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医療法人の出資持分の払戻額は退社時の法人の財産の評価額を基準とする―最高裁判所平成22年4月8日判決

公開 2010年4月8日更新 2026年11月5日

▶ 医療法人の出資持分の払戻請求と医療法人の種類

医療法人の出資持分の払戻しを請求する社員・相続人の側から見て、払戻額の算定の基準を示した判例です。持分のある社団医療法人の定款には、退社した社員は出資額に応じて返還又は払戻しを請求することができるという趣旨の規定が置かれていることが多く、この「出資額に応じて」が、出資した金額そのものの返還を意味するのか、法人の財産のうち出資の割合に相当する額の返還を意味するのかが争われました。

最高裁判所第一小法廷平成22年4月8日判決は、定款に解散時の残余財産を払込出資額に応じて分配する旨の規定もあることと対照して、この規定は、退社時の法人の財産の評価額に、退社時の総出資額のうちその社員の出資額が占める割合を乗じた額の返還を請求できることを定めたものであると判断し、出資した額の限度でしか返還を認めなかった原審の判断を改めました。他方で、法人の財産の変動の経緯、出資者が果たした役割、医療法人の公益性・公共性等に照らすと、請求が権利の濫用に当たり許されないことがあり得るとして、返還の額と権利の濫用に当たるかどうか等を審理させるため、事件を東京高等裁判所に差し戻しました。

本記事では、第一審・控訴審・最高裁判所の各判決本文に基づき、事案、審級ごとの判断の違い、判断の枠組み及び判断の射程を、払戻しを請求する社員・相続人の視点で整理します。

目次
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 本件で問題となった法令と定款の規定
    1. 医療法と剰余金の配当の禁止
    2. 権利の濫用
  4. 社団医療法人KMBの定款の規定
    1. 第5条(社員の入社)
    2. 第6条(社員の資格の喪失)
    3. 第8条(退社した社員の返還の請求)
    4. 第9条・第15条(基本財産)
    5. 第33条(解散時の残余財産)
  5. 事案の概要
    1. 夫婦2名だけが出資した社団医療法人
    2. 経営の悪化と和議の申立て
    3. 2名の死亡と相続人への権利の集約
    4. 訴えの提起と消滅時効の援用
  6. 事案の経緯の時系列
  7. 当事者の請求と主要な争い
  8. 結論を左右した争点
  9. 第一審の判断(前橋地方裁判所平成18年2月24日判決)
    1. HRT氏の出資に係る請求権は時効により消滅した
    2. 返還の額は出資した額に限られない
    3. SZK氏の出資に係る請求権は法人の純資産の全部に及ぶとした
    4. 経営の破綻による消滅と権利の濫用の主張を退けた
    5. 評価の時点は退社の時とし、不動産は時価で評価した
    6. 第一審の結論
  10. 控訴審の判断(東京高等裁判所平成20年7月31日判決)
    1. 医療法は、存続中の剰余金の払戻しを禁止していると解した
    2. 定款第8条は、出資した額の限度での返還を定めたものと解した
    3. 控訴審の結論
  11. 上告審の判断(最高裁判所第一小法廷平成22年4月8日判決)
    1. 財産の分配は、医療法人が自律的に定めるところに委ねられていた
    2. 定款第8条は、退社時の法人の財産の評価額を基準とする規定である
    3. 基本財産の規定は、返還額の限度を定めたものではない
    4. 先に生じた請求権が後に時効で消滅しても、後の請求権の額は増えない
    5. 権利の濫用に当たる余地と差戻し
    6. 上告が却下された部分
  12. 2名の裁判官の補足意見
    1. 宮川光治裁判官の補足意見
    2. 金築誠志裁判官の補足意見
  13. 主文及び結論
    1. 審級ごとの結論の推移
  14. 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
  15. 社員・相続人の皆様が確認しておきたいこと
  16. よくあるご質問
    1. 父が出資した医療法人の出資持分を相続しました。返してもらえるのは父が出資した金額だけですか。
    2. 払戻しの額は、どの時点の法人の財産で計算されますか。
    3. 医療法人から「請求は権利の濫用だ」と言われました。請求できなくなるのですか。
    4. 亡くなった父と母の両方が出資していました。先に亡くなった父の分を請求しないまま時間が経ってしまいました。
    5. 他の相続人と権利を分け合っている場合、どうすればよいですか。
  17. 関連する記事とご相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 最高裁判所第一小法廷
裁判日 平成22年4月8日
事件番号 平成20年(受)第1809号
事件の種類 出資金等返還、損害賠償請求事件
裁判の形式 判決(上告受理申立てによる上告審)
第一審 前橋地方裁判所平成18年2月24日判決(平成16年(ワ)第21号)。医療法人に対する出資金の返還の請求(内金4億7110万1049円)を全部認容し、その他の請求を棄却
控訴審(原審) 東京高等裁判所平成20年7月31日判決(平成18年(ネ)第1518号)。医療法人の控訴に基づき、出資金の返還の請求の認容額を出資した20万円とその遅延損害金に改め、相続人の控訴を棄却
結論 原判決のうち、妻である出資社員の出資に係る出資金返還請求について相続人を敗訴させた部分を破棄し、東京高等裁判所に差し戻す。その余の上告は却下。裁判官全員一致の意見(2名の裁判官の補足意見あり)
差戻し後の状況 差戻し後の控訴審の判断及び確定の状況は確認できていません

