株式買取請求権裁判例分析2(旧カネボウ事件東京高裁)

株式買取請求権裁判例分析2(旧カネボウ事件東京高等裁判所)

旧カネボウの営業譲渡に際して、平成17年法律第87号による改正前の商法245条ノ2に基づき、少数株主である反対株主から株式買取請求権が行使された事例です。譲渡制限株式の売買価格の決定の申立てとは制度が異なり、組織再編行為等に反対した株主に投下資本を回収する途を保障する制度が問題となっています。

本稿で取り上げるのは、東京高等裁判所平成22年5月24日決定(平成20年(ラ)第637号 各株式買取価格決定に対する抗告事件。金融・商事判例1345号12頁)です。原審は、東京地方裁判所平成20年3月14日決定(平成18年(ヒ)第256号ほか 各株式買取価格決定申立事件)です。

平成17年法律第87号による改正前の商法245条ノ2の「公正ナル価格」の算定に当たって、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)による評価が相当であるとされ、同方法により株式買取価格が決定されました。本決定は、原審が定めた1株当たり360円という買取価格を維持し、会社側及び株主側の双方の抗告をいずれも棄却しています。

なお、この場合に、マイノリティ・ディスカウント(非支配株式であることを理由とした減価)や非流動性ディスカウント(市場価格のないことを理由とした減価)を行うことの可否も争われました。

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本件の事案の概要と当事者が求めた1株当たりの価額

旧カネボウは多額の債務超過に陥り、公的な事業再生支援機関の支援の下で事業再生を進めていました。本決定の認定によれば、平成18年4月14日、産業活力再生特別措置法12条の3第2項の特例により、株主総会の承認を経ずに取締役会の決議で主要3事業のうち2事業の営業譲渡が行われ、同法12条の3第3項等に基づき電子公告がされました。これに反対した株主が株式買取請求権を行使し、価格の協議が整わなかったため、裁判所に買取価格の決定を求めた事案です。

裁判所は、同日当時の発行済株式総数を2億2641万5057株と認定しています。その内訳は、普通株式5128万3557株、A種類株式3000万株、B種類株式3000万株及びC種類株式1億1513万1500株です(5128万3557株+3000万株+3000万株+1億1513万1500株=2億2641万5057株)。申立てをした株主の持株数は合計約677万株でした。

会社側は、営業譲渡に先立つ公開買付けと同額の1株162円が相当であるとし、配当還元法によれば1株67円、収益予測を修正したDCF法によれば1株41円から69円にとどまると主張しました。株主側は1株950円、あるいは1株1150円から1550円を主張し、裁判所が選任した鑑定人の評価額は1株360円でした。

高等裁判所が原審の判断をどのように改めたか

本決定は双方の抗告をいずれも棄却し、1株360円とした原審の結論を維持しました。もっとも、原審の説示をそのまま是認したわけではありません。第1に、申立ての適格に関する説示について、根拠条文の引用を産業活力再生特別措置法12条の3第2項から同条第3項に改め、反対の意思の通知、株式買取請求及び価格決定の申立ての各期間に関する部分を書き改めた上、書証の番号の誤りも訂正しました。

第2に、原審の後に会社が吸収合併により消滅したという抗告審に固有の事情について判断を示しました。裁判所は、株式買取請求権の行使により法律上当然に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずるとした最高裁判所昭和48年3月1日判決を引き、株主は既に買取代金請求権を取得しているから、買主としての地位も価格決定手続上の地位も存続会社が承継すると判断しました。

第3に、評価額に将来の株価上昇に対する期待プレミアムを上乗せすることは相当でないこと、C種類株式を普通株式と区別せずに1株当たりの価額を算定してよいことなど、争点について説示を付け加えました。鑑定費用の負担は、費用の裁判に独立して不服を申し立てることはできないとして判断せず、原審の定めを維持しました。原審の内容は、旧カネボウ事件の東京地方裁判所決定を取り上げた頁でご確認いただけます。

公正な価格の意義と価格決定の基準時

本決定は、「公正ナル価格」とは、営業譲渡が行われず会社がそのまま存続すると仮定した場合に形成されたと想定される株式の客観的交換価値をいい、営業譲渡による相乗効果の部分は含まないとしました。評価は継続企業としての価値を基礎とすることになります。価格の算定の基準時は、営業譲渡の決議及び公告がされた平成18年4月14日とされ、鑑定もこの日を基準時としています。

