少数株主が会社の資料を取得する方法 名簿、定款、計算書類及び会計帳簿の請求の使い分け

会社に対して「資料を見せてほしい」と一言だけ伝え、断られたまま止まっている。あるいは、いきなり会計帳簿を全部見せろという書面を送り、拒絶の回答を受け取って手詰まりになっている。少数株主の方からの御相談には、この2つの型がよく現れます。いずれも、請求できる書類が複数あり、それぞれ要件が違うという前提が抜けています。

会社法は、株主が会社に対して開示を求めることができる書類を、一括りにはしていません。書類ごとに、根拠となる条文が別に置かれ、持株数の要件も、理由の記載の要否も、会社が拒める場合も異なります。したがって、どの書類から手を付けるかによって、同じ会社に対する請求でも、通る確率と要する時間がまるで違ってきます。

結論から申し上げます。請求は、定款、株主名簿、計算書類、会計帳簿の順に、要件の軽いものから重ねていくのが最も確実です。順序を守ることで、後の請求の理由を具体的に書けるようになり、拒絶されにくくなります。以下、順に御説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

本記事は4種類の請求権の比較と順序に絞り、個々の請求の詳細は別のページに委ねます。

請求することができる書類は4種類あり、要件がそれぞれ違います

まず、全体の見取り図を示します。定款については会社法第31条第2項、株主名簿については同法第125条第2項、計算書類等については同法第442条第3項、会計帳簿については同法第433条第1項が、それぞれ根拠となる条文です。条文が4本に分かれているという事実そのものが、要件が共通ではないことを表しています。

持株数の要件が課されるのは、4種類のうち会計帳簿だけです。会計帳簿については、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、又は発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3以上の数の株式を有する株主であることが必要とされています(会社法第433条第1項)。残りの3種類には、この種の絞りがありません。

請求の理由を明らかにすることが要件とされるのは、株主名簿と会計帳簿の2つです(会社法第125条第2項後段、第433条第1項後段)。定款と計算書類等については、条文にその文言がありません。つまり、定款と計算書類等は、株主であることさえ示せば、目的を説明せずに請求できる書類だということです。

まず要件の緩いものから請求するという順序

この4つを、要件の軽い順に並べると、定款、計算書類等、株主名簿、会計帳簿となります。実務では、この並びに沿って請求を組み立てます。ただし、株主名簿は他の株主の把握という別の目的を持ちますので、定款と同時に求めることが多くなります。

順序を守ることに実益がある理由

理由は2つあります。第一に、先に取得した資料が、後の請求の理由を書く材料になるからです。会計帳簿の請求では理由の記載が要件ですが、計算書類を見ないまま書ける理由は抽象的にならざるを得ません。損益計算書のどの科目が不自然に膨らんでいるかを指摘できれば、理由は一気に具体的になります。

拒絶されにくい請求から会社の対応を測る

第二に、要件の軽い請求に対する会社の対応が、その後の見通しを教えてくれるからです。理由を書く必要すらない定款の請求を拒む会社であれば、会計帳簿の請求が任意に通る見込みは低く、最初から法的手続を織り込んだ日程を組むことになります。逆に、定款も計算書類も素直に出してくる会社であれば、交渉による解決の余地が残っています。

なお、4つを1通の書面にまとめて請求することは可能ですが、お勧めしません。1通にまとめると、会社は最も重い会計帳簿の要件を持ち出して、全体を一括して拒む口実を得ます。書面を分けておけば、どの請求に対するどの拒絶であるかが記録として残ります。

計算書類の閲覧 持株数の要件がありません

計算書類等とは、各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書をいい、監査報告又は会計監査報告が含まれる場合があります。会社は、これらを定時株主総会の日の1週間前(取締役会設置会社にあっては2週間前)の日から5年間、本店に備え置かなければなりません(会社法第442条第1項第1号)。支店には、その写しを3年間備え置くこととされています(同条第2項第1号)。

株主及び債権者は、営業時間内であればいつでも、書面又はその写しの閲覧を請求することができ、謄本又は抄本の交付を求めることもできます(会社法第442条第3項第1号及び第2号)。電磁的記録で作成されている場合の請求も同様に定められています(同項第3号及び第4号)。謄本又は抄本の交付と、電磁的方法による提供については、会社の定めた費用を支払う必要があります(同項ただし書)。

この請求の実務上の値打ちは、持株数の要件がないことにあります。100分の3に届かない株主の方でも、貸借対照表と損益計算書を正面から請求できます。5年分を求めれば、純資産の推移、役員報酬を含む販売費及び一般管理費の動き、借入金の増減を時系列で並べることができます。備置きの期間が本店で5年、支店で3年である点を踏まえ、何年度分を求めるかを書面で特定してください。

会計帳簿の閲覧 100分の3という要件と、理由の記載

会計帳簿は、計算書類の一段下の階層にある資料です。総勘定元帳、仕訳帳、補助簿のほか、これらに関する資料として、契約書、領収書、請求書等が対象となり得ます。計算書類が集計後の結果であるのに対し、会計帳簿は集計前の個々の取引を示すという違いがあります。

