退職した会社の非上場株式を買い取ってもらう方法

在職中に取得した株式を、退職後もそのまま保有しています。退職の際に会社から何の説明もなく、株券も手元にありません。配当もなく、株主総会の招集通知が届くだけです。このような状態が長く続いている方は少なくありません。

結論から申し上げますと、会社を退職したことによって株主の地位が当然に失われることはありません。他方で、退職したという事実だけを理由に、会社が株式を買い取らなければならないという法律上の義務もありません。退職者が株式を換価するためには、株式の取得経緯と保有形態を確認したうえで、会社又は大株主との任意の買取交渉を検討することになります。本ページでは、従業員持株会を経由せずに個人名義で株式を保有している退職者の場面に重心を置いて整理いたします。

第1節 退職と株主の地位とは別の問題です

雇用契約又は委任契約が終了しても、株主としての地位は当然には消滅しません。株主の地位は株式の所有に基づくものであり、雇用関係や委任関係とは法的な根拠が異なるためです。会社法にも、退職により株主の地位が失われる旨の規定は置かれておりません。

退職後も株主名簿に記載されている限り、株主として議決権を行使することができ、剰余金の配当を受ける権利を有し、計算書類及びその附属明細書の閲覧等を請求することもできます(会社法第442条第3項)。株主名簿及び株主総会の議事録についても閲覧謄写を請求することができ(会社法第125条第2項、第318条第4項)、一定の持株要件を満たす場合には会計帳簿及びこれに関する資料の閲覧謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。

もっとも、権利が残ることと株式を現金化できることとは別です。非上場株式には市場がありませんので、保有を継続しても換価の機会は自然には生じません。退職から年数が経過するほど、取得の経緯を説明できる資料や当時の事情を知る関係者が失われ、検討が難しくなる傾向があります。

第2節 取得の経緯によって出発点が異なります

退職者が保有する株式は、取得の経緯によって検討の出発点が異なります。

表1 取得の経緯と検討の出発点

取得の経緯 名義 検討の出発点
従業員持株会に加入して取得した 持株会名義が多い 規約に定める退会時の取扱い
持株会を退会したが手続が未了である 個人名義のことがある 規約が及ぶかの確認、株主名簿の記載
会社から直接割当てを受けた 個人名義 割当時の書面、払込みの記録
創業時に出資した、額面で譲り受けた 個人名義 譲渡契約書、株主名簿の記載
相続又は贈与により取得した 個人名義 遺産分割協議書、贈与契約書

従業員持株会を経由して取得した場合、退職時の取扱いは持株会の規約によって定められていることが通常です。多くの規約では、退職により持株会を退会し、その時点で持分に相当する株式を持株会又は会社の指定する者に譲渡する旨が定められております。取得価額と同額で譲渡する旨の定めの効力については、制度の趣旨、譲渡の対象、株主の同意の有無等を踏まえて判断されており、最高裁判所平成7年4月25日第三小法廷判決は、非上場会社の従業員持株制度において取得価額と同額で会社に譲渡する旨の合意を有効と判断いたしました。持株会の仕組みそのものについては既存記事(/archives/share_mochikabukai/)をご参照ください。

本ページで重心を置くのは、これに当たらない場面です。持株会に加入していなかった方、退会の手続が行われないまま個人名義で株式が残っている方、会社から直接割当てを受けた方、創業時に出資した方などです。この場合、規約による処理は当然には及びませんので、一般の少数株主と同様に、株主名簿の記載を確認したうえで、会社又は大株主との任意の買取交渉を検討することになります。

なお、株式の譲渡は、取得者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載又は記録しなければ、会社その他の第三者に対抗することができません(会社法第130条第1項。株券発行会社については同条第2項)。名義書換が未了である場合には、株主名簿記載事項の記載又は記録を請求することを検討いたします(会社法第133条)。「退職時に株式を返す」と口頭で述べた記憶があるという場合でも、実際に譲渡の手続がされていなければ株主の地位が失われているとは限りませんので、まず株主名簿の記載を確認いたします。

