少数株主が自分で会社と交渉する場合と弁護士に依頼する場合の違い
会社に対して株式の買取りを申し入れたいが、まず自分で話をしてみるべきか、最初から弁護士に依頼すべきか。費用をかけるだけの意味があるのかどうかが分かりません。このようなご質問を、初回のご相談で多くいただきます。
結論から申し上げますと、両者の違いは「強く言えるかどうか」ではありません。代理権の有無、法的な位置付けの整理、資料の取得手段、価格の検討方法、紛争化した場合の対応可能性という、業務の範囲そのものが異なります。ご本人で進められる部分もありますので、本ページでは何がどう変わるのかを整理いたします。
第1節 代理して交渉できる者は限られています
弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって、訴訟事件、非訟事件及び行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務としております(弁護士法第3条第1項)。他方、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることは禁止されております(弁護士法第72条)。
したがって、株主本人に代わって会社と交渉できる者は限られております。親族や知人にご相談いただくことはできても、その方が代理人として会社と交渉することはできません。ご本人で交渉される場合は、代理人を立てずに直接会社と向き合うことになります。
裁判手続に進んだ場合はさらに明確です。訴訟については、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができません(民事訴訟法第54条第1項)。後述する株式の売買価格の決定の申立ては非訟事件ですが、こちらも、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ手続代理人となることができないのが原則です(非訟事件手続法第22条第1項)。
表1 三つの立場の違い
| 区分 | ご本人で交渉する場合 | 弁護士に依頼する場合 | 株式買取業者に売却する場合 |
|---|---|---|---|
| 立場 | 株主本人 | 株主本人の代理人 | 株式の買手(代理人ではありません) |
| 利益の方向 | ご本人の利益 | ご本人の利益と一致します | 取得価額が低いほど買手の利益が大きくなります |
| 株式の帰属 | 保有したまま | 保有したまま | 業者に移転します |
| 会社と交渉する者 | ご本人 | 代理人である弁護士 | 譲渡後は業者 |
| 裁判手続 | ご本人が対応します | 代理人が対応します | 譲渡後は業者が当事者となります |
株式買取業者は株式の買手であり、株主本人の代理人ではありません。業者が株式を買い取れば、その後に会社と交渉するのは業者であって、株主本人ではありません。大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定)は、株式買取業者に対する非上場株式の譲渡契約について、他人の権利を譲り受けてその実行をすることを業とすることを禁ずる弁護士法第73条に違反し無効であると判断いたしました。業者一般が違法であるという趣旨ではありませんが、具体的な業務態様によっては法的問題が生じ、裁判例において違法性が認定された事例があるということです。
第2節 ご本人で進められること
まず、ご本人で進められる範囲を明確にしておきます。
株主として会社に対し株式の買取りを申し入れること自体は、ご本人で行うことができます。定款の内容を確認すること(会社法第31条第2項)、株主名簿の記載を確認すること(会社法第125条第2項)、株主総会の議事録を確認すること(会社法第318条第4項)、計算書類及びその附属明細書の閲覧等を請求すること(会社法第442条第3項)も、株主の権利としてご本人で行うことができます。会社との面談の記録を残しておくことも重要です。
会社の規模が小さく、代表者との関係が良好で、価格についても大きな隔たりがない場合には、ご本人の申入れによって話がまとまることもあります。すべての事案に代理人が必要であると申し上げるつもりはありません。問題は、申入れをしても回答が得られない場合、又は提示された価格に納得できない場合に、次の手段が見当たらなくなることです。
第3節 法的な位置付けの整理という業務
会社が買取りに応じない場合、株主側は「なぜ応じないのか」を検討する必要があります。会社法上、株主の請求により当然に買取義務が生じる場面は、定款変更等に反対する株主の株式買取請求(会社法第116条第1項)、事業譲渡等に反対する株主の買取請求(第469条)、組織再編に反対する株主の買取請求(第785条、第797条、第806条)等の特定の会社行為を前提とする類型に限られます。
