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親会社の実質的な株主であるとの主張と取締役解任決議の効力―東京高等裁判所平成30年6月27日判決

公開 2018年6月27日更新 2018年6月27日

▶ 株券不発行会社の株式の譲渡の効力要件・対抗要件・譲渡承認請求

会社の株式を、自分ではなく交際相手や親族の名義で持たせていた方が、後になって本当の株主は自分であると主張した場合、裁判所はその主張を認めるのでしょうか。東京高等裁判所平成30年6月27日判決は、対象会社の代表取締役であった方が、自分を取締役から解任した株主総会の決議は株主でない者が出席して行ったものであるから無効であると主張して、取締役及び代表取締役の地位にあることの確認を求めた事件で、請求を棄却した第一審判決を維持し、控訴を棄却しました。

対象会社の株式は、すべて親会社が保有していました。元代表取締役は、その親会社の設立時の資本金も増資の分も実質的には自分が出したものであり、親会社の実質的な株主は自分であると主張しました。しかし、控訴審は、親会社の設立時の資本金は名義上の発起人が払い込み、増資も名義上の発起人の貸金債権の現物出資によるものとされていることを認定し、元代表取締役が実質的に資金を出したことを裏付ける証拠はないとして、主張を退けました。本記事では、判決本文に基づき、元代表取締役の主張がどのような理由で退けられたのかを整理し、非上場株式を他人の名義で保有している株主や、会社の経営をめぐる争いの中で役員を解任された株主が注意すべき点を解説します。

目次
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要―親会社の株主は誰かをめぐり、取締役の解任決議の効力が争われた
    1. 交際相手の名義で会社の役員・株主の地位を整えていた
    2. 旧会社KYCの経営とその行き詰まり
    3. DNK氏を唯一の発起人として親会社CHSを設立
    4. CHSが対象会社TGKの全株式を1,000万円で取得
    5. CHSの増資と、MSK氏のCHSの役員からの辞任
    6. MSK氏がTGKの代表取締役に就任し、その後、解任される
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 判断の前提となる会社法の仕組み
    1. 取締役の解任は株主総会の決議で行われる
    2. 決議の効力を争う方法
    3. 株主の名義と実質
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. MSK氏の請求
    2. 争点の整理
    3. 控訴審でMSK氏が付け加えた主張
    4. TGKの主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 第一審の判断
  9. 控訴審の判断
    1. 第一審の判断を引用して維持し、字句と事実を補正
    2. 控訴審で追加された主張に対する判断
  10. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 名義上は、資本金も増資もDNK氏が出したものとされている
    2. 判断の枠組み―書類上の記載を覆すだけの裏付けがあるか
  11. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 資本金と増資の資金をMSK氏が出したことを裏付ける証拠がない
    2. 株式譲渡契約にMSK氏が代表取締役として関与した形跡がない
    3. DNK氏が経理だけを担当していたことを裏付ける証拠もない
    4. 設立から2年以上、代表取締役に就任しなかった理由が説明されていない
    5. 陳述書は信用できず、ほかに証拠もない
  12. 主文及び結論
    1. 審級ごとの結論の推移
  13. 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 株主の皆様が確認しておきたいこと
  14. よくあるご質問
    1. 交際相手や親族の名義で設立した会社の株式について、自分が実質的な株主だと主張できますか。
    2. 実質的な株主は自分であることを口頭で合意していた場合、その合意は認められますか。
    3. 株主総会の解任決議に株主でない者が出席していたと主張して、取締役の地位を争うことはできますか。
    4. 会社の代表取締役として経営を担っていても、株主総会の決議で解任されることがありますか。
    5. 名義株を整理して、株式を手放したいと考えています。何から始めればよいですか。
  15. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日・事件番号・裁判の形式 結論
第一審(原審) 控訴審の判決本文に記載がないため、本記事では記載していません 判決(裁判日・事件番号は控訴審の判決本文に記載がなく、確認できていません) 元代表取締役の請求を棄却
控訴審 東京高等裁判所第17民事部 平成30年6月27日・平成29年(ネ)第3911号・判決 控訴棄却(控訴費用は元代表取締役の負担)
事件の種類 取締役及び代表取締役の地位にあることの確認請求
本記事が主に扱う判決 東京高等裁判所平成30年6月27日判決(控訴審)
上訴の状況 控訴審判決に対する上告・上告受理申立ての有無及び確定は、確認できていません

