少数株式の売却で弁護士費用はどのように考えるか
非上場会社の少数株式の売却をご検討の方から、弁護士に依頼した場合の費用についてお尋ねをいただきます。ご心配の中心は、費用がいくらかかるのかという点と、費用を支払っても手元に残るのかという点にあると存じます。本記事では、着手金、報酬金、実費及び日当という費用の構造、経済的利益という考え方、任意の交渉による場合と裁判所の手続による場合との違い、そして費用倒れを避けるための事前の見通しの立て方を整理いたします。
なお、具体的な料率及び金額は、正式な料金表との不一致を避けるため、本記事には記載しておりません。当事務所の弁護士費用のご案内(/fee/)をご確認ください。個別の事案における費用の見込みは、初回のご相談において申し上げます。
1 結論 費用は「着手金」「報酬金」「実費」「日当」の4つに分けて考えます
弁護士費用は、事件の着手に際していただく着手金、事件の終了に際していただく報酬金、手続に要する実費、そして遠隔地への出張等に際していただく日当に分けて考えるのが分かりやすいと存じます。このうち報酬金は、得られた経済的利益の額を基礎として算定するのが一般的です。
| 区分 | 内容 | 発生の時期 | 算定の基礎 |
|---|---|---|---|
| 着手金 | 事件の処理に着手することに対していただく費用です | 受任の際 | 事件の内容及び対象となる株式の価額の見込み |
| 報酬金 | 事件が終了した際に、その結果に応じていただく費用です | 事件の終了の際 | 得られた経済的利益の額 |
| 実費 | 手続に要する費用の実額です | 随時 | 実際に要した額 |
| 日当 | 遠隔地への出張等、時間的拘束を伴う事務に対していただく費用です | 随時 | 拘束の時間及び距離 |
ご相談の際には、これらのそれぞれについて、何を基礎として、どの時点で、どのように算定するのかをご確認いただくことが重要です。総額の多寡のみを比較なさるよりも、算定の基礎と条件を確認なさる方が、後の行き違いを防ぐことができます。
弁護士は、事件を受任するに際して、弁護士報酬及び費用について適切な説明をしなければならず(弁護士職務基本規程第29条第1項)、また、原則として委任契約書を作成しなければならないものとされております(同規程第30条第1項)。当事務所におきましても、委任契約書によりこれらの事項を明示しております。
2 着手金という費用の性質
着手金は、事件の処理に着手することに対していただく費用です。結果の成否にかかわらず、原則としてご返還しないものとして定めるのが一般的です。これは、弁護士の活動が、結果が出る前の段階における資料の検討、法律関係の整理、相手方との折衝といった作業に相当の労力を要するためです。
少数株式の売却の事案において、受任の当初に行う作業には、次のものが含まれます。定款、株主名簿、登記事項証明書及び決算書の検討、株式を取得された経緯の確認、会社とのやり取りの経過の整理、採り得る手続の検討、株式の価値についての概算の検討、そして相手方に対する最初の連絡です。これらは、価格に関する協議が始まる前の段階における作業です。
着手金の額は、事件の内容及び対象となる株式の価額を基礎として定めるのが通常です。したがいまして、株式の価額の見込みが立たない段階では、着手金の額も確定いたしません。まず資料に基づいて価額の概算を検討することが、費用の検討の前提となります。具体的な基準は、当事務所の弁護士費用のご案内(/fee/)をご確認ください。
3 報酬金と経済的利益という考え方
報酬金は、事件が終了した際に、それによって得られた経済的利益の額を基礎として算定いたします。少数株式の売却の場合、経済的利益をどのように捉えるかについては、次の二つの考え方があります。
| 考え方 | 経済的利益の捉え方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 受領額を基礎とする考え方 | 実際に受領する売買代金の額を経済的利益といたします | 算定が明確です。会社が当初から相応の額を提示していた場合には、報酬金が相対的に大きくなります |
| 差額を基礎とする考え方 | 会社が当初提示していた額との差額を経済的利益といたします | 弁護士の関与によって生じた差に対応いたします。当初の提示額の認定が問題となる場合があります |
