株式買取請求権を行使できずに終わる8つの失敗 手続に入る前に備えておくべきこと

目次
  1. 権利があることと、権利を使えることは、別のことがらです
  2. 「請求すれば、会社は買い取らなければならない」という誤解
  3. 数字が示すこと 備えを欠いた結果は取り返しがつきません
  4. 失敗の型 1 いわゆる「2回の反対」をしていなかった
    1. 委任状による反対は、事前の反対通知にはなりません
    2. 備え
  5. 失敗の型 2 株式買取請求の期間を外した
    1. 備え
  6. 失敗の型 3 株式譲渡承認請求書に「株式の買取りを請求する旨」を記載しなかった
    1. 備え
  7. 失敗の型 4 譲受人を特定していなかった
    1. 備え
  8. 失敗の型 5 株式売買価格決定の申立ての20日を徒過した
    1. 備え
  9. 失敗の型 6 株券の供託や提出を怠った
    1. 備え
  10. 失敗の型 7 撤回できないことを知らずに行使した
    1. 備え
  11. 失敗の型 8 株主名簿の名義書換をしていなかった
    1. 備え
  12. 会社の側にも期限があります みなし承認という規定
  13. 会社側が形式の不備を待っている理由
  14. 手続に入る前に備えておくべきこと
    1.  登記事項証明書を取得してください
    2.  定款を入手してください
    3.  会社の財務内容を把握してください
    4.  株主名簿の名義を確認してください
  15. よくあるご質問
    1. 内容証明郵便で「株式を買い取ってください」と送りました。これで手続は始まりますか
    2. 株主総会で反対しました。株式買取請求はできますか
    3. 株券が見当たりません。手続はできますか
    4. 自分で請求書を作成しても大丈夫でしょうか
  16. おわりに
  17. 関連ページ
  18. 出典

権利があることと、権利を使えることは、別のことがらです

非上場株式の評価をめぐる状況は、いま大きく動いています。国税庁は令和8年(2026年)4月20日から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催し、昭和39年(1964年)公表の財産評価基本通達を60年ぶりに抜本的に見直す検討を進めています。

この動きを受けて、株式の買取りを会社に求めようとお考えになる少数株主の方が増えています。しかし、意気込んで手続に入ったものの、形式の不備によって権利を行使できないまま終わってしまうという事案が、後を絶ちません。

会社法の定める手続は、期間と記載事項がきわめて厳格です。1行の記載が漏れただけで、会社に買取りの義務が生じないという結果になり得ます。

本記事では、手続に入る前に備えておくべきことを、実際に見られる失敗の型に沿って整理いたします。すでに期限を過ぎてしまった方は、株式買取請求権の期限を過ぎても、少数株主に残されている手段をご覧ください。

【令和8年8月20日】評価の見直しは、少数株主にとって追い風です

第5回有識者会議において、国税庁は「類似業種比準方式を存置することは困難ではないか」とし、「インカムアプローチによる評価を主軸とすべき」との方向性を示しました。残余利益方式の計算式は「簿価純資産 ± 数年分の超過収益 = 評価額」とされています(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料・令和8年8月20日)。追い風だからこそ、手続で足をすくわれないことが重要です。なお、内容も時期も確定したものではありません。

「請求すれば、会社は買い取らなければならない」という誤解

ご相談の場で、次のようなお考えを伺うことがあります。

  • 「株主なのだから、買い取ってくれと言えば会社は応じる義務がある」
  • 「内容証明郵便を出しておけば手続は始まる」
  • 「株主総会で反対したのだから、株式買取請求はできる」

いずれも正確ではありません。会社法は、どの場面で、誰が、いつまでに、何を記載して請求すれば株式買取義務が生じるのかを、細かく定めています。その要件を満たさない請求は、法律上の効果を生じません。

数字が示すこと 備えを欠いた結果は取り返しがつきません

国税庁が第1回有識者会議(令和8年4月20日)に提出した資料によれば、類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の26%から27%程度にとどまり、類似業種比準価額が純資産価額の0.5倍未満である会社は77.6%に及びます。評価対象会社の82.4%は直前2期に配当をまったく支払っていません(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料・令和8年4月20日)。

