円
証券会社BVK(対象会社KSMの取締役会が選任) 1766円から2068円 1824円から2922円 2054円から3432円
証券会社SKC(総合商社HNSが選任) 1766円から2068円 946円から1951円 1701円から2749円

公開買付価格2300円は、特別委員会が自ら選任したアドバイザリー会社KVRのDCF法による算定結果の下限2472円を下回っていました。特別委員会は答申書で、アドバイザリー会社KVRの算定について、算定方法の選択及び算定内容のいずれにも不合理な点は認められず、信用できるものと判断しています。

市場株価に対するプレミアム

基準とした市場株価(公表前) 金額 2300円のプレミアム
公表日の前営業日(令和2年7月7日)の終値 1766円 約30.24%
直近1か月間の終値単純平均値 1908円 約20.55%
直近3か月間の終値単純平均値 1878円 約22.47%
直近6か月間の終値単純平均値 2068円 約11.22%

特別委員会の答申書は、これらのプレミアムが類似事例の平均値及び中央値をいずれも下回っており、類似事例と比較して十分なプレミアムが付されたものとまでは認められないとしていました。

当事者の主張

会社の主張―公開買付価格2300円が買取価格である

対象会社KSMは、独立した特別委員会の設置、独自のアドバイザーの選任、27回に及ぶ委員会の開催、2200円から2300円への引上げ、下限条件の獲得、30営業日の公開買付期間、充実した情報開示などを挙げ、公開買付けは一般に公正と認められる手続により行われたから、買取価格は公開買付価格と同額の2300円とすべきであると主張しました。上場投資信託(ETF)など原則として公開買付けに応募しない株主を除いた一般株主の過半数が応募し、株主総会でも一般株主の83.46%が株式併合に賛成したことも挙げています。

仮に裁判所が自ら価格を算定するとしても、取引公表の直前の市場株価を基礎に、株価指数を用いた回帰分析で買取請求の日までの株価の推移を反映する補正を行い、時価総額5000億円以上の類似取引のプレミアム率を踏まえた20%を加えるべきであり、その結果は1649円から1728円にとどまると主張しました。

反対株主の主張

株主 主な主張(第一審)
株主HMA 公開買付価格と同額とすること自体が財産権の侵害であり、裁判所が自ら算定すべきである。平成30年公開買付けと本件公開買付けは実質的に一連の取引であるから、少なくとも平成30年公開買付けの価格に相当する2750円とすべきである
株主SRN 支配株主による取引であり厳格な審査が必要である。公正な価格の算定にはDCF法を用いるべきである。算定の基準日は株式併合の効力発生日の前日とすべきである
投資ファンドLPG 公開買付価格はアドバイザリー会社KVRのDCF法の算定結果の下限を下回り、会社は応募を推奨していない。公表の1週間前に事業計画を修正して算定結果の下限を操作した。マジョリティ・オブ・マイノリティ条件(支配株主以外の株主の過半数の応募を成立条件とすること)もなく、手続は公正でない。DCF法で算定すべきであり、プレミアムを用いるなら完全子会社化の事例の中央値39.8%によるべきである
投資ファンドWVら 公開買付価格は著しく低いことが明白であり、手続の公正さを検討するまでもなく裁判所が自ら算定すべきである。特別委員会の意見は尊重されておらず、下限条件はかえって応募を強いる強圧性を生む。感染症で市場が企業価値を誤って評価していたから市場株価を用いるべきではなく、DCF法(自らの算定では取引がなければ実現できた価値が2904円)によるべきである。会社の主張する事後の株価補正は許されない

抗告審で加えられた主張

対象会社KSMは抗告審で、手続の審査では特別委員会が専門家の意見を聴き尊重して判断したかどうかを見るべきで、判断の内容の合理性にまで踏み込むべきではないこと、下限条件は応募しないとされる上場投資信託やパッシブ・インデックス運用ファンドを考慮すれば一般株主の過半数の賛成を意味する水準であったことなどを主張し、改めて2300円を求めました。また、「仮に一般に公正と認められる手続により公開買付けが行われていたならば公開買付価格となったであろう金額」を推定する第一審の枠組みは最高裁判所の決定に反するとも主張しました。

投資ファンドWVらは、原決定を取り消して改めて価格を決定するよう求め、DCF法の採用と40%以上のプレミアム率を主張しました。投資ファンドLPGは、特別委員会が事業計画を変更させて算定結果の下限を下げたなどとして、公正な価格を3650円以上とすべきであると主張しました。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

