株式売買価格決定申立の20日という期限
| 指定買取人 | 会社法第142条第1項の通知 | 指定を受けた旨及び買い取る対象株式の数 |
|---|
ここで注意を要するのは、起算点となるのが「承認をしない旨の通知」ではないという点です。会社は、承認をするか否かの決定をしたときは、その内容を譲渡等承認請求者に通知いたしますが(会社法第139条第2項)、この通知の日から20日が起算されるわけではありません。起算点は、その後に届く買取りの通知の日です。
もっとも、実務においては、承認をしない旨の通知と買取りの通知とが同一の書面で行われる例や、日を接して届く例が多く見られます。会社は、買取りの通知をしようとするときは、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額を供託し、供託を証する書面を交付しなければならないとされておりますので(会社法第141条第2項、第142条第2項)、供託を証する書面が同封されているか否かが、買取りの通知であるかどうかを見分ける手がかりとなります。
複数の書面が前後して届いている場合には、どの書面がどの条文に基づく通知であるかを確認したうえで、起算点を確定する必要があります。この確認を誤りますと、期間の計算そのものが誤ることとなります。
第3節 期間を徒過した場合に何が起きるか
会社法第144条第5項は、同条第2項の期間内に申立てがないとき(その期間内に協議が調った場合を除きます。)は、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額をもって売買価格とする旨を定めております。指定買取人が買い取る場合についても準用されます(同条第7項)。
すなわち、期間を徒過いたしますと、価格を争う機会が失われ、法律上定められた基準による額が売買価格として確定いたします。これは、供託された額と一致する額です。
1株当たり純資産額は、法務省令の定めるところにより算定される額であり、会社の計算書類上の純資産を基礎とするものです。したがいまして、次の事情は原則として反映されません。
表2 1株当たり純資産額を基準とする価格に反映されにくい事情
| 事情 | 内容 |
|---|---|
| 資産の含み益 | 不動産、有価証券、保険積立金等の帳簿価額と時価との差 |
| 将来の収益力 | 安定した利益を計上している会社の稼得能力 |
| 非経常的な損益 | 一時的な損失により純資産が圧縮されている場合 |
| 事業に用いられていない資産 | 事業価値とは別に評価すべき資産 |
| 役員報酬の水準 | 事業の実態に照らして過大な費用が計上されている場合 |
もとより、1株当たり純資産額を基準とする額が、事案によっては株主にとって不利でない場合もあります。含み損を抱える会社や、収益力が乏しい会社では、そのような結果となることもあります。しかし、それは検討をした結果として判断されるべき事柄であり、期間の管理を怠った結果として選択の余地を失うこととは、意味が全く異なります。
第4節 期間の計算
期間の計算については、初日を算入しないのが原則です(民法第140条)。したがいまして、通知が到達した日の翌日から起算して20日目が末日となります。
なお、末日が休日に当たる場合の取扱いについては、手続の性質に応じた定めがありますが、末日の判断に迷う場面で期限直前に申立てを行うことは避けるべきです。実務上は、余裕をもって準備を進めることが必要です。
表3 期間の管理において確認する事項
| 確認事項 | 理由 |
|---|---|
| 通知が到達した日 | 起算点を確定するためです |
| 到達を証する資料 | 封筒、配達記録、受領印等が手がかりとなります |
| 書面がいずれの条文に基づく通知か | 承認の可否の通知と買取りの通知とを区別するためです |
| 供託を証する書面の有無 | 買取りの通知であることの手がかりとなります |
| 定款に期間の短縮の定めがあるか | 手続全体の他の期間に影響いたします |
会社法には、この20日の期間を伸長することを認める規定は置かれておりません。そのため、資料が十分に集まっていない、評価の検討が終わっていないといった事情があっても、期間の進行は止まりません。資料が不十分な段階であっても、まず申立てを行い、その後の手続の中で主張立証を尽くすという判断が必要となる場面があります。
第5節 協議が調った場合の例外
会社法第144条第5項は、期間内に申立てがない場合であっても、その期間内に協議が調った場合を除くと定めております。したがいまして、期間内に会社又は指定買取人との間で売買価格について合意が成立していれば、その合意した価格が売買価格となります。
もっとも、ここでいう協議が調ったといえるためには、価格について当事者の意思が合致している必要があります。「検討中である」「引き続き協議したい」という状態は、これに当たりません。会社との間でやり取りが続いていることをもって、期間が問題とならないと考えることは危険です。
