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取引事例法は株式の価格の評価方式として妥当か?適用の要件と反論の組立て

公開 2019年1月19日更新 2026年10月31日

株式の価格をめぐる交渉で、会社から「過去にこの価格で売買された例がある」として、その取引価額を基準とする評価を示された。

本記事は、取引事例法による株式の評価を示され、その妥当性を検討したい株主の方に向けたものです。裁判所が用いる評価の方法の全体像は、相続税評価額と会社法上の株式の価格は違います 類似会社比較法をはじめとする株式価値評価の方法で整理しています。

取引事例法は、取引量が同程度であること、取引の時点が比較的直近であること、独立した第三者間の取引であることなどの要件を満たす場合に用いられ、採用自体を疑問視する裁判例もあります。以下、順にご説明します。

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非上場株式の株式価格を評価する際の評価方式として、取引事例法というものがあります。この取引事例法を用いることは妥当なのでしょうか。

この記事では、非上場株式の株式価格評価における取引事例法は妥当なのかについて、取引事例法の基礎知識を解説しながら、検討していきます。

非上場株式について株式価格の評価が必要な理由

非上場株式とは、証券取引所に上場されていない株式のことを言います。これに対し、証券取引所に上場されている株式のことを上場株式と言います。

上場株式の株式価格は市場によって決定されますが、非上場株式の場合は、そもそも市場が存在しないため、株式価格を評価する必要があるのです。

非上場株式における株式価格の評価アプローチ及び評価方式

非上場株式における株式価格を評価する際には、いくつかのアプローチに基づく評価方式を採用することになります。

代表的なアプローチは3つあります。

  • インカム・アプローチ
  • マーケット・アプローチ
  • ネットアセット・アプローチ

インカム・アプローチ

インカム・アプローチは、株式を発行する会社から期待される利益やキャッシュフローに基づいて株式価格を評価する方法です。

このアプローチは、一般的には将来的な収益獲得能力を価値に反映させやすいと言われています。また、会社独自の収益性などをもとに価値を測定する点で、会社が持つ固有の価値を示すと言われます。

インカム・アプローチに分類される評価方式として以下のものがあります。

  • フリー・キャッシュ・フロー法
  • 調整現在価値法
  • その他(配当還元法、収益還元法)

マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチは、株式を発行する会社と類似する会社、事業、取引事例などを比較することによって、株式価格を評価する方法です。

比較対象とするのは上場会社の株価や取引事例であり、これらはその会社や事業の将来価値も含めた継続価値だと考えられています。

マーケット・アプローチには以下のような評価方式が含まれます。

  • 市場株価法
  • 類似上場会社法
  • 類似取引法
  • 取引事例法

ネットアセット・アプローチ

ネットアセット・アプローチは、株式を発行する会社の貸借対照表に記載されている純資産に着目して株式価格を評価する方法です。

ネットアセット・アプローチに分類されるのは、以下のような評価方式です。

  • 簿価純資産法
  • 時価純資産法
  • その他

評価アプローチ及び評価方式のまとめ

ここまで3つの評価アプローチとそれぞれの評価方式について解説しました。

ここで、まとめとして、それぞれの内容を概観できるように表にしましたので、ご覧ください。

評価アプローチ

評価方式

インカム・アプローチ

…会社から期待される利益やキャッシュフローに基づいて株価を評価する方法。

  • フリー・キャッシュ・フロー法
  • 調整現在価値法
  • その他(配当還元法、収益還元法)

