会社に株式の買取りを求めるとき弁護士に依頼する意味 任意の買取交渉と法定の買取請求の使い分け
非上場会社の少数株主の方から、「株式を買い取ってほしいと会社に伝えたのに、話がまったく進まない」という御相談をいただきます。返事がない、検討中と言われたまま1年が過ぎた、あるいは著しく低い価格を示されて押し切られそうになっている、という状態です。本ページは、会社に株式の買取りを求める場面において、任意の買取交渉と法定の買取請求という2つの道がどのように異なり、どちらをどの順序で用いるのかを整理したものです。
この2つは、外から見ると同じ「買い取ってほしい」という話に見えます。しかし、法律上の性質はまったく異なります。任意の買取交渉は、会社に応じる義務がありません。これに対して法定の買取請求は、要件を満たせば会社に応答の義務が生じ、価格について折り合いがつかなければ裁判所が決めます。
そして、法定の買取請求には、20日、30日といった短い期間の制限が付されております。任意の交渉を続けているうちに法定の請求の期間が過ぎてしまい、後戻りができなくなるという事態が、現実に生じております。どちらの道を歩んでいるのかを、常に意識しておく必要があります。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
弁護士への依頼という同じ主題であっても、用いる手続と判断の分かれ目は場面ごとに異なりますので、次のとおり整理しております。
- 会社に買取りを求める場面における2つの道の使い分け……本記事
- 譲渡制限株式について承認を求める手順そのもの……株式譲渡承認請求を弁護士に依頼するとき 譲渡制限株式を売却するための手順と2週間の期限
- 株主としての権利を会社に認めさせる場面……少数株主が弁護士に依頼するとき 会社に権利を認めさせるために使える手続と期限
- 買取業者に売るという選択との比較……株式買取業者と株主側弁護士は何が違うのか
「買い取ってほしい」と伝えたのに話が進まないという御相談
御相談の入口となる3つの状況
御相談の内容は、おおむね次のように整理されます。株主総会の席上で買取りを申し入れたが、検討すると言われたきり回答がない。書面で申し入れたところ、会社に買い取る義務はないという回答が返ってきた。額面と同じ金額であれば買い取ると言われたが、その根拠が示されない。
いずれも、任意の交渉の段階で止まっています
会社に買い取る義務がないという会社の回答は、この段階に限れば必ずしも誤りではありません。会社に義務を負わせるためには、法律が定める形式の請求に切り替える必要があります。
弁護士に依頼するということの意味
弁護士に依頼するということは、この切替えを、期限を管理しながら行うということです。切替えの時機を誤りますと、交渉の材料そのものが失われます。
任意の買取交渉と法定の買取請求は、まったく別の道です
4つの観点で比較いたします
| 比較の観点 | 任意の買取交渉 | 法定の買取請求 |
| 相手方の応答義務 | ありません | あります |
| 価格の決め方 | 合意によるほかありません | 協議が調わなければ裁判所が決定します |
| 期間の制限 | ありません | 20日、30日などの制限があります |
| 買い手となり得る者 | 会社、大株主、代表者、第三者 | 会社又は会社が指定する者に限られます |
実務では、2つを組み合わせて用います
この2つを対立させるのではなく、法定の請求を背景に置きながら任意の交渉を進めるという組立てをいたします。会社は、応じなければ法定の手続に移行することが分かっている場合にのみ、真剣に交渉に応じるからです。
問題は、切替えの時機です
任意の交渉には期間の制限がなく、法定の請求には制限があります。したがいまして、法定の請求ができる状態が保たれている間に限り、任意の交渉に時間をかけることができます。この関係を見誤ることが、最も多い失敗です。
任意の買取交渉 誰が買い手となり、どのような手順を踏むのか
会社が自己株式として取得する場合
会社が株主との合意により自己の株式を有償で取得するには、あらかじめ株主総会の決議によって、取得する株式の数、交付する金銭等の内容及びその総額、株式を取得することができる期間を定めなければなりません(会社法第156条第1項各号)。特定の株主から取得する場合には、この決議は株主総会の特別決議によることとされております(会社法第160条第1項、第309条第2項第2号)。すなわち、社長が「買い取りましょう」と述べただけでは足りず、株主総会の決議が必要です。
他の株主が名乗り出てくることがあります
