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【株式売渡請求・売買価格決定】公開買付け後の株式売渡請求と非上場株式の売買価格―東京高等裁判所平成31年2月27日決定

公開 2019年2月27日更新 2026年10月30日

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公開買付けに応募しなかった非上場会社の株主が、買収者による特別支配株主の株式売渡請求で株式を取得されることになり、その価格が低すぎるとして、裁判所に売買価格の決定を求めた事件の判例です。東京地方裁判所平成30年1月29日決定は、売買価格を公開買付価格と同じ1株560円と決定し、東京高等裁判所平成31年2月27日決定も、この判断を維持して株主の抗告を棄却しました。

株主は、対象会社が自ら公表していた企業価値の指標(エンベディッド・バリュー)に40%のプレミアムを加えた1株1,746円を下回らないと主張しましたが、両決定は、相互に特別の資本関係がない会社間で、一般に公正と認められる手続により公開買付けが行われた場合には、特段の事情がない限り、売買価格を公開買付価格と同額とするのが相当であり、この考え方は非上場株式にも当てはまると判断しました。本記事では、株式を手放す立場の株主の視点から、両決定がどのような事情を見て手続を公正と評価し、株主のどの主張を退けたのかを整理します。

目次
  1. 本件の手続の種類
  2. 裁判例の基本情報
  3. 当事者の表記
  4. 事案の概要
    1. 非上場の生命保険会社と、資本関係のない生命保険相互会社との経営統合
    2. 対象会社が公表していたエンベディッド・バリュー7,450億円
    3. 当初価格490円から560円への引上げ
    4. 公開買付けの成立と株式売渡請求
  5. 事案の経緯
  6. 取引条件と株式価値の算定結果
    1. 公開買付けの主な条件
    2. 財務アドバイザーによる株式価値の算定結果(普通株式1株当たり)
  7. 当事者の主張
    1. 株主の主張―非上場株式では、裁判所が株式価値を具体的に算定すべきである
    2. 買収者の主張―独立当事者間の取引で、公正な手続を経た価格である
    3. 抗告審で株主が加えた主張
  8. 結論を左右した争点
  9. 第一審の判断
    1. 判断の枠組み―独立当事者間の取引では、公開買付価格と同額とする
    2. 構造的な利益相反関係はなかった
    3. 公開買付けは一般に公正と認められる手続により行われた
    4. 株主が挙げた措置の不足はいずれも公正さを否定しない
    5. 第一審の結論
  10. 抗告審の判断
    1. 原決定を維持し、2か所を補正
    2. 非上場株式でも同じ枠組みが当てはまる理由を補足
    3. 構造的な利益相反関係についての補足
    4. 価格形成過程の各主張と、784円の主張
    5. 抗告審の結論
  11. 審級ごとの結論の推移
  12. 判断の射程
    1. 株主にとって参考となる点
    2. 一般化できない点
  13. よくあるご質問
    1. 公開買付けに応じなかったのに、株式売渡請求で株式を手放さなければならないのはなぜですか。
    2. 非上場株式なら、裁判所は株式の価値を具体的に計算してくれますか。
    3. 会社が自分で公表していた企業価値の数字より、はるかに低い価格を示されました。争えますか。
    4. 第三者委員会もフェアネス・オピニオンもない買収は、不公正といえますか。
    5. 会社から示された価格に納得できない場合、まず何をすべきですか。
  14. 関連する記事と御相談のご案内

本件の手続の種類

本件は、表題に付したとおり、本サイトでは【反対株主の株式買取請求権】の分類で取り上げています。もっとも、決定本文によれば、本件の手続は、厳密には反対株主の株式買取請求そのものではなく、特別支配株主による株式売渡請求(会社法第179条第1項)を受けた売渡株主が、裁判所に株式の売買価格の決定を求めた申立て(会社法第179条の8第1項)です。

総株主の議決権の10分の9以上を取得した株主(特別支配株主)は、他の株主全員に対し、その有する株式の全部を売り渡すよう請求できます。請求を受けた株主は、売渡しそのものを拒むことはできませんが、示された価格に不服があれば、裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます。会社の組織再編等に反対する株主が公正な価格での買取りを求める株式買取請求と同じく、株式を手放すことになる株主が、裁判所に価格の決定を求める手続です。当事務所は、この共通点から、本件を反対株主の株式買取請求権に関する裁判例と同じ分類で御案内しています。

譲渡制限株式の譲渡承認を会社が拒否した場合の株式買取請求(譲渡承認拒否の手続)とは異なる手続です。

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 東京地方裁判所民事第8部 平成30年1月29日 平成28年(ヒ)第112号 決定 申立人が有する対象会社の普通株式の売買価格を1株につき560円と決定。手続費用は各自の負担
抗告審 東京高等裁判所第9民事部 平成31年2月27日 平成30年(ラ)第382号 決定 抗告を棄却(1株560円とした原決定を維持)。抗告費用は抗告人の負担

この表は、2つの決定本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。東京高等裁判所の決定の後に、さらに不服申立てがされたかどうか、及び決定が確定したかどうかは、確認できていません。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。本件の2つの裁判はいずれも判決ではなく決定であり、両決定の本文に出てくる会社名・氏名も、同じ方法で置き換えています。決定本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

