相続税評価額と会社法上の株式の価格は違います 類似会社比較法をはじめとする株式価値評価の方法

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類似会社比較法による株式の評価に関するメインのページです。本ページは、少数株主として株式の売却を考える方に向けて、相続税の評価額と会社法上の価格との相違をご説明します。国税庁の公表資料の分析は別のページをご参照ください。

▶ 非上場株式の譲渡適正価格はいくらか 少数株主が適正価格で譲渡(売却)する方法を解説

本ページは、裁判所が用いる評価の方法、とりわけ類似会社比較法の手順、長所短所及び裁判例における取扱いという各論を扱うページです。相続税評価額と会社法上の価格とがなぜ異なるのかという総論は裁判所は相続税評価額に拘束されません 国税庁自身が「現行の評価は純資産価額の3割弱」と公表しましたに集約しています。

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会社から示された「相続税評価額」は、裁判所が決める価格ではありません

非上場株式の買取りの場面で、会社の側から「税理士に計算してもらった相続税評価額はこの金額です」「財産評価基本通達によればこうなります」という説明を受けることがあります。数字は書面になっており、専門家の名前も入っています。そのため、多くの株主の方が、これが動かしがたい価格であると受け止めてしまわれます。

しかし、相続税及び贈与税の課税のための評価額と、会社法上の「公正な価格」又は「売買価格」とは、目的も算定方法もまったく異なるものです。前者は課税のための行政庁の内部の取扱いであり、後者は裁判所が会社法の規定に基づいて決定する価格です。両者が一致しなければならない理由は、どこにもありません。

本記事では、この二つの「価格」がどう違うのか、そして裁判所が実際に用いている評価の方法、とりわけ類似会社比較法とはどのようなものかを整理いたします。裁判所への申立ての手続そのもの、及び申立ての前の交渉については、それぞれ別の記事で扱っています。

【令和8年8月20日】第5回有識者会議で示された方向性

国税庁は令和8年(2026年)4月20日から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催し、昭和39年(1964年)公表の財産評価基本通達の抜本的な見直しを検討しています。第5回会合においては「類似業種比準方式を存置することは困難ではないか」とされ、会社規模による区分を廃止して「インカムアプローチによる評価を主軸とすべき」との方向性が示されました(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料・令和8年8月20日)。なお、内容も時期も確定したものではありません。また、これは税法上の評価の見直しであって、会社法上の価格そのものを定めるものではありません。

二つの「価格」の相違は、別ページに集約しています

相続税及び贈与税のための評価額(相続税法第22条、財産評価基本通達)と、会社法上の「公正な価格」及び「売買価格」(会社法第117条第2項、第144条第2項、第182条の5第2項、第786条第2項等)とは、目的も算定方法も異なります。財産評価基本通達は国税庁長官が発した通達であって法規ではなく、裁判所を拘束するものではありません。また、国税庁が公表した資料によれば、通達による評価額は会社の実態から相当に乖離しています。この総論、すなわち二つの価格の目的の相違、通達が裁判所を拘束しないこと及び国税庁が公表した数値の内容は、裁判所は相続税評価額に拘束されません 国税庁自身が「現行の評価は純資産価額の3割弱」と公表しましたに集約していますので、そちらをご覧ください。本ページは、以下、裁判所が用いる評価の方法、とりわけ類似会社比較法の各論をご説明いたします。

裁判所が用いる評価の方法の全体像

裁判所は、事案に応じて、次の三つの系統の方法を単独で、又は併用して用いています。

収益方式(インカム・アプローチ)

将来の収益又はキャッシュ・フローを現在価値に割り引いて評価する方法です。ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法及び収益還元法がこれに当たります。会社の稼ぐ力を直接に反映する点で理論的な支持が厚く、継続企業の評価において中心的な地位を占めています。

他方、将来の事業計画をどう見積もるか、割引率をどう設定するかによって結論が大きく動くという弱点があります。

比準方式(マーケット・アプローチ)

他の会社又は他の取引と比較して評価する方法です。類似会社比較法(上場している同業他社の株価倍率を用いる方法)、類似業種比準法(財産評価基本通達第180項の方式)、取引事例法(当該株式の過去の売買実例を用いる方法)がこれに当たります。

純資産方式(コスト・アプローチ)

