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子会社の事業譲渡や役員報酬を調べるための会計帳簿閲覧謄写請求と拒絶事由―東京地方裁判所令和6年4月23日判決

公開 2024年4月23日更新 2026年10月30日

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代表取締役とその関係会社が議決権の大半を握る非上場会社で、少数株主が、代表取締役の報酬、関係会社による土地の転売、子会社の太陽光発電事業の事業譲渡と多額の販売費及び一般管理費の支出を調べるために、会社法第433条第1項に基づいて会計帳簿等の閲覧謄写を求めた事件の判例です。この株主は、以前に代表取締役の責任を追及する株主代表訴訟で約4億円の支払を命じる判決を得ており、その後、会社側が企図した第三者割当てによる新株発行と株式併合を、いずれも仮処分で差し止めていました。

東京地方裁判所令和6年4月23日判決は、役員報酬、土地の転売、事業譲渡及び販売費及び一般管理費に関する書類について、請求の理由との関連性を認め、会社が「この書類だけ見せれば足りる」として閲覧の範囲を絞ろうとした主張を退けました。会社が主張した拒絶事由(調査以外の目的、業務妨害の目的、競業関係)も、いずれも認めませんでした。他方で、新株発行の発行価格が不当に低いとして株式の価値を算定するために求めた現預金の出入金の記録については、目的との関連性がないとして請求を棄却しています。本記事では、どの請求がどのような理由で認められ、どの請求が退けられたのかを、会社から締め出しを図られている株主、会社から低い価格を示されている株主の視点から整理します。

目次
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 本件で問題となった法令
  4. 事案の概要
    1. 代表取締役の関係会社が約77.7%を保有する太陽光発電事業の会社
    2. 株主が代表取締役の責任を追及し、約4億円の支払を命じる判決を得た
    3. 会社側が新株発行と株式併合を企図し、株主が仮処分で差し止めた
    4. 株主が会計帳簿等の閲覧謄写を求めて提訴した
  5. 事案の経緯
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. 株主が示した全体の請求理由
    2. 書類の区分ごとの請求理由
    3. 会社側の主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が示した判断の枠組み
    1. 「会計帳簿」と「これに関する資料」の意味
    2. 請求理由の具体性と、書類との関連性を区分ごとに検討する
    3. 第2号の拒絶事由は、加害の意図がなくても客観的な事実で認められ得る
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 請求理由1(役員報酬・給料)―「通帳と総勘定元帳で足りる」という会社の主張を退けた
    2. 請求理由2(土地の転売)―権利義務と会計帳簿への反映を確かめる必要がある
    3. 請求理由3(子会社の事業譲渡・投資有価証券の清算・販売費及び一般管理費)―関係会社への資金流出の認定を踏まえ、広く関連性を認めた
    4. 請求理由4(新株発行の発行価格)―現預金の出入金の記録は、株式価値の算定との関連性がない
    5. 第1号の拒絶事由―株主代表訴訟で認容判決を得た実績を重視した
    6. 第2号の拒絶事由―株主自身が共謀した証拠がない
    7. 第3号の拒絶事由―「環境」「自然エネルギー」という抽象的な重なりでは足りない
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
  12. よくあるご質問
    1. 会社から新株発行や株式併合で締め出されそうです。会計帳簿の閲覧謄写を求めることはできますか。
    2. 会社が「通帳と総勘定元帳の該当部分だけ見せれば足りる」と言って、閲覧の範囲を絞ろうとします。
    3. 会社から、株主が経営権を奪おうとしている、会社の信用を傷つけていると言われ、閲覧を拒まれています。
    4. 株主の会社が同じ環境分野の事業をしているとして、競業を理由に拒まれることはありますか。
    5. 会社が示した株式の価格が低すぎると思います。価格を確かめるために、どの帳簿でも見られますか。
    6. 会社が子会社の事業を譲渡したようです。株式買取請求ができるかを調べるために閲覧を求められますか。
  13. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第8部
裁判日 令和6年4月23日
事件番号 令和5年(ワ)第70112号
裁判の形式 判決
審級 第一審
結論 株主(原告)の請求を一部認容(判決の別紙1目録記載の書類の閲覧謄写を命じる)。その余の請求は棄却。訴訟費用は4分し、その1を株主、その余を会社の負担
上訴の状況 上訴の有無及び確定は確認できていません

この表は、判決本文の冒頭及び主文の記載に基づいて当事務所が作成したものです。判決本文では別紙が省略されているため、閲覧謄写が命じられた書類の具体的な一覧は確認できていません。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号(原告、被告や、人物・会社を示す英字の記号等)も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。地名など、特定につながる事項は記載を控えています。