本記事の表記 立場
株主である海外の投資会社FIV 第一審の申立人、抗告審の抗告人。対象会社の普通株式2,127万6,500株(持株比率7.15%)を保有し、公開買付けに応募しませんでした
買収者である生命保険相互会社LHM 利害関係参加人。公開買付けを行い、その後に特別支配株主として株式売渡請求をしました
対象会社である生命保険会社TGL 相互会社から株式会社に組織変更した非上場の生命保険会社。株主が多数であったため有価証券報告書の提出義務を負っていました
企業グループCGP 対象会社TGLが属していた企業グループ。対象会社TGLの商号とブランドには、このグループの名称が含まれていました
大手銀行BKA 対象会社TGLの筆頭株主。企業グループCGPに属する再取得株主の一つ
信託銀行TBK、損害保険会社INS、総合商社TRC、不動産会社RLE 対象会社TGLの主要株主で、企業グループCGPに属する再取得株主
証券会社系の投資会社SIA、SIB 対象会社TGLの主要株主(再取得株主ではありません)
生命保険相互会社OLM 対象会社TGLの主要株主。買収者LHMと公開買付けへの応募契約を結びました
証券会社HKS 対象会社TGLの財務アドバイザー(平成27年4月に選任)。主要株主SIBと共通の親会社を持つ会社
証券会社WMN 対象会社TGLが基本合意の後に追加で選任した財務アドバイザー。そのグループが主要株主SIAの株式の60%を保有
証券会社QRT、証券会社JKL 買収者LHMの財務アドバイザー
法律事務所LGA 対象会社TGLの法務アドバイザー
アクチュアリー・ファームACT 買収者LHMが対象会社TGLのエンベディッド・バリューの検証に起用した保険数理の専門機関
アクチュアリー・ファームAQB 対象会社TGLが起用していた保険数理の専門機関。対象会社TGLのエンベディッド・バリューについて検証意見を出していました
社外取締役HNR氏、社外取締役SKM氏 対象会社TGLの社外取締役。HNR氏は大手銀行BKAの名誉顧問、SKM氏は不動産会社RLEの常任監査役でした
上場生命保険会社PLA、上場持株会社PLB 対象会社TGLと比較された国内の上場生命保険会社(PLBは生命保険会社を中核とする持株会社)

この記事では、大手銀行BKA、信託銀行TBK、損害保険会社INS、総合商社TRC及び不動産会社RLEの5社を、決定本文の用語に合わせて「再取得株主」と呼びます。

事案の概要

非上場の生命保険会社と、資本関係のない生命保険相互会社との経営統合

対象会社TGLは、生命保険業を営み、昭和22年に相互会社として成立し、平成16年4月1日に株式会社に組織変更した会社です。非上場会社ですが、株主が多数となったことから有価証券報告書の提出義務を負っていました。平成27年3月末時点の普通株式の株主数は2,905名で、議決権のないA種株式とB種株式も発行されていました。主要株主は、大手銀行BKA(持株比率14.23%)、証券会社系の投資会社SIA(12.16%)、信託銀行TBK(9.11%)、証券会社系の投資会社SIB(8.94%)、損害保険会社INS(7.20%)、海外の投資会社FIV(7.15%)、総合商社TRC(4.06%)、不動産会社RLE(4.05%)、生命保険相互会社OLM(2.54%)でした。

対象会社TGLは、平成3年頃のいわゆるバブルの崩壊以降、予定利率を実際の運用利回りが下回る逆ざや状態が続くなど厳しい財務状態にあり、平成19年以降のサブプライム・ローン問題とリーマンショックの影響で、平成20年度には基礎利益が大幅にマイナスとなりました。平成27年3月期においても逆ざや状態は解消されていませんでした。

買収者LHMは、生命保険業を営む相互会社で、公開買付けまで対象会社TGLの株式を一切保有していませんでした。平成27年3月末時点の総資産は、買収者LHMが62.2兆円、対象会社TGLが7.4兆円でした。

対象会社が公表していたエンベディッド・バリュー7,450億円

エンベディッド・バリューは、貸借対照表等から計算される修正純資産と、保有契約から生じる将来利益の現在価値(保有契約価値)とを合計した金額で、生命保険会社の企業価値を評価する指標の一つとされています。対象会社TGLは、平成27年5月28日、ヨーロピアン・エンベディッド・バリュー原則に従って算出した同年3月末時点の金額(以下「EEV」)が7,450億円であると公表していました。この算出では、必要資本維持のための費用の算出に当たり、ソルベンシーマージン比率400%に相当する金額が必要資本とされていました。

当初価格490円から560円への引上げ

対象会社TGLは、平成27年3月、買収者LHMから経営統合の打診を受け、法律事務所LGAを法務アドバイザーに、証券会社HKSを財務アドバイザーに選任して協議を始めました。同年6月初旬、買収者LHMから普通株式1株当たり490円(以下「当初価格」)の提案を受けましたが、対象会社TGLはこれを受け入れず、シナジーやコントロール・プレミアムを十分に加味するよう求めました。交渉は難航しましたが、同年8月中旬、買収者LHMから1株当たり560円(以下「本件買付価格」)に引き上げる提案がありました。対象会社TGLはその後も更なる引上げを求めましたが、買収者側が応じなかったため、最終的にこの価格を受け入れました。

