裁判所の株式売買価格の裁判例(Y興業事件)

M&Aの株式の売買では、買主と売主がそれぞれの考えのもとで「株式売買価格」と「なぜその算定に至ったのか」を提示します。売主と買主の協議で決める旨、会社法に定められているのです。

会社法第144条 第141条第1項の規定による通知があった場合には、第140条第1項第2号の対象株式の株式売買価格は、株式会社と譲渡等承認請求者との協議によって定める。

会社法で定められている通り、株式売買価格は買主と売主の協議で決めます。しかし、株式売買価格の算定方法は種々あるため、買主と売主が株式売買価格や株式価格の算定方法を巡って争いとなることも少なくありません。M&Aにおいて株式売買価格について争いとなった場合は、最終的に裁判所の判断を仰ぐことになります。

株式売買価格決定の参考として、「Y興業事件」をご紹介します。Y興業(株式の買主)等と申立人(株式の売主)の間で株式売買価格の協議がまとまらなかったため、株式売買価格の決定を裁判所にゆだねた事例です。

本稿で取り上げるのは、大阪地方裁判所平成25年1月31日決定(平成22年(ヒ)第54号、平成22年(ヒ)第62号 株式売買価格決定申立事件)です。判例タイムズ1392号248頁、金融・商事判例1417号51頁及び判例時報2185号142頁に掲載されています。

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Y興業事件(株式売買価格の裁判例)の概要

1 Y興業が申立人から買い取るT株式会社の普通株式18万1450株の売買価格の決定を求める。

2 T株式会社が申立人から買い取るT株式会社の普通株式18万1450株の売買価格の決定を求める。

申立人はT株式会社株式の株式を所持していました。T株式会社の株式には譲渡制限の定めがあります。

申立人は株式譲渡の申請を行いましたが、T株式会社は譲渡を認めませんでした。そのため、申立人は譲渡承認及び譲渡承認をしない場合の指定買取人への株式買取を請求。T株式会社は自らが買取するとともに、Y興業を指定買取人に指名する旨を申立人に伝えました。

Y興業(買主)とT株式会社(買主)、株式売買価格決定の申立人(売主)は株式売買価格決定のために協議しました。しかしY興業(買主)とT株式会社(買主)、株式売買価格決定の申立人(売主)の間で協議がまとまらず、株式売買価格が決まりません。

第144条2 株式会社又は譲渡等承認請求者は、第141条第1項の規定による通知があった日から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができる。

会社法の条文にしたがい、「Y興業(買主)と株式売買価格決定の申立人(売主)の株式売買価格」と「T株式会社(買主)と株式売買価格決定の申立人(売主)の株式売買価格」の算定を裁判所に求めました。

本件の裁判の表示

本件は、大阪地方裁判所の株式売買価格決定申立事件です。事件番号は、平成22年(ヒ)第54号及び平成22年(ヒ)第62号であり、買主が2名であることに対応して、甲事件及び乙事件の2件の申立てがされています。

Y興業事件(株式売買価格の裁判例)の対象株式のデータ

少数株主の保有株式数

36万2900株(発行済株式総数の約18.9%)

申立人(少数株主である株式会社)の代表取締役が、かつて対象会社であるT株式会社の役員であったという事実がある

支配株主の保有株式数

Y興業(裁判の相手方、買主)47万4780株(発行済株式総数の約24.73%)

議決権割合約37.75%

対象会社の代表取締役の親族グループ

議決権割合約19.71%

Y興業と対象会社の代表取締役の親族グループで議決権割合が合計約57.46%の過半数になる。

Y興業事件(株式売買価格の裁判例)のT株式会社の会社データ

発行済株式総数が192万株の不動産賃貸を主たる業とする株式会社であり、定款に株式譲渡制限が規定され、その旨の登記がなされている。

4件の不動産を所有し、賃料収入を得ている。

T株式会社が所有する4件の不動産

裁判所が認定した4件の不動産は、次のとおりです。括弧内は、判文が各不動産に付している呼称です。
  • 大阪市中央区に所在する建物の敷地(NGK土地)
  • 大阪市中央区に所在する建物の敷地(SWING土地)
  • 大阪市浪速区に所在する駐車場として利用されている土地(駐車場土地)
  • 東京都中央区に所在する土地及びその土地上の建物(MDMビル)
T株式会社が不動産賃貸業を営み、多額の資産を保有していることは、後に述べる非流動性ディスカウントに関する判断においても考慮されています。