この表は、各審級の判決本文に基づいて当事務所が作成したものです。各審級の裁判所・裁判日・事件番号は、各判決本文の冒頭の記載によります。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いている符号(人物を示す英字の記号)も、そのままは使わずに次の表記へ置き換えています。第一審・控訴審の判決と最高裁判所の判決とでは同じ人物に異なる符号が用いられていますが、本記事では次の表記にそろえています。地名など、特定につながる事項は記載を控えています。

本記事の表記 立場
社団医療法人KMB 第一審の被告、控訴審の被控訴人兼控訴人、上告審の被上告人。昭和32年に設立され、病院を経営する社団たる医療法人です
設立時の出資社員HRT氏 社団医療法人KMBの設立時に442万5,600円を出資した社員。昭和57年10月3日に死亡しました
HRT氏の妻である出資社員SZK氏 社団医療法人KMBの設立時に20万円を出資した社員。平成13年6月14日に死亡しました
相続人TKO氏 第一審の原告、控訴審の控訴人兼被控訴人、上告審の上告人。HRT氏とSZK氏の子です
他の子MNR氏・YKS氏 HRT氏とSZK氏の子で、TKO氏のきょうだいです

判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。判決本文の読点「,」は「、」に改めて引用しています。それ以外の文言は判決本文のままです。

本件では、社団医療法人KMBに対する請求のほか、社団医療法人KMBの理事長として登記されていた者ともう1名の社員の個人2名と、社団医療法人KMBを所轄する県に対する損害賠償の請求もされましたが、第一審・控訴審ともこれらの請求を棄却しています。本記事は、社団医療法人KMBに対する出資金の返還の請求を中心に解説します。

本件で問題となった法令と定款の規定

医療法と剰余金の配当の禁止

医療法第54条は、医療法人が剰余金の配当をしてはならないと定めています。他方で、医療法の本則には、社団医療法人の出資社員が退社したときの払戻しの額を直接定める規定はありません。本件では、平成18年法律第84号による改正前の医療法第44条(定款の記載事項)及び第56条(残余財産の帰属)の下で、定款の規定をどう解釈するかが争われました。

平成18年法律第84号による改正(平成19年4月1日施行)の後は、新たに持分のある社団医療法人を設立することはできなくなりましたが、施行日前に設立された医療法人等であって定款に残余財産の帰属すべき者の定めを置いていないもの等については、当分の間、改正前の医療法第56条がなお効力を有するとされています(同法附則第10条第2項)。本判決は改正前の医療法を適用した判断ですが、現在も存続する持分のある社団医療法人(経過措置医療法人。同法附則第10条の2)の定款の解釈に関わる判断です。

権利の濫用

民法第1条第3項は、権利の濫用は許さないと定めています。本判決は、払戻しの請求がこの権利の濫用に当たるかどうかを、差戻し後の審理に委ねました。

社団医療法人KMBの定款の規定

判決本文は、社団医療法人KMBの定款(判決のいう「本件定款」)に次の規定があったと認定しています。第8条は最高裁判所の判決本文が、第15条と第33条は控訴審の判決本文が、それぞれ規定の文言をかぎ括弧で示しているため、その文言を引用します(第15条・第33条は設立時の定款(原始定款)の文言です。県の名称は〔 〕で置き換えています)。その他の条項は、判決本文が摘示する内容を当事務所の言葉でまとめたもので、定款の文言そのものではありません。

第5条(社員の入社)

社員になろうとする者は、総会の承認を得なければならない(第一審の判決本文が摘示する内容)。

第6条(社員の資格の喪失)

社員は、総会の決議等によるほか、死亡によって社員の資格を失う(判決本文が摘示する内容)。

第8条(退社した社員の返還の請求)

「退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる。」

控訴審の判決本文によれば、設立時の定款(原始定款)の第8条は「退社せる社員はその出資額に応じ払戻しを請求する事が出来る」という文言で、その後の定款の変更により上記の文言に改められました。

第9条・第15条(基本財産)

第9条:目録に記載された一定の財産を基本財産とし、特別の理由がある場合にされる総会の決議によらなければ、基本財産を処分してはならない(最高裁判所の判決本文が摘示する内容)。

第15条(原始定款):「決算の結果剰余金を生じた時は総会の決議を経てその全部又は一部を基本財産に繰り入れ若しくは新医療器、医学研究の為の書籍等買入に当てる」

第33条(解散時の残余財産)