公開買付けの成立と株式売渡請求

平成27年9月11日に基本合意が、同年11月6日に経営統合契約が締結されました。その内容は、買収者LHMが対象会社TGLの発行済株式の全部を対象に本件買付価格で公開買付けを行い、成立後に応募しなかった株主を本件買付価格と同額で締め出す手続(スクイーズアウト)を行うこと、その後に、買収者LHMが再取得株主5社に対象会社TGLの普通株式の合計16%を本件買付価格と同等の価格で譲渡すること(以下「再取得」)などでした。

公開買付けは平成27年11月9日から同年12月21日まで行われ、成立しました。買収者LHMは、総株主の議決権の96.34%を保有するに至り、平成28年1月27日、応募しなかった株主に対し、同年3月11日を取得日として、普通株式の全部を1株560円で売り渡すよう請求しました。海外の投資会社FIVは、同年3月8日、東京地方裁判所に売買価格の決定を申し立てました。

事案の経緯

時期 出来事(第一審決定の前提事実及び認定事実による)
平成16年4月1日 対象会社TGLが相互会社から株式会社に組織変更
平成27年3月 買収者LHMが対象会社TGLに経営統合を打診。同月下旬、対象会社TGLが法律事務所LGAを法務アドバイザーに選任
平成27年4月 協議を開始。初旬に証券会社HKSを財務アドバイザーに選任。下旬、社外取締役HNR氏とSKM氏を検討・交渉に関与させないこととする
平成27年5月28日 対象会社TGLが同年3月末時点のEEVを7,450億円と公表
平成27年6月初旬 買収者LHMが当初価格490円を提案
平成27年6月中旬 対象会社TGLが当初価格では経営統合を進められないと伝える。同月末の基本合意の予定は延期
平成27年8月 上旬に再度の引上げを要求し、中旬に買収者LHMが560円を提案。下旬に筆頭株主の大手銀行BKAが受入れ可能と連絡。同月28日、海外の投資会社FIVが書面で取引の詳細の説明を求める
平成27年9月11日 取締役会の承認を経て基本合意を締結し、公表
平成27年9月14日から11月2日まで 海外の投資会社FIVが書面や面談で、EEVにプレミアムを加えた額が相当であることなどを主張
平成27年10月下旬 財務アドバイザー同士の交渉で更なる引上げを求めるが、買収者側は応じず
平成27年11月5日 証券会社WMNが株式価値算定書を交付。臨時取締役会が経営統合契約の締結と公開買付けへの賛同を承認
平成27年11月6日 経営統合契約を締結し、公表。買収者LHMが再取得株主5社と公開買付けへの応募契約を締結(同月19日には生命保険相互会社OLMとも締結)
平成27年11月9日から12月21日まで 公開買付けを実施し、成立。買収者LHMが総株主の議決権の96.34%を保有
平成28年1月27日 買収者LHMが株式売渡請求(取得日は同年3月11日、1株560円)。対象会社TGLの取締役会が承認
平成28年3月8日 海外の投資会社FIVが東京地方裁判所に売買価格の決定を申立て
平成30年1月29日 東京地方裁判所が売買価格を1株560円と決定
平成31年2月27日 東京高等裁判所が抗告を棄却する決定

取引条件と株式価値の算定結果

本件では、契約条項の文言そのものではなく、公開買付けの条件と、財務アドバイザーが算定した株式価値の幅が判断の材料となりました。以下は、第一審決定が認定した内容を当事務所が整理したものです。

公開買付けの主な条件

買付価格:普通株式1株当たり560円(A種株式・B種株式は普通株式に転換した場合の株式数に応じた価格)

公開買付期間:平成27年11月9日から同年12月21日まで(30営業日)

買付予定数の下限:4億3,978万5,136株(A種株式・B種株式を普通株式に転換したとみなした場合の株式総数5億9,727万3,868株の約73.63%)

公開買付け後の手続:成立した場合は速やかにスクイーズアウトの手続を行い、応募しなかった株主には普通株式1株当たり本件買付価格と同額の金銭を交付する

再取得:スクイーズアウトの完了後、買収者LHMが再取得株主5社に、本件買付価格と同等の価格で、大手銀行BKAに11%、信託銀行TBKに2%、損害保険会社INS・総合商社TRC・不動産会社RLEに各1%の普通株式を譲渡する

買付予定数の下限は、再取得株主5社と生命保険相互会社OLMが保有する株式(普通株式に転換した場合)の総数と一致していました。

財務アドバイザーによる株式価値の算定結果(普通株式1株当たり)

算定した者 算定方法と結果
証券会社HKS(対象会社側) 類似会社比較法296円から641円、配当割引モデル法359円から695円(意見表明報告書に記載された結果)
証券会社WMN(対象会社側) 類似会社比較法321円から630円、配当割引モデル法394円から711円
証券会社QRT(買収者側) 類似公開会社比較分析312円から699円(3つの指標による結果の全体の幅)、配当割引分析518円から652円(3つのモデルによる結果の全体の幅)
証券会社JKL(買収者側) 類似企業比較分析290円から743円、類似取引比較分析556円から709円、アプレーザル・バリュー分析626円から852円

