株式買取業者の行為が法的問題となった裁判例から何を学ぶか

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本ページは、株式買取業者への対応に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
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株式買取業者から、非上場株式を一定の金額で買い取る旨の案内を受けた方の中には、その業者の行為自体が法律上問題のあるものではないかと感じておられる方がいらっしゃいます。株式売買価格決定の申立てを前提とした金額の差益を狙う事業の形態が、実際に裁判で問題とされた例があります。
大阪高等裁判所は、令和6年7月12日の判決において、株式売買価格の差額の取得を目的とするある事業者の事業形態について、弁護士法第73条が禁じる行為(他人の権利を譲り受けて、訴訟その他の手段によってその権利の実行をすることを業とすること)に当たると判断し、当該事業者が締結した株式譲渡契約を無効といたしました。この判決は上告が棄却されて確定しています。
本記事では、同判決がどのような事業形態を問題としたのか、弁護士法第73条がどのような規定であるのか、及びこの判決が株式買取業者一般の適法性についてどこまで示すものであるのかを解説します。
同判決は、株式売買価格の差額の取得を目的とする事業形態について、他人の権利を譲り受けて訴訟によりその実行をすることを業とする行為に当たるといたしました。原審はこれと異なる判断をしており、控訴審においてこれが変更されたものです。
重要な点は、判断の対象が「株式を買い取ること」そのものではなく、当該事業の形態であったという点です。したがいまして、この判決を根拠に事業者一般を違法と断ずることはできません。他方で、具体的な業務態様によっては法的問題が生じ、現に裁判例において違法性が認定された事例があるということになります。
弁護士法第73条とはどのような規定か
弁護士法第73条は、何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない旨を定めています。
表2 弁護士法の関連する規定
| 条文 | 規律の対象 | 内容の概要 |
|---|---|---|
| 弁護士法第72条 | 法律事務の取扱い | 弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うこと等を禁じています |
| 弁護士法第73条 | 権利の譲受け | 他人の権利を譲り受けて訴訟その他の手段によりその権利の実行をすることを業とすることを禁じています |
いずれも同法第9章の非弁護士の取締りに関する規定であり、実務上はいずれも非弁行為と呼称されています。第72条が「他人の事件を取り扱うこと」を規律するのに対し、第73条は「他人の権利を自らのものとして取得し、これを実行すること」を規律いたします。株式買取業者の事業形態が問題とされたのは、後者の類型です。
これらの規定は、一般に、弁護士でない者が他人の法律事件に介入し、又は他人の権利を譲り受けてその実行を業とすることによって、当事者その他の関係人の利益が損なわれ、法律生活の公正かつ円滑な営みが妨げられることを防止する趣旨に出たものと解されています。したがいまして、問題の所在は、権利を取得すること自体ではなく、権利を取得したうえで法的手続によりその実行を図ることを反復継続して業として行うという点にあります。
この観点から見ますと、株主が個別に第三者へ株式を譲渡することと、事業として反復継続的に少数株式を買い集め、法的手続によりその実行を図ることとは、法的な評価を異にし得ることになります。株主の側から見て確認すべきは、相手方がいずれの態様で行動しているかという点です。
同判決が用いた判断の枠組み
同判決の判断は、二つの段階を踏んでいます。第一に、当該事業が、他人の権利を譲り受けて訴訟その他の手段によりその権利の実行をすることを業とするものとして、形式的に弁護士法第73条の規律の対象に当たるかを検討いたします。第二に、形式的に当たる場合であっても、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められるときは同条に違反しないという基準(最高裁判所平成14年1月22日第三小法廷判決・民集56巻1号123頁)に照らし、例外に当たるかを検討いたします。同判決は、当該事業が第一段階に当たることを認めたうえで、第二段階の例外には当たらないと判断いたしました。
第二段階の検討は、権利の譲受けの方法及び態様、権利の実行の方法及び態様、並びに事業者の業務内容及びその実態という三つの視点から行われています。譲受けの態様につきましては、譲渡制限株式の譲渡は会社の承認を得なければ会社との関係で効力を生じないため(最高裁判所昭和48年6月15日第二小法廷判決・民集27巻6号700頁参照)、譲受人は直ちに株主の地位を取得することができないこと、及び会社法は譲渡制限株式の市場やその売買を業とする者の存在を想定していないことが指摘されています。
価格につきましては、当該事業者が、公認会計士の意見書により当該株式の実質的な価格を1株当たり356万4162円と認識しながら、これを株主に告げないまま、自らの経営判断による価格をもとに1株当たり120万円で譲り受けたことが認定されています。合意された価格は実質的な価格の約34%(120万円÷356万4162円=約0.337)にとどまります。指定買取人の提示額は1株当たり約60万円であり、合意価格はその2倍を超えるものでしたが、裁判所は、株主が両者の隔たりを知らされないまま契約を選択したのであるから、この点によって弊害が否定されるものではないといたしました。