両決定が示した争点は、反対株主が保有していた株式の買取価格(公正な価格)を1株幾らとするかです。結論を分けたのは、次の3点でした。

  1. 親会社と一般株主との間に利益相反がある二段階の取引で、特別委員会が設置されていたにもかかわらず、公開買付けが「一般に公正と認められる手続」により行われたといえるか。
  2. 公正な手続といえない場合、裁判所はどの時点の、どのような価格を基準に買取価格を定めるか。特に、公開買付けの後に市場全体の株価が下がったことを買取価格に反映させるべきか。
  3. 具体的な価格を、市場株価とプレミアムによって定めるのか、DCF法によって定めるのか。

第一審の判断

判断の枠組み―公正な手続でなければ、裁判所が価格を定める

東京地方裁判所は、まず、株式併合の反対株主に買取請求権が与えられた趣旨から、親会社が公開買付けと株式併合という二段階の取引(決定本文の「二段階取引」)で子会社の株式全部を取得する場合の「公正な価格」は、原則として、株主に分配される価格が公正なものであったならば買取請求の日にその株式が有していると認められる価格をいうとしました。そのうえで、最高裁判所平成28年7月1日第一小法廷決定(平成28年(許)第4号ないし第20号)を参照し、独立した特別委員会や専門家の意見を聴くなど意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ、一般に公正と認められる手続により公開買付けが行われた場合には、特段の事情がない限り、公開買付価格と同額を公正な価格とするとしました。

他方、公正な手続とはいえない場合について、次のように述べています。

「相互に特別の資本関係がある会社間において二段階取引が行われ、これによりシナジー効果その他の企業価値の増加が生ずる場合において、一般に公正と認められる手続により当該公開買付けが行われたと評価できないときは、二段階取引においてされた株主及び取締役の判断を離れて、前記(1)で株式買取請求制度の趣旨について説示したところに従い、「公正な価格」すなわち、株主分配価格が公正なものであったならば当該株式買取請求がされた日においてその株式が有していると認められる価格を、裁判所がその合理的な裁量により決定することになる。」

そして、応募しなかった株主の株式も公開買付価格と同額で取得することが明示されていた場合には、原則として、仮に公正な手続で公開買付けが行われていたならば公開買付価格となったであろう金額(決定本文の「公正買付価格」)を推定し、特段の事情がない限り、公正な価格をこれと同額とするとしました。公正買付価格は、公開買付価格が最終的に決まった公表時点における、取引がなければ株式が有したであろう価格(ナカリセバ価格)と、取引によって生ずるシナジー効果その他の企業価値の増加のうち株主が享受してしかるべき部分(増加価値分配価格)から成るものとして算定するとしています。

買取請求の日までの株価下落による「補正」は採らない

対象会社KSMは、買取請求の日を基準に、公表前の株価に回帰分析による補正を加えて算定すべきであると主張しましたが、決定はこれを採用しませんでした。その理由として、そのような補正をすると、応募しなかった株主は株価が下がれば買取請求をせず、上がれば買取請求をするという行動が可能となり、「いわば一種の有利なプットオプションを無償で得たに等しい結果となりかねない」こと、他方で、株価が下がった場合に公正な価格が公開買付価格より低くなるのであれば、会社は公正な手続をとらなかった方が有利な結果を得られることになり、「モラルハザードを生じかねない」ことを挙げています。

特別委員会は役割を十分に果たしていない

決定は、総合商社HNSが対象会社KSMの株式の50.1%を保有する支配株主であり、本件は相互に特別の資本関係がある会社間の二段階取引で、利益相反関係が存在するとしたうえで、公開買付けが一般に公正と認められる手続により行われたかを検討しました。

決定は、特別委員会が十分な権限を与えられ、6月22日頃までは、アドバイザーらの助言に基づいて2800円を提示し、2500円でも合意できず、引上げがなければ協議を終了するという交渉方針を決めていたことを認めました。しかし、6月25日以降、総合商社HNSが2300円から一向に引き上げず、非推奨意見でも取引を実現する意向を示し、対象会社KSMの経営陣も早く結論を出したい意向を述べると、特別委員会は、

「上記交渉方針を十分な検討なく放棄し、非推奨意見であっても本件公開買付けを実施するという〔総合商社HNS〕及び〔対象会社KSM〕経営陣の意向を受け入れ、その他の条件について交渉するとの方針へと大きく転換したものといえる。」

