【譲渡承認拒否・株式買取請求】株価算定方法に関する判例(Mika社事件)!広島地方裁判所平成21年4月22日決定

▶ 非上場株式の譲渡適正価格はいくらか 少数株主が適正価格で譲渡(売却)する方法を解説
本件は、【譲渡承認拒否・株式買取請求】の事件です。非上場会社の株式を譲り受けた会社が、株式の取得について会社に承認を請求したところ、会社は承認せず、一部は会社自身が買い取ることを決め、残りについては代表取締役を指定買取人に指定しました。売買価格の協議が調わなかったため、双方が会社法第144条第2項(指定買取人については同条第7項による準用)に基づき、裁判所に売買価格の決定を申し立てました。
株式を売る側は1株4921円以上を、買う側は1株1375円を主張しました。広島地方裁判所は、売り手と買い手を対等の立場にあるものとして、売り手の立場から相当な配当還元方式(ゴードン・モデル方式)と、買い手の立場から相当なDCF方式を1対1で折衷し、1株1375円と定めました。
基本情報
| 裁判所 | 広島地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判日 | 平成21年4月22日(決定) |
| 事件番号 | 平成20年(ヒ)第1号、第2号、第6号、第8号 |
| 事件名 | 株式売買価格決定申立事件 |
| 手続の種類 | 株式の取得の承認の拒否に伴う会社及び指定買取人による買取り(会社法第144条第2項・第7項) |
| 審級 | 第一審 |
| 結論 | 会社及び指定買取人に売り渡す普通株式の価格を、いずれも1株1375円と決定 |
本記事は上記決定の解説です。上訴の有無や確定を確認した旨の表示ではありません。
当事者の表記
裁判例には実際の会社名が記載されていますが、本記事では仮の名称を用います。株式の発行会社を「Mika社」、株式を譲り受けて売り渡すことになった2社を「Mikaホールディング社」「S社」、Mika社の代表取締役で指定買取人となった者を「代表取締役A」、Mikaホールディング社とS社の代表取締役を「代表者B」と表記します。決定は、評価方法の検討の中で、株主の側を「売り手」、会社及び指定買取人の側を「買い手」と呼んでいます。
事案の概要
Mika社
Mika社は昭和16年2月13日に設立された、競技用ボール、スポーツ用品及び工業用ゴム製品の製造及び販売を主に行う非上場会社で、定款によりすべての株式に譲渡制限が付されていました。資本金1億2000万円、発行済株式総数240万株、株主資本70億6336万6247円、総資産119億9174万1553円で、売上高は直近3期とも約60億円(平成16年11月期59億3688万2956円、平成17年11月期58億0609万4512円、平成18年11月期60億3376万8033円)でした。国内に2支店、5営業所、2工場を、海外に4社の子会社を有していました。
直近3期の配当は1株当たり17円50銭から20円で、配当総額の平均は約430万円、配当性向は16.4%でした。定款で取締役選任の累積投票は排除されていました。
代表者Bと会社との対立
代表者Bは、平成13年2月3日にMika社の代表取締役に就任しましたが、同年12月6日に取締役会の承認なくMika社から6000万円を借り受ける自己取引を行ったことなどを理由に、同月29日に代表取締役を解職され、平成14年2月23日の定時株主総会で取締役も解任されました(賛成75.1%)。代表者Bは平成18年5月1日に株主総会の招集を請求し、同年6月17日の臨時株主総会で代表取締役Aの解任議案が諮られましたが、賛成は28.3%にとどまり否決されました。
株式の譲受けと承認の拒否
代表者Bが実質的に支配するMikaホールディング社とS社は、代表者B本人を含む株主からMika社の株式を譲り受け、合計38万1220株(発行済株式総数の15.88%、議決権ベースで26.17%)を保有することになりました。両社は、Mika社に対し株式の取得の承認を請求しましたが、Mika社は承認せず、一部は株主総会の特別決議によりMika社自身が買い取ることとし、残りについては代表取締役Aを指定買取人に指定しました。Mika社と代表取締役Aは、1株3111円として計算した金額を供託しています。
事案の経緯
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 平成13年12月29日 | 代表者Bが自己取引等を理由にMika社の代表取締役を解職される(平成14年2月23日に取締役も解任) |
| 平成18年6月17日 | 代表者Bの請求による臨時株主総会で、代表取締役Aの解任議案が否決 |
| 平成19年11月5日・14日 | S社とMikaホールディング社の譲渡承認請求の通知がMika社に到達 |
| 平成19年11月16日 | Mika社が承認しない旨を回答 |
| 平成19年12月15日 | Mika社の株主総会が、当該株式をMika社が買い取る旨を特別決議 |
| 平成19年12月21日 | Mika社が1株3111円として計算した金額(S社分6222万円、Mikaホールディング社らの分11億0856万7518円)を供託し、買い取る旨を通知 |
| 平成19年12月25日 | Mikaホールディング社らが株券を供託 |
| 平成20年1月7日・9日 | Mika社、Mikaホールディング社らがそれぞれ売買価格の決定を申立て |