本件買付価格560円は、対象会社側の財務アドバイザー2社の算定結果のいずれの幅にも収まっていました。第一審決定は、証券会社HKSが平成27年8月に更新した試算(類似会社比較法297円から648円、配当割引モデル法354円から687円)及び証券会社WMNの算定結果のいずれについても、本件買付価格が幅の中央値を上回るものであったと認定しています。

当事者の主張

株主の主張―非上場株式では、裁判所が株式価値を具体的に算定すべきである

海外の投資会社FIVは、第一審で、次のように主張しました。

  • 公開買付価格を尊重する考え方を示した最高裁判所の決定(最高裁判所平成24年2月29日第二小法廷決定(平成23年(許)第21号、第22号)及び最高裁判所平成28年7月1日第一小法廷決定(平成28年(許)第4号ないし第20号))は、いずれも上場株式の事案であり、市場株価という指標のない非上場株式には当てはまらない。非上場株式の価格が争われた最高裁判所平成27年3月26日第一小法廷決定(平成26年(許)第39号)は、手続の公正さを問わずに株式価値を算定している。
  • 再取得株主5社は、再取得により経営統合のシナジーや企業グループCGPのブランド価値の向上を享受できるため、一般株主との間に、経営者による企業買収(MBO)に類似した構造的な利益相反関係がある。財務アドバイザーの証券会社HKSと証券会社WMNも、主要株主の関連会社であり、成功報酬を得る立場にある。取締役のうち3名は、再取得株主の取締役又は執行役員の経歴を持っていた。
  • それにもかかわらず、独立した第三者委員会の設置、公正性に関する意見書(フェアネス・オピニオン)の取得、利害関係のない株主の過半数の応募を成立条件とする設定(マジョリティ・オブ・マイノリティ)、利益相反関係のない取締役会による財務アドバイザーの選任、成功報酬の開示、複数の買収希望者を競わせる手続(オークションプロセス)のいずれも行われなかった。
  • 対象会社TGLは、自ら公表したEEV7,450億円を無視し、その半額にも満たない額を基準に本件買付価格を決めた。
  • 売買価格は、EEV7,450億円に40%のプレミアムを加え、A種株式・B種株式を普通株式に転換した場合の株式数で割った1,746円を下回らない。

買収者の主張―独立当事者間の取引で、公正な手続を経た価格である

買収者LHMは、対象会社TGLとの間に資本関係はなく、構造的な利益相反のおそれのない独立した会社同士の取引であり、本件買付価格は、株主の利益にかなう判断を期待できる取締役が交渉して定め、適切な情報開示のもとで多数の応募により株主に受け入れられたものであると主張しました。上記の最高裁判所の決定の考え方は上場株式であることを前提としておらず、非上場株式にこそ当てはまるとも主張しています。そのうえで、本件買付価格560円は、財務アドバイザー2社の算定結果の幅の中にあるとしました。

抗告審で株主が加えた主張

海外の投資会社FIVは、抗告審で、非上場株式には市場株価という客観的な指標がなく、手続だけを形式的に整えて不当な価格で締め出す濫用の危険が高いので、手続面から価格の公正さを判定する手法は採り得ず、価格そのものを実質的に審査すべきであると主張しました。また、経営統合後の平成29年度に対象会社TGLの純利益がスタンドアローンの事業計画の2.18倍から4.04倍となったとして、再取得株主5社がシナジーを享受する可能性は現実のものであったと主張しました。さらに、本件買付価格の形成過程として、(a)EEVを算定方法から外した過程、(b)シナジーとコントロール・プレミアムを織り込んだ過程、(c)当初価格を引き上げた過程、(d)財務アドバイザーの助言を受け入れた過程が具体的にどう機能したかを示す証拠はないと指摘しました。配当割引モデル法の算定で、対象会社TGLがEEVの算出で用いたソルベンシーマージン比率400%ではなく、株式価値が低く出る比率が使われたことも問題としました。

そして、売買価格は1,746円が相当であり、仮に本件買付価格を前提にするとしても、その4割に当たるシナジー・プレミアムを加えた784円とすべきであると主張しました。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

両決定が示した争点は、本件株式1株当たりの売買価格です。結論を分けたのは、次の3点でした。

  1. 相互に特別の資本関係がない会社間の経営統合で、公開買付けの後に株式売渡請求がされた場合、裁判所は売買価格を公開買付価格と同額とすべきか。その考え方は非上場株式にも当てはまるか。
  2. 再取得株主5社、財務アドバイザー及び取締役と一般株主との間に、経営者による企業買収に類似した構造的な利益相反関係があったか。
  3. 第三者委員会の不設置やEEVを大幅に下回る価格であったことなどを踏まえても、公開買付けは一般に公正と認められる手続により行われたといえるか。

