株式譲渡承認請求を弁護士に依頼するとき 譲渡制限株式を売却するための手順と2週間の期限
非上場会社の少数株主の方が、保有する株式を第三者に売却しようとして会社に承認を求めたところ、返事が来ない、あるいは承認しないと言われた、という御相談をいただきます。定款に譲渡制限の定めがある株式は、会社の承認がなければ、譲渡を会社に対抗することができません。本ページは、この譲渡制限株式について株式譲渡承認請求を行う場面に限り、弁護士に依頼した場合に何をどの順序で行うのか、そして請求をした後に動き出す期限を整理したものです。
株式譲渡承認請求は、単に「売ってよいか」を尋ねる手続ではありません。正しく用いれば、会社に対して2週間以内の応答を義務付け、承認しないのであれば会社又は会社が指定する者に買い取らせ、価格に折り合いがつかなければ裁判所に決めてもらう、という一連の流れを起動する手続です。少数株主の側にとって、会社を交渉の席に着かせる最も確実な入口です。
もっとも、この手続には落とし穴があります。請求書面に一言を書き落としただけで、買取りを求める道が閉ざされます。また、途中の段階を過ぎますと、請求を撤回することができなくなります。本ページでは、その分かれ目を具体的に示してまいります。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
弁護士への依頼という同じ主題であっても、用いる手続と判断の分かれ目は場面ごとに異なりますので、次のとおり整理しております。
- 譲渡制限株式について承認を求める場面……本記事
- 会社そのものに買取りを求める場面……会社に株式の買取りを求めるとき弁護士に依頼する意味 任意の買取交渉と法定の買取請求の使い分け
- 株主としての権利を会社に認めさせる場面……少数株主が弁護士に依頼するとき 会社に権利を認めさせるために使える手続と期限
- 裁判所での価格の審理の中身……株式売買価格決定の申立ての手続 裁判所への申立て、審理、鑑定及び費用
「承認してもらえない」という段階で御相談をいただきます
御相談の入口となる3つの状況
典型的な御相談は次のようなものです。買い手が見つかったので会社に承認を求めたところ、社長から「身内以外に渡すことは認められない」と言われた。承認を求める書面を送ったが、数か月が経過しても何の回答もない。承認しないという回答は来たが、会社が買い取るとは書かれていない。
いずれも、会社法が定める流れから外れた状態です
会社法は、承認をしないのであれば会社又は指定買取人が買い取らなければならないという構造をとっております。会社が「承認しない」とだけ述べて放置することは、本来できません。
なぜそのような状態が生じるのか
理由は3つに限られます。株主の側の請求が会社法上の要件を満たしていないか、会社の側が手続を知らないか、あるいは知ったうえで無視しているかです。いずれであるかによって、次に打つべき手はまったく異なります。
株式譲渡承認請求は、何を動かす手続なのか
誰が請求できるのか
譲渡制限株式の株主は、これを他人に譲り渡そうとするときに、会社に対し、当該他人が取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができます(会社法第136条)。既に株式を取得した者の側から請求する場合には、原則として、株主名簿上の株主又はその一般承継人と共同して請求しなければなりません(会社法第137条第1項、第2項)。相続により取得された方は、まず名義の書換え(会社法第133条)を整理することが先決となる場合があります。
会社の側が踏むべき手順
会社は、承認をするか否かの決定を、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議によって行い(会社法第139条第1項)、その決定の内容を請求者に通知しなければなりません(同条第2項)。承認をしない旨の決定をしたときは、会社が対象株式を買い取るか、又は買取りを行う指定買取人を指定しなければなりません(会社法第140条第1項、第4項)。会社が自ら買い取る場合の決定は株主総会の特別決議によることとされ、請求をした株主はその決議において議決権を行使することができません(同条第2項、第3項、会社法第309条第2項第1号)。
価格が折り合わないときの受け皿
会社又は指定買取人から買取りの通知があった場合、売買価格は協議によって定めます。協議が調わないときは、通知があった日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第144条第2項、第7項)。すなわち、この手続は、価格の争いを裁判所に持ち込む扉を開くものでもあります。
請求書面の書き方で結果が変わります
書き落としてはならない一言
譲渡等承認請求は、株主が譲り渡そうとする譲渡制限株式の数、譲り受ける者の氏名又は名称、そして、会社が承認をしない旨の決定をする場合において会社又は指定買取人が当該株式を買い取ることを請求するときはその旨を明らかにしてしなければなりません(会社法第138条第1号イからハまで)。
問題は3番目です。この記載は、承認されなかった後に述べるのでは足りず、あらかじめ請求書面に記載しておかなければなりません。記載を欠いたまま請求をした場合、会社は承認をしないという回答をするだけで足り、買取りの義務を負いません。買い手が見つかっていない少数株主の方にとっては、この一言こそが目的であるにもかかわらず、書き落とされている例が実際に見られます。
到達の日を証拠に残すこと
