株主間契約で株式の売却が制限されている場合 少数株主が採るべき対応

この記事の位置付け

本記事は、株式の売却を望む少数株主の立場から、株主間契約により株式の譲渡が制限されている場合に採るべき対応を解説するものです。定款による譲渡制限そのものの意義及び承認の手続については、別のページに整理しています。

株式譲渡承認請求の手続の全体は株式譲渡承認請求の流れと少数株主側の注意点をご覧ください。あわせて、譲渡制限株式とは何か 少数株主が売却するときの基本株式譲渡制限会社の特徴会社の承認を得ないでした譲渡制限株式の譲渡は有効ですか 譲渡当事者の間の効力と会社に対する効力株主全員の同意があれば譲渡制限株式の譲渡の承認は不要ですか 会社法上の取扱いと実務上の備え及び取得のときに額面額(固定額)で譲渡する合意をしていたら、その価格でしか売れないのか 最高裁判決の射程が及ばない5つの類型が参考になります。

出資を受け入れた際、又は他の者と共同で事業を始めた際に、株主どうしで株主間契約を締結し、その中に株式の譲渡を制限する条項が置かれている例があります。数年が経過し、いまになって保有する株式を手放したいとお考えになった段階で、契約書に「他の株主全員の書面による事前の同意がなければ株式を譲渡してはならない」「譲渡しようとするときは、他の株主に対して先に買い取る機会を与えなければならない」といった定めが置かれていることに気付き、動けずにいらっしゃる方がいます。

この場面で最初に確かめるべきことは、その制限が定款に基づくものか、株主間契約に基づくものか、又はその両方かという点です。定款による譲渡制限と、株主間契約による譲渡の制限とは、名称こそ似ていますが、効力の及ぶ範囲が異なります。定款の定めは会社及び第三者に対しても働くのに対し、株主間契約の定めは、原則として契約を締結した当事者の間の債権的な効力にとどまります。この違いを取り違えたまま交渉に入りますと、本来は採ることができたはずの手続を採らないまま、時間だけが経過することになりかねません。

本記事は、株主間契約による譲渡の制限を正面から扱い、契約書の読み方、契約に反して譲渡した場合に生ずる問題、契約上の買取条項の使い方、及び契約から離脱する方法を整理します。他方、定款による譲渡制限そのものの意義、承認をする機関、承認を得ないでした譲渡の効力については、譲渡制限株式とは何か 少数株主が売却するときの基本及び会社の承認を得ないでした譲渡制限株式の譲渡は有効ですか 譲渡当事者の間の効力と会社に対する効力に譲ります。株式譲渡承認請求の手順、記載事項及び期間の管理については、株式譲渡承認請求の流れと少数株主側の注意点及び譲渡制限のある株式を売却したいのに承認が得られずお困りではありませんかをご覧ください。

目次
  1. 定款による制限と契約による制限は別のものです
    1. 定款による譲渡制限の効力が及ぶ範囲
    2. 株主間契約による制限の効力が及ぶ範囲
    3. 両方が置かれている場合にどちらを先に検討するか
    4. 会社が契約の当事者であるかどうかによる違い
  2. 株主間契約に置かれる譲渡の制限の条項の型
    1. 一定期間の譲渡の禁止
    2. 他の株主に先に買い取る機会を与える条項
    3. 他の株主が同じ条件で売却に加わることができる条項
    4. 支配株主が他の株主に売却を求めることができる条項
    5. 買取りを求めることができる条項及び買い取ることができる条項
    6. 全員の同意を要する条項
    7. 価格の算定方法の定め
  3. 自分の契約を読むための手順
    1. 契約書の版と当事者を確定する
    2. 譲渡に関する条項を抜き出す
    3. 期間の定め及び終了の事由を確かめる
    4. 買取りを求めることができる条項の有無を確かめる
  4. 契約に反して譲渡した場合に何が起きるか
    1. 譲渡そのものの効力
    2. 他の当事者に対する責任
    3. 違約金の定めがある場合
    4. 会社に対する名義書換えの請求との関係
  5. 契約上の買取条項をどう使うか
    1. 買取りを求めることができる事由の確認
    2. 価格の定め方が契約に置かれている場合
    3. 価格の定めがない場合の進め方
    4. 相手方が応じない場合に採り得る手段
  6. 契約から離脱する方法と、会社法上の手続との関係
    1. 合意による終了
    2. 期間の満了及び終了の事由
    3. 期間の定めのない譲渡の禁止の合意及び解除又は解約の申入れ
    4. 契約の当事者でない相続人が拘束されるか
    5. 株式譲渡承認請求へ進む場合の順序と期間の制限
  7. よくあるご質問
    1. 契約書を持っていないのですが、どうすればよいですか
    2. 相続により株主となりました。私も契約に拘束されますか
    3. 契約に期間の定めがない場合、永久に売れないのですか
    4. 会社が契約の当事者ではありません。それでも名義書換えを拒まれます
    5. 他の株主も同じ内容の契約に拘束されているのでしょうか
    6. 期限のある手続はありますか
    7. 弁護士に依頼する場合、何を持参すればよいですか
  8. まとめ