本記事の表記 立場
株主である投資会社RVS 原告。有価証券の取得及び保有等を目的とする株式会社で、太陽光発電事業会社SLNの株式78株(発行済株式総数の100分の3以上)を保有する株主です
投資会社RVSの代表者HKT氏 投資会社RVSの代表取締役
太陽光発電事業会社SLN 被告。太陽光発電所の開発・運用及びコンサルティング等を業とする株式会社で、株式の譲渡が制限されている会社です。発行済株式総数は372株です
代表取締役WTN氏 太陽光発電事業会社SLNの設立時からの取締役で、平成30年1月1日から代表取締役。令和3年6月10日以降は同社の唯一の役員です
支配株主である合同会社DFK 代表取締役WTN氏が代表者を務める合同会社。太陽光発電事業会社SLNの株式289株(発行済株式総数の約77.7%)を保有しています
WTN氏の関係会社QRS 代表取締役WTN氏が代表者を務める別の株式会社
元取締役の従業員JMT氏 令和元年6月1日から令和3年3月31日まで太陽光発電事業会社SLNの取締役で、退任後は同社の従業員の地位にあった人物
解任された元取締役NSD氏 平成31年2月22日から令和3年2月3日まで太陽光発電事業会社SLNの取締役で、同日に解任された人物。同社の株式5株を保有しています
完全子会社である発電事業会社PVB及びPVC 太陽光発電事業会社SLNが特別目的会社として設立し、それぞれ太陽光発電事業を営んでいた完全子会社
発電事業会社PVA 太陽光発電事業会社SLNが全額出資して設立した一般社団法人が代表社員を務める合同会社。支配株主DFKが匿名組合契約による出資をした相手方です

本件で問題となった法令

会社法第433条第1項は、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主が、請求の理由を明らかにして、会社の営業時間内はいつでも、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができると定めています。同条第2項は、会社がこの請求を拒むことができる場合を列挙しています。

本件で会社側が主張したのは、同条第2項のうち次の3つの拒絶事由です(括弧内は判決本文が掲げる条文の文言です)。

  • 第1号:請求者が「その権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき」
  • 第2号:請求者が「当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき」
  • 第3号:請求者が当該株式会社の業務と「実質的に競争関係にある事業」を営み、又はこれに従事するものであるとき

このほかに、判決は、請求の対象となった書類が「会計帳簿又はこれに関する資料」に当たるか、また、株主が示した請求の理由と各書類との間に関連性があるかを検討しています。

事案の概要

代表取締役の関係会社が約77.7%を保有する太陽光発電事業の会社

太陽光発電事業会社SLNは、平成21年2月20日に設立された、太陽光、バイオマス等の自然エネルギーを利用した発電・発熱業務及び電力・熱・燃料の販売等を目的とする株式会社です。株式の譲渡が制限されている会社で、太陽光発電所の開発・運用及びコンサルティング等を業としています。以前は取締役会と監査役を置く会社でしたが、令和3年2月3日に取締役会を置かない会社に、同年6月10日に監査役を置かない会社に移行しました。発行済株式総数は372株です。

代表取締役WTN氏は、設立時から取締役を務め、平成30年1月1日から代表取締役を務めています(判決本文によれば、登記上は、令和2年10月19日に代表取締役を解任され、令和3年2月3日に改めて代表取締役に就任したとされています)。令和3年6月10日以降は、同社の唯一の役員です。WTN氏が代表者を務める支配株主の合同会社DFKが289株(約77.7%)を、株主である投資会社RVSが78株を、解任された元取締役NSD氏が5株を保有していました。

株主が代表取締役の責任を追及し、約4億円の支払を命じる判決を得た

投資会社RVSは、令和3年3月23日、太陽光発電事業会社SLNの株主として、代表取締役WTN氏と元取締役の従業員JMT氏を相手方として、東京地方裁判所に株主代表訴訟を提起しました(以下、判決本文に倣い「前件株主代表訴訟」といいます)。

東京地方裁判所は、令和5年6月29日、会社法第423条第1項に基づく損害賠償として、WTN氏に対し、3億9,802万2,865円(及び遅延損害金)を太陽光発電事業会社SLNに支払うよう命じる判決を言い渡しました。判決本文によれば、前件株主代表訴訟の判決は、平成25年頃から令和元年頃までの取引に関し、WTN氏の次の任務懈怠責任を認めています。

任務懈怠の内容(前件株主代表訴訟の判決が認めたもの) 損害額
太陽光パネルの購入代金として会社から他の会社に支払わせたうえで、支配株主DFKがその一部(水増し分)をバックマージンとして受け取った 1億7,653万4,700円
本来会社が受け取るべきコミッション(太陽光発電事業者がパネルメーカーから太陽光パネルを購入する際にパネルメーカーから受け取る報酬)の一部を、他の会社を通じて支配株主DFKに取得させた 1億4,562万1,260円
会社から他の会社へコンサルティング業務等の架空発注を行い、そこから支配株主DFK又は関係会社QRSへ資金を還流させた 2,296万円
支配株主DFKが発電事業会社PVAに1億円を出資する匿名組合契約を締結するに当たり、会社の事業の部類に属する取引であるのに取締役会の承認を得なかった 5,290万6,905円

