新株を発行されて持株比率を下げられそうなとき 新株発行の差止めの仮処分と新株発行無効の訴えの進め方

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会社が新株を発行して株主の持株比率を下げようとしている場合、又は既に発行してしまった場合に、株主が採ることのできる手続(新株発行の差止め及び新株発行無効の訴え)に関するメインのページです。発行された後に、取締役等に対して損害賠償を請求する方法は、次のページで解説しています。
▶ 新株式発行により持株比率を低下させられた!株主損害賠償請求訴訟の方法!
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経営者の側から「増資をする」と告げられたとき、あるいは登記を確認したら発行済株式の総数が増えていたとき、ご自身の持株比率がどれだけ下がるのかを、まず計算してみてください。持株比率は、株主として行使できる権利の範囲を決めるものであり、会社に株式の買取りを求める交渉においても、その重みを左右します。
新株の発行は、会社の資金調達の手段として法律が認めたものです。しかし、資金を調達する必要がないのに、特定の株主の影響力を弱めるために行われる発行や、法律が定める手続を踏まない発行に対しては、株主の側から争う手続が用意されています。本ページでは、発行される前に止める手続と、発行された後にその効力を争う手続とを、期限とともに整理します。
新株の発行によって、株主の立場はどのように変わるのか
持株比率が下がると、行使できる権利が変わります
会社法は、株主が行使できる権利の多くについて、議決権又は株式の割合による要件を定めています。たとえば、総株主の議決権の3パーセント以上を有する株主には、会計帳簿の閲覧及び謄写の請求(会社法第433条第1項)や、株主総会の招集の請求(会社法第297条第1項)が認められています。また、議決権の3分の1を超える議決権を有していれば、定款の変更、合併、事業の譲渡など、株主総会の特別決議を要する議案を単独で否決することができます(会社法第309条第2項)。
新株が第三者に発行されると、これらの基準を下回ることがあります。発行の前後でご自身の議決権の割合がどの基準をまたぐのかを確認することが、争うかどうかを判断する出発点になります。
払込金額が低いと、1株当たりの価値も下がります
持株比率だけではなく、払込金額の水準も問題となります。会社の実際の価値に比べて低い金額で新株が発行されると、1株当たりの純資産は薄まり、既存の株主が保有する株式の価値が下がります。後に会社との間で株式の買取りの価格を協議する際にも、その影響が及びます。
公開会社でない会社では、新株の発行に株主総会の特別決議が必要です
募集事項は、株主総会で決めるのが原則です
定款で株式の譲渡に会社の承認を要すると定めている会社(会社法上の「公開会社でない株式会社」)では、新株を発行する際の募集事項(発行する株式の数、払込金額、払込期日等)は、株主総会の特別決議によって決定しなければなりません(会社法第199条第1項、第2項、第309条第2項第5号)。株主総会の特別決議によって、募集事項の決定を取締役又は取締役会に委任することはできますが、その委任には発行する株式の数の上限と払込金額の下限を定める必要があり、効力は1年以内に払込期日が到来するものに限られます(会社法第200条第1項、第3項)。
つまり、公開会社でない会社では、第三者に対する新株の発行は、原則として株主総会での審議を経なければ行うことができません。招集の通知が届いていれば、発行に反対する機会があるはずです。招集の通知が届かないまま決議がされていた場合については、株主総会の招集通知が届かないまま決議がされていたときをご覧ください。
株主に持株数に応じて割り当てる方法であれば、比率は変わりません
株主に対し、その有する株式の数に応じて新株の割当てを受ける権利を与える方法(会社法第202条)であれば、全員が引き受ける限り、持株比率は変わりません。ただし、資金を用意できずに引き受けなかった株主の比率は下がります。このような方法が採られた場合には、払込金額の水準と、引き受けることができる期間が十分に確保されているかを確認します。
公開会社の場合は、取締役会の決議で発行できます
株式の譲渡を制限していない公開会社では、募集事項は原則として取締役会の決議で決定します(会社法第201条第1項)。その代わりに、会社は払込期日の2週間前までに、募集事項を株主に通知し、又は公告しなければなりません(会社法第201条第3項、第4項)。払込金額が引受人に特に有利な金額である場合には、公開会社であっても株主総会の特別決議が必要です(会社法第199条第3項、第201条第1項)。
発行される前であれば、差止めを求めることができます
差止めの理由は、法令又は定款の違反と、著しく不公正な方法の2つです
株主は、新株の発行が法令又は定款に違反する場合、又は著しく不公正な方法により行われる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、会社に対し、その発行をやめることを請求することができます(会社法第210条)。必要な株主総会の決議を欠く場合や、特に有利な払込金額であるのに株主総会の特別決議を経ていない場合は、法令の違反に当たります。
著しく不公正な方法による発行とは