定款による制限と契約による制限は別のものです

株主間契約を巡るご相談において、最も多く見受けられる誤解は、契約に譲渡を制限する条項があるのだから株式を売ることはできない、というものです。これは正確ではありません。制限の根拠が定款にあるのか契約にあるのかによって、効力の及ぶ範囲が異なるからです。

定款による譲渡制限の効力が及ぶ範囲

株主は、その有する株式を譲渡することができるのが原則です(会社法第127条)。もっとも、株式会社は、譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨を定款で定めることができます(会社法第107条第1項第1号及び第2項第1号)。定款は会社の根本規則であり、その内容は登記により公示されます。したがって、定款による制限は、契約を締結したかどうかにかかわらず、その会社の株式を取得しようとする者すべてとの関係で問題となり、会社及び第三者に対しても働きます。本記事は、この定款による制限の内容そのものを解説することを目的としていません。承認の機関、承認の手続及び承認を得ないでした譲渡の効力は、上に掲げた記事に整理しています。

株主間契約による制限の効力が及ぶ範囲

これに対し、株主間契約は、株主どうしが締結する私法上の契約です。契約は、原則として、これを締結した当事者だけを拘束します。株主間契約に「他の株主全員の書面による同意がなければ株式を譲渡してはならない」と定められていても、その定めは、契約を締結した株主に対し、同意を得ないで譲渡しないという義務を負わせるにとどまります。これを債権的な効力といいます。したがって、この定めに反して株式を第三者に譲渡した場合であっても、譲渡そのものが当然に無効となるものではなく、契約に違反した株主が他の当事者に対して債務不履行の責任を負うという問題を生ずるにとどまるのが原則です(民法第415条第1項)。もっとも、契約の文言、締結の経緯及び当事者の認識によって結論が異なり得ますので、個別の事案において断定することはできません。

両方が置かれている場合にどちらを先に検討するか

非上場の同族会社及び出資を受け入れた会社では、定款に譲渡制限の定めがあり、加えて株主間契約が締結されているという二重の状態が珍しくありません。この場合、検討の順序は、まず会社法上の手続を用いることができるかどうか、次に契約上どのような義務を負っているかという順になります。会社法が株主に与えている手続を、株主間契約によって完全に奪うことはできないと考えられており、契約に違反するかどうかという問題と、会社法上の請求ができるかどうかという問題とは、次元を異にするからです。

会社が契約の当事者であるかどうかによる違い

株主間契約に会社自身が当事者として加わっている例があります。会社が当事者であれば、契約上の義務を会社に対しても主張することができる余地が生じ、例えば会社が一定の場合に株式を買い取る旨の条項があれば、会社に対して直接その履行を求めることが考えられます。他方、会社が当事者でなければ、契約は株主どうしの関係を定めるにとどまりますので、会社が名義書換えを拒む根拠として株主間契約を持ち出してきた場合には、その主張の当否を検討する必要があります。契約書の冒頭の当事者の表示と末尾の記名押印の欄を必ず確認してください。

