取引先として持ち合いにより取得した非上場株式を手放す方法 法人が採る手順

この記事の位置付け

同じ非上場株式の売却であっても、取得の経緯と株主の属性により、判断の分かれ目となる論点は異なりますので、次のとおり整理しています。

本記事は、取得の経緯が事業上の関係にある場合に固有の事情に絞って述べます。売却の方法の総論、第三者を探す方法、承認請求の手順の詳細及び税金の解説は、上記の各ページに整理しています。

取引の開始に際して相手方の株式を引き受け、そのまま数十年を経過している会社は少なくありません。取引の関係は既に縮小し、又は終了しているにもかかわらず、株式だけが貸借対照表に残り、配当も情報も入ってこないという状態です。担当者は何代も交代し、なぜ引き受けたのかを知る者が社内にいないという例も多く見られます。

本記事は、そのような株式を保有している法人、すなわち取引先として持ち合いにより非上場株式を取得した会社の経営者又は担当者に向けたものです。当サイトの記事の多くは、相続又は退職により株式を取得した個人の少数株主を読者として想定していますが、本記事の読者は個人ではなく法人です。株主が法人であること、取得の経緯が事業上の関係にあること、そして相手方も自社の株式を保有している場合があることの3点が、交渉の組立てを大きく変えます。

結論から申し上げます。持ち合いにより取得した株式についても、手放すために用いる会社法上の手続そのものは、相続又は退職により取得した株式と同一です。異なるのは、手続に入る前の交渉の設計です。相互に保有している場合には、双方の解消を1つの合意にまとめる進め方が有効な場合があります。取引の関係への影響を懸念して切り出せずにいる時間が長引くほど、経緯を知る者は減り、資料は失われ、説明はかえって難しくなります。

目次
  1. 持ち合いにより取得した株式が動かなくなる理由
    1. 取得の経緯が事業上の関係にあること
    2. 議事録その他の記録が残っていないこと
    3. 担当者が交代し経緯を知る者がいないこと
    4. 取引の関係への影響を懸念して切り出せないこと
  2. まず確かめる4つの事項
    1. 現に何株を保有しているか
    2. 相手方が自社の株式を何株保有しているか
    3. 取得の経緯を示す記録の有無
    4. 定款における譲渡制限の定めの有無
  3. 相互に保有している場合の進め方
    1. 双方の解消を1つの合意にまとめる考え方
    2. 双方の株式の価格をどのように定めるか
    3. 同時に履行することの意味
    4. 取引の関係の取扱いを合意に含めるかどうか
  4. 相手方が応じない場合に採り得る手続
    1. まず相対の申入れを書面により行う
    2. 株式譲渡承認請求により譲渡を試みる
    3. 売買価格の決定の申立てにおける期間の制限
    4. 株主として行使することができる権利
  5. 法人が株主である場合に固有の留意点
    1. 帳簿価額と時価との差が損益に与える影響
    2. 取締役の善管注意義務との関係で記録を残すこと
    3. 議決権の行使をどう扱ってきたかの整理
    4. 確かめるべき相手
  6. 取引の関係への影響をどう抑えるか
    1. 交渉の窓口を分けること
    2. 書面によるやり取りに統一すること
    3. 取引の条件と株式の価格を切り離すこと
    4. してはならない4つの対応
  7. よくあるご質問
    1. 取引が既に完全に終了している場合でも、売却を申し入れてよいのでしょうか
    2. 相手方が自社の株式を保有していない場合には、どのように進めればよいでしょうか
    3. 株券が見つからない場合には、売却をすることができないのでしょうか
    4. 取得の経緯が全く分からない場合はどうすればよいでしょうか
    5. いつまでに動かなければならないという期限はあるのでしょうか
    6. 相手方が価格の協議に一切応じない場合はどうなりますか
    7. 売却により多額の利益が計上される見込みですが、進めてよいのでしょうか
  8. まとめ

持ち合いにより取得した株式が動かなくなる理由

持ち合いにより取得した株式は、相続又は退職により取得した株式とは異なる理由で動かなくなります。相続の場合には、遺産分割や納税資金の必要という形で、株主の側に動かす契機が生じます。退職の場合には、退職という出来事そのものが清算の機会となります。これに対し、事業上の関係により取得した株式には、そのような契機が外から与えられません。取引が細くなっても、株式はそのまま残り続けます。