「本社団が解散した時の残余財産は総会の決議を経、且つ、〔県〕知事の認可を得て払込出資額に応じて分配するものとする」(原始定款の文言。控訴審の判決本文による。最高裁判所の判決本文は、このうち「払込出資額に応じて分配する」の部分をかぎ括弧で示しています)

事案の概要

夫婦2名だけが出資した社団医療法人

社団医療法人KMBは、昭和32年、HRT氏が442万5,600円を、その妻であるSZK氏が20万円を、それぞれ出資して設立された社団たる医療法人です。HRT氏とSZK氏は、いずれも社団医療法人KMBの社員でした。判決本文によれば、この2名の出資のほかに、社団医療法人KMBへの出資はありませんでした。第一審の判決本文によれば、社団医療法人KMBは、もともと個人で病院を経営していたHRT氏が、SZK氏とともに保有していた資産を出資して設立したもので、HRT氏は設立後、長く理事長として経営に当たりました。

経営の悪化と和議の申立て

第一審の判決本文によれば、社団医療法人KMBは、遅くとも昭和48年以後、借入金の増大等に伴って経営が悪化しました。昭和53年12月にHRT氏が理事長を辞任し、SZK氏が理事長に就任しましたが、昭和54年12月1日、診療報酬の水増しの請求を理由として、社団医療法人KMBの保険医療機関の指定とHRT氏の保険医の指定がそれぞれ取り消され、収入の大部分を保険診療の報酬に依存していた社団医療法人KMBは極めて大きな打撃を受けました。

昭和55年3月ごろには県議会議員らが理事として経営に関与するようになり、そのころSZK氏は理事長を辞任しました。同年4月には保険医療機関の指定を改めて受けましたが、経営状態は好転せず、社団医療法人KMBは昭和55年11月18日に和議の申立てをしました。この申立ては和議の認可に至らずに終わり、その後、法的な倒産処理の手続が行われたことはありません。以後の経営に、HRT氏やSZK氏が実質的に関与することはありませんでした。

最高裁判所の判決本文も、社団医療法人KMBが過去に和議開始の申立てをしてその後再建されたことに触れています(和議法は平成12年に廃止され、現在は民事再生法の手続があります)。

また、SZK氏は、社団医療法人KMBの社員総会の決議が存在しないことの確認を求める訴訟を提起し、又はこれに参加しており、それらの訴訟の判決では、SZK氏の請求はいずれも認容されていました(第一審の判決本文による)。

2名の死亡と相続人への権利の集約

HRT氏は昭和57年10月3日に、SZK氏は平成13年6月14日に、それぞれ死亡し、社員の資格を失いました。TKO氏、MNR氏及びYKS氏は、HRT氏とSZK氏の子です。

平成15年12月25日、MNR氏とYKS氏は、HRT氏の死亡に伴って取得した社団医療法人KMBに対する出資金返還請求権をTKO氏に贈与しました。同じ日に、3名の間で、SZK氏の遺産の全部をTKO氏が相続する旨の遺産分割協議が成立しました。こうして、HRT氏の出資に係る請求権(判決のいう「〔HRT氏〕分」)とSZK氏の出資に係る請求権(同じく「〔SZK氏〕分」)の双方が、TKO氏の下に集められました。

訴えの提起と消滅時効の援用

TKO氏は、平成16年1月20日、HRT氏とSZK氏の各出資に係る出資金の返還等を求めて訴えを提起しました。社団医療法人KMBは、同年4月16日の口頭弁論期日において、HRT氏の出資に係る出資金返還請求権について、消滅時効を援用する旨の意思表示をしました。

事案の経緯の時系列

年月日 出来事
昭和32年 HRT氏(442万5,600円)とSZK氏(20万円)の出資により社団医療法人KMBが設立される
昭和53年12月 HRT氏が理事長を辞任し、SZK氏が理事長に就任
昭和54年12月1日 社団医療法人KMBの保険医療機関の指定とHRT氏の保険医の指定が取り消される
昭和55年11月18日 社団医療法人KMBが和議の申立てをする(和議の認可に至らずに終わる)
昭和57年10月3日 HRT氏が死亡し、社員の資格を失う
平成13年6月14日 SZK氏が死亡し、社員の資格を失う
平成15年12月25日 MNR氏とYKS氏が、HRT氏の死亡に伴って取得した出資金返還請求権をTKO氏に贈与。SZK氏の遺産の全部をTKO氏が相続する旨の遺産分割協議が成立
平成16年1月20日 TKO氏が出資金の返還等を求めて訴えを提起
平成16年4月16日 社団医療法人KMBが、HRT氏の出資に係る出資金返還請求権について消滅時効を援用
平成18年2月24日 第一審(前橋地方裁判所)の判決(出資金の返還の請求を全部認容)
平成20年7月31日 控訴審(東京高等裁判所)の判決(第一審の判決を変更し、出資した額の限度で認容)
平成22年4月8日 最高裁判所第一小法廷の判決(一部破棄差戻し、その余の上告を却下)