会社が特定の株主から取得しようとするときは、他の株主に対し、自己をも売主に加えることを請求できる旨を通知しなければならず(会社法第160条第2項)、通知を受けた株主は、自己をも売主に加えたものを議案とすることを請求することができます(同条第3項)。この売主追加請求により、当初の想定より取得の総額が膨らみ、会社が買取り自体を断念することがあります。交渉が突然止まる原因が、ここにある場合があります。
大株主又は代表者個人に買い取ってもらう場合
買い手は会社に限られません。支配株主である代表者やその親族が個人として買い取る方法もあります。この場合には自己株式の取得に関する手続や財源の制約が及びませんので、交渉の自由度は高くなります。他方で、個人には応じる義務がまったくありませんので、応じさせるための材料を株主の側で用意する必要があります。
会社が買い取る場合の財源の制約
会社が自己株式を取得する場合には、株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額が、その効力を生ずる日における分配可能額を超えてはなりません(会社法第461条第1項第2号)。会社が「買い取りたいが買い取れない」と述べる場合、この制約が理由であることがあります。この場合には、買い手を代表者個人に変える、複数年に分けるといった設計が必要となります。
法定の買取請求 会社に応答を義務付ける仕組み
譲渡制限株式についての買取りの請求
譲渡制限株式について株式譲渡承認請求を行う際、あわせて、会社が承認をしない旨の決定をする場合に会社又は指定買取人が買い取ることを請求する旨を明らかにしておきますと(会社法第138条第1号ハ)、会社が承認をしないときには、会社が買い取るか、指定買取人を指定しなければなりません(会社法第140条第1項、第4項)。会社又は指定買取人は、買取りの通知に先立ち、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額を供託しなければなりません(会社法第141条第2項、第142条第2項)。
価格は協議、調わなければ裁判所
売買価格は協議により定めますが、協議が調わないときは、買取りの通知があった日から20日以内に裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第144条第2項、第7項)。この期間内に申立てがないときは、協議が調った場合を除き、売買価格は1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額とされます(同条第5項)。
任意の交渉との決定的な違い
任意の交渉では、会社が沈黙すれば何も起こりません。これに対して法定の請求では、会社が沈黙すれば会社が不利益を受けます。承認をするか否かの決定の内容が2週間以内に通知されなければ、承認をしたものとみなされるからです(会社法第139条第2項、第145条第1号)。この非対称性を作り出すことが、法定の手続を用いる意味です。
組織再編や株式併合の場面で生じる反対株主の株式買取請求
どのような場面で生じるのか
会社が定款を変更して株式に譲渡制限の定めを設ける場合など一定の場合には、反対株主は、会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます(会社法第116条第1項各号)。また、株式の併合により1株に満たない端数が生ずる場合にも、反対株主は、端数となる株式の全部を公正な価格で買い取ることを請求することができます(会社法第182条の4第1項)。少数株主を締め出す目的で株式の併合が行われる場面では、この請求が中心的な手段となります。
請求ができる期間は20日間しかありません
これらの株式買取請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間にしなければなりません(会社法第116条第5項、第182条の4第4項)。効力発生日が令和8年11月1日と定められた場合には、請求をすることができる期間は令和8年10月12日から同月31日までの20日間です。この期間の前に請求をしても、期間の後に請求をしても、効力は生じません。
価格の決定の申立ての期間
価格について効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、株主又は会社は、その期間の満了の日後30日以内に、裁判所に対して価格の決定の申立てをすることができます(会社法第117条第2項、第182条の5第2項)。効力発生日が令和8年11月1日である場合には、令和8年12月1日までに協議が調わないときは、令和8年12月31日までに申立てをすることになります。
会社の側から売渡しを求められる場面
相続人等に対する売渡しの請求