後述するとおり、期限はすべて請求が到達した日から起算されます。したがいまして、配達証明付きの内容証明郵便により送付し、到達の日を客観的に固定しておく必要があります。持参や電子メールによる送付では、後日、到達の有無と日付を争われることがあります。
誰に宛てるのか
請求の相手方は会社です。代表者個人や親族の株主ではありません。宛先を誤りますと、期限の起算が始まりません。
譲受人をどのように用意するか
譲受人の氏名又は名称は必要です
会社法第138条第1号ロは、譲り受ける者の氏名又は名称を明らかにすることを求めております。すなわち、買い手が全く存在しない状態では、この手続を用いることができません。「誰でもよいから買ってほしい」という請求は、要件を満たしません。
会社に買い取らせることを目的とする場合
実際には、少数株主の方の目的が、第三者への売却そのものではなく、会社に買い取らせることにある場合が多くあります。この場合であっても、手続上は譲受人を特定する必要があります。したがいまして、譲受人となる者をどのように確保するかが、弁護士に依頼した場合の最初の実務上の作業となります。
株式買取業者に譲渡することとの違い
株式買取業者に対して株式を売却するという方法もありますが、これは株主としての地位を手放すことを意味します。手放した後の価格の争いは、株主ではなくなった方の手を離れます。なお、他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によりその権利の実行をすることを業とすることは禁止されており(弁護士法第73条)、報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを業とすることも禁止されております(弁護士法第72条)。買取りの打診を受けておられる場合には、条件を確認したうえで御相談ください。
請求の後に動き出す期限を、具体的な日付で確認いたします
設例 令和8年9月1日に請求書面が到達した場合
請求書面が令和8年9月1日に会社に到達し、令和8年9月10日に不承認の通知がされたという設例で示します。
| 会社の側の作業 | 期限 | 過ぎた場合の効果 | 根拠 |
| 承認又は不承認の決定の内容の通知 | 令和8年9月15日まで(2週間) | 承認をしたものとみなされます | 第139条第2項、第145条第1号 |
| 会社が買い取る旨の通知 | 令和8年10月20日まで(40日) | 承認をしたものとみなされます | 第141条第1項、第145条第2号 |
| 指定買取人が買い取る旨の通知 | 令和8年9月20日まで(10日) | 会社による通知の期限に戻ります | 第142条第1項、第145条第2号 |
| 株主の側 売買価格の決定の申立て | 買取りの通知が令和8年10月20日にされた場合は令和8年11月9日まで(20日) | 価格は1株当たり純資産額に株式数を乗じた額となります | 第144条第2項、第5項、第7項 |
2週間と40日は、会社の側の期限です
2週間及び40日の期限は、会社が守らなければ会社が不利益を受けるものです。会社が沈黙すれば、株主の求めた譲渡が承認されたことになります(会社法第145条第1号)。
20日だけは、株主の側の期限です
最下段の20日は株主の側の期限です。この20日を徒過しますと、協議が調ったときを除き、売買価格は1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額とされます(会社法第144条第5項)。会社の資産の構成によっては、株主にとって著しく不利益な水準となる場合があります。
途中で引き返せなくなる場面があります
撤回には相手方の承諾が必要になります
会社又は指定買取人が買い取る旨の通知をした後は、譲渡等承認請求をした株主は、会社又は指定買取人の承諾を得た場合に限り、請求を撤回することができます(会社法第143条第1項、第2項)。すなわち、通知を受けた時点で、株主は「やはり売るのをやめる」という選択を単独ではできなくなります。
供託がされると手続が固まります
会社又は指定買取人は、買取りの通知をしようとするときは、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額を本店の所在地の供託所に供託し、その供託を証する書面を株主に交付しなければなりません(会社法第141条第2項、第142条第2項)。この供託がされますと、売買は現実に動き出します。
株券発行会社では1週間以内の供託が必要です
対象株式が株券発行会社の株式である場合には、供託を証する書面の交付を受けた株主は、交付を受けた日から1週間以内に、当該株式に係る株券を本店の所在地の供託所に供託しなければなりません(会社法第141条第3項、第142条第3項)。この供託をしなかったときは、会社又は指定買取人は売買契約を解除することができます(同条第4項)。1週間という期間は、株券の所在を確認しているうちに過ぎてしまう長さです。
会社の側の事情 なぜ会社は承認をしないのか
第1 株主構成を変えたくないという事情
譲渡制限の定めは、望まない者が株主となることを防ぐために置かれております。会社にとって、外部の者が株主となることは、それ自体が避けたい事態です。承認をしない判断そのものは、会社の裁量として一応正当なものです。
第2 買い取る資金がないという事情
承認をしないという判断には、会社又は指定買取人による買取りが伴います。さらに、会社が自ら買い取る場合には、株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額が分配可能額を超えてはならないという制約があります(会社法第461条第1項第1号)。この制約のために、会社は承認も不承認も決められず、沈黙することがあります。