この判決に対しては当事者が控訴し、上級審に移審したとされています。前件株主代表訴訟の控訴審の結果は、本判決の本文からは分かりません。

会社側が新株発行と株式併合を企図し、株主が仮処分で差し止めた

太陽光発電事業会社SLNは、令和5年8月10日付けで、同月18日開催の臨時株主総会の招集通知を株主に発しました。議案は、次の2つでした。

  • 第1号議案:発行価額1株40万円で、支配株主DFKに普通株式500株を割り当てる第三者割当てによる新株発行(効力発生日は払込期日である令和5年8月21日。以下「本件新株発行」といいます)
  • 第2号議案:普通株式100株を1株に併合する株式併合(効力発生日は令和5年9月5日。以下「本件株式併合」といいます)

令和5年8月18日の臨時株主総会では、支配株主DFKの賛成によって、いずれの議案も可決されました。

これに対し、投資会社RVSは、令和5年8月17日付けで、本件新株発行は前件株主代表訴訟による責任追及を免れるための一連の行為の一環として実施されるものであり、不当に低い価格での株式発行であるなどとして、著しく不公正な方法による株式発行に当たると主張し、差止めの仮処分を申し立てました。東京地方裁判所は、同月18日、本件新株発行を仮に差し止める仮処分決定をしました。

さらに、投資会社RVSと元取締役NSD氏は、令和5年8月29日付けで、本件株式併合は代表取締役WTN氏が自らの責任を免れるために投資会社RVSの株主たる地位を奪う目的で企図したものであり、法令等に違反するなどとして、差止めの仮処分を申し立てました。東京地方裁判所は、同年9月1日、本件株式併合を仮に差し止める仮処分決定をしました。会社側はいずれの仮処分決定にも異議を申し立てず、2つの仮処分決定は確定しました。

なお、当事務所の計算では、100株を1株とする株式併合が効力を生じた場合、78株を保有する投資会社RVSの株式は1株に満たない端数となります。判決本文では、投資会社RVSは、会社側の新株発行と株式併合は投資会社RVSを「スクイーズアウトする目的」で行われようとしていると主張しています。

株主が会計帳簿等の閲覧謄写を求めて提訴した

投資会社RVSは、太陽光発電事業会社SLNに対し、会社法第433条第1項に基づき、判決の別紙2目録記載の会計帳簿又はこれに関する資料(以下、判決本文に倣い「会計帳簿等」といいます)を、会社の本店において、その営業時間内に、閲覧及び謄写(写真撮影及び電磁的記録によって保存する方法を含みます)させるよう求めました。請求の対象は、令和6年3月6日付けの訂正申立書によって最終的に特定されています。

事案の経緯

時期 出来事(判決本文の記載による)
平成21年2月20日 太陽光発電事業会社SLNが設立される
平成25年頃から令和元年頃まで 前件株主代表訴訟の判決で任務懈怠とされた各取引が行われる
平成30年1月1日 WTN氏が代表取締役に就任
平成31年2月22日 NSD氏が取締役に就任
令和元年6月1日 JMT氏が取締役に就任
令和2年10月19日 登記上、WTN氏が代表取締役を解任され、NSD氏が代表取締役となったとされる
令和3年2月3日 NSD氏が取締役を解任される。登記上、WTN氏が改めて代表取締役に就任したとされる。会社が取締役会を置かない会社に移行
令和3年3月23日 投資会社RVSが、WTN氏及びJMT氏を相手方として前件株主代表訴訟を提起
令和3年3月31日 JMT氏が取締役を退任し、従業員となる
令和3年6月10日 会社が監査役を置かない会社に移行。以後、WTN氏が唯一の役員となる
令和3年7月29日 支配株主DFKが土地を購入(投資会社RVSの主張による)
令和3年10月11日 支配株主DFKが、その土地の一部を分筆して第三者に売却(投資会社RVSの主張による)
令和5年1月から6月まで 会社が約6億8,000万円の販売費及び一般管理費を支出(投資会社RVSの主張による。会社は仲介手数料と弁護士費用であると説明)
令和5年2月 完全子会社PVB及びPVCが営んでいた太陽光発電事業について事業譲渡が行われたとみられる(投資会社RVSの主張による)
令和5年6月29日 東京地方裁判所が、前件株主代表訴訟で、WTN氏に3億9,802万2,865円の支払を命じる判決。その後、当事者が控訴
令和5年8月10日付け 会社が臨時株主総会(本件新株発行・本件株式併合)の招集通知を発する
令和5年8月17日付け 投資会社RVSが本件新株発行の差止めの仮処分を申し立てる
令和5年8月18日 臨時株主総会で各議案が支配株主DFKの賛成により可決。同日、東京地方裁判所が本件新株発行を仮に差し止める仮処分決定
令和5年8月29日付け 投資会社RVS及びNSD氏が本件株式併合の差止めの仮処分を申し立てる
令和5年9月1日 東京地方裁判所が本件株式併合を仮に差し止める仮処分決定(2つの仮処分決定は、会社が異議を申し立てず確定)
令和6年3月6日付け 投資会社RVSが訂正申立書により請求の対象の書類を最終的に特定
令和6年4月23日 東京地方裁判所が、請求を一部認容する判決