会社の実質的な価値と、株主が受け取る金額との差は、それだけ大きいということです。手続の不備によってその差を取り戻す機会を失うことの意味は、決して小さくありません。

失敗の型 1 いわゆる「2回の反対」をしていなかった

合併、事業譲渡、株式併合等に反対する株主が株式買取請求をするためには、株主総会の決議を要する場合、当該株主総会に先立って当該行為に反対する旨を会社に通知し、かつ、当該株主総会において反対することが必要です(会社法第469条第2項、第785条第2項、第797条第2項、第806条第2項等)。

総会で反対しただけでは足りません。事前の通知も必要です。これを怠ったために株式買取請求ができなくなる事案は、きわめて多く見られます。

委任状による反対は、事前の反対通知にはなりません

総会に出席できないため、議決権行使書面や委任状で反対の意思を示す方がおられます。しかし、それは総会における反対の議決権行使にあたるものであって、総会に先立つ会社への反対の通知とは別のものです。事前の通知は、書面によって会社に到達させておく必要があります。

備え

招集通知が届いたら、ただちに反対する旨の書面を作成し、配達証明付内容証明郵便で会社に送付してください。そのうえで、総会に出席して反対の意思を表明し、議事録への記載を求めます。

失敗の型 2 株式買取請求の期間を外した

反対株主の株式買取請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に行わなければなりません。しかも、株式買取請求に係る株式の数を明らかにして行う必要があります。

期間が始まる前に出してしまった、期間が終わってから出してしまった、株式数を書かなかった。いずれも請求としての効力に疑義が生じます。

備え

効力発生日を確定させ、暦の上で20日前の日と前日を書き出してください。会社は効力発生日の20日前までに株主に対して通知又は公告をすることとされていますので、その通知の日付も必ず保管してください。

失敗の型 3 株式譲渡承認請求書に「株式の買取りを請求する旨」を記載しなかった

これが最も多く、そして最も重大な失敗です。

譲渡制限株式の株主が株式譲渡承認請求をする場合、請求には、譲り渡そうとする株式の数、譲受人の氏名又は名称に加えて、会社が承認をしない場合において会社又は指定買取人が当該株式を買い取ることを請求するときは、その旨を記載しなければなりません(会社法第138条第1号)。

この記載を欠いたまま請求をし、会社が承認をしなかった場合、会社に買取りの義務は生じません。その結果、譲渡もできず、買取りも受けられないという状態に陥ります。

備え

請求書には、承認を求める旨と、不承認の場合には会社又は指定買取人による株式の買取りを請求する旨とを、必ず併記してください。1行の記載が、手続全体の成否を分けます。

失敗の型 4 譲受人を特定していなかった

株式譲渡承認請求は、「当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて」承認をするか否かの決定を求めるものです(会社法第136条)。したがって、具体的な譲受人が定まっていなければ、請求として成り立ちません。

「誰でもよいので売りたい」という申入れは、法律上の株式譲渡承認請求にはなりません。

備え

譲受人を具体的に定めたうえで、氏名又は名称及び住所を記載してください。譲受人の選定そのものが、その後の交渉の構図を左右いたします。誰を譲受人とするかは、慎重にご検討ください。

失敗の型 5 株式売買価格決定の申立ての20日を徒過した

会社又は指定買取人から買取りの通知を受けた後、価格について協議が調わないときは、株式の買取通知があった日から20日以内に、裁判所に対して株式売買価格決定の申立てをすることができます(会社法第144条第2項)。

この20日を過ぎますと、決定的な不利益が生じます。協議が調わず、かつ期間内に申立てもなかったときは、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額をもって、売買価格とするとされているからです(会社法第144条第5項)。

1株当たり純資産額は、帳簿上の数値に基づく金額です。不動産の含み益も、会社の収益力も、そこには反映されません。裁判所に「一切の事情」を考慮させる機会そのものを失うことになります。

