【反対株主の株式買取請求権】株式買取請求権裁判例分析2(旧カネボウ事件東京高裁)―東京高等裁判所平成22年5月24日決定
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旧カネボウ事件の東京高等裁判所の決定に関するメインのページです。本ページは、株主の側から、高等裁判所が公正な価格の意義について原審の説示を補ったうえで、原審の結論を維持した点をご説明します。第一審の判断は別のページをご参照ください。
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本件は、【反対株主の株式買取請求権】の事件です。旧カネボウが主要事業を営業譲渡したことに反対した少数株主が、平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」といいます。)に基づいて株式の買取りを請求し、買取価格の決定を裁判所に求めた事件の抗告審です。株式の譲渡承認を会社が拒否した場合の売買価格の決定とは、手続も根拠条文も異なります。
東京高等裁判所は、「公正ナル価格」を営業譲渡がなければ会社がそのまま存続した場合の株式の客観的交換価値と捉え、DCF法による鑑定に従って1株360円とした原審の判断を維持し、会社側・株主側の抗告をいずれも棄却しました。株式買取請求権は株式を手放さざるを得ない少数株主への補償措置であるとして、マイノリティ・ディスカウントも非流動性ディスカウントも行うべきでないと判断しています。
基本情報
| 裁判所 | 東京高等裁判所(原審:東京地方裁判所) |
|---|---|
| 裁判日 | 平成22年5月24日(決定)(原審:平成20年3月14日決定) |
| 事件番号 | 平成20年(ラ)第637号(原審:平成18年(ヒ)第256号ほか) |
| 事件名 | 各株式買取価格決定に対する抗告事件 |
| 手続の種類 | 反対株主の株式買取請求(営業譲渡に反対した株主。旧商法第245条ノ2、第245条ノ5) |
| 審級 | 抗告審 |
| 結論 | 抗告をいずれも棄却(普通株式の買取価格1株360円を維持) |
本記事は上記決定の解説です。上訴の有無や確定を確認した旨の表示ではありません。
当事者の表記
本記事では、株式の買取りを求められた会社を「旧カネボウ」、買取りを請求した株主らを「株主側」又は「申立人ら」と表記します。旧カネボウの支援先(スポンサー)となり議決権の約82%を取得し、後に旧カネボウを吸収合併した会社は「支配株主」と表記します。その他の会社も実名を用いずに表記します。
事案の概要
旧カネボウの経営悪化
旧カネボウは、明治20年に設立され、繊維事業を中心に、食品、薬品、化粧品等へと事業を多角化した会社です。平成15年9月末当時、資本金313億4187万円、発行済株式総数5億1283万株で、東京証券取引所第1部に上場し、従業員約2600名、グループ全体で約1万4000人を擁していました。
しかし、経営状態が悪化し、平成15年9月中間期には3553億円(当時は粉飾決算により629億円と公表)の債務超過となりました。平成15年3月期の連結借入金総額は約5000億円に達していました。
産業再生機構の支援
旧カネボウは平成16年3月10日、産業再生機構に支援を要請し、化粧品事業を譲渡する事業再生計画について支援決定を受け、同年5月7日に化粧品事業を3800億円で譲渡しました。その後、更に大幅な債務超過が判明したため、同年5月31日に新たな事業再生計画について支援決定を受けました。新計画は、不採算事業からの撤退、995億円の債権放棄、約99.7%の減資と10株を1株とする株式併合、銀行と産業再生機構による増資を内容とし、既存株主の割合的地位の希薄化を株主の責任とするものでした。
平成16年9月28日に約995億円の債務免除を受け、同年10月1日に減資と株式併合を行い、銀行に対しA・B種類株式合計6000万株(1株500円、計300億円)を、産業再生機構に対しC種類株式5263万1500株(1株380円、計199億9997万円)を発行しました。その結果、平成17年3月末には約44億円の純資産が計上されるまでに財務体質が改善しました。
粉飾決算の発覚と上場廃止
旧カネボウは平成17年4月13日、平成11年度から平成15年度までの粉飾決算と決算修正を発表しました。同年6月13日、有価証券報告書の虚偽記載を理由に上場廃止となり、最終株価は同月10日の1株360円でした。同年7月29日には、化粧品事業を承継した会社に対し、C種類株式6250万株を1株320円(計200億円)で発行しました。
支援先の決定と公開買付け