と評価しました。その際、新しい事業計画に対する自らの見解を変更する理由も、2300円が自ら選任したアドバイザリー会社KVRのDCF法の算定結果の下限2472円を下回るのに一般株主にとって妥当な範囲に収まると判断する合理的な根拠も示していないこと、アドバイザーらの助言に基づいて3分の2条件を求め、かなわなければ中立意見とする方針であったのに、どのような検討を経て賛同意見に変えたのかが明らかでないことも指摘しています。そして、次のように判断しました。

「本件特別委員会は、相互に特別の資本関係がある〔対象会社KSM〕と〔総合商社HNS〕から独立した立場から、〔対象会社KSM〕の意思決定過程が恣意的になることを排除するための機関として、その役割を十分に果たしたものとは評価することができない。」

公開買付価格の水準と、決定に至る経緯

決定は、公開買付価格がアドバイザリー会社KVRのDCF法の算定結果の下限を下回り、プレミアムの水準も類似事例より低かったのに、交渉が奏功しないまま非推奨意見でも取引を実施することが優先されたとして、

「本件特別委員会自身の財務アドバイザー兼第三者算定機関である〔アドバイザリー会社KVR〕の専門的意見を十分に尊重し活用した上で一般株主にとってできる限り有利な取引条件の獲得に向けた検討・交渉を行うという手続は遂行されなかったものといわざるを得ない。」

としました。さらに、答申書が一方で「妥当性を欠くものとは認められない」としながら、他方でアドバイザリー会社KVRの算定結果の下限を下回ることや十分なプレミアムがないことを指摘していることについて、特別委員会が取引条件を妥当でないと判断すると取締役会が賛同しないことになっていた関係上、「妥当でない」とは表現できない状況にあったことが影響している可能性があると述べ、特別委員会は独立した立場から率直にみれば妥当な水準に収まっていないと考えていたようにもうかがわれるとしています(抗告審が差し替えた説示には、このように特別委員会の真意を推し量る記述は含まれていません。後記のとおりです)。

応募は15.61%にとどまった

決定は、応募した株式数が発行済株式の総数の15.61%にとどまり、仮にマジョリティ・オブ・マイノリティ条件や3分の2条件が設定されていれば公開買付けは成立していなかった水準であったと指摘しました。会社が主張した、上場投資信託を除く一般株主の過半数の応募や株主総会での83.46%の賛成についても、アドバイザーらが少なくとも3分の2条件を求めるべきとの見解であったことを踏まえれば、有意に多数の一般株主が応募したとは評価し難いとしています。親会社による非公開化であることから、30営業日の公開買付期間を確保しても真摯な対抗提案は一般的には考えにくいとも述べています。

以上から、決定は、公開買付けは一般に公正と認められる手続により行われたとはいえず、公開買付価格2300円を公正な価格とすることはできないと結論付けました。

なお、投資ファンドWVらの、価格が著しく低いことが明白だから手続の公正さを検討するまでもないとの主張は、価格が著しく低いと評価できる場合でも、そのことから直ちに利害が適切に調整された結果であることが否定されるとまではいえないとして、採用されませんでした。

ナカリセバ価格は公表前の市場株価で算定する

決定は、本件の取引によってシナジー効果その他の企業価値の増加が生ずると認め、公表時点を基準に公正買付価格を算定するとしました。算定に当たっては、ナカリセバ価格と増加価値分配価格を別々に確定して合算する必要はなく、両者の合計として相当な金額を算定すれば足り、交渉経過にみられた事情も総合的に考慮できるとしています。

ナカリセバ価格については、意図的な価格操作などの異常な価格形成はうかがわれないとして、市場株価を基礎資料とすることに合理性があるとしました。他方で、感染症の拡大の中で市場株価が偶発的要素の影響を受けて変動していた面は否定できず、特別委員会でも6か月平均を基礎に交渉すべきとの意見が出ていたことから、公表前日の株価だけでなく、1か月、3か月及び6か月の平均値も考慮するとしました。

株主側の、感染症の影響で市場が企業価値を誤って評価していたからDCF法によるべきとの主張に対しては、社会経済情勢を完全に見通せない面は常に存在し、市場ではそれを踏まえて多数の投資家の集合的判断として株価が形成されるから、「投資家が〔対象会社KSM〕の企業価値を見誤ったと直ちに評価することはできない」とし、その後に業績が回復したとしても市場株価を用いる合理性は否定されないと判断しました。DCF法については、永久成長率や割引率に確定した基準がなく算定結果の較差が大きくなることなどを理由に、ナカリセバ価格の算定に用いるべきとはいえないとしています。

