【反対株主の株式買取請求権】株式買取請求権裁判例分析3(旧カネボウ事件東京地裁)―東京地方裁判所平成20年3月14日決定

本件は、【反対株主の株式買取請求権】の事件です。旧カネボウが主要事業を営業譲渡することを取締役会で決議したのに対し、これに反対した少数株主が、平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」といいます。)に基づいて会社に株式の買取りを請求し、買取価格の協議が調わなかったため、裁判所に買取価格の決定を申し立てました。株式の譲渡承認を会社が拒否した場合の売買価格の決定とは、手続も根拠条文も異なります。

会社側は公開買付けの価格と同じ1株162円を主張し、株主側は1株950円から1578円を主張しました。東京地方裁判所は、営業譲渡がなければ会社が存続したと仮定した場合の継続企業としての価値をDCF法で評価した鑑定を採用し、1株360円と定めました。非流動性ディスカウント、マイノリティ・ディスカウント及びスモール・ビジネス・プレミアムは考慮されていません。

基本情報

裁判所東京地方裁判所
裁判日平成20年3月14日(決定)
事件番号平成18年(ヒ)第256号ほか7件
事件名各株式買取価格決定申立事件
手続の種類反対株主の株式買取請求(営業譲渡に反対した株主。旧商法第245条ノ2、第245条ノ5)
審級第一審(抗告審は東京高等裁判所平成22年5月24日決定)
結論普通株式の買取価格を1株360円と決定。手続要件を欠く一部の申立ては却下。鑑定料5420万円のうち4531万2097円を申立人ら、888万7903円を会社の負担とする

本記事は上記決定の解説です。上訴の有無や確定を確認した旨の表示ではありません。

当事者の表記

本記事では、株式の買取りを求められた会社を「旧カネボウ」、買取りを請求した株主らを「申立人ら」と表記します。旧カネボウの支援先として議決権の約82%を取得した投資会社は「支配株主」と表記し、その他の会社も実名を用いずに表記します。

事案の概要

旧カネボウの事業と株式

旧カネボウは、各種繊維工業品、医薬品、化粧品及び各種食品等の製造、加工及び販売等を目的とする株式会社で、食品事業、ホームプロダクツ事業及び薬品事業の3事業を主要事業としていました。

平成18年4月14日当時の発行済株式総数は2億2641万5057株で、資本金は350億9998万5000円でした。内訳は次のとおりです。

  • 普通株式:5128万3557株
  • A種類株式:3000万株(議決権のない優先株式。普通株式への転換予約権と発行価格相当による償還請求権付き)
  • B種類株式:3000万株(同上)
  • C種類株式:1億1513万1500株(議決権はあるが利益配当請求権がなく、平成18年10月1日以降は普通株式に転換できる株式)

経営悪化から上場廃止まで

旧カネボウは東京証券取引所第1部の上場会社でしたが、経営状態が悪化したため、産業再生機構の支援の下で事業再生計画を策定しました。金融機関から995億円の債務免除を受け、減資を行った上で、産業再生機構からの出資に対してC種類株式を、銀行からの300億円の出資に対してA種類株式及びB種類株式(いずれも1株500円)を発行しました。

平成17年4月13日に過年度の粉飾決算とそれに伴う決算修正を公表し、同年6月13日、有価証券報告書の虚偽記載を理由に上場廃止となりました。最終株価は1株360円でした。

支配株主による公開買付け

産業再生機構は、支援先を選定するための資料として旧カネボウが作成した新再生5ヵ年計画を基に支援先を募り、投資会社を支援先に決定しました。産業再生機構は平成17年12月16日、保有するC種類株式の全部をこの投資会社に1株201円で譲渡し、別の会社も平成18年2月21日に保有するC種類株式の全部をこの投資会社に譲渡しました。

この投資会社は、平成18年2月21日から1株162円で普通株式の公開買付けを行い、同年3月29日までに2181万4229株を取得しました。買付価格は、第三者機関の算定を参考に普通株式を1株147円と評価し、15円(約10.2%)のプレミアムを上乗せしたものでした。その結果、この投資会社(支配株主)は、議決権のある株式1億6641万5057株のうち1億3694万6729株(約82%)を保有するに至りました。