当事者の請求と主要な争い

TKO氏は、HRT氏の出資に係る出資金返還請求権を相続と贈与により、SZK氏の出資に係る出資金返還請求権を相続により、それぞれ取得したとして、社団医療法人KMBに対し、出資金の返還等を請求しました。出資金の返還については、請求権の額の一部(内金)として4億7110万1049円の支払を求めました。このほか、SZK氏が社団医療法人KMBの運営をめぐる訴訟のために支払った弁護士費用と、社団医療法人KMBの債務を弁済したとする金員について、有益費の償還も請求しました。

TKO氏は、HRT氏の出資に係る請求権が時効で消滅したのであれば、SZK氏が唯一の出資社員であったことになるから、SZK氏の出資に係る請求権は法人の純資産の全部に及ぶと主張しました。

社団医療法人KMBは、HRT氏の出資に係る請求権について消滅時効を援用したほか、返還の額は出資した額を限度とすべきであること、HRT氏とSZK氏による経営の破綻によって請求権は消滅したこと、請求は権利の濫用に当たることなどを主張しました。SZK氏の出資に係る請求権については、定款第8条の「出資額に応じて」の意味、すなわち返還されるのが出資した20万円に限られるのか、法人の財産の評価額を基礎とした額になるのかが争点となりました。

結論を左右した争点

  • 定款第8条の解釈 「退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる。」という規定は、出資した額の限度での返還を定めたものか、退社時の法人の財産の評価額に出資の割合を乗じた額の返還を定めたものか。
  • 先に生じた請求権が時効で消滅した場合の算定 SZK氏の死亡の時点で既に生じていたHRT氏の出資に係る請求権が、その後に時効で消滅した場合、SZK氏の出資に係る請求権の額はどう算定されるか。
  • 権利の濫用 算定される額の返還の請求が、法人の財産の変動の経緯や公益性・公共性に照らして権利の濫用に当たるか。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

第一審の判断(前橋地方裁判所平成18年2月24日判決)

HRT氏の出資に係る請求権は時効により消滅した

第一審は、社団医療法人KMBの定款では社員の死亡が退社の事由となり、出資社員が退社すると出資金返還請求権が発生するから、HRT氏の相続人は、HRT氏が死亡した昭和57年10月3日から請求権を行使することができ、消滅時効はその時から進行するとしました。そして、10年の時効期間が経過し、社団医療法人KMBが時効を援用したことから、HRT氏の出資に係る請求権は時効により消滅したと判断しました(平成29年の民法改正の前の消滅時効の規定による判断です)。

返還の額は出資した額に限られない

第一審は、医療法第54条が剰余金の配当を禁止しているのは医療法人の営利企業化を防止しようとしたものと考えられるとしつつ、医療法は、出資社員が退社したときの持分の払戻しや解散時の残余財産の帰属をどのように行うかについて、専ら医療法人が定款等で自律的に定めるところに委ねていると解しました。そのうえで、定款第8条と、解散時の残余財産を払込出資額に応じて分配すると定める第33条の文理に照らし、出資をした社員は出資額に応じた法人の純資産に対する出資持分を有し、退社したときは出資持分に相当する資産の払戻しを請求できると判断して、返還の額を出資した額に限るべきだとする社団医療法人KMBの主張を退けました。

SZK氏の出資に係る請求権は法人の純資産の全部に及ぶとした

第一審は、ある社員が退社した後は残った社員が出資額の割合に応じた出資持分を有すると解し、HRT氏の死亡によって出資社員はSZK氏だけになったから、SZK氏の出資に係る請求権は、SZK氏の死亡時の法人の純資産の全部に及ぶとしました。さらに、本来はHRT氏の出資に係る請求権を負債として控除すべきところ、その請求権が時効により消滅したことにより、HRT氏の死亡の時点に遡って存在しないものと扱われる(民法第144条)から、SZK氏の出資に係る請求権は、HRT氏の出資に係る請求権を負債として考慮しない法人の純資産の全部に及ぶと判断しました。

経営の破綻による消滅と権利の濫用の主張を退けた

第一審は、経営の悪化がHRT氏やSZK氏の行動に起因するものであった可能性はあるとしつつ、次のように述べて、経営の破綻によって請求権が消滅したとの主張を退けました。

「〔KMB〕の経営状況の悪化が〔HRT氏〕や〔SZK氏〕の行動に起因するものであったとしても、直ちに〔KMB〕の純資産に対する〔HRT氏〕や〔SZK氏〕の出資持分が消滅することはないというべきである。」

権利の濫用については、請求が認められると経営に少なからぬ悪影響が生ずることは想像に難くないとして、相続人が専ら経営に打撃を与えるなどの不当な目的で請求権を行使していると認められる場合には、権利の濫用として許されないとの考え方を示しました。しかし、SZK氏らが以前に提起した訴訟は不当な目的によるものとはいい難く、そのほかに不当な目的を認めるに足りる証拠はないとしました。また、次のように述べて、HRT氏やSZK氏の経営に関する事情によって請求が権利の濫用となることも否定しました。