会社は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができます(会社法第174条)。この定めがある場合、会社は、その都度、株主総会の決議によって、請求をする株式の数及びその株式を有する者を定めたうえで(会社法第175条第1項各号)、売渡しを請求します(会社法第176条第1項)。相続により株式を取得された方にとっては、買取りを求める側ではなく、求められる側に立たされる場面です。
1年という制限と、20日という期限
会社は、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、売渡しの請求をすることができません(会社法第176条第1項ただし書)。また、売買価格は協議により定めますが、会社又は請求を受けた者は、請求があった日から20日以内に裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第177条第2項)。令和8年9月1日に売渡しの請求を受けた場合には、令和8年9月21日までが申立ての期限です。
申立てがないと請求そのものが効力を失います
この20日の期間内に申立てがなく、かつ協議も調わなかったときは、売渡しの請求は効力を失います(会社法第177条第5項)。譲渡承認請求に伴う買取りの場合(会社法第144条第5項)とは効果がまったく異なりますので、混同してはなりません。この違いを踏まえた対応の設計が必要となります。
会社の側の事情 なぜ会社は買取りに応じないのか
第1 資金と財源の制約があるという事情
非上場会社の多くは手元の資金に余裕がなく、加えて分配可能額による制約を受けます(会社法第461条第1項)。応じたくても応じられないという場面が現実に存在いたします。
第2 前例を作りたくないという事情
1人の少数株主に相応の価格で応じますと、他の少数株主が同じ条件を求めてまいります。同族会社において少数株主が複数存在する場合、会社の側は前例を作らないことを最優先いたします。
第3 時間の経過が会社に有利に働くという事情
法定の買取請求には期間の制限がありますが、任意の交渉にはありません。会社としては、任意の交渉を長く続けることにより、株主が法定の手続に移る機会を失わせることができます。「検討中」という回答が繰り返される場合には、この点を疑う必要があります。
どちらの道を選ぶか 弁護士が用いる判断の材料
第1 期限が既に進行していないか
最初に確認するのは、期限の有無です。組織再編や株式の併合が予定されている場合、効力発生日の20日前から前日までという短い期間しかありません。この場合には、任意の交渉よりも法定の請求を優先いたします。
第2 会社に応答の義務を生じさせられるか
譲渡制限株式であり、譲受人を確保できる見込みがあるのであれば、株式譲渡承認請求に買取りの請求を付して行うことにより、会社に応答の義務を生じさせることができます。この道が使えるかどうかが、交渉力を大きく左右いたします。
第3 価格の根拠をどこまで作れるか
裁判所に価格の決定を求める場合であっても、株主の側が資料に基づく具体的な主張をしているかどうかで、審理の進み方が変わります。会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)を先行させ、資料を確保してから請求に移るという順序をとることがあります。
背景 株式の評価の考え方が見直されつつあります
国税庁は令和8年4月20日から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催し、昭和39年に公表された財産評価基本通達の抜本的な見直しを検討しております。第1回の資料では、評価対象会社の82.4パーセントが直前2期に配当をまったく支払っていないこと、類似業種比準価額が純資産価額の0.5倍未満である会社が77.6パーセントに上ることが示されました。第5回においては、会社規模による区分を廃止してインカムアプローチによる評価を主軸とすべきとの方向性が示されております。もっとも、その内容も時期も確定したものではありません。また、税法上の評価と会社法上の「公正な価格」「売買価格」とは目的も算定方法も異なり、財産評価基本通達は行政庁の内部の取扱いであって裁判所を拘束するものではありません(国家行政組織法第14条第2項)。
いま確認していただきたいこと
第1に、会社との間でやり取りした書面及び電子メールを時系列に並べ、会社が買取りについて何を述べたのかを整理してください。任意の交渉の記録は、後の手続においても意味を持ちます。
第2に、組織再編、株式の併合、定款の変更が予定されていないかを確認してください。招集通知に議案として記載されている場合には、期間の制限が既に動き出しております。