取得の経緯 交渉の出発点 相手方の動機 用いる手続の違い
相続により取得 遺産分割及び納税資金の必要が、株主の側の契機となります 株式が更に分散することを避けたいという動機があります 相続人等に対する売渡しの請求を受ける場面が生じ得ます
退職に伴い取得又は保有 退職という出来事そのものが清算の機会となります 退職者に株式を残したくないという動機があります 在職中の合意の有無が、価格の交渉の前提となります
事業上の関係により取得(本記事) 外から与えられる契機がなく、自社の判断により動かす必要があります 自社の株式が外部へ流出することを避けたいという動機があります 相互に保有している場合には、双方の解消を1つの合意にまとめる方法を用い得ます

取得の経緯が事業上の関係にあること

株式を引き受けた目的が、投資による収益ではなく、取引の関係の安定にあった点が第一の特徴です。当時は、相互に株式を保有することが取引の継続を担保する意味を持っていました。目的が事業上のものであった以上、その目的が失われたときには保有を続ける理由もなくなります。ところが、保有を始めた理由が投資でなかったために、社内には保有の当否を定期的に見直す仕組みが置かれていないことが通例です。誰も担当していない資産は、誰も動かしません。

議事録その他の記録が残っていないこと

取得が数十年前である場合、取締役会の議事録、株式の引受けに関する契約書、払込みを証する書類のいずれもが見当たらないことがあります。株主名簿に記載があるかどうかも確かめられていない例があります。記録がないこと自体は権利の喪失を意味しませんが、相手方に申し入れる際の説明の力を弱めます。何株を、いつ、いくらで、どのような約束の下に引き受けたのかを示せない状態では、価格の交渉に入る前の段階で足踏みをすることになります。

担当者が交代し経緯を知る者がいないこと

引受けを決めた当時の役員も担当者も既に退任しており、経緯を語ることができる者が社内にいないという事情が重なります。現任の担当者にとって、自分が始めたわけではない案件を動かすことには心理的な負担が伴います。動かして取引に支障が生じた場合の責任を懸念し、前任者の判断をそのまま引き継ぐという選択が繰り返されます。その結果、保有の期間だけが延びていきます。

取引の関係への影響を懸念して切り出せないこと

最も大きい要因がこれです。売却を申し入れること自体が、相手方に対して取引の関係を見直す意思表示と受け取られかねないという懸念です。この懸念には相応の根拠があります。もっとも、懸念があるからといって何もしないという選択には、後述するとおり、取締役の職務との関係で別の説明の負担が生じます。懸念を理由に止めるのではなく、懸念を前提として交渉の順序を設計することが求められます。当事務所の取扱いの内容及び進め方は、譲渡の承認が得られずお困りの方々へのご案内のページに整理しています。

まず確かめる4つの事項

相手方に何かを申し入れる前に、自社の側で確かめておく事項が4つあります。いずれも社内又は相手方の会社に対する請求により確かめることができるものであり、この段階では相手方の経営陣との交渉を要しません。順序としては、この4つを固めてから申入れに進みます。準備をしないまま申し入れますと、相手方から株数や経緯について問われた際に答えられず、その後の交渉全体の主導権を失います。

現に何株を保有しているか

自社の帳簿における有価証券の明細と、相手方の株主名簿の記載とを照合します。株主名簿の記載事項については、株主は会社に対して閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第125条第2項)。両者が食い違う例は珍しくありません。増資、株式の分割、株式の併合が行われていた場合、自社の帳簿が更新されていないことがあります。あわせて、相手方の発行済株式総数を確認し、自社の持株比率を算出します。持株比率は、後述する少数株主権の行使の可否を左右します。

相手方が自社の株式を何株保有しているか

自社の株主名簿を確認します。相互に保有している場合には、交渉の組立てが大きく変わりますので、この確認を欠かすことはできません。自社の側の株主名簿は自社で管理していますので、直ちに確認することができます。相手方が自社の株式を保有していない場合には、後述する相互解消の方法は用いることができず、通常の売却として進めることになります。

取得の経緯を示す記録の有無

取締役会の議事録、株式の引受けに関する契約書、払込金の受領証、当時の稟議書、株券そのものの所在を社内で探します。株券発行会社であるかどうかは、相手方の定款又は登記事項証明書により確認します。株券が発行されている会社である場合、株券の所在は譲渡の実行に直接影響しますので、早い段階で確かめる必要があります。株券が見当たらない場合の取扱いは、後述します。