第一審の判断

判断の枠組み―独立当事者間の取引では、公開買付価格と同額とする

東京地方裁判所は、買収者LHMが公開買付けまで対象会社TGLの株式を一切保有しておらず、資本関係がなかったことを認定したうえで、次のように述べました。

「相互に特別の資本関係がない会社間において、一方の会社が他方の会社と経営統合するための手続として株式の公開買付けを行い、その後に当該会社の株式について会社法179条1項に基づく特別支配株主による株式売渡請求をして、当該会社の株式の全部を取得する場合においては、いわゆる独立当事者間において企業間取引がされた場合と同様に、それぞれの会社において忠実義務を負う取締役が当該会社及びその株主の利益にかなう契約内容や買付価格を決定することが期待できるというべきである。」

「公開買付けに応募しなかった株主の保有する株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど、一般に公正と認められる手続により経営統合の手段たる公開買付けが行われ、その後に公開買付けに係る買付価格と同額で株式売渡請求がされた場合には、株主が公開買付けに応じるか否かを適切に判断することが期待できる以上、上記の手続において基礎となった事情に予期しない変動が生じたなどの特段の事情がない限り、裁判所は、株式売渡請求に係る株式の売買価格を公開買付けに係る買付価格と同額とするのが相当である。」

そして、この考え方について、「このような理は、公開買付けの対象となる株式が市場株価を有する上場株式である場合のみならず、非上場株式である場合にも等しく当てはまるというべきである。」と判断しました。株主が挙げた最高裁判所平成27年3月26日第一小法廷決定については、非上場のグループ会社間の組織再編で鑑定がされた場合の評価手法について判断したものであり、「非上場株式一般について、裁判所が常に鑑定を行って株式価値を具体的に算定しなければならないとしたものではない」として、本件とは事案を異にするとしました。

構造的な利益相反関係はなかった

再取得株主5社について。決定は、再取得株主5社が合わせて38.65%の株式を保有していたところ、再取得を前提としても持株比率は合計16%に大幅に減り(大手銀行BKAは14.23%から11%、信託銀行TBKは9.11%から2%など)、再取得も本件買付価格と同額で行われることから、実質的には株式の大半を本件買付価格で売却しているに等しいと認定しました。そのため、再取得株主5社は、買付価格が下がれば損失が拡大するという意味で、一般株主と同様の利害を持つとしました。買付価格が低いほど再取得の条件が有利になるという株主の主張については、これを認める証拠はないとしました。

再取得株主5社が、再取得した株式についてシナジー等の利益を受ける可能性があることは否定されないとしつつ、再取得は、営業職員をはじめとする従業員のモチベーションやロイヤリティを維持するため、経営統合後も商号とブランドを維持する必要があり、そのために企業グループCGPとの資本関係を一定程度維持しようとしたものであって、「本件再取得株主に対して対象会社の一般株主とは異なる特別の利益を与える目的で実施されたと認めることは困難である。」と判断しました(引用中の「本件再取得株主」は再取得株主5社、「対象会社」は対象会社TGLを指します)。

財務アドバイザーについて。証券会社HKS・WMNと主要株主SIB・SIAとの間に一定の資本関係があったことは認めましたが、SIA・SIBは一般株主と同じく株式を売却する立場で、株式を再取得するものでもないから、一般株主と対立する利害はないとしました。成功報酬により低い価格を算定する動機があるという主張は、「抽象的な可能性を指摘するものに止まり」とされました。むしろ証券会社HKSは、当初価格について引上げを求めるべきと助言し、交渉が難航する中でも価格の再考を求める方法を助言していたと認定されています。

取締役について。決議に関与した取締役のうち3名が再取得株主の取締役又は執行役員の経歴を持っていたことは認めつつ、いずれも経営統合の打診の約3年から6年以上前に退任しており、再取得株主の意向に強く影響されるとまでは断定し難いとしました。経営統合後に対象会社の出身者3名を取締役とする合意についても、「出身者」は役職員であって取締役に限られず、地位が保障されていた事実も認められないとしました。

公開買付けは一般に公正と認められる手続により行われた

決定は、交渉の経過として、対象会社TGLが外部の専門家(法務アドバイザー、財務アドバイザー及びアクチュアリー・ファーム)の助言を得ながら、打診から経営統合契約まで約7か月にわたって交渉し、当初価格490円の引上げを求めて560円への引上げに成功し、その後も上乗せを要請したことなどを挙げ、「〔対象会社TGL〕と〔買収者LHM〕との間で、対象会社の一般株主にも配慮した買付価格の模索も含め、実質的な交渉が行われて実施されるに至ったもの」と評価しました。

情報開示の面でも、基本合意の直後に、公開買付けとその後のスクイーズアウト、再取得の協議といった重要事項を公表し、経営統合契約の直後に買付価格、期間、下限、応募しなかった株主が同額で締め出されることなどを公表し、公開買付届出書と意見表明報告書で双方の財務アドバイザーの算定過程と結果を開示し、30営業日の公開買付期間を設けたことを挙げました。そのうえで、「本件公開買付けに当たっては、対象会社の株主が本件公開買付けに応じるか否かの判断に必要となる情報が適時かつ適切に開示されており、また、当該判断に必要な期間も十分に確保されていたということができる。」と判断しました。