第一審の判決本文は本記事の素材に含まれていません。第一審の内容は、控訴審の判決本文に記載された範囲(控訴審が引用し、又は訂正した範囲)でのみ説明します。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いている符号も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。

  • 控訴人(第一審の原告):対象会社の代表取締役であり、株主総会の決議で取締役を解任された「元代表取締役MSK氏」(以下「MSK氏」)。
  • 被控訴人(第一審の被告):MSK氏が取締役・代表取締役を務めていた会社を「対象会社TGK」(以下「TGK」)とします。判決本文の認定事実には、TGKの事業内容は記載されていません(MSK氏の主張では、MSK氏が総支配人としてコース管理を含む業務を担当したとされています)。
  • 平成23年に設立され、TGKの全株式を取得した会社を「親会社CHS」(以下「CHS」)とします。ゴルフ場の経営等を目的とする会社です。
  • CHSより前に、MSK氏が買収して商号を変更し、ゴルフ場の経営に関わった会社を「旧会社KYC」(以下「KYC」)とします。判決は、この会社をCHSと同じ商号の「旧」の会社として扱っています。
  • CHSの唯一の発起人であり、CHSの代表者としてTGKの株主総会に出席した人物を「CHSの代表者DNK氏」(以下「DNK氏」)とします。MSK氏と交際していた人物です。
  • CHSに株式を売却する前にTGKの全株式を保有していた前の株主を「前株主BMS」(以下「BMS」)とします。
  • CHSが株式を取得した当時のTGKの代表取締役を「前代表取締役FJT氏」(以下「FJT氏」)とします。
  • KYCの役員であった人物を「KYCの役員IKD氏」「KYCの役員JNO氏」「KYCの役員KWS氏」とします。KWS氏は後にTGKの監査役にも就任しています。
  • MSK氏の息子で、CHSの取締役・代表取締役に就任した人物を「MSK氏の息子OTA氏」(以下「OTA氏」)とします。
  • KYC名義の預金口座があった金融機関を「信用金庫LSK」「銀行MBK」とします。

判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。数字は判決本文の表記のまま引用しています。

事案の概要―親会社の株主は誰かをめぐり、取締役の解任決議の効力が争われた

交際相手の名義で会社の役員・株主の地位を整えていた

控訴審の認定によれば、MSK氏とDNK氏は、平成18年頃、同じゴルフ場を管理する会社で働いていた際に知り合い、その後交際を始めました。

平成18年8月31日に全役員が退任したまま、後任の役員が選任されない状態が続いていた飲食店経営等の会社がありました。MSK氏は、平成20年1月頃、この会社を買収し、同月29日、商号を変更して目的にゴルフ場の経営等を加え、DNK氏及び前の代表取締役であったIKD氏とともに取締役に就任しました(この会社が本記事のKYCです)。同年2月1日にはDNK氏の住所地に本店を移転しています。IKD氏は同年1月29日にKYCの代表取締役に就任しましたが、同年2月18日に代表取締役を退任して取締役も辞任し、同日、JNO氏が取締役に、DNK氏が代表取締役にそれぞれ就任しました。

旧会社KYCの経営とその行き詰まり

KYCは、平成21年4月からゴルフ場を経営することになり、同年6月17日にJNO氏が取締役を辞任してKWS氏が後任の取締役に就任したうえで、MSK氏が代表取締役に就任しました。しかし、経営は順調ではなく負債が膨らんでいき、DNK氏は平成22年12月31日に代表取締役を辞任しました。KYC名義の信用金庫LSKの普通預金口座の取引は平成23年2月までで途絶えて同年3月30日に解約され、銀行MBKの普通預金口座の取引も平成24年3月までで途絶えて同年4月9日に解約されました。

DNK氏を唯一の発起人として親会社CHSを設立

CHSは、平成23年3月7日、ゴルフ場の経営等を目的として資本金50万円で設立されました。設立時に発行された株式は10株で、定款上は、唯一の発起人であるDNK氏がこれを引き受け、50万円を払い込んだものとされており、代表取締役にはDNK氏が就任しました。MSK氏がCHSの代表取締役に就任したのは、それから2年以上後の平成25年7月17日です。