Y興業事件(株式売買価格の裁判例)の争点と当事者の主張

Y興業事件において裁判所で解決すべき問題点は「T株式会社の株式売買価格はいくらか」という点です。

T株式会社の株式売買価格はいくらかという点については、当事者の間で主張が分かれています。

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Y興業事件(株式売買価格の裁判例)の申立人側の主な主張や株式価格算定

本件株式売買価格は、1株3149円である。

本件株式の評価に当たっては、Tが資産管理会社としての特質を有していること、本件が実質的には同族の有力株主からのTの資産の分割あるいは精算を求めるものであることから、時価純資産法によって評価すべきである。

仮に純資産法のみによることが不適切であるとしても、時価純資産法及びDCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)の両方に重きを置いて算定すべきである。

配当還元法を採用すべきではない。

株式売買価格決定の申立人(売主)は「T株式会社の株式1株について3149円の価格をつけるべきである」と主張しました。また、申立人は、T株式会社の株式売買価格を算定する際に「時価純資産法という方法を使うべきである」とも主張しました。

時価純資産法とは、貸借対照表に記録された純資産を時価に引き直し、同じく時価に引き直しを行った負債を差し引いて評価する方法です。

時価純資産法は帳簿に記録された数字をベースに計算を進めるため、「なぜこの計算結果になるのか」と相手側の問い合わせがあっても、「帳簿の数字をベースにしています」と帳簿類を見せることで確認可能なので、証明しやすく、客観性のある方法の一つとしてメリットがあります。

しかし、時価に引き直すというプロセスがあるため、時価への引き直しの際に、実際の資産との間に乖離が生じるリスクがあるのです。このリスクについては、時価純資産法のデメリットとしてもよく指摘されています。

株式売買価格決定の申立人(売主)は時価純資産法を使って株式価格を決定すべきだと主張。時価純資産法だけで算出することが方法のデメリットなどの点から不適切だと思われる場合は、時価純資産法とDCF法の両方を使って算定すればいいだろうとも主張しました。

DCF法は、会社の将来的な価値を重視して計算する方法です。会社が将来的にどのくらいの価値を生み出すのかを予想して計算に含めるところに特徴があります。時価純資産法とよく比較される方法がDCF法です。

Y興業事件(株式売買価格の裁判例)の相手方の主な主張や株式価格算定

相手方(買主)はT株式会社とY興業です。

T株式会社とY興業それぞれに主張があります。

T株式会社の主張

本件株式売買価格は、1株1903円ないし2326円である

時価純資産法は、一時点における会社の純資産を基礎に株価を評価するものであり、会社の存続を前提としない清算価値を表すものであるから、事業継続中の会社の株価評価には不適切である。

DCF法の方が事業継続中の会社の株価評価には適している。

本件においては、DCF法によるべきである。

T株式会社は、1株あたり1903円ないし2326円の株式売買価格にすべきだと主張しました。申立人は株式売買価格の算定には時価純資産法が適切だと言いましたが、T株式会社側は申立人の計算方法の選択は不適切だと言っています。

また、T株式会社株式売買価格の算定には、DCF法が最も適しているので、DCF法を用いるべきだと主張。DCF法で計算すると、T株式会社が主張する株式売買価格になると言うのです。

前述したように、DCF法は会社の将来に着目して計算する方法です。T株式会社がDCF法を使用した理由は、T株式会社の「事業内容(不動産賃貸業)」と「解散が予定されているわけではない」という事実からになります。

Y興業の主張

本件株式売買価格は、1株2067円である。

T株式会社は、継続企業として将来継続的に一定の収益を獲得することが期待されている。さらに、T株式会社は、不動産賃貸業を主たる事業としており、その収支予測は比較的容易であるといえ、DCF法の問題点であるフリーキャッシュフローの予測の確実性も高い。

時価純資産法は、会社の有する資産から負債の額を控除した純資産を基準に評価する方法であるが、DCF法と異なり、解散時の分配価値を示すものであり、T株式会社のような事業を継続している企業の株式価値を算定する方法としては相応しくない。