いずれの考え方によるかで金額は大きく異なりますので、委任契約を締結なさる際に、経済的利益の算定の基礎を書面で明確にしておくことが重要です。当事務所では、ご依頼をお受けする際に、この点を委任契約書において明示しております。
なお、経済的利益は、実際に受領した金額を前提とするのが基本です。判決や合意によって権利が認められても、現実に支払を受けられなければ、依頼者の利益は実現しておりません。相手方の資力の検討が、費用の検討と表裏の関係にあるのはこのためです。会社が自己の株式を取得する場合には、分配可能額による財源規制がありますので(会社法第461条)、この点の確認が実務上重要です。
また、対価が分割して支払われる場合には、報酬金の支払の時期をどのように定めるかが問題となります。この点も、委任契約において明確にしておくべき事項です。
4 時間に応じて算定する方式との違い
弁護士費用の算定方式には、経済的利益を基礎とする方式のほか、実際に要した時間に単価を乗じて算定する方式があります。後者は、結果の内容にかかわらず、作業の量に応じて費用が発生する方式です。
前者は、結果が出なければ報酬金が発生しないという点で依頼者の負担が予測しやすい反面、大きな経済的利益が得られた場合の報酬金は相応の額となります。後者は、結果にかかわらず費用が発生する反面、長期化した場合の費用が読みにくいという面があります。いずれの方式が適切であるかは、事案の性質、想定される期間、争点の多寡によって異なります。
5 実費及び日当について
上記の費用とは別に、実費が生じます。少数株式の事案において生じ得る実費は、次のとおりです。
| 区分 | 内容 | 生じ得る場面 |
|---|---|---|
| 収入印紙 | 裁判所に納める申立ての手数料です | 裁判所の手続を用いる場合 |
| 郵便料金 | 裁判所に予納する郵便料金及び通信費です | 裁判所の手続を用いる場合、書面による協議を行う場合 |
| 証明書等の取得費用 | 登記事項証明書、固定資産評価証明書、戸籍謄本等の取得に要する費用です | 相続関係の確定、会社及び不動産の調査 |
| 記録の謄写費用 | 裁判所の記録及び会社の資料の謄写に要する費用です | 手続の各段階 |
| 鑑定に要する費用 | 裁判所が選任する鑑定人に対する費用です | 裁判所の手続において鑑定が実施される場合 |
| 株価算定に要する費用 | 外部の専門家に株価の算定を依頼する場合の費用です | 協議又は手続において算定書を要する場合 |
| 交通費 | 遠方への出張に要する交通費及び宿泊費です | 現地の確認、遠隔地の裁判所への出頭 |
日当は、遠隔地への出張等、時間的な拘束を伴う事務に対していただくものです。裁判所の手続を遠隔地で行う場合、あるいは会社の所在地において協議又は現地の確認を行う場合に生じ得ます。
とりわけ、裁判所の手続において鑑定が実施される場合には、鑑定に要する費用の負担が生じ得ます。この費用は少額とは限りませんので、裁判所の手続を選択なさるかどうかをご判断いただく際には、あらかじめその可能性をご説明いたします。実費及び日当の取扱いにつきましても、当事務所の弁護士費用のご案内(/fee/)をご確認ください。
6 任意の交渉による場合と、株式売買価格決定の申立てによる場合の違い
少数株式の売却においては、発行会社又は大株主との任意の交渉による場合と、譲渡制限株式についての株式譲渡承認請求を経て、裁判所に対して売買価格の決定の申立てを行う場合(会社法第144条第2項)とがあります。この二つは、費用の構造においても違いがあります。
| 比較の観点 | 任意の交渉による場合 | 株式売買価格決定の申立てによる場合 |
|---|---|---|
| 手続の性質 | 当事者間の協議です | 裁判所の非訟事件の手続です(会社法第868条第1項、第870条第2項) |
| 裁判所に納める費用 | 生じません | 申立ての手数料及び予納郵便料金が生じます |
| 鑑定に要する費用 | 原則として生じません(当事者が算定を依頼する場合を除きます) | 鑑定が実施される場合には生じ得ます |
| 期間 | 事案により幅があります | 更に相当の期間を要するのが通例です |
| 弁護士費用の区分 | 交渉事件としての着手金及び報酬金です | 裁判所の手続に応じた着手金及び報酬金です |