比較の視点 定款による譲渡制限 株主間契約による譲渡の制限
根拠 定款の定め(会社法第107条第1項第1号及び第2項第1号) 株主どうしの契約の条項
及ぶ範囲 会社の株式を取得しようとする者すべて 契約を締結した当事者の間
違反した場合の効力 会社の承認を欠く取得の効力が問題となります 譲渡自体が当然に無効となるものではなく、債務不履行の問題を生ずるにとどまるのが原則です
会社に対する効力 会社に対して主張することができます 会社が当事者でない限り、会社に対して当然には及びません
解除又は終了の可否 定款の変更の手続によります 合意による終了、期間の満了、解除又は解約の申入れによります

株主間契約に置かれる譲渡の制限の条項の型

株主間契約に置かれる条項は、事案ごとに全く異なります。以下に掲げるのは実務上よく見受けられる型であり、ご自身の契約書に同じ名称の条項があっても、内容が異なることが普通です。名称ではなく、条項の本文を読んで判断してください。片仮名の呼称が用いられている条項については、日本語の意味を併せて示します。

一定期間の譲渡の禁止

締結の日から一定の期間、株式を譲渡してはならないと定めるものです。譲渡禁止期間又は保有義務期間と呼ばれ、ロックアップと呼ばれることもあります。ロックアップとは、鍵をかけて動かせない状態にするという意味の言葉です。確認すべきことは、期間の始まりと終わりが明確に定められているか、期間の経過により自動的に効力を失うのか、それとも延長の定めが置かれているのかという点です。期間の定めが全くない譲渡の禁止の合意の効力については、後に述べます。

他の株主に先に買い取る機会を与える条項

株式を第三者に譲渡しようとするときは、あらかじめ他の株主に対して同一の条件で買い取る機会を与えなければならないと定めるものです。先買権又は先買権条項と呼ばれます。確認すべきことは、通知の方法、他の株主が回答すべき期間、価格の決め方、そして期間内に回答がない場合にどうなるかという点です。回答がない場合には自由に譲渡することができる旨が定められていることが多く、これが実際上の出口になる例があります。

他の株主が同じ条件で売却に加わることができる条項

支配株主が第三者に株式を売却する場合に、他の株主も同一の条件で売却に加わることができると定めるものです。共同売却請求権と呼ばれ、タグ・アロング条項と呼ばれることもあります。タグ・アロングとは、他の者に付いて一緒に行くという意味の言葉です。少数株主にとっては保護のための条項であり、支配株主が会社のM&Aを検討している場面では、これを行使することが最も現実的な出口となる場合があります。確認すべきことは、通知を受ける権利があるか、加わることができる株式の数に上限があるか、価格が同一と定められているかという点です。

支配株主が他の株主に売却を求めることができる条項

支配株主が第三者に株式を売却する場合に、他の株主に対しても同一の条件で売却することを求めることができると定めるものです。強制売却権と呼ばれ、ドラッグ・アロング条項と呼ばれることもあります。ドラッグ・アロングとは、他の者を引きずって一緒に連れて行くという意味の言葉です。少数株主にとっては、意に反して売却を求められる側の条項ですので、発動の要件、最低価格の定め、及び発動に必要な持株比率を確認する必要があります。

買取りを求めることができる条項及び買い取ることができる条項

一定の事由が生じた場合に、株主が他の当事者に対して自己の株式を買い取るよう求めることができると定めるものを買取請求権といい、プット・オプションと呼ばれることもあります。プット・オプションとは、相手方に売り付けることができる権利という意味の言葉です。逆に、他の当事者が株主から株式を買い取ることができると定めるものを買取権といい、コール・オプションと呼ばれることもあります。コール・オプションとは、相手方から買い取ることができる権利という意味の言葉です。売却を望む少数株主にとっては、買取請求権の有無が最も重要です。発動の事由として、一定の期間の経過、株式上場が実現しなかったこと、役員を退任したこと等が定められている例があります。

全員の同意を要する条項

株式の譲渡には他の株主全員の書面による同意を要すると定めるものです。本記事は、これを契約上の条項の1つの型として扱うにとどめます。なお、これは会社法上の承認の手続とは別のものであり、株主全員の同意があれば会社の承認が不要となるかという会社法上の問題については、株主全員の同意があれば譲渡制限株式の譲渡の承認は不要ですか 会社法上の取扱いと実務上の備えをご覧ください。

