会社が提示する株式買取価格はどのように検証するか
会社から非上場株式の買取価格を提示された場合、その金額が正しいことを会社が証明したわけではありません。提示額の検証とは、金額の高低を感覚で判断することではなく、その数字がどの目的のために、どの評価手法により、どの基準日の、どの資料に基づいて計算されたものかを順に確かめる作業です。前提が異なれば、同じ会社の同じ株式でも金額は大きく変わります。
本ページでは、評価手法そのものの解説ではなく、株主の側が提示額を検証する手順に重心を置いて整理いたします。時価純資産法、収益還元法、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法等の各手法の内容については、既存記事(/archives/share_minoritysharevalue/、/column/share_valuation/)をご参照ください。
第1節 検証は金額ではなく前提の確認から始まります
非上場株式には市場価格がありません。したがって、会社が提示する金額は、必ず何らかの計算過程を経て導かれております。その計算過程には、評価の目的、評価手法の選択、基準日、用いた資料、将来の見通し、ディスカウント又はプレミアムの適用といった多数の前提が含まれます。金額は、これら前提の帰結にすぎません。
株主の側が「安いと感じる」という感覚だけを述べても、議論は進みません。他方、前提のいずれかが客観的資料と整合していないことを具体的に指摘できる場合には、金額そのものを争点とせずとも、計算のやり直しを求める根拠となります。検証とは、この指摘の材料を作る作業です。
会社から金額だけが口頭又は一行の書面で示され、計算根拠が示されていない場合には、まず算定の根拠及び基礎資料の開示を求めることが出発点となります。根拠の開示がないまま提示された金額は、検証の対象にすらなっておりません。
第2節 第一の検証 その数字はどの目的で計算されたものか
非上場株式の「価格」と呼ばれるものには、目的の異なる複数の数字が存在いたします。これらは相互に代替できません。
表1 目的の異なる四つの数字
| 区分 | 目的 | 依拠する定め | 売買価格との関係 |
|---|---|---|---|
| 税務上の評価 | 相続税及び贈与税の課税価格の計算 | 財産評価基本通達178以下 | 画一的な計算方法であり、売買時価を示すものではありません |
| 会計上の評価 | 財務諸表における計上 | 取得原価主義その他の会計基準 | 取引価格を示すものではありません |
| 売買における時価 | 当事者間の合意による取引 | 契約自由の原則 | これが任意の買取交渉の対象です |
| 裁判所が定める価格 | 会社法上の手続における決定 | 会社法第144条第3項、第117条第2項等 | 一切の事情を考慮して裁判所が定めます |
会社が提示する金額の根拠として、相続税の申告に用いた評価額が持ち出されることがあります。しかし、これは別の目的のために別の方法で計算された数字です。とりわけ配当還元方式による評価額は、会社の収益力及び内部留保と切り離して計算されるため、会社の実態から大きく離れることがあります。まず、示された数字がどの目的の数字であるのかを確認してください。
第3節 第二の検証 評価アプローチ、基準日及び資料の範囲
企業価値評価の手法は、通常、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチの三つに整理されます。いずれの手法にも合理性と限界があります。問題となるのは、当該会社の実態に照らして、選択された手法が適切かどうかです。継続的に利益を計上している会社について簿価純資産法のみが用いられている場合、含み益のある不動産を保有する会社について簿価が前提とされている場合、収益力に乏しい会社について過大な将来計画が前提とされている場合など、手法の選択そのものが検証の対象となります。複数の手法を併用しているときは、その加重の根拠も確認いたします。
評価には必ず基準日があります。どの時点の貸借対照表及び損益計算書を用いたのか、直近の決算期末か、それとも数期前かによって、結果は変動いたします。基準日の後に大きな資産の売却、多額の設備投資、役員退職慰労金の支給、貸倒れの発生などがあった場合には、その事実が反映されているかを確認いたします。資料の範囲も重要です。単体の決算書のみによる評価か、子会社を含む実態を踏まえた評価かによって、結論は異なり得ます。
第4節 第三の検証 決算書のどこを見るか
ここからが本ページの中心です。株主の側が決算書その他の資料から確認すべき事項を整理いたします。
表2 決算書等における主な確認事項
| 区分 | 確認する事項 | 提示額への影響の方向 |
|---|---|---|
| 含み損益(資産) | 土地・建物の取得時期と帳簿価額、投資有価証券、ゴルフ会員権、保険積立金の解約返戻金 | 簿価を前提とする評価では含み益が反映されません |
| 不良資産 | 回収困難な売掛金及び貸付金、滞留在庫、繰延税金資産の回収可能性 | 過大に計上されていれば純資産が実態より大きく見えます |