定款における譲渡制限の定めの有無

非上場会社の多くは、株式の譲渡について会社の承認を要する旨を定款に定めています(会社法第107条第1項第1号)。株式の譲渡は本来自由ですが(会社法第127条)、この定めがある場合には、譲渡の実行に会社の承認という手順が加わります。定款は相手方に交付を求めるほか、登記事項証明書によっても譲渡制限の定めの有無を確認することができます。計算書類等の閲覧を請求する権利もあります(会社法第442条第3項)。

確かめる事項 確かめる方法 確かめられない場合の対応
自社の保有株数と持株比率 自社の有価証券明細、相手方の株主名簿(会社法第125条第2項) 株主名簿の閲覧を書面により請求します
相手方が保有する自社の株式数 自社の株主名簿 名義書換えの経過を管理部門に確認します
取得の経緯を示す記録 取締役会議事録、引受契約書、稟議書、株券 記録がない旨を確認した経過自体を記録に残します
譲渡制限の定めの有無 相手方の定款、登記事項証明書 登記事項証明書により定めの有無のみを確認します

相互に保有している場合の進め方

自社が相手方の株式を保有し、相手方も自社の株式を保有しているという状態は、交渉においては不利な事情ではありません。むしろ、双方に解消の動機があるという意味で、交渉を成立させやすい事情です。相手方もまた、収益を生まない資産を保有し続けることについて、自社と同じ説明の負担を負っているからです。

双方の解消を1つの合意にまとめる考え方

自社が保有する相手方の株式を相手方又は相手方が指定する者に譲渡し、同時に、相手方が保有する自社の株式を自社又は自社が指定する者に譲渡するという内容を、1つの合意書にまとめます。この組立ての利点は、一方だけが売却を求めるという構図を避けられる点にあります。売却の申入れが取引の関係の見直しと受け取られる懸念は、双方が同じ立場に立つことにより相当に軽減されます。相手方の側にも、自社の株式が外部に流出することを防ぐという利益があります。

双方の株式の価格をどのように定めるか

2社の株式の価格は、それぞれ独立に算定します。相互の解消であるからといって、双方の代金を等しいものとして扱う理由はありません。非上場株式の価格の算定には、純資産価額方式、収益還元方式、配当還元方式、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)といった方法があり、事案に応じて併用され、又は加重平均されます。DCF法は、将来生み出されると見込まれる資金の流れを現在の価値に割り引いて評価する方法です。いずれの方法を用いるかにより価格は大きく変わりますので、算定の前提となる資料の範囲を双方で確認しておくことが有益です。相続税評価額は課税のための評価額であり、当事者間の売買価格を定めるための基準ではありません。

同時に履行することの意味

双方の株式の引渡し及び代金の支払を同時に行う旨を定めますと、一方だけが履行して他方が履行しないという事態を避けることができます。代金の額に差がある場合には、差額のみを一方から他方へ支払う方法を用いることがあります。名義書換えの手続についても、双方が協力する義務を明記します。株券発行会社である場合には、株券の交付が譲渡の効力に関わりますので、株券の授受を履行の内容に含めます。

取引の関係の取扱いを合意に含めるかどうか

株式の解消と取引の関係とを、同じ合意書の中で扱うかどうかは、事案により判断が分かれます。取引が現に継続している場合には、株式の解消が取引の終了を意味するものではない旨を確認する条項を置くことが考えられます。他方、取引の条件そのものを株式の価格と結び付けて交渉することは避けるべきです。この点は後述します。

合意書に定める事項 記載の要点
双方の株式の特定 発行会社、種類、株数、株券の有無を双方について記載します
価格 2社の株式の価格をそれぞれ独立に記載し、算定の前提とした資料を確認します
支払及び引渡しの時期 同時に履行する旨、株券発行会社である場合の株券の授受を定めます
名義書換えの協力 双方が承認の手続及び名義書換えに協力する義務を定めます
取引の関係の取扱い 取引が継続する場合には、その旨を確認する条項を置くかどうかを検討します
公表の可否 合意の内容を第三者に開示しない旨、及び例外となる場合を定めます