| 平成20年1月11日 | Mikaホールディング社が新たに取得した株式についての譲渡承認請求がMika社に到達 |
| 平成20年1月25日 | Mika社が承認しない旨と、代表取締役Aを指定買取人に指定する旨を通知 |
| 平成20年2月1日 | 代表取締役Aが1株3111円として計算した金額を供託し、売り渡しを請求 |
| 平成20年2月5日 | Mikaホールディング社が株券を供託 |
| 平成20年2月14日・19日 | 代表取締役A、Mikaホールディング社がそれぞれ売買価格の決定を申立て |
| 平成21年4月22日 | 広島地方裁判所が1株1375円と決定(4件の事件は併合) |
決定は、Mikaホールディング社が株券供託の通知を代表取締役AではなくMika社の代理人弁護士に送った点について、その弁護士は代表取締役Aの買取手続も代理しており、代表取締役Aも供託の事実を認識していたことから、申立ての効力に影響はないと判断しています。
申立ての内容と当事者の主張
売り手(Mikaホールディング社・S社)
申立ての趣旨では1株5150円を求め、主張としては、DCF方式による評価額(5481円〜6097円)と純資産方式による評価額(4052円)を50対50で加重平均した額(4767円〜5075円)の中間値である1株4921円以上としました。配当還元方式は用いるべきでなく、非流動性ディスカウントも考慮すべきでないと主張しました。
買い手(Mika社・代表取締役A)
DCF方式による評価額(2038円〜2640円、平均2339円)と、ゴードン・モデル方式による評価額(376円〜447円、平均411円)を50対50で加重平均して、1株1375円と主張しました。
争点
- 評価方法の選択(DCF方式、ゴードン・モデル方式、純資産方式)と折衷の割合
- DCF方式の算定過程(永久成長率、市場リスクプレミアム、負債コスト、割引率、非流動性ディスカウント)
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
裁判所の判断
会社法第144条第3項の考え方
裁判所は、決定すべき売買価格は譲渡等承認請求の時における株式の客観的な交換価値であり、取引相場がないことから、会社の資産状況のほか、収益状況、1株当たりの収益又は配当額、将来の事業の見通し、配当政策・配当能力、業界の状況など、対象会社内外の一切の事情を斟酌することを要するとしました。会社法第144条第3項の「資産状況」は一つの例示であり、純資産額を基準とする供託の定めも価格を便宜的に算定する方法として定めたものにすぎないから、純資産の多寡を基調として売買価格を算定すべきことが導かれるものではないとしています。
売り手の位置付け
Mikaホールディング社らの議決権比率は26.17%で支配株主ではなく、Mika社の役員でもなく、累積投票も排除されているため取締役を選任することも困難であるとされました。また、株式の前所有者が株式を譲渡せざるを得ない状況にあった事情もうかがわれないとされています。
純資産方式は採用しない
純資産方式は将来の収益獲得能力を評価しきれず、事業継続を前提とする会社の評価方法ではないとされました。Mika社には相当程度の遊休資産があるものの売却する事情はうかがわれず、Mikaホールディング社らは解散決議を行うだけの議決権もなく、代表者Bの解任の経緯や過去の株主総会の結果に照らしても経営支配力を有するとはおよそ言い難いとして、純資産方式を考慮することは株式に現実的な経済的価値以上の価額を付することになり相当でないとしました。
ゴードン・モデル方式は採用できる
配当還元方式は配当の状況や配当政策の影響を受けやすいことに配慮が必要であるものの、Mika社は直近3期に1株17円50銭から20円の配当を実施し、配当性向16.4%も上場全銘柄の配当性向に照らして特に不合理ではないことから、ゴードン・モデル方式を採用することに支障はないとしました。決定は、ゴードン・モデル方式について、内部留保による将来の配当の増加も計算の基礎に加える点で、実際配当還元法や標準配当還元法よりも「より優れているものと評価されている」と紹介しています。
売り手と買い手を対等とし、1対1で折衷する
裁判所は、相対の売買では一方の交渉力が他方を上回るのが一般的であるが、本件は会社法の規定により株式の売買価格を決定するものであるから、双方対等の立場で評価すべきであるとしました。
- 売り手の立場:株式の売買は投資回収の方法であり、Mika社は清算を予定しておらず、Mikaホールディング社らは経営支配力を有しないから当分の間残余財産の分配を受けることは困難であるとして、「売り手の立場から最も合理的な評価方式は、配当還元方式によることとなる」としました。
- 買い手の立場:買い手はMika社自身(代表取締役Aも事実経過からMika社と同視できるとされました。)であり、配当を期待するものではないから、継続企業の動的価値を表す最も理論的な方法である「DCF方式によらざるを得ない」としました。
そして、両者の立場からの評価方式を1対1で反映させ、DCF方式とゴードン・モデル方式を1対1で折衷する方式をとるべきであるとしました。
DCF方式の算定過程
決定は、裁判所が選任した鑑定人による鑑定には触れておらず、双方が提出した株式価値算定書を検討しています。