| 簿外債務 | 退職給付債務の未計上、未払賃金、保証債務、係争中の事件、資産除去債務、賃貸借契約の原状回復義務 | 計上漏れがあれば純資産が実態より大きく見えます |
| 非経常損益 | 固定資産売却損益、災害損失、補助金収入、役員退職慰労金、訴訟に係る和解金 | 収益力を基礎とする評価では調整の要否が問題となります |
| 役員報酬の水準 | 代表者及び親族役員の報酬・賞与の推移、同業他社との比較 | 過大であれば利益が実態より小さく見えます |
| 関係会社取引 | 代表者の資産管理会社との賃貸借、業務委託、仕入・販売の条件 | 取引条件によって利益が移転している場合があります |
| 直近の類似取引 | 過去の自己株式の取得価額、他の株主間の売買、相続税申告における評価 | 会社自身が採用した水準との整合が問題となります |
各項目について、確認の手がかりを申し上げます。含み損益については、貸借対照表の金額だけでは判断できませんので、勘定科目内訳明細書、固定資産台帳、不動産の登記事項証明書、固定資産税の課税明細書を併せて確認いたします。簿外債務については、個別注記表、法人税申告書の別表、保証債務の有無に関する記載を確認いたします。中小の会社では退職給付引当金が計上されていないことがあり、退職金規程が存在するにもかかわらず債務が反映されていない例があります。
非経常損益については、損益計算書の特別損益の区分だけでなく、販売費及び一般管理費の内訳を確認いたします。一時的な費用が営業損益に含まれている場合、収益力が実態より小さく見えることがあります。役員報酬については、同族会社では利益と報酬の配分が政策的に決定されておりますので、報酬水準の推移を数期にわたって確認することに意味があります。関係会社取引については、勘定科目内訳明細書の関係会社に対する債権債務、地代家賃、支払手数料の相手方を確認いたします。
直近の類似取引の有無は、とりわけ重要です。会社が過去に他の株主から自己株式を取得している場合、その価額は会社自身が採用した水準です。株主総会の議事録の閲覧謄写(会社法第318条第4項)により、自己株式の取得に関する決議(会社法第156条第1項、第160条第1項)の内容を確認できる場合があります。今回の提示額がこれと大きく異なるのであれば、その理由が説明されているかを確認いたします。
以下は説明のための仮設例です。
> 発行済株式総数10,000株、保有株式数500株。会社の提示額は1株当たり20,000円(合計1,000万円)で、簿価純資産2億円を基礎としたものと説明されている。他方、貸借対照表上1,000万円で計上されている土地について固定資産税の課税明細書から相当の評価額が見込まれ、また、直近3期の役員報酬が年間8,000万円で推移している。この場合、時価純資産を基礎とする金額、及び役員報酬を調整した正常収益力を基礎とする金額は、いずれも提示額と異なり得ます。
上記は仮設例であり、事案により異なります。含み益や役員報酬の調整をどの範囲で行うかは、会社の実態、事業の継続性、評価手法の選択によって変わりますので、一律の計算式があるわけではありません。
第5節 第四の検証 ディスカウント及びプレミアムの有無
算定書の末尾で、算出された価格から一定率を控除している例があります。少数株主であることを理由とする少数株主ディスカウント、市場性がないことを理由とする非流動性ディスカウントが典型です。これらが適用されている場合には、適用の根拠と控除率の根拠を確認してください。
最高裁判所平成27年3月26日決定は、非上場会社について会社法第785条第1項に基づく反対株主の株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法を用いて株式の価格を決定する場合には、非流動性ディスカウントを行うことはできない旨を判示しております。相対の任意取引においては当事者の合意により価格が定まりますので、裁判手続における議論がそのまま妥当するわけではありませんが、控除率が根拠なく設定されている場合には、その点を指摘することができます。なお、評価手法の内側で既に少数株主としての立場が織り込まれている場合に、さらに外から同種のディスカウントを重ねて適用しているときは、二重の減価となっていないかという観点からの検証が必要です。
第6節 検証に必要な資料をどのように取得するか
表3 株主による主な資料請求権
| 対象 | 持株要件 | 主な要件・留意点 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 定款 | なし | 営業時間内はいつでも閲覧謄写を請求できます | 第31条第2項 |
| 株主名簿 | なし | 請求の理由を明らかにする必要があり、拒絶事由があります | 第125条第2項・第3項 |
| 株主総会議事録 | なし | 本店に10年間備置き。自己株式取得の決議の確認に有用です | 第318条第2項・第4項 |