株主が挙げた措置の不足はいずれも公正さを否定しない

株主の指摘 第一審決定の判断(要約)
独立した第三者委員会がない 特別の資本関係も構造的な利益相反関係もなく、外部専門家の助言を得て交渉し、取締役会は株主の反対意見も検討したうえで全員一致で承認し、資格を持つ社外監査役を含む監査役全員が異議なしとしている。第三者委員会がなければ株主の利益にかなう価格を期待できないとは認め難い
フェアネス・オピニオンがない 複数の算定結果を得ており、算定過程が一見して明らかに不当とする証拠はない。本件買付価格はその幅の中にあり、財務アドバイザーは株主の利益を確保する助言をしたうえで、これ以上の引上げは望めないと伝えている
マジョリティ・オブ・マイノリティの設定がない 応募契約を結んだ株主の株式数が下限と一致することは認められるが、そもそも構造的な利益相反関係がなく、経済産業省の指針でも工夫例の一つとされているにすぎない
利益相反のある取締役会が財務アドバイザーを選任した 社外取締役HNR氏・SKM氏は手続に全く関与しておらず、他の取締役にも構造的な利益相反関係はない。財務アドバイザーが一般株主の利益に反する行動をとった証拠もない
成功報酬を開示していない 成功報酬の有無や内容の開示が一般的な実務であると認める証拠はない
オークションプロセスがない 一般的な実務であると認める証拠はない。競合する提案があれば協議できる旨の規定があったが、具体的な買収提案はなかった。免許が必要な生命保険業であることも考慮すると、実施すれば対抗する買収者が現れたとは直ちにいえない
自ら公表したEEVを大幅に下回る 下記のとおり、そのことの一事をもって手続の公正さが否定されるとは即断できない

EEVとの関係について、決定は、我が国ではエンベディッド・バリューの算定や開示に関するガイドラインがなく、前提条件の値も会社ごとに異なり、その影響も比較的大きいとの指摘があること、生命保険協会の加盟41社のうち平成27年度に開示したのは17社にとどまり、開示の基準も分かれていること、株式価値との関連性の研究はほとんどなく、財務情報の補完にとどまるとの指摘もあること、上場生命保険会社PLA・上場持株会社PLBの直近5年間の株価とエンベディッド・バリューの倍率の平均が0.42倍・0.47倍にとどまることを認定しました。そのうえで、「対象会社が自ら公表したEVを基準とした買付価格が採用されず、むしろ同EVを大幅に下回る金額を基準にして本件買付価格が定められたことの一事をもって、手続の公正さが否定されると即断することはできない。」と判断しました。

さらに、対象会社TGLが厳しい財務状態の中で、規模の大きい買収者LHMと交渉し、財務アドバイザー等からエンベディッド・バリュー自体を株式価値とするのは合理的でないとの説明や、前提条件の置き方に幅があるとの指摘を受けたうえで、あえて前提条件の議論に立ち入らずに引上げ交渉をし、当初価格からの引上げに成功したことを挙げ、本件買付価格は実質的な交渉で決定されたもので、利害が適切に調整されたものではないとはいえないとしました。

第一審の結論

決定は、公開買付けは一般に公正と認められる手続により行われ、基礎となった事情に予期しない変動が生じたなどの特段の事情も認められず、株式売渡請求は本件買付価格と同額で公開買付けの成立後遅滞なく行われたとして、「その余の点について検討するまでもなく」売買価格を本件買付価格と同額の1株560円とするのが相当と判断しました。1,746円を下回らないとする株主の主張は、いずれも採用されませんでした。

決定の主文は、「申立人が有する〔対象会社TGL〕の普通株式の売買価格は、1株につき560円とする。」「手続費用は各自の負担とする。」というものです(「申立人」は海外の投資会社FIVを指します)。

抗告審の判断

原決定を維持し、2か所を補正

東京高等裁判所は、「当裁判所も、抗告人が有する〔対象会社TGL〕の普通株式の売買価格は1株につき560円とするのが相当であると判断する。」と述べ、第一審決定の判断理由を引用しました。そのうえで、次の2か所を改め、又は付け加えています(いずれも数値の補充であり、結論を変えるものではありません)。

  • 応募の状況の補正:公開買付けへの応募が、A種株式・B種株式を普通株式に転換したとみなした場合の株式総数5億9,727万3,868株のうち5億7,543万2,699株(株式総数の96.34%)であったこと、買付予定数の下限4億3,978万5,136株は再取得株主5社と生命保険相互会社OLMが保有する株式の総数と同じで、株式総数の73.63%であったことを明記しました。
  • マジョリティ・オブ・マイノリティに関する付加:経済産業省の指針の記載が工夫例の一つにすぎないとした部分の次に、再取得株主5社と生命保険相互会社OLMが保有する株式以外の株式(合計1億5,748万8,732株)のうち、86.13%に当たる1億3,564万7,563株を保有する株主が公開買付けに応募していることを加えました。

2つ目の付加は、応募契約を結んだ株主以外の株主の大多数も応募していたという事実を示すもので、マジョリティ・オブ・マイノリティの条件が設定されていなかったことについての判断を補強する位置付けになっています(この位置付けは当事務所の読み方です)。