実態につきましては、譲り受けた約60件のうち約9割で会社の承認が得られず、株主の地位を取得しないまま発行会社又は指定買取人へ実質的な価格をもとに売却して差額を事業の利益としていたことが認定され、株主の地位を取得することは事業目的に含まれず、むしろこれを取得しないことを事業目的とするものと認められています。そのうえで同判決は、報酬を得る目的が認められないとしても、株主の投下資本の回収のために設けられた売買価格の決定の手続の公正かつ円滑な営みを妨げるものとして、弁護士法第72条本文の禁止を潜脱する行為に当たるといたしました。
当事務所が会社側の代理人として関与した近時の裁判例
当事務所が会社側の代理人として関与し、既に確定している近時の裁判例があります。事案の特定につながりますので、裁判所名等の詳細は差し控えます。
この事案では、株式買取業者が少数株主から譲渡制限株式を買い取り、発行会社に対して株式譲渡承認請求を行い、会社が承認せずに自ら買い取る旨を決議いたしましたことから、会社法第144条第2項に基づき売買価格の決定が申し立てられました。
裁判所は、当該業者が非上場株式を正当な価格で一括して買い取り現金化する旨を広告して顧客を集めていること等の事実から、その事業は、株式の実質的な価格と譲渡価格との差額を事業の利益とする目的で株式を譲り受け、売買価格の決定の手続を利用するものであり、弁護士法第72条本文の禁止を潜脱する行為に当たると判断しました。そのうえで、業者と株主との間の株式の売買契約は弁護士法に違反して無効であり、業者が適法に株式を取得したとは認められない以上、株式売買価格決定の申立ては却下すべきものであると結論付けました。この決定も既に確定しています。
この決定の要点は、業者の広告と権利の実行の態様から事業の性質が認定されており、個別の取引において幾らで買い取ったのかの立証を要していない点にあります。会社の側にとって主張しやすく、業者の側にとっては争いにくい判断の枠組みであるといえます。
もっとも、この裁判例も、当該事業者の事業の形態について判断したものです。前記のとおり、裁判例を根拠に事業者一般を違法と断ずることはできません。
契約が無効とされた場合に何が起きるか
契約が無効である場合、当事者は原状に復させる義務を負います。無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負うものとされています(民法第121条の2第1項)。
表3 無効とされた場合の帰結
| 事項 | 帰結 |
|---|---|
| 株式 | 譲渡の効力が生じないこととなります |
| 受領した代金 | 返還の対象となります |
| 株主としての地位 | 譲渡人に帰属したままとなります |
| 会社との関係 | 譲渡人が株主として取り扱われることとなります |
| 転売がされていた場合 | 権利関係がさらに複雑となります |
株主にとって重大なのは、既に受領し費消した代金の返還を求められる可能性があるという点です。株式は手元に戻る一方で、現金は返還しなければならないという事態が生じ得ます。売却によって現金化したはずが、結果として紛争と返還義務のみが残るという構造です。
また、無効を主張し得るのは株主側だけではありません。発行会社の側が無効を主張することも考えられます。株主が知らないうちに、会社と業者との間で株主としての地位をめぐる争いが生ずることもあります。
この裁判例から株主側が読み取るべき事項
表4 読み取るべき事項
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 相手方は買手です | 業者は株主の代理人ではなく、契約の相手方です |
| 利益の方向が反対です | 取得価額が低いほど買手の利益が大きくなります |
| 価格を検証する者がいません | 双方の利益が対立するため、買手が株主のために価格を検証することは期待できません |
| 手続は業者のものとなります | 譲渡後、会社に対する手続は業者が自らの権利として行います |
| 契約の効力自体が争われ得ます | 無効とされれば代金の返還義務が生じ得ます |
とりわけ、代理人と契約の相手方との違いは決定的です。弁護士は株主本人の代理人として、株主の利益のために行動する立場にあります。これに対し、買手は自らの計算において株式を取得する立場にあり、株主本人の利益を実現する義務を負いません。両者の違いについては、記事「株式買取業者と株主側弁護士は何が違うのか」に整理しています。
この違いは、価格の場面で最も端的に表れます。株主本人の代理人であれば、株主が受け取る金額が大きいほど依頼の目的に適います。これに対し、買手は取得価額が低いほど自らの利益が大きくなります。したがいまして、買手から示される金額について、買手自身が株主のために検証を行うことは、構造上期待することができません。金額の当否は、株主の側で別途検討するほかありません。
また、譲渡が完了した後は、会社に対する請求や手続は譲受人が自らの権利として行うこととなります。従前の株主は当事者ではなくなりますので、その後の経過を知る立場にありません。仮に譲受人と会社との間で高額での解決に至ったとしても、その差額は譲受人に帰属いたします。
同判決は、承認をめぐる局面についても述べています。当該事業者は、譲渡の承認を求めるとともに、試算表、事業計画、所有不動産の一覧、株主総会及び取締役会の議事録の提供を求め、経営陣に対する聴取りを希望する旨を記載した書面を発行会社に送付していました。裁判所は、これを、自らが同族会社にとって好ましくない株主となることを示唆し、発行会社が承認を差し控えることを企図した事業活動であることが強く疑われるといたしました。承認がされなければ売買価格の決定の手続に進み、差額を事業の利益とすることができるからです。このような活動は、承認をめぐる紛議をも助長し、会社にとって好ましくない者が株主となることを防ぐという会社法上保護された利益を、自らの事業の利益のために利用するものであると評価されています。