マーケット・アプローチ

…類似企業・事業・取引事例などを比較する方法。

  • 市場株価法
  • 類似上場会社法
  • 類似取引法
  • 取引事例法

ネットアセット・アプローチ

…純資産に着目して株価を評価する方法。

  • 簿価純資産法
  • 時価純資産法
  • その他

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

取引事例法による株式価格の評価について

非上場株式における株式価格の評価アプローチは3つありました。取引事例法は、その中のマーケット・アプローチの一つとして分類されています。

取引事例法とは

取引事例法は、別名、取引事例価額法とも呼ばれ、株式を発行する会社の株式について過去に売買があるときに、その取引価額をもとに株式価格を評価するという評価方法です。

過去に何度か売買が行われていれば、基本的に一番直近の売買の取引価額を基準として株式価格を評価することになります。

取引事例法を採用する場合の注意点

取引事例法を採用する場合には、利用する取引事例価額そのものが合理的な方法で評価されているかどうかを検討する必要があります。

また、評価時点以降の経営成績や財務状態の変動も考慮する必要があり、この場合には、他の考え方も併用して評価する必要があります。

非上場株式の評価の方法と、適正な買取価格の考え方は、次のページでご案内しています。

取引事例法による株式価格の評価に関する見解

取引事例法を採用することについては裁判例や学説で見解が出されています。

以下では、いくつかの見解を紹介します。

学説の見解

取引事例法は、対象株式の過去の取引事例を参考に、非上場株式の株式価格を評価する方法です。そこで、どの取引事例を参考にするかが問題となります。

学説では、過去の取引事例を参考にすることができるのは、その価格に客観性が認められる場合、すなわち、「ある程度の取引量があり、取引が第三者間において行われた公正な取引であって、最近の事例であること、などの採用基準を満たす場合」でなければならない(東京地方裁判所商事研究会編『類型別会社非訟』90頁(判例タイムズ社・2009年))と指摘されています。

裁判例の見解

裁判例の中には、取引事例法について言及するものがあります。

旧カネボウ各株式買取価格決定申立事件(平成20年3月14日東京地方裁判所決定)は、取引事例法の意義や使用する場合の留意点について、次の趣旨を述べています(要約)。

  • 取引事例法の意義:取引事例方式は、過去における対象会社の株式の売買実例をもとに株式価値を算定する方法であるとしています。
  • 取引事例法を使用する際の留意点:取引事例価格をもって評価額とするためには、次の3つの要件を満たす必要があるとしています。
  1. 取引事例の取引量が本件と同程度であること
  2. 取引事例の時点が本件と比較的直近であり、その間に経営、業績等に大きな変化がないこと
  3. 取引事例が独立した第三者間で行われたものであること

また、別の裁判例(非上場株式売買価格決定申立事件平成26年9月26日東京地方裁判所決定)では、取引事例法を採用する際の要件として、「比較する取引事例の、①取引量が同程度であること、②取引時点が比較的直近であり、その間に経営・業績等に大きな変化がないこと、③取引が独立した第三者間で行われ、取引件数がある程度あること」の3つをあげています。

さらに、裁判例の中には、取引事例法の採用自体を疑問視するものもあります。たとえば、非上場株式売買価格決定申立事件平成27年7月16日大阪地方裁判所決定は、「取引事例法については、そもそも、市場性のない株式の取引先例が客観的交換価値を適正に反映しているといえるかという根本的な疑問点がある。・・・したがって、取引事例法は、他の評価方法による評価額の妥当性を検証するための参考とする程度にとどめるのが相当であって、本件株式の評価方法として採用することはできないというべきである。」と指摘しています。

協議が調わない場合に裁判所に価格の決定を申し立てる手続と、その期限は、次のページでご案内しています。

まとめ

この記事では、取引事例法が非上場株式の株式価格評価の方法として妥当であるかについて検討しました。

過去の裁判例の中には取引事例法を採用することについて疑問視するものもある一方で、要件を満たした場合には適用を認めるとする見解もあり、明確に取引事例法の採用を否定するものではないと言えるでしょう。

また、学説の見解によると、要件を満たした場合には取引事例法を採用しても問題ないでしょう。

もっとも、取引事例法には留意点もあることから、単独で採用するよりも他の評価方式と併用する方がより有用であると考えられます。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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