当事者の請求と主要な主張

株主が示した全体の請求理由

投資会社RVSは、会計帳簿等の閲覧謄写を求める理由として、次の3点を挙げました。

  • 代表取締役WTN氏の取締役としての行為について、任務懈怠責任を追及する株主代表訴訟を提起したり、検査役選任の申立てや取締役の職務執行停止の仮処分命令の申立て等をしたりするかどうかを判断するために必要であること
  • 子会社の事業譲渡等に関する取引(下記の請求理由3の取引)について、重要な財産の処分として株式買取請求権の行使要件を満たしていたかどうかを判断するために必要であること
  • 会社が行おうとしている第三者割当てによる新株発行や株式併合の差止めを求める本案訴訟を提起するために必要であること

書類の区分ごとの請求理由

投資会社RVSは、請求する書類を4つの区分(判決の別紙3目録第1から第4まで)に分け、区分ごとに次の理由を示しました。判決は、これらを「本件請求理由〈1〉」から「本件請求理由〈4〉」と呼んでいます(以下、本記事では「請求理由1」から「請求理由4」といいます。以下の内容は、判決本文に記載された投資会社RVSの主張の要約です)。

区分 投資会社RVSが示した理由
請求理由1(役員報酬・給料) 代表取締役WTN氏が、役員報酬の名目で会社から多額の金員を引き出す目的で自らの報酬を不当に増額し、会社に損害を与えている疑いがある。また、前件株主代表訴訟の被告となってWTN氏の利益を守るような言動に終始しているJMT氏に対し、その見返りとして不当に高額な報酬又は給料を支払わせている疑いがある
請求理由2(土地の転売) 支配株主DFKは、令和3年7月29日に土地を購入し、その一部を分筆して同年10月11日に第三者に売却した。その土地には、債務者を支配株主DFKとする極度額5億2,800万円の根抵当権が設定され、その被担保債権は、会社が支配株主DFKに対して有していた金銭消費貸借取引、手形債権及び小切手債権とされている。会社の債権が土地の売買代金債権を譲り受けたものである可能性もあり、そうであれば、支配株主DFKは会社の負担で土地の一部の転売代金を取得していることになる
請求理由3(発電所の売却・販売費及び一般管理費) 会社は、完全子会社PVB及びPVCを設立して太陽光発電事業を行っていたが、令和5年2月にこれらの子会社が営んでいた各太陽光発電事業について事業譲渡を行ったとみられる。また、会社が臨時株主総会の参考資料として提出した資料により、会社が株主に秘匿したまま、子会社PVB、PVC及び発電事業会社PVAの投資有価証券を清算して分配金を得る処理を行ったことが判明した。さらに、会社は令和5年1月から6月までに約6億8,000万円という異常に高額な販売費及び一般管理費を支出し、仲介手数料と弁護士費用であると説明している。株主総会決議を経ずに重要な財産を処分している疑いがあり、事業譲渡代金や分配金等の収入や支出が合理的な価額かも不明で、会社の財産がWTN氏やその支配する会社等に流出している疑いがある
請求理由4(新株発行の発行価格) 会社は、投資会社RVSをスクイーズアウトする目的で第三者割当てによる新株発行や株式併合を行おうとしているが、会社が定めた株式の発行価格や端数となる株式の価格は不当に廉価である疑いがあり、適正な株価を算定する必要がある

会社側の主張

太陽光発電事業会社SLNは、請求理由と各書類との関連性を否認して争いました。また、各区分について、確認のための資料としては一部の書類の開示があれば足りるはずであり、それ以外の書類は請求理由との関連性がないと主張しました(具体的には後記の「各主張を採用し又は排斥した理由」で説明します)。

あわせて、会社側は、次の3つの拒絶事由を主張しました。

  • 第1号(調査以外の目的)。投資会社RVS(その代表者HKT氏)は、元取締役NSD氏ら代表取締役WTN氏に反対する立場の役員や従業員らと意を通じて会社の資産を自分たちのものにしようと企て、WTN氏が背任行為を行ったという虚偽又は誇張した風説を流布するなどしてWTN氏を経営から排斥しようとし、会社の資産や信用を毀損する違法、不当な行為を行ってきた。本件の請求も経営権の奪取が目的である。
  • 第2号(業務妨害の目的)。投資会社RVSがNSD氏らと共謀して会社の取引先にWTN氏の不正行為について虚偽の事実を述べるなどし、取引が停止されるなどして、会社は逸失利益や信用毀損の損害を被った。本件の請求も業務妨害の意図を有した行為である。
  • 第3号(競業関係)。投資会社RVSはコンサルティングを行う会社で、行政や民間事業会社に対し、自然エネルギーの利用や環境に配慮したゴミの削減といった各種事業を行っており、自然エネルギーの利用等に関する事業を営んでいる点、環境を扱う点で、会社と競争関係にある。

投資会社RVSは、これらの拒絶事由の主張を否認して争いました。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