第3 手続を知らないという事情
意外に多いのが、会社の側が会社法上の手続を把握していない場合です。2週間の期限を知らないまま放置し、結果として承認をしたものとみなされる事態に至ることがあります。弁護士名で請求書面を送付することにより、会社が期限を認識し、対応を開始するという効果が現実に生じます。
弁護士に依頼した場合に実際に行うこと
第1 請求前の事実の確定
定款における譲渡制限の定めの内容、取締役会設置会社であるかどうか、株券発行会社であるかどうか、株主名簿上の記載、発行済株式の総数と持株比率を確認いたします。これらにより、決議の機関、通知の期限、株券の供託の要否が変わります。
第2 請求書面の作成と送付
会社法第138条第1号の各事項、とりわけ買取りを請求する旨を明記した書面を作成し、配達証明付きの内容証明郵便により送付いたします。到達の日から、すべての期限が起算されます。
第3 期限の管理と、通知に対する即応
2週間、40日、10日、20日の各期限を管理し、会社からの通知が届いた日にその内容を検討いたします。とりわけ買取りの通知を受けた後の20日は、価格の主張を組み立てながら申立ての準備を進める必要があり、依頼の有無で結果が大きく分かれる局面です。
いま確認していただきたいこと
第1に、定款の写しを入手し、譲渡制限の定めと、承認の機関に関する定めを確認してください。定款がお手元にない場合は、登記事項証明書で譲渡制限の定めの有無を確認することができます。
第2に、既に会社に対して書面を送付しておられる場合には、その控えを御覧になり、買取りを請求する旨の記載があるかどうかを確認してください。記載がない場合には、書面を出し直すことを検討いたします。
第3に、会社から届いた通知の日付を確認してください。買取りの通知であれば、20日の期限が既に進行しております。
第4に、株券が発行されているかどうかを確認し、発行されている場合には株券の所在を確かめてください。1週間以内の供託が必要となる場面があります。
よくあるご質問
買い手がいないのですが、この手続を使えますか。
譲り受ける者の氏名又は名称を明らかにする必要がありますので(会社法第138条第1号ロ)、買い手が全く存在しない状態では請求ができません。もっとも、目的が会社に買い取らせることにある場合には、譲受人となる者を確保したうえで請求を行うという進め方があります。事情を伺ったうえで、実行可能な方法を御提案いたします。
会社が何も回答しないまま2か月が経過しました。
請求の日から2週間以内に決定の内容の通知がされなかった場合には、承認をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。したがいまして、譲渡そのものは会社に対して有効に主張することができます。次の作業は、株主名簿の名義の書換えを求めることです。ただし、請求書面が会社法第138条の要件を満たしていることと、到達の日を証明できることが前提となります。
会社が示した価格が明らかに低いのですが、応じなければなりませんか。
応じる必要はありません。売買価格は協議により定めるものであり、会社が一方的に決められるものではありません。協議が調わないときは、買取りの通知があった日から20日以内に裁判所に対して売買価格の決定の申立てをしてください(会社法第144条第2項)。この20日を過ぎますと、1株当たり純資産額を基準とする額に固定されます(同条第5項)。
いったん請求した後で、やはり売却をやめたくなった場合はどうなりますか。
会社又は指定買取人から買取りの通知を受けた後は、その承諾がなければ撤回することができません(会社法第143条第1項、第2項)。したがいまして、請求をする前の段階で、最終的に売却する意思があるかどうかを固めておく必要があります。この点も、依頼をお受けする際に必ず確認いたします。
おわりに
株式譲渡承認請求は、書面1通で会社に応答の義務を生じさせる、少数株主にとって数少ない能動的な手続です。反面、要件を1つ欠くだけで効果が失われ、期限を1日過ぎるだけで価格の争い方が変わります。手続の入口で誤ってしまいますと、後から取り返すことができません。書面を出す前の段階で御相談いただくことが、最も効果的です。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
株式譲渡承認請求に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
法令
会社法第133条(株主名簿記載事項の記載等の請求)、第136条(株主からの承認の請求)、第137条第1項及び第2項(株式取得者からの承認の請求)、第138条第1号(譲渡等承認請求の方法)、第139条第1項及び第2項(譲渡等の承認の決定等)、第140条第1項から第5項まで(株式会社又は指定買取人による買取り)、第141条第1項から第4項まで(株式会社による買取りの通知)、第142条第1項から第4項まで(指定買取人による買取りの通知)、第143条第1項及び第2項(譲渡等承認請求の撤回)、第144条第2項、第5項及び第7項(売買価格の決定)、第145条第1号及び第2号(承認をしたとみなされる場合)、第309条第2項第1号(株主総会の決議)、第461条第1項第1号(配当等の制限)
弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)、第73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
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