会社の資産及び負債を評価して、その差額を株式の価値とする方法です。時価純資産法簿価純資産法とがあります。清算を前提とする場合や、資産保有型の会社の評価において重視されます。

なお、会社法第144条第5項は、期間内に売買価格の決定の申立てがされなかったときは、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が売買価格となる旨を定めています。ここでいう1株当たり純資産額は法務省令で定める方法により算定される額であり、簿価を基礎とするものです。

併用が通例です

実務上は、裁判所が株価鑑定人(多くは株式価値評価を専門とする公認会計士)を選任し、その鑑定において複数の方式が併用されることが通例です。時価純資産法と収益還元法とを一定の比率で組み合わせるという例が多く見られます。

類似会社比較法とは、どのような方法でしょうか

類似会社比較法は、対象会社と類似する上場会社の株価を参考に、対象会社の株式の価値を評価する方法です。マルチプル法とも呼ばれます。

手順

  1. 業界、事業内容、事業規模、収益性、成長性等を考慮して、比較対象となる上場会社を複数選定いたします。
  2. 選定した上場会社について、株価と財務数値との倍率(株価収益率、株価純資産倍率、企業価値と償却前営業利益との倍率等)を算出いたします。
  3. その倍率を対象会社の財務数値に乗じて、対象会社の株式の価値を求めます。
  4. 規模の差、事業の差等について必要な調整を行います。

長所

市場が実際に付けている価格を出発点とするため、客観性が高く、将来の事業計画に依存しないという長所があります。ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法のように、当事者が作成した計画の当否を争う必要がありません。

短所

最大の弱点は、真に類似する上場会社が存在するとは限らないという点にあります。非上場会社は、上場会社と同じ事業を同じ市場で行っていれば競争において淘汰されてしまうのであって、非上場のまま存続しているということは、多くの場合、上場会社とは異なるニッチな市場において事業を確立しているということを意味いたします。事業の構造も、市場における立ち位置も、根本的に異なっているのです。

比較対象の選び方によって結論が動いてしまうため、採用する類似会社は、何でもよいというわけにはまいりません。

裁判例における取扱い

裁判例においても、類似会社比較法の採用が否定された例があります。

株式売買価格決定申立事件に関する大阪地方裁判所平成27年7月16日決定は、「類似会社比較法は、上場会社の株価と比較して非上場会社の株式を評価する方法であるから、比較対象となる上場会社を合理的な方法により選定することが最も重要であり、具体的には、業界、事業内容、事業規模、収益性、成長性等を考慮し、複数の上場会社を選定する必要がある。ところが、本件においては、対象会社について、以上のような観点に照らして類似会社比較法における比較対象として採用できるほどの類似性がある上場会社は存在しないものと認められる。したがって、本件株式の評価方法として、類似会社比較法を採用することはできない。」として、類似会社比較法の採用を否定しています。

また、株式買取価格決定申立事件に関する東京地方裁判所平成20年3月14日決定も、類似会社比準方式について、「事業内容、企業規模、収益状況などを参考に対象企業との比較に適当な上場会社を複数選択し、その純資産価格、純利益金額等を考慮して、これらの会社の株式価値と対象会社の株式価値とを比較対照して株式価値を算出する方式である」としたうえで、対象会社が事業再生の途上にあり、そのような状況にない上場会社とは経営状況が大きく異なることを理由に、「本件ではこの方式を考慮するのは相当ではない」として、その採用を否定しています。

類似会社比較法は、比較対象の選定が合理的であって初めて意味を持つ方法です。会社側の鑑定において類似会社比較法が用いられている場合には、まずどの上場会社を、どのような基準で選定したのかを確認してください。選定の合理性が崩れれば、その評価額の基礎も崩れます。

類似会社比較法と、通達の類似業種比準方式との違い

名称が似ていますので混同されがちですが、両者は別のものです。主な違いは次のとおりです。

比較の対象の選び方

類似会社比較法では、業界、事業内容、事業規模、収益性、成長性等を検討して、個別に類似する上場会社を複数選定いたします。選定の当否そのものが争点となります。

類似業種比準方式では、国税庁が公表する業種目のいずれかに対象会社を当てはめ、その業種目に属する上場会社全体の平均的な株価等(類似業種の株価、1株当たりの配当金額、年利益金額、純資産価額)を用います(財産評価基本通達第180項)。個別の会社を選ぶという作業がありません。