第3節 会社に買取義務がない以上、任意の取得が中心になります

会社法上、株主の請求により会社が当然に株式を買い取らなければならない一般的な規定は存在いたしません。会社に買取義務が生じるのは、定款変更等に反対する株主の株式買取請求(会社法第116条第1項)、事業譲渡等に反対する株主の買取請求(第469条)、組織再編に反対する株主の買取請求(第785条、第797条、第806条)など、特定の会社行為を前提とする類型に限られます。退職したという事実は、これらのいずれにも当たりません。

他方、会社が任意に自己株式を取得することは、会社法上正面から認められた行為です。会社法第155条第3号は、株主との合意により有償で取得する場合(第156条第1項の決議があった場合)を掲げております。手続としては、株主総会の普通決議により取得する株式の数、対価の内容及び総額、取得することができる期間(1年以内)を定め(会社法第156条第1項)、その都度1株当たりの対価及び譲渡しの申込みの期日等を定めて(会社法第157条第1項)株主に通知し(会社法第158条第1項)、株主の申込みにより効力が生じます(会社法第159条)。

特定の株主から取得する場合には、第156条第1項の決議は株主総会の特別決議によらなければならず(会社法第160条第1項、第309条第2項第2号)、当該特定の株主は原則として議決権を行使することができません(同条第4項)。また、会社は株主総会の日の2週間前までに他の株主に対し自己をも売主に加えることを請求できる旨を通知しなければならず(同条第2項、会社法施行規則第28条)、通知を受けた株主はその請求をすることができます(同条第3項)。ただし、定款によりこの規定を適用しない旨を定めることができ(会社法第164条第1項。当該定款変更には当該株式を有する株主全員の同意を要します。同条第2項)、公開会社でない会社が一般承継により株式を取得した者から取得する場合の特則もあります(会社法第162条)。

さらに、会社が交付する金銭等の帳簿価額の総額は、取得が効力を生ずる日における分配可能額を超えてはなりません(会社法第461条第1項第3号。分配可能額の算定につき第446条、第461条第2項)。これに違反した場合、金銭等の交付を受けた者及び業務執行者等は会社に対して連帯して支払義務を負います(会社法第462条第1項)。

会社が買主とならない場合には、大株主や代表者個人が買主となる方法もあります。個人が買主となる場合には第156条以下の手続や第461条の財源規制は及びませんが、買主の資金調達という別の問題が生じます。

第4節 譲渡制限株式と株式譲渡承認請求の期間

非上場会社の多くは、譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨を定款で定めております(会社法第107条第1項第1号、第108条第1項第4号)。任意の買取交渉が調わない場合、制度上の受け皿となるのが株式譲渡承認請求です(会社法第136条から第145条まで)。

株主は、譲り渡そうとする株式の数及び譲り受ける者の氏名又は名称を明らかにして承認を請求し、あわせて、会社が承認をしない場合には会社又は指定買取人が買い取ることを請求することができます(会社法第136条、第138条第1号イからハまで。既に取得した者からの請求につき第137条)。会社は株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議により承認の可否を決定して通知し(会社法第139条)、承認をしない場合において買取請求があったときは、株主総会の特別決議により会社が買い取ることを決定し、又は指定買取人を指定いたします(会社法第140条、第309条第2項第1号)。会社又は指定買取人は、買い取る旨等を通知するとともに、1株当たり純資産額に株式数を乗じて得た額を供託し、供託を証する書面を交付しなければなりません(会社法第141条、第142条)。

表2 株式譲渡承認請求に関する期間

手続 期間 起算点 徒過した場合 根拠条文
承認又は不承認の通知 2週間(定款で短縮可能) 承認請求の日 承認をしたものとみなされます 第145条第1号
買取りの通知及び供託を証する書面の交付 会社40日、指定買取人10日 不承認の通知の日 承認をしたものとみなされます 第145条第2号、施行規則第26条
売買価格の協議 20日 供託を証する書面の交付の日 申立てに進みます 第144条第1項、第7項
裁判所への売買価格の決定の申立て 20日 供託を証する書面の交付の日 1株当たり純資産額に株式数を乗じた額が売買価格となります 第144条第2項・第5項・第7項

裁判所は、承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めます(会社法第144条第3項)。なお、承認請求は、会社又は指定買取人が買取りの通知をした後は、その承諾を得た場合に限り撤回することができます(会社法第143条)。「価格が折り合わなければ取り下げればよい」という前提で手続を開始することはできないということになります。