| 計算書類及び附属明細書 | なし | 定時株主総会の1週間前(取締役会設置会社は2週間前)から5年間備置き | 第442条第1項・第3項 |
| 会計帳簿及びこれに関する資料 | 議決権又は発行済株式(自己株式を除く)の100分の3以上 | 理由を明らかにして請求。同条第2項に拒絶事由 | 第433条第1項・第2項 |
| 取締役会議事録 | なし(裁判所の許可が必要) | 権利行使に必要なときに裁判所の許可を得て請求 | 第371条第2項・第3項 |
表2に掲げた確認事項の多くは、計算書類及びその附属明細書(会社法第442条第3項)では足りず、勘定科目内訳明細書や総勘定元帳といった会計帳簿の水準の資料を要します。会計帳簿及びこれに関する資料の閲覧謄写請求には100分の3以上という持株要件があり(会社法第433条第1項)、株主の権利の確保又は行使に関する調査以外の目的による請求、株主の共同の利益を害する目的による請求等が拒絶事由とされております(同条第2項各号)。請求すれば必ず開示されるものではありませんので、請求の理由の記載及び拒絶された場合の対応について、あらかじめ検討しておく必要があります。
第7節 検証の結果をどのように用いるか
検証により前提の問題点が明らかになった場合、その後の進め方は、任意の交渉によるか、会社法上の手続によるかで異なります。任意の交渉は契約自由の原則によりますので、株主は会社の提示額に応じる義務を負いません。他方、会社法上の手続では期限その他の要件が定められており、これを徒過すると選択肢が失われることがあります。
たとえば譲渡制限株式について株式譲渡承認請求(会社法第136条、第138条)を行い、会社が承認をしない旨を決定して会社又は指定買取人が買い取る旨の通知をした場合(会社法第140条、第141条、第142条)、供託を証する書面の交付の日から20日以内に売買価格の決定の申立てをしなければ、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額をもって売買価格とされます(会社法第144条第2項、第5項、第7項)。簿価純資産による額は、不動産の含み益も営業権も反映しない帳簿上の数字にすぎないのが通例です。また、承認請求は買取りの通知の後は相手方の承諾を得た場合に限り撤回することができます(会社法第143条)。
したがって、提示額の検証は、手続上の期限との関係でも時間的な余裕をもって行う必要があります。会社との間で価格に関するやり取りが始まっている段階で、どの制度上の局面にいるのかを確認しておくことが重要です。なお、会社が自己株式として取得する場合には、対価の総額が分配可能額を超えることができないという制約もありますので(会社法第461条第1項第1号・第3号、第2項、第446条、第462条第1項)、価格と株式数の組立てにも影響いたします。
第8節 弁護士に依頼する意味
提示額の検証は、資料の取得、会計資料の読み方、評価手法の前提の吟味、会社法上の手続の期限管理という複数の作業が組み合わさったものです。株主の側でこれらを同時に進めることは容易ではありません。弁護士は、株主本人の代理人として、どの資料をどの根拠により求めるかの判断、拒絶された場合の対応、会計・評価の専門家との連携、会社との協議、必要に応じた裁判手続を行います。
この点が株式買取業者との違いです。株式買取業者は株式の買手であり、株主本人の代理人ではありません。買手は取得価額が低いほど利益が大きくなる立場にあり、株主本人と利益の方向が一致いたしません。大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定)は、株式買取業者に対する非上場株式の譲渡契約について、他人の権利を譲り受けてその実行をすることを業とすることを禁ずる弁護士法第73条に違反し無効であると判断いたしました。業者一般が違法であるという趣旨ではありませんが、具体的な業務態様によっては法的問題が生じ、裁判例において違法性が認定された事例があるということです。
よくあるご質問
質問1 会社が算定根拠を一切開示しません。どうすればよいでしょうか。
まず、算定の根拠及び基礎資料の開示を書面により求めることが考えられます。開示がない場合でも、株主として取得し得る資料の範囲で検証を行うことは可能です。表3のとおり請求権ごとに要件が異なりますので、保有株式数を踏まえて検討いたします。
質問2 会社が公認会計士の作成した株価算定書を提示してきました。それでも争えますか。
株価算定書は、依頼者、目的、基準日、前提条件によって結論が変わり得るものです。専門家が作成したという一事によって、その前提が正しいことが確定するわけではありません。前提条件の記載部分及び採用資料の記載部分を確認することが検証の中心となります。
質問3 相続税の申告に用いた評価額と会社の提示額が同じです。妥当ということでしょうか。
両者が一致していることは、その金額が売買における時価であることを意味しません。財産評価基本通達に基づく評価額は課税価格を計算するための数字です。目的の異なる数字が提示の根拠とされている場合には、その点自体が検証の対象となります。