相手方が応じない場合に採り得る手続

相対の申入れに相手方が応じない場合には、会社法上の手続に進むことを検討します。ここで押さえるべき点は、順序と期限です。いきなり法的な手続から入ることは、取引の関係への影響という観点から得策ではありません。他方、期限のある手続が含まれますので、いつまでも相対の交渉を続けるという判断も適切ではありません。

まず相対の申入れを書面により行う

最初に行うのは、相手方の会社に対する書面による申入れです。内容としては、自社が保有する株数、取得の経緯として把握している事実、保有を継続する事業上の理由が失われている旨、及び買取り又は譲渡先の指定について協議を求める旨を記載します。この段階では価格を提示しません。先に価格を提示しますと、その額が上限として扱われます。回答の期限を設けることは有益ですが、期限は相手方の社内における検討の期間を見込んだものとします。

株式譲渡承認請求により譲渡を試みる

協議が進まない場合には、株式譲渡承認請求を行います(会社法第136条、第138条)。譲渡の相手方を明示して、会社に対して承認を求める手続です。会社は請求の日から2週間以内に承認をするかどうかの決定を通知しなければならず、この通知がない場合には承認をしたものとみなされます(会社法第139条第2項、第145条第1号)。会社が承認をしない場合には、会社又は会社が指定する指定買取人が買い取ることになります(会社法第140条)。手順、記載事項及び期限の詳細は、前掲の株式譲渡承認請求の記事に整理していますので、そちらをご覧ください。

売買価格の決定の申立てにおける期間の制限

会社又は指定買取人から買取りの通知を受けた後、価格については当事者間で協議します。協議が調わない場合には、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます。この申立ては、買取りの通知を受けた日から20日以内に行わなければなりません(会社法第144条第2項)。20日を経過しますと、会社が供託した額により価格が確定します。裁判所は、譲渡等承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めます(会社法第144条第3項)。20日という期間は短く、社内の決裁を経る必要がある法人にとっては特に短いものです。承認請求を行う前の段階で、申立てを行うかどうかの判断の枠組みと決裁の道筋を社内で決めておくことをお勧めします。手続の見通しと要する期間については、譲渡制限のある株式を売却したいのに承認が得られずお困りではありませんかもあわせてご覧ください。

株主として行使することができる権利

会社が買取義務を負うのは、譲渡承認請求に対して承認をしなかった場合等に限られます。会社に対して一般的に株式の買取りを求める権利があるわけではありません。もっとも、株主としての権利を行使することにより、価格の算定に必要な情報を得ることができます。総株主の議決権の100分の3以上又は発行済株式の100分の3以上を有する株主は、会計帳簿及びこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。3%に満たない場合であっても、計算書類等の閲覧を請求することはできます(会社法第442条第3項)。法人が株主である場合、持ち合いの経緯から相当数の株式を保有していることがあり、この要件を満たす例が個人株主より多く見られます。

法人が株主である場合に固有の留意点

株主が法人であることにより、個人株主にはない考慮が必要となります。会計上の処理、取締役の職務、議決権の取扱いの3点です。いずれも、売却の可否そのものではなく、売却の判断をどのように行い、どのように記録に残すかという問題です。

帳簿価額と時価との差が損益に与える影響

取引先の非上場株式は、その他有価証券として保有されていることが通例です。市場価格のない株式については、取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いが一般的であり、そのため、数十年前の取得価額のまま計上されている例が多く見られます。発行会社の財政状態が著しく悪化し、実質価額が著しく低下したときには、減損の処理を要する場合があります。売却をしたときには、売却価額と帳簿価額との差額が損益として計上され、法人税の課税所得にも影響します。帳簿価額が低いまま長期間据え置かれている場合、売却により相当額の利益が計上されることがありますので、計上の時期を含めて事前に見込みを立てておく必要があります。会計上及び税務上の具体的な取扱いは、適用される基準及び個別の事情により異なりますので、必ず税理士及び会計監査人に確かめてください。