- 永久成長率:国内市場は少子化で下落傾向にあり、海外市場の成長も不確実であるとして0%とした買い手側の算定書は合理的とされました。永久成長率法による評価(2447円〜2640円)とEBITDA倍率法による評価(2038円〜2239円)に大きな差がないことも根拠とされています。
- 市場リスクプレミアム:昭和30年1月から平成19年12月までの平均8.0%を採用した買い手側の算定書が肯認され、高度成長期を除く30年平均4.0%とする売り手側の主張は採用されませんでした。
- 負債コスト:リスクフリーレート1.51%(10年物国債)に借入利率のスプレッド平均0.27%を加えた1.78%が肯認されました。
- 割引率:4.7%〜6.0%が肯認されました。売り手側の2.63%〜3.37%は、算定過程が明らかでなく、事業価値がEBITDA倍率で15.1〜17.4倍となり、類似上場会社の平均(ゴム事業6.96倍、スポーツ事業8.0倍)の2倍以上となることに合理的な裏付けがないとして採用されませんでした。
- 非流動性ディスカウント:Mika社は非上場で譲渡制限があり、株式の前所有者らが譲渡を余儀なくされるような事情もおよそ認め難いとして、非流動性ディスカウントを考慮した買い手側の算定書が肯認されました。
以上により、DCF方式による評価は1株2038円〜2640円(平均2339円)とされました。
ゴードン・モデル方式の算定
過去3期の配当実績、自己資本利益率、配当性向からサステイナブル成長率を3.4%とした買い手側の算定(1株376円〜447円、平均411円)に、特段不合理な点はないとされました。
以上により、(2339円+411円)÷2=1375円と算定されました。
結論
広島地方裁判所は、Mikaホールディング社及びS社がMika社に売り渡す普通株式の価格と、Mikaホールディング社が代表取締役Aに売り渡す普通株式の価格を、いずれも1株1375円と定めました。供託の基礎とされた1株3111円を下回る価格です。
実務上の着眼点
- 本件では、売り手が経営支配力を持たないことが、純資産方式を退け、売り手の立場から配当還元方式を相当とする理由になりました。持株比率だけでなく、役員の地位、累積投票の可否、過去の株主総会の結果も検討されています。
- 会社自身が買い手となる場合、買い手は配当を期待しないとしてDCF方式が採られ、売り手側の配当還元方式と1対1で折衷されました。
- 本件では、売り手が株式を譲渡せざるを得ない事情はないとして、非流動性ディスカウントを考慮した算定書が肯認されました。組織再編に反対した株主の株式買取請求の事件とは考え方が異なります。
- 割引率の数値に争いがある場合、EBITDA倍率などによる検証の有無が、どちらの算定書を採用するかの判断材料とされました。
協議が調わない場合に裁判所に価格の決定を申し立てる手続と、その期限は、次のページでご案内しています。
本決定が扱っていない事項
- 売り手と買い手の立場を1対1で反映させる方法は、本件の事情を前提としたもので、他の割合を否定する一般的な基準として示されたものではありません。
- 非流動性ディスカウントの具体的な率は、決定書の本文では示されていません(算定過程は決定の別紙によっています。)。
- マイノリティ・ディスカウントについては判断されていません。
- 代表者Bの自己取引や解任の当否そのものについて判断したものではありません。
よくあるご質問
会社が自分で株式を買い取る場合、どの評価方法が使われますか。
本件では、会社自身が買い手であることから、買い手の立場からはDCF方式によるほかないとされ、売り手の立場からの配当還元方式と1対1で折衷されました。
純資産が大きい会社なのに、純資産方式が使われなかったのはなぜですか。
Mika社は清算を予定しておらず、売り手は解散決議をする議決権も経営支配力もないことから、純資産方式を考慮すると現実的な経済的価値以上の価額を付することになるとされました。
供託された金額より低い価格になることはありますか。
本件では、1株3111円として計算した金額が供託されましたが、裁判所が定めた価格は1株1375円でした。供託額は、売買価格を定めるものではありません。
非流動性ディスカウントは考慮されましたか。
本件では、売り手側に株式を譲渡せざるを得ない事情はないとして、DCF方式の算定で非流動性ディスカウントを考慮した算定書が肯認されました。
非上場株式の評価の方法と、適正な買取価格の考え方は、次のページでご案内しています。
根拠条文
- 会社法第137条、第138条(株式取得者からの承認の請求及びその方法)
- 会社法第140条(会社による買取り及び指定買取人の指定)
- 会社法第141条、第142条(買取りの通知及び供託)
- 会社法第144条第2項・第3項・第7項(売買価格の決定の申立て及び考慮事項。指定買取人による買取りへの準用)
この記事の位置付け
Mika社事件の株価の算定に関するメインのページです。本ページは、株主の側から、複数の算定基準の位置付けと裁判所による評価をご説明します。同じ論点を扱う他の裁判例はそれぞれ別のページをご参照ください。
▶ 非上場株式の譲渡適正価格はいくらか 少数株主が適正価格で譲渡(売却)する方法を解説
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