手続の外形が整っていても、資金調達の必要性よりも、特定の株主の持株比率を下げて経営者の支配を維持することを主要な目的とする発行は、著しく不公正な方法による発行に当たると判断されることがあります。裁判例は、資金調達の必要性の有無、調達する資金の使途、発行の時期(株主との対立が生じた直後かどうか)、割当先と経営者との関係などを総合して判断しています。
そのため、差止めを求める側では、会社の資金繰りや借入れの状況、発行に先立つ経営者との対立の経過、割当先が経営者の親族や関係会社であるかどうかといった事情を、具体的な資料によって示すことが必要となります。
実際には、仮処分の申立てによって行います
新株の発行は、払込期日(又は払込期間)に効力が生じます(会社法第209条第1項)。効力が生じた後は差止めを求めることができなくなるため、通常の訴訟では間に合いません。実務では、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所に、新株の発行を仮に差し止める仮処分を申し立てます(民事保全法第23条第2項)。払込期日までの限られた日数の中で、申立書と疎明資料を用意し、審尋に臨むことになります。仮処分の命令を得るためには、担保(保証金)の提供を求められることが通常です。
仮処分の命令に違反して発行された新株は、無効となります
新株の発行を差し止める仮処分の命令があるにもかかわらず、会社がこれに違反して新株を発行した場合には、そのことが新株発行の無効原因となるとした最高裁判所の判例があります(最高裁判所平成5年12月16日判決)。仮処分を得ておくことは、発行を事実上止めるだけでなく、後に効力を争う根拠を確保する意味も持ちます。
発行された後は、新株発行無効の訴えによります
提訴期間は、公開会社でない会社では効力が生じた日から1年です
新株の発行の無効は、訴えをもってのみ主張することができます(会社法第828条第1項第2号)。訴えを提起できるのは株主、取締役、監査役等であり(同条第2項第2号)、被告は会社です(会社法第834条第2号)。提訴期間は、株式の発行の効力が生じた日から6か月以内、公開会社でない会社では1年以内です(会社法第828条第1項第2号)。この期間を過ぎると、無効を主張することはできなくなります。
無効原因は、限られた場合に認められます
新株が発行されると、その株式は譲渡され、新たな株主によって議決権が行使されていきます。そのため、取引の安全を確保する観点から、新株発行の無効原因は、重大な法令又は定款の違反がある場合に限って認められると解されています。
株主総会の特別決議を欠く発行は、無効原因となります
公開会社でない会社において、株主総会の特別決議を経ないまま、株主に割り当てる方法以外の方法で新株が発行された場合、その発行手続には重大な法令違反があり、この瑕疵は新株発行の無効原因になるとした最高裁判所の判例があります(最高裁判所平成24年4月24日判決)。公開会社でない会社の株主にとって、株主総会の決議の有無は、発行の効力を争う際の中心的な論点となります。
判決の効力は、将来に向かって生じます
新株の発行を無効とする判決が確定すると、その判決は訴訟の当事者以外の者にも効力を有します(会社法第838条)。ただし、無効となった株式は、判決が確定した時から将来に向かって効力を失うものとされ(会社法第839条)、会社は株主に対し、払込みを受けた金額に相当する金銭を支払わなければなりません(会社法第840条第1項)。判決の確定までの間にされた株主総会の決議等が当然に覆るわけではないため、その間の決議の効力は別途検討する必要があります。
発行の実体がない場合には、不存在の確認を求めます
払込みが全くされていない場合や、議事録と登記だけが作られて発行の実体がない場合には、新株発行の不存在の確認の訴えを提起することができます(会社法第829条第1号)。この訴えには提訴期間の定めがありません。
新株の発行を知るために確認する資料
登記事項証明書
発行済株式の総数は登記事項であり、新株の発行により変更が生じたときは、2週間以内に変更の登記をしなければなりません(会社法第911条第3項第9号、第915条第1項)。法務局で履歴事項全部証明書を取得すれば、発行済株式の総数がいつ変わったかを確認することができます。
株主総会の議事録
株主総会の議事録は、本店に10年間備え置かれ、株主は営業時間内であればいつでも閲覧及び謄写を請求することができます(会社法第318条第2項、第4項)。募集事項を決定した決議の有無と内容、出席した株主の顔ぶれを確認します。
株主名簿
新株を引き受けた者が誰であるかは、株主名簿の閲覧及び謄写の請求(会社法第125条第2項)によって確認します。割当先が経営者の親族や関係会社であれば、著しく不公正な方法による発行であることを基礎付ける事情の一つとなります。
損害賠償の請求との使い分け
新株発行無効の訴えは、発行そのものの効力を失わせる手続です。これに対し、効力を争うことが難しい場合や、提訴期間を過ぎてしまった場合でも、損害の回復を求める道が残されていることがあります。取締役と通じて著しく不公正な払込金額で新株を引き受けた者に対する差額の支払の請求(会社法第212条第1項第1号、第847条第1項)や、取締役の悪意又は重大な過失による任務懈怠を理由とする損害賠償の請求(会社法第429条第1項)がこれに当たります。詳しくは、新株式発行により持株比率を低下させられた!株主損害賠償請求訴訟の方法!で解説しています。