判決は、争点を次の2つに整理しました。

  1. 請求理由と会計帳簿等との間の関連性。特に、会社が「一部の書類の開示で足りる」と主張して閲覧の範囲を絞ろうとしたことが認められるか、また、株式の価格を算定するという目的と、請求した現預金の出入金の記録との間に関連性があるか。
  2. 会社法第433条第2項第1号から第3号までの拒絶事由の有無。株主が代表取締役と激しく対立していることや、会社側が主張する取引先への働きかけ、株主が環境分野のコンサルティングをしていることが、拒絶事由に当たるか。

結論を分けたのは、第1の争点のうち、請求理由4に係る書類の関連性でした。請求理由1から3までの書類は関連性が認められ、拒絶事由もすべて否定されたのに対し、請求理由4の書類だけは、目的との関連性がないとして請求が退けられました。

裁判所が示した判断の枠組み

「会計帳簿」と「これに関する資料」の意味

判決は、閲覧謄写の対象となる会計帳簿等の範囲について、次のとおり述べました。

「会社法433条1項にいう「会計帳簿」とは、会社法432条1項にいう会計帳簿、すなわち、計算書類及びその附属明細書の作成の基礎となる帳簿(会社計算規則59条3項。すなわち、日記帳、仕訳帳(伝票を仕訳帳に代用しているときは伝票も含む。)、総勘定元帳及び各種の補助簿)をいい、会社法433条1項にいう「これに関する資料」とは、このような会計帳簿の記録材料となった資料、その他会計帳簿を実質的に補充する資料(伝票、受取証、契約書、信書等)を意味すると解するのが相当である。」

そのうえで、投資会社RVSが請求した書類は、いずれも「会計帳簿又はこれに関する資料」に当たると認めました。

請求理由の具体性と、書類との関連性を区分ごとに検討する

判決は、区分ごとに、まず会社が書類の存在を特段争っていないことを確認し、次に、請求理由1から3までについて「その具体性を肯定できる」としたうえで、その請求理由と各書類との関連性を検討しています。関連性を認める場合も、帳簿全体ではなく、「請求理由と関連する部分に限る」という限定を付けて認めています。会社側の「一部の書類で足りる」という主張に対しては、請求理由の内容に照らし、他の書類も併せて閲覧等をする必要性を否定できるかどうかという観点から判断しました。

第2号の拒絶事由は、加害の意図がなくても客観的な事実で認められ得る

第2号の拒絶事由について、判決は次の解釈を示しました。

「会社法433条2項2号の拒絶事由該当性については、必ずしも株主が加害の意図(主観的意図)を有していたことは必要でなく、客観的にみて会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する事実があれば、これを肯定することができると解される。そして、株主の共同の利益を害する場合には、殊更に会社に不利な情報を流布して会社の信用を失墜させるような場合も含まれる。」

株主側からみると、主観的な意図を問わない点で拒絶事由が広く認められる余地を示した解釈ですが、本件では、後記のとおり、その前提となる客観的な事実を裏付ける証拠がないとして、拒絶事由は否定されました。

各主張を採用し又は排斥した理由

請求理由1(役員報酬・給料)―「通帳と総勘定元帳で足りる」という会社の主張を退けた

判決は、請求理由1の具体性を肯定し、区分第1の書類について関連性を認めました。ただし、WTN氏の報酬に関する番号1から4まで、JMT氏の報酬に関する番号1から5までの各書類については、WTN氏及びJMT氏の役員報酬又は給料に関連する部分に限るとしています。

会社側は、報酬又は給料の金額を確認するには、総勘定元帳のうち勘定科目「役員報酬」等に該当する部分(WTN氏の報酬に関する番号2)と、金融機関口座の通帳等(同番号3)の開示があれば足り、それ以外の書類は関連性がないと主張しました。判決は、前件株主代表訴訟で、WTN氏が架空発注等の手法で自らの支配する会社に会社の資金を不正に還流させるなどした事実が認定されていることを踏まえ、報酬等の支出が適正にされているかを確認するために、その余の書類(請求理由と関連する部分に限ります)も併せて閲覧等をする必要性を「直ちに否定し難い」として、会社の主張を採用しませんでした。

請求理由2(土地の転売)―権利義務と会計帳簿への反映を確かめる必要がある

判決は、請求理由2の具体性を肯定し、区分第2の書類について関連性を認めました(番号1から8までの書類は、土地の取引に関連する部分に限ります)。

会社側は、土地の転売に関する金銭の流れを確認するには番号1、7及び9の書類で足りると主張しました。判決は、土地の取引に関して、次の点を確認するためには、その余の書類も併せて閲覧等をする必要性を否定できないとして、この主張も退けました。

「〔太陽光発電事業会社SLN〕が〔支配株主DFK〕やその他の関係者との間でいかなる権利義務を有し、それらが会計帳簿にどのように反映されているかを確認するために」

請求理由3(子会社の事業譲渡・投資有価証券の清算・販売費及び一般管理費)―関係会社への資金流出の認定を踏まえ、広く関連性を認めた

判決は、請求理由3の具体性を肯定し、区分第3の書類について関連性を認めました。番号1から6までの書類については、子会社PVB、PVC及び発電事業会社PVAが営んでいた太陽光発電事業の事業譲渡ないし投資有価証券の清算に関連する部分と、令和5年1月から6月までの販売費及び一般管理費に関連する部分に限るとしています。