CHSが対象会社TGKの全株式を1,000万円で取得

平成25年7月31日当時、TGKの発行済株式はすべてBMSが保有していました。BMSは、同日、CHSに対し、TGKの発行済株式全部である200株を代金1,000万円で売却し(判決はこの譲受けに係る合意を「本件株式譲渡契約」と呼んでいます)、CHSはBMS名義の銀行口座に1,000万円を振り込みました。これにより、CHSはTGKの唯一の株主となりました。

同日、MSK氏はTGKの取締役に、DNK氏及びKWS氏はいずれもTGKの監査役に就任しましたが、TGKの代表取締役は従前のままFJT氏が務めていました。

CHSの増資と、MSK氏のCHSの役員からの辞任

CHSは、平成26年5月1日、資本金を500万円に増額し、その際に90株が発行されました。議事録上は、同年4月30日に開催された臨時株主総会で、DNK氏が同年1月1日付けでCHSに貸し付けた金銭債権450万円を現物出資することが可決されたものとされています。

平成26年5月22日、MSK氏はCHSの代表取締役及び取締役を辞任し、後任の取締役としてMSK氏の息子OTA氏が就任し、代表取締役にも就任しました。

MSK氏がTGKの代表取締役に就任し、その後、解任される

平成27年5月20日、FJT氏がTGKの代表取締役を辞任し、MSK氏が後任の代表取締役に就任しました。DNK氏は、同日、TGKの監査役を辞任して取締役に就任しました。

TGKは、平成28年4月28日、株主総会(判決のいう「本件総会」)を開催しました。DNK氏は、TGKの株主であるCHSの代表者として本件総会に出席し、MSK氏を取締役から解任する旨の決議(判決のいう「本件決議」)をしました。

MSK氏は、本件決議は株主ではない者が出席して決議したものであるから無効であると主張し、TGKに対し、現在も取締役及び代表取締役の地位にあることの確認を求めて訴えを提起しました。第一審はMSK氏の請求を棄却し、MSK氏が控訴しました。

事案の経緯の時系列

日付 出来事(控訴審が認定した事実)
平成18年頃 MSK氏とDNK氏が同じゴルフ場を管理する会社で働いていた際に知り合い、交際を開始
平成18年8月31日 後にKYCとなる会社の全役員が退任し、その後は後任の役員が選任されない状態が継続
平成20年1月頃 MSK氏がその会社を買収
平成20年1月29日 商号変更・目的にゴルフ場の経営等を追加。MSK氏、DNK氏、IKD氏が取締役に就任し、IKD氏が代表取締役に就任
平成20年2月1日 KYCの本店をDNK氏の住所地に移転
平成20年2月18日 IKD氏が退任・辞任し、JNO氏が取締役、DNK氏が代表取締役に就任
平成21年4月 KYCがゴルフ場の経営を開始
平成21年6月17日 JNO氏が辞任してKWS氏が取締役に就任し、MSK氏がKYCの代表取締役に就任
平成22年12月31日 DNK氏がKYCの代表取締役を辞任
平成23年3月7日 CHSを資本金50万円で設立。定款上、唯一の発起人DNK氏が10株を引き受けて50万円を払い込んだものとされ、DNK氏が代表取締役に就任
平成23年3月30日 KYC名義の信用金庫LSKの普通預金口座を解約(取引は同年2月までで途絶)
平成24年4月9日 KYC名義の銀行MBKの普通預金口座を解約(取引は同年3月までで途絶)
平成25年7月17日 MSK氏がCHSの代表取締役に就任
平成25年7月31日 BMSがCHSにTGKの全株式200株を代金1,000万円で売却し、CHSが代金を振込み。CHSがTGKの唯一の株主となる。MSK氏がTGKの取締役に、DNK氏及びKWS氏がTGKの監査役に就任
平成26年4月30日 議事録上、CHSの臨時株主総会でDNK氏の貸金債権450万円の現物出資が可決されたものとされる
平成26年5月1日 CHSが資本金を500万円に増額し、90株を発行
平成26年5月22日 MSK氏がCHSの代表取締役及び取締役を辞任。MSK氏の息子OTA氏がCHSの取締役・代表取締役に就任
平成27年5月20日 FJT氏がTGKの代表取締役を辞任し、MSK氏が代表取締役に就任。DNK氏はTGKの監査役を辞任して取締役に就任
平成28年4月28日 TGKの株主総会。DNK氏がCHSの代表者として出席し、MSK氏を取締役から解任する旨の決議
(日付は控訴審の判決本文に記載なし) 第一審がMSK氏の請求を棄却
平成30年6月27日 東京高等裁判所が控訴を棄却する判決