増加価値分配価格は類似事例のプレミアムを参考に裁量で定める

決定は、シナジーの定量的評価に係る資料は存在しないとの会社の回答も踏まえ、シナジー効果その他の企業価値の増加を定量的に把握することは性質上困難であるとして、増加価値分配価格をDCF法で算定すべきとの株主側の主張を退けました。そして、平成22年以降に発表された全部買付けの公開買付け(買付規模500億円以上、公表前の情報漏洩がないもの)26件のプレミアム(公表前営業日の株価に対して平均36.9%・中央値33.9%、6か月平均に対して平均36.8%・中央値37.9%など)と、そのうち過半数を保有する支配株主による完全子会社化の事例のプレミアム(同じく平均35.0%・中央値28.7%、平均37.0%・中央値39.8%など)を、公表前の市場株価に付加した価格を検討しました。

2600円とした理由

決定は、(1)市場株価とこれに対する同種事例のプレミアムの平均値又は中央値、(2)証券会社BVK及びアドバイザリー会社KVRの算定結果、(3)特別委員会が専門的助言に基づいて決定していた交渉方針(2800円を提示し、2500円での合意は難しいとしていたこと)を総合的に考慮して、

「2600円をもって、本件公正買付価格と認めるのが相当である。」

と判断しました。総合商社HNSが交渉中に2400円を超えることは難しいと述べていた点も、最終的な提案価格ではないこと、総合商社HNSが選任した証券会社SKCのDCF法の算定結果の上限が2749円であったこと、総合商社HNSも取引の実施を希望していたことから、判断を左右しないとしています。

参考までに、当事務所が上記の公表前の4つの市場株価に決定本文記載の各プレミアム率を当てはめて試算すると、おおむね2273円から2891円の幅となり、2600円はその中に収まります。また、2600円は公表前日の終値1766円に対して約47.2%、6か月平均2068円に対して約25.7%のプレミアムに当たります(いずれも当事務所の計算であり、決定本文が示した数値ではありません)。

その他の主張の扱い

  • 会社が主張した時価総額5000億円以上の9件の事例:9件のうち7件は、公表前の情報漏洩でプレミアムが株価に織り込まれていた事例や完全子会社化でない事例であるとの株主側の指摘に会社が反論しておらず、適切とはいえないとされました。決定は、9件の平均値を用いても6か月平均を基準にすると2681円となり、2600円と近似するとも述べています。
  • 株主HMAの2750円の主張:平成30年公開買付けとは時期が2年程度異なり、平成30年公開買付けは過半数の保有を目的とする部分買付けで、本件の全部買付けとはシナジー効果にも違いがあるとして、採用されませんでした。
  • 特段の事情:取引の公表(令和2年7月8日)から買取請求の日(同年11月2日から13日まで)までの間に、取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情はうかがわれないとされました。

第一審の結論

決定の主文は、反対株主4者が保有していた株式(株主HMAの2800株、株主SRNの1200株、投資ファンドLPGの5万7832株、投資ファンドWVらの計408万0900株)の「買取価格は、1株につき2600円とする。」「手続費用は各自の負担とする。」というものです。

抗告審の判断

原決定を維持しつつ、理由を9か所補正

東京高等裁判所は、「当裁判所も、本件対象株式の買取価格を1株につき2600円と定めるのが相当であると判断する。」と述べ、第一審決定の理由を引用しました。もっとも、原決定の頁と行を指定して、9か所について文言を改め、差し替え、又は削除しています。主なものは次のとおりです。

  • 公正な手続と評価できない理由の言い換え:原決定が「意思決定過程が恣意的になることを排除して取引条件の公正さを担保するための措置が十分に講じられなかったために」としていた部分に相当する箇所を、「公開買付けの取引条件の設定において、二段階取引を前提として多数株主等と少数株主との利害が適切に調整された結果が反映されたものということができなかったために、」に改めました。
  • 公正買付価格の推定を「推定が可能な事案」に限定:公正買付価格を推定する原則について、「推定し、」を「推定することとし、この推定が可能な事案においては、」に改め、本件への当てはめの部分では、「この推定が取引条件に係る交渉経過においてみられた事情を総合的に考慮することにより可能な事案においては、」と改めました。公正な条件では取引が成立しなかったような場合について、原決定は別の算定方法を「採る余地もある」としていましたが、抗告審は「別の算定方法を採る必要があるが、そのような場合があることをもって、公正買付価格を推定することが可能な事案において、前記(3)の計算方法により算定することが妨げられるものとはいえない。」と改めています。
  • 「著しく低い」との主張に対する理由の補正:投資ファンドWVらの主張する点から直ちに公開買付価格が著しく低いと評価することはできず、特別委員会が応募を推奨しなかったことについても、その趣旨及び経緯には様々なものがあると考えられるとの理由に改め、原決定の一部を削りました。
  • 特別委員会と応募状況についての説示の差替え:原決定の頁・行で指定した範囲の説示を、後記の内容(特別委員会の意見が十分に尊重されたか、有意に多数の一般株主が応募したか)に差し替えました。差し替え後の説示には、原決定が特別委員会の「率直な意見」を推し量った記述は含まれていません。
  • DCF法と算定書の扱いの差替え:原決定の頁・行で指定した2つの範囲を、DCF法の性質と特別委員会の判断方法、増加価値分配価格の検討方法に関する説示に差し替えました(後記)。
  • 削除:上記のほか、原決定の3か所(頁・行で指定された部分)を削除しています。削除された記載の内容は抗告審決定の本文には示されていないため、本記事では特定を控えます。