株式買取請求権裁判例における株式価値評価方法の選択

DCF法

※本決定は、反対株主の株式買取請求権の制度趣旨を、下記のとおり、「株式買取請求権は、少数派の反対株主としては株式を手放したくないにもかかわらずそれ以上不利益を被らないため株式を手放さざるを得ない事態に追い込まれることに対する補償措置として位置付けられるものである」と述べ、少数株主の保護の制度として位置付けています。その上で、営業譲渡や合併、会社分割は会社の財産の処分として捉えることができるから、少数派の反対株主は、会社が清算される場合と同様に、会社の全財産に対する残余財産分配請求権を有すると観念することができ、その価値は、事業が一体として譲渡される場合を想定した価値、すなわち当該事業から生ずると予想される将来のキャッシュ・フローの割引現在価値に一致すると考えるのが合理的であるとして、DCF法を採用しました。

株式買取請求権裁判例の株式価値評価方法におけるディスカウントの取り扱い

非上場会社となった会社の反対株主の株式買取請求による買取価格の決定に際して、マイノリティ・ディスカウント及び非流動性ディスカウントのいずれも行うことは相当でないと判断した高等裁判所の決定です。本決定は、反対株主の株式買取請求権の制度趣旨を、下記のとおり、「株式買取請求権は、少数派の反対株主としては株式を手放したくないにもかかわらずそれ以上不利益を被らないため株式を手放さざるを得ない事態に追い込まれることに対する補償措置として位置付けられるものである」と述べ、株式を手放すことを強いられる少数株主に対する補償という制度の性質から、非支配株式であることを理由とする減価も、市場価格がないことを理由とする減価も、いずれも行うべきではないとしました。会社側は、非流動性ディスカウントとして概ね30%の減価を行うべきであると主張していましたが、この主張は採用されていません。

【判旨】本件の株式買取請求権は、少数派の反対株主としては株式を手放したくないにもかかわらずそれ以上不利益を被らないため株式を手放さざるを得ない事態に追い込まれることに対する補償措置として位置付けられるものであるから、マイノリティ・ディスカウント(非支配株式であることを理由とした減価)や非流動性ディスカウント(市場価格のないことを理由とした減価)を本件株式価値の評価に当たって行うことは相当でないというべきである。

各評価方法についての判断と1株当たりの価額

裁判所は、配当還元法について、将来予想される配当の割引現在価値だけに着目し、残余の部分が支配株主に帰属することとなるため相当性を欠く上、会社は配当を行うことができる状況になかったとしました。時価純資産方式は、継続企業の評価には評価の下限としての意味を有するにとどまるとし、類似会社比準方式も、事業再生の途上にあった会社と通常の上場会社とでは経営状況が大きく異なるとして採用しませんでした。

取引事例による算定も採用されませんでした。公開買付けは、買付予定株式総数5099万6669株に対して応募が2181万4229株にとどまり(2181万4229株÷5099万6669株=約42.7%)、価格の妥当性が多数の株主から疑問を持たれていた上、同じDCF法によりながら鑑定の1株360円と大きく異なると指摘されました。他方、過去にC種類株式が1株380円(199億9997万円÷5263万1500株)及び1株320円(200億円÷6250万株)で発行され、上場廃止の直前の終値が1株360円であった事実も併存していました。

裁判所は鑑定の結果を採用し、買取価格を1株360円としました。複数の評価方法を割合で組み合わせる方法は採られていません。申立てをした株主の持株数の合計約677万株で計算すると、買取代金の総額は約24億3720万円(677万株×360円)となり、会社側が主張した1株162円との差は1株当たり198円(360円-162円=198円)でした。

鑑定は予測期間を8年(平成18年4月から平成26年3月まで)とし、前半の4年は5ヵ年計画の数値を、後半の4年は平成22年3月期の営業利益が継続することを前提としています。株式リスクプレミアム8.5%及び永久成長率0%について、株主側はそれぞれ4%、2.1%を主張しましたが、裁判所は、これらの数値は著しく不合理でない限り尊重すべきであるとして採用しませんでした。

【カネボウ事件高裁】
各株式買取価格決定に対する抗告事件
【事件番号】
東京高等裁判所決定/平成20年(ラ)第637号
【判決日付】
平成22年5月24日
【掲載誌】
金融・商事判例1345号12頁
【判旨概要】
反対株主の株式買取請求における旧商法245条ノ2の「公正ナル価格」を算定するにあたっては、インカムアプローチのうち、将来のフリー・キャッシュ・フローを見積もり、年次ごとに割引率を用いて現在価値の総和を求め、当該現在価値に事業外資産の価値を加算し、負債の時価を減算して企業価値を算出し、株主が将来得られると期待される利益を算定する方法であるDCF法を採用するのが適切である。

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