第5節 退職者が最初に確認すべき事項

表3 確認していただきたい事項

区分 確認する事項 手がかり(根拠条文)
取得の経緯 持株会経由か、直接割当てか、出資か、相続・贈与か 持株会規約、割当ての通知、払込みの記録
名義 株主名簿の記載、名義書換の有無 株主名簿の閲覧謄写(第125条第2項)、第130条、第133条
会社の定め 譲渡制限、承認機関、退職時の取扱いに関する定め 定款の閲覧謄写(第31条第2項)
財務の状況 直近3期の計算書類、純資産、剰余金、配当の実績 計算書類等の閲覧謄写(第442条第3項)
会社の意思決定 過去の自己株式取得の決議、買取りの前例 株主総会議事録の閲覧謄写(第318条第4項)

計算書類及びその附属明細書の閲覧等の請求には持株比率の要件がなく、1株でも有していれば請求することができますので(会社法第442条第3項)、最初に検討すべき手段です。会計帳簿及びこれに関する資料は、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除きます)の100分の3以上の数の株式を有する株主が、理由を明らかにして請求することができますが(会社法第433条第1項)、同条第2項に拒絶事由が定められております。

以下は説明のための仮設例です。

> 発行済株式総数10,000株、在職中に額面で譲り受けた保有株式数200株(2パーセント)、簿価純資産2億円。1株当たり純資産額は20,000円、200株では400万円となります。他方、会社の保有する土地に含み益があれば時価純資産を基礎とする金額はこれを上回り、配当還元方式による相続税評価額を基礎とすればこれを下回るなど、依拠する考え方によって数値の幅は異なり得ます。持株比率が2パーセントですので、会計帳簿の閲覧謄写請求(会社法第433条第1項)の100分の3の要件は満たしません。

上記は仮設例であり、事案により異なります。資料がそろっていない段階でも検討を開始することはできますので、先送りする必要はありません。

第6節 元役員が保有する株式の場合

役員を退任した方が株式を保有している場合、従業員の場合と異なる事情がいくつかあります。

第一に、役員としての報酬や退職慰労金と、株式の買取代金とは、法的に別のものです。役員退職慰労金は役員報酬に関する規律(会社法第361条第1項等)の対象となる会社と役員との間の問題であり、株式の売買は株主と買主との間の問題です。両者を一つの交渉としてまとめて処理しようとすると、それぞれの根拠が不明確になり、後に紛争の原因となることがあります。区別して整理することが適切です。

第二に、退任により会社の内部情報に接する立場を失いますので、財務状況を把握する手段が株主としての情報取得の権利に限られます。在任中の情報は時間の経過とともに古くなりますので、株価の検討にあたっては改めて資料を確認いたします。なお、取締役会議事録については、株主は、その権利を行使するため必要があるときに、裁判所の許可を得て閲覧謄写を請求することになります(会社法第371条第2項、第3項)。

第三に、役員を解任され、又は再任されなかったという経緯がある場合には、株式の買取りとは別に、会社との間の法的な問題が併存していることがあります。この場合は、問題を切り分けて検討する必要があります。

第7節 弁護士に依頼する意味

退職者の方が個人で会社に申し入れを行うと、「退職した者が今さら何を言うのか」という反応を受けることがあります。しかし、これは株主としての地位に基づく申入れであり、退職という事実によって株主の権利が失われるものではありません。法的な位置付けを整理して示せば、会社としても株主に対する対応として検討せざるを得なくなります。

弁護士は、株主本人の代理人として、取得経緯と保有形態の確認、規約及び定款の検討、株主としての情報取得、株価の検討、会社又は大株主との交渉、必要に応じた裁判手続を行います。この点は、株式買取業者との最も大きな違いです。株式買取業者は株式の買手であり、株主本人の代理人ではありません。買手は取得価額が低いほど利益が大きくなる立場にあります。大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定)は、株式買取業者に対する非上場株式の譲渡契約について、他人の権利を譲り受けてその実行をすることを業とすることを禁ずる弁護士法第73条に違反し無効であると判断いたしました。業者一般が違法であるという趣旨ではありませんが、具体的な業務態様によっては法的問題が生じ、裁判例において違法性が認定された事例があるということです。