特別委員会の意見は十分に尊重されていない

抗告審は、特別委員会が十分な権限を持ち、6月22日頃までは2800円を提示する交渉方針を決定するなどし、最終的に答申書で賛同意見を表明したことを認めました。そのうえで、答申書が、新しい事業計画(最終版)やアドバイザリー会社KVRの算定を信用できるとしながら、公開買付価格が同社のDCF法の算定結果の下限を下回ることなどから、応募を積極的に推奨できる水準に達しているとまでは認められないとしていることを重視しました。

抗告審は、特別委員会の方針は6月25日以降「大きく転換したものといえる」としつつ、原決定の「十分な検討なく放棄し」という表現は用いていません。そして、特別委員会は、少数株主の利益保護のために提示すべき金額と総合商社HNSの提示額との間に相当の開きがある中で、少数株主に投下資本の回収の機会を与える趣旨で賛同意見としたにすぎず、総合商社HNSの提示価格を不合理と断じることはできないとした限度のものであったと評価しました。さらに、次の点を指摘しています。

「本件特別委員会は、本件株式併合が少数株主にとって不利益なものではないと考えられる根拠の一つとして、裁判所に対して株式の買取価格決定の申立てを行うことができることを挙げているのであって」

このことからすれば、特別委員会は、応募せずに株式併合に反対する株主の買取価格が直ちに公開買付価格と同額になることを前提としていたとはいえず、応募しない株主との関係で公開買付価格を買取価格とすることが相当である理由を合理的な根拠をもって説明しているとも認められないとしました。こうして、公開買付価格は、特別委員会の意見が十分に尊重されて定められたものとは評価できないとしています。

下限条件は「有意に多数」の応募を意味しない

抗告審は、総合商社HNSが、一般株主の保有する49.8%のうち上場投資信託が約20%、それ以外のパッシブ・インデックス運用ファンドが約10%を保有しており、応募しない方針の運用者がいることを理由にマジョリティ・オブ・マイノリティ条件を設定せず、代わりに下限条件を設定したと説明していたことを認めました。しかし、特別委員会自身が答申書で、パッシブ・インデックス運用ファンドが10%を保有することや、その多数が応募しない方針であることについて合理的な確証を得られなかったとしていたこと、記録上もそれを認める証拠がないことを指摘しました。

さらに、特別委員会は、アドバイザーらから、下限条件を合理的に説明することは難しいが3分の2条件であれば実質的なマジョリティ・オブ・マイノリティ条件に相当するとの説明を受けて、3分の2条件を求め、かなわなければ中立意見とすることまで決めていたのに、総合商社HNSが譲歩しなかったことを受けて賛同意見を出すことを決定しています。抗告審は、これらから、特別委員会は下限条件を設定したことで有意に多数の一般株主が応募したことになるとは評価していなかったとし、実際の応募15.61%についても、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件や3分の2条件があれば成立していなかった水準であるとしました。結論は次のとおりです。

「本件特別委員会の意見が十分に尊重されて本件公開買付けの取引条件が定められたものということはできないし、有意に多数の一般株主が本件公開買付けに応募したということもできないのであるから、本件公開買付価格が、二段階取引を前提として多数株主等と少数株主との利害が適切に調整された結果が反映されたものということはできず、本件公開買付けにおいて、一般に公正と認められる手続が実質的に行われたと評価することはできない。」