営業譲渡と反対株主

旧カネボウは、平成18年4月14日の取締役会で、ホームプロダクツ事業と薬品事業を支配株主が出資する会社にそれぞれ営業譲渡する旨を決議し、あわせて、食品事業を営む子会社の株式を支配株主に譲渡することにより食品事業を譲渡する旨を決定しました。同日、営業譲渡の決議を電子公告し、同年5月1日をもって各事業を営業譲渡しました。

これに反対した普通株主らが株式の買取りを請求し、買取価格の協議が調わなかったため、本件を申し立てました。申立人らの主張する持株数は100株から145万3100株、合計約677万株で、いずれも議決権のある株式の1%に満たないものでした。

事案の経緯

日付出来事
平成16年2月16日旧カネボウが産業再生機構に支援を要請(同年5月31日に支援決定)
平成16年9月28日・10月1日995億円の債務免除、減資、C種類株式及びA・B種類株式の発行
平成17年4月13日過年度の粉飾決算と決算修正を公表
平成17年6月13日上場廃止(最終株価1株360円)
平成17年8月新再生5ヵ年計画を作成
平成17年12月16日産業再生機構がC種類株式の全部を支援先の投資会社に1株201円で譲渡
平成18年2月21日〜3月29日支援先による1株162円の公開買付け。普通株式2181万4229株を取得し、議決権の約82%を保有
平成18年4月14日取締役会で主要3事業の譲渡を決議・決定し、営業譲渡を電子公告
平成18年4月28日反対の意思の通知の期限
平成18年5月1日営業譲渡の実行
平成18年5月18日株式買取請求の期限
平成18年6月27日買取価格の協議期間の末日
平成18年7月27日まで申立人らが買取価格の決定を申立て
平成20年3月14日東京地方裁判所が1株360円と決定

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申立ての内容と当事者の主張

申立人らは、グループごとに、1株1578円(一部の申立人は1株1491円)、1株1392円、1株950円を買取価格とするよう求めました。旧カネボウは1株162円を主張しました。

旧カネボウは、配当還元方式を考慮すべきこと、公開買付けの価格を取引事例として参考にすべきこと、新再生5ヵ年計画は目標値を高く設定したものであるから修正すべきこと、スモール・リスク・プレミアムや非流動性ディスカウントを考慮すべきこと、C種類株式が1株201円で譲渡されているから普通株式が1株201円を上回ることはないことなどを主張しました。申立人らは、鑑定の永久成長率0%や割引率が不当であること、連結納税制度や海外展開を考慮すべきこと、期待プレミアムを上乗せすべきことなどを主張しました。

争点

  • 各申立人が株式買取請求の手続を適法に履践したか(申立適格)
  • 「公正ナル価格」の意味と、その算定方法(DCF法、配当還元方式、取引事例方式、純資産方式、類似会社比準方式)
  • 鑑定の算定過程(事業計画、永久成長率、割引率、ディスカウント等)の合理性
  • 鑑定費用の負担

裁判所の判断

手続を履践しなかった申立人の申立ては却下

裁判所は、反対株主は、公告の日から2週間以内(平成18年4月28日まで)に反対の意思を書面で通知し、5月18日までに株式の種類及び数を明らかにして買取りを請求し、協議が調わない場合は7月27日までに申し立てる必要があるとしました。そして、買取請求書に株式数を記載しなかった申立人、期限内に反対の通知をしたと認められない申立人、反対の通知をしていない申立人の申立てを不適法として却下しました。電子公告を知らなかった、長期不在であったといった事情も、期間内に手続を履践できなかったやむを得ない理由にはならないとしています。持株数を超えて申し立てた申立人は、実際の持株数(1600株)の限度で適法とされました。

「公正ナル価格」の意味

裁判所は、営業譲渡に反対した株主の株式買取請求の制度は、反対株主に投下資本を回収する途を保障することを目的とするものであるとし、「公正ナル価格」とは営業譲渡の承認の決議がなかったならば有したであろう公正な価格であって、過去の一定時点の株価をいうものではないとしました。法が価格決定の基準を定めていないことから、価格決定は裁判所の合理的な裁量に委ねられているとし(最高裁判所第一小法廷昭和48年3月1日決定を参照しています。)、営業譲渡が行われずに会社がそのまま存続すると仮定した場合の株式の価値を、一切の事情を斟酌して、反対株主の投下資本回収を保障する観点から算定するとしました。