価格の算定方法の定め

買取りの価格について、算定の方法を定める条項が置かれていることがあります。直前の事業年度の貸借対照表による1株当たり純資産額とする定め、第三者である評価機関の評価額とする定め、当事者が協議して定める旨の定め等があります。DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法。将来の見込まれる資金の流れを現在の価値に割り戻して評価する方法です)による旨が定められている例もあります。算定の方法の定めがある場合には、その定めに従って計算した金額を自ら試算し、会社又は他の株主が示した金額と対照してください。なお、取得のときに額面額その他の固定額で譲渡する旨を合意していた場合の効力は本記事の対象ではなく、取得のときに額面額(固定額)で譲渡する合意をしていたら、その価格でしか売れないのか 最高裁判決の射程が及ばない5つの類型に整理しています。

条項の型 株主の側が確かめる事項
一定期間の譲渡の禁止 期間の始期と終期、自動更新の有無、期間経過後の取扱い
他の株主に先に買い取る機会を与える条項 通知の方法、回答の期間、価格の決め方、無回答の場合の効果
他の株主が同じ条件で売却に加わることができる条項 通知を受ける権利、加わることができる株式の数、価格の同一性
支配株主が他の株主に売却を求めることができる条項 発動の要件、必要な持株比率、最低価格の定めの有無
買取りを求めることができる条項 発動の事由、行使の期間、相手方、支払の時期と方法
全員の同意を要する条項 同意を要する者の範囲、同意の方式、同意を拒む場合の制約
価格の算定方法の定め 基準となる計算書類、評価の方法、評価者の選任の方法

自分の契約を読むための手順

ご相談をお受けする場面で最も多いのは、契約書の全文が手元にないまま、記憶に基づいて「譲渡できないことになっている」とお考えになっている状態です。まず資料を揃えることから始めてください。以下の手順は、ご自身で着手することができます。

契約書の版と当事者を確定する

株主間契約は、増資、役員の交代、株主の入れ替わりの度に、変更契約又は覚書によって改められていることがあります。締結の日付が異なる複数の書面が存在する場合には、最も新しいものが有効であるとは限りませんので、それぞれの前文と末尾を読み、どの書面がどの書面を変更するものかを確かめてください。別紙、附属覚書及び議事録に重要な定めが置かれている例が多くありますので、本体だけでなく別紙の全部を確認する必要があります。

譲渡に関する条項を抜き出す

「譲渡」「処分」「担保」「承継」「第三者」「同意」「通知」という語を手掛かりに、関係する条項を全て抜き出してください。譲渡の制限は、表題に「株式の譲渡」と記された条項だけに置かれているとは限らず、遵守事項、誓約事項又は一般条項の中に紛れて置かれていることがあります。また、他の株主が同様の契約に拘束されているかどうかも重要です。株主ごとに異なる内容の契約が締結されている場合、ご自身だけが強い制限を受けている可能性があるからです。

期間の定め及び終了の事由を確かめる

契約の有効期間、自動更新の定め、及び終了の事由を確かめてください。株主でなくなったときに当然に終了する旨の定めがあるか、上場又は会社のM&Aが実現したときに終了する旨の定めがあるかは、出口を考えるうえで重要です。加えて、違約金又は損害賠償の額の予定に関する条項の有無と金額を必ず確認してください。

買取りを求めることができる条項の有無を確かめる

制限だけに目を奪われますと、ご自身に有利な条項を見落とします。買取りを求めることができる条項、共同売却に加わることができる条項、及び情報の開示を求めることができる条項は、いずれも少数株主の側が使うことのできる道具です。制限の条項と権利の条項とを分けて一覧にしてください。

点検の項目 確認の内容
当事者 誰と誰が締結しているか。会社が当事者となっているか
原契約、変更契約、覚書の全部が揃っているか。どれが有効か
譲渡に関する条項 制限の条項と権利の条項を漏れなく抜き出したか
期間 有効期間、自動更新の定め、期間の定めの有無
終了の事由 株主でなくなった場合、上場した場合、会社のM&Aが実現した場合の取扱い
買取条項 買取りを求めることができる事由、行使の期間、相手方
価格の定め 算定の方法、基準となる計算書類、評価者の選任
違約金 違約金又は損害賠償の額の予定の有無と金額