これを前提に、会社が任意に自己株式を取得する場合の枠組みのどこに障害があるのかを見極めます。会社法第155条第3号は株主との合意による有償取得を掲げ、手続としては株主総会の普通決議による取得枠の決定(会社法第156条第1項)、取得価格等の決定(第157条第1項)、株主への通知(第158条第1項)、株主の申込み(第159条)という順に進みます。特定の株主から取得する場合は株主総会の特別決議によることとされ(会社法第160条第1項、第309条第2項第2号)、他の株主には売主追加請求が認められます(会社法第160条第2項、第3項)。ただし定款によりこれを排除することができ(会社法第164条第1項)、一般承継により株式を取得した者からの取得についての特則もあります(会社法第162条)。さらに、取得の対価の総額は分配可能額を超えることができず(会社法第461条第1項第3号、第2項、第446条)、これに違反した場合には交付を受けた者及び業務執行者等が会社に対して連帯して支払義務を負います(会社法第462条第1項)。
この整理ができていないと、株主側の申入れは「買ってほしい」という要望の繰り返しになり、会社側に検討の材料が生じません。会社は、誰の判断で、どの手続により、いくらで、どの財源から取得するのかが具体化しない限り、社内で意思決定をすることができません。弁護士に依頼する場合、この整理を行ったうえで会社に申し入れることになります。会社側にとっても、検討すべき事項が明確になるという意味があります。
第4節 資料の取得という業務
価格を検討するためには資料が必要です。会社法は、資料の種類ごとに要件と拒絶事由を分けて定めております。
表2 株主による主な資料請求権
| 対象 | 持株要件 | 主な要件・留意点 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 定款 | なし | 営業時間内はいつでも閲覧謄写を請求できます | 第31条第2項 |
| 株主名簿 | なし | 請求の理由を明らかにする必要があり、拒絶事由があります | 第125条第2項・第3項 |
| 株主総会議事録 | なし | 本店に10年間備置き。営業時間内はいつでも請求できます | 第318条第2項・第4項 |
| 計算書類及び附属明細書 | なし | 定時株主総会の1週間前(取締役会設置会社は2週間前)から5年間備置き | 第442条第1項・第3項 |
| 会計帳簿及びこれに関する資料 | 議決権又は発行済株式(自己株式を除く)の100分の3以上 | 理由を明らかにして請求。同条第2項に拒絶事由 | 第433条第1項・第2項 |
| 取締役会議事録 | なし(ただし裁判所の許可) | 権利行使に必要なときに裁判所の許可を得て請求 | 第371条第2項・第3項 |
持株比率の要件がない請求から順に検討するのが基本です。もっとも、会計帳簿の閲覧謄写請求については、株主の権利の確保又は行使に関する調査以外の目的による請求、株主の共同の利益を害する目的による請求、実質的に競業を営む者による請求等が拒絶事由とされておりますので(会社法第433条第2項各号)、請求の理由をどのように記載するか、拒絶された場合にどう対応するかについて法的な検討が必要になります。この点が、ご本人による請求と代理人による請求とで結果が分かれやすい場面です。
第5節 株価の検討という業務
非上場株式の価格には一つの正解があるわけではありません。ネットアセット・アプローチ(簿価純資産法、時価純資産法)、インカム・アプローチ(収益還元法、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法、配当還元法)、マーケット・アプローチ(類似会社比較法、取引事例法)といった手法があり、いずれを、どの前提で用いるかによって結論が異なります。各手法の内容は既存記事(/archives/share_minoritysharevalue/、/column/share_valuation/)をご参照ください。
とりわけ誤解が多いのは、相続税の申告に用いた財産評価基本通達に基づく評価額が、そのまま売買価格の基準になるという理解です。同通達は課税の公平と徴収の便宜のために画一的な計算方法を定めたものであり、株式の価値そのものを測るために作られたものではありません。また、最高裁判所平成27年3月26日決定は、非上場会社について会社法第785条第1項に基づく反対株主の株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法を用いて株式の価格を決定する場合には、非流動性ディスカウントを行うことはできない旨を判示しております。相対の任意取引では当事者の合意により価格が定まりますので、この議論がそのまま妥当するわけではありませんが、会社側の算定において控除率が根拠なく設定されている場合には、その点を確認する意味があります。
ご本人が「安すぎる」とお感じになっている内容を、資料と評価手法に基づいて説明できる形にすることが、代理人の主要な業務の一つです。