「出資持分を有する社員が経営者の立場で行った行為に違法ないし不当な点があるからといって、その社員の出資金返還請求権の行使が権利の濫用に当たるとは考えられない。」

評価の時点は退社の時とし、不動産は時価で評価した

第一審は、出資金返還請求権は退社の時に発生して行使できるから、資産の評価の時点も退社の時であるとして、口頭弁論の終結時等の評価によるべきだとする相続人の主張を退けました。そして、SZK氏が死亡した平成13年6月14日当時の純資産の価額を、資産の大きな部分を占め価格の変動の著しい不動産(土地及び建物の所有権並びに借地権)は当時の時価により、その他の資産と負債はその事業年度の末日である平成14年3月31日現在の貸借対照表の額を近似値として算定し、次のとおり、4億9893万8630円を下らないとしました。

(不動産以外の資産 3億4112万8545円 + 不動産の時価 2億2591万円) - 負債 6809万9915円 = 4億9893万8630円

社団医療法人KMBは、HRT氏が費消したとする使途不明金を控除すべきだと主張しましたが、第一審は、貸借対照表に計上されていないものを考慮することに疑問があるうえ、計上するとすれば資産に計上されるものと考えられるとして、この主張も退けました。

第一審の結論

以上により、第一審は、社団医療法人KMBに対する出資金の返還の請求(内金4億7110万1049円と遅延損害金)を全部認容しました。有益費の償還の請求は、弁護士費用はSZK氏が自らの法律上の地位を守るための訴訟の費用であって社団医療法人KMBのための事務管理等に当たらないとして、債務の弁済の分は時効による消滅を理由として、それぞれ棄却しました。理事長として登記されていた者ら個人と県に対する損害賠償の請求も棄却しました。

控訴審の判断(東京高等裁判所平成20年7月31日判決)

相続人と社団医療法人KMBの双方が控訴しました。控訴審は、社団医療法人KMBの控訴に基づいて、出資金の返還の請求に関する第一審の判決を変更し、相続人の控訴はいずれも棄却しました。

医療法は、存続中の剰余金の払戻しを禁止していると解した

控訴審は、改正前の医療法第41条、第54条、第56条等を挙げ、医療法は、医療法人が存続して病院等を経営する場合と解散した場合とを峻別し、存続して病院等を経営する限り、医療法人の自己資本を充実させることとして剰余金の利益処分を禁止しているとしました。そのうえで、次のように述べました。

「医療法人に対して出資をした社員が退社した場合に剰余金及びその積立金の全部又はその一部を払い戻す行為も禁止していると解するのが相当である。」

そして、医療法人の定款は、この医療法の趣旨を踏まえて解釈しなければならないとしました。

定款第8条は、出資した額の限度での返還を定めたものと解した

控訴審は、設立時の定款が、資産を基本財産とそれ以外の財産とに区分して基本財産の処分を原則として禁止し(第9条)、剰余金は基本財産への繰入れ又は医療機器等の購入に充てるとし(第15条)、退社した社員の払戻し(第8条)と解散時の残余財産の分配(第33条)とを書き分けていたことから、定款は、存続中は剰余金を退社した社員に払い戻すことを想定せず、解散した場合に限って剰余金等を含む残余財産を出資額に応じて分配することとしたものと認めました。そのうえで、次のように判断しました。

「退社した当該社員は、〔KMB〕に対し、自己が出資した額の限度でその返還を請求することができるのであり、基本財産並びに剰余金及びその積立金を含む総資産について持分の払戻しを請求することはできないものと解するのが相当である。」

定款第8条の「出資額に応じて」という文言についても、控訴審は、社員ごとの出資額が異なることを想定したうえで、退社した社員が請求できるのはその社員が出資した額であることを明らかにしたものにすぎないとしました。

控訴審の結論

控訴審は、SZK氏の出資に係る請求は、出資した20万円と、これに対する訴状の送達の日の翌日である平成16年2月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で理由があるとして、第一審の判決を変更しました。HRT氏の出資に係る請求権が時効により消滅したとの判断と、有益費の償還の請求及び損害賠償の請求を棄却した判断は、第一審の判決を引用して維持しました。相続人を社員として承認しない場合に総資産の払戻しを保障しなければ財産権の侵害となるとの相続人側の主張も、定款によれば出資した額の返還を請求できるにとどまるとして、採用しませんでした。

上告審の判断(最高裁判所第一小法廷平成22年4月8日判決)

相続人が上告受理の申立てをしました。最高裁判所は、返還の額を出資した額の限度とした控訴審の解釈を改め、法人の財産の評価額を基準とする解釈をとりました。一方で、先に生じた請求権の時効による消滅によって後の請求権の額が増えるとした第一審の考え方は採らず、請求が権利の濫用に当たる余地も認めて、事件を控訴審に差し戻しました。