会社側は、発電所の売却に関する金銭の流れを確認するには番号1、5及び7から10までの書類で足りると主張しました。判決は、前件株主代表訴訟で、WTN氏が架空発注等の手法で自らの支配する会社に会社の資金を不正に還流させるなどした事実や、支配株主DFKと発電事業会社PVAとの間で違法な競業取引をしていた事実が認定されていることを踏まえ、事業譲渡ないし投資有価証券の清算について、事業譲渡代金や分配金等の収入や関連する支出の状況を確認するために、その余の書類も併せて閲覧等をする「必要性を否定できない」として、会社の主張を採用しませんでした。

なお、判決は、子会社の事業譲渡が実際に行われたかどうか、それが株主総会の決議を要する重要な財産の処分に当たるかどうか、投資会社RVSに株式買取請求権が生じるかどうかについては、判断していません。判断したのは、これらを確認するための請求理由が具体的であり、請求した書類との関連性があるという点です。

請求理由4(新株発行の発行価格)―現預金の出入金の記録は、株式価値の算定との関連性がない

区分第4の書類のうち、番号2及び3の書類は、令和6年3月6日付けの訂正申立書による最終的な請求の対象に含まれていなかったため、判決は検討の対象としませんでした。残る番号1、4及び5の書類について、会社は存在を特段争っていませんでしたが、判決は次のように判断しました。

「当該各書類は、いずれも〔太陽光発電事業会社SLN〕における現預金等の出入金を網羅的に記録した書類であるとみられるところ、〔太陽光発電事業会社SLN〕の株式価値を適切に算定するとの目的のために、これらの書類の閲覧等をする必要性がさほどあるとは考え難いから、本件請求理由〈4〉との関連性があるとは認められない。」

判決は、株式価値を算定するという目的そのものが不当であるとか、拒絶事由に当たるとは述べていません。請求を退けた理由は、請求した書類が現預金等の出入金を網羅的に記録したものであり、株式価値の算定のためにその閲覧等をする必要性がさほどないという、目的と書類との関連性の点にあります。

第1号の拒絶事由―株主代表訴訟で認容判決を得た実績を重視した

会社側は、投資会社RVSが経営権を奪取する目的で請求しているから、調査以外の目的による請求であると主張しました。判決は、投資会社RVSが、株主代表訴訟の提起や検査役選任の申立て等をするかどうかの判断をする等の目的で請求したと主張していることについて、次のように述べました。

「〔投資会社RVS〕が、過去にも前件株主代表訴訟を提起し、〔代表取締役WTN氏〕に対して約4億円の支払を命ずる認容判決を得た実績があること(前提事実(2))にも照らすと、〔投資会社RVS〕の上記主張は相応の根拠を伴うものと考えられる一方で、〔投資会社RVS〕の主たる目的が、〔太陽光発電事業会社SLN〕に不当な圧力をかけて〔太陽光発電事業会社SLN〕の経営権を奪取する点にあると認めるに足りる証拠はない。」

こうして、判決は、投資会社RVSが権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとはいえないとして、第1号の拒絶事由を否定しました。判決は「主たる目的」が経営権の奪取にあるかどうかという観点で検討しており、株主と経営者が対立していることだけで拒絶事由が認められたわけではありません。

第2号の拒絶事由―株主自身が共謀した証拠がない

判決は、前記の解釈を示したうえで、本件について次のように判断しました。

「たとえ〔元取締役NSD氏〕が〔太陽光発電事業会社SLN〕の取引先に対して〔代表取締役WTN氏〕の不正行為に関する内容を告げた事実があったとしても、〔投資会社RVS〕が〔元取締役NSD氏〕と共謀してこうした行為を行った事実を認めるに足りる証拠はなく、他に客観的にみて会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する事実を的確に裏付ける証拠はない。」

判決は、投資会社RVSが会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとはいえないとして、第2号の拒絶事由も否定しました。

第3号の拒絶事由―「環境」「自然エネルギー」という抽象的な重なりでは足りない

会社側は、投資会社RVSが自然エネルギーの利用や環境に関するコンサルティング等を行っているとして、競争関係を主張しました。判決は、次のように判断しました。

「こうしたやや抽象的な事業分野(「自然エネルギーの利用等」や「環境」)の重なり合いを超えて、〔投資会社RVS〕の営む事業が〔太陽光発電事業会社SLN〕の営む事業(太陽光発電所の開発・運用及びコンサルティング等)と現に競争関係に立つことや、近い将来において競争関係に立つ蓋然性が高いことを的確に認めるに足りる証拠はない。」

判決は、投資会社RVSが会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営むものとはいえないとして、第3号の拒絶事由も否定しました。

