【譲渡承認拒否・株式買取請求】裁判所の株式売買価格の裁判例―大阪地方裁判所平成25年1月31日決定
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Y興業事件の売買価格の決定に関するメインのページです。本ページは、株主の側から、裁判所が対象会社の実情に応じて価格を算定した経過をご説明します。他の事件における算定の方法はそれぞれ別のページをご参照ください。
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本件は、【譲渡承認拒否・株式買取請求】の事件です。不動産賃貸会社の株式の約18.9%を保有する株主が、第三者への譲渡の承認を会社に請求したところ、会社は承認せず、半分を会社自身が買い取り、残り半分の指定買取人として筆頭株主を指定しました。株主は、会社法第144条第2項に基づき、裁判所に売買価格の決定を申し立てました。
株主は時価純資産法による1株3149円を、会社と指定買取人はDCF法による1株1903円から2326円、1株2067円を主張しました。大阪地方裁判所は、裁判所が選任した鑑定人の鑑定を合理的と認め、収益還元法による1株3000円(非流動性ディスカウント15%を適用後)を80%、配当還元法による1株300円を20%の割合で加重平均して、1株2460円と定めました。
基本情報
| 裁判所 | 大阪地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判日 | 平成25年1月31日(決定) |
| 事件番号 | 平成22年(ヒ)第54号、第62号 |
| 事件名 | 株式売買価格決定申立事件(甲事件、乙事件) |
| 手続の種類 | 譲渡承認拒否に伴う会社及び指定買取人による買取り(会社法第144条第2項) |
| 審級 | 第一審 |
| 結論 | 普通株式36万2900株の売買価格を1株2460円と決定。鑑定費用1104万円のうち300万円を申立人、654万円を指定買取人、150万円を会社の負担とする |
本記事は上記決定の解説です。上訴の有無や確定を確認した旨の表示ではありません。
当事者の表記
本記事では、株式の発行会社を「T株式会社」、指定買取人を「Y興業」、株式を売却しようとした株主(不動産の売買及び賃貸を主たる業とする株式会社)を「申立人」と表記します。T株式会社が所有する不動産も、所在地や施設名を特定しない呼称(土地①から建物④まで)で表記します。
事案の概要
T株式会社
T株式会社は、発行済株式総数192万株の、不動産賃貸を主たる業とする株式会社で、定款に株式の譲渡制限の定めがあり、その旨の登記もされていました。所有する不動産は次の4件で、いずれも賃料収入を得ていました。
- 大阪市中央区に所在する建物の敷地(土地①)
- 大阪市中央区に所在する建物の敷地(土地②)
- 大阪市浪速区に所在する駐車場として利用されている土地(土地③)
- 東京都中央区に所在する土地及びその土地上の建物(建物④。平成21年12月に取得)
土地①と土地②はY興業に賃貸されており、多額の含み益と高額の預り保証金がありました。T株式会社は、遅くとも平成21年11月ころ、Y興業の株式を合計20億円で引き受け、Y興業の株式の約8.089%を保有していました。平成22年3月期当時、不動産のほかに現預金約33億5900万円、有価証券等約3億2100万円も保有していました。
株主構成
申立人はT株式会社の株式36万2900株(発行済株式総数の約18.9%)を保有していました。申立人の代表取締役は、かつてT株式会社の役員でした。
Y興業は47万4780株(約24.73%)を保有し、T株式会社が本件株式を自己株式として保有した場合のY興業の議決権割合は約37.75%になります。T株式会社の代表取締役の属する親族グループの議決権割合は約19.71%で、両者を合わせると約57.46%になります。決定は、T株式会社の株式は実質的には5者に分散して保有され、各者の保有割合は24.73%ないし17.84%で、単独で支配できる株主はいないと認定しています。
事案の経緯
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 平成21年11月ころまで | T株式会社がY興業の株式を合計20億円で引受け |
| 平成21年12月 | T株式会社が建物④を取得 |
| 平成22年6月14日 | 申立人が、T株式会社の承認を条件として、保有株式36万2900株を第三者の会社に譲渡する売買契約を締結 |
| 平成22年6月17日 | 申立人が、譲渡の承認と、承認しない場合のT株式会社又は指定買取人による買取りを請求 |
| 平成22年6月28日 | T株式会社が、譲渡を承認しないこと、半分の18万1450株を自ら買い取り、残り半分の指定買取人としてY興業を指定することを通知 |
| 平成22年7月1日 | Y興業が、1株当たり純資産額に18万1450株を乗じた3億8285万9500円を供託し、買い取る旨を通知(この日が評価の基準日とされました。) |
| 平成22年7月8日 | 申立人が18万1450株の株券を供託し、Y興業に通知 |
| 平成22年7月16日 | T株式会社が同額の3億8285万9500円を供託し、買い取る旨を通知。申立人が売買価格の決定を申立て |
| 平成22年7月22日 | 申立人が残り18万1450株の株券を供託し、T株式会社に通知 |