第3に、定款を入手し、譲渡制限の定めと、相続人等に対する売渡しの請求に関する定めの有無を確認してください。後者の定めがある場合、相続の後に会社から請求を受ける可能性があります。
第4に、直近3期分の計算書類を確認し、分配可能額の目安を把握してください。会社が自己株式として取得できる金額の上限に関わります。
よくあるご質問
会社に「買い取る義務はない」と言われました。誤りでしょうか。
任意の交渉の段階に限れば、誤りとは言えません。会社に買取りの義務が生じるのは、譲渡制限株式について買取りの請求を付した株式譲渡承認請求を行い、会社が承認をしない旨の決定をした場合(会社法第140条第1項)や、反対株主の株式買取請求の要件を満たす場合(会社法第116条第1項、第182条の4第1項)などです。義務を生じさせる形に切り替えることが、最初の作業となります。
任意の交渉を続けながら、法定の請求の準備をしてもよいのでしょうか。
差し支えありません。むしろ、それが通常の進め方です。法定の請求が可能な状態を保ちながら任意の交渉を行うことにより、会社の側に応じる動機が生じます。ただし、期間の制限がある場面では、交渉を優先して期間を徒過することのないよう、期限の管理が不可欠です。
会社ではなく社長個人に買い取ってもらうことはできますか。
できます。自己株式の取得に関する手続や財源の制約が及びませんので、実務上は有力な選択肢です。ただし、個人には応じる義務がありませんので、応じることが本人にとっても合理的であるという材料を用意する必要があります。株式が分散したままであることの不都合を示すことが、その材料となる場合があります。
相続した株式について、会社から売渡しの請求を受けました。
まず、定款に会社法第174条の定めがあるか、株主総会の決議が適法に行われているか、相続を知った日から1年を経過していないか(会社法第176条第1項ただし書)を確認いたします。そのうえで、請求があった日から20日以内に売買価格の決定の申立てをするかどうかを判断いたします。この期間内に申立てがなく協議も調わなければ、請求は効力を失います(会社法第177条第5項)。20日は極めて短い期間ですので、請求書を受け取られた日にお電話ください。
おわりに
買取りを求める場面で最も多い失敗は、任意の交渉に時間を費やしているうちに、法定の請求の期間が過ぎてしまうことです。会社の側は、その構造をよく理解したうえで時間を使ってまいります。いま自分がどちらの道の上にいるのか、期限が動いているのかどうかを把握することが、交渉の出発点です。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
会社に対する株式の買取りの請求に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
法令
会社法第116条第1項及び第5項(反対株主の株式買取請求)、第117条第2項(株式の価格の決定等)、第138条第1号ハ(譲渡等承認請求の方法)、第139条第2項(譲渡等の承認の決定等)、第140条第1項及び第4項(株式会社又は指定買取人による買取り)、第141条第2項(株式会社による買取りの通知)、第142条第2項(指定買取人による買取りの通知)、第144条第2項、第5項及び第7項(売買価格の決定)、第145条第1号(承認をしたとみなされる場合)、第156条第1項(株式の取得に関する事項の決定)、第160条第1項から第3項まで(特定の株主からの取得)、第174条から第177条まで(相続人等に対する売渡しの請求)、第182条の4第1項及び第4項(株式の併合に関する反対株主の株式買取請求)、第182条の5第2項(株式の価格の決定等)、第309条第2項第2号(株主総会の決議)、第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)、第461条第1項(配当等の制限)
国家行政組織法第14条第2項(訓令及び通達)
公表資料
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)
このページの位置付けと、関連するページ
本ページは、弁護士への依頼に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページを御覧ください。
▶ 非上場株式の売却を弁護士に依頼するとき 少数株主が任せられる手続と、依頼の前に確認する事項
同じ主題を扱う関連ページ
具体的な御相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。