主文及び結論

判決の主文は、次のとおりです(当事者の呼称は本記事の表記に置き換えています)。

「1 〔太陽光発電事業会社SLN〕は、〔投資会社RVS〕に対し、〔太陽光発電事業会社SLN〕の本店において、その営業時間内に、別紙1目録記載の書類を、閲覧及び謄写(写真撮影及び電磁的記録によって保存する方法を含む。)させよ。」
「2 〔投資会社RVS〕のその余の請求をいずれも棄却する。」
「3 訴訟費用は、これを4分し、その1を〔投資会社RVS〕の負担とし、その余を〔太陽光発電事業会社SLN〕の負担とする。」

判決は、投資会社RVSの請求は別紙1目録記載の書類の閲覧及び謄写を求める限度で理由があるとして認容し、その余は理由がないとして棄却しました。判決本文では別紙が省略されているため、別紙1目録に記載された書類の具体的な一覧は確認できていません。判決の理由からは、請求理由1から3までの区分の書類(各区分で請求理由と関連する部分に限定されたもの)について閲覧謄写が認められ、請求理由4の区分の書類については請求が退けられたものと当事務所は理解しています。訴訟費用の4分の3が会社の負担とされています。

判断の射程

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。

参考となる点

  • 会社が「この書類だけで足りる」として閲覧の範囲を絞ろうとしても、それだけでは認められないこと。本判決は、3つの区分のいずれについても、会社が一部の書類の開示で足りると主張したのに対し、請求理由の内容に照らして、その余の書類も併せて閲覧等をする必要性を否定できないとしました。もっとも、判決は帳簿全体の閲覧を認めたのではなく、請求理由と関連する部分に限定しています。株主の側では、調べたい取引ごとに、何を確認するためにどの書類が必要かを説明できるように請求を組み立てておくことが大切です。
  • 過去の判決で認定された不正が、閲覧の必要性を基礎付ける事情になり得ること。判決は、前件株主代表訴訟で代表取締役による資金の還流や違法な競業取引が認定されていたことを踏まえて、役員報酬や事業譲渡に関する書類の閲覧等の必要性を認めました。第1号の拒絶事由の判断でも、株主が前件株主代表訴訟で認容判決を得た実績が、株主代表訴訟の提起等の判断のためという目的に「相応の根拠」を与えるものとされています。経営者の不正が既に裁判で認定されている場合、株主にとって有利な事情として働き得ることを示す一例です。
  • 経営者との対立や、締め出しをめぐる争いがあっても、拒絶事由は当然には認められないこと。本件では、株主と代表取締役の間で株主代表訴訟や仮処分が続き、会社側は株主の目的が経営権の奪取にあると主張しましたが、判決は、主たる目的が経営権の奪取にあると認めるに足りる証拠はないとしました。第2号についても、株主自身が業務妨害に関与したことの証拠がないとして退けています。会社から新株発行や株式併合による締め出しを図られている株主が、それに対抗するために会計帳簿の閲覧謄写を求めること自体が、直ちに拒絶の理由になるものではないことを示しています。
  • 競業関係の主張には、具体的な事業の競合が必要とされたこと。判決は、「自然エネルギーの利用等」や「環境」といった抽象的な事業分野の重なりでは足りず、現に競争関係に立つことや、近い将来において競争関係に立つ蓋然性が高いことの証拠が必要であるとしました。会社が株主の事業内容を広くとらえて競業を主張してきた場合に、参考となる判断です。
  • 子会社の事業譲渡や投資有価証券の清算も、調査の対象になり得ること。判決は、完全子会社が営んでいた太陽光発電事業の事業譲渡や投資有価証券の清算について、収入や支出の状況を確認するための書類の閲覧等を認めました。会社が子会社を通じて重要な事業や資産を処分した場合でも、親会社の会計帳簿等に反映された範囲で、株主が調査できることを示す一例です。

一般化できない点

  • 株式の価格を算定する目的での請求は、本件では書類との関連性で退けられたこと。本判決は、株式価値の算定の目的で請求した書類が「現預金等の出入金を網羅的に記録した書類」であったことから、関連性を否定しました。株式の価格を算定する目的そのものを否定したものではありませんが、本判決から、価格算定の目的であればどの帳簿でも閲覧できるという結論を導くことはできません。なお、株式の譲渡に制限のある会社の株主が株式を譲渡しようとする場合に、適正な価格を算定する目的でする請求について、最高裁判所第一小法廷平成16年7月1日判決が、特段の事情がない限り改正前の商法の拒絶事由に当たらないと判断していますが、本判決はこの判決に触れておらず、本件の請求理由4は株式を譲渡するためではなく、新株の発行価格や端数の価格が不当に低いかを確かめるためのものでした。
  • 事業譲渡の適否や株式買取請求権の有無は判断されていないこと。投資会社RVSは、子会社の事業譲渡等が重要な財産の処分として株式買取請求権の行使要件を満たしていたかどうかを判断するためにも閲覧が必要であると主張しましたが、判決は、請求理由3に係る書類の関連性を認めただけで、事業譲渡が行われたかどうか、株主総会の決議が必要であったかどうか、株式買取請求権が生じるかどうかについては判断していません。
  • 閲覧謄写が認められた書類の具体的な範囲は確認できないこと。判決本文では別紙が省略されているため、各区分の番号ごとの書類の名称や対象期間は分かりません。本記事の書類の説明は、判決の理由中に現れた範囲にとどまります。
  • 前件株主代表訴訟の結果の扱い。本判決が閲覧の必要性を認めるに当たって踏まえた前件株主代表訴訟の判決は、控訴されて上級審に移審しており、その後の結果は本判決の本文からは分かりません。過去の判決による不正の認定がない事案では、必要性の判断が異なる可能性があります。
  • 第2号の拒絶事由の解釈。本判決は、第2号の拒絶事由について、加害の意図は必ずしも必要ではなく客観的な事実があれば足り、会社に不利な情報を殊更に流布して信用を失墜させる場合も含まれるという解釈を示しました。本件では株主自身の関与を裏付ける証拠がないとされましたが、株主自身が会社の取引先に不利な情報を流布したと認められる事案では、この解釈の下で拒絶事由が認められる可能性があります。
  • 本件の株主は、発行済株式総数372株のうち78株を保有しており、会社法第433条第1項の持株要件(100分の3以上)を満たしていました。持株要件を満たさない株主は、そもそも会計帳簿等の閲覧謄写を請求することができません。
  • 本判決は第一審の判決であり、上訴の有無及び確定は確認できていません。