請求できるのは、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、又は発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3以上の数の株式を有する株主です。定款でこれを下回る割合が定められている場合には、その割合によります(会社法第433条第1項)。単独で満たさない場合でも、複数の株主が持株を合算して共同で請求することができます。この点で、株主名簿を先に取得しておくことが効いてきます。

請求に当たっては、その理由を明らかにしなければなりません(同項後段)。ここでいう理由は、閲覧を求める目的と、その目的のためにどの帳簿が必要なのかを結び付けたものである必要があります。計算書類を先に取得していれば、特定の勘定科目の内訳を確認するため、といった形で書けるようになります。なお、訴訟になった場合、裁判所は申立てにより又は職権で、訴訟の当事者に対し、会計帳簿の全部又は一部の提出を命ずることができます(会社法第434条)。

会社が拒絶することができる事由は法律に限定されています

4種類のいずれについても、会社が自由な裁量で開示を断れるわけではありません。会計帳簿については、会社法第433条第2項が拒絶できる場合を5つ列挙しています。第1号は権利の確保又は行使に関する調査以外の目的による請求、第2号は業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的による請求、第3号は請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事する場合、第4号は知り得た事実を利益を得て第三者に通報するための請求、第5号は過去2年以内に同様の通報をしたことがある場合です。

株主名簿については、これと似た構造の規定が置かれていますが、列挙は4つであり、競争関係を理由とする拒絶が含まれていません。定款及び計算書類等については、そもそも拒絶事由を列挙した条項自体が置かれていません。同じ「見せてください」という請求でも、会社が持ち出せる反論の幅がこれだけ違うということです。

そして、正当な理由がないのに閲覧若しくは謄写、又は謄本若しくは抄本の交付を拒んだ取締役等は、100万円以下の過料に処せられます(会社法第976条第4号)。この制裁は4種類のすべてに及びます。請求書に条文の番号とともにこの点を付記しておくと、社内で法務の確認が入り、対応が変わることがあります。

取得した資料から、株式の価値をどう読むか

資料を集める目的は、多くの場合、株式をいくらで売るかを判断することにあります。4種類の資料は、それぞれ別の角度から価値の手がかりを与えます。

定款からは、譲渡の制限の有無と承認をする機関、種類株式の設計が分かります。これは価値そのものではなく、売却の可能性と相手方の範囲を決める情報です。株主名簿からは、持株の分布が分かり、御自身の株式が支配権に影響を及ぼす位置にあるのか、それとも純粋な少数持分にとどまるのかが判定できます。

計算書類からは、純資産の額と、直近数期の利益の水準が読めます。土地や有価証券を簿価で計上している会社では、含み益が純資産に反映されていませんので、帳簿価額をそのまま価値と考えることはできません。会計帳簿からは、役員報酬の実額、代表者やその親族が関係する取引、簿外に近い形で処理されている費用が見えます。利益が圧縮されている会社では、この点の確認が価格の主張を大きく左右します。

請求を重ねることが、後の手続でどのように役立つのか

請求の積み重ねは、資料を得ること自体のほかに、記録を作るという意味を持ちます。いつ、どの条文に基づき、何を請求し、会社がどう回答したかという経過は、後に続く手続で繰り返し使われます。

第一に、価格の交渉の場面です。会社が価格の根拠を示さないまま金額を提示してきた場合、資料の開示を拒んだ経過があれば、その提示額を検証できない原因が会社側にあることを指摘できます。第二に、裁判所へ進んだ場合です。会社が任意の開示に応じなかった経過は、資料を得るための手続を採る必要性を基礎付ける事実になります。

第三に、複数の少数株主が共同して動く場面です。株主名簿を取得して他の株主と連絡が取れれば、単独では100分の3に届かない場合でも、合算して会計帳簿の請求ができます。この順序で組み立てられるかどうかが、実際に帳簿にたどり着けるかの分かれ目になります。請求を1回きりの行為として捉えず、段階を踏む手順として設計してください。

なぜ会社は「見せる必要はない」と言うのか

会社側の回答で最も多いのは、「株主総会で決算の報告はしている」「必要なことは説明済みである」というものです。しかし、株主総会における報告と、書類の閲覧及び謄写の請求とは、根拠となる条文が別であり、一方を行ったことが他方を免れる理由にはなりません。

次に多いのが、「税理士に預けてあるので手元にない」という回答です。備置きの義務は会社が負うものですので、保管の委託は拒絶の理由になりません。「顧問弁護士に相談してから回答する」と述べたまま数か月が経過する例もありますが、条文は営業時間内であればいつでも請求できると定めており、回答までの猶予を会社に与える規定は置かれていません。