| 平成22年8月4日 | 申立人が売買価格の決定を申立て(2件目) |
| 平成25年1月31日 | 大阪地方裁判所が1株2460円と決定 |
供託額3億8285万9500円を18万1450株で割ると1株約2110円(当事務所の計算)ですが、これは手続上供託すべき金額であり、裁判所が定めた売買価格ではありません。
申立ての内容と当事者の主張
申立ては、Y興業が買い取る18万1450株(甲事件)と、T株式会社が買い取る18万1450株(乙事件)の売買価格の決定を求めるものです。
申立人(1株3149円)
申立人は、T株式会社は資産管理会社としての特質を有し、本件は実質的に同族の有力株主から資産の分割又は精算を求めるものであるとして、時価純資産法(中でも再調達時価純資産法)によるべきであると主張しました。配当については、売上や収益の変動にかかわらず総額約3000万円にとどまる一方で同族の役員に1億円以上の報酬を支払っていること、約20億円を投資したY興業の株式から配当を受けていないことなどから、配当還元法は採用すべきでないとしました。また、預り保証金や含み益に対する法人税等は負債として考慮すべきでなく、第三者の買主は譲渡制限を承知で1株3700円の売買契約を締結したのだから非流動性ディスカウントをすべきでないと主張しました。
T株式会社(1株1903円ないし2326円)とY興業(1株2067円)
T株式会社とY興業は、時価純資産法は清算価値を表すもので事業継続中の会社の評価には適さず、DCF法によるべきであると主張しました。Y興業は、鑑定に対し、不動産の評価が高すぎること、含み益に対する法人税等は全額負債とすべきこと、非流動性ディスカウントを30%から15%に減らしたのは非現実的な前提によること、少数株主の株式であるからマイノリティ・ディスカウントを行うべきこと、収益還元法に80%の比重を置くのは重すぎることなどを主張しました。
争点
- 評価方法の選択(時価純資産法、DCF法、収益還元法、配当還元法)
- 収益還元法の算定過程(不動産の価格、預り保証金と含み益に対する法人税等の扱い、保有株式の評価)
- 非流動性ディスカウントの率と、マイノリティ・ディスカウントの当否
- 収益還元法と配当還元法の加重平均の割合
裁判所の判断
鑑定の内容
裁判所が選任した鑑定人の鑑定は、次のとおり評価しました。
- 再調達時価純資産法:1株4000円(計算上は4031円)
- 清算処分時価純資産法:1株3000円(計算上は2969円)
- 収益還元法:裁判所が選任した不動産鑑定士の鑑定による不動産の収益価格(取引事例比較法の方が低い場合はその価格)を基礎に、預り保証金と含み益に対する法人税等をそれぞれ額面の50%の負債と評価し、本社コストを純賃料の20%として控除し、非事業資産(Y興業の株式は取得価格の20億円)を加えて、1株3500円(計算上は3509円)
- 配当還元法:税引後営業利益を約1億2000万円、配当性向を約30%として1株年18.75円の配当を見込み、還元率6%で割り引いて1株300円(計算上は313円)
- マーケット・アプローチ:適当な類似上場会社がなく、取引事例の前提条件も大きく異なるため不採用
その上で鑑定は、単純な少数株主にとっての株式の価値は配当還元法による1株300円、完全な支配権を有する株主にとっての価値は収益還元法による1株3500円を基礎とするとしました。そして、非上場で譲渡制限があるため換金に制約がある一方、総資産の40%から60%は現金預金や上場有価証券など市場性のある資産で、株主がまとまれば配当で資金を得ることも不可能ではないとして、非流動性ディスカウントを一般的な30%の半分の15%とし、収益還元法による評価額を1株3000円(3500円×0.85=2975円を前提条件の幅を考慮して丸めたもの)としました。最後に、申立人は外形的には少数株主であるが経営に影響を与える可能性もあるとして、配当還元法に20%、収益還元法に80%の比重を置いて、1株2460円と評価しました。
時価純資産法は採用しない
裁判所は、時価純資産法は会社の財産の客観的価値に着目した方法で、継続企業が財産を活用して上げる収益力が反映されず、このことは再調達時価純資産法でも変わらないとしました。T株式会社は資産管理会社の性質があるとはいえ、建物④を取得して新たに賃料収入を得ており、解散して財産を換価し株主に配分することは全く予定されていなかったこと、鑑定の収益還元法は不動産の価格に非事業資産を加え本社コストを控除するなど資産の価値と収益力の双方をバランスよく配慮していること、本件は申立人が第三者への譲渡の承認を求めた事案で、会社の清算を求めたものではないことから、あえて時価純資産法を採用する必要はないとしました。
配当還元法をある程度考慮するのは合理的
裁判所は、少数株主の企業価値に対する支配は基本的に配当という形でしか及ばないから、配当還元法をある程度考慮することは不合理ではないとしました。少数株主は将来の配当をコントロールできないから、現状の配当が不当に低く抑えられているとしても、その限度で配当を期待するほかないとし、他の手法との乖離だけで考慮してはならないことにはならないとしています。
収益還元法の算定過程
当事者の依頼によるDCF法の算定書は、中立性に疑義がないわけではなく、鑑定の合理性を左右するものではないとされました。土地①について収益価格を用いた場合でも結論の差は前提条件の幅に収まること、保証金の運用益を収益に含めることは不動産鑑定実務に沿うこと、自社ビル仕様の建物でも収益還元法は適用できることなどから、不動産の価格に関する当事者の主張は退けられました。