| 手続を追加する場合 | 任意の交渉から手続に移行する場合の取扱いを、あらかじめ定めておく必要があります | 同左 |
| 期間の制限 | 法律上の制限はありません | 買取りの通知及び供託を証する書面の交付の日から20日以内です(会社法第144条第5項、第7項) |
任意の交渉から裁判所の手続に移行する場合の費用の取扱いは、実務上、行き違いの生じやすい点です。委任契約を締結なさる際に、手続を追加する場合の着手金の要否及び報酬金の算定の方法を確認しておくことをお勧めいたします。
なお、期間の制限に留意が必要です。株式譲渡承認請求を行い、会社又は指定買取人が買い取る旨の通知をし、供託を証する書面の交付をした日から20日以内に申立てをしなかった場合には、1株当たり純資産額に株式の数を乗じて得た額が売買価格とされます(会社法第144条第5項、第7項)。この期間を徒過いたしますと、費用の多寡以前に、争う枠組みそのものが失われます。
7 費用倒れを避けるための事前の見通し
費用倒れとは、費用を支払った結果、手元に残る金額がわずかとなり、あるいは持ち出しとなる事態を指します。これを避けるためには、依頼をお受けする前の段階で、次の4点を検討する必要があります。
第一に、株式の価値の概算です。会社の純資産の内容、収益の推移、含み損益の有無及び保有株式数を、直近3期分の決算書、勘定科目内訳明細書並びに会社が保有する不動産の一覧に基づいて検討いたします。
第二に、相手方の資力です。会社が自己の株式を取得する場合には分配可能額による財源規制がありますので(会社法第461条)、決算書によりその状況を確認いたします。会社に分配可能額がない場合には、大株主又は代表者個人が取得する可能性を、株主名簿及び登記事項証明書に基づいて検討いたします。
第三に、採り得る手続とそれぞれに要する費用です。任意の交渉によるか、裁判所の手続によるかによって、実費の内容が異なります。定款及び会社からの通知書を確認し、鑑定が実施される可能性も含めて検討いたします。
第四に、想定される期間です。会社側の意思決定の速度、株主総会の開催時期、争点の多寡によって、期間は大きく異なります。会社とのやり取りの記録が手掛かりとなります。
これらを検討した結果、費用に見合う見込みが立たないと判断される場合には、その旨を率直に申し上げます。ご依頼をお受けしないという結論を申し上げることもあります。当事務所は、一定の結果を保証するものではありませんので、見込みについても、確実なものとしてではなく、判断のための材料としてご説明いたします。
また、株式の価値が大きい事案であっても、相手方に支払能力がなければ、現実の回収には至りません。第2の点を早い段階で確認することが、費用の検討において重要です。
8 ご相談の際に確認していただきたい事項
委任契約を締結なさる前に、次の事項をご確認ください。
第一に、着手金の額及び支払の時期です。第二に、報酬金の算定の基礎となる経済的利益の考え方です。受領額を基礎とするのか、当初の提示額との差額を基礎とするのかによって、金額は大きく異なります。第三に、実費の範囲と精算の方法です。第四に、日当の要否及び算定の方法です。第五に、事件が途中で終了した場合の取扱いです。第六に、任意の交渉から裁判所の手続に移行する場合の費用の要否です。第七に、対価が分割して支払われる場合における報酬金の支払の時期です。
これらはいずれも委任契約書に記載されるべき事項です。ご不明な点は、署名の前に遠慮なくお尋ねください。
9 株式買取業者に売却する場合との違い
株式買取業者に売却なさる場合には、弁護士費用は生じません。もっとも、業者が提示する金額は、業者が取得後に得られると見込む金額から、業者自身の利益及び費用を差し引いた残額です。すなわち、業者の取り分が価格に織り込まれているのであって、費用が生じないということと、手取額が大きいということとは別の事柄です。
また、業者は株式を取得する買手であり、株主ご本人の代理人ではありません。株式買取業者の事業形態につきましては、株式譲渡契約が弁護士法第73条に違反し無効であると判断した大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定)があります。売却が無効とされた場合には、株式を買い戻し、受領された代金を返還することとなります。