支配権の移動という観点は不要

申立人らはいずれも議決権の1%に満たない極少数株主である一方、支配株主は議決権の約82%を保有し、買取請求の帰趨にかかわらず既に支配権を確保していました。そのため、裁判所は、支配権の移動という観点から株式価格を評価する必要はなく、専ら継続企業としての価値を評価する観点から判断手法を選べば十分であるとしました。

DCF法を採用し、他の方法は採用しない

裁判所は、継続企業としての価値の評価にふさわしい方法は、収益方式の代表的手法であるDCF法であるとしました。他の方法については、次のとおり判断しています。

  • 配当還元方式:旧カネボウは事業再生途上の企業で配当を行える状況になく、一般に妥当とされる配当額を求めることも困難で、成長性も明確でないことから、実際配当還元法、標準配当還元法、ゴードン・モデル法のいずれも考慮するのは相当でないとしました。
  • 取引事例方式:公開買付けで取得された株式(2181万4229株)は申立人らの株式の合計の3倍以上で、取引量が同程度とはいえず、公開買付けの価格を参考にすることは適切でないとしました。
  • 純資産方式:事業継続を前提とする会社の企業価値を評価する方法ではないとして、考慮しませんでした。
  • 類似会社比準方式:旧カネボウは上場会社に匹敵する規模を有するものの、事業再生途上の会社で、上場会社とは経営状況が大きく異なるとして、考慮しませんでした。

鑑定による1株360円の算定

裁判所は、DCF法による鑑定を正当なものとして採用しました。鑑定の内容は次のとおりです。

  • 事業計画:旧カネボウが作成した新再生5ヵ年計画を全社としてまとめた中期計画を、将来キャッシュ・フローの算定基礎とする。継続事業部門の予測期間は8年間(平成18年4月から平成26年3月まで)とし、後半4年間は平成21年度の営業利益が継続すると仮定する。撤収事業部門の予測期間は5年間とする
  • 永久成長率:主要事業は国内の小売業を取引先とする製造業であり、国内の小売販売額は成長が期待できないとして、平成22年度以降の成長率を0%とする
  • 割引率:リスクフリー・レート1.875%(平成18年4月13日時点の新規発行の長期国債の利回り)、事業別のベータ値(食品0.677、ホームプロダクツ0.598、薬品0.521)、株式リスクプレミアム8.50%(昭和30年から平成17年までの統計データ)により、資本コストを食品7.63%、ホームプロダクツ6.96%、薬品6.30%とし、負債コスト3.03%、類似会社の資本負債割合の平均を用いて、割引率を撤収事業5.105%、食品6.66%、ホームプロダクツ6.55%、薬品6.06%とする
  • 事業価値:食品224億2600万円+ホームプロダクツ366億3400万円+薬品301億1200万円-撤収事業80億4900万円=811億2300万円
  • 非事業用資産:積極財産220億6600万円-消極財産(短期借入金、退職給付金)133億2800万円=87億3800万円
  • 企業価値:898億6100万円
  • A種類株式とB種類株式は負債として扱い、払込金額300億円を控除する。C種類株式は、転換請求開始日が近く、1株につき普通株式1株に転換できることから、普通株式と区別しない
  • 1株当たり:(898億6100万円-300億円)÷(5128万3557株+1億1513万1500株)≒360円

ディスカウントとプレミアムの扱い

鑑定は、非流動性ディスカウントについて、事業の合併・買収取引で非公開会社を評価する場合には流動性の欠如を理由とするディスカウントを加味するのが一般的であるとしつつ、次のように述べています。

「株式買取請求権の制度は,多数株主によって会社から離脱することを余儀なくされた少数株主の経済的損失を保護することを目的としたものであり,少数株主は株式売却を意図していないにもかかわらず譲渡を余儀なくされたのであるから,株主が進んで株式を売却することを前提とした非流動性ディスカウントを考慮すべきではない。」

マイノリティ・ディスカウントについては、客観的な根拠があるわけではなく、通常は売買当事者の価格交渉において使われる調整事項であるとして採用せず、スモール・ビジネス・プレミアムも考慮していません。裁判所は、非流動性ディスカウント及びスモール・リスク・プレミアムを考慮すべきであるとの旧カネボウの主張に対し、鑑定人の判断は専門的学識と経験に基づく判断として十分合理性があるとして、これを退けました。