会社が会計帳簿を見せない場合の、会計帳簿の閲覧謄写請求の手続は、次のページでご案内しています。

よくあるご質問

会社から新株発行や株式併合で締め出されそうです。会計帳簿の閲覧謄写を求めることはできますか。

持株要件(総株主の議決権又は発行済株式の100分の3以上)を満たしていれば、請求の理由を明らかにして請求することができます。本件の株主も、会社側が企図した新株発行と株式併合を仮処分で差し止めた後に、代表取締役の責任追及や差止めの本案訴訟の判断のためなどとして請求し、役員報酬、土地の転売、子会社の事業譲渡等に関する書類について閲覧謄写が認められました。会社と対立していることだけでは、拒絶事由は認められませんでした。

会社が「通帳と総勘定元帳の該当部分だけ見せれば足りる」と言って、閲覧の範囲を絞ろうとします。

本判決は、会社が一部の書類の開示で足りると主張したのに対し、支出が適正にされているか、会社がどのような権利義務を有し、それが会計帳簿にどう反映されているかを確認するためには、その余の書類も併せて閲覧等をする必要性を否定できないとして、会社の主張を退けました。ただし、閲覧が認められたのは請求理由と関連する部分に限られています。どの取引について、何を確かめるために、どの書類が必要かを具体的に示すことが重要です。

会社から、株主が経営権を奪おうとしている、会社の信用を傷つけていると言われ、閲覧を拒まれています。

本判決は、株主の主たる目的が経営権の奪取にあると認めるに足りる証拠はないとして第1号の拒絶事由を否定し、株主が元取締役と共謀して取引先に代表取締役の不正行為に関する内容を告げたことを裏付ける証拠もないとして、第2号の拒絶事由も否定しました。もっとも、本判決は、第2号の拒絶事由は加害の意図がなくても、客観的にみて株主の共同の利益を害する事実があれば認められ得るとし、会社に不利な情報を殊更に流布して信用を失墜させる場合もこれに含まれるとしています。会社の取引先などへの働きかけには注意が必要です。

株主の会社が同じ環境分野の事業をしているとして、競業を理由に拒まれることはありますか。

会社と実質的に競争関係にある事業を営む株主からの請求は、拒絶事由として法律に定められています(会社法第433条第2項第3号)。本判決は、「自然エネルギーの利用等」や「環境」といった抽象的な事業分野の重なりだけでは足りず、現に競争関係に立つことや、近い将来において競争関係に立つ蓋然性が高いことの証拠が必要であるとして、会社の主張を退けました。

会社が示した株式の価格が低すぎると思います。価格を確かめるために、どの帳簿でも見られますか。

本判決では、新株の発行価格や端数となる株式の価格が不当に低いかを確かめるために株式価値を算定するとして求めた現預金等の出入金の記録について、株式価値を適切に算定するという目的のために閲覧等をする必要性がさほどあるとは考え難いとして、関連性が否定されました。価格の算定を目的とする場合でも、請求する書類がその目的にどう役立つのかを説明できる範囲で書類を特定することが大切です。

会社が子会社の事業を譲渡したようです。株式買取請求ができるかを調べるために閲覧を求められますか。

本件の株主は、子会社が営んでいた太陽光発電事業の事業譲渡や投資有価証券の清算について、株主総会決議を経ずに重要な財産を処分した疑いがあるなどとして閲覧を求め、収入や支出の状況を確認するための書類について関連性が認められました。もっとも、本判決は、その事業譲渡が株主総会の決議を要するものであったかどうかや、株式買取請求権が生じるかどうかについては判断していません。会社法上、株式会社が事業の全部又は重要な一部を譲渡する場合などには、原則として株主総会の特別決議が必要とされ、反対株主には株式買取請求権が認められていますが(会社法第467条、第469条)、子会社が行った取引がこれに当たるかどうかは、取引の内容に応じて個別に検討する必要があります。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

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