どの手続を選ぶかは、発行が既に効力を生じているか、どの程度の時間が経過しているか、最終的に株式を持ち続けたいのか、それとも会社に買い取ってもらうことを目指すのかによって異なります。新株の発行を争うことは、会社との株式の買取りの協議において、会社の側に手続の瑕疵を認識させる契機にもなり得ます。
いま確認していただきたいこと
本日のうちに、次のことを確認してください。
- 払込期日(又は払込期間)がいつであるかを確認してください。払込期日を過ぎると、差止めを求めることはできなくなります。
- 既に発行されている場合は、効力が生じた日を特定してください。履歴事項全部証明書に記載された変更の日から、提訴期間(公開会社でない会社では1年)を計算します。
- 募集事項を決定した株主総会があったかどうかを確認してください。招集の通知を受け取っていない場合は、その事実自体が重要な争点になります。
- 発行の前後のご自身の議決権の割合を計算してください。3パーセント、10パーセント、3分の1といった基準をまたいでいないかを確認します。
- 会社や経営者との間でやりとりした書面、電子メール等を保存してください。発行に先立つ対立の経過は、発行の目的を判断する資料になります。
よくあるご質問
増資の話を聞いた段階で相談しても早すぎませんか。
早すぎることはありません。差止めの仮処分は、払込期日までに裁判所の判断を得る必要があり、準備に使える時間は短いものです。募集事項が決定される前であれば、株主総会で反対の意思を示し、議案の内容について説明を求めることもできます(会社法第314条)。
株主総会で自分だけが反対しても、決議は成立してしまいます。争う意味はありますか。
議決権の3分の1を超える議決権を有していない場合、特別決議を単独で否決することはできません。しかし、決議が成立したとしても、払込金額が特に有利な金額であるのにその理由の説明がされていない場合(会社法第199条第3項)や、発行の主要な目的が支配の維持にある場合には、なお差止めや無効を主張する余地があります。
発行から1年を過ぎてしまいました。もう何もできませんか。
新株発行無効の訴えを提起することはできなくなりますが、発行の実体がない場合の不存在の確認の訴えには期間の定めがありません。また、取締役等に対する損害賠償の請求は、別の時効の規律に服します。経過した期間と、発行の実態を確認したうえで、残された手段を検討します。
会社からは「経営のために必要な増資だ」と説明されています。
会社の説明が事実であるかどうかは、決算書類や借入れの状況から検証することができます。株主は、計算書類等の閲覧を請求することができ(会社法第442条第3項)、議決権の3パーセント以上を有していれば会計帳簿の閲覧及び謄写も請求することができます(会社法第433条第1項)。資金調達の必要性を裏付ける資料がない場合には、それ自体が争う根拠になります。
おわりに
新株の発行は、払込期日を境に争い方が大きく変わります。発行される前であれば差止めの仮処分によって発行を止めることを目指し、発行された後であれば提訴期間の中で無効の訴えを提起し、あるいは損害賠償の請求に切り替えることになります。いずれの場合も、日付の確認と資料の確保が最初の作業です。
当事務所は、非上場会社の株主の皆様から、新株の発行や株式の買取りを巡るご相談を数多くお受けしています。手続の瑕疵を指摘し、交渉や裁判により解決を図る方法をご提案します。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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出典
- 会社法第125条第2項(株主名簿の閲覧及び謄写の請求)
- 会社法第199条第1項から第3項まで(募集事項の決定)
- 会社法第200条第1項、第3項(募集事項の決定の委任)
- 会社法第201条第1項、第3項、第4項(公開会社における募集事項の決定の特則)
- 会社法第202条(株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合)
- 会社法第209条第1項(株主となる時期)
- 会社法第210条(募集株式の発行等をやめることの請求)
- 会社法第212条第1項第1号(不公正な払込金額で株式を引き受けた者等の責任)
- 会社法第297条第1項、第309条第2項、第314条、第318条(株主総会)
- 会社法第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
- 会社法第433条第1項、第442条第3項(会計帳簿及び計算書類等の閲覧等)
- 会社法第828条第1項第2号、第2項第2号(新株発行の無効の訴え)
- 会社法第829条第1号(新株発行の不存在の確認の訴え)
- 会社法第834条第2号、第838条、第839条、第840条第1項(会社の組織に関する訴えの被告及び判決の効力)
- 会社法第847条第1項(責任追及等の訴え)
- 会社法第911条第3項第9号、第915条第1項(変更の登記)
- 民事保全法第23条第2項(仮の地位を定める仮処分)
- 最高裁判所平成5年12月16日判決(新株発行差止めの仮処分命令に違反した新株発行の効力)
- 最高裁判所平成24年4月24日判決(公開会社でない株式会社において株主総会の特別決議を経ないでされた株式の発行の効力)
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