質問4 会社が「役員報酬は経営判断であり調整の対象ではない」と説明しています。
役員報酬の水準が経営判断に属することと、株式の評価において正常収益力を把握する際に調整の要否を検討することとは、別の事柄です。いずれの処理が適切かは、報酬の推移、職務の内容、同業他社の水準等を踏まえて検討いたします。
質問5 決算書を持っていませんが、相談できますか。
資料が手元になくてもご相談は可能です。株主名簿の記載、株券の有無、取得の経緯、これまでのやり取りの記録など、お持ちの範囲の情報をご用意いただければ、取得可能な資料の範囲と手順から検討いたします。
交渉手法の詳細について
会社が株式買取りに応じるか否かは、株主構成、会社の財務状況、株式価値、株主間の従前の経緯、会社支配権、相続・事業承継の状況その他の事情によって異なります。どのような事情を踏まえ、どのような順序及び方法で会社と交渉するかは、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは開示しておりません。本ページの記載は一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
非上場株式・少数株式の株価算定及び価格交渉について、弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)がご相談をお受けいたします。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主側の代理人として、資料の取得、株価の検討、会社との任意の買取交渉、必要に応じた裁判手続を行うものです。
ご相談の際には、会社から示された書面、株価算定書、直近3期分の決算書、勘定科目内訳明細書、定款の写し、株主名簿の写しをご用意いただけますと検討が早く進みます。お手元にない場合でもご相談いただけます。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から24時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階
- 代表弁護士 土屋 勝裕(東京弁護士会 登録番号26775)
売却に伴う課税関係については税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文・裁判例
会社法 第31条第2項(定款)、第125条第2項・第3項(株主名簿)、第318条第2項・第4項(株主総会議事録)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録)、第433条第1項・第2項(会計帳簿)、第442条第1項・第3項(計算書類等)、第136条・第138条・第140条・第141条・第142条・第143条・第144条第2項・第3項・第5項・第7項・第145条(譲渡等承認請求及び売買価格の決定)、第155条第3号・第156条第1項・第160条第1項(自己株式の取得)、第117条第2項(反対株主の株式買取請求における価格の決定)、第446条・第461条第1項第1号・第3号及び第2項・第462条第1項(分配可能額及び責任)
弁護士法 第73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
裁判例 最高裁判所平成27年3月26日決定(会社法第785条第1項に基づく株式買取請求について、収益還元法により価格を決定する場合に非流動性ディスカウントを行うことはできない旨を判示)、大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定。株式買取業者に対する株式譲渡契約につき弁護士法第73条違反による無効を判断)
その他 財産評価基本通達178以下(取引相場のない株式の評価)
内部リンク
既存記事・既存ページ /archives/share_hyoukahouhoukaisetsu/、/archives/share_minoritysharevalue/、/column/share_valuation/(第3節。評価手法の詳細はこちらへ)、/archives/share_kabushikikachisanteihouhou/(第5節)、/archives/unlisted-share-fair-price/(第2節)、/archives/share_kakakuhyoukajyunshisanhoushiki/(第4節)、/archives/sozokuzei_hyoukagaku/(第2節)、/archives/share_kaikeichouboetsuranseikyuken/(第6節)、/kaitorikakaku_arasoi/(第7節)
関連記事 B03、B05、B06、B09、B10、A03、A12
送客先 LP05(/landing/share/。主)、LP03(/kaitorikakaku_arasoi/。補助)
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。