会社の補充主張に対する判断

  • 体制を整えて交渉したのだから公正であるとの主張:特別委員会の設置、独自のアドバイザーの選任、約4、5か月の交渉を考慮しても、特別委員会の意見が十分に尊重されて取引条件が定められたとは評価できず、特別委員会の意見やその経緯に不合理な点があるともいえないとして、独立当事者間取引における合意と同視することはできないとしました。
  • 一般株主の大多数が賛同したとの主張:応募しない方針のパッシブ・インデックス運用ファンドの保有割合は定かでなく、下限条件が一般株主の過半数の賛成を意味する水準であったとはいえないとしました。また、「本件下限条件(〔総合商社HNS〕らの所有割合60%)は、強圧性の問題を十分に排除するに足りる水準とはいえず」、応募や株式併合への賛成に取引条件以外の要因が作用した可能性も否定できないとして、応募や賛成の割合が結果的に一定数に及んだことをもって手続の公正さを根拠付けることはできないとしました。
  • 公正買付価格を推定する枠組みは誤りであるとの主張:特別委員会の意見が十分に尊重されたと仮定し、交渉経過にみられた事情を総合的に考慮して公正買付価格を推定することは可能であるとしました。あわせて、総合商社HNSは当初2600円を提示していたこと、感染症の影響の評価の違いから特別委員会の提示価格を受け入れなかったものの、「企業規模等に照らし、本件公開買付価格よりも高い金額での公開買付けができなかったというべき事情は認められない。」ことを指摘しています。抗告審は、公開買付けの段階で取引条件の公正さを検討して公正買付価格を推定したうえで、買取請求の日までに想定外の事情が生じているかを問題とすることが、理論的に一貫する自然な考え方であるとしています。
  • 公表後の市場株価の下落を補正すべきとの主張:特別委員会は感染症の影響は中長期的には大きくないとの認識を前提に公正な価格を検討しており、公開買付け開始後の株価の変動は、直ちにその考慮の範囲を超えるものではないとして、補正すべき特段の事情は認められないとしました。

株主の補充主張に対する判断

抗告審は、感染症の拡大の中で市場株価が偶発的要素の影響を受けて変動していた面は否定できないとして、公表前日の株価だけでなく1か月、3か月及び6か月の平均値も総合する第一審の算定方法を是認しました。そのうえで、意図的な価格操作等による異常な価格形成はうかがわれないから、公表前の市場株価に基づいてナカリセバ価格を算定することには一定の合理性があるとし、DCF法を採用すべきとの投資ファンドWVらの主張を退けました。

差し替えた説示では、DCF法には永久成長率や割引率に確定した基準がなく、前提とする事業計画も将来予測にすぎないこと、感染症の影響の予測が極めて困難であった時期であることから、特別委員会がDCF法の算定結果をレンジに入っているかどうかという限度で考慮したことは相当であるとしています。また、差し替え後の説示は、第一審が株主の一部が算定書の信用性を争っていることを理由に算定書を直ちに参考にできないとしていたのとは異なり、特別委員会が事業計画や算定書を信用できると判断していることを前提に、特別委員会の判断方法は合理的であるとしたうえで、公表前の株価に基づくナカリセバ価格を算定し、類似事例のプレミアムの水準やアドバイザリー会社KVRのDCF法の算定結果の下限を踏まえて、裁判所の合理的な裁量により増加価値分配価格を検討するのが相当であるとしました。投資ファンドWVらが文書提出命令を申し立てた文書は、企業価値の増加を定量的に把握するに足りる資料ではなく、必要不可欠な資料ともいえないとされました。投資ファンドLPGの3650円以上とすべきとの主張も採用されていません。

抗告審の結論

東京高等裁判所は、買取価格を1株2600円とした原決定は相当であるとして、対象会社KSMと投資ファンドWVらの各抗告をいずれも棄却しました。主文は、「本件各抗告をいずれも棄却する。」「抗告費用は各自の負担とする。」というものです。東京高等裁判所は、第一審の判断枠組みと結論を維持し、公正な手続と評価できない理由や公正買付価格の推定の範囲、特別委員会の評価、DCF法と算定書の扱いについて理由を補正したもので、買取価格を変更した点はありません。

審級ごとの結論の推移

項目 第一審(東京地方裁判所令和5年3月23日決定) 抗告審(東京高等裁判所令和6年10月31日決定)
会社が求めた価格 1株2300円(公開買付価格) 1株2300円
株主が求めた価格 2750円(株主HMA)、DCF法による価格(他の株主)など 原決定の取消しと価格の決定(投資ファンドWVら)、3650円以上(投資ファンドLPG)
手続の公正さ 否定。特別委員会は役割を十分に果たしておらず、応募も15.61%にとどまる 否定(維持)。特別委員会の意見が十分に尊重されておらず、有意に多数の応募もないと説示を差し替え
価格の決め方 公表時点の公正買付価格を推定。買取請求の日までの株価補正は行わない 同じ(維持)。推定が可能な事案に限る旨を補正
算定の材料 公表前の市場株価(前日・1か月・3か月・6か月)、類似事例のプレミアム、算定結果、特別委員会の交渉方針 同じ(維持)。特別委員会の判断方法の合理性を前提に、アドバイザリー会社KVRのDCF法の下限も踏まえると補正
買取価格 1株2600円 1株2600円(各抗告を棄却)
費用 手続費用は各自の負担 抗告費用は各自の負担