用いる指標

類似会社比較法では、株価収益率、株価純資産倍率、企業価値と償却前営業利益との倍率等、事案に応じた倍率を用います。

類似業種比準方式では、配当金額、利益金額、純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)の3要素を用い、それぞれの比準割合の平均を類似業種の株価に乗じます(財産評価基本通達第180項)。

しんしゃく率という調整

類似業種比準方式には、会社の規模に応じたしんしゃく率(大会社は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5)を乗じるという調整があります(財産評価基本通達第180項)。上場会社と非上場会社との差を、規模の区分によって一律に調整するという考え方です。

類似会社比較法には、このような一律の減価はありません。規模の差等は、比較対象の選定と個別の調整によって処理されます。

配当を支払っていない会社の取扱い

類似業種比準方式は3要素の一つに配当金額を用いますので、無配の会社では配当の比準割合がゼロとなり、評価額が押し下げられます。前述のとおり、評価対象会社の82.4%は直前2期に配当をまったく支払っていません(国税庁第1回有識者会議資料)。

他方、会社法上の価格の算定においては、配当を支払っていないことは、それ自体が支配株主の裁量によるものであり、株式の価値がないことを意味するものではないと考えられます。この点が、両者の結論を大きく分ける要因の一つです。

非流動性ディスカウントについて

非上場株式には市場がありませんので、換価が容易ではありません。そこで、評価額から一定の割合を減価するという主張がされることがあります。これを非流動性ディスカウント(市場性欠如による減価)と申します。会社側が20%から30%といった減価を主張してくることがあります。

反対株主の株式買取請求の場合

最高裁判所平成27年3月26日決定は、非上場会社において会社法第785条第1項に基づく株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合について、非流動性ディスカウントを行うことはできないと判断いたしました。収益還元法は将来期待される純利益を資本還元して非上場株式の価格を算定するものであって、市場における取引価格との比較という要素は含まれていないことを理由といたします。

反対株主の株式買取請求は、会社の組織の変更に反対する株主に対し、その投下資本の回収を保障するとともに、企業価値を適切に分配するための制度です。自らの意思によらずに株主の地位を失う者から、さらに市場性がないことを理由に減価することは相当でない、という趣旨と理解されます。

譲渡制限株式の売買価格の決定の場合

これに対し、最高裁判所令和5年5月24日決定は、会社法第144条第2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定について、株主が自らの意思で譲渡を望んだ事案において、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法による評価額から非流動性ディスカウントを行うことができるとしつつ、評価額の算定の過程において市場性がないことが既に十分に考慮されている場合には、更に非流動性ディスカウントを行うことは二重の減価となるから相当ではないと判断しています。

株主が自らの意思で株式を手放そうとしているのか、それとも意思によらずに退出を強いられているのか。この違いが、非流動性ディスカウントの可否を分けています。会社側から一律の減価を主張されたときは、まずご自身の事案がどちらの類型に当たるのかを確認してください。

会社が「相続税評価額」を提示してきたときの反論の組み立て方

  1. それが何のための評価であるかを確認いたします。相続税又は贈与税の申告のために作成された評価明細書であれば、その目的は課税です。
  2. 通達は裁判所を拘束しない旨を指摘いたします。会社法第144条第3項は「一切の事情」の考慮を命じていますが、通達に従うことは命じていません。
  3. 配当還元方式が用いられていないかを確認いたします。同族株主以外の株主等が取得した株式については配当還元方式によるとされていますが(財産評価基本通達第188項、第188項の2)、これは課税上の特例的な取扱いであって、会社法上の価格とは無関係です。無配の会社では極めて低い金額となります。
  4. 収益方式及び時価純資産方式による試算を用意いたします。会社の実際の利益水準と保有資産の含み益を示すことにより、通達による評価額との乖離を明らかにいたします。
  5. 計算の基礎となった資料の開示を求めます。計算書類等の閲覧謄写請求(会社法第442条第3項)及び会計帳簿の閲覧謄写請求(会社法第433条第1項)を用います。

税法上の評価も、見直されようとしています

前述のとおり、国税庁は令和8年4月20日から有識者会議を開催し、財産評価基本通達の抜本的な見直しを検討しています。第5回会合(令和8年8月20日)では、類似業種比準方式を存置することは困難ではないかとされ、会社規模による区分を廃止してインカムアプローチによる評価を主軸とすべきとの方向性が示されました。