判断の前提となる会社法の仕組み

この節は、判決の理解のために当事務所が一般的な仕組みを説明するものです。判決本文が以下の条文を明示して判断したものではありません。

取締役の解任は株主総会の決議で行われる

取締役は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法第339条第1項)。株主が1名しかいない会社では、その株主が株主総会で議決権を行使すれば、取締役の解任の決議が成立することになります。本件のTGKも、CHSが唯一の株主でした。

決議の効力を争う方法

株主総会の決議の効力を争う方法としては、招集手続や決議方法の法令・定款違反などを理由とする決議の取消しの訴え(会社法第831条)、決議の内容の法令違反を理由とする決議の無効確認の訴え、決議が存在しないことの確認の訴え(会社法第830条)があります。本件のMSK氏は、決議の効力を直接争う訴えではなく、本件決議が無効であることを前提に、自分が今も取締役及び代表取締役の地位にあることの確認を求めました。決議取消しと決議不存在確認の使い分けについては、招集通知が届かないまま決議された場合の決議取消しと決議不存在確認の使い分けで解説しています。

株主の名義と実質

非上場会社では、設立や増資の際に、実際には別の人が資金を出しながら、家族や知人の名義で株式を引き受けることがあります。こうした場合に誰が株主かが争われると、名義のほか、誰が払込みの資金を出したのか、誰が株主としての権利を行使してきたのか等が問題になります。本件のMSK氏の主張も、CHSの株式の名義はDNK氏であるが、資金を出したのは自分であるという構造でした。

当事者の請求と主要な主張

MSK氏の請求

MSK氏は、TGKに対し、MSK氏がTGKの取締役及び代表取締役の地位にあることの確認を求めました。控訴の趣旨は、原判決の取消しと、この地位の確認、訴訟費用の第1審・第2審ともTGKの負担とすることです。

争点の整理

控訴審は、第一審判決の前提事実、争点及び当事者の主張を引用したうえで、争点を「本件決議の有効性」と整理し直しています。第一審判決のこの部分の詳しい記載は、控訴審の判決本文には再現されていません。

控訴審でMSK氏が付け加えた主張

MSK氏は、控訴審で、次の事実経過から、CHSの実質的な株主はMSK氏であると主張しました(以下はMSK氏の主張であり、裁判所が認定した事実ではありません)。

  • MSK氏は、平成20年頃、KYCの株式を代金25万円で取得し、DNK氏を代表取締役として登記したが、DNK氏はゴルフ場の経理事務しか担当したことがなかったため、DNK氏は経理事務のみを担当し、代表取締役としての業務その他の業務は全てMSK氏が担当する旨を合意した。
  • MSK氏は、負債の膨らんだKYCを倒産させて新会社を設立すれば消費税の減免措置を利用することができると考え、資本金50万円を自ら用意してCHSを設立した。その際、DNK氏をCHSの株主として設立手続をするが、実質的な株主はMSK氏である旨の合意があった。
  • MSK氏は、TGKの株式を取得するため、CHSの代表取締役に就任した。
  • CHSの資本金を500万円に増やしたのは、MSK氏がCHSに対して有していた450万円の貸付金を現物出資したものであり、この増資分も含めて実質的な株主はMSK氏であるとの合意があった。
  • MSK氏がCHSの代表取締役として、BMSとの間で本件株式譲渡契約を締結し、TGKの全株式をCHSに取得させた。
  • その後、MSK氏はTGKの実質的な経営に乗り出し、FJT氏を代表取締役のままとし、DNK氏を経理担当とし、MSK氏自身は総支配人としてコース管理を含めて全ての業務を担当した。
  • その後、MSK氏をCHSの実質的な株主ではないこととする合意は一切ない。