産業再生機構は支援の終了に当たり支援先を選定することとし、旧カネボウは平成17年8月ころ、支援希望者が企業価値を判断するための資料として新再生5ヵ年計画を策定しました。産業再生機構は国内外10数社が参加する競争入札により支援先を決め、平成18年1月31日、保有するC種類株式の全部を1株201円で支援先に譲渡しました。同年2月21日には、化粧品事業を承継した会社も保有するC種類株式の全部を支援先に譲渡し、支援先の議決権割合は約69%となりました。
続いて、平成18年2月22日から3月28日まで、1株162円で普通株式の公開買付けが行われました。価格は、第三者機関が新再生5ヵ年計画に基づきDCF法で算定した価格を基に決められたものです。買付予定株式総数5099万6669株に対し、応募は2181万4229株(10536名)にとどまりましたが、支援先(以下「支配株主」といいます。)の議決権割合は約82%となりました。申立人らは、公開買付けの価格等に不信感を抱いて、応じませんでした。
営業譲渡と株式買取請求
平成18年4月14日、旧カネボウは、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下「産業活力再生特別措置法」といいます。)に基づく事業再構築計画の認定を受け、同法第12条の3第2項の特例により、株主総会の承認を経ずに取締役会の決議で、ホームプロダクツ事業(233億8000万円)と薬品事業(120億1000万円)を、支配株主側のファンドが出資する会社にそれぞれ営業譲渡し、同日その旨を電子公告しました。同年5月1日には、食品事業を営む子会社の株式も譲渡し、旧カネボウは主要3事業のすべてを譲渡しました。
これに反対した株主らが株式買取請求権を行使し、協議が調わなかったため、価格の決定を申し立てました。申立人らの持株数は100株から145万3100株、合計約677万株でした。平成18年4月14日当時の発行済株式総数は2億2641万5057株(普通株式5128万3557株、A種類株式3000万株、B種類株式3000万株、C種類株式1億1513万1500株)で、平成18年3月期の純資産は819億8900万円、売上高は1394億2200万円でした。
原審の決定後の合併
旧カネボウは平成19年6月28日に解散を決議して清算手続に入り、平成20年11月11日、支配株主に吸収合併されました。合併に際し、旧カネボウの株主には株式1株につき130円を交付することとされましたが、本件の当事者でこれを受領した者はいませんでした。
事案の経緯
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 平成16年3月10日 | 産業再生機構に支援を要請し、支援決定 |
| 平成16年5月31日 | 新たな事業再生計画に基づく支援決定 |
| 平成16年9月28日・10月1日 | 約995億円の債務免除。約99.7%の減資、株式併合、A・B種類株式(1株500円)及びC種類株式(1株380円)の発行 |
| 平成17年4月13日 | 粉飾決算と決算修正を発表 |
| 平成17年6月13日 | 上場廃止(最終株価は同月10日の1株360円) |
| 平成17年7月29日 | C種類株式6250万株を1株320円で発行 |
| 平成17年8月ころ | 新再生5ヵ年計画を策定 |
| 平成18年1月31日 | 産業再生機構がC種類株式の全部を1株201円で支援先に譲渡 |
| 平成18年2月22日〜3月28日 | 1株162円の公開買付け。支配株主の議決権割合は約82%に |
| 平成18年4月14日 | 取締役会決議による営業譲渡と電子公告 |
| 平成18年5月1日 | 営業譲渡の実行と食品事業子会社の株式譲渡 |
| 平成18年7月27日まで | 申立人らが買取価格の決定を申立て |
| 平成19年6月28日 | 旧カネボウが解散を決議 |
| 平成20年3月14日 | 東京地方裁判所が1株360円と決定(双方が抗告) |
| 平成20年11月11日 | 旧カネボウが支配株主に吸収合併される |
| 平成22年5月24日 | 東京高等裁判所が抗告をいずれも棄却 |
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抗告の内容と当事者の主張
会社側(1株162円)
会社側は、少数株式の経済的利益は配当と残余財産の分配にすぎないから取引事例法と配当還元法によるべきであり、公開買付けの価格1株162円を最も重視すべきであると主張しました。配当還元法によれば1株67円にとどまり、DCF法を採るとしても、新再生5ヵ年計画は公的資金回収のため目標値を高く設定したものであるから下方修正すべきで、マイノリティ・ディスカウント、小規模リスクプレミアム(3.88%)、非流動性ディスカウント(概ね30%)を考慮すれば1株41円から69円にとどまるとしました。また、事業再生の利益は再生の担い手である支配株主が享受すべきであり、申立人らの8割以上は株価下落後の平成17年3月以降に株式を取得した者であるとも主張しました。