非上場株式でも同じ枠組みが当てはまる理由を補足

東京高等裁判所は、第一審と同じ判断の枠組みを改めて示したうえで、非上場株式には市場株価という指標がないから手続面からの判定は採り得ないという抗告人の主張に対し、株式価格の形成には多元的な要因が関わり、種々の価格決定方法があるため、一義的な結論を得ることは困難で、一定の選択の幅の中で関係当事者や株主の経済取引的な判断に委ねられる面があるとしたうえで、次のように述べて主張を退けました。

「独立当事者間の取引の場合には各当事者がそれぞれ経済合理性を追求することから、合理的な価格が形成されるのが通常であり、このことは、上場株式に限らず、非上場株式の場合も同様である。」

構造的な利益相反関係についての補足

再取得株主5社がシナジー等を享受する可能性があるという主張について、東京高等裁判所は、第一審と同じく、再取得の目的からみて特別の利益を与える目的とは認め難いとし、さらに、「シナジー等の利益は種々の要因が複合的、相乗的に影響することにより生じるものであって、これを取引前に具体的に算定することは困難であり」、買付価格と妥当と考えられる価格との差額をシナジー等の利益で補えるかを判断することも困難であると付け加えました。再取得株主5社の持株比率の減少については、A種株式・B種株式を普通株式に置き換えた場合の数値(大手銀行BKAは35.73%から11%など)も示し、一般株主と同様の利害を持つという判断を維持しています。

価格形成過程の各主張と、784円の主張

  • シナジーとコントロール・プレミアムの織込み:財務アドバイザーの株式価値算定書ではスタンドアローンの事業計画を前提にシナジーを織り込まないことが実務上一般的といえる状況で、対象会社TGLは助言を随時受けながら、シナジーやコントロール・プレミアムを十分に勘案した価格となるよう交渉しており、その交渉を踏まえて本件買付価格が決定されたと認められるとして、公正な手続により行われたとの判断は動かないとしました。
  • ソルベンシーマージン比率:「〔証券会社HKS〕がDDM法による算定において使用した対象会社のソルベンシーマージン比率は対象会社の直近事業年度の実測値であり、これを株式価値の算定において用いたことについて不合理な点は認められない。」と判断しました。前提事実及び当事者の主張によれば、この実測値は812.4%です。
  • 1,746円又は784円とすべきとの主張:「シナジー・プレミアムを4割とみるべき証拠は見出すことはできず」、売買価格は本件買付価格と同額の1株560円とするのが相当であるとして、採用しませんでした。
  • 証拠の申出:抗告人の文書提出命令の申立て(平成30年(ウ)第274号)と平成30年11月12日付けの鑑定の申出は、「いずれも必要性がないから、却下する。」とされました。

抗告審の結論

東京高等裁判所は、原決定は相当であり、抗告は理由がないとして棄却しました。主文は、「本件抗告を棄却する。」「抗告費用は、抗告人の負担とする。」というものです(「抗告人」は海外の投資会社FIVを指します)。東京高等裁判所は、第一審の判断を維持し、応募状況の数値を補正したもので、判断の枠組みや結論を変更した点はありません。

審級ごとの結論の推移

項目 第一審(東京地方裁判所平成30年1月29日決定) 抗告審(東京高等裁判所平成31年2月27日決定)
株主が求めた価格 1株1,746円を下回らない 1株1,746円。予備的に784円
判断の枠組み 独立当事者間で、一般に公正と認められる手続による公開買付けの後に同額で売渡請求がされた場合は、特段の事情がない限り公開買付価格と同額。非上場株式にも等しく当てはまる 同じ(維持)。独立当事者間では非上場株式でも合理的な価格が形成されるのが通常であると補足
構造的な利益相反関係 再取得株主、財務アドバイザー、取締役のいずれについても否定 同じ(維持)。シナジーは取引前に具体的に算定することが困難であると補足
手続の公正さ 肯定。株主が挙げた措置の不足やEEVとの差も公正さを否定しない 同じ(維持)。応募状況の数値を補正し、応募契約のない株主の86.13%の応募を付加
売買価格 1株560円 1株560円(抗告棄却)
費用 手続費用は各自の負担 抗告費用は抗告人の負担

判断の射程

以下は、両決定の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が示した判断そのものとは区別してお読みください。最終的な判断である東京高等裁判所の決定を基準とし、同決定は第一審の判断を維持したものです。