財産の分配は、医療法人が自律的に定めるところに委ねられていた

最高裁判所は、まず、改正前の医療法第44条、第56条等に照らせば、医療法は、社団たる医療法人の財産の出資社員への分配について、剰余金の配当の禁止(医療法第54条)に反しない限り、「基本的に当該医療法人が自律的に定めるところにゆだねていた」と述べました。したがって、払戻しの額は、法律が一律に定めるのではなく、各医療法人の定款の解釈によって決まることになります。

定款第8条は、退社時の法人の財産の評価額を基準とする規定である

次に、定款第33条が解散時の残余財産について「払込出資額に応じて分配する」と定めていることを取り上げ、この規定が、解散時の残余財産の評価額に、解散時の総出資額のうち各出資者の出資額が占める割合を乗じた額を各出資者に分配することを定めていることは明らかであるとしました。そして、第33条の「払込出資額に応じて」という用語と対照するなどすれば、第8条は次のことを定めたものと解するのが相当であると判断しました。

「出資社員は、退社時に、同時点における〔KMB〕の財産の評価額に、同時点における総出資額中の当該出資社員の出資額が占める割合を乗じて算定される額の返還を請求することができることを規定したものと解するのが相当である。」

すなわち、退社した社員(社員が死亡した場合はその相続人)が返還を求めることができるのは、出資した金額そのものではなく、次の算式で求められる額です。

返還を請求できる額 = 退社時の法人の財産の評価額 × (退社時の総出資額のうちその社員の出資額 ÷ 退社時の総出資額)

上の算式は、判決本文の判示を当事務所が式の形に整理したものです。財産の評価額をどのような方法で算定するかについて、本判決は具体的な方法を示していません。

基本財産の規定は、返還額の限度を定めたものではない

社団医療法人KMBの定款の基本財産の規定(第9条、第15条)について、最高裁判所は、「出資金返還請求権の額の算定の基礎となる財産の範囲や返還額の限度について定めたものとは解されない」として、上記の判断に影響しないとしました。基本財産を維持する規定があることは、返還額を出資した額の限度にとどめる理由にはならないということです。

先に生じた請求権が後に時効で消滅しても、後の請求権の額は増えない

SZK氏の出資に係る請求権の額について、最高裁判所は、SZK氏が死亡した平成13年6月14日の時点では、既にHRT氏の死亡によりHRT氏の出資に係る請求権が発生していたから、これを負債として控除して法人の財産の評価額を算定し、これにHRT氏の出資額を除いて計算される総出資額のうちSZK氏の出資額が占める割合(20万円のうち20万円。すなわち全部)を乗じて算定することになるとしました。そのうえで、次のように述べました。

「〔HRT氏〕分の出資金返還請求権につき消滅時効が援用されて、同請求権が消滅したとしても、〔SZK氏〕分の出資金返還請求権の額が増加することはないと解すべきである。」

払戻しの請求権の額は、社員が退社した時点(死亡の時点)の法人の財産を基準に確定し、その後の事情によって増減しないという考え方です。最高裁判所は、時効による消滅によりHRT氏の出資に係る請求権が遡って存在しないものと扱われるとして、SZK氏の出資に係る請求権が純資産の全部に及ぶとした第一審の考え方を採りませんでした。

権利の濫用に当たる余地と差戻し

最高裁判所は、以上と異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原判決のうちSZK氏の出資に係る請求に関する部分を破棄しました。そのうえで、次のように述べ、返還の額と権利の濫用に当たるかどうか等について更に審理を尽くさせるため、その部分を原審に差し戻しました。

「〔SZK氏〕分の出資金返還請求権の額、〔KMB〕が過去に和議開始の申立てをしてその後再建されたなどの〔KMB〕の財産の変動経緯とその過程において〔SZK氏〕らの果たした役割、〔KMB〕の公益性・公共性の観点等に照らすと、〔TKO氏〕の請求は権利の濫用に当たり許されないことがあり得るというべきである。」

最高裁判所は、請求が権利の濫用に当たると判断したのではありません。権利の濫用に当たることが「あり得る」として、その当否の審理を原審に委ねたものです。

上告が却下された部分

HRT氏の出資に係る請求と有益費の償還の請求に関する部分についても上告受理の申立てがされていましたが、その理由を記載した書面が提出されなかったため、最高裁判所はこの部分の上告を却下しました。したがって、HRT氏の出資に係る請求権が時効により消滅したとする原審の判断について、最高裁判所は判断を示していません。

2名の裁判官の補足意見

宮川光治裁判官の補足意見

宮川光治裁判官は、厚生省の通知に添付された定款例(モデル定款)が、退社した社員は出資額に応じて払戻しを請求できること、解散した場合の残余財産は払込済出資額に応じて分配することを定めており、このモデル定款に従って多数の持分のある社団医療法人が設立されてきたことを指摘しました。補足意見は、平成21年3月31日現在、医療法人の約95パーセントが持分の定めのある社団であったことにも触れています。そのうえで、出資額の限度での返還とした原判決の解釈は医療法の解釈を誤っており、医療法人制度の法的安定性を動揺させるおそれがあるとしました。