実務においては、会社との協議が継続している間に20日が経過してしまうという事態が生じ得ます。協議を続けるか、申立てを行うかは、いずれか一方を選ぶという関係にはありません。申立てを行った後に協議が調えば、申立てを取り下げることも考えられます。
また、期間内に協議が調ったといえるかどうかが後に争われることを避けるためには、合意の内容を書面によって明確にしておくことが望ましいところです。金額、対象となる株式の数、支払の時期及び方法を記載した書面を取り交わしていない状態は、後の紛争の原因となります。口頭で「その金額でよい」と述べたことをもって合意が成立したと主張される場面もあり得ますので、回答は書面によることとし、その内容についてはあらかじめご相談いただくことをお勧めしております。
第6節 会社法上の他の20日との違い
会社法には「20日」という期間が複数の制度に置かれており、混同が生じやすいところです。
表4 会社法において20日が定められている主な場面
| 場面 | 20日の内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 譲渡等承認請求に伴う売買価格の決定 | 買取りの通知があった日から20日以内に申立て | 第144条第2項・第7項 |
| 相続人等に対する売渡しの請求における価格の決定 | 売渡しの請求があった日から20日以内に申立て | 第177条第2項 |
| 単元未満株式の買取請求における価格の決定 | 買取りの請求をした日から20日以内に申立て | 第193条第2項 |
| 全部取得条項付種類株式の取得価格の決定 | 取得日の20日前の日から取得日の前日まで | 第172条第1項 |
| 特別支配株主の株式等売渡請求における売買価格の決定 | 取得日の20日前の日から取得日の前日まで | 第179条の8第1項 |
| 反対株主の株式買取請求の行使期間 | 効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日まで | 第116条第5項、第469条第5項、第785条第5項、第797条第5項 |
| 新設合併等における株式買取請求の行使期間 | 通知又は公告の日から20日以内 | 第806条第5項 |
このうち、相続人等に対する売渡しの請求における20日は、徒過した場合の効果が大きく異なります。この場合、期間内に申立てがないとき(期間内に協議が調った場合を除きます。)は、売渡しの請求そのものが効力を失うものとされております(会社法第177条第5項)。すなわち、株主は株式を保有し続けることとなります。譲渡等承認請求の場合とは結論が逆になりますので、どの制度に基づく手続であるかを取り違えないことが重要です。
また、反対株主の株式買取請求においては、価格の決定の申立ての期間は20日ではありません。協議が調わないときは、効力発生日から30日の期間の満了の日後30日以内に申立てをすることができるものとされております(会社法第117条第2項、第786条第2項、第798条第2項、第807条第2項)。この点も混同されやすいところです。
第7節 20日以内に行うこと
期間内に行うべきことは、申立ての要否の判断と、申立ての準備です。
申立ては、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所にいたします(会社法第868条第1項)。この事件は非訟事件として審理され、裁判所は、譲渡等承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならないとされております(会社法第144条第3項)。裁判所が決定をしたときは、その決定した額をもって売買価格といたします(同条第4項)。決定に対しては、即時抗告をすることができるものとされております(会社法第872条)。
申立ての要否を判断するためには、供託額の水準と、会社の実態に照らした株式の価値の見込みとを比較する必要があります。そのために、定款、株主名簿、直近の計算書類、会社から届いた通知書一式を確認いたします。株主は、営業時間内はいつでも、計算書類及びその附属明細書等の閲覧又は謄本の交付等を請求することができます(会社法第442条第3項)。この請求には持株比率の要件がありません。
もっとも、20日という期間内に会社から資料の開示を受け、評価の検討を完了することは、現実には困難です。そのため、期間内には申立ての要否の判断に必要な限度の検討を行い、詳細な主張立証は申立て後の手続の中で行うという進め方となることが多くあります。鑑定が行われる場合の留意点につきましては、既存記事「株式売買価格決定申立で鑑定が行われる場合の注意点」に整理しております。
第8節 弁護士に相談する意味
この期間に関するご相談で最も多いのは、通知が届いてから相当の日数が経過した後にご連絡をいただく例です。会社との協議が続いていた、社内で相談していた、資料を探していたという事情によるものです。