鑑定に対するその他の主張

  • 新再生5ヵ年計画は目標値を高く設定したものであるとの旧カネボウの主張について、裁判所は、自ら作成した計画であり、支援企業には企業価値を高く売り込みながら、株式買取請求の場面ではもっと低額であると主張するのは信義則に照らし認められ難いとしました。
  • C種類株式の1株201円での譲渡は、取引量が異なり、支援先の選定という特殊な条件の下での取引であるとして、参考にされませんでした。
  • 保有現金の一部は運転資金であるとの主張も、必要運転資金を算定する客観的根拠がないとして退けられました。
  • 永久成長率0%、株式リスクプレミアムの算定期間や算術平均の採用、負債コスト、資本構成、連結納税制度や海外展開を考慮しないことなど、申立人らの指摘もいずれも退けられました。
  • 期待プレミアムを上乗せすべきとの主張は、DCF法は将来の価値を織り込んで評価しているとして退けられました。

鑑定費用の負担

裁判所は、鑑定料5420万円について、申立てが適法な申立人らと会社との間では、各申立人の持株数と、鑑定を依頼する直前の当事者の主張額と決定額との乖離率に応じて負担させ、申立てが不適法な申立人らは持株数に応じて負担させるのが相当であるとしました。申立人らが所有する株式1株当たりの鑑定費用は8円程度で、決して高額とはいえないとしています。その結果、申立人らの負担は合計4531万2097円、会社の負担は888万7903円とされました。

結論

東京地方裁判所は、手続を適法に履践した申立人らの普通株式の買取価格を1株360円と定め、その余の申立てを却下しました。

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実務上の着眼点

  • 反対株主の株式買取請求では、反対の通知、買取請求、申立てのそれぞれに期限があり、1つでも欠くと申立ては却下されます。本件では電子公告を知らなかったことも理由になりませんでした。
  • 公開買付けの価格(1株162円)は、取引量が異なることなどから参考にされず、決定額は1株360円となりました。
  • 本決定は、反対株主の株式買取請求という、売却を意図しない少数株主が会社からの離脱を余儀なくされる場面について、非流動性ディスカウントを考慮しない鑑定を採用したものです。この判断を譲渡制限株式の売買価格の決定の場面にそのまま及ぼすことはできません。
  • 鑑定費用は主張額と決定額の乖離に応じて負担させられました。主張額は根拠をもって設定する必要があります。
  • 本件の抗告審の判断は、別稿の株式買取請求権裁判例分析2で取り上げています。

本決定が扱っていない事項

  • 会社法の施行後の反対株主の株式買取請求(会社法第469条等)における「公正な価格」の判断ではなく、旧商法の下での判断です。
  • 譲渡制限株式の譲渡承認を拒否した場合の売買価格の決定について判断したものではありません。
  • 支配権の移動を伴う株式の評価方法については、本件では不要とされたため判断されていません。
  • 永久成長率0%や株式リスクプレミアム8.50%は、本件の鑑定が採用した数値であり、一般的な基準として示されたものではありません。

よくあるご質問

反対株主が株式の買取りを請求するには、何をすればよいのですか。

本件(旧商法の下での営業譲渡)では、公告の日から2週間以内に反対の意思を書面で通知し、所定の期間内に株式の種類及び数を明らかにして買取りを請求し、協議が調わなければ所定の期間内に裁判所に申し立てる必要がありました。株式数を記載しなかった申立人や期限に遅れた申立人の申立ては却下されました。

公開買付けの価格で買い取られるのですか。

本件では、公開買付けの価格は1株162円でしたが、裁判所は取引事例として参考にせず、DCF法による鑑定に基づき1株360円と定めました。

非上場の株式だから減額されるのではありませんか。

本件では、株主が進んで株式を売却するわけではないことを理由に、非流動性ディスカウントを考慮しない鑑定が採用されました。

鑑定費用は誰が負担しますか。

本件では、当事者の主張額と決定額との乖離率に応じて按分され、申立人らが合計4531万2097円、会社が888万7903円を負担しました。

根拠条文

  • 平成17年法律第87号による改正前の商法第245条ノ2(反対株主の株式買取請求権)
  • 同法第245条ノ5(反対の意思の通知、買取請求及び価格決定の申立て)、第245条ノ3第4項
  • 平成17年法律第87号による改正前の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法第12条の3(営業譲渡の公告)
  • 平成17年法律第87号による改正前の非訟事件手続法第26条、第27条(手続費用)

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

平成23年に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士であります。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。