契約に反して譲渡した場合に何が起きるか

先の見通しを立てるためには、契約に反して譲渡した場合に何が起きるのかを、あらかじめ整理しておく必要があります。もっとも、この論点について公表された裁判例の集積は必ずしも多くありませんので、以下は一般的な考え方の整理であり、事案により異なる結論となり得ます。

譲渡そのものの効力

株主間契約による譲渡の制限は、原則として当事者の間の債権的な効力を有するにとどまりますので、これに違反してされた譲渡が当然に無効となるものではないと一般に考えられています。譲受人が契約の存在を知っていた場合の取扱い等については、争われ得る事柄であり、断定することはできません。したがって、無効となる危険が全くないという前提で行動することは適当ではありません。

他の当事者に対する責任

契約に違反した株主は、他の当事者に対して債務不履行に基づく損害賠償の責任を負い得ます(民法第415条第1項)。もっとも、損害の発生及びその額は、請求する側が主張し立証すべき事柄です。株式が第三者に移転したことにより他の株主にどのような損害が生じたのかは、必ずしも容易に示すことができるものではありません。

違約金の定めがある場合

契約に違約金の定めが置かれている場合には、当事者は賠償額の予定をしたものと推定されます(民法第420条第1項)。この場合、損害の額を立証しなくても、定められた金額の請求を受ける可能性があります。したがって、契約書に違約金の条項があるかどうかは、譲渡に踏み切るかどうかの判断において決定的な意味を持ちます。金額が著しく過大である場合の取扱いは争われ得る事柄ですが、これを当てにして行動することは適当ではありません。

会社に対する名義書換えの請求との関係

株式の譲渡は、譲受人の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載しなければ、会社その他の第三者に対抗することができません(会社法第130条第1項)。ここで注意を要するのは、名義書換えの可否は、会社法上の要件によって定まるのであって、株主間契約に違反したという一事によって当然に定まるものではないという点です。会社が契約の当事者でないにもかかわらず、株主間契約を理由として名義書換えを拒んできた場合には、その根拠を書面により明らかにするよう求めてください。

契約上の買取条項をどう使うか

売却を望む少数株主にとって、株主間契約は制限だけを課すものとは限りません。買取りを求めることができる条項が置かれている場合には、これを用いることが、会社法上の手続よりも速く、かつ確実な出口となることがあります。

買取りを求めることができる事由の確認

まず、どのような事由が生じたときに買取りを求めることができるのかを確認してください。締結の日から一定の年数が経過したこと、一定の期日までに株式上場が実現しなかったこと、役員を退任したこと、会社が一定の財務上の水準を下回ったこと等が定められている例があります。既に事由が発生しているにもかかわらず、行使の期間が定められていることに気付かず、期間を徒過してしまう例がありますので、行使の期間の定めを併せて確認してください。

価格の定め方が契約に置かれている場合

価格の算定の方法が定められている場合には、その方法に従って自ら試算し、根拠となる計算書類とともに相手方に示してください。基準となる貸借対照表の事業年度、発行済株式総数の数、及び自己株式を控除するかどうかによって、1株当たりの金額は大きく変わります。相手方が示した金額との差異がどこから生じているのかを、項目ごとに突き合わせることが交渉の出発点となります。

価格の定めがない場合の進め方

価格について協議により定める旨のみが置かれている場合には、協議が調わないときにどうなるかが問題となります。契約に第三者である評価機関の選任に関する定めがあれば、これによります。定めがない場合には、会社法上の手続に移行することを視野に入れて交渉することが現実的です。すなわち、株式譲渡承認請求を経て売買価格の決定の申立てに至る道が残されていることを踏まえ、契約上の協議に臨むという組立てです。詳しくは譲渡制限のある株式を売却したいのに承認が得られずお困りではありませんかをご覧ください。

相手方が応じない場合に採り得る手段

買取りを求める通知を発しても相手方が応じない場合には、履行を求める交渉を続けるほかに、会社法上の手続に切り替えるという選択肢があります。いずれを中心に据えるかは、契約の条項の明確さ、相手方の資力、及び時間の見込みによって決まります。通知は、到達の日を証することができる方法により行い、往復の書面を全て保存してください。