株式価値を算定するにあたっては、DCF法が最も妥当といえる。

Y興業も時価純資産法は今回の株式売買価格の算定には不適切だと言っています。T株式会社とおおむね同様に、「事業内容(不動産賃貸業)」や「解散が予定されているわけではない」という点から、株式売買価格の計算にはDCF法が妥当だという主張です。

ここで注目したいのは、DCF法が妥当だと言っているT株式会社とY興業の株式売買価格が大きく違っている点になります。

T株式会社とY興業はDCF法、要は同じ方法を使うことが妥当だという主張は重なっているのですが、計算結果はまったく違います。これは、特に珍しいことではありません。

DCF法は将来に着目する方法です。将来を正確に予想することは、容易ではありません。また、将来予測は、計算する人によって違ってきます。同じように「DCF法を使うべきだ」と主張しても、算定プロセスや将来の見積もりによって計算結果が違ってくるのです。

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Y興業事件(株式売買価格の裁判例)の判例概要・株式の算定方法

Y興業の株式価格については、以下のような裁判所の判断がありました。

【判旨概要】
相手方らが申立人から買い取るT株式会社の普通株式36万2900株の売買価格を1株につき2460円と定める。

配当還元法と収益還元法を採用し、各手法による算定価格を加重平均して算定するのが合理的である。

【判旨】
単純な少数株主にとっての株式の価値は、配当還元法による1株300円である。他方、完全な支配権を保有している株主にとっての株式の価値は、収益還元法による1株3500円を基礎とするべきである。

以上の検討を総合的に勘案すると、申立人は外形的には少数株主であるが、経営に影響を与える可能性も残されているから、配当還元法による評価額1株300円に20%、収益還元法による評価額1株3000円に80%のウェイトを置いて評価するのが適切である。そうすると、本件株式の平成22年7月1日現在の評価額は1株2460円(300×0.2+3000×0.8)となる。

収益還元法による価格3000円を80%、配当還元法による価格300円を20%の割合で加重平均すると、本件非上場株式の価格は、1株2460円(3000×0.8+300×0.2)となる。

以上によれば、本件株式売買価格を1株につき2460円と定めるのが相当である。

Y興業事件(株式売買価格の裁判例)の判旨概要について

Y興業事件の株式売買価格の算定には「配当還元法と収益還元法を使う」が裁判所の判断です。ふたつの方法を採用した上で、配当還元法と収益還元法で算定した株式売買価格を加重平均すると「株式売買価格は1株2460円になる」が裁判所の出した結論になります。

Y興業事件(株式売買価格の裁判例)の判旨について

裁判所はなぜ「配当還元法と収益還元法を使う。その上で加重平均する」という結論を出したのでしょう。

裁判所の結論には、「少数株主にとっての株式の価値」と「完全な支配権を保有している株主にとっての株式の価値」が関係しています。

「少数株主にとっての株式の価値」と「完全な支配権を保有している株主にとっての株式の価値」は異なり、少数株主にとっての株式の価値は配当還元法により1株300円になります。対して完全な支配権を保有している株主にとっての株式の価値は、収益還元法による1株3500円。株主の属性によって価値が変わってくるという判断です。

申立人は対外的には少数株主です。ですが、会社の経営や支配に影響を及ぼす可能性のある株主でもあります。少数株主に支配権を持つ株主の側面が一部混ざっているのです。T株式会社とY興業については、支配権を持つ株主であると判断しています。以上の点を考慮して「配当還元法と収益還元法を使って、その上で加重平均する」という結論です。

裁判所が示した算定の道筋

本決定が1株2460円という結論に至るまでには、収益還元法による算定額をそのまま用いたのではなく、非流動性ディスカウントを適用するという一工程が置かれています。前に掲げた判旨において「収益還元法による1株3500円」と「収益還元法による評価額1株3000円」とが食い違って見えるのは、この一工程があるためです。裁判所が是認した算定の順序は、次のとおりです。

第1に、収益還元法です。裁判所が選任した鑑定人は、対象不動産の収益価格を基礎とし、本社コストを控除し、非事業資産を加算するなどの調整を経て、1株3509円という計算結果を得ました。もっとも、算定の前提条件には幅があることから、評価額は1株3500円とされています。