取締役の善管注意義務との関係で記録を残すこと

取締役は、会社に対して善良な管理者の注意をもって職務を行う義務を負います(会社法第330条、民法第644条)。収益を生まず、事業上の目的も失われた資産を長期にわたり保有し続けることについては、なぜ保有を継続するのかという説明が求められ得ます。逆に、売却をする場合には、なぜその価格で売却したのかという説明が求められます。いずれの方向についても、判断の過程を記録に残しておくことが重要です。売却の判断が取引の関係に影響し得るという事情は、判断を先送りする理由にはなりますが、記録を残さない理由にはなりません。むしろ、取引の関係への影響を検討した上で、なお売却が相当であると判断した経過を残しておくことが、後の説明を容易にします。

議決権の行使をどう扱ってきたかの整理

これまで相手方の株主総会において議決権をどのように行使してきたかを整理します。招集通知が届いていたか、出席していたか、白紙で委任していたかといった事実は、保有の実態を示すものとして交渉の前提になります。なお、相互に株式を保有している場合には、一方が他方の議決権の一定割合以上を保有するなど、経営を実質的に支配することが可能な関係にあると認められるときに、他方が保有する株式について議決権を行使することができないという制度があります(会社法第308条第1項)。適用の有無は保有の割合その他の事情により定まりますので、自社の事案に当てはまるかどうかは、個別に確認を要します。

確かめるべき相手

社内では、経理部門に対して帳簿価額と取得の時期を、法務部門又は総務部門に対して株券及び議事録の所在を、営業部門に対して取引の現状を確かめます。社外では、税理士に対して売却に伴う損益と課税の見込みを、会計監査人がある場合には評価及び開示の取扱いを確かめます。これらの確認の結果は、後の説明のために書面にまとめておきます。

社内に残す記録 記載する内容
取締役会その他の決定の記録 保有を継続し又は売却する判断の理由、検討した選択肢、決定の日
価格の根拠 用いた算定の方法、前提とした資料、相手方との協議の経過
専門家の意見 税理士、会計監査人、弁護士から受けた助言の内容と日付
取引への影響の検討 取引の現状、影響の見込み、影響を抑えるために採った措置

取引の関係への影響をどう抑えるか

売却の申入れが取引の関係に影響し得ることは事実です。影響を皆無にすることはできませんが、抑えるための方法はあります。要点は、株式に関する話と取引に関する話とを、担当者、経路、書面のいずれにおいても分けることです。

交渉の窓口を分けること

株式に関する連絡は、営業の担当者ではなく、法務、総務又は経営企画の担当者が行います。営業の担当者が株式の話を持ち出しますと、相手方は取引の条件に関する交渉の一部として受け取ります。窓口を分けておきますと、株式の交渉が停滞している間も、取引の関係は従前どおり継続しているという状態を保ちやすくなります。相手方に対しても、窓口を分けている旨を最初の申入れの中で明らかにしておくことが有益です。

書面によるやり取りに統一すること

申入れ、回答、価格の提示のいずれについても、書面により行います。口頭のやり取りは、後に内容が争われるだけでなく、社内の記録としても残りません。書面は、相手方の会社に宛てて発します。担当者個人宛てとしますと、社内で共有されないまま止まることがあります。往復の書面は日付とともに保存し、後の説明の資料とします。

取引の条件と株式の価格を切り離すこと

取引の条件を株式の価格の交渉に持ち込むことは避けてください。取引を継続することと引換えに高い価格を求める、あるいは価格に応じなければ取引を見直すといった交渉は、取引の関係を人質に取るものと受け取られ、その後の関係の修復を著しく困難にします。優越的な地位にある側がこれを行った場合には、別途の法的な問題を生じる余地もあります。株式の価格は、株式の価値により定まるものであるという立場を一貫させることが、結果として交渉を早く進めます。

してはならない4つの対応

第一に、相手方の担当者に対して口頭で打診し、記録を残さないまま様子を見ることです。社内にも相手方にも記録が残らず、後に何も進みません。第二に、先に価格を提示することです。提示した額が上限として扱われます。第三に、承認請求の後の20日の期間を意識しないまま協議を続けることです。期間を徒過しますと、会社が供託した額で価格が確定します。第四に、取引の担当者を通じて株式の話を進めることです。取引と株式が結び付いた交渉となり、双方にとって扱いにくい状況を作ります。

よくあるご質問

取引先として持ち合いにより取得した株式について、法人の担当者の方から実際にお受けすることの多い質問を整理しました。個別の事案における結論は、保有の割合、定款の定め、取引の現状その他の事情により異なります。