備え

株式の買取通知を受け取ったら、その日を起算日として20日後の日を直ちに書き留めてください。協議に時間を要しそうな場合には、期間内に申立てを行ったうえで協議を継続することも検討いたします。

失敗の型 6 株券の供託や提出を怠った

株券発行会社の場合には、株券についての手続が加わります。

  • 会社が買い取る旨の通知をするときは、1株当たり純資産額に買取株式数を乗じた額を供託し、その証明書を交付いたします(会社法第141条第2項)
  • その通知を受けた株主は、通知を受けた日から1週間以内に、会社に対して株券を供託しなければなりません(会社法第141条第3項)
  • 供託をしなかったときは、会社は売買契約を解除することができます(会社法第141条第4項)

指定買取人による買取りの場合も、同様の定めがあります(会社法第142条第3項、第4項)。また、反対株主の株式買取請求においても、株券発行会社の株主は株券を提出しなければならないとされています(会社法第785条第6項等)。

備え

会社が株券発行会社かどうかを、登記事項証明書で必ず確認してください。株券が手元にない場合には、株券の発行を求めるか、株券喪失登録の手続を検討する必要があります。1週間という期間は、準備がなければ到底足りません。

失敗の型 7 撤回できないことを知らずに行使した

株式譲渡承認請求は、会社又は指定買取人が買取りの通知をした後は、その承諾を得た場合を除き、撤回することができません(会社法第143条)。反対株主の株式買取請求も、会社の承諾を得た場合を除き、撤回することができません(会社法第785条第7項等)。

「まず請求してみて、金額が低ければ取り下げればよい」という進め方は、できないということです。請求は、価格についての見通しを立ててから行うべきものです。

備え

請求の前に、会社の財務内容を把握し、価格の主張を組み立てておいてください。順序を誤ると、低い価格で確定してしまう危険があります。

失敗の型 8 株主名簿の名義書換をしていなかった

相続や贈与によって株式を取得したものの、株主名簿の名義書換をしないまま年月が経過しているという事案があります。株式の譲渡は、株主名簿に記載又は記録をしなければ、会社その他の第三者に対抗することができません(会社法第130条)。

名義が被相続人のままである場合、会社から「あなたを株主として扱うことはできない」と言われ、そこで手続が止まってしまいます。会社がこの状態を放置し、あるいは利用していることも少なくありません。

備え

株主名簿記載事項の記載又は記録の請求を行ってください(会社法第133条)。譲渡制限株式については、原則として株式取得者と株主とが共同して請求する必要がありますが、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者は、単独で請求することができます(会社法第134条第4号)。相続によって株式を取得された方にとって、重要な定めです。

会社の側にも期限があります みなし承認という規定

ここまで株主側の失敗を申し上げましたが、期限を守らなければならないのは会社も同じです。

  • 会社が、株式譲渡承認請求の日から2週間以内に決定の内容を通知しなかったときは、承認をしたものとみなされます(会社法第145条第1号、第139条第2項)
  • 会社が、右の通知の日から40日以内に買取りの通知をしなかったときも、承認をしたものとみなされます(会社法第145条第2号、第141条第1項)。指定買取人による場合は10日以内です(会社法第142条第1項)

承認をしたものとみなされれば、皆様は予定していた譲受人へ株式を譲渡することができます。会社が回答を引き延ばしている場合には、この規定が働かないかを必ず確認してください。日付の記録が、そのまま武器になります。

会社側が形式の不備を待っている理由

会社の側の事情を、率直に申し上げます。

第一に、形式の不備を指摘することが、価格の議論に入らずに済む最も容易な方法だからです。実体の議論に入れば、会社の財務内容が明らかになってまいります。会社としては、そこに立ち入られたくありません。