第2に、非流動性ディスカウントです。裁判所は、対象会社が非上場会社であり、その株式に譲渡制限が付されていることから、譲渡による資金化に制約があるとして、1株3500円に15%の減額を施すことを是認しました。計算すると1株2975円(3500円×(1-0.15)=2975円)となり、ここでも前提条件の幅を考慮して、評価額は1株3000円とされています。

第3に、配当還元法です。裁判所は、平年度ベースの税引後営業利益を1億2000万円程度と見込み、配当性向を約30%として1株当たりの年間配当金額を18.75円と算定した上、株主の要求収益率を6%として資本還元し、1株313円(18.75円÷0.06≒313円)という計算結果を得ました。これも前提条件の幅を考慮して、評価額は1株300円とされています。

第4に、加重平均です。裁判所は、配当還元法による1株300円に20%、収益還元法による1株3000円に80%の重みを置き、1株2460円(300円×0.2+3000円×0.8=2460円)と算定しました。

なお裁判所は、非流動性ディスカウントを適用した後の1株3000円が、清算処分時価純資産法による評価額1株3000円と同額であることを指摘し、この水準が不適当なものではないと述べています。異なる算定方法から同じ水準の金額が導かれたことを、結論の妥当性を裏づける事情として用いた点は、実務上参考になります。

持株比率に関する裁判所の判断

裁判所は、申立人の持株比率が発行済株式総数の約18.9%であることからすると、申立人が経営権を握っているとはいえず、配当還元法に重きを置くのが一般的であると判断しました。もっとも裁判所は、他の株主も決定的な支配権を有するといえるほどの持株比率ではないことから、申立人は、議案によっては他の株主のグループと協調して議案の賛否を左右する可能性を残す程度の地位にあると評価しています。 他方、買主の側について、裁判所は、Y興業がT株式会社の株式を47万4780株、発行済株式総数の約24.73%保有しており、T株式会社が本件株式を自己株式として保有した場合には、Y興業の議決権割合は約37.75%となること、T株式会社の代表取締役の親族グループの議決権割合は約19.71%であること、両者が同じ歩調で行動するとすれば議決権割合の合計は約57.46%となり過半数に達することを認定しました。そのうえで裁判所は、Y興業及び当該親族グループはT株式会社の経営に対して強い影響力を有するから、支配権を持つ株主として評価することになるとし、T株式会社自身が買い取る株式についても、支配権を持つ株主と同じ立場で考えざるを得ないと判断しています。

ディスカウントについては、非流動性ディスカウント(市場価格が存在しないことによる減価)が考慮されています。

非流動性ディスカウントに関する裁判所の判断

裁判所は、一般論として、譲渡制限会社の株式については、投下資本の回収に制約があることを理由に30%程度評価が下がるのが一般的であるとしつつ、対象となる会社に特有の投下資本の回収可能性に関する事情に応じた減額率を採用することにも合理性があるとしました。 そのうえで裁判所は、本件の鑑定が、T株式会社の事業の特徴及び株主構成の特徴からすれば、配当による投下資本の回収という形で、株式の譲渡による投下資本の回収の制約をある程度補うことができるとした点に、合理性を認めました。その根拠として、T株式会社が平成22年3月期当時、前記の4件の不動産のほかに現預金約33億5900万円及び有価証券等約3億2100万円という換価が容易な多額の資産を有していたこと、並びに平成20年3月期に約11億6000万円の固定資産売却益、平成21年3月期に約867万円の有価証券売却益、平成22年3月期に約2000万円の有価証券売却益を計上するなど、現に資産の換価を行っていたことが挙げられています。 さらに裁判所は、鑑定が最終的な評価に当たり、申立人が少数株主であることを考慮して、少数株主にとって重視される配当に着目した配当還元法を20%の割合で考慮した加重平均を行っている以上、その考慮に重ねて、少数株主であることを理由とする減額を更に行うべきではないと判断しました。加重平均において少数株主としての立場が既に考慮されている場合には、非流動性ディスカウントの名の下で二重に減価されることはないという点は、少数株主にとって実務上重要な意味を持ちます。