よくあるご質問
質問1 相談だけでも費用がかかりますか。
ご相談の費用の取扱いは、ご相談の内容及び方法によって異なります。当事務所の弁護士費用のご案内(/fee/)をご確認いただくか、お問合せの際にご案内いたしますので、あらかじめご確認ください。
質問2 手元にお金がないのですが、依頼できますか。
費用の支払時期及び方法につきましては、事案の内容に応じてご相談に応じております。まずは事案の見通しと費用の概算をご確認いただいたうえで、ご検討ください。
質問3 会社に弁護士費用を負担させることはできますか。
原則として、各当事者が自らの弁護士費用を負担いたします。売買代金の交渉の中でどのように扱うかは事案によりますが、当然に相手方の負担となるものではありません。なお、裁判所の手続における手続費用の負担につきましては、裁判所の判断によります。
質問4 費用の総額はいくらになりますか。
具体的な弁護士費用の額は、対象となる株式の価額及び事案の内容により異なります。基準につきましては当事務所の弁護士費用のご案内(/fee/)をご確認ください。個別の事案における見込みは、初回のご相談において申し上げます。
質問5 途中で任意の交渉から裁判所の手続に移った場合、費用は二重にかかりますか。
手続の性質が異なりますので、追加の費用が生じる場合があります。もっとも、その取扱いは委任契約の定めによりますので、あらかじめ確認しておくべき事項です。当事務所では、受任の際にこの点をご説明いたします。
本記事における非開示事項について
本記事は、弁護士費用の考え方について一般的な説明を行うものです。発行会社又は大株主との交渉の具体的な進め方、資料の提示の順序、価格に関する主張の組立て方につきましては、案件ごとに事実関係が異なり、また当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、詳細は公開しておりません。
また、具体的な料率及び金額は、正式な料金表との不一致を避けるため、本記事には記載しておりません。当事務所の弁護士費用のご案内(/fee/)をご確認ください。
本記事の記載は、一般的な説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士費用に関するご質問も含め、弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)へお気軽にお問合せください。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主側の代理人としてお受けいたします。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階
- 代表弁護士 土屋 勝裕(東京弁護士会 登録番号26775)
ご相談に際しましては、定款、株主名簿の写し、直近3期分の決算書、勘定科目内訳明細書、会社から示された価格に関する書面をお持ちいただけますと、費用の見込みについてもより具体的に申し上げることができます。これらの資料がお手元にない場合であっても、ご相談をお受けしております。売却に伴う課税関係については税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文・裁判例
会社法 第136条・第138条・第140条(譲渡等承認請求及び買取り)、第144条第2項・第3項・第5項・第7項(売買価格の決定及び期間の制限)、第155条第3号・第156条第1項・第160条第1項(自己株式の取得)、第461条(分配可能額による財源規制)、第868条第1項・第870条第2項(非訟事件の管轄及び陳述の聴取)
弁護士法 第73条(他人の権利を譲り受けて訴訟その他の手段によりその権利の実行をすることを業とすることの禁止)
弁護士職務基本規程 第29条第1項(受任の際の説明)、第30条第1項(委任契約書の作成)
民事訴訟費用等に関する法律 申立ての手数料及び予納郵便料金に関する定め
裁判例 大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定。株式買取業者に対する株式譲渡契約につき弁護士法第73条違反による無効を判断)
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