主文及び結論

抗告審決定の主文は、「本件各抗告をいずれも棄却する。」「抗告費用は各自の負担とする。」です。これにより、反対株主4者が保有していた対象会社KSMの普通株式合計414万2732株の買取価格を1株につき2600円とした第一審決定が維持されました。公開買付価格2300円を1株当たり300円上回る価格です。

判断の射程

以下は、両決定の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。最終的な判断である東京高等裁判所の決定を基準とし、同決定は第一審の結論を維持しつつ理由を補正したものです。

株主にとって参考となる点

  • 特別委員会が設置されていても、それだけで公開買付価格が買取価格になるわけではないこと。本件の特別委員会は、独自のアドバイザーを選任し、決定本文で認定されているだけでも26回の委員会を開いて交渉方針を議論していました。それでも両決定は、交渉方針が転換された経緯や、答申書が応募を推奨できないとしていた点を見て、手続の公正さを否定しました。株主としては、特別委員会の有無という形式ではなく、その意見が取引条件に実際に反映されたかを確認することが重要になります。
  • 公開買付けに賛同しつつ応募は推奨しないという意見の意味。抗告審は、特別委員会が、株式併合が少数株主にとって不利益でない根拠の一つとして裁判所への価格決定の申立てができることを挙げていた点に着目しました。会社自身が、応募しない株主には別の価格があり得ることを前提にしていた場合、公開買付価格をそのまま買取価格とすることは難しくなると考えられます。
  • 応募の割合と下限条件の設定。応募が15.61%にとどまり、支配株主以外の株主の過半数や3分の2を基準とする条件があれば成立しなかった水準であったことが、手続の公正さを否定する理由の一つとされました。株主総会での高い賛成率も、強圧性の問題を十分に排除できない下限条件のもとでは、公正さを根拠付けないとされています。
  • 公開買付け後の株価の下落で買取価格は下がらないこと。両決定は、公正買付価格を公表時点で推定し、その後の市場全体の株価の下落を補正として反映させるという会社の主張を退けました。応募しなかった株主にとって、買取請求をした後の市場の変動によって不利益を受けにくい判断といえます。
  • 交渉の記録が価格の認定に使われたこと。2600円という価格は、市場株価とプレミアムの統計に加えて、特別委員会が2800円を提示し2500円でも合意できないとしていたこと、親会社が当初2600円を提案していたことなど、交渉過程の記録を踏まえて定められました。特別委員会の議事の内容やアドバイザーの意見が詳細に認定されており、価格を争う場合にはこれらの資料が重要な意味を持ちます。

非上場株式の価格決定への示唆(当事務所の評価)

本件は上場会社の事件であり、両決定は市場株価を基礎資料としています。以下は、非上場会社の株主に向けた当事務所の評価であり、両決定が非上場株式について判断したものではありません。

  • 非上場会社でも、支配株主が株式併合によって少数株主を締め出す場合には、株式併合に反対した株主は会社に公正な価格での買取りを請求できます(会社法第182条の4)。会社が示した価格が、支配株主と少数株主との利害が適切に調整された結果といえるかどうかが問われるという本件の考え方は、非上場会社の株主が会社の提示価格を争う際の視点として参考になると考えます。
  • 非上場会社の締出しでは、本件のような特別委員会、複数の第三者評価機関による算定、詳細な開示が行われないことも少なくありません。本件では、これらの措置が講じられていても手続の公正さが否定されており、措置がより乏しい場合に、会社の提示価格がそのまま公正な価格とされるとは限らないと考えます。
  • 他方で、非上場株式には市場株価がないため、本件のように公表前の市場株価に類似事例のプレミアムを加える方法は、そのままでは使えません。価格の算定は、事業計画に基づくDCF法や純資産を基礎とする方法など、事案に応じた評価方法によることになると考えられます。本件で両決定がDCF法をナカリセバ価格の算定に用いなかったのは、市場株価が使えることを前提とした判断であり、非上場株式の評価でDCF法の利用が否定されたものではありません。
  • 本件では、会社が作成した事業計画や第三者評価機関の算定書が提出され、その位置付けが争われました。非上場会社の株主が価格を争う場合にも、会社が価格の根拠とした事業計画や算定書、交渉の経過がどこまで開示されるかが、主張立証の出発点になると考えます。