取引が既に完全に終了している場合でも、売却を申し入れてよいのでしょうか

差し支えありません。取引が終了しているのであれば、株式を保有する事業上の理由も失われています。むしろ、取引が終了している場合の方が、申入れが取引に影響するという懸念は小さく、交渉を進めやすい状況にあります。取引が終了した時期と、株式を保有し続けてきた期間を整理した上で、書面により申し入れてください。

相手方が自社の株式を保有していない場合には、どのように進めればよいでしょうか

相互解消という組立てを用いることができませんので、自社が保有する株式を一方的に手放す交渉となります。この場合には、相手方に買取りの動機を持たせる要素を探すことになります。株式が第三者に移転する可能性があること、株主として権利を行使し得る立場にあることは、相手方にとって考慮すべき事情です。ただし、これらを威圧的に用いることは避けてください。

株券が見つからない場合には、売却をすることができないのでしょうか

まず、相手方が株券発行会社であるかどうかを定款又は登記事項証明書により確認してください。株券を発行しない会社であれば、株券の所在は問題になりません。株券発行会社である場合には、株券の所在を社内で探し、見つからないときは、株券喪失登録の制度を用いるなどの対応を検討することになります。この場合、登録から一定の期間の経過を要しますので、時間の余裕を見込んで早めに着手してください。

取得の経緯が全く分からない場合はどうすればよいでしょうか

経緯が分からないことは、株主としての権利に影響しません。株主名簿に株主として記載されていること、又は株券を所持していることが、まず確認すべき事実です。経緯を示す記録が社内に存在しないことを確認した経過そのものを記録に残した上で、株主名簿の記載を根拠として申し入れてください。相手方の側に当時の記録が残っていることもあります。

いつまでに動かなければならないという期限はあるのでしょうか

相対の申入れそのものに期限はありません。期限があるのは、株式譲渡承認請求を行った後の手続です。会社が承認をせず買取りの通知がされた場合、売買価格の決定の申立ては、通知を受けた日から20日以内に行わなければなりません(会社法第144条第2項)。法人の場合、社内の決裁に時間を要しますので、承認請求を行う前に、申立てを行う場合の決裁の道筋を定めておいてください。

相手方が価格の協議に一切応じない場合はどうなりますか

協議が調わないまま20日の期間内に売買価格の決定の申立てを行えば、裁判所が価格を定めます。裁判所は、承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮します(会社法第144条第3項)。相手方が協議に応じないことをもって、自社が不利益を受けるわけではありません。もっとも、申立てには資料の準備を要しますので、協議と並行して準備を進めておくことが安全です。

売却により多額の利益が計上される見込みですが、進めてよいのでしょうか

利益が計上されること自体は、売却を控える理由にはなりません。帳簿価額が低いまま据え置かれてきた結果であり、資産の実態が損益に反映されるにすぎません。ただし、計上の時期は当期の業績に影響しますので、税理士に見込みを確認した上で、売却の時期を判断してください。会計上及び税務上の取扱いは、必ず税理士に確かめてください。

まとめ

取引先として持ち合いにより取得した非上場株式についても、手放すために用いる会社法上の手続は、相続又は退職により取得した株式と同一です。異なるのは、手続に入る前の交渉の設計です。取得の経緯が事業上の関係にあること、株主が法人であること、相互に保有している場合があることの3点が、交渉の組立てを変えます。

進め方の要点は次のとおりです。第一に、保有株数、相手方が保有する自社の株式数、取得の経緯を示す記録、定款の譲渡制限の定めの4点を先に確かめます。第二に、相互に保有している場合には、双方の解消を1つの合意にまとめる方法を検討します。第三に、いきなり法的な手続に入らず、まず書面により相対の申入れを行います。第四に、それでも進まない場合には株式譲渡承認請求に進み、20日という期間の制限を意識して社内の決裁の道筋を先に定めておきます。第五に、株式の話と取引の話を、担当者、経路、書面のいずれにおいても分けます。

取引の関係への影響を懸念して判断を先送りしている間にも、経緯を知る者は減り、資料は失われていきます。取締役の職務との関係では、保有を続けることについても、売却をすることについても、判断の過程を記録に残しておくことが求められます。持ち合いの解消を検討しておられる法人のご担当者は、事実関係と資料の所在を整理した上で、早い段階で譲渡の承認が得られずお困りの方々へのご案内のページよりご相談ください。

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