少数株主は会社の言い値で株式を売らなければならないのか

会社から「買い取るとすればこの金額しかない」と告げられ、選択の余地がないように感じておられる方がいらっしゃいます。応じる義務の有無と、応じない場合の帰結を整理いたします。

1 結論 応じる義務はありませんが、応じないという判断にも結果が伴います

少数株主が会社の提示した価格で売却しなければならないという法律上の義務はありません。他方で、応じる義務がないことと、株主側が望む価格で売却できることとは別の事柄です。

2 売買契約は当事者の合意によって成立します

株式の売買は、意思表示の合致によって成立する契約です(民法第555条)。契約を締結するかどうか、その内容をどう定めるかは、法令に特別の定めがある場合を除き当事者の自由です(民法第521条第1項及び第2項)。会社の価格提示は申込み又は申込みの誘引にとどまり、株主が応じなければ売買契約は成立いたしません。会社が自己株式を有償で取得する場合にも、株主総会の決議により取得の枠を定めることを要し(会社法第156条第1項)、特定の株主から取得するときは株主総会の特別決議を要します(会社法第160条第1項、第309条第2項第2号)。いずれも株主の応諾が前提であり、会社が一方的に定めた価格で株式を取り上げる仕組みは存在いたしません。

3 保有を継続するという選択の帰結

応じないという判断は、保有を継続するという結果を受け入れることでもあります。非上場株式には市場がなく、配当のない会社では、時間が経過しても経済的な回収は生じません。株主本人に相続が生じますと株式は相続人に承継され(民法第896条)、相続人が複数であれば準共有となり、権利を行使する者一人を定めて会社に通知しなければ原則として権利を行使することができません(会社法第106条)。「言い値には応じない」という判断は、その後の道筋とあわせて行う必要があります。

4 価格の前提を確認することで交渉の余地が生じます

会社の提示額には、必ず何らかの前提があります。財産評価基本通達による評価額は課税の公平を図るための画一的な方法であり、当事者間の売買価格を定めるために作られたものではありません。貸借対照表上の純資産も原則として取得原価を基礎としており、不動産等の含み損益は反映されておりません。これらの前提について確認を求め、必要に応じて他の評価手法による検討を示すことにより、議論の対象が金額の高低から前提の当否へ移ります。交渉の余地が生ずるのは、この段階です。

5 任意の交渉と法定の手続とは別のものです

譲渡制限株式の株主は、これを他人に譲り渡そうとするときに、会社に対して承認をするか否かの決定を請求することができます(会社法第136条)。この請求では、譲り渡そうとする株式の数、譲受人の氏名又は名称、会社が承認をしない場合に会社又は指定買取人が買い取ることを請求するときはその旨を明らかにしなければなりません(会社法第138条第1号)。会社が承認をしない旨を決定したときは、会社が自ら買い取るか、指定買取人を指定いたします(会社法第140条)。協議が調わないときは、通知の日から20日以内に裁判所へ売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第144条第2項)。

事項 任意の交渉 株式譲渡承認請求の手続
根拠 民法第521条、第555条 会社法第136条から第145条まで
相手方 会社又は大株主 会社又は指定買取人
期間の制限 ありません 20日等の厳格な制限(会社法第144条第2項)
前提 双方の合意 現実の譲受人の特定(会社法第138条第1号)
価格不成立の場合 契約は成立いたしません 1株当たり純資産額を基礎とする額(会社法第144条第5項)

この手続は、会社に買取りを義務付けるものではなく、第三者への譲渡を承認するか会社側で買い取るかを選択させるものです。裁判所も双方の主張立証を前提に判断いたしますので、申立てをすれば価格が上がるものではありません。

6 弁護士にご相談いただく意味

先に進むためには、なぜ納得できないのかを法的及び会計的な言葉で説明できる状態にする必要があります。弁護士は、株主本人の代理人として、提示額の前提の検証、計算書類等の閲覧等の請求(会社法第442条第3項)及び会計帳簿等の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)、交渉、必要に応じた裁判所の手続を行います。

なお、株式買取業者が会社の提示額を上回る金額を示すことがありますが、株式買取業者は買主であり株主の代理人ではなく、取得価額が低いほど利益が大きくなる立場にあります。具体的な業務態様によって法的問題が生じ、裁判例において違法性が認定された事例もあります。契約の前のご相談に意味があるのはこのためです。

よくあるご質問

質問1 会社から「応じないなら二度と買わない」と言われました。従う必要がありますか。

会社が買い取るかどうかは会社の判断ですので、そのような対応があり得ること自体は否定できません。もっとも、提示価格での売却を株主に義務付ける根拠はありません。

質問2 定款に「退職時は取得価額で会社に譲渡する」と定められています。従う必要がありますか。

定款、株主間の合意、従業員持株会の規約等に譲渡に関する定めが置かれている場合があり、その効力は定めの内容と成立の経緯により判断が分かれます。書面をご持参のうえご相談ください。

質問3 裁判所に価格を決めてもらえば高くなりますか。

そのようなことはありません。裁判所は当事者双方の主張立証を踏まえて判断いたしますので、結果は事案によって異なり、提示額を下回る可能性も否定できません。

本記事における非開示事項について

具体的な交渉の進め方、資料の提示の順序、価格に関する主張の組立て方は、株主構成、財務状況、株式価値、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。当事務所は株式を買い取る立場ではありません。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から24時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)

ご相談に際しましては、会社からの提示書面、定款、株主名簿の写し、直近3期分の決算書をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。売却に伴う課税関係は税理士にご確認ください。

本記事の根拠条文

民法 第521条第1項・第2項(契約自由)、第555条(売買)、第896条(相続の一般的効力)

会社法 第106条(共有者による権利の行使)、第136条・第138条第1号・第140条(譲渡等承認請求及び買取り)、第144条第2項・第5項(売買価格の決定及び期間の制限)、第156条第1項・第160条第1項・第309条第2項第2号(自己株式の取得)、第433条第1項・第442条第3項(会計帳簿等及び計算書類等の閲覧等)

内部リンク

  • ランディングページ第3号 会社の提示した株式買取価格に納得できない方へ(/kaitorikakaku_arasoi/。主)
  • ランディングページ第10号 株式売買価格決定申立・株価決定裁判(/landing/share/。補助)
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