弁護士は、株主本人の代理人として、通知の内容と日付を確認して起算点を確定し、供託額の水準を踏まえて申立ての要否を判断し、期間内に申立てを行います。そのうえで、手続の中で価格に関する主張立証を行い、あわせて会社との協議を継続いたします。
なお、当事務所は株式を買い取る立場ではありません。株式買取業者は株式の買手であり、株主本人の代理人ではなく、買手は取得価額が低いほど利益が大きくなる立場にあります。大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定)は、株式買取業者に対する非上場株式の譲渡契約について、弁護士法第73条に違反し無効であると判断いたしました。業者一般が違法であるという趣旨ではありませんが、具体的な業務態様によっては法的問題が生じ、裁判例において違法性が認定された事例があるということです。
よくあるご質問
質問1 会社と価格の話合いを続けていれば、期限は問題になりませんか。
話合いが継続しているだけでは足りません。会社法第144条第5項が例外としているのは、期間内に協議が調った場合、すなわち価格について合意が成立した場合です。協議中のまま20日が経過いたしますと、1株当たり純資産額を基準とする額が売買価格となります。
質問2 通知が届いた日が特定できません。
封筒の消印、配達の記録、受領の記録が手がかりとなります。会社に対して発送日及び到達日の確認を求めることも考えられます。日付が争いとなり得る場合には、その点も含めて速やかにご相談ください。
質問3 期限を過ぎてしまった場合、もう何もできませんか。
会社法第144条第5項の効果が生ずることとなりますが、まずは通知の性質、起算点、協議の経緯を確認する必要があります。届いた書面が同条の通知に当たらない場合や、協議が調ったと評価し得る場合もあり得ます。事案の内容によりますので、そのままにせずご相談ください。
質問4 申立てを行うと会社との関係が悪くなりませんか。
売買価格の決定の申立ては、会社法が当事者双方に認めた手続です。会社の側も同じ期間内に申立てをすることができます。申立てを行った後に協議が調い、取下げによって解決に至ることもあります。
質問5 申立てをすれば必ず供託額より高い価格になりますか。
そのような保証はありません。裁判所は会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を決定いたしますので、結論は事案ごとの事実関係と資料によって異なります。供託額を下回る結果となる可能性も含めて検討することとなります。
交渉手法の詳細について
具体的な交渉方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、売買価格の決定の申立てについて、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。期間の制限がありますので、会社又は指定買取人から通知を受領された場合には、その日のうちにご連絡いただくことをお勧めしております。
ご相談の際には、会社から届いた通知書及び供託を証する書面(封筒を含みます。)、譲渡等承認請求の書面の控え、定款の写し、株主名簿の写し、直近3期分の決算書をご用意ください。お手元にない場合でもご相談いただけます。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階
本記事は一般的な手続をご説明するものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文・裁判例
会社法 第116条第5項、第117条第2項、第139条第2項、第141条第1項・第2項、第142条第1項・第2項、第144条第1項から第5項まで・第7項、第172条第1項、第177条第2項・第5項、第179条の8第1項、第193条第2項、第442条第3項、第469条第5項、第785条第5項、第786条第2項、第797条第5項、第798条第2項、第806条第5項、第807条第2項、第868条第1項、第872条
民法 第140条(初日不算入の原則)
弁護士法 第73条
裁判例 大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定。株式買取業者に対する株式譲渡契約につき弁護士法第73条違反による無効を判断)
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20日という期間は短いものですが、その日のうちにご連絡をいただければ、採り得る手段は残されています。通知が届いた封筒をそのまま保管し、日付を確認したうえでご相談ください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。