よくあるご質問

質問1 退職してから10年以上経っています。今から会社に申し入れることはできますか。

株主の地位は期間の経過によって当然に失われるものではありませんので、申入れ自体は可能です。ただし、資料の散逸や相続の発生により検討が複雑になっている場合があります。相続が発生しますと、遺産分割が終了するまでの間、株式は共同相続人の準共有に属し、権利を行使する者一人を定めて会社に通知しなければ原則として権利を行使することができません(会社法第106条)。

質問2 退職時に「株は会社に返す」と口頭で言った記憶があります。

口頭のやり取りがあったとしても、実際に譲渡の手続が行われていなければ、株主の地位が失われているとは限りません。株主名簿の記載を確認する必要があります(会社法第125条第2項、第130条第1項)。

質問3 株券が手元にありません。株主ではないということでしょうか。

株券を保有していないことと株主でないこととは別です。多くの会社は株券を発行しない会社となっておりますので、株主名簿の記載により確認いたします。株券発行会社である場合には、株券の所在と会社法第130条第2項の対抗要件の関係を別途検討いたします。

質問4 役員退職慰労金と株式の買取りをまとめて交渉してもらえますか。

法的な根拠が異なりますので、整理して検討する必要があります。役員退職慰労金は会社と役員との間の問題であり、株式の売買は株主と買主との間の問題です。進め方はご相談時にご説明いたします。

質問5 持株会を退会した記憶がなく、株式が自分名義になっているかも分かりません。

まず株主名簿の閲覧謄写を請求し(会社法第125条第2項)、名義の状況を確認いたします。持株会名義のままである場合と個人名義に移っている場合とでは、規約の適用の有無を含め検討が異なります。

交渉手法の詳細について

具体的な交渉方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは開示しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、退職された方及び役員を退任された方が保有する非上場株式・少数株式について、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま、会社又は大株主との任意の買取交渉、株価の検討、必要に応じた裁判手続を行うものです。

ご相談の際には、持株会の規約、株式の取得時の書面、定款の写し、株主名簿の写し、直近の決算書、退職時の書類をご用意いただけますと検討が早く進みます。お手元にない場合でもご相談いただけます。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から24時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)

過去の取扱い実績は将来の結果を保証するものではありません。売却に伴う課税関係については税理士にご確認ください。

本記事の根拠条文・裁判例

会社法 第106条(共有株式の権利行使)、第107条第1項第1号・第108条第1項第4号(譲渡制限株式)、第116条第1項・第469条・第785条・第797条・第806条(法定の株式買取請求権)、第125条(株主名簿)、第130条・第133条(対抗要件、名義書換)、第136条から第145条まで(譲渡等承認請求。第138条の請求事項、第139条の決定及び通知、第140条の買取りの決定、第141条・第142条の通知及び供託、第143条の撤回の制限、第144条の売買価格の決定、第145条のみなし承認)、第155条第3号・第156条から第160条まで(自己株式の取得及び売主追加請求)、第162条・第164条(売主追加請求の例外)、第309条第2項第1号・第2号、第31条第2項、第318条第4項、第361条第1項(役員報酬等)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録)、第433条・第442条(会計帳簿、計算書類等)、第446条・第461条・第462条(分配可能額及び責任)

会社法施行規則 第26条第1号・第2号、第28条 / 弁護士法 第73条

裁判例 最高裁判所平成7年4月25日第三小法廷判決(従業員持株制度において取得価額と同額で会社に譲渡する旨の合意を有効と判断)、大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定。株式買取業者に対する株式譲渡契約につき弁護士法第73条違反による無効を判断)

内部リンク

既存記事・既存ページ /archives/share_mochikabukai/(第2節。持株会の仕組みの詳細はこちらへ)、/mochikabukai_taikai/(第2節)、/yakuin_hazusare/(第6節)、/archives/share_baikyakukaitorigimu/、/archives/minority-unlisted-buyout/(第3節)、/archives/minority-share-transfer-approval/(第4節)、/archives/share_kaikeichouboetsuranseikyuken/、/archives/unlisted-share-fair-price/(第5節)

関連記事 A01、A02、A09、A12、B02、E02

送客先 LP02(/landing/minority/。主)、LP11(当面/landing/minority/。補助)

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。