さらに、MSK氏は、こうしたDNK氏との関係からすれば、DNK氏がCHSの代表者であったとしても、MSK氏とDNK氏の間では、MSK氏の意思に反する代表権の行使はできない旨の合意があったとも主張しました。

MSK氏は、これらの主張に沿う証拠として、自ら作成した陳述書を提出しました。また、陳述書では、TGKの株式の譲渡代金1,000万円はKYCが受け取った補償金から出したなどと述べ、KYCを買収した当時は他のゴルフ場の支配人を務めていたため、代表取締役に就任すると当該ゴルフ場の経営に不都合が生じるかもしれないと考えてDNK氏をKYCの代表取締役として登記したとも述べていました。

TGKの主張

TGKは請求を争いました。控訴審は、第一審判決の当事者の主張の記載を引用し、その一部を削っていますが、TGKの主張の具体的な内容は控訴審の判決本文には再現されていません。

結論を左右した争点

争点は本件決議の有効性ですが、控訴審で結論を左右したのは、次の点です。

  1. TGKの唯一の株主であるCHSについて、名義上の発起人であり代表者であるDNK氏ではなく、MSK氏が実質的な株主であったといえるか。具体的には、CHSの設立時の資本金50万円と増資時の450万円を、実質的にMSK氏が拠出したといえるか。
  2. MSK氏とDNK氏の間に、DNK氏がMSK氏の意思に反してCHSの代表権を行使できない旨の合意があったといえるか。

控訴審は、これらをMSK氏が裏付ける証拠があるかという事実認定の問題として判断し、いずれも認めませんでした。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

第一審の判断

第一審は、MSK氏の請求を棄却しました。第一審の判決本文は本記事の素材に含まれていないため、その内容は、控訴審の判決本文から分かる範囲に限って説明します。

控訴審は、争点(本件決議の有効性)についての判断を、第一審判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるとして引用し、次のような訂正を加えています。

  • 「株式をすべて」を「発行した株式を全て」と改めました。
  • 「関与」から始まる一連の記載を、「経営に関与した〔KYC〕では、両名が代表取締役に就任していた時期もあった」という記載に改めました(「両名」は、文脈上、MSK氏とDNK氏を指すものと解されます)。
  • 「主張」とある2か所をいずれも「の上記主張」と改め、「参加」を「出席」と改めました。
  • 判断部分の数行分を削りました。

訂正後の文言の一部は分かりますが、削られた部分の内容や、第一審判決がどのような言葉でMSK氏の主張を退けたかは、控訴審の判決本文からは分かりません。本記事では、第一審の具体的な理由付けは確認できていません。

控訴審の判断

第一審の判断を引用して維持し、字句と事実を補正

控訴審は、第一審判決の前提事実、争点及び当事者の主張と、争点に対する判断を引用し、第一審の判断を維持しました。そのうえで、次のような補正をしています。

  • 前提事実のうち、BMSがTGKの株式を「買い受けた」とある部分を「譲り受けた」と改め、この譲受けに係る合意を「本件株式譲渡契約」と定義しました。「有して」を「保有して」と改め、「有限会社」の語を削るなどの訂正もしています。
  • 争点を「本件決議の有効性」と明示し、当事者の主張の見出しを整えました。
  • 控訴審として、改めて証拠に基づく詳しい事実(前記の時系列の事実)を認定しました。
  • 争点に対する判断の部分では、上記の第一審の判断で述べた字句の訂正と一部の削除を行いました。

これらの補正は、結論を変えるものではなく、第一審の判断の表現と事実関係を整えたものです。

控訴審で追加された主張に対する判断

控訴審は、MSK氏が控訴審で付け加えた主張とその証拠である陳述書について、新たに判断を示しました。その内容は、次の「裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み」及び「各主張を採用し又は排斥した理由」で説明します。控訴審は、第一審の結論を維持し、理由を補ったものといえます。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

名義上は、資本金も増資もDNK氏が出したものとされている

控訴審は、証拠に基づいて認定した事実として、DNK氏について次のように述べました。

「〔DNK氏〕は、〔CHS〕の唯一の発起人として設立時に資本金50万円全額を払い込み、その後の増資時も450万円の貸金債権を現物出資したものとされていることが認められる」