株主にとって参考となる点

  • 独立した会社による買収では、公開買付価格を超える価格を得ることは難しくなり得ること。両決定は、買収者と対象会社の間に特別の資本関係がなく、一般に公正と認められる手続で公開買付けが行われた場合には、特段の事情がない限り、公開買付価格と同額を売買価格とするとしました。株主が独自の評価方法で算定した高い価格を示しても、裁判所が株式価値を一から算定するのではなく、まず手続の公正さを審査するという判断の順序になっています。
  • 非上場株式であることだけでは、この枠組みを避けられないこと。市場株価がない非上場株式では裁判所が価格を実質的に審査すべきという主張は、両決定で退けられました。非上場会社の株主にとっても、価格を争うには、手続の公正さを具体的に崩す事情を示すことが中心になると考えられます。
  • 争点になるのは「構造的な利益相反関係」の有無であること。両決定は、第三者委員会やフェアネス・オピニオンなどの措置がないことを、構造的な利益相反関係がないことを前提に、公正さを否定する事情とはしませんでした。逆にいえば、株主側としては、買収者と一部の株主・取締役との間に、買付価格が下がるほど得をする関係があるかどうかを具体的な証拠で示せるかが重要になります。本件では、再取得株主が株式の大半を同じ価格で売却する立場にあったことが、利益相反を否定する大きな理由となりました。
  • 会社が公表していた企業価値の指標との差だけでは足りないこと。対象会社が自ら公表した指標を大幅に下回る価格でも、その指標の位置付けや交渉の経過によっては、手続の公正さは否定されませんでした。会社が公表した数字を根拠にする場合も、その数字が株式価値とどう結び付くかの立証が必要になります。
  • 交渉の記録と開示の内容が重視されること。当初価格からの引上げ、複数の算定結果、公開買付届出書・意見表明報告書での開示、30営業日の期間、応募の割合といった事実が、手続を公正とする根拠として積み重ねられています。株主が公開買付けに応じるかどうかを判断する段階で、これらの開示書類を確認し、疑問点を書面で会社に伝えておくことは、後に価格を争う場合の材料にもなり得ます。

一般化できない点

  • 本件は、資本関係のない会社同士の経営統合の事案です。親会社による子会社の完全子会社化や経営者による企業買収のように、買収者と株主・取締役の間に構造的な利益相反関係がある事案では、利益相反を排除する措置が講じられたかどうかが問題となり、本件の判断をそのまま当てはめることはできません。
  • 本件の対象会社は、非上場であっても株主数が多く、有価証券報告書を提出し、公開買付届出書や意見表明報告書で算定結果が開示されていました。株主数が少ない同族会社などで、このような開示や手続がない場合の価格決定にまで、本件の判断が及ぶとはいえません。
  • 両決定は、公開買付価格と同額とする結論を手続の公正さから導いており、対象会社の株式価値が560円であることを鑑定などにより積極的に算定したものではありません。生命保険会社のエンベディッド・バリューの評価方法について一般的な判断を示したものでもありません。
  • 抗告審での経営統合後の業績に関する主張は、シナジーを取引前に具体的に算定することは困難であるとして退けられましたが、取引後の事情がおよそ考慮されないと述べたものではありません。両決定は「基礎となった事情に予期しない変動が生じたなどの特段の事情」がある場合を留保しています。
  • 東京高等裁判所の決定の後の不服申立ての有無及び確定は、確認できていません。

協議が調わない場合に裁判所に価格の決定を申し立てる手続と、その期限は、次のページでご案内しています。

よくあるご質問

公開買付けに応じなかったのに、株式売渡請求で株式を手放さなければならないのはなぜですか。

総株主の議決権の10分の9以上を持つ特別支配株主は、会社法第179条第1項により、他の株主全員に株式の全部の売渡しを請求できます。本件では、買収者が公開買付けで議決権の96.34%を取得した後にこの請求をしました。売渡しを受ける株主は、価格に不服があれば、裁判所に売買価格の決定を申し立てることができ、本件の株主もこの手続をとりました。

非上場株式なら、裁判所は株式の価値を具体的に計算してくれますか。

本件ではそうなりませんでした。両決定は、相互に特別の資本関係がない会社間で、一般に公正と認められる手続により公開買付けが行われた場合には、非上場株式であっても、特段の事情がない限り公開買付価格と同額を売買価格とするとし、抗告審では株主の鑑定の申出も必要性がないとして却下されました。もっとも、買収者と対象会社の間に資本関係がある事案や、手続の公正さに問題がある事案では、判断が異なり得ます。

会社が自分で公表していた企業価値の数字より、はるかに低い価格を示されました。争えますか。

争うこと自体はできますが、数字の差だけでは足りない場合があります。本件では、対象会社が公表していた企業価値の指標7,450億円を基準にすると1株1,746円になるという株主の主張は、その指標の位置付けや交渉の経過から採用されませんでした。会社が公表した数字が株式の価値とどう結び付くのか、価格を決める手続にどのような問題があったのかを、具体的な資料で示すことが重要です。

第三者委員会もフェアネス・オピニオンもない買収は、不公正といえますか。

本件では、それだけでは不公正とされませんでした。両決定は、買収者と株主・取締役との間に構造的な利益相反関係がないことを前提に、外部専門家の助言、交渉による価格の引上げ、十分な情報開示と期間の確保などから、手続を公正と評価しました。構造的な利益相反関係がある取引では、こうした措置の有無が重く見られる可能性があります。

会社から示された価格に納得できない場合、まず何をすべきですか。

価格の決定の申立てには法律上の期間の制限があります。株式売渡請求の場合、会社法第179条の8第1項により、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に申し立てる必要があります(本件の株主は、取得日の3日前に申し立てています)。示された価格の根拠となった算定結果、開示書類、交渉の経過を早めに確認し、手続の種類と期限を把握したうえで、価格を争うかどうかを検討することが大切です。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

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著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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