株式売買価格決定申立で争点となりやすい事項

この記事の位置付け

本ページは、株式売買価格決定の申立てに関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。

▶ 裁判所における非上場株式の価格算定方法|評価のポイントを弁護士が解説

同じ主題を扱う関連ページ

株式譲渡承認請求に対して会社又は指定買取人が買取りの通知をし、株式の売買価格についての協議が調わないまま裁判所への申立てに至った場合、実際の手続においては様々な事項が争点となります。本記事は、主として会社法第144条による場面を前提としています。

入口の争点

表2 申立ての適法性に関する争点

争点 内容
期間 通知があった日から20日以内に申し立てられているか
通知の到達日 起算日をめぐって争いとなることがあります
申立人の適格 株主名簿上の記載、相続による承継の有無等
対象株式の特定 株式の種類及び数の特定
手続の履践 株式譲渡承認請求及び不承認の決定の通知の有無
株式の買取通知及び供託 会社又は指定買取人による通知及び供託の有無

とりわけ20日の期間は決定的です。この期間内に申立てがされない場合、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が売買価格となります(会社法第144条第5項、第7項)。この点は記事「株式売買価格決定申立の20日という期限」に整理しています。

価格算定の基準時

会社法第144条第3項は、株式譲渡承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮するものと定めています。したがいまして、基準となる時点は株式譲渡承認請求の時です。

もっとも、実務上は、直近の決算期の計算書類を用いることが多く、請求の時点と決算期とのずれをどのように調整するかが問題となります。請求後に生じた事情をどの範囲で考慮するかについても、争いとなることがあります。

例えば、請求の後に会社が不動産を売却した場合、その売却価額を含み益の裏付けとして考慮すべきかという問題が生じます。逆に、請求の後に業績が悪化した場合には、会社の側からこれを考慮すべきであるとの主張がされることがあります。条文は「その他一切の事情」と定めていますので、考慮の可否は個々の事情の性質と基準時との関係によって判断されることとなります。

反対株主の株式買取請求に係る価格の決定においては、条文の文言が異なり、「公正な価格」と定められています。基準となる時点の考え方も同一ではありませんので、いずれの制度による申立てであるかを最初に確認する必要があります。

評価手法の選択

最も中心的な争点は、いずれの評価手法を用いるかという点です。

表3 手法の選択に関する争点

争点 内容
単独の手法か併用か 一つの手法によるか、複数を加重して用いるか
加重の割合 併用する場合の比重をどのように定めるか
純資産に着目する方法 簿価によるか時価によるか、清算価値によるか
収益に着目する方法 将来の予測をどの資料に基づいて行うか
市場に着目する方法 比較対象とする会社の選定が適切か
配当に着目する方法 無配又は低配当の会社について用いる当否

会社の業種、規模、資産の構成、収益の安定性によって、いずれの手法が適合するかは異なります。会社側は純資産又は配当に着目する方法を、株主側は収益に着目する方法を主張するという構図が生じやすい一方、資産を多く保有する会社では逆の構図となることもあります。評価手法の内容は、記事「非上場株式の時価純資産法を少数株主側からどう見るか」並びに既存記事(非上場株式・少数株式の株式買取請求における株式価値算定方法裁判所における非上場株式の価格算定方法|評価のポイントを弁護士が解説)に整理しています。

前提となる数値をめぐる争点

手法が定まっても、そこに入れる数値について争いが残ります。

表4 数値に関する主な争点

項目 争点の内容
不動産の時価 いかなる資料により評価するか
有価証券・保険積立金 帳簿価額と実際の価額との差
貸付金・仮払金 回収可能性
退職給付に係る負債 未計上の債務の有無及び額
偶発債務 保証、係争事件等の有無
法人税等相当額 含み益に対する控除の当否及び割合
役員報酬 利益の正常化の要否
将来の利益 予測の基礎となる資料の信頼性
割引率 算定の方法及び前提