つまり、定款や議事録といった会社の書類の上では、CHSの株式は設立時の10株も増資時の90株も、DNK氏が資金を出して取得したものとされていることが出発点です。

判断の枠組み―書類上の記載を覆すだけの裏付けがあるか

控訴審は、この書類上の記載を前提に、MSK氏が実質的には資金を拠出したといえるかを、MSK氏の陳述書以外の裏付けとなる証拠があるか、陳述書の内容が客観的な事実関係と整合し信用できるか、という観点から検討しています。法的な判断基準を一般論として示したのではなく、個別の証拠を検討して主張を退けた判決です。

各主張を採用し又は排斥した理由

資本金と増資の資金をMSK氏が出したことを裏付ける証拠がない

控訴審は、設立時の資本金50万円についても、増資時の追加の資本金450万円についても、実質的にはMSK氏が拠出したことを裏付ける証拠はないとしました。むしろ、増資については、反対の方向の証拠があることを指摘しています。

「逆に、450万円の貸付金を現物出資したのが〔DNK氏〕であるとすることに沿う証拠(乙3、4)が存在する。」

MSK氏は、自分がCHSに対して有していた450万円の貸付金を現物出資したと主張していましたが、その貸付金がMSK氏のものであったことを示す証拠は認められず、逆にDNK氏の貸付金であったことに沿う証拠があったということです。

株式譲渡契約にMSK氏が代表取締役として関与した形跡がない

MSK氏は、TGKの全株式を取得しようと考えてCHSの代表取締役に就任し、BMSと本件株式譲渡契約を締結したと述べ、譲渡代金1,000万円はKYCが受け取った補償金から出したなどと陳述していました。しかし、控訴審は、本件株式譲渡契約に係る契約書を見ても、MSK氏が代表取締役としてこれに関与した形跡は見当たらないとしました。判決本文は、次のように述べています。

「本件株式譲渡契約に係る契約書(甲9)を見ても、〔MSK氏〕が代表取締役としてこれに関与した(前記第2の3(1)カ)形跡は見当たらず」

なお、この契約書はMSK氏の側から提出された証拠(甲号証)です。自ら提出した契約書が、自分の陳述を裏付けるものになっていなかったことになります。

DNK氏が経理だけを担当していたことを裏付ける証拠もない

MSK氏は、CHSでは、MSK氏が代表取締役に就任した後、DNK氏が経理を担当し、MSK氏がその他の業務全てを担当していたと主張しましたが、控訴審は、これを裏付ける証拠もないとしました。

設立から2年以上、代表取締役に就任しなかった理由が説明されていない

MSK氏は、KYCを買収した当時は他のゴルフ場の支配人を務めていたため、代表取締役に就任すると不都合が生じるかもしれないと考えてDNK氏を代表取締役として登記したと陳述していました。控訴審は、仮にそれが事実であるとしても、MSK氏はその後、平成21年6月17日に自らKYCの代表取締役に就任しているから、その不都合は生じない状態になっていたとみるべきであり、CHSの設立時にもその状態が続いていたと推認するのが合理的であるとしました。そのうえで、次のように述べています。

「〔MSK氏〕が平成23年3月に自ら資本金を拠出して〔CHS〕を設立しておきながら、平成25年7月まで代表取締役に就任しなかった理由は全く明らかにされておらず、不自然・不合理というべきである。」

本当に自分が資金を出して設立した会社であれば、他人を代表取締役にしておく必要がなくなっていたはずなのに、そうしなかった理由が説明されていない、という指摘です。

陳述書は信用できず、ほかに証拠もない

控訴審は、これらの事情を総合して、MSK氏の陳述書の信用性を否定しました。

「これらの事情を総合すると、〔MSK氏〕作成の上記陳述書はにわかに信用することができないのであって、ほかに〔MSK氏〕の上記主張を認めるに足りる証拠もない。」

「したがって、〔MSK氏〕の上記主張は採用することができない。」

ここでいう「上記主張」は、CHSの実質的な株主はMSK氏であるとの主張と、DNK氏はMSK氏の意思に反して代表権を行使できない旨の合意があったとの主張の両方を指しています。後者の合意について、控訴審は独立した詳しい説示をしていませんが、陳述書が信用できず、ほかに裏付けとなる証拠もないとして、まとめて退けています。