預り保証金と含み益に対する法人税等を額面の50%で評価した点も、借地契約の終了や不動産の売却は将来の不確定な事象であるとして合理的とされました。含み益への課税は処分した時点で生じるもので、将来の賃料収入の割引現在価値と含み益を同視するのは前提を誤っているとして、Y興業の主張は採用されませんでした。保有するY興業の株式を取得価格で評価した点も、取得から評価基準時まで1年未満で特段の事情はないとして是認されました。
非流動性ディスカウントは15%
裁判所は、譲渡制限会社の株式は投下資本回収の制約から30%程度評価が下がるのが一般的であるが、会社特有の事情に応じた率を採ることにも合理性があるとしました。第三者の買主との譲渡価格は、その買主が株式価値を高く評価しているというにすぎず、それだけで非流動性ディスカウントを否定するほど投下資本回収の可能性が高いことにはならないとしました。他方、T株式会社には換価が容易な資産が多く、過去にも固定資産売却益(平成20年3月期約11億6000万円)や有価証券売却益を上げており、親族グループの利害が一致すれば保有資産の売却で配当を増やすことも十分可能であるとして、15%とした鑑定を合理的としました。
マイノリティ・ディスカウントは重ねて行わない
Y興業のマイノリティ・ディスカウントの主張について、裁判所は次のように述べました。
「G鑑定は、最終的な株価の総合評価にあたり、申立人が少数株主であることを考慮し、少数株主にとって重視される配当に着目した評価方法である配当還元法を20%の割合で考慮した加重平均を行っている。その考慮は合理的なものといえるから、それに重ねてさらに少数株主であることを理由とした減額を行うべきではないというべきである。」
(引用中の「G鑑定」は、裁判所が選任した鑑定人の鑑定を指します。)
加重平均の割合(収益還元法80%、配当還元法20%)
裁判所は、T株式会社の株式は実質的に5者に分散し、単独で支配できる者はいないから、申立人は他の親族グループと協力して支配を獲得する可能性があり、支配を望む他のグループにとって無視できない存在であるとして、支配株としての側面を否定できないとしました。各当事者が依頼した算定書の価格は1株1848円から3149円で、鑑定の結果はその範囲内にあることも指摘しています。
以上により、3000円×0.8+300円×0.2=2460円と算定されました。
結論
大阪地方裁判所は、T株式会社及びY興業が申立人から買い取るT株式会社の普通株式36万2900株の売買価格を1株2460円と定めました。鑑定費用1104万円は、申立人300万円、Y興業654万円、T株式会社150万円の負担とされました。
実務上の着眼点
- 持株比率が20%に満たなくても、株式が分散していて他の株主と協力すれば支配を左右できる状況では、支配株としての側面が評価され、収益還元法に80%の比重が置かれました。
- 非流動性ディスカウントの率は一律ではなく、換価が容易な資産の多さや株主構成などの会社特有の事情によって、一般的な30%から15%に減らされました。
- 配当還元法で少数株主であることを考慮した以上、更にマイノリティ・ディスカウントを重ねることは否定されました。マイノリティ・ディスカウントと非流動性ディスカウントは別のものとして扱われています。
- 第三者との間で高い価格の売買契約を結んでいても、それだけでは非流動性ディスカウントは否定されませんでした。
- 資産を多く持つ会社でも、継続企業である限り、時価純資産法がそのまま採用されるわけではありません。
本決定が扱っていない事項
- 非流動性ディスカウント15%や加重平均の割合(80%・20%)は、本件の会社と株主構成を前提とした鑑定の判断であり、一般的な基準を示したものではありません。
- 組織再編に反対した株主の株式買取請求の事件での「公正な価格」について判断したものではありません。
- 役員報酬の水準や配当政策の当否そのものについて判断したものではありません。
よくあるご質問
不動産を多く持つ会社の株式は、時価純資産法で評価されないのですか。
本件では、会社が不動産賃貸業を続けており、清算は予定されていなかったことから、収益力も反映する収益還元法が採用され、時価純資産法は採用されませんでした。
少数株主だと、配当還元法だけで評価されるのですか。
本件では、申立人の持株比率は約18.9%でしたが、株式が5者に分散していたことから経営に影響を与える可能性があるとされ、配当還元法の比重は20%にとどまりました。
非流動性ディスカウントは必ず30%ですか。
本件では、30%程度が一般的であるとしつつ、会社特有の事情から15%とした鑑定が合理的とされました。
マイノリティ・ディスカウントはされましたか。
されませんでした。配当還元法を20%の割合で考慮したことで少数株主であることは考慮済みであり、重ねて減額すべきではないとされました。
根拠条文
- 会社法第136条、第138条(株主からの譲渡承認の請求及びその方法)
- 会社法第140条第1項・第4項(会社による買取り及び指定買取人の指定)
- 会社法第141条、第142条(買取りの通知及び供託)
- 会社法第144条第2項・第3項(売買価格の決定の申立て及び考慮事項)
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