これらはいずれも、資料の有無によって主張の説得力が左右されます。

減価の当否

少数株式であることを理由とする減価、及び市場性がないことを理由とする減価を行うかどうかも、争点となります。

会社法上の手続における価格の決定は、当事者間の自由な取引を前提とするものではなく、株主が会社の側に株式を売り渡す場面に関するものです。この場面において減価を行うことの当否については議論があり、事案によって扱いが分かれます。この点は既存記事(裁判所における非上場株式の価格算定方法|評価のポイントを弁護士が解説)及び記事「少数株式だから必ず大幅に安く評価されるのか」に整理しています。

資料と鑑定

会社の資料は会社の手元にありますので、株主側は、あらかじめ株主に認められた情報取得の手段によって資料を確保しておく必要があります(会社法第442条第3項、第433条第1項)。手続の中で資料の提出を求める方法もありますが、常に十分な範囲の資料が得られるとは限りません。

当事者の主張が対立し、裁判所が独自に専門的な評価を要すると判断した場合には、鑑定が行われることがあります。鑑定には費用と期間を要し、その結論が判断に大きな影響を与えます。鑑定については、記事「株式売買価格決定申立で鑑定が行われる場合の注意点」に整理しています。

表5 準備しておくべき資料

資料 用途
定款、登記事項証明書 手続の前提及び会社の状況の確認
株主名簿 申立人の適格及び株主構成の確認
直近3期以上の計算書類 財務状況の把握
勘定科目内訳明細書 資産及び負債の内容の把握
会社とのやり取りの記録 通知の到達日及び協議の経過の立証
不動産に関する資料 含み損益の主張
株価算定に関する意見 主張の裏付け

弁護士に相談する意味

この手続は、期間の制限、手続の要件、評価に関する主張という三つの層から成り立っています。いずれか一つでも欠けると、本来の主張に到達いたしません。

弁護士は、株主本人の代理人として、期間の管理、申立ての準備、資料の確保、評価に関する主張及び鑑定への対応を行います。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま手続を進めるものです。

よくあるご質問

質問1 申し立てれば裁判所が適正な価格を調べてくれるのですか。

裁判所は当事者の主張と提出された資料を踏まえて判断いたします。当事者が主張と資料を提出しなければ、判断の基礎が不足いたします。

質問2 どのくらいの期間がかかりますか。

事案によって異なります。鑑定が行われる場合には、さらに期間を要します。一般的な見通しについては、記事「少数株式の買取交渉はどのくらいの期間がかかるか」に整理しています。

質問3 費用はどのように考えればよいですか。

申立ての手数料のほか、鑑定が行われる場合には鑑定費用が生じます。弁護士費用の考え方については、記事「少数株式の売却で弁護士費用はどのように考えるか」に整理しています。

質問4 途中で和解することはできますか。

手続の途中で当事者間の協議が調い、申立てを取り下げるという解決に至ることがあります。もっとも、結論は事案によって異なります。

交渉手法の詳細について

具体的な交渉方法及び主張の組立て方は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示していません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、株式売買価格決定の申立てについて、株主側の代理人としてご相談をお受けしています。20日という短い期間の制限がありますので、通知を受領された場合には速やかにご連絡ください。

ご相談の際には、会社又は指定買取人から届いた通知書、供託を証する書面、通知が入っていた封筒、定款の写し、株主名簿の写し、直近3期分の決算書をご用意ください。お手元にない場合でもご相談いただけます。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階

本記事は一般的な法律上の枠組みをご説明するものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。結果を保証するものではありません。課税関係については税理士にご確認ください。

本記事の根拠条文

会社法 第117条第2項、第144条第2項・第3項・第5項・第7項(譲渡制限株式に係る売買価格の決定)、第182条の5第2項、第193条第2項、第433条第1項(会計帳簿の閲覧謄写請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧及び謄本の交付の請求)、第470条第2項、第786条第2項、第798条第2項、第807条第2項(反対株主の株式買取請求に係る価格の決定)

争点があらかじめ分かっていれば、準備は具体的になります。まずは通知書と決算書をお持ちください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

具体的なご相談をお考えの株主の皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。