主文及び結論

控訴審判決の主文は、次のとおりです(ここでの「控訴人」はMSK氏を指します)。

「1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。」

判決本文は、結論として「以上によれば、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。」と述べています。これにより、MSK氏の請求を棄却した第一審判決が維持され、MSK氏がTGKの取締役及び代表取締役の地位にあることは認められませんでした。

審級ごとの結論の推移

審級 結論 下級審の判断との関係・主な理由
第一審 MSK氏の請求を棄却 争点(本件決議の有効性)についてMSK氏の主張を退けた(詳しい理由は控訴審の判決本文に再現されておらず、確認できていません)
控訴審(東京高等裁判所平成30年6月27日判決) 控訴棄却 第一審の判断を引用して維持し、字句と事実を補正。控訴審で追加された、CHSの実質的な株主はMSK氏であるとの主張と、DNK氏はMSK氏の意思に反して代表権を行使できないとの主張は、裏付けとなる証拠がなく陳述書も信用できないとして排斥
上告審 確認できていません 上告・上告受理申立ての有無及び確定は、判決本文からは確認できていません

判断の射程―参考となる点と一般化できない点

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。射程は、最終的な判断である控訴審の判断を基準としています。

参考となる点

第1に、他人の名義で会社を設立し、株式を引き受けさせた場合、後から実質的な株主は自分であると主張しても、資金を出したことを裏付ける客観的な証拠がなければ認められにくいことです。本件では、定款上はDNK氏が唯一の発起人として払込みをしたものとされ、増資の議事録上もDNK氏の貸金債権の現物出資とされていました。MSK氏は自ら作成した陳述書を提出しましたが、それ以外の裏付けがなく、かえって反対の方向の証拠もありました。

第2に、裁判所は、陳述の内容が本人のその後の行動と整合しているかを見て信用性を判断していることです。本件では、MSK氏が自ら資金を出したと主張する会社の代表取締役に2年以上就任しなかった理由が説明されていないことが、陳述書の信用性を否定する大きな理由になりました。名義を他人にした理由を後から説明する場合には、その理由がその後の行動と矛盾していないかが問われます。

第3に、株式譲渡の契約書のような重要な書類に誰が関与したかも、実質的な株主かどうかを判断する材料になることです。本件では、TGKの全株式の取得はMSK氏が主導したと主張されましたが、契約書にはMSK氏が代表取締役として関与した形跡がありませんでした。

第4に、株主が1名の会社(親会社が100%を保有する会社)では、その親会社の代表者が株主総会で議決権を行使すれば、取締役の解任の決議が成立し得ることです。本件のMSK氏は、TGKの代表取締役でしたが、TGKの株式を自分の名義では1株も持っておらず、親会社CHSの株式も名義上はDNK氏のものでした。会社の経営を実際に担っていても、株式の名義を持っていなければ、名義上の株主の側の判断で役員の地位を失うことがあり得るということです。

一般化できない点

本判決は、名義と実質が異なる株式について、誰が株主かを判断する一般的な基準を示したものではありません。MSK氏の主張を裏付ける証拠がなく、陳述書が信用できないという、本件の証拠関係に基づく事実認定の判断です。払込みの資金の流れを示す預金通帳や送金の記録、名義を借りる合意を記した書面などがある事案では、結論が異なり得ます。

また、控訴審は、仮にMSK氏がCHSの実質的な株主であったとすれば本件決議が無効になるのかという法律上の問題には、判断を示していません。親会社の実質的な株主が誰かという問題と、親会社を代表して子会社の株主総会で議決権を行使した者に権限があったかという問題は別の問題であり、本判決からいずれかについての一般論を導くことはできません。判決本文の認定事実では、平成26年5月22日以降のCHSの代表取締役はOTA氏とされている一方、本件総会にはDNK氏がCHSの代表者として出席したとされていますが、DNK氏が本件総会の時点でどのような資格でCHSを代表していたのかの経緯は、判決本文には記載されていません。この点が争われたかどうかも、控訴審の判決本文からは分かりません。

第一審の判決本文は本記事の素材に含まれておらず、第一審の具体的な理由付けは確認できていません。上告・上告受理申立ての有無及び確定も確認できていないため、その点にも留意が必要です。