通知に記載する事項 記載の内容
根拠となる条項 株主間契約の条名及び項番号を特定して掲げます
事由の発生 買取りを求めることができる事由が、いつ、どのように発生したかを具体的に記します
求める内容 買取りを求める株式の数、及び価格の算定の根拠を示します
回答の期限 回答を求める期日と、期日までに回答がない場合に採る対応を記します

契約から離脱する方法と、会社法上の手続との関係

契約上の買取条項がない場合、又は相手方が応じない場合には、契約そのものから離脱することができるかを検討することになります。この論点についても公表された裁判例の集積は必ずしも多くありませんので、以下は一般的な整理です。

合意による終了

最も確実なのは、他の当事者との合意により契約を終了させることです。全員の同意を得ることが難しい場面もありますが、株式を手放すことが他の株主にとっても望ましい場合には、譲渡の承認と契約の終了とを1つの合意書にまとめる進め方が有効なことがあります。合意書には、契約の終了の日、違約金の請求をしないこと、及び相互に債権債務がないことを明記してください。

期間の満了及び終了の事由

有効期間の定めがあり、既に期間が満了している場合には、契約は終了しています。自動更新の定めがある場合には、更新を拒絶する旨の通知を、契約に定められた期限までに行う必要があります。また、株主でなくなったときに終了する旨の定めがある場合には、そもそも譲渡が先行しなければ終了しないという循環が生じますので、条項の読み方に注意を要します。

期間の定めのない譲渡の禁止の合意及び解除又は解約の申入れ

期間の定めが全くないまま、無期限に株式の譲渡を禁ずる合意については、その効力が争われ得ます。株式は財産であり、これを永久に処分することができないとする合意は、財産権の行使を過度に制約するものと評価される余地があるからです。もっとも、これを正面から判断した公表された裁判例は必ずしも多くありませんので、当然に無効であると断定することはできません。実務上は、期間の定めのない継続的な契約については、相当の期間を定めた解約の申入れにより将来に向かって終了させることができると解される場合があり、この構成を検討することになります。また、相手方が契約上の義務を履行しない場合には、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときに契約を解除することが考えられます(民法第541条)。いずれも書面により行い、到達の日を証することができる方法を用いてください。

契約の当事者でない相続人が拘束されるか

被相続人が株主間契約の当事者であり、相続によって株式を取得した相続人が、その契約に拘束されるかという問題があります。相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継しますので、契約上の地位も原則として承継されると考えるのが一般的です。もっとも、契約に相続人が承継する旨の定めが置かれているか、被相続人の個人的な信頼関係を前提とする内容であったか、相続人が契約の存在を知り得たかといった事情により、結論が異なり得ます。この論点についても公表された裁判例の集積は必ずしも多くありませんので、相続により株主となられた方は、まず被相続人と他の株主との間の書面の有無を確認することから始めてください。会社に対して株主名簿及び定款の閲覧を求め、併せて被相続人の遺品の中から契約書を探すことになります。

株式譲渡承認請求へ進む場合の順序と期間の制限

株主間契約による制限があっても、会社法上の株式譲渡承認請求の手続を用いること自体は妨げられません。両者は別の問題です。株主は、譲渡制限株式を他人に譲り渡そうとするときは、会社に対して承認するか否かの決定を求めることができ(会社法第136条)、株式を取得した者も同様の請求をすることができます(会社法第137条第1項)。請求は、譲り渡そうとする株式の数及び譲受人を明らかにして行います(会社法第138条)。会社が請求の日から2週間以内に決定の内容を通知しないときは、承認したものとみなされます(会社法第139条第2項、第145条第1号)。承認しない旨の決定がされた場合には、会社又は指定買取人が買い取ることとなり(会社法第140条)、売買価格について協議が調わないときは、裁判所に対して売買価格の決定を申し立てることができます(会社法第144条第2項)。この申立てには20日という期間の制限があります。手順、記載事項及び期間の管理の詳細は、株式譲渡承認請求の流れと少数株主側の注意点に整理しています。実務上の順序としては、契約上の義務の内容を確定し、必要な通知又は同意の取得を先に済ませたうえで、会社法上の請求に進むという組立てが、後日の紛争を避けるうえで有効です。

よくあるご質問

株主間契約による譲渡の制限について、ご相談の際に多くお寄せいただく質問を掲げます。いずれも一般的な考え方であり、実際の結論は契約書の条項及び事案の経緯によって異なります。