非流動性ディスカウントを30%ではなく15%とした理由

裁判所が減額率を一般的な水準の半分にとどめた根拠は、対象会社の資産の構成にあります。裁判所は、対象会社の保有する資産の中に、現金預金、上場有価証券、賃貸マンション、駐車場といった、金銭そのものであるか又は市場性のある資産が含まれており、これらが総資産に占める割合は40%から60%に及ぶと認定しました。そして、このような資産については、株主がまとまって剰余金の配当を決定すれば、配当という形で資金を得ることも不可能ではないと述べています。

つまり、株式を譲渡して投下資本を回収する道が制約されていても、配当による回収という別の道がこれをある程度補うことができる、という理由づけです。多く用いられている30%の半分である15%という数字は、この補完の程度を評価した結果として導かれています。

ここから読み取れる実務上の指針は、非流動性ディスカウントの率が相場として一律に決まるものではなく、対象会社が現預金や市場性のある資産をどれだけ保有し、配当による資金の還元がどれだけ現実的であるかによって動くということです。少数株主の側としては、対象会社の資産構成と配当の余力を具体的に示すことが、減額率を引き下げる主張につながります。

譲渡制限を承知で高い価格の売買契約を結んでいた場合の扱い

本件で売主である申立人は、次のように主張しました。すなわち、譲渡の相手方となる買主は、対象会社の株式に譲渡制限が付されていることを承知の上で、1株3700円という価格で売買契約を締結したのであるから、これを下回る評価額について、譲渡制限があることを理由として更に減額すべきではない、という主張です。

しかし裁判所は、この主張を採用しませんでした。裁判所は、譲渡承認請求の前提となる譲渡価格は、その買主が当該株式の価値を高く評価しているというにすぎず、それのみでは、非流動性ディスカウントを否定するほどに投下資本の回収の可能性が高いことをうかがわせる事情とはならない、と述べています。

この判断は、依頼者に対してあらかじめ説明しておくべき実務上の要点です。少数株主が第三者との間で高い価格の売買契約を取り付けたとしても、その価格は、あくまで一人の買主がその株式をどのように評価したかを示すものにとどまり、会社又は指定買取人が買い取る場合の売買価格の水準を直ちに基礎づけるものではありません。裁判所が定める売買価格は、契約価格ではなく、鑑定に基づく客観的な株式価値を出発点として決まります。したがって、第三者との契約価格は交渉上の有力な材料とはなりますが、それだけで非流動性ディスカウントの適用を封じることはできないという前提で、見通しを立てる必要があります。

申立人の主張した時価純資産法が採用されなかった理由

申立人は、対象会社が資産管理会社としての特質を有することなどを理由に、時価純資産法によって評価すべきであると主張していました。裁判所は、この主張を採用していません。

理由の第1は、評価の基準時においても、対象会社は不動産賃貸業を継続することが当然とされており、解散してすべての財産を売却換価し、株主に配分することなどは全く予定されていなかったことです。時価純資産法は会社の保有する財産の客観的価値に着目する評価方法であって、継続企業が財産を活用して上げる収益力が反映されないため、本件の対象会社の評価には適さないと判断されました。

理由の第2は、本件が、申立人が第三者への譲渡の承認を求めたのに対して買取人が指定された事案であり、申立人が株式の買取請求をした事案でも、対象会社の清算を求めた事案でもないことです。裁判所は、鑑定人の採用した収益還元法が、対象会社が資産管理会社として不動産賃貸業を継続するという特徴を踏まえ、資産の価値と収益力の双方に配慮している点で合理的であるとし、申立人の主張する事情はその中で十分に考慮済みであるとして、更に時価純資産法を採用する必要はないと結論づけました。

最後に

株式売却価格の算定については、裁判所は事情や資産状況を考慮した上で決定することになります。Y興業事件では、少数株主や支配権を持つ株主といった事情が考慮され、結論に反映されているのです。

株式売却価格の算定結果は、ケースによって異なります。似たようなケースでも結論は違ってくるため、Y興業事件と株式算定を同様に考えることはできません。しかし、M&Aを行う上での参考になります。

M&Aで株式売買価格の算定が必要になったときに、知識として役立てていただければと思います。

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