第6節 紛争化した場合の対応可能性と期間の管理
任意の交渉が成立しない場合、法的な手続を検討することになります。譲渡制限株式については、譲り渡そうとする株式の数及び譲受人を明らかにして株式譲渡承認請求を行い、あわせて、承認をしない場合には会社又は指定買取人が買い取ることを請求いたします(会社法第136条、第138条第1号イからハまで)。会社は株主総会又は取締役会の決議により承認の可否を決定して通知し(会社法第139条)、承認をしない場合には、株主総会の特別決議により会社が買い取ることを決定し、又は指定買取人を指定いたします(会社法第140条、第309条第2項第1号)。会社又は指定買取人は、買い取る旨を通知するとともに1株当たり純資産額に株式数を乗じて得た額を供託し、供託を証する書面を交付いたします(会社法第141条、第142条)。
表3 株式譲渡承認請求に関する期間
| 手続 | 期間 | 起算点 | 徒過した場合 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|---|
| 承認又は不承認の通知 | 2週間(定款で短縮可能) | 承認請求の日 | 承認をしたものとみなされます | 第145条第1号 |
| 買取りの通知及び供託を証する書面の交付 | 会社40日、指定買取人10日 | 不承認の通知の日 | 承認をしたものとみなされます | 第145条第2号、施行規則第26条 |
| 売買価格の協議 | 20日 | 供託を証する書面の交付の日 | 申立てに進みます | 第144条第1項・第7項 |
| 裁判所への売買価格の決定の申立て | 20日 | 供託を証する書面の交付の日 | 1株当たり純資産額に株式数を乗じた額が売買価格となります | 第144条第2項・第5項・第7項 |
期間は短く、徒過すると選択肢が失われます。とりわけ最終行は重要です。1株当たり純資産額は帳簿上の数値を基礎とするものであり、不動産の含み益も営業権も反映いたしません。
以下は説明のための仮設例です。
> 発行済株式総数10,000株、保有株式数600株(6パーセント)、簿価純資産5億円。1株当たり純資産額は50,000円ですので、供託される金額は3,000万円となります。会社の保有する土地に2億円の含み益があるとしても、供託を証する書面の交付の日から20日の申立期間を徒過すれば、売買価格は3,000万円に確定いたします(会社法第144条第5項)。
上記は仮設例であり、事案により異なります。裁判所が定める売買価格は一切の事情を考慮して定められるものですので(会社法第144条第3項)、申立てをすれば特定の数値が認められるという趣旨ではありません。また、承認請求は、会社又は指定買取人が買取りの通知をした後は、その承諾を得た場合に限り撤回することができます(会社法第143条)。「価格が折り合わなければ取り下げればよい」という前提で手続を開始することはできません。
なお、裁判所が売買価格を決定する場合であっても、裁判所が自動的に適正な価格を算出してくれるわけではありません。売買価格の決定は非訟事件であり、裁判所は当事者の陳述を聴かなければならないとされております(会社法第870条第1項第2号)。裁判所は承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めますので(会社法第144条第3項)、どのような資料に基づき、どのような評価手法を主張するかが結果を左右いたします。これは手続に進む前の段階から準備しておくべき事柄です。
第7節 費用の考え方と依頼の判断
弁護士に依頼する場合には費用が生じます。一般に、着手金と報酬金という体系が用いられ、報酬金は経済的利益を基礎として算定されます。具体的な費用については、当事務所の弁護士費用のご案内(/fee/)をご確認いただき、ご相談の際に事案に即してご説明いたします。
依頼するかどうかの判断にあたっては、保有株式数、会社の規模、想定される株価の水準、会社との従前の経緯、ご自身で交渉を継続することの負担を踏まえて検討することになります。初回のご相談の段階で、費用に見合う見込みがあるかどうかを含めてご説明いたしますので、依頼を前提とせずにご相談いただいて差し支えありません。
よくあるご質問
質問1 まず自分で交渉してみて、駄目だったら依頼するという進め方でよいでしょうか。
その進め方が不適切であるとは限りません。ただし、ご本人の交渉の過程で書面を差し入れた場合や、期間の定めのある手続に着手した場合には、その後の選択肢に影響することがあります。とりわけ株式譲渡承認請求は撤回が制限されますので(会社法第143条)、書面を出す前にご相談いただくことをお勧めいたします。
質問2 弁護士が入ると会社が態度を硬化させませんか。
代理人が就任することは、株主が法的な検討を行ったうえで協議を求めているという意味を持ちます。会社側も社内の検討を進めやすくなる面があります。もっとも、進め方によって反応が異なることは事実ですので、方針は事案に即して検討いたします。