株主の皆様が確認しておきたいこと

家族や知人の名義で株式を持っている方、名義上は他人のものでも自分が資金を出したと考えている株式がある方は、払込みや増資の資金が自分の口座から出たことを示す記録、名義を借りることについての合意の書面、配当や議決権の行使を実際に誰がしてきたかの記録を、早い段階で整理しておくことが重要です。本件のように、親族や交際相手との関係が悪化した後に、自分の陳述書だけで実質的な株主であることを証明するのは難しいといえます。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決がこうした記録があれば実質的な株主と認められると判断したものではありません。

よくあるご質問

交際相手や親族の名義で設立した会社の株式について、自分が実質的な株主だと主張できますか。

主張すること自体はできますが、資金を出したのが自分であることを証拠で示す必要があります。本判決では、定款上は名義人が唯一の発起人として払込みをしたものとされ、増資も名義人の貸金債権の現物出資とされていたのに対し、資金を出したと主張する側は自ら作成した陳述書しか提出できず、実質的な株主であるとの主張は認められませんでした。

実質的な株主は自分であることを口頭で合意していた場合、その合意は認められますか。

本判決では、名義人との間で実質的な株主は自分であるとの合意があった、名義人は自分の意思に反して代表権を行使できないとの合意があったとの主張がされましたが、裏付けとなる証拠がなく、陳述書も信用できないとして、いずれも認められませんでした。口頭の合意だけでは、関係が悪化した後に立証することは難しいと考えられます。

株主総会の解任決議に株主でない者が出席していたと主張して、取締役の地位を争うことはできますか。

決議に出席して議決権を行使した者が株主でないことが証明できれば、決議の効力を争う余地はあります。もっとも、本件では、出席した親会社の代表者の背後にいる実質的な株主は自分であるという主張が、証拠不足で認められませんでした。決議の効力を争う手続の選び方については、招集通知が届かないまま決議された場合の決議取消しと決議不存在確認の使い分けで解説しています。

会社の代表取締役として経営を担っていても、株主総会の決議で解任されることがありますか。

取締役は、株主総会の決議によっていつでも解任することができます(会社法第339条第1項)。本件の元代表取締役は、会社の経営を担っていましたが、会社の株式を自分の名義で持っておらず、唯一の株主である親会社の代表者が出席した株主総会で解任されました。なお、正当な理由なく解任された場合の損害賠償(会社法第339条第2項)は、本件では争われていません。

名義株を整理して、株式を手放したいと考えています。何から始めればよいですか。

まず、株主名簿や定款、設立時・増資時の払込みの記録を確認し、名義上の株主と、資金を出した人が誰かを整理します。そのうえで、名義を実態に合わせる手続をとるのか、株式を譲渡して手放すのかを検討します。株券を発行していない会社の株式の譲渡の効力要件や対抗要件は、株券不発行会社の株式の譲渡の効力要件・対抗要件・譲渡承認請求で、譲渡制限株式の承認の手続は譲渡制限株式の譲渡承認手続の流れと注意点で解説しています。

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他人の名義で株式を保有している場合や、名義上の株主との関係が悪化して会社の経営や役員の地位をめぐる争いになった場合には、定款、株主名簿、設立時・増資時の払込みの記録、預金口座の入出金、株式譲渡の契約書、株主総会の議事録などを整理し、誰が株主であることを証拠で示せるのかを確認したうえで、株主であることの確認を求めるのか、株式を譲渡して手放すのかを検討します。株券を発行していない会社の株式の譲渡の効力要件と譲渡承認請求は株券不発行会社の株式の譲渡の効力要件・対抗要件・譲渡承認請求で解説しています。会社から株式を無償で返すよう求められた場合の対応は会社から株式を無償で返すよう求められた場合の対応で御案内しています。非上場株式の売却全般は非上場株式の売却の総合案内で、ほかの裁判例は非上場株式・少数株主問題の裁判例の解説記事一覧でご覧いただけます。

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この記事の位置付け

他人の名義で会社を設立したり株式を持たせたりした株主と、株主総会で取締役を解任された役員に向けて、親会社の実質的な株主であるとの主張が証拠不足で退けられた判例を、名義と出資の証拠の観点から解説します。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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