第二に、株式買取代金は会社の資金から支払われるからです。同族会社においては、少数株主に支払わずに済めば、それだけ経営者一族の支配する資金が会社に残ります。

第三に、1人に手続を認めれば、他の少数株主にも波及するからです。だからこそ、最初の1人に対して厳格に出てきます。

そして、評価ルールの見直しが進めば、株式の評価額は上昇する可能性があります。会社が買取りを急いでいるとすれば、それ自体が、その株式に相応の価値があることの現れです。

手続に入る前に備えておくべきこと

 登記事項証明書を取得してください

株券発行会社かどうか、株式に譲渡制限の定めがあるかどうか、取締役会設置会社かどうか、発行済株式総数はいくつか。これらは手続の骨組みを決める前提事実です。登記事項証明書は誰でも取得できます。

 定款を入手してください

譲渡承認の機関はどこか、相続人等に対する売渡しの請求の定めがあるか、種類株式が発行されているか。定款の定めによって、採るべき手続が変わります。

 会社の財務内容を把握してください

計算書類等の閲覧謄写請求は、持株数の要件なく行うことができます(会社法第442条)。議決権又は発行済株式の3%以上を保有している場合には、会計帳簿の閲覧謄写請求も可能です(会社法第433条)。価格の主張は、数字がなければ組み立てられません。

 株主名簿の名義を確認してください

株式の譲渡は、株主名簿に記載又は記録をしなければ会社に対抗することができません(会社法第130条)。相続や贈与で取得したまま名義書換をしていない場合には、まず名義書換の請求から始める必要があります。株主名簿の閲覧謄写請求(会社法第125条)によって、現在の記載を確認してください。

よくあるご質問

内容証明郵便で「株式を買い取ってください」と送りました。これで手続は始まりますか

始まりません。株式譲渡承認請求として効力を生じさせるためには、譲受人を特定し、不承認の場合に株式の買取りを請求する旨を記載する必要があります(会社法第136条、第138条第1号)。任意の交渉としての意味はありますが、法律上の手続としては別のものです。

株主総会で反対しました。株式買取請求はできますか

株主総会に先立って反対する旨を会社に通知していなければ、原則としてできません。いわゆる「2回の反対」が必要です。ただし、事案によっては別の手続を検討する余地がありますので、諦める前にご相談ください。

株券が見当たりません。手続はできますか

まず、会社が株券発行会社かどうかを登記事項証明書で確認してください。株券発行会社である場合には、株券の供託や提出が求められる場面がありますので、あらかじめ株券の発行を求めるか、喪失の手続を検討する必要があります。手続に入ってから対応するのでは、期間に間に合いません。

自分で請求書を作成しても大丈夫でしょうか

形式の不備が生じやすい部分がはっきりしていますので、作成前にご確認いただくことをお勧めいたします。とりわけ、株式の買取りを請求する旨の記載、譲受人の特定、期間の管理の3点は、後から補うことができない場合があります。

おわりに

会社法の定める手続は、株主を守るために設けられたものです。しかし、その手続は同時に、形式を満たさない請求を排除する仕組みでもあります。

本記事に挙げた失敗の型は、いずれも実際に見られるものです。そしていずれも、手続に入る前に確認しておけば避けられるものばかりです。登記事項証明書を取り、定款を入手し、決算書類を確認し、名義を確かめる。この4つを済ませてから請求に入れば、多くの失敗は防ぐことができます。

いま、非上場株式の評価は見直しの局面にあります。国税庁自身が、現行の評価が純資産価額の3割弱にとどまることを公表いたしました。せっかくの追い風を、形式の不備で無にしないでいただきたいと存じます。

弁護士法人M&A総合法律事務所は、非上場株式の少数株主の皆様の側に立って、会社に対する株式買取請求、価格の交渉、株式売買価格決定の申立てを取り扱ってまいりました。請求書を出す前に、まずはお聞かせください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

株式買取請求・株式譲渡承認請求の手続に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

関連ページ

出典

  • 会社法(第125条、第130条、第133条、第134条、第136条、第138条、第139条、第140条、第141条、第142条、第143条、第144条、第145条、第433条、第442条、第469条、第785条、第797条、第806条)
  • 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
  • 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)

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