契約書を持っていないのですが、どうすればよいですか

まず、締結の当時に受領した書面の写しが、ご自宅、勤務先又は税理士の事務所に残っていないかを確認してください。それでも見当たらない場合には、他の当事者に対して写しの交付を求めることになります。相手方が契約の存在を主張して譲渡を拒むのであれば、その根拠となる書面を示すよう求めることが筋道です。契約書の全文と別紙を確認しないまま、制限があることを前提に交渉に入ることは避けてください。

相続により株主となりました。私も契約に拘束されますか

相続人は被相続人の権利義務を承継しますので、契約上の地位も原則として承継されると考えるのが一般的です。もっとも、契約の内容、相続人が承継する旨の定めの有無、及び個人的な信頼関係を前提とする契約であったかどうかにより、結論が異なり得ます。この点に関する公表された裁判例の集積は必ずしも多くありませんので、まず書面を確認したうえで、個別に検討する必要があります。

契約に期間の定めがない場合、永久に売れないのですか

そのように考える必要はありません。期間の定めのない継続的な契約については、相当の期間を定めた解約の申入れにより将来に向かって終了させることができると解される場合があります。また、無期限に株式の譲渡を禁ずる合意については、その効力自体が争われ得ます。いずれも事案により異なりますので、契約の文言と締結の経緯を踏まえて検討することになります。

会社が契約の当事者ではありません。それでも名義書換えを拒まれます

会社が株主間契約の当事者でないのであれば、契約は原則として会社との関係を定めるものではありません。名義書換えの可否は会社法上の要件によって定まります。拒む理由を書面により明らかにするよう求め、その内容が会社法上の根拠に基づくものであるかを検討してください。

他の株主も同じ内容の契約に拘束されているのでしょうか

必ずしもそうとは限りません。株主ごとに異なる時期に、異なる内容の契約が締結されている例があります。ご自身だけが強い制限を受けている場合には、その事情自体が、交渉において考慮を求めることのできる材料となります。他の株主との間の書面の有無及び内容についても、可能な範囲で確認してください。

期限のある手続はありますか

契約上の買取りを求めることができる権利に行使の期間が定められている場合があります。また、会社法上の手続に進んだ場合には、承認するか否かの決定の通知に関する2週間、及び売買価格の決定の申立てに関する20日という期間の制限があります。いずれも徒過しますと回復することができませんので、着手の前に日程を組み立ててください。

弁護士に依頼する場合、何を持参すればよいですか

株主間契約書とその別紙及び変更契約の全部、定款、株主名簿、登記事項証明書、直近3期分の決算書、会社又は他の株主との往復の書面をご持参ください。写しで差し支えありません。資料が揃っていない場合でも、事実関係と経緯をお聞きすれば、採り得る手段の見通しを申し上げることができます。

まとめ

株主間契約による譲渡の制限は、定款による譲渡制限とは別のものであり、原則として契約を締結した当事者の間の債権的な効力にとどまります。これに違反した譲渡が当然に無効となるものではなく、債務不履行の問題を生ずるにとどまるのが原則です。もっとも、違約金の定めがある場合には金額が大きくなることがありますので、行動の前に契約書の全文と別紙を確認することが不可欠です。

採るべき対応は、契約書の版と当事者の確定、譲渡に関する条項の抜き出し、期間及び終了の事由の確認、買取りを求めることができる条項の有無の確認、他の株主が同様の契約に拘束されているかの確認、そして会社が契約の当事者であるかどうかの確認という順序になります。そのうえで、契約上の買取りを求めるのか、会社法上の株式譲渡承認請求に進むのかを決めることになります。株主間契約による制限があっても、会社法上の手続を用いること自体は妨げられません。

当事務所は、株式を手放そうとされる株主のお立場から、契約書の読み方、通知の書き方、及び会社法上の手続への進め方を一貫して担当いたします。株主間契約が置かれている事案では、契約と会社法上の手続の双方を同時に検討する必要がありますので、書面を発する前の段階でご相談ください。具体的な進め方は譲渡制限のある株式を売却したいのに承認が得られずお困りではありませんかに整理しています。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。