質問3 遠方に住んでいますが依頼できますか。
ご相談及びご依頼は、電話及び電子メールを含む方法で対応しております。詳細はお問い合わせください。
質問4 資料が何もありませんが相談できますか。
ご相談は可能です。どの資料を、どの根拠により求めるかの検討自体が、ご依頼後の業務に含まれます。表2のとおり、持株比率の要件のない請求から検討いたします。
質問5 会社が弁護士を立ててきました。本人のままで対応してよいでしょうか。
法律上、ご本人で対応することは可能です。もっとも、会社側の代理人は会社の利益のために活動する立場ですので、株主側にも法的な整理が必要となる場面が増えます。とりわけ期間の定めのある手続に入っている場合には、早めのご相談をお勧めいたします。
交渉手法の詳細について
具体的な交渉方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは開示しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、非上場株式・少数株式について、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま、会社又は大株主との任意の買取交渉、株価の検討、必要に応じた裁判手続を行うものです。
ご相談の際には、定款の写し、株主名簿の写し、直近3期分の決算書、配当に関する資料、株式を取得した経緯が分かる資料、会社とのやり取りの記録をご用意いただけますと検討が早く進みます。お手元にない場合でもご相談いただけます。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から24時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
過去の取扱い実績は将来の結果を保証するものではありません。売却に伴う課税関係については税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文・裁判例
会社法 第31条第2項(定款)、第125条第2項・第3項(株主名簿)、第318条第2項・第4項(株主総会議事録)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録)、第433条第1項・第2項(会計帳簿)、第442条第1項・第3項(計算書類等)、第116条第1項・第469条・第785条・第797条・第806条(法定の株式買取請求権)、第136条から第145条まで(譲渡等承認請求。第138条の請求事項、第139条の決定及び通知、第140条の買取りの決定、第141条・第142条の通知及び供託、第143条の撤回の制限、第144条の売買価格の決定、第145条のみなし承認)、第155条第3号・第156条から第160条まで(自己株式の取得及び売主追加請求)、第162条・第164条(売主追加請求の例外)、第309条第2項第1号・第2号(特別決議)、第446条・第461条・第462条(分配可能額及び責任)、第870条第1項第2号(売買価格の決定における陳述の聴取)
会社法施行規則 第26条第1号・第2号 / 弁護士法 第3条第1項、第72条、第73条 / 民事訴訟法 第54条第1項 / 非訟事件手続法 第22条第1項
裁判例 最高裁判所平成27年3月26日決定(収益還元法による価格決定における非流動性ディスカウントの不考慮)、大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定。株式買取業者に対する株式譲渡契約につき弁護士法第73条違反による無効を判断)
その他 財産評価基本通達(課税価格の計算のための評価)
内部リンク
既存記事・既存ページ /archives/minority-unlisted-buyout/(第2節)、/archives/share_baikyakukaitorigimu/(第3節)、/archives/share_kaikeichouboetsuranseikyuken/(第4節)、/archives/share_minoritysharevalue/、/column/share_valuation/、/archives/unlisted-share-fair-price/、/archives/share_kabushikikachisanteihouhou/(第5節)、/archives/minority-share-transfer-approval/(第6節)、/archives/share_hanrei_hiben/(第1節)、/fee/(第7節)
関連記事 A01、A02、B02、B10、E02、G08
送客先 LP01(/landing/minority/。主)、LP13(/fee/。補助)
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。