これらの回答が出てくる背景には、少数株主が資料を持つと交渉の主導権が移る、という認識があります。資料がなければ、会社が示した金額の当否を株主は検証できません。逆に言えば、開示を渋る態度そのものが、検証されると困る事情の存在を示唆しているとも言えます。株主の側としては、感情的なやり取りを避け、条文の番号を挙げた書面を淡々と重ねることが有効です。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

当事務所が受任した場合、まず持株比率を確定し、4種類のうちどこまでの請求が可能かを判定します。100分の3に届かない場合には、計算書類までで組み立てるのか、他の株主と共同して会計帳簿まで進むのかを検討します。そのうえで、書面を分けて発送し、回答の期限を管理します。

弁護士に任せる実益が大きいのは、請求を並行して進めながら、次の手続の準備を同時に走らせる部分です。定款と計算書類の回答を待つ間に、株主名簿から他の株主の所在を確認し、会計帳簿の請求の理由を組み立てておく、といった段取りです。個々の書面は御自身でも作成できますが、全体の日程を組みながら進める点に、代理人を立てる意味があります。

依頼の時期は、会社へ最初の書面を送る前が最も適しています。既に請求をされていて拒絶の回答を受けている場合でも、御相談いただく価値はあります。拒絶の理由が条文上の事由に当たらないのであれば、その回答書自体が次の手続の資料になるからです。逆に、会社との間で価格の合意が既に成立している場合には、資料の請求よりも合意の内容の確認を先に行うことになります。

いま確認していただきたいこと

第一に、御自身の持株数と、会社の発行済株式の総数を確認してください。発行済株式の総数は登記事項証明書に記載されています。100分の3に達しているかどうかが、採り得る請求の範囲を決めます。

第二に、手元にある資料を、定款、株主名簿、計算書類、会計帳簿の4つに分類してください。相続で承継された方は、相続税の申告の際に税理士が入手した決算書が残っている場合があります。

第三に、会社に対して過去に行った請求と、その回答を時系列に並べてください。口頭でのやり取りしか残っていない場合は、日時と応対者の氏名だけでも書き出してください。

第四に、他に少数株主がおられるかどうか、連絡が取れるかどうかを整理してください。共同での請求が可能かどうかの判断材料になります。

よくあるご質問

4つの請求を、1通の書面でまとめて行ってもよいですか。

法律上は可能ですが、お勧めしません。会社が最も要件の重い会計帳簿の請求を理由に全体を拒むおそれがあり、どの請求に対する拒絶であるかが記録として残りにくくなります。

持株が100分の3に届きません。会計帳簿は諦めるほかありませんか。

ほかの株主と持株を合算して共同で請求する方法があります。また、定款で100分の3を下回る割合が定められている場合もありますので、まず定款を確認してください(会社法第433条第1項)。

計算書類は何年分まで請求できますか。

会社は本店に5年間、支店にその写しを3年間備え置く義務を負います(会社法第442条第1項第1号、第2項第1号)。備置きの期間内のものについて請求してください。

会社が「株主総会で説明したから見せる必要はない」と回答してきました。

総会での説明と書類の閲覧謄写の請求とは、根拠となる条文が異なります。説明を行ったことは、会社法第442条第3項や第433条第1項に基づく請求を拒む理由になりません。

資料を集めたうえで、会社が買い取ってくれない場合はどうなりますか。

資料は、価格の交渉のほか、株式の譲渡の承認の請求や価格の決定の申立てといった次の手続でも用います。集めた資料は、いずれの道を選ぶ場合にも前提となります。

おわりに

少数株主の方が会社から資料を得る手段は、1つではありません。4本の条文が、それぞれ別の要件で用意されています。この違いを踏まえずに、いきなり最も重い請求を出して拒絶され、そこで止まってしまうのは、最も避けたい進み方です。

要件の軽いものから順に、書面を分けて重ねてください。1つ通るたびに、次の請求の理由が具体的になり、会社が拒みにくくなります。資料が揃えば、価格の話は憶測ではなく数字の上で進められるようになります。どこから手を付けるべきか判断がつかない場合は、持株の割合と手元の資料をお知らせください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

会社の資料の開示の請求に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

出典

  • 会社法第31条第2項(定款の閲覧、謄本又は抄本の交付の請求)
  • 会社法第125条第2項(株主名簿の閲覧又は謄写の請求と、請求の理由を明らかにすること)
  • 会社法第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求、100分の3の保有要件、請求の理由)
  • 会社法第433条第2項第1号から第5号まで(会計帳簿の請求に係る拒絶事由)
  • 会社法第434条(会計帳簿の提出命令)
  • 会社法第442条第1項第1号(計算書類等の本店における5年間の備置き)
  • 会社法第442条第2項第1号(計算書類等の写しの支店における3年間の備置き)
  • 会社法第442条第3項第1号から第4号まで及び同項ただし書(株主及び債権者による閲覧、謄本又は抄本の交付の請求、費用の負担)
  • 会社法第976条第4号(正当な理由がないのに閲覧、謄写又は謄本の交付を拒んだ場合の過料)

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