また、同判決は、顧客である株主の満足や支持は結論を左右しないといたしました。少数株主に譲渡制限株式を買い取る事業への需要があること自体は否定できないとしつつ、その需要が国民の法律生活上の利益として保護すべき必要性の高いものとは必ずしもいえないとし、その理由として、取得の時点で既に譲渡制限株式であったのであれば株主はその立場を承知していたといえること、取得後に定款が変更されて譲渡制限株式となったのであれば反対株主の株式買取請求権を行使することができること(会社法第116条第1項第2号)、及び相続や破産により自らの意思によらずに取得した場合にも遺産分割その他の会社法に基づく手続が保障されていることを挙げています。
既に契約をしてしまった場合及びこれから接触する場合
表5 確認すべき事項
| 場面 | 確認事項 |
|---|---|
| 契約前 | 相手方の立場(買手か代理人か)を確認いたします |
| 契約前 | 提示された価格の算定根拠の説明の有無を確認いたします |
| 契約前 | 専門家への相談を制限する条項の有無を確認いたします |
| 契約前 | 代金の支払時期及び分割の有無を確認いたします |
| 契約後 | 契約書、覚書、受領した金銭の記録を保全いたします |
| 契約後 | 会社に対してどのような手続がされているかを確認いたします |
| 契約後 | 名義書換の有無を確認いたします |
契約前の段階であれば、選択肢はなお開かれています。会社との任意の株式買取交渉、支配株主との交渉、株式譲渡承認請求という制度上の受け皿など、複数の道があります。この点は記事「株式買取業者に売る前に会社との任意の株式買取交渉を検討する理由」に整理しています。
既に契約をされている場合には、契約の効力、代金の返還の要否、会社との関係という複数の問題が同時に生じます。書面と入出金の記録の保全が最初の作業となります。
弁護士に相談する意味
裁判例の内容は、これを一般化して「業者はすべて違法である」と述べることも、逆に「自分の場合は関係がない」と切り捨てることも、いずれも適切ではありません。判断は、実際の契約書の内容と業務の態様に即して行うほかありません。
弁護士は、株主本人の代理人として、契約書の検討、会社に対する手続の確認、株主に認められた情報取得の手段による資料の確保を行います。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま手続を進めるものです。
よくあるご質問
質問1 株式買取業者はすべて違法なのですか。
そのように断ずることはできません。裁判例が違法性を認定したのは、具体的な事業形態についてです。個別の業務態様によって法的評価は異なります。
質問2 業者の提示額が会社の提示額より高い場合はどうすべきですか。
金額のみで判断することは適切ではありません。契約の効力、支払の確実性、支払時期、その後の紛争の可能性を併せて検討する必要があります。この点は記事「株式買取業者の提示額が会社提示額より高い場合でもすぐ売るべきか」に整理しています。
質問3 既に代金を受け取っています。返還しなければならないのですか。
契約が無効とされた場合、給付を受けた者は相手方を原状に復させる義務を負います(民法第121条の2第1項)。もっとも、実際の帰結は、契約の内容、当事者の主張、資金の流れ等によって異なります。
質問4 業者に売却した後、会社との関係はどうなりますか。
譲渡後は業者が会社に対して手続を行うこととなり、株主であった方が経過を把握することは容易ではありません。この点は記事「株式買取業者に売却した後に会社との関係はどうなるか」に整理しています。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、非上場株式・少数株式について、株主側の代理人としてご相談をお受けしています。株式買取業者にご相談になる前に、一度当事務所へご相談ください。
ご相談の際には、業者から交付された書面、契約書、覚書、入出金の記録、定款の写し、株主名簿の写し、直近3期分の決算書をご用意ください。お手元にない場合でもご相談いただけます。
- 電話番号 03-6435-8418
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本記事は一般的な法律上の枠組みをご説明するものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。課税関係については税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文・裁判例
弁護士法 第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)、第73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
民法 第121条の2第1項(原状回復の義務)
裁判例 大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(令和6年(ネ)第149号 株主権確認等請求控訴事件。上告棄却により確定。株式譲渡契約につき弁護士法第73条違反による無効を判断) 出典 判例タイムズ1530号86頁
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