また、返還の請求額が多額となり医療法人の存続が脅かされる場合があり得るとしても、医療法人の公益性を適切に評価し、出資者が受ける利益と医療法人及び地域社会が受ける損害を客観的に比較衡量するという「権利濫用法理の適用により妥当な解決に至ることが可能である」と述べました。とりわけ、医療法人が過去に債務超過又はそれに近い状態に陥り、後に関係者の努力により再建されて現在の資産状態が形成され、その資産の形成にその社員が貢献していないような事案では、返還の請求が権利の濫用となり得るとしています。

金築誠志裁判官の補足意見

金築誠志裁判官は、本件の定款のような規定は、租税上の取扱いを含めた長年の行政実務と多くの裁判例を通じて、退社時の法人の財産の評価額に対する出資の割合に応じた金額の請求権を意味するものと解されてきたとし、原判決のような解釈を今採用することは、同様の規定を持つ極めて多くの医療法人の出資者等に予期せぬ重大な不利益を及ぼすおそれがあり、「著しく法的安定性を害するものといわざるを得ない」と述べました。返還を認めることが従来の経緯や医療法人の存続の見地から不当と判断される場合には、「権利濫用等の法理の適用を検討するのが採るべき道である」としています。

あわせて、SZK氏の出資に係る請求権は、SZK氏の死亡による退社によって当然に、金額の確定した具体的な金銭の請求権として成立し、その後に法人の資産に対する割合的な権利が残っているわけではないから、その額はSZK氏の死亡後に生じた事由による資産の増減によって変動しないと説明しました。

主文及び結論

本判決の主文は、次のとおりです。

  • 「原判決中、上告人敗訴部分のうち、〔SZK氏〕の出資に係る出資金返還請求に関する部分を破棄する。」
  • 「前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。」
  • 「上告人のその余の上告を却下する。」
  • 「前項に関する上告費用は上告人の負担とする。」

判決は、裁判官全員一致の意見によるものです。

審級ごとの結論の推移

審級 SZK氏の出資に係る請求 HRT氏の出資に係る請求 確認の方法
第一審(前橋地方裁判所) 法人の純資産に対する出資持分に相当する額の請求権と解し、HRT氏の請求権の時効消滅により、その範囲は純資産の全部に及ぶとして、請求額(内金4億7110万1049円)を全部認容。経営の破綻による消滅と権利の濫用の主張は退けた 時効により消滅したとして請求を退けた 第一審の判決本文
控訴審(東京高等裁判所) 出資した20万円とその遅延損害金の限度で認容(第一審の判決を変更) 時効により消滅したとして請求を退けた(第一審の判断を引用) 控訴審の判決本文
上告審(最高裁判所) 相続人を敗訴させた部分を破棄し、額と権利の濫用の当否を審理させるため差戻し 上告理由の書面の不提出により上告却下 最高裁判所の判決本文
差戻し後の控訴審 確認できていません ―

有益費の償還の請求と、理事長として登記されていた者ら個人と県に対する損害賠償の請求は、第一審・控訴審のいずれも棄却しました。

判断の射程―参考となる点と一般化できない点

参考となる点

  • 「出資額に応じて」は、出資した金額そのものではない。定款に解散時の残余財産を払込出資額に応じて分配する旨の規定がある医療法人では、退社した社員の返還の請求は、退社時の法人の財産の評価額に出資の割合を乗じた額を基準とすることが示されました。医療法人が成長して財産が増えていれば、払戻しの額は出資した額を大きく上回ることがあります。
  • 基準となる時点は退社の時点(死亡の時点)である。請求権の額は、退社の時点の法人の財産を基準に確定し、その後に他の出資者の請求権が時効で消滅したといった事情によっては増えません。相続人の側から見ると、被相続人の死亡の時点の財産の資料を確保することが重要になります。
  • 先に退社した社員の請求権は、法人の負債として扱われる。後に退社した社員の請求権の額を算定する際には、それより前に生じていた他の社員の払戻しの請求権を負債として控除しました。
  • 基本財産の規定だけでは、返還の額は限定されない。定款に基本財産を維持する規定があっても、それが返還額の限度を定めたものでなければ、算定の基準は変わりません。