これは税法上の評価の見直しです。会社法上の価格を直接に定めるものではありません。もっとも、税法上の評価がインカムアプローチを主軸とする方向に動くのであれば、裁判所が用いる収益方式との距離は、現在よりも縮まる可能性があります。「税務上はこの金額です」という説明が持っていた説得力は、今後さらに弱まっていくものと考えられます。

なお、内容も時期も確定したものではありません。今後の議論の推移を要確認といたします。

よくあるご質問

会社が示した相続税評価額よりも高い価格を求めることはできますか

できます。相続税評価額は課税のための評価額であり、裁判所が決定する価格とは別のものです。裁判所は、譲渡等承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を決定いたします(会社法第144条第3項)。

類似会社比較法は、株主にとって有利な方法ですか

一概には申し上げられません。比較対象として選ばれた上場会社の株価水準が高ければ有利に働きますし、対象会社が事業再生の途上にある等の事情があれば、そもそも採用が否定されることもあります(東京地方裁判所平成20年3月14日決定)。重要なのは、比較対象の選定が合理的であるかどうかです。

会社は「配当をしていないから価値がない」と言っています

配当をするかどうかは、支配株主が決めることです。無配であることが評価額を押し下げるのは、配当を3要素の一つとする類似業種比準方式の構造によるものであり、会社法上の価格の算定において当然に妥当するものではありません。国税庁の資料によれば、評価対象会社の82.4%が直前2期に無配であり、この点は通達の見直しの論点そのものとなっています。

非流動性ディスカウントを主張されました。応じなければなりませんか

事案の類型によります。反対株主の株式買取請求において収益還元法が用いられた場合には、非流動性ディスカウントを行うことは相当でないとされています(最高裁判所平成27年3月26日決定)。譲渡制限株式の売買価格の決定の場合には減価が認められ得ますが、算定の過程で市場性の欠如が既に考慮されているときに更に減価することは二重の減価として否定されています(最高裁判所令和5年5月24日決定)。

どの評価方法を選ぶかは、誰が決めるのですか

最終的には裁判所が決定いたします。実務上は、裁判所が選任した株価鑑定人の鑑定が基礎となりますが、当事者はその前提となる事実、選定された比較対象、割引率等について意見を述べ、争うことができます。鑑定が出てから争うのでは遅い場面がありますので、鑑定に入る前の主張と資料の提出が重要です。

おわりに

「税理士が計算した相続税評価額です」。この一言で、多くの株主の方が交渉を諦めてしまわれます。会社の側は、そのことをよく知っています。

しかし、財産評価基本通達は課税のための行政庁内部の取扱いであって、裁判所を拘束するものではありません。裁判所は、会社法第144条第3項に従い、会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を決定いたします。用いられるのは収益方式、比準方式、純資産方式であり、類似会社比較法もその一つですが、比較対象の選定が合理的でなければ採用は否定されます。

そして、いま税法上の評価それ自体が見直しの局面にあります。国税庁自身が、通達による評価が純資産価額の3割弱にとどまることを公表いたしました。会社が示す「税務上の評価額」を、そのまま出発点にしてはなりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所は、非上場株式の少数株主の皆様の側に立って、評価方法の検討、会社に対する株式買取請求、価格の交渉及び裁判所への申立てを取り扱ってまいりました。会社から示された書面をお持ちください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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出典

  • 会社法(第116条、第117条、第144条、第172条、第179条の8、第182条の4、第182条の5、第433条、第442条、第785条、第786条)
  • 相続税法(第22条)
  • 国家行政組織法(第14条第2項)
  • 財産評価基本通達(第178項、第179項、第180項、第185項、第188項、第188項の2)
  • 最高裁判所平成27年3月26日決定(収益還元法による評価額からの非流動性ディスカウントの可否)
  • 最高裁判所令和5年5月24日決定(譲渡制限株式の売買価格の決定における非流動性ディスカウント)
  • 大阪地方裁判所平成27年7月16日決定(類似会社比較法の採用の可否)
  • 東京地方裁判所平成20年3月14日決定(類似会社比準方式の採用の可否)
  • 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
  • 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)

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