一般化できない点

  • 本件は、支配株主が50.1%を保有する上場会社の非公開化の事案です。両決定は、相互に特別の資本関係がある会社間の取引であることを前提に、利益相反を排除する措置が十分であったかを審査しており、資本関係のない会社同士の取引に本件の判断をそのまま当てはめることはできません。
  • 2600円という価格は、市場株価、類似事例のプレミアム、算定結果及び本件の交渉経過を総合したもので、算式によって導かれたものではありません。他の事案で同じ割合の上乗せが認められるとはいえません。
  • 抗告審は、公正買付価格の推定を「推定が可能な事案」に限ると補正し、公正な条件では取引が成立しなかったような場合には別の算定方法を採る必要があるとしています。どの事案で推定が可能かは、交渉経過の具体的な事情によります。
  • 本件は、新型コロナウイルス感染症の拡大期に交渉と公開買付けが行われ、市場株価の評価や事業計画の見直しが大きな争点となった事案です。
  • 東京高等裁判所の決定の後の不服申立ての有無及び確定は、確認できていません。

非上場株式の評価の方法と、適正な買取価格の考え方は、次のページでご案内しています。

よくあるご質問

親会社の公開買付けに応じず、その後の株式併合で株式を失うことになりました。買取りを求めるにはどうすればよいですか。

株式併合に反対する株主は、会社に対し、1株に満たない端数となる株式の全部を公正な価格で買い取るよう請求できます(会社法第182条の4)。本件の株主も、株主総会に先立って反対を通知し、株主総会で反対の議決権を行使したうえで買取請求をしています(株主総会の基準日後に株式を取得した株主も買取請求をしています)。買取請求は効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に行う必要があり、価格の協議が効力発生日から30日以内に調わないときは、その後30日以内に裁判所に価格の決定を申し立てることができます(会社法第182条の4第4項、第182条の5第2項)。期限が短いため、株主総会の招集通知を受け取った段階で検討を始めることが大切です。

公開買付価格と同じ価格で買い取られるのが原則ですか。

両決定は、独立した特別委員会や専門家の意見を聴くなど、意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ、一般に公正と認められる手続で公開買付けが行われた場合には、特段の事情がない限り公開買付価格と同額を公正な価格とするという考え方を前提にしています。本件では、その公正な手続が実質的に行われたとは評価できないとされたため、裁判所が公開買付価格を上回る2600円を定めました。

特別委員会が設置されていれば、手続は公正といえますか。

本件では、そうはなりませんでした。特別委員会は十分な権限と独自のアドバイザーを持っていましたが、2800円を求める交渉方針が2300円の受入れへと転換された経緯や、答申書が応募を推奨できる水準ではないとしていたことから、その意見が十分に尊重されて取引条件が定められたとはいえないとされました。

買取請求をした後に株価が下がった場合、買取価格も下がりますか。

本件の会社は、公表後の市場全体の株価の下落を反映して価格を下げる補正を主張しましたが、両決定はこれを採用しませんでした。公正買付価格は公開買付価格が決まった公表時点で推定し、その後に取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたといえる特段の事情がない限り、その価格が公正な価格になるとされています。

DCF法の算定結果が公開買付価格より高ければ、その価格で買い取ってもらえますか。

本件ではそうなりませんでした。両決定は、上場株式について市場株価を用いることができる以上、DCF法でナカリセバ価格を算定する必要はないとし、株主側のDCF法による主張を採用しませんでした。ただし、抗告審は、特別委員会が選任したアドバイザリー会社KVRのDCF法の算定結果の下限を、増加価値分配価格を検討する際の材料の一つとしています。非上場株式の場合は市場株価がないため、評価方法の選択はまた別の検討になります。

非上場会社の株主にも、この判例は関係がありますか。

本件は上場会社の事件で、非上場株式について直接判断したものではありません。もっとも、会社が示した価格が、支配株主と少数株主との利害を適切に調整した結果といえるかどうかを、交渉の経過や特別委員会の意見の扱いから検討するという考え方は、非上場会社の株主が締出しの価格を争う場面でも参考になると当事務所は考えています。

協議が調わない場合に裁判所に価格の決定を申し立てる手続と、その期限は、次のページでご案内しています。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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