株主側(1株950円など)
株主側は、株式リスクプレミアム8.5%は4%とすべきこと、永久成長率0%は2.1%とすべきこと、ディスカウントは許されないこと、将来の株価上昇期待のプレミアム(DCF法による価値の24%ないし28.5%)を加えるべきこと、上場廃止前の市場価格は公正な価格の最低限を画することなどを主張しました。一部の申立人は抗告の趣旨として1株950円を求め、主張としては1株1150円から1550円になるとしました。鑑定費用を負担すべきでないとの主張もありました。
争点
- 原審の後に会社が吸収合併で消滅したことが、価格決定の手続に影響するか
- 「公正ナル価格」の意義と、評価方法の選択(DCF法、配当還元方式、純資産方式、類似会社比準方式、取引事例)
- 期待プレミアムの上乗せ、マイノリティ・ディスカウント及び非流動性ディスカウントの当否
- 鑑定の基礎数値(事業計画、株式リスクプレミアム、永久成長率、負債コスト、現預金の扱い)の合理性
- 鑑定費用の負担に対する不服
裁判所の判断
申立適格についての原審の説示の補正
東京高等裁判所は、申立適格について原審の説示を引用しつつ、手続の根拠条文と各期間(平成18年4月28日までの反対の通知、5月18日までの買取請求、7月27日までの申立て)に関する部分を書き改め、書証番号の誤りも訂正しました。手続を履践しなかった申立人の申立てが不適法であるとの結論は維持されています。
合併があっても手続は続く
裁判所は、株式買取請求権の行使により、会社の承諾を要することなく法律上当然に会社と株主との間に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずるとし(最高裁判所昭和48年3月1日の判断を引用しています。)、申立人らは既に買取代金請求権を取得しているから、合併により買主の地位と価格決定手続上の地位は存続会社が当然に承継するとしました。
「公正ナル価格」の意義
裁判所は、営業譲渡に反対する株主の株式買取請求の制度は、反対株主に投下資本を回収する途を保障するものであり、「公正ナル価格」とは、営業譲渡が行われず会社がそのまま存続すると仮定した場合に形成されたと想定される株式の客観的交換価値であって、営業譲渡から生ずる相乗効果(シナジー)の部分は含まないとしました。そのため、基本的に継続企業としての価値を基に評価すべきであるとしています。
DCF法が最も妥当
裁判所は、株式買取請求権は、多数決等で営業譲渡等が決められ、少数派の反対株主が株式を手放したくないのに手放さざるを得ない事態に追い込まれることに対する補償措置であるとしました。そして、営業譲渡や合併、会社分割は会社の財産処分と捉えることができるから、反対株主は観念的には会社の全財産に対する残余財産分配請求権を有すると捉えられ、その価値は、事業が一体として譲渡される場合を想定した価値、すなわち事業から生ずると予想される将来のキャッシュ・フローの割引現在価値に一致すると考えるのが合理的であるとしました。
これに対し、配当還元方式は将来の配当の割引現在価値だけに着目し、残余の部分は支配株主に帰属することになるから相当性を欠くとし、さらに旧カネボウは事業再生途上で配当を行える状況にもなかったとしました。時価純資産方式は清算が予定されている企業には適するものの継続企業の評価には適当でなく、「せいぜい評価の下限としての意味を有する程度」とし、類似会社比準方式も、事業再生途上の会社は通常の上場会社と経営状況が大きく異なるとして相当でないとしました。
公開買付けの価格やC種類株式の譲渡価格は取引事例にならない
公開買付けについては、応募が買付予定株式総数の42.7%にとどまり、多数の株主から価格の妥当性に疑問を持たれていたこと、同じDCF法と同じ計画に依拠しながら鑑定の1株360円と大きく異なることから、適切な取引事例とはいえないとしました。C種類株式の1株201円での譲渡も、再建手続中という特殊な事情の下のものであるとしました。他方で、C種類株式が1株380円、1株320円で発行され、上場廃止時の終値が1株360円であった事実もあると指摘しています。
期待プレミアムもディスカウントも行わない
DCF法は将来の株式が生み出す価値を織り込んで評価しているから、更に期待プレミアムを上乗せするのは相当でないとしました。他方で、裁判所は次のように述べ、減価も否定しました。
「マイノリティ・ディスカウント(非支配株式であることを理由とした減価)や非流動性ディスカウント(市場価格のないことを理由とした減価)を本件株式価値の評価に当たって行うことは相当でないというべきである。」