一般化できない点

  • 定款の文言による。本判決は、第8条を第33条の「払込出資額に応じて」と対照して解釈しています。払戻しや残余財産の分配の規定の文言が本件と異なる定款、例えば出資額を限度として払戻しを請求できると定める定款(いわゆる出資額限度法人の定款)には、同じ結論がそのまま当てはまるとは限りません。
  • 権利の濫用の判断は事案ごとである。本判決は、権利の濫用に当たることが「あり得る」と述べただけで、どのような場合に当たるかの基準を示したものではありません。本件では、法人が過去に和議開始の申立てをして再建されたという特別の事情がありました。第一審は、相続人が専ら不当な目的で請求しているとは認められないとして権利の濫用を否定しましたが、最高裁判所は、法人の財産の変動の経緯、出資者が果たした役割、医療法人の公益性・公共性の観点等を挙げて、権利の濫用に当たることがあり得るとしました。
  • 財産の評価の方法は示されていない。「財産の評価額」をどの方法で算定するか(帳簿の価額か、時価か等)について、本判決は判断していません。第一審は、不動産を退社の時点の時価により、その他の資産と負債を貸借対照表の額により評価しましたが、これは第一審の判断であり、最高裁判所がこの方法を是認したものではありません。
  • 差戻し後の結論は確認できていない。本件で最終的にいくらの返還が認められたのか、権利の濫用に当たると判断されたのかどうかは、差戻し後の判断を確認できていないため、本記事では記載していません。
  • 消滅時効の期間は、現在の民法と異なる。第一審と控訴審がHRT氏の請求権を10年で時効消滅したとした判断は、平成29年の民法改正の前の規定によるものです。令和2年4月1日以後に生じた債権には、権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年とする現在の規定(民法第166条第1項)が適用されます。

社員・相続人の皆様が確認しておきたいこと

本判決を踏まえると、出資持分のある医療法人の社員が退社し、又は亡くなった場合に、払戻しを請求する側でまず確認すべきことは、定款の払戻しの規定と残余財産の分配の規定の文言、退社(死亡)の時点の法人の財産の状況、そして出資した時期と出資の割合です。これらは本判決を踏まえた当事務所の着眼点であり、本判決がこれらの確認を判断の基準としたものではありません。

医療法人の社員又は債権者は、医療法人の主たる事務所に備え置かれた事業報告書等、監事の監査報告書及び定款の閲覧を請求することができます(医療法第51条の4第1項)。払戻しの請求権を相続した相続人は、医療法人に対する債権者として、この閲覧を求めることを検討できます。

また、本判決は請求が権利の濫用に当たり得る場合があることを示していますので、医療法人の側からその主張を受けることを想定し、法人の財産の形成に被相続人が果たした役割を示す資料も早めに集めておくことが大切です。権利の濫用の主張への反論の組み立ては出資持分の払戻しの請求は権利の濫用だと言われた場合の反論で解説しています。

よくあるご質問

父が出資した医療法人の出資持分を相続しました。返してもらえるのは父が出資した金額だけですか。

定款の規定によります。本判決は、退社した社員は出資額に応じて返還を請求できると定め、解散時の残余財産は払込出資額に応じて分配すると定める定款について、返還の額は退社時の法人の財産の評価額に出資の割合を乗じた額であるとしました。同じような定款であれば、出資した金額だけに限られるわけではありません。まず定款の写しを入手して、払戻しと残余財産の分配の規定を確認してください。

払戻しの額は、どの時点の法人の財産で計算されますか。

本判決は、退社の時点の法人の財産の評価額と、その時点の総出資額のうちの出資の割合を基準としました。社員が亡くなった場合は、死亡によって社員の資格を失った時点が基準になります。その後に法人の財産が増えたり減ったりしても、請求できる額は変わらないとされています。

医療法人から「請求は権利の濫用だ」と言われました。請求できなくなるのですか。

直ちに請求できなくなるわけではありません。本判決は、法人の財産の変動の経緯、出資者が果たした役割、医療法人の公益性・公共性等に照らして、権利の濫用に当たることが「あり得る」と述べ、その当否の審理を差し戻しました。権利の濫用に当たるかどうかは事案ごとに判断されるため、被相続人が法人の財産の形成に果たした役割や、法人の財産の推移を示す資料をそろえて反論を組み立てることが重要です。

亡くなった父と母の両方が出資していました。先に亡くなった父の分を請求しないまま時間が経ってしまいました。

本件では、先に亡くなった出資者の請求権について、第一審と控訴審が死亡から10年の経過により時効で消滅したと判断し、最高裁判所はこの部分について判断を示していません。現在の民法では、権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年で債権は時効によって消滅します(民法第166条第1項)。相続の開始から時間が経っている場合は、早めに時効の完成の有無を確認してください。なお、本判決によれば、先に亡くなった出資者の請求権が後に時効で消滅しても、後に亡くなった出資者の請求権の額は増えないとされています。

他の相続人と権利を分け合っている場合、どうすればよいですか。

本件では、きょうだいの1人が他のきょうだいから請求権の贈与を受け、また遺産分割協議によって母の遺産の全部を相続したうえで、1人で訴えを提起しました。相続人が複数いる場合に誰がどの範囲で請求するかは、遺産分割の協議の内容等によって異なりますので、請求の前に相続人の間で整理しておくことが大切です。

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出資持分のある医療法人を退社した社員や、その相続人の皆様に向けて、払戻額の算定の基準を示した最高裁判所の判決を解説するページです。払戻しの請求の進め方や、権利の濫用の主張への反論は、関連するページでご説明します。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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