C種類株式は、転換請求が可能となる時期(平成18年10月1日)と鑑定基準時との間に期間的隔たりがほとんどなく、普通株式1株に転換できることから、普通株式と区別せずに1株当たりの価値を算定するのが相当であるとしました。
鑑定の尊重
裁判所は、鑑定の結果に拘束されるものではないとしつつ、DCF法は極めて高度な専門的知識と経験を必要とし、純然たる将来の予測に関わるものであるから、鑑定が前提とした事実に誤りがないか、資料の選択や判断の過程に著しく合理性を欠く点がないかという観点から検討し、特に問題がなければ鑑定の結果を尊重するのが相当であるとしました。
本件の鑑定は、当事者の了解の下で、第89期有価証券報告書の数値や、公開買付けの際に第三者機関が評価の基礎とした新再生5ヵ年計画の数値(平成17年度は実績値)を用いることなど、前提事項を定めて行われたものでした。裁判所は、新再生5ヵ年計画を採用したことは著しく合理性を欠くとはいえず、株式リスクプレミアム、永久成長率、負債コストの数値や、現預金の全額を事業外資産として加算した扱いも、鑑定人の判断が著しく不合理とはいえないとしました。
鑑定費用の負担は判断しない
費用の負担の裁判に対しては独立して不服を申し立てることができず、本案の抗告に理由がない以上、費用の裁判に対する不服の申立ても許されないとして、鑑定費用の負担については判断しませんでした。
結論
東京高等裁判所は、普通株式の買取価格を1株360円とした原決定は相当であるとして、各抗告をいずれも棄却しました。
原審の内容は、旧カネボウ事件の東京地方裁判所決定を取り上げた頁でご確認いただけます。
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実務上の着眼点
- 本決定は、反対株主の株式買取請求を、株式を手放さざるを得ない少数株主への補償措置と位置付け、そこからマイノリティ・ディスカウントと非流動性ディスカウントを否定しています。
- 公開買付けの価格は、応募率や算定結果との乖離から、適切な取引事例とはされませんでした。公開買付けに応じなかった株主の買取価格が公開買付けの価格を上回る結果となっています。
- 会社が支援先を募るために作成した事業計画を、価格決定の場面では高すぎるとして修正を求めた会社側の主張は、原審でも抗告審でも採用されませんでした。
- 鑑定の基礎数値は、著しく不合理でない限り尊重されます。鑑定に異議を述べる場合には、前提事実の誤りや判断過程の著しい不合理を具体的に示す必要があります。
本決定が扱っていない事項
- 本決定は旧商法の下での営業譲渡に反対した株主の事件であり、会社法の下での「公正な価格」について直接判断したものではありません。
- 譲渡制限株式の譲渡承認を拒否した場合の売買価格の決定におけるディスカウントの当否について判断したものではありません。
- 鑑定費用の負担の当否は、抗告審では判断されていません。
- 株式リスクプレミアム8.5%や永久成長率0%が一般的に適切な数値であると判断したものではなく、鑑定人の判断が著しく不合理とはいえないとしたものです。
よくあるご質問
会社が合併で消滅したら、株式買取請求の手続はどうなりますか。
本件では、株式買取請求により売買契約が成立したのと同様の法律関係が生じており、合併により買主の地位と手続上の地位は存続会社が承継するとされました。
反対株主の株式は、非上場であることを理由に減額されますか。
本決定は、株式買取請求権は株式を手放さざるを得ない少数株主に対する補償措置であるとして、非流動性ディスカウントもマイノリティ・ディスカウントも行うべきでないとしました。
公開買付けの価格が基準になるのではありませんか。
本件では、応募が42.7%にとどまり、鑑定の結果とも大きく異なることなどから、公開買付けの価格1株162円は適切な取引事例とはされず、買取価格は1株360円とされました。
将来の株価上昇への期待分は上乗せされますか。
本決定は、DCF法は将来の価値を織り込んでいるとして、期待プレミアムの上乗せを相当でないとしました。
根拠条文
- 平成17年法律第87号による改正前の商法第245条ノ2(反対株主の株式買取請求権)
- 同法第245条ノ5(反対の意思の通知、買取請求及び価格決定の申立て)、第245条ノ3第4項
- 平成17年法律第87号による改正前の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法第12条の3第2項・第3項(簡易営業譲渡の特例と公告)
- 平成17年法律第87号による改正前の非訟事件手続法第26条、第27条(手続費用)
- 決定当時の非訟事件手続法第30条